ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第百十八話 解き放たれしは太陽の牙

『出かけるで! はよ支度しいや!』

 

すっかり『鋼の救世主』に夢中になっていた俺の頭の中に、いきなりそんなオカンの大声が響き渡った。

 

もうすぐ日も変わるのに、こんな時間からどこへ行くっていうんですか? 出来れば明日に回してもらった方が・・・。

 

『ええから急ぎ! 我等が天使のピンチや!』

 

おK。把握しました。

 

俺は読み掛けの本をたたみ、すぐさま準備を整えた。服を決める時間さえもどかしかったので、クローゼットにかけておいた例のアニメ服を纏い、リアスの部屋に向かった。

 

「リアス、今から出て来る」

 

「え、リョーマ? こんな時間からどこへ、というかその服・・・」

 

「ちょっと京都へ」

 

「ふうん・・・え!?」

 

ポカンとするリアスをそのままに、俺は自室へ戻る。同時に、天井に真っ白い穴が開き、俺の体がそこへ吸いこまれる様に浮き始めた。

 

『“アーシアちゃんを守る会”会則その一! アーシアちゃんに手を出す輩は!?』

 

ガンホー! ガンホー!! ガンホー!!!

 

『その二! アーシアちゃんを泣かせる輩は!?』

 

デストロイ! デストロイ!! デストロイ!!!

 

『その三! アーシアちゃんを傷付けようとする輩は!?』

 

ジェノサイド! ジェノサイド!! ジェノサイド!!!

 

オカンと共に会則を繰り返しながら、俺は自宅から遠く離れた京都の地へ旅立つのだった。

 

SIDE OUT

 

 

ロスヴァイセSIDE

 

「どうしたどうした! 逃げ回るばかりじゃ勝てねえぞぉ!」

 

「くっ・・・!」

 

回避したヘラクレスの拳が私の背後にあった樹木に突き刺さると同時に、激しい爆発が起こる。攻撃と同時に対象を爆破する・・・それが彼の神器である『巨人の悪戯』の力だった。

 

「そこっ!」

 

反撃の魔法を一気に叩き込むが、彼はそれをものともせず再び突っ込んで来る。ダメージが無いわけではない。ただ、この男の体が異常なまでに頑丈なのだ!

 

「いい魔法だぜ! 俺じゃなけりゃ今のでやられてるだろうな! だが、俺を倒したけりゃもっと激しいのをブチ込んでこねえと勝てねえぜ!」

 

「あなた、本当に人間ですか・・・?」

 

「おいおい、酷い事言うな! けどまあ、褒め言葉として受け取っておくぜ! お礼ってわけじゃねえが、俺の禁手を見せてやる!」

 

増幅するプレッシャーと共に、ヘラクレスの巨体が輝き始めた。その輝きが治まった時、そこには全身から異常な突起物を生やす彼の姿があった。

 

「これが俺の禁手、『超人による悪意の波動』だ! さあ! 派手にいかせてもらうぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

叫ぶと同時に、ヘラクレスの体から何かが発射された。あの形・・・まさかミサイル!?

 

(防御・・・無理だわ、あれだけの物を正面から受け止められない! ならば回避・・・駄目だ、間に合わない!)

 

一瞬の判断の遅れが、回避動作を遅らせた。防御用の魔法陣さえ展開出来なかった私へ、ヘラクレスのミサイルが殺到する。そして、それが私へ直撃しようとした正にその瞬間―――。

 

「やらせるかよ!」

 

そんな声と共に、上空から大量の光の槍が降り注ぎ、それに貫かれたミサイル群は爆発する事無く全て消滅してしまった。

 

「今のは・・・!」

 

上空を見上げる。そこには翼を羽ばたかせ、不敵な笑みを見せるアザゼル先生の姿があった。

 

「よお、丁度いいタイミングだったようだなロスヴァイセ」

 

「アザゼル先生!? どうしてあなたがここに!? 外の指揮はどうしたんですか!?」

 

隣へ降り立ったアザゼル先生へ、私はすぐさま尋ねた。すると、彼は何故かどんよりとした表情を浮かべてしまった。嫌な事を聞いてしまったのだろうか?

 

「安心しろ。外の事はもう心配する必要はねぇ。・・・今の俺達にとって、最高にして最悪な援軍が来たからな」

 

「最高にして最悪?」

 

意味が理解出来ず、ただ繰り返すだけの私に、アザゼル先生はその援軍の正体を口にした。

 

「・・・フューリーだよ。あの野郎、俺達の目の前で巨大な魔法陣からいきなり現れやがった。あんな複雑で神聖さに満ち満ちた魔法陣なんざ俺ですら見た事ねぇ。天使の連中なんざ、戦闘中だってのに祈りを捧げてやがったぜ」

 

「え!? ゆ、勇・・・神崎君が!?」

 

「馬鹿! 大声で名前を出すな!」

 

ちょ、何でいきなり私の口を抑えるんですか!? 目で訴えかける私へ、アザゼル先生が低い声で理由を話し始めた。

 

「お前わからねえのか? アイツが直接出張って来たって事は、イッセー達はアイツの期待に応えられなかったって事だ。あの野郎、こっちから一切連絡してねえはずなのに、テロリストの出現を知ってやがった」

 

「ええ!? ど、どうしてですか・・・!?」

 

「そこはフューリーだからって事で納得しとけ。ともかく、ヤツは自らテロリストの殲滅。及びアーシアや八坂姫救出の為に出て来やがった」

 

「それなら、何故彼では無くアザゼル先生がここへ?」

 

「アイツがここへ来てみろ。下手すりゃイッセー達が卒倒するぜ。だから俺が説得して代わりにここへ来たんだ。・・・アッサリ納得しやがったのが逆にヤバい気がしたがな」

 

「そ、そうだったんですか」

 

「だが、安心は出来ねえ。外があらかた片付いたら、アイツもここへ向かうと言っていたからな。・・・俺がここへ転移する直前だったが、あの野郎、ワンパンで大型のアンチモンスターの腹に風穴開けてやがった。ありゃ相当キテるぞ」

 

た、確かに、そんな彼を兵藤君達に見せるわけにはいかないわね。・・・あれ? というか、私もマズくない?

 

「はっはあ! 堕天使の総督様まで来るとは最高じゃねえか! いいぜ、その姉ちゃんだけじゃ物足りなかったんでな! なんなら二人同時に相手してやってもいいぜ!」

 

「ヘタレの手下が舐めた口聞いてくれるじゃねえか。ならお望み通りぶちのめしてやるよ」

 

「アザゼル先生。援護なら私では無く他の子達の所へ・・・」

 

「何言ってやがる。むしろお前以外に援護が必要なヤツはいねえよ」

 

「え?」

 

「ちぇあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

 

ほぼ同時に聞こえて来た雄叫びと悲鳴に目を向けると、ゼノヴィアさんが剣で出来た巨大なドラゴンを一刀両断し、ジークフリートの右腕が宙を舞っていた。

 

「木場に続いてゼノヴィアもようやく壁を乗り越えやがった。アイツ等はまだまだ強くなるぜ」

 

「うう、教師として複雑です・・・」

 

「アイツ等は全員フューリーにしごかれてるからな。なんだったらお前もアイツに個人的に鍛えてもらったらどうだ?」

 

え? そ、それって所謂個人レッスン・・・!?

 

―――ロスヴァイセ先生、俺色に染まる覚悟は出来ていますか?

 

―――ま、待ってください勇者様! 私、まだ心の準備が・・・!

 

―――返事は「はい」か「イエス」しか認めません。

 

―――は、はひ・・・。

 

「おいロスヴァイセ。カテレアのモノマネなんざ誰がしろって言った」

 

「え!? わ、私、何かおかしな顔してました!?」

 

「・・・いや、気にするな。お前がそれでいいんなら俺から言う事はねえよ」

 

「は、はあ・・・。ともかく、そういう事でしたら、援護の方よろしくお願いします」

 

こうして、心強いパートナーを得て、私はヘラクレスとの戦いを再開するのだった。

 

ロスヴァイセSIDE OUT

 

 

イッセーSIDE

 

「おやおや、まさか総督殿にまでお越しいただけるとはな。こいつは参った参った」

 

曹操が見つめる先では、アザゼル先生がヘラクレスのミサイルを光の槍で薙ぎ払っていた。なんであの人がここへ? もちろん心強いけど、外は大丈夫なんだろうか。

 

「そういう割には落ちついてるじゃねえか。自慢のお仲間もやられてるってのによ」

 

ジャンヌとかいう女はゼノヴィアに追い込まれてるし、ジークフリートなんざ右手を斬り飛ばされている。ヘラクレスだって流石にあの二人相手に無事でいられるわけがない。

 

「・・・そうだな。キミ達には本当に驚かされてばかりだよ。キミ達の実力は事前の予測データを遥かに上回っていた。最早中級どころか上級悪魔と比べても遜色ないレベルだ。そこは素直に称賛させてもらうよ」

 

槍を回しながら曹操が笑む。ジークフリートといい、こいつといい、敵である俺に褒め言葉を投げて来るなんざおかしなヤツ等だ。もっとも、こんなクソ連中に褒められた所で嬉しさどころか嫌悪感しか湧かねえがな。

 

「元々、実験のついでに赤龍帝の実力を堪能させてもらおうとも思っていたが・・・どうも、それなりに気合いを入れないとマズイようだ。いざとなれば、こっちも禁手を使わせてもらうくらいには・・・ね」

 

チッ。コイツ、言葉こそ余裕綽々だが、決して俺を舐めてる様には見えねえ。あの槍の能力はまだ明らかになってねえが、アザゼル先生をして最強の神滅具と呼ぶ槍だ。絶対ヤバいもんに決まってる。万が一にも使われるわけにはいかねえ。

 

「それにしても、キミは本当に面白いね赤龍帝。いや、兵藤一誠君」

 

「あ?」

 

「直情型の熱血漢。まるで少年漫画の主人公みたいな性格のキミだが、俺の槍の能力を警戒して攻め手を考える冷静さも持っている。一体どっちが本当のキミなんだろうな」

 

「知るか。俺にはただ、どうにかしてテメエの面に一発かましてやろうって気持ちしかねえんだからよ」

 

「おお、怖い怖い。けど、そんなキミにも弱点がある。龍殺しと光だ。わかるかい? この世に無敵な存在なんていないんだ」

 

「その言葉、俺じゃなく神崎先輩の前で言ってみろよ。テメエにその度胸があればの話だけどな」

 

「わかってるさ。俺は近い内に証明するつもりだよ。だがその前に・・・まずはキミだ」

 

曹操が槍の切っ先を俺に向ける。先端が展開し、金色のオーラで形成された刃が伸びる。・・・あの恐ろしさすら感じる神々しい輝き。悪魔である俺には致命傷必至だろう。

 

「いくら努力しても克服出来ないものってのは厄介だよな。悪魔であるキミにとって、この聖槍が正にそれさ。これに貫かれれば、キミは呆気無く死んでしまう。聖槍のダメージは悪魔にとって絶対だからね。兵藤一誠君。キミに自ら死へ飛び込む勇気はあるかい?」

 

んなもんあるわけねえだろ。だがな曹操、勇気だろうが覚悟だろうが、必要だってならいくらでも捻り出してやるよ。それでテメエをぶちのめせるのならな!

 

『その通りだ少年。死を乗り越えた先・・・そこへキミの求めるものがある』

 

その声が頭の中へ響いた瞬間、俺の体に異変が生じた。な、何だ・・・。体が熱い。それに、この全身から溢れ出す赤いオーラは・・・!?

 

『ついにこの時が来たわね』

 

この声はエルシャさん!? お、俺の体に何が起こってるんですか!?

 

『今この瞬間を以って、あなたは第二の扉を開いた。ここから先、あなたには自らの覇龍を得る為、“練成”を始めてもらうわ』

 

“練成”?

 

『あなたの“根源”・・・理不尽を憎むその燃え盛る炎の様に“熱き心”に相応しい覇龍を、あなた自身で考えるのよ』

 

うええ!? ちょ、いきなりそんな重要な事決めろって言われても・・・。

 

『難しく考えるな! テメエが今求めるものはなんだ!』

 

俺が今求めるもの・・・。そんなの、そんなの・・・コイツ(曹操)をぶん殴れる力に決まってるじゃねえか!

 

俺が心の中でそう叫んだ瞬間、噴き出る赤いオーラが左の籠手を包み込む。その中で、籠手がその形を変えていった。甲の部分へ新たなパーツ・・・三つの噴出孔が現れ、そこから赤い炎が勢い良く噴出を始める。っておい! これヤバくねえか!?

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?!?」

 

「ッ・・・!?」

 

そう思った直後、左手に引っ張られる様に、俺の体は弾丸の様に飛び出した! 背中のブースターと左手に現れたブースターの相乗効果は凄まじく、未だかつて経験した事の無い速度で俺は何かに激突した!

 

「ご・・・ぶ・・・」

 

「え?」

 

気付けば、俺の左手が曹操の腹へ深々と食い込んでいた。目の前にいたんだから当然といえば当然なんだが・・・。

 

血を吐き出す曹操に一瞬呆けるが、俺はすぐさま意識を切り替えた。何にせよ、これを利用しない手はねえ!

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

未だ激しく炎を噴き出す左手を全力で振り切る! 今度は曹操が弾丸の様に吹っ飛ぶ番だった。そのまま近くの家屋を巻き込みながら遥か遠くへ吹き飛んで行く曹操。

 

「っしゃあ! 見たかこの野郎!」

 

そう吼えつつ、俺は改めて左手に目を向けた。いったい、このブースターは何なんだ?

 

『それが“練成”よ。この段階に至る事で、『赤龍帝の鎧』はあなたが求める形へ姿を変えていくわ。そのブースターは、あなたがあの男へ拳を届かせたいという願いを鎧が叶えたものなの』

 

鎧が自ら形を変える!? なら、このブースターは鎧そのものが形を変えた事で出来た物って事か!

 

『そうやって一つ一つの可能性を模索していくの。そして、あなたが真に求めるものに気付けたその時・・・あなたの覇龍は顕現するわ』

 

じゃあ、この左手はまだ覇龍によるものじゃないって事ですか?

 

『ええ。覇龍として顕現したのならば、その程度の威力で収まるはずが無いもの』

 

・・・曹操がまるで反応出来て無かったこれがその程度って・・・。でも、これで覇龍についてまた一つわかったぞ。つまり、“練成”で色々試して、自分にピッタリなものを見つけられれば、それが覇龍へ昇華されるって事だな。

 

『理解の早い子は好きよ。それじゃ、負けないでねイッセー。覇龍へ至る前に死んじゃったら意味無いんだから』

 

オッス! ありがとうございます、エルシャさん!

 

「・・・驚いた。まさかこの場面でいきなりパワーアップするとは。やはり赤龍帝は恐ろしいな」

 

瓦礫の中から曹操が姿を現す。・・・おかしい、何であんなにピンピンしてやがる?

 

「俺にダメージが無くて不思議かい? けど、間違い無くさっきのキミの一撃は俺の内臓をいくつも潰してくれたよ。これが無ければそのまま死んでたかもしれないな」

 

そう言いながら、曹操が懐から小ビンを取り出す。あのビンの形に液体の色はまさか・・・!?

 

「フェニックスの涙!? なんでテメエがそれを・・・!?」

 

「驚いているようだな。けど、テロリストである俺でも、裏のルートさえあればいくらでも確保出来るんだ。ああ、フェニックス家は俺達の所にこれが出回っている事には気付いていないよ」

 

「ざけんな! それがあれば助かる人は大勢いるんだぞ! テメエ等みたいな犯罪者共が持ってていいもんじゃねえんだよ!」

 

つーか、超常の存在を憎むとかほざいてる癖に、その超常の存在が作った物を使うとか矛盾しまくりだろうが!

 

「俺達だって死にたくないんでね。さあ、仕切り直しといこうか。さっきは不覚を取ってしまったが、次は止めてみせるよ」

 

上等だ! こうなればフェニックスの涙が無くなるまで殴り続けてやる!

 

そうして、俺と曹操が第二ラウンドを始めようとしたその時、突如ヘラクレスの怒声が俺の耳へ届いた。

 

「そこまでだ! テメエ等全員動くんじゃねえ!」

 

何だ? いきなり何を言って・・・。

 

俺は声のした方へ振り返った。その瞬間、俺の頭は真っ白になった。

 

な、なんで、なんであの人がここにいるんだよ!?

 

「「「「「山田先生!?」」」」」

 

いつの間にかボロボロになっていたヘラクレスが抱えているもの・・・それは山田先生だった。俺だけじゃなく、異変に気付いた木場達もそろって先生の名前を叫んだ。

 

「イッセー!」

 

「ア、アザゼル先生! 山田先生が・・・!」

 

「わかってる! あの野郎、いきなり逃げ出したと思ったら真耶ちゃんを・・・。くそ、いつの間に人質されてたんだ・・・!」

 

話している間に、それぞれに戦っていたみんなが戻って来た。後ろに下がっていたアーシア達も合流し、全員で曹操達へ対峙する。ジークフリートの右手が治っている。アイツもフェニックスの涙を持っていたんだろう。

 

「これがテメエのやり方か曹操! 裏の事情を何も知らねえ一般人である真耶ちゃんまで巻き込みやがって!」

 

そうだ。山田先生はこっちとは関係無い人だ。悪魔や天使では無いし、神器だって持って無い。本当に普通の優しい先生だ。そんな人を人質だと・・・マジでざけんなよ曹操!

 

「・・・どういうつもりだ、ヘラクレス」

 

? なんだ、曹操の様子がおかしいぞ。てっきりドヤ顔でもしてくると思ったが、アレは・・・怒ってんのか?

 

「この人、赤龍帝君達の関係者よ」

 

「お前もグルかジャンヌ。だが、そんな事は聞いていない。何故ここへ連れて来た?」

 

「文句ならヘラクレスに言ってちょうだい。彼女を攫うのを決めたのは彼なんだから」

 

「何言ってやがるジャンヌ。お前こそ役に立ってもらうとか言ってたじゃねえか」

 

「まあ、そういう事よ。それに、使えるものは何でも利用する・・・そう常々言っていたのはあなたじゃない曹操」

 

「・・・そう、だな。ああ、そうだとも。それが俺のやり方だったな・・・」

 

何かを追い出す様に首を振る曹操。ひょっとして、山田先生の拉致はアイツの指示じゃないのか?

 

「にしても、デケえな。何食ったらこんなにデカくなんだろうな」

 

「んっ・・・!」

 

んあっ!? あ、あの野郎、山田先生の胸をワシ掴みやがった! あの学園裏ランキングで飛び込んだら一番安心出来るバストの持ち主第一位に輝いた山田先生のお胸様をあんな乱暴にぃ!

 

「ごらぁ! ヘラクレステメエ! 真耶ちゃんの神聖オッパイに軽々しく触れるんじゃねえ!」

 

その畜生にも劣る所業にブチ切れるアザゼル先生! そういや、一時期アザゼル先生が山田先生を狙ってるって噂があったな。

 

「よく見りゃいい女だしよ。このまま俺の女にしてやろうか」

 

「あらあら、可哀そうな真耶。今までの女の子みたいに、散々貪られて、飽きたら部下の男の子達の道具にされちゃうのね」

 

「いいや、これほどの女を部下にくれてやるのは勿体無え。この女には英雄のガキを産むという栄誉をくれてやるぜ」

 

「下衆がぁ・・・!」

 

目線だけで殺せそうなくらいの勢いでヘラクレスを睨みつけるアザゼル先生。たぶん、俺も同じ様な表情をしているだろう。この胸の中で暴れ回る感情・・・これが本物の“殺意”なんだろうか。俺は今、あの野郎を殺す事に微塵も躊躇いが無い。

 

俺達の中に生まれた殺意というどす黒い感情の炎は―――次の瞬間、呆気無く燃え尽きる事となった。

 

「ぐるるる・・・!」

 

まるで地の底から響いて来るような恐ろしい唸り声。心臓を軽く握られているかの様な凄まじい圧迫感。そして・・・かつて経験した明確な“死”のイメージ。その正体・・・アーシアの鞄の中で眠っていたはずのスコルがついに目を覚ました。

 

「アオォォォォォォォォォォォン!!!」

 

地面に降り立つと同時に、スコルは天に向かって高々と吼えた。その声には明らかな“怒り”が込められている事に俺は気付く。コイツ・・・もしかして山田先生を助けようと?

 

ドクン! とスコルが震えると同時に、その体が少しずつ大きさを増していく。その中で、何かが軋む様な音が聞こえて来た。

 

「はっ! だ、誰かグレイプニルの首輪を外してください! アレが壊れたら制御する術が・・・!」

 

「は、はい!」

 

ロスヴァイセさんの指示に、俺はすぐさまスコルの元へ駆け寄り、首輪を外すと同時に吹っ飛ばされた。や、ヤベえ。なんかわかんねえけど滅茶苦茶やべえぞこれ!!!

 

「何だ・・・!? “コレ”はなんなんだ兵藤一誠!?」

 

戦慄する曹操達を無視し、俺達はその場からすぐに下がった。そうして、その場に居合わせた全ての者が呆然と見守る中、ついに神殺しの牙はその真の姿を取り戻した。その巨躯は、全ての存在を等しく“死”へ導く者としてやはり相応しいものだった。

 

「マズいぞ曹操! コイツは神喰狼だ!」

 

『絶霧』の魔法使いが悲鳴に似た声をあげる。その恐怖の感情は瞬く間に英雄派全体に広まっていった。

 

「何故だ・・・! 何故神喰狼がここにいる!? 神喰狼は全てフューリーに忠誠を誓ったはずだ! ・・・まさか!?」

 

「残念。そのまさかなんだよな曹操ぉ・・・」

 

何かに気付いた様子の曹操へ、アザゼル先生は堕天使でありながら、まさしく“悪魔”のような笑みを見せながら真相を口にするのだった。

 

「馬鹿な・・・! では彼は・・・神崎君は、俺達の計画に気付いていたのか!?」

 

「そう、だからコイツを送り込んだのさ。お前等がアーシアへ危害を加えるであろうと予測してな。そして案の定、何も知らねえお前等はノコノコ姿をさらしちまったってわけだ。いやあ、自分達の行動が筒抜けの癖に、自慢気に色々語って来るお前等は実に滑稽だったぜ!」

 

今までのお返しとばかりに、これでもかとボロクソに連中をこき下ろすアザゼル先生。いいぞ! もっと言ってやってください!

 

「そ、それがどうした! こっちには人質が・・・!」

 

「アホか。それが決定打になったってまだ気付かねえのか。自分から死地へ足を踏み入れるとは、マヌケもここまで来ると逆に凄いわ」

 

「そうですね。だからここまで接近してても気付けない」

 

「なあっ!?」

 

いつの間にか至近距離へ移動していた木場がヘラクレスから山田先生を奪い、こっちへ戻って来た。先生、木場から目をそらせる為にワザと話を引き延ばしてたんですね!

 

「山田先生!」

 

「大丈夫。眠っているだけみたいだ」

 

「よ、よかった・・・!」

 

俺達は一斉に安堵の溜息を吐いた。

 

「真耶ちゃんは返してもらったぜ! さあ、やっちまえスコル!」

 

「ぐる・・・ぐるるる・・・!」

 

「スコル・・・ちゃん?」

 

スコルの様子がおかしい。ひょっとして、元に戻ったばかりで調子が整ってないのか?

 

「ぐるる・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」

 

刹那、スコルの咆哮と共に、夜であるはずの周囲が、まるで昼間の様な明るさに包まれる。鮮やかな炎の火柱がスコルを飲み込んだまま天へと伸びていき、いつしか火柱の先に巨大な火球・・・太陽が姿を現した。

 

「せ、先生! もう何が起こってんのかわかりません!」

 

「ロスヴァイセ!」

 

「わ、私もわかりません!」

 

もう、誰でもいいから説明してくれ! 思わずそう叫びたくなった俺は、つい太陽を見上げた。もちろん、本物ではないだろうが、この肌を突き刺すような光は間違いなく太陽のものだ。スコルが太陽になっちまったのか?

 

「た、太陽が・・・!」

 

イリナが叫ぶと同時に、太陽が一番の輝きを放った直後、フッと消えてしまった。まるで、最初から存在しなかったかのように、呆気無く。

 

再び闇夜に包まれるフィールド。だが、実際は太陽は消えていなかった。そして、“別の存在”へ変化した太陽が、ゆっくりと俺達の前に降り立った。

 

まず目についたのは、鮮やかなオレンジ色の髪。続いて、誰が見ても美女と断定する美しい美貌に、エキゾチックな褐色の肌。とんでもなく自己主張の激しいバスト及びヒップ。そして、それらを辛うじて包む露出の激しい衣装。普通であれば、絶対に鼻の下を伸ばしてしまうであろうその女性は、首をゴキゴキと動かしながらこちらへ目を向けて来た。

 

「・・・おい、そこの龍の雄」

 

「え? あ、お、俺ッスか!?」

 

ルビーの様な真っ赤な瞳に見つめられ、俺の心臓は激しく動く。・・・美女に見つめられたからじゃない。見つめられた瞬間、とてつもない恐怖が俺を襲ったからだ。本能的に理解出来た。この女性(化物)に逆らったらいけない。俺を構成する原子の一つ一つがそう訴えかけて来ていた。

 

「よく聞け、あのヘカトンケイルとトロールを足した様な不細工な肉塊はオレがやる。お前等はその間アーシアの姐さんとぽかぽかおねーさんを守れ」

 

「は? ぽかぽか?」

 

「い い な?」

 

「りょ、了解ッス!」

 

俺の馬鹿野郎! だから逆らったら駄目だっての!

 

「まさか、いや、そんな事が・・・。だが、ヤツ等の母親は元巨人だったはず。その因子とでもいうべきものがスコルに受け継がれているとしたら、人化する事も不可能じゃねえ」

 

あごに手を当てながらブツブツ呟くアザゼル先生。駄目だ、こうなったらこの人は役に立たない。ならロスヴァイセさん・・・は固まってるし! ええい、固まりたいのはこっちだってのに!

 

「来いよ肉塊。ここにいないボスの代わりに、オレがお前をヘルヘイムに送ってやる」

 

美女に指名されたヘラクレスが前に出る。だが、その顔は若干青ざめ、体は震えていた。

 

「は、はは! 舐めるなよ化物! お、俺の祖先であるヘラクレスは、ケルベロスを退治した英雄だ! 化物退治なら得意なんだよ!」

 

「あ? あんな太陽に照らされるだけで逝きかける駄犬とオレを一緒にすんじゃねえよ。つーかヘラクレス? ラリって自分で自分のガキを殺したヤツが祖先なんざ自慢できるもんじゃねえだろ」

 

「テ、テメエ・・・!」

 

「待てヘラクレス! 対策も無しに手を出すなど愚の骨頂だ! アレはそこらの魔物なんかとは次元が違う! 神喰狼なんだぞ!」

 

顔面蒼白の魔法使いの制止も聞かず、ヘラクレスは美女へ向かってミサイルを発射した。その場から微動だにしない美女が、爆発の中へ消える。

 

「へ、へへ、どうだ化物! こんだけの爆発ならテメエも・・・」

 

ヘラクレスの言葉はそこで止まった。怪我どころか、衣服すら破れていない美女の姿に、ただ目を見開いていた。

 

「爆発? お前が言う爆発ってのは、傷にもならねえ撫でる事を言うのか?」

 

「な・・・あ・・・!?」

 

呆然自失となったヘラクレス。直後、ヤツの体が炎に包まれた。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

 

傍から見ても正に業火と呼べるような激しい炎に包まれもがき苦しむヘラクレスを、美女はつまらなそうに見つめていた。

 

(神崎先輩に従う所しか見て無いからわかってなかった。これが・・・これこそが神喰狼なんだよな)

 

その姿に、俺は改めて神殺しの牙の恐ろしさを実感するのだった。




次回で決着です。果たして、英雄派は生きて帰る事が出来るのでしょうか。


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