ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
ピピピピピ!
日曜日の朝、本来なら鳴るはずのない目覚まし時計によって俺は叩き起こされた。おっかしいなぁ、休みの日はセットしない様にしてるのに、間違って設定してたのかな。ま、なにはともあれ起きないとな。ええっと目覚まし目覚ましっと・・・。
「これか?」
ああ、ありがとうオーフィスちゃ・・・え?
目覚ましを止めて体を起こした俺がまず目にしたのは、俺のベッドの横で目覚まし時計を持って立っていたオーフィスちゃんだった。あ、あれえ? まだ寝ぼけてんのかな、俺。
「我、アーシアに頼まれて起こしに来た」
用件だけ言って、スタスタと部屋を去るオーフィスちゃん。あ、目覚まし時計持ち去られてしまった。取り返しに行かねば。
着替えからの洗面の流れでリビングへ向かうと、既にアーシア、黒歌、ヴァーリさん、そしてオーフィスちゃんが席に着いていた。オーフィスちゃんは自分の横に俺の目覚ましを置いている。
「おはようご主人様。今日も朝からいい男にゃん」
「『無限の龍神』に起こされた気分はどうかしら」
「もっきゅもっきゅ・・・」
「はわっ!? ま、まだ食べちゃ駄目ですよオーフィスちゃん!」
「「「がうっ!」」」
俺の足にまとわりついて来る三匹の頭を撫で、フライングしたオーフィスちゃんとそれを止めようとするアーシアの後ろを周って自分の席に着く。今朝はこれで全員なのかな?
「リアス達は?」
「もう出たわよ。サイラオーグ・バアルとのゲームに向けて今日は一日中特訓するって言ってたにゃ」
朝早くから徹底してるなリアス達。そんだけサイラオーグさんとの勝負にかける想いが強いって事なのかな。・・・いや、他人事じゃないな。サイラオーグさんが勝ったら、あの人が俺の弟子になるんだもんな。・・・改めて思うけど、どう考えても逆じゃね? むしろサイラオーグさんの方が師匠感ありまくりだと思うんだけど。
「という事で、今日は久しぶりにのんびり出来そうにゃん。ねえ、ご主人様、今日は私と一緒にまったり日向ぼっこでもしない?」
「あら、そんな生産性の無い事をするくらいなら、私と一勝負しましょうよ」
「あ、あの! クラスの方から駅前に美味しいケーキ屋さんがあるって聞いたんです。よ、よかったら私と一緒に・・・」
一人寂しく休日を過ごすと踏んで、俺に声をかけてくれるみんなの優しさに全俺が泣いた! ・・・若干一名、物騒なお誘いをかけて来てる子がいるが。けど、ゴメン。今日の相手は決まってるんだ。
「やっと約束を果たせそうだな」
「もきゅ?」
口いっぱいにサラダを含み、ハムスターみたいになってるオーフィスちゃんがコテンと首を傾げる。・・・これは久しぶりに脳内カメラを起動させるしかないな!
「フューリー、我と遊ぶ?」
「ああ。今日は一緒に色々な事をして遊ぼう」
結局、訪ねて来て今日まで遊びらしい遊びに誘えなかったからな。今日は思いっきりはっちゃけるぜぇ!
オーフィスちゃんと遊ぼう大作戦その一・・・公園に行こう!
というわけで、オーフィスちゃんを外に連れ出す事をアザゼル先生に連絡したのだが・・・。
『却下に決まってんだろうがボケェ!』
ファッ!? いきなり企画終了!?
『お前、俺の話聞いてなかったのか。隠しとけっつったヤツを外に出す馬鹿がいるか!』
「で、ですが、流石にずっと家の中というのは・・・」
『知るか! お前お得意のフューリーパワーで何とかしやがれ! いいか、絶対に外に出すんじゃねえぞ! これ以上俺の胃を虐めるつもりならこっちにだって考えがあるんだからな!!』
えぇぇぇぇ・・・。適当過ぎにもほどがあるでしょ・・・。てか、フューリーパワーって何よ? さらに言えば、俺、先生を虐めた記憶なんて皆無なんですけど・・・。
けど、あそこまで言われたら仕方ないか。言いつけ破ったら後で滅茶苦茶怒られそうだし。外に繰り出すのは無しか・・・。
オーフィスちゃんと遊ぼう大作戦その二・・・漫画を読もう!
一発目からグダグダになってしまった。ここは気を取り直して室内でやれる事をしよう。悩む俺にアーシアが一緒に本を読んだらと提案してくれた。困った時に助けてくれるなんて流石天使!
と言っても、小さい子向けの絵本なんて無いし、ここは漫画かな? 黒歌が自室から漫画の他に『鋼の救世主』を持って来ようとしたので止めた。アレは俺のいない所で読んでください。
ヴァーリさん曰く、そもそも、オーフィスちゃんは漫画なんて読んだ事無いらしく、本自体ヴァーリさんのチームメンバーに読み聞かせてもらったのが初めてなんだとか。ちょうどいい。ここは新たな文化に触れてもらうチャンスだ。
様々なジャンルの漫画を持ちあい、オーフィスちゃんに見せるが・・・うーん、これはあまり興味が無いのかな。ページを捲っては戻し、捲っては戻しを繰り返してる。
「ん・・・」
そんなオーフィスちゃんだったが、アーシアが持って来た漫画を手にしたら様子が変わった。ついに興味が湧いて来たのかな?
「アーシア、我、知りたい」
「何ですか?」
オーフィスちゃんが開いたページを俺達に見せる。そこには、男女の熱烈なキスシーンが描かれていた。え、ちょ、アーシアこんなの読んでんの!? 何か舌まで絡ませてんですけどぉ!
「どうしてこの人間達は口をくっつけている? 何か意味があるのか?」
「うわあ・・・これはまた何とも濃厚にゃ・・・」
「あら、聖女様もこんなの読むのね。意外だわ」
「ち、ちちちちち違うんです! こ、これは凄く面白いからって桐生さんからお借りした漫画で、こ、こんなシーンがあるなんて私も知らなかったんです!」
なんだか、見てはいけないものを見てしまった気分だ・・・。・・・いや待て俺。それは偏見だ。アーシアだって年頃の女の子なんだから、こういうのに興味を持っても別に全然おかしくないじゃないか。はは、そうさ、別に変じゃない。ただ・・・衝撃的だったのは否めないが。
「アーシア・・・色を知る年にゃ」
どういう立場からの発言ですかね黒歌さん。知ってるんだぞ。キミが勉強会と称してアーシアや小猫に変な知識を吹き込んでんの。二人とも影響されやすい所があるんだから止めて欲しいんですけどね。
「アーシア、我は答えが知りたい」
「え、ええっと・・・こ、これはキスと言ってですね」
「キス? これをするとどうなる?」
「ど、どうなるって・・・。き、きっと、幸せな気持ちになるんじゃないかと・・・」
「どうしてキスをすると幸せになる?」
「キ、キスは好きな人とするものだからで・・・。ふええ、黒歌さぁん・・・」
な、なんという公開処刑! オーフィスちゃんピュア過ぎだろ。今までペロリスト達の中でどういう生活してたんだこの子・・・。
助けを求めて視線を向けて来るアーシアに対し、黒歌はそっと視線を逸らした。きっと、俺が彼女の立場だったら同じ様にしただろう。
「キスをしたら幸せになる。なら、アーシアはキスをして幸せになりたいのか?」
「わ、私がキス!? そ、そんな・・・はう」
トマトも顔負けなほど真っ赤になったアーシアがぐ~るぐ~ると目を回したと思ったら、その場でぱたりと倒れてしまった。容赦ねえなオーフィスちゃん!
「さすが『無限の龍神』。こういう所でも最強ね」
感心してないで氷持って来てよヴァーリさん。アーシアのおでこが恐ろしいくらい熱くなってんだから!
ちくせう・・・。漫画を読もうってだけの話だったのに、どうしてこうなった・・・。
オーフィスちゃんと遊ぼう大作戦その三・・・みんなでゲームをしよう!
「ふっふっふ、やっぱりここは私が出るしかないにゃ」
そう言って、本当に家を出て行った黒歌。十分ぐらいして戻って来た彼女は、大きな鞄を持っていた。その間にアーシアも復活していた。
「黒歌、それは?」
「レイナーレ達の所からハードごとゲームを借りて来たにゃ。これでみんなで遊びましょう」
そういや、俺の眷属になってから、よく遊びに行ってたっけ。なんか眷属同士親睦を深めるためとかなんとか。なら俺もって言ったら駄目だって言われて地味に傷付いた記憶がある。
「レイナーレ様達ってゲームされるんですね」
「ゲーム趣味があるのはミッテルトなんだけどね。携帯ゲーム機も色々持ってるし、据え置きハードも三つくらい持ってるにゃ」
相当なゲーマーだなミッテルトさん。
「最初渋られたけど、ご主人様の名前を出したら喜んで貸してくれたにゃ。そのまま家まで突撃して来そうだったけど、流石にそこは止めたにゃ」
オーフィスちゃんとヴァーリさんの事を秘密にするためだな。でも、レイナーレさん達になら話してもいい気がするが。
てきぱきとテレビにゲーム機を接続する黒歌。コントローラーは四つ。ソフトも五本以上ある。随分たくさん借りて来たんだな。
「準備完了! さあさあ、みんなコントローラーを持つにゃ」
「でも、五人だと一人余ってしまいますよ」
確かにこのままだと一人遊べない。そもそもオーフィスちゃんに楽しんでもらう為なんだから彼女はまず外せないし、どうせならヴァーリさんにも楽しんでもらいたい。
少し悩んだが、今までの様子からしてオーフィスちゃんは絶対にゲーム初心者だから、俺と二人で一つのコントローラーで遊ぶ事になった。結果、1Pが黒歌。2Pがアーシア。3Pがヴァーリさんで、4Pがオーフィスちゃん+俺という事になった。
「我はフューリーと一緒?」
「ああ、一緒に頑張ろう」
「ん・・・」
頷くオーフィスちゃんを膝に座らせる。・・・言っておくが、これはあくまでもコントローラーを持つのに都合がいいだけであって、幼女を膝に乗せたかったからというわけでは断じてない。気付けば左右にスコルとハティが寄り添い、フェンリルが足下で横たわっていた。
(羨ましい・・・)
(羨ましいです・・・)
(ここまで素直なオーフィスも珍しいわね)
黒歌とアーシアが羨ましそうに見て来る。オーフィスちゃんを膝に乗せたいのなら後で頼んでみればいいんじゃないかな。たぶんOKしてくれると思うぞ。
「最初はこれで遊ぶにゃ!」
そう言って黒歌が手にしたパッケージには『マダオパーティー』の文字と、明らかにやる気の無いオッサン達が並んでいる絵が描かれていた。
「このゲームはまるでダメなおっさん・・・つまりマダオを誰が最初に社会復帰させられるかを競うボードゲームにゃ。プレイヤーはマダオを操作して色んなイベントをこなして行って、最終的に一番最初に社会復帰したマダオのプレイヤーが優勝にゃ」
うん、どう考えても子ども向けじゃないよね。なんつーもんを題材にしてんだ・・・。
タイトル画面から切り替わり、キャラクター選択の画面になる。・・・マダオってサングラスかけないといけないルールでもあるのか? 十人くらいいるのに全員サングラス装備してる。おかげで服の色の違いくらいしか差別化が出来て無い。ちなみに、俺とオーフィスちゃんが選んだキャラの名は長谷川だった。日本人設定なのな。
キャラクター選択を終え、いよいよゲームがスタートした。冒頭、何故か軍服姿の中年男性が現れ、それぞれが選んだマダオの顔面を次々と殴って行った。
『いいかマダオ共! これが最後のチャンスだ! 人間らしい生活に戻りたけりゃ、死ぬ気で気張りやがれ!』
「は、はい! が、頑張ります!」
相手がゲームキャラなのに返事してしまうアーシア流石天使。
『マダオのお前等には、この俺が相応しい名前をくれてやる。まずはお前だ!』
軍服中年がヴァーリさんの選んだキャラを示すと同時に、画面の中央に派手なエフェクトと共に『ご機嫌ストリッパー』という文字が現れた。
「ゲームを始めたら、こんな感じで強制的にニックネームを与えられるにゃ。復帰ポイントを貯めてランクを上げない限り、ずっとこのニックネームで呼ばれ続けるの」
ちくしょう、何からツッコんでいったらいいんだ・・・! だがしかし、ヴァーリさんのこのニックネームに関しては違和感が無い!
『次はお前だ!』
―――『やさぐれゲルマニウム』
「え、ええっと、これはどういう意味でしょう?」
「そこは考えないでいいにゃ。あらかじめ登録されている単語をランダムでくっつけてるだけだから」
ヴァーリさんすげー!
『そしてお前だ!』
―――『二日酔いの社会不適合者』
「・・・前回ミッテルトと遊んだ時のヤツよりはましね」
『最後はお前だ!』
き、来た! 俺達の番だ!
―――『幼女の奴隷』
・・・これ本当にランダムなのか? どっかで誰かが見てんじゃねえの?
『さあ! 準備は出来た! さっさと行けこのマダオ共!』
軍服中年が姿を消し、やっとゲームがスタートした。順番決めの結果、最初は俺達の番だった。一から十までの数字が刻まれたルーレットが回転を始める。
「どうすればいい?」
「とりあえずこのボタンを押してみよう」
オーフィスちゃんがボタンを押すとルーレットが止まり、その先が六を指した。長谷川・・・もとい幼女の奴隷がマスを六つ進む。
『妻と離婚した。慰謝料として二百万支払った』
いきなりかよ! しかも三万しか無かったから所持金がマイナスになってるし!
「にゃはは、残念だねご主人様。でも、こんなのは序の口。これからもっともっと大変なイベントが起こって行くから楽しみにしててね」
楽しみどころか不安しか無いんですけど・・・。
「はわっ!? お金が無いのに連帯保証人になってしまいました!」
「事業に失敗したわ。やっぱり、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲なんて怪しげな名前の物なんて売れるわけなかったのね。私のキャラがしきりに完成度の高さを褒めてたのに、残念ね」
「にゃにゃ!? ギャンブル依存症になっちゃったにゃ! 早く回復しないと!」
「株が暴落? フューリー、どうしたらいい?」
怒涛の様に襲い掛かる絶望的なイベントの数々。これはあれか。このゲームの制作者が元マダオとかそういう事なのか?
その後、色々あって最終的に見事マダオを社会復帰させ優勝したのは、俺とオーフィスちゃんだった。二位が黒歌。三位がアーシア。そして最下位がヴァーリさんだった。
「あーあ、もうちょっとで逆転出来たのに、悔しいにゃ」
「途中で心が折れそうになりましたけど、何とか最後まで頑張れました」
「最下位・・・私が・・・」
「ヴァーリはマダオ?」
「ッ・・・! ふ、ふふ、言ってくれるわねオーフィス。いいわ、次は絶対にあなたに勝ってみせる」
「なら、次は『マダオカート』でもやりましょうか」
またマダオかよ!? え、ひょっとしてマダオシリーズ的な何かなのか!?
「次も我とフューリーが勝つ」
オーフィスちゃんは相変わらず無表情だ。けど、無表情でありながらも、どことなく楽しそうに見えるのは、きっと俺の気のせいじゃない。黒歌には感謝だな。
それから、俺達は心ゆくまでゲームをして過ごすのだった。
悔しいのう、悔しいのう。ワシじゃオーフィスの魅力を十分に表現しきれんかった。