ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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続いて二話目です。


第百十一話 守護者はいつも命がけ

イッセーSIDE

 

三日目の朝、俺達は嵐山方面行きの電車に乗り込んだ。このまま観光を続けていいのか微妙だが、ホテルに戻れる簡易魔法陣も渡されたし、アザゼル先生の連絡があるまでは楽しんでおこうという結論になった。

 

それはそうと、まさかスコルが山田先生に懐くとはな。アーシア曰く先生に預けておけば大丈夫らしいが、アザゼル先生がなんて言うか。でも、下手に刺激して“ぱっくん”されたらえらい事になるし・・・神喰狼と一緒に行動するだけでも疲れちまうから、これでよかったんだろう・・・。

 

「最初は天龍寺だよな。どこで降りるんだ?」

 

俺はそれ以上考えるのを止めた。横に並ぶ桐生に尋ねると、次の次の駅だとの答えが返って来た。ならもう少しだな。

 

「・・・兵藤、アンタ何かあったの?」

 

「ん? なんだよ急に?」

 

「いや、だっておかしいわよアンタ。行きの新幹線の中でもそうだったし、何よりアンタが覗きする側じゃなくて防ぐ側に回った事が未だに信じられないわ。・・・ひょっとして、なんか企んでんの?」

 

疑いの目を向けて来る桐生に、俺は真正面から答えた。

 

「・・・女のお前にはわからないだろうな。俺・・・いや、男には、やらなければならない時ってのがあるんだよ。俺の場合、それがこの修学旅行だったってだけの話さ」

 

「ッ・・・!」

 

「だから俺は・・・っておい、そっちから話振って来た癖になんでそっぽ向くんだよ?」

 

「うっさい馬鹿。黙って景色見てろ」

 

それは流石に酷くねえか!?

 

(ああもう、だから不意打ちでそういう顔すんなっての。てか、何で私、焦ってんのよ。意味わかんないし)

 

何だコイツ? てか、チラッと見えたけど頬がちょっと赤かったぞ。ひょっとして風邪でも引いたか?

 

「おい桐生」

 

「なによ兵d・・・」

 

こちらへ顔を向けた桐生のおでこへ、俺はすかさず手を伸ばした。

 

「なっ!?」

 

「ふむふむ、熱は無さそうだな。ひょっとして、なんか変なもんでも食って・・・」

 

「何いきなり触ってんのよ変態!」

 

「ヴァイ!?」

 

腹部を襲う激痛。それは桐生が俺の腹を殴った事が原因だった。あ、あれ、おかしいな。こいつくらいの力なら余裕で耐えられるくらいの体は持ってるはずなんだけど、この意識がぶっ飛びそうな痛みは何よ!?

 

「女の子の顔をいきなり触るなんてどういうつもり!? そんなんだから変態って呼ばれるのよ!」

 

「お、女の子て・・・。お前相手に今さら遠慮する必要なんて無いだろうが」

 

桐生自身が前に俺達に女の子扱いされる事は諦める・・・みたいな事を言ってたのを俺は覚えている。

 

「そ、それは・・・」

 

「でもまあ、それだけ元気なら心配する事ねえよな。安心したよ。こっちに来てからお前に結構気を使ってもらってるしよ。それが原因で体調でも崩されたら申し訳がたたねえし」

 

「はあ? 体調?」

 

「いや、さっき頬が赤かったからさ」

 

「それはアンタが・・・!」

 

「俺?」

 

「じゃなくて! ええっと・・・その・・・ああほら! 駅に着いたから降りるわよ!」

 

扉が開くと同時に桐生が外へ飛び出す。うーん、わからん。あと、俺と桐生の周りにいた皆さんから向けられていた暖かい視線は何だったんだろう?

 

ともかく、駅から出て看板を頼りに歩く事数分、無事天龍寺へ到着した。早速受付で料金を払っていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 

「待っていたぞ、お主等。約束通り、ここからは私も同道し、ここらの案内をさせてもらおう」

 

声の主は九重だった。案内って・・・ああ、そういや昨日そんな事言ってたっけ。なんかスコルの事で荒れまくるアザゼル先生を宥めるのに必死ですっかり忘れてたわ。・・・あの人、ついこの間まで毎日楽しそうに「ゆっくりしていこうぜ!」とか言ってたのに、なんか最近になっておかしくなったんだよな。てか、あのヤバい色の薬がマジで気になる。七色の時点ですでに異常なのに、それに加えてちょっと発光してたもんな。今度落ち着いてる時にでももう一回聞いてみよう。

 

「うわ、可愛い女の子だなぁ。何だイッセー。こっちなら本性がバレてないからってナンパしたのか?」

 

「なわけねえだろ。それと元浜。この子に変な真似すんなよ」

 

先輩の関係者に手を出したらとんでもない事になるんだからな。

 

「ふ、ふふ、舐めるなよイッセー。俺は(社会的な意味で)死にたくない。眺めるだけで我慢するさ」

 

「そうだな。(肉体的な意味で)死にたくないのならこの子にだけは手を出すなよ」

 

「・・・兵藤、アンタこの子とどうやって知り合ったの?」

 

「ん? ああ・・・ちょっと事情があってな。それがきっかけで知り合ったんだ」

 

「ふーん」

 

「何だよ?」

 

「別に。モテなさ過ぎてとうとう幼女に手を出したのかと思って」

 

「よしケンカだ!」

 

俺をあの眼鏡と一緒にすんなや! そしてテメエはテメエで写真撮ってんじゃねえよ元浜ぁ! 言ったそばからそれとか舐めてんのか!

 

「いいよ! 次はこのポーズでお願い!」

 

「こ、こうかの?」

 

「よし! もう少しで見え―――」

 

「ブーストナッコォォォォォォォォォォ!!!」

 

俺の放った右拳が、元浜の構えていた小型カメラを破壊した。この野郎、記念撮影用とは別にこんなもん用意してやがったのか。

 

「ほぁぁぁぁぁぁ!? お、俺のカメラがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

 

「九重! そのロリコン眼鏡から離れなさい! じゃないと色々やられちゃいますよ!」

 

「え、あ、う、うむ、わかった」

 

感情が高ぶり過ぎて変な口調になってしまったが、とにかく、九重を守る事に成功した。

 

「さあ、気を取り直してみんなに自己紹介してくれ」

 

「そ、それはいいのじゃが、あそこに崩れ落ちておる者は・・・」

 

「ああ、放っておこう。アイツは今この瞬間から俺達とは何の関係も無いただのロリコンだから」

 

「ろりこん?」

 

「いいんだよ。九重には全くどうでもいい話だから」

 

「いまいち理解出来んが。まあよい、私は九重と申す。そちらのお二人は初耳じゃろうが、今日は私がお主等の案内をさせてもらう事になっておる。至らぬ点もあるとは思うが、少しでも京都の魅力を感じてもらえるよう精一杯務めさせてもらうのでよろしく頼む」

 

堂々とした態度でハキハキしゃべる九重に、松田は驚き、桐生は感心した様子だった。拍手を送る二人に、俺もつられて手を叩いてしまった。

 

「じゃあ、早速この天龍寺を案内してもらおうかな」

 

「うむ、任せるがよい!」

 

こうして、俺達一行に九重を加え、改めて観光名所巡りを始める事になったのだった。元浜? 土下座して来たんで許してやりましたが何か?

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

九重はガイドの役目を実に立派に果たしてくれた。天龍寺から始まり、大方丈裏の庭園。庭園の法堂の天井に描かれた雲龍図の『八方睨み』、他にも行く所行く所全部を本物のガイドさん顔負けの説明を交えて案内してくれた。

 

「基本的な情報は周りの者に教わったが、それをそのまま伝えるだけでは味気ないからの。私も私なりにいろいろ調べてみたのじゃ」

 

おかげで随分観光名所について詳しくなった。そんな俺達は、九重お勧めの湯豆腐屋で昼食を取っていた。そこには木場の班もいて、昼食を済ませたら俺達も行こうと思っていた渡月橋へ向かうらしい。

 

「よお、お前等もここにいたのか。九重も加えて楽しそうなこった」

 

さらにそこへアザゼル先生とロスヴァイセさんが姿を現した。アザゼル先生は酒瓶を持っている。

 

「先生、こんな真っ昼間からお酒ですか?」

 

「・・・こりゃ水だよ」

 

「え? でも思いっきり酒って書いて・・・」

 

「んな事よりスコルは? スコルはどこだ? ちゃんと大人しくさせてんだろうな」

 

「え、ええ、実は・・・」

 

山田先生の事を伝えたら、アザゼル先生から拳骨を喰らってしまった。

 

「うぐぐ・・・何で殴るんですか」

 

「馬鹿野郎。いくら懐いて大人しくなったからって、こっち側の関係者でも無い山田先生に預けるなんて何考えてやがる」

 

「で、でも本当の事を言うわけにもいきませんし」

 

「・・・大丈夫なんだな? 暴れたりしないんだな?」

 

「はい、それはアーシアからちゃんと言われました。神崎先輩並みにベッタリだからきっと大丈夫だって」

 

「信じるぜ。その言葉。んじゃ、ホテルに帰ったら念の為に山田先生の部屋へ・・・」

 

「駄目ですよアザゼル先生。どうせスコルの事は二の次で、本当はただ山田先生のお部屋に入りたいだけなんでしょう?」

 

ロスヴァイセさんにジト目を向けられ、アザゼル先生はわざとらしく口笛を吹いた。

 

「そんなつもりじゃないって言うと嘘になるが、マジで俺はスコルの事が気になるんだよ。お前等こそ、アイツが神喰狼だって事忘れてねえだろうな?」

 

「もちろんです。あの恐ろしさについては十分理解しているつもりです」

 

な、なんかロスヴァイセさんが言うとやけに説得力があるな。

 

「ならいいが・・・。とにかくそういう事だ。神喰狼はグレイプニルじゃなく、フューリーという鎖のおかげでここに存在しているという事だけは頭に刻んでおけ。ありえないだろうが、もしもこの先、何かの理由によってフューリーがいなくなった時、ヤツ等を止めれる手段は考えておく必要がありそうだ」

 

神崎先輩が消える・・・か。はは、まるで想像出来ねえな。でもアザゼル先生の言う様に、可能性が限りなく低くてもゼロで無いのなら気にしておかないといけないのだろう。

 

「・・・とまあ、小難しい話はこれくらいにして、お前等、飯食った後はどうするつもりだ?」

 

「渡月橋へ向かうつもりですけど」

 

「よし、なら俺達も行くぞロスヴァイセ。生徒との交流も教師の務めだもんなぁ」

 

というわけで、何故かアザゼル先生とロスヴァイセさんも一緒について来る事になった。これはまた騒がしくなりそうだな。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

店を出てしばらく歩いていると、俺達の前に川、そしてそこにかかる木造の橋が見えて来た。

 

「ほお、中々趣のある景色じゃねえか」

 

「ええ、まさに絶景ですね」

 

「そういえば知ってる? 渡月橋を渡っている時に振り返ると、今まで授かった知識を全て失ってしまうんだって。それに、男女が別れるって言い伝えもあるみたいよ」

 

「ならロスヴァイセは問題ねえな」

 

「ちょ、どういう意味ですか!!!」

 

アザゼル先生の軽口にロスヴァイセさんが噛みついたその時だった。言い様も無い感覚が俺を包み込み、周囲から人の気配が消えた。正確には、こっち側の関係者以外の一般人の姿が見えなくなった。さらに、俺達の足下に霧らしきものが立ちこめてきていた。

 

「な、何が起こったんだ? それにこの霧は・・・?」

 

「・・・『絶霧』か」

 

「『絶霧』?」

 

「どうやら俺達だけ別の空間に転移させられたみたいだな。風景やらなんやらまで全てトレースさせるなんざ、無駄に凝った真似しやがって」

 

「転移って・・・まさか神器ですか?」

 

「ああ。『絶霧』の霧は包んだ者を別の場所へ転移させる事が出来る。・・・ようやくおでましってわけか」

 

「・・・」

 

「九重ちゃん?」

 

「皆、警戒するのじゃ。母上の護衛が死ぬ間際にこう口にしておった。自分達は、気付いたら霧に包まれていたと」

 

アザゼル先生と九重の言葉に俺は確信した。そうか、ヤツ等が・・・今回の事件の首謀者共が向こうから出張って来やがったわけだな。

 

橋の方から気配がいくつも近づいて来る。その先頭・・・学生服を着た黒髪の野郎が口を開く。

 

「やあ、初めましてアザゼル総督に赤龍帝。そして・・・聖女様」

 

学生服の上から漢服を羽織り、手に不気味なオーラを放つ槍を携えているその男は、先生、俺、そしてアーシアへ順番に目を向けた。そんな男の周囲に、似たような格好をした連中が何人も立っている。

 

「噂の人相と合致してるな。お前が英雄派のトップか?」

 

「俺は曹操。三国志で有名な曹操の子孫・・・という事になっている」

 

曹操って・・・まさかあの曹操!?

 

「先生、アイツ何なんですか?」

 

先生は俺の質問に答えず、皆に向かってこう言った。

 

「お前等、あの男の槍には最大限警戒しろ。あれは最強の神滅具『黄昏の聖槍』だ。神をも貫く絶対の神器・・・。まさか、その使い手がテロリストとはなぁ。・・・どうやら、ゼノヴィアの仮説は合ってたみたいだな」

 

じゃ、じゃあ、やっぱり先輩はあの男が出て来る事を見越してスコルを?

 

聖槍の登場に固まる俺達の横から九重が一人前に進み出る。見た感じ表情は落ち付いているが、俺にはわかる。あれは感情が高ぶり過ぎて逆に冷めている様に見えているだけだ。

 

「曹操と言ったか。私の問いに答えてもらおうか」

 

「もちろん、この私でよければなんなりとお答えいたしますよ、小さな姫君」

 

「では答えろ。母上を攫ったのは貴様等か?」

 

「左様で」

 

アッサリ認める曹操に、九重はあくまでも冷静に言葉を続ける。

 

「目的は何じゃ?」

 

「畏れ多くも、お母上には我々の実験にお付き合いしていただきたいと思いましてね。少々強引ではありましたが、我々の元へお連れした次第でございます」

 

「・・・そうか」

 

そう言って、九重は曹操に背を向けた。

 

「おや、もうよろしいので?」

 

「母上は貴様の所にいる。それだけ聞ければ十分じゃ」

 

そうか、その確認の為にわざわざ。でもよく我慢したな九重。やっぱりお前は凄―――。

 

その時、九重の手からポタリと何かが落ちた。その正体に気付いた俺は数秒前の自分を殴り殺したくなるほどの後悔をした。

 

九重の手から落ちたもの・・・それは血だった。拳を握り締めた際、あまりに力を込め過ぎた生で爪が掌を裂き、そこから血が滴っていたのだ。

 

馬鹿か・・・馬鹿なのか俺は!!! 辛く無いわけねえだろ! 悲しく無いわけねえだろ! 我慢なんか・・・我慢なんか出来るわけねえだろ! 母親を攫った相手を前に冷静になれるわけねえだろ!

 

なのに九重は耐えたんだ。お母さんを助ける為に、少しでも情報を手に入れる為に、血が出ても、声を張り上げたくても、泣きたくても我慢してたんだ。それが・・・今の自分に出来る精一杯だと信じて・・・!

 

・・・許さねえ。こいつらは絶対に許しちゃいけねえ。俺は今・・・心の底からコイツ等が許せねえ!

 

『そうだ。外道を前に正しき怒りの炎を燃えあがらせる・・・。それこそが正義』

 

―――相棒。どうやらまたお前を認めたヤツがいるみたいだ。

 

そうか。そいつは何よりだ。けど、今は喜んでる場合じゃねえぜドライグ。

 

―――ああ、わかっている。お前の熱が俺にも伝わって来るぞ。

 

「それと、俺の目的はもう一つ。まあ、こっちは既に叶ってしまったわけだが」

 

「え?」

 

曹操の瞳が再びアーシアを捉える。

 

「初めまして、ずっとお会いしたいと思っておりました。伝説の騎士・・・フューリーの傍らに寄り添う聖女様。一部ではあなたがフューリーを操っているとの噂がありますが、真相はどうなんでしょうね」

 

「え、ええ!? と、とんでもありません! 私なんか、いっつもご迷惑をかけてばかりで、それでもお傍に置いてくださっているリョーマさんにはとても感謝してて、その・・・」

 

いきなり話しかけられたせいか、答えにならない答えを口にするアーシアに、曹操はさっき九重に向けた作り物の笑顔じゃない、本物っぽい笑顔を見せた。

 

「ははは、なるほど。確かにとても愛くるしい聖女様だ。では、そんな聖女様にお願いが。どうだろう、フューリー殿と一緒に我等の元へ来てくれないか? キミが説得すれば、騎士殿も首を縦に振るだろう。人間であるキミ達がそちら側にいてもいつか絶対後悔する事になるぞ。何せ、悪魔は自分の欲望を満たす為なら平気で裏切るからな」

 

こんの野郎・・・! 俺達が先輩やアーシアを裏切るわけねえだろ! つーか、んな事したら次の瞬間には首が飛んどるわ!

 

「お断りします」

 

そうやって曹操へツッコんでいる間に、アーシアは今度はどもったりせずにきっぱりとそう言った。

 

「ほお、理由は?」

 

「それは、イッセーさん達がいい悪魔だからです」

 

「いい悪魔!? はは、こいつは驚いた! 悪魔にいいも悪いも無いだろう。“悪”魔だぞ? 人間からすれば全て敵じゃないかな?」

 

「違います。イッセーさん達と出会って私は知りました。悪魔だって人間と同じなんです。同じ様に笑って、同じ様に泣いて、同じ様に誰かを愛する。そんな、優しい悪魔のみなさんだっているんです。あなたが今言った悪魔のイメージは、そのままあなた達自身の事です」

 

「俺達が悪魔?」

 

「自分達の欲望を満たす為、こんな幼い子を傷付けたあなた達をそう呼ばずになんと呼びますか?」

 

尚も俯いたままの九重を抱きよせるアーシア。・・・あの子も俺と同じだ。コイツに・・・コイツ等英雄派に対して滅茶苦茶腹を立ててるんだ。

 

「・・・なるほど。ここにも王道を歩む者がいたか。まあいい、覇道を歩む俺には手段などいくらでもあるんだからな」

 

それ以上アーシアと話をする気が無くなったのか、曹操が彼女から顔を背ける。そこへ、アザゼル先生がポツリと呟いた。

 

「実験ねぇ・・・」

 

「おや、あまり驚かれないのですね」

 

「まあ、お前等の企みは随分前からアイツには露見していたみたいだしな」

 

「・・・何?」

 

アザゼル先生の一言に、曹操の雰囲気が変わった。さっきまでの表面上の穏やかさやわざとらしい丁寧口調を止め、訝し気に先生へ目を向ける。

 

「ど、どういう事だ? 我等の計画が知られていただと?」

 

「馬鹿な。そんなはずは・・・!」

 

曹操の周りのヤツ等の中から戸惑いや驚きの声が上げられ、辺りがにわかに騒がしくなる。

 

「アザゼル総督。今のはどういう意味ですか?」

 

「知りたいか?」

 

「ええ」

 

「そうか。なら教え・・・るわけねえだろボケ。精々悩んで悩んで悩みまくって胃に穴でも開けてろ」

 

馬鹿にするように笑うアザゼル先生に、曹操は表情を変えない。だが、ヤツから感じるプレッシャーが僅かに強まった。へ、どうやら心の中じゃお冠みてえだな。

 

「・・・いいだろう。元々手合わせをしておこうと思っていたんだ。少々手荒だが、力づくで聞かせてもらおうか」

 

「は、やれるもんならやってみな」

 

構える先生に俺達も続く。まずはアスカロンをゼノヴィアに渡し、密かに『倍加』を重ね始めた。

 

「さて、レオナルド。まずは悪魔用のアンチモンスターを頼む」

 

「うん」

 

いつの間にか曹操の横にいた少年がその言葉に頷いた次の瞬間、その子の足下から周りに向かって不気味な影が広がっていく。やがてその影が橋全体を包んだ時、さらなる異変が起こった。影が盛り上がり、腕、足、頭が形成されていき、ついには完全なる姿をした怪物となる。その数はゆうに百は超えているだろう。

 

「そのガキ・・・『魔獣創造』持ちか」

 

「流石アザゼル総督。そう、その子の神器は神滅具の一つにして、俺の『黄昏の聖槍』とは別の意味で危険視されている神器だ」

 

『魔獣創造』・・・その名の通り、どんな魔獣でも創りだせる事が出来る神器。所有者の力次第では、それこそ怪獣映画に出て来そうな超巨大な怪物を、数百体も一気に創造する事が可能だとか。曹操が危険と言っている意味がわかる。コイツは・・・下手したらとんでもない被害をもたらす恐れがある。

 

「見た所、あのガキにまだそこまでの力は無い。倒すなら今だな」

 

「出来ますか? この子はアンチモンスター・・・つまり相手の弱点をつく魔物を生み出す力に特化していましてね。今創り出したのは対悪魔用のアンチモンスター。つまり・・・」

 

「・・・つまんねえ話をグダグダグダグダしつけえんだよ」

 

「イッセー?」

 

「テメエはおしゃべりしに来たのか? ならお茶屋でお仲間の連中と好きなだけしゃべってやがれ。こっちはとっくに我慢の限界なんだよ」

 

「ではどうするつもりだい?」

 

「決まってんだろ。・・・テメエ等全員ボッコボコにしてやるよぉ!」

 

「ああ、行こうかイッセー君!」

 

「許さない! 絶対に八坂姫の居場所を吐かせてやるんだから!」

 

俺の叫びに応える様に、みんなが周囲に並ぶ。さて、始めようか英雄派さん。

 

「やれやれ、人の話は聞いておいた方がいいと思うがな。では、こちらも行かせてもらおう。ついでだ、聖女様も確保しておけば後で都合がよさそうだ」

 

「「「「・・・なんだって?」」」」

 

セイジョヲカクホ? アーシアノコトカ? アーシアノコトカァァァァァァァァァァァ!!!

 

「木場ぁ! 『魔剣創造』でアーシアと九重の周りを剣で囲め!」

 

「了解! とびっきりの堅いヤツでいくよ!」

 

「イリナは内側から結界を張って二人を守れぇ!」

 

「任せて! 絶対に破らせない!」

 

「そんでもってゼノヴィアァ! お前にはこれだぁ!」

 

十分に倍加した所で、それを全てゼノヴィアへ譲渡する。考える必要は無ぇ。お前はただ全力でぶちかましてくれればいい!

 

「任せろ! さあ、アンチモンスターとやら! 貴様等が本当に対悪魔用だというならば、この一撃に耐えてみせろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

アスカロンから天に向かって凄まじい光の刀身が伸びる。その激しさたるや、数秒見つめるだけで目が潰れてしまいそうなほどだった。

 

そして、それを全力で振り降ろすゼノヴィア。光の向こうへ飲み込まれて行くアンチモンスター達。結果、ヤツ等はその数を九割近く失っていた。

 

「・・・チッ、仕留めそこなったか。やはりデュランダルでなければ上手くいかんな」

 

「いや、よくやってくれたぜ、ゼノヴィア」

 

「イッセー・・・お前、まさかこの為に倍加を重ねてたのか?」

 

アザゼル先生の問いに、俺は頷いた。

 

「馬鹿の一つ覚えみたいに開幕『禁手』ばかりじゃ戦い方が狭まります。俺は俺に出来る事をやりますよアザゼル先生」

 

先輩が九重へ贈ったあの言葉が、結果的に俺の意識を変える事になった。突っ込むばかりじゃ守れない。今の状況を見て適切な判断をする。俺にはそれが全然出来ていなかった。さっきだって、本当は『禁手』のカウントをスタートさせようとしていた。でも、直前になってあの言葉が頭を過ったんだ。

 

『・・・まだまだ未熟の域を出ていないが、どうやら少しは頭を使う様になったようだな』

 

今のは先輩の声? はは、この短い時間で二人も認めてくれたのか。なら、みっともない所は見せられねえよな!

 

「曹操。自殺志願するのは勝手だがな、アーシアには絶対手は出させねえぞ。俺達はテメエ等をぶちのめして九重の母親を助ける。そして・・・A・G計画を遂行する!!!」

 

こうして、修学旅行三日目にして、ついに俺達と英雄派との戦いの幕が開かれたのだった。




英雄派には(ピエロとして)存分に頑張ってもらいましょう。

ちなみに、A・G計画の意味は天使(Angel)護衛(Guard)計画となります。

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