ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
イッセーSIDE
紅の鎧・・・。これこそが、俺の夢の答え。誰かの真似じゃない。俺自身の想いが辿りついた最強の力・・・『覇龍』だ!
『あはははははは!』
うおっ!? この声はエルシャさん!? 何ですかいきなり笑いだして!
『これが笑わずにいられますか! 一度定まった『覇龍』が再び形を変えるなんて前代未聞だわ! しかも“紅”ですって? あなたはどこまで私達を驚かせればいいのよイッセー!』
『ああ・・・大したもんだ』
『うん・・・本当にね』
オッサンに先輩まで・・・。止めてくれよ。特にオッサンに褒められるなんて気持ち悪いぜ。
『んだとテメエ! 人がせっかく素直に褒めてやってるってのに!』
あはは、嘘だよ。ありがとな、オッサン。
『・・・フン』
―――相棒。
ドライグ? あれ、なんかお前の声がいつもより近くで聞こえるんだけど。
―――『覇龍』に至った事で、俺と相棒の意思は完全に一つとなった。俺とお前は、真に一心同体となったのだ。
まさに相棒(パートナー)ってわけか。へへ、頼むぜ相棒!
―――任せろ相棒! お前という男と出会わせてくれた運命に、俺は心底感謝している!
『・・・自分ではなく、誰かの為に力を求める。それがキミと歴代の者達の違いだった。だからこそ、キミは赤を越え、紅の極致へと至ったんだね』
え、誰だこの声? 随分若い声だけど、聞いた事無いぞ。
『お前は・・・』
『やあ、久しぶりだね、我が戦友。そして初めまして今代の赤龍帝。僕は歴代の白龍皇の一人。キミが以前、アルビオンの力と共に神器の中に取り込んだ者さ』
声の主が先輩の一人と会話した後、俺に話しかけて来た。って、ちょっと待て! 白龍皇!? それに取り込んだって・・・まさか駒王協定で先輩と戦った時にはめ込んだ宝玉の事か!?
『その通りだ。それから、僕は歴代の赤龍帝達と共に、ずっとキミの戦いを見続けて来た。その中で、僕には気付いた事があった。それは、キミが戦いに臨む時・・・それは私欲ではなく、必ず誰かの為にだったという事だ。そして今、キミは人々の求めに応えて立ち上がった。不思議だよ。キミを見ていると、気付かない内に応援したくなってしまう。・・・だから、僕もキミに力を貸すよ。僕が持つ白龍皇の力を。アルビオンだってきっと許してくれるはずだ』
―――そうか。ならば、この鎧に伸びる白のラインそのものが、白龍皇に認められた証という事か。
マ、マジで・・・? 俺、歴代の赤龍帝だけじゃなく、白龍皇の先輩にまで認められちまったのか!?
『ふふ・・・どうやら歴代最強の名を譲る時が来たようだわ。ねえ、ベルザード?』
『・・・その様だな』
『え』
『ちょっ!』
『ベルザードが!』
『『『シャァベッタァァァァァァァ!!!』』』
驚き過ぎだろアンタ等! いやまあ、俺も驚いたけどさ! つーか、ベルザードさん声渋っ!
『元歴代最強二人からのお墨付きよ。自信を持ちなさい、イッセー。あなたは間違い無く、歴代の中で最強にして最高の赤龍帝だわ』
―――自分を信じろ。―――儂から教えられるのはそれだけじゃよ。
京都で初代孫悟空さんに言われた言葉を思い出した。夢の無い自分に自信が持てなかった俺が、みんなのおかげで明確な夢を持つ事が出来た。初代さんは、あの時すでに見抜いてたんだろうか・・・。
「く、くくく・・・はははははは!!!」
突然サイラオーグさんが笑いだした。心底嬉しそうに、まるで待っていたといわんばかりに。
「兵藤一誠! お前は、お前という男は、どこまで俺を楽しませてくれるのだ! 俺を越えてみせるのだろう! ならば来るがいい! その新たに得た力と共に、全力で俺を倒しに来い!」
「言われなくても行きますよ! 俺はもう一人じゃねえ! 仲間が、相棒が、先輩達が一緒にいるんだ! 勝てねえ道理はないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺の意思が鎧を奔り、ウイングが勢い良く展開する。両翼の中から噴射口が現れ、背中、そして脚部の物と合わせた計六門のブースターに焔が生まれる。何かが収束する甲高い音が、次の瞬間には爆音へと変わり、ついには衝撃波と共に砂塵が舞い始めた。大地が割れ、空気が唸りを上げる。・・・え、ちょ、これってヤバくね? 明らかに出力が異常なんですけどぉ!
―――これが『覇龍』の力だ! さあ相棒! 行って来い!
「無理無理無理! こんなんぶっ放したら俺が逝っちまう―――」
『Crimson Nova Booster!!!』
「でしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺が悲鳴と共にその場を飛び出した瞬間、既に眼前にサイラオーグさんの姿があった。え、ええい! こうなりゃヤケじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ッ!?」
技でも何でもない、ブースターの推進力を利用しただけのただの力任せの体当たり。それがサイラオーグさんの巨体を吹っ飛ばした。あれだけ必死になって殴ってもビクともしなかったサイラオーグさんが、まるで紙屑の様にぶっ飛んで行った。
―――これで先程の借りを返せたな相棒!
うるせえよドライグ! 待てって言ってるのに強制的につっこませやがって!
―――ふっ、その鎧はある程度俺の意思でも動かせるようになっているからな。言っただろう。俺達は一心同体だと。相棒のサポートが出来るようになって俺も嬉しいぞ!
さっきのはサポートじゃねえ! むしろ殺しに来てただろうが!
―――HAHAHA!
笑ってんじゃねえ! つーか、さっきからテンションおかしいぞお前!
『それだけあなたが『覇龍』に至った事が嬉しいのよドライグは』
それにしたって限度がありますよエルシャさん!
『あら、私だって同じ様なものよ。叶うなら今すぐあなたを抱きしめてキスしてあげたいくらいだもの』
え・・・あ・・・、ど、どうも・・・。
『うふふ、照れてるのね、可愛い』
あーもう! 戦闘中ですから静かにしててください!
「サ、サイラオーグ様――――!」
俺に吹っ飛ばされたサイラオーグさんを見て、レグルスが部長との戦闘を投げ出して慌てて追いかけて行った。
「イッセー!」
その隙に、部長が俺に駆け寄って来た。そんな部長に、俺はまず深々と頭を下げた。
「部長、ご心配をおかけしました。そしてありがとうございます。あなた達のおかげで、俺は答えを得る事が出来ました」
「最強の『兵士』になるというあなたの夢・・・主として確かに胸に刻み込んだわ。それで、その鎧についてなんだけれど・・・」
「それはこの試合が終わった後にしっかりお話させてもらいます。ただ今は・・・」
「―――ただの突進でこの威力・・・。見事だ、兵藤一誠」
視界の先でサイラオーグさんが立ち上がる。まさか、今のも効かなかったのか!? 俺がそう思った直後だった。
「ゴフッ・・・!」
サイラオーグさんが口から血の塊を吐きだす。ダメージは入ってる! いけるぞドライグ!
―――喜ぶのはまだ早い! 休まず攻撃しろ相棒!
ドライグの声と共に、鎧に存在する武装のデータが次々と頭の中に入り込んで来た。おいおい、歩く武器庫かよこの鎧は!
「おっしゃあ! 次はコイツだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ガコン! と音を鳴らし、サイラオーグさんを捉える二つのキャノン。その砲口に赤い光がチャージされていく。
―――チャージと共に、反動制御及び位置固定を行う!
テールブレードが深々と地面に突き刺さり、踵から射出されたスパイクが俺の体をしっかりとその場に固定した。
「部長、離れててください!」
「わ、わかったわ!」
『Desire!』『Diabolos!』『Determination!』『Dragon!』『Disaster!』『Desecration!』『Discharge!』
フィールドに響き渡る“D”の大合唱。同時に胸の『D』に紅蓮のエネルギーが溜まって行く。周囲が歪んで見えるほどの大熱量。さあ行くぜ。耐えられるものなら耐えてみやがれ!
―――チャージ完了! ぶちかませ相棒!
「全部纏めて喰らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
『“D”Blaster Full Burst!!!』
咆哮と共に、フルパワーのドラゴンショットが豆鉄砲に思えるほどの凄まじい光が解き放たれた。なんて反動だ! 固定しているはずなのに体が後ろに吹っ飛ばされそうだ!
発射された三つの光が、示し合わせたかのように合体し、一つの極大の光へ・・・そして、その光が紅蓮のドラゴンへと形を変えてサイラオーグさんへ襲い掛かった!
「やらせはせんぞ!」
サイラオーグさんが拳を引く。あれは・・・木場を倒したあの技を使うつもりか!
迫り来るドラゴンの顎に向かい、サイラオーグさんが拳を突き出す。だが、ドラゴンは消えるどころか全く勢いを衰えさせる事無くサイラオーグさんを飲み込んだ!
「ぐ・・・おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」
閃光と爆音が辺りを包み込んでいく。数秒後にそれらが治まった時、そこには全身傷だらけで体をよろめかせながらこちらを見つめているサイラオーグさんの姿があった。
「・・・強い。これがお前の夢の形か、兵藤一誠・・・!」
―――相棒。
わかってるぜドライグ。あの満足そうな笑顔・・・。あの人はまだまだ戦うつもり満々みたいだ!
「サイラオーグ様! これをお使いください!」
サイラオーグさんの元へ辿り着いたレグルスがサイラオーグさんへ何かを手渡す。あれは・・・フェニックスの涙!
「この状況で必要無いと言うのは『王』としてあまりにも愚かか。ありがたく使わせてもらおう」
くそ、すっかり忘れてたぜ。これで今までのダメージがパーだ!
「さて、ダメージを回復したはいいが、これからどう戦うか・・・」
「何を迷う事があります! 私を纏ってくださいサイラオーグ様! あの禁手さえ使えば、あなたに敵う者は存在しません!」
「レグルス。俺は以前言ったはずだ。あの力は冥界の危機に関してのみ使うとな。この場で、あの男相手に使って何になる」
「いいえ、サイラオーグ様! あなたは間違っています」
「何・・・?」
「あなたは何度も赤龍帝に全力を求めた! そして赤龍帝はあなたの求めに応じ、新たな力と共に立ち上がった! ならば、あなたも彼に全力で以って応えるのが義務なのではないのですか! 全力を出さずに決着を着ける事があなたの望みなのですか! 私の・・・私の主はその様な腑抜けでは無いはずです!」
・・・そっか。この人、まだまだ強くなれる。まだまだ力を出せるのか。だったら・・・。
「レグルスの言う通りですよ、サイラオーグさん」
「兵藤一誠?」
「俺、神器の中でみんなが俺を呼ぶ声を聞いてたんです。あなたの声もしっかり聞こえてましたよ。誰よりも勝利に貪欲なあなたが、俺に立てと言ってくれた。止めをさせばいいのに、俺を信じて待っていてくれた。俺がこの力を手に出来たのは部長達だけじゃない! サイラオーグさん! あなたも俺を信じてくれたからなんです! だから禁手を使ってください! 俺の全力に、あなたも全力で応えて欲しいんです!」
「イッセー・・・」
ごめんなさい、部長。でも、これがきっと正しいんです。だって、俺がこうしてサイラオーグさんとまともに戦えているのは、この人のおかげなんだから!
「・・・ふっ」
自嘲する様に笑うサイラオーグさん。次の瞬間、なんと自分で自分の顔面を殴った! ファッ!? 何してんスか!?
「お前達の言う通りだ。相手に全力を求めておいて、自分が全力を出さぬなど愚の骨頂。兵藤一誠、俺は心のどこかでお前を見下していたのかもしれん。その結果がこのザマだ。お前に対する侮辱への謝罪にすらならぬだろうが、今の一撃は自分への戒めだ」
いや、謝罪のレベル越えてますから! ゴキィッ! ってものっそい音鳴ってましたから!
「すまなかったな、レグルス」
「いえ、私こそ、主に対して失礼な事を」
「何を言う。お前のおかげで目が覚めたぞ。・・・さあ、いくぞレグルス! 今こそお前の本当の力を見せるのだ!」
「はっ!」
レグルスの体が金色の光に包まれ始める。やがて、光そのものと化したレグルスがサイラオーグさんの全身を一気に包み込んだ。
「我が獅子よ! ネメアの王よ! 獅子王と呼ばれた汝よ! 我が猛りに応じて、衣と化せ!」
まるで凱歌の様に広がるサイラオーグさんの力強い叫び声に合わせ、フィールドが揺れ始める。サイラオーグさんを包む光がさらに激しさを増して行く。
「見るがいい、兵藤一誠! これが・・・誇り高き獅子王の禁手だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
神々しさすら感じる極大の光に思わず顔を覆う。その閃光が止んだ時、俺の眼前に現れたのは、金色の姿をした獅子の鎧だった。頭部にはたてがみを思わせる金色の毛がたなびいている。
「『獅子王の戦斧』の禁手・・・それがこの『獅子王の剛皮』! 兵藤一誠! これが正真正銘、俺の全力だ!」
わかる・・・わかりますよサイラオーグさん。こうして対峙してるだけで逃げ出したくなるほどの激烈な闘気と殺気・・・。これが全力じゃなかったら俺はもう泣いてます!
『サイラオーグ選手までもが鎧を纏ってしまいました! 今、紅の龍帝と金色の獅子王の決戦が幕を開けようとしています!』
―――まったく、わざわざ敵に塩を送るとはな。
諦めろドライグ。お前の相棒はこういうヤツだ。
―――ふっ、そんな事、ずっと前からわかっていたさ!
「なら、さっきのもう一発行くぜぇ!」
俺は再びDブラスターをぶっ放した。それに対し、先程と同じ様に迎え撃とうとするサイラオーグさん。引いた拳に、金色のオーラが収束していく。そして、それをただ全力で突き出した!
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
サイラオーグさんの放った黄金の一撃。それはライオンの頭部へと形を変えた。紅のドラゴンと黄金のライオンがぶつかり合い。互いに食い合いながら消滅してしまった。
「『獅子王の戦斧』には敵の放った飛び道具から所有者を守る力がある。その特性に俺の闘気を合わせれば、例えお前の一撃であろうとも防げぬものではない!」
ッ―――! すげえ・・・やっぱりすげえよサイラオーグさんは! 防がれたのにこれっぽっちも悔しくねえ! ただただ、サイラオーグ・バアルという男の凄さに体が震えるだけだった!
「わかるだろう、兵藤一誠。俺とお前の決着には・・・やはりコレ以外には存在しないのだと!」
サイラオーグさんが両拳をぶつけ合う。・・・はい、そうですね。やっぱり、男の戦いと言ったら拳しかないですよね!
「行きます!」
「来い!」
俺のブースターとサイラオーグさんのダッシュ。動き出したのはほぼ一緒だった。技術も何も必要としない渾身の一撃・・・。互いの拳が互いの顔面へ直撃する!
痛ってぇぇぇぇぇぇぇ!!! 何だよこのアホみたいな痛さは! せっかく新しくなった兜も今ので吹っ飛んだぞ!
それでも俺とサイラオーグさんの拳は止まらない! 顔を、胸を、腹を、拳の届くありとあらゆる場所を殴り、殴られる! 兜に続いてキャノンや放熱板が破壊される。だけど拳だけは止めない! 防御なんざ知った事か! そんな事気にするくらいなら一発でも多く殴らねえと! じゃないとこの人は倒せないんだ!
『せきりゅーてー!』
『頑張ってー!』
ありがとう子ども達! 頑張るよ俺! だから見ててくれ! キミ達のせきりゅーてーが戦う所を!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
何度目かに放った拳がサイラオーグさんの腹に突き刺さり、獅子の鎧をぶっ壊す! そのまま中身にまで拳をねじ込んでやった!
サイラオーグさんが初めて膝をつく。ダメージは確実に蓄積している。このまま押し切ってやるぜ!
「何をしている俺の体よ! まだやれるはずだ! まだ俺は全てを出し切っていないのだぞ!」
なんて気迫だ・・・。もっと、もっと叩き込まないとこの人には勝てねえぞ! 根性みせろよ兵藤一誠!
『なら、僕の力を使うといい』
『ついでに僕のもね。今回だけは、男に使うのも許してあげるからさ!』
歴代白龍皇と残念先輩が声を揃える。ッ・・・! そうか、その手があったか!
「俺は、俺は負けん! 負けるわけにはいかんのだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
サイラオーグさんの強烈な右ストレートが迫る! やるなら今しかねえ!
「そこだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
サイラオーグさんの拳に俺の拳をぶつけ、力を発動させる! 拳を通じてサイラオーグさんの力が俺の中へ流れ込み、獅子の鎧が前触れもなく吹き飛ぶ!
「何だと!?」
驚愕に固まるサイラオーグさん。俺は今、白龍皇の『半減』と『鎧崩壊』を同時に発動させた。そしてコイツが本命だ!
「いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
奪った力を上乗せした渾身のアッパーが正確にサイラオーグさんの顎を捉えた! 振り抜いた勢いのまま、サイラオーグさんが空へ舞い上がり、勢い良く地面に落下する。その衝撃は、地面に巨大なクレーターを作るほどだった。
「はあっ・・・はあっ・・・!」
『ダウンです! サイラオーグ選手、ついにダウンしました!』
勝てる! この人に勝てるぞ! 俺がそう思った正にその時だった。俺の耳にその声が届いて来たのは。
『サイラオーグ! 立ちなさい、サイラオーグ!』
イッセーSIDE OUT
サイラオーグSIDE
クレーターの中心、俺は横たわりながらぼんやりと空を眺めていた。先程から体を動かしたくとも、指先すらピクリともしない。
(・・・俺の負けか)
勝利する事が俺の全てだった。だが、俺の心は驚くほど穏やかだった。考えるまでも無い、あれほどの男とあれほどの殴り合いを演じられたのだ。満足こそすれ、不満などあるはずもない。
(そう、お前になら負けてもいいと思えるほどにな・・・)
意識が徐々に沈んでいく。すまんな、レグルス。だが、お前も楽しかっただろう? 俺は・・・俺は本当に楽しかっ―――。
『サイラオーグ! 立ちなさい、サイラオーグ!』
―――その声を聞いた時、最初は幻聴だと思った。当然だ。その声の主は今も病院で眠っているはずなのだから。
『ちょ、ちょっと! なんですかあなたは!?』
『ちょっと待て! この女性は・・・!』
実況席の方がにわかに騒がしくなる。なんだ、トラブルでも起きたのか?
「う、嘘・・・何であの方が・・・!?」
驚愕するリアスの声が聞こえる。あの方? もしや魔王様でもいらっしゃったのか?
「ミスラおば様!」
「ッ・・・!?」
何を・・・何を言っているのだリアス? 母上が・・・母上がこんな場所にいるはずが・・・。
『立つのですサイラオーグ! あなたの想いは・・・あなたの決意はその程度のものだったのですか!』
「母・・・上・・・?」
『ミ、ミスラ様! 急に走ってはお体に触ります!』
今のは母上の世話を任せていた執事の声・・・。では、では、本当に母上が・・・!?
『あなたは私と約束したはずです! 誰よりも強くなると! 冥界の未来の為に、これから生まれて来る子ども達の為に! あなたはその拳を握りしめたはずです!』
・・・そうだ。俺は、母上の名誉の為だけじゃない。俺の様な思いを他の者達に味わわせない為に、冥界そのものを変える為に戦うと誓ったんだ。
しかし、その役目は俺では無く、兵藤一誠の方が相応しいのではないだろうか。現に、ヤツは子ども達の夢を背負って俺に立ち向かって来たのだ。
『あなたには聞こえないのですか! あなたが守ろうとする者達があなたへ送っているこの声を・・・!』
声? そんなもの聞こえな―――。
『ライオンさん頑張れ~~~!』
・・・何だと?
『立ってライオンさーん!』
『頑張ってーーー!』
ライオンさん・・・。まさか、俺の事か!? な、何故だ・・・!? 何故兵藤一誠を応援していた子ども達が俺に声援を・・・!?
『そうだ! 頑張れサイラオーグ!』
『サイラオーグ様ぁぁぁぁぁぁぁ!』
『諦めんなよ! もっと熱くなれよぉぉぉぉぉぉ!』
子ども達だけでは無い。一般の観客達までもが俺の名を呼び始めた。
「サイラオーグ様・・・」
「レグルス!? 大丈夫なのか!?」
「私の事など気にしないでください。それよりも、聞こえていますか。あなた様の名を叫ぶこの声が・・・」
「あ、ああ。だが、何故だ? 何故兵藤一誠ではなく、俺を?」
「どうやら、私達はとんでもない思い違いをしていたみたいです。騎士殿だけじゃない。あの会場には、あなたを応援する者が、あなたを認めてくれている者があんなにもたくさんいたのです・・・!」
『お立ちください、我が主よ!』
ベルーガ! それに他の者達まで・・・。ふっ、リアスの眷属と同じ真似を・・・。
「立ってくださいサイラオーグさん! こんな事言うと生意気かもしれないけれど、俺、まだあなたと戦いたいです! あなたが立つまで、俺はずっと待ちます! あなたが俺にそうしてくれたように!」
「兵藤一誠・・・」
『サイラオーグ、あなたに倒れる事は許されません! 私はあなたにずっと言って来たはずです! 諦めなければ・・・』
ーーー泣いてはいけませんサイラオーグ。あなたは誰がなんと言おうとバアル家の子。たとえ魔力がなかろうと、たとえ滅びの力が無かろうと、諦めなければ・・・。
「『いつか必ず勝てるのだから!!!』」
現実の母上と記憶の中の母上・・・。二人が同じ言葉を発した瞬間、俺の体を金色の光が包み込んだ。
サイラオーグSIDE OUT
イッセーSIDE
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
誇りに満ち満ちた猛々しい咆哮と共に獅子が再び立ち上がる。それは、フィールドを、世界そのものを振るわせるものだった。
「何が負けてもいいだ。この期に及んで、貴様はまだ傲慢でいるつもりか。ふざけるなよサイラオーグ・バアル!」
『立った! サイラオーグ選手が立ちました! ええい! もう余計な実況なんざ必要ねぇ! 二人とも、思う存分やりやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』
『『『赤龍帝――――!』』』
『『『サイラオーグーーーー!』』』
「は、はは・・・!」
カッコ良過ぎだろこの人・・・! こんな人とまだ戦えるのかよ俺は!
「・・・不思議だな。お前に打ちのめされ、さきほどまで最早指一本も動かせないはずだった。なのに、今はどうしてこんなにも戦う力が湧いて来る・・・!」
やべえ・・・。ボロボロのはずなのに、体から溢れるオーラはさっきまでの比じゃねえ!
「レグルス! “アレ”を使うぞ!」
「なっ! お待ちくださいサイラオーグ様! “アレ”は今まで一度も成功していない諸刃の剣! 失敗すれば間違い無く戦闘不能に・・・!」
「構うものか! 命を賭けねばあの男を倒す事は叶わぬ! 俺を信じろ! お前の主であるサイラオーグ・バアルはこんな所で終わる男か!?」
「・・・いいえ! その様な事、あるはずがありません! 私は信じます。私の主こそが最強なのだと!」
「よく言った! ならばレグルス、防御に回していたオーラを全て左手に集中させろ!」
「望みのままに!」
「兵藤一誠! 次の攻撃が正真正銘最後の一撃だ! お前にこれを受け止める覚悟はあるか!?」
何をする気かわからないけど、俺の答えは決まってる!
「望む所だぁ!」
俺の宣言に、サイラオーグさんは満足そうに頷くと、開いた両手にオーラを集中させ始めた。右手に白、そして左手に黄金のオーラを纏わせ、その手を胸の前でしっかりと組む。その瞬間、サイラオーグさんを中心にして、凄まじいトルネードが発生した。
「異世界の勇者王よ! 汝の誇り高き獅子の一撃! このサイラオーグ・バアル、誠に勝手ながら使わせて頂く!」
『まさかっ・・・!』
神崎先輩の驚き声が耳に届く。異世界の勇者王って・・・まさか、先輩の仲間の!?
―――呆けている場合か! 構えろ相棒!
わかってるよ! どれほどとんでもねえ技だとしても、俺は負けるわけにはいかねえんだからよ!
「この一撃に・・・俺の全てを込める!」
手甲、そして右腕の肘付近のパーツがスライドし、隠されたブースターが姿を現す。火が炎となり、そして焔へとその大きさと激しさを増して行く。俺とサイラオーグさんは同時に飛び出した!
「兵藤一誠ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「うぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
そして、俺達はどこまでも鮮やかな紅と、どこまでも眩い黄金の光の中に包まれるのだった。
イッセーSIDE OUT
リアスSIDE
(ど、どうなったの・・・!?)
目を開けていられないほどの極光が徐々に治まって行く。やがて、視界の回復した私が目にしたのは、深々と開いたクレーターの中心で向かいあう様にして倒れているイッセーとサイラオーグの姿だった。
『た、倒れています! 両者共倒れになっております! 果たして、先に立ち上がるのはどちらなのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
『『『赤龍帝! 赤龍帝!』』』
『『『サイラオーグ! サイラオーグ!』』』
「ぐ・・・う・・・」
「ぬ・・・う・・・」
ほぼ同時に立ち上がる二人。今にも倒れてしまいそうな状態で、互いに拳を振り上げる。
「イッセー!」
『サイラオーグ!』
「「お・・・おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
イッセーの拳がサイラオーグの右頬に、サイラオーグの拳がイッセーの左頬に突き刺さる。
「・・・ありがとうございました」
「・・・楽しかったぞ」
そして、最後にお互い満足そうな表情を浮かべつつ、二人はゆっくりと地面に倒れていくのだった。
『兵藤選手、サイラオーグ・バアル選手のリタイヤを確認。ゲーム終了。リアス・グレモリーチームの勝利です!』
こうして、男達による誇りと意地のぶつかり合いが幕を閉じたのだった。
あー、疲れた! もう何も書けねえ! そして感想が怖い!