ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
イッセーSIDE
九重と名乗った女の子は、そのまま俺達に向かって深々と頭を下げた。
「まずは昨日の謝罪を。お主達の正体の裏付けもせず、襲撃してしまった事、心よりお詫び申し上げる。あの者達はあの者達なりに母上を心配して行動したようじゃが、こちらの事情を知らないお主達からすれば迷惑極まりなかったであろう」
確かに、あの時は何で襲われたかわからなかった。けど、今はあっちの事情とやらも多少は理解している。それに、こうして謝ってもらったのだから、俺としては特に何かを言うつもりは無い。みんなも同じだったようで、それぞれに気にしていない旨を口にした。
「・・・お主達の寛大な心に感謝を」
「なんか、立派だな。お母さんが攫われて辛いだろうに」
「イッセー君!」
ッ・・・。しまった。いくらなんでも今のは無神経過ぎたか。
「わ、悪い」
「確かに母上がいなくなって不安じゃ。今もどこかで辛い目に遭われているのかと思うと胸が張り裂けそうじゃ。しかし、それは他の皆も同じこと。ここで私まで弱気な所を見せては、皆が益々落ち込んでしまう。だからこそ、母上の娘である私は、たとえ見せかけであろうとも、弱い部分を見せてはならんのじゃ」
「うう、ご立派です九重様」
「へ、流石ボスの娘。その幼さで既に大将の片鱗を見せてやがる」
その言葉に、傍にいた鳥頭(天狗らしい)のじいさんが号泣し、アザゼル先生が感心したようにそう評する。でも、確かに俺もそう思う。自分が一番辛いだろうに、それでも別の誰かの為にそれを我慢するなんて簡単に出来る事じゃない。
「そこまで大層な事では無い。私は私に出来る事をする。・・・兄様に教えて頂いた事じゃ」
「兄様? 誰だ? 八坂姫に息子がいるなんて話聞いた事ねえぞ」
アザゼル先生が怪訝な表情を浮かべる。でも、確か昨日も兄様がどうとか言ってたよな。誰の事なんだ?
「私が勝手にそう呼んでいるだけじゃ。さらに言えば、兄様は妖怪では無く人間じゃ。そういえば、ちょうど去年のこの時期じゃったかな。私が兄様と出会ったのは」
「あの時は大変でしたなぁ」
懐かしむ様に語る九重とじいさんに、俺はつい気になって尋ねてみた。
「その兄様ってどんな人なんだ?」
「聞きたいか? ふふふ、ならば聞かせてやろう。私と兄様の出会いを!」
このドヤ顔・・・どうやら聞いて欲しかったみたいだな。
「あの日、私は母上と喧嘩し、供も付けずに京の街へ飛び出した。そうやって一人彷徨っていた所へ兄様が通りがかったのじゃ」
その時、自分の耳や尻尾を見ても驚かなかった兄様に興味が湧いた九重は、気まぐれで京都の街の案内役を買って出たらしい。でもって、それからしばらく兄様と一緒に色々回っていたのだが、そこへ飛び出した九重を心配した妖怪の皆さんが現れ、兄様が九重を攫おうとしていると勘違いして襲い掛かってしまった。当然、誤解を解こうとした九重だが、本当に驚くのはここからだった。
「兄様は兄様でそやつ等が私を攫うつもりだと勘違いしてな、反対に全員叩きのめしてしまったのじゃ! あの時はビックリしたぞ! 天狗達の連携攻撃を難なく避け、狐の炎を受けてもものともせずに反撃し、私を抱えたまま赤剛鬼を拳による一撃であっけなく沈めてしまったのじゃからな!」
赤剛鬼って俺が倒したあの赤い巨人だよな。でも、俺はブースト+テンションで押し切ったって感じだけど、その兄様って人は純粋にワンパンでブッ倒したって事? ははは・・・それは本当に人間ですか?
「私はすぐに兄様を止めようとしたのじゃが、「大丈夫。必ずキミをお母さんの所まで送り届けてみせる」と言われてしまってな。・・・その時の至近距離から見た兄様の凛々しいお顔に、私は何故か何も言えなくなってしまった」
やるな兄様。そんな臭いセリフを堂々と口に出来るなんて。おかげでフラグっぽいもんが建ってるじゃん。
「私も九重様をお助けしようとあの方の前に立ち塞がりましたが・・・正直生きた心地がしませんでしたぞ。あれほどまでの殺気はかつて八坂姫が激怒された時に迫るものがありましたな。仲間の者の中には、あの御人の髪色だった蒼色を見ただけでしばらく震える者がいたくらいですからな」
「ふふん、私は逆に蒼い物を集める事に凝ってしまったがな。ほれ、この首飾りも蒼いじゃろ?」
思い出すだけで顔を青くさせるじいさんと、自慢げに首飾りを見せて来る九重。滅茶苦茶強くて蒼い髪をした臭いセリフを口にする兄様。・・・あれ、おかしいな? そんだけしか情報がないのに、なんで俺の頭の中にはある人物のイメージが浮かぶんだろう。
「そうやって襲撃を退けている間に、いつの間にか金閣寺の近くまで来ていてな。ここまで来れば母上の所まであと少しじゃった。じゃが、飛び出して来た身としては母上にどんな顔をして会いに行けばいいかわからなかった。そんな私の様子がおかしいと思ったのか、兄様は事情を訪ねて来てな、つい口を滑らせてしまった」
八坂姫の娘として、自分も皆の為に何かしたい。だけど、八坂姫はそんな九重に何もしなくていいと言った。それが喧嘩の原因らしい。
「その言葉は思った以上に私の心に突き刺さった。まるで、自分は必要無いと思ってしまうほどに。じゃが、そんな私に兄様はこう言った。私の事を想っているからこそ、母上はそう言ったのだと。まだ幼いキミに、余計なものを背負わせたくないのだと」
その言葉に九重は自分の間違いに気付いた。みんなの為と言っておきながら、結局自分の事しか考えず、周りの気持ちなど知ろうともしなかったのだと。
さらに兄様はこう続けた。それでもみんなの為に何かをしたいと思うのなら、まずは自分に出来る事から始めていけばいい。初めから何もかも出来る者なんていない。少しずつ学んで、少しずつ進んでいけばいい。それがいつかは九重の大切な人達の為になるはずだ・・・と。
「どんな小さな事でもいい。私は私に出来る事を全力でこなしていけばいい。それに気付かせてくれた兄様にはどれほど感謝してもし足りない。兄様が私にくれたこの言葉は私の一生の宝物じゃ」
「うう、いい話ですね」
ロスヴァイセさんがハンカチで目元を拭っている。うん、俺もまさかこんな所でこんな心温まる話が聞けるとは思わなかった。
「で、そろそろ聞かせてくれよ。その宝物を与えてくれた人間の名前を」
「うむ。兄様の名前は・・・神崎亮真じゃ!」
(((あ、やっぱり・・・)))
間違い無く、今俺とゼノヴィア、イリナの心の声はシンクロしているだろう。うん、別に驚きはしない。というかそうでないと困る。妖怪相手に無双出来る様な人間様がこれ以上増えてたまるか!
「母上も随分と兄様を気に入っておったぞ。というか、完全に獲物を狙う目をしておったな。何だかそれが気に入らんかったから止める様にいったら頭を撫でられてしまったが、あれは何だったんじゃろう・・・?」
うわ、なんという純粋な瞳・・・。駄目だ、俺には色んな意味で眩し過ぎる。
「あの野郎・・・妖怪とのパイプまで築いてやがるのか」
「総督殿は兄様の事を知っておるのか?」
「ああ知ってるぜ。・・・嫌というほどな」
首を傾げる九重に、アザゼル先生は神崎先輩と俺達の関係、そしてその正体について説明した。案の定、それを聞いた九重は驚きのあまり目を見開いた。
「な、なんと!? 兄様があのフューリーだというのか!?」
「そうさ、ヤツこそが、かつて人の身でありながら二天龍から三陣営を救い、この時代になって再び姿を現し、なんやかんややらかして俺の胃に致命傷を与えやがったフューリー様さ」
説明が適当過ぎやしませんか先生・・・。最後なんか思いっきり個人の事じゃないですか。
「やりましたな九重様! 伝説の騎士殿にご助力頂ければ八坂様の救出は成功するも同然!」
「うむ! 総督殿! 兄様をこの地へ呼ぶ事は可能だろうか!」
「そりゃ呼ぼうと思えば呼べねえ事も無いが、お勧めは出来んぞ。下手すりゃ京都が灰塵に帰す事になる」
「「え!?」」
「アイツの行動原理は極めてシンプルだ。理不尽に他者を虐げる者をヤツは絶対に許さない。それだけなら聞こえはいいが・・・問題はヤツが誰かの為ならばその力を解放する事に微塵も躊躇いをみせない事だ」
「そ、それが何か問題があるのか?」
「・・・一つ例をあげてやろう。そこにいるアーシアって娘が以前『禍の団』に与していた悪魔に攫われた事がある。・・・その時、ヤツはレーティングフィールドを内側からブチ壊しかけるほどの力を発現させ、上級悪魔の大群をまるでゴミを掃除するかのような勢いで瞬く間に殲滅していった。九重、話を聞くに、ヤツはお前さんの事も気にかけているようだ。そんなお前さんの母親が攫われたと知れば、ヤツは必ず今回の首謀者を血祭りにあげる為にその力を最大限に発揮するだろう。・・・そんな力にこの地が耐えられると思うか?」
「ゴクリ・・・」
アザゼル先生の語りに、九重が冷や汗を流しながら喉を鳴らす。先生、血祭りとかちょっと誇張・・・してねえな別に。うん、あった事をそのまんま正直に説明してるだけだわ。
「でもアザゼルちゃん。フューリーさんを呼ぶだけでも敵の動きを制限できると思わない?」
なるほど、それも一理あるな。先輩がただそこにいるというだけで連中に対する抑止力になるってわけか。・・・なんか魔よけのアイテムみたいだな。
「まあ何にせよ、最終的にどうしてもヤバくなりそうだったら呼べばいい。それまではヤツの事を当てにするのは止めといた方が良いぜ」
とりあえず、先輩の事については一旦置いておいて、俺達は改めて九条のお母さんの話をする事にした。
そもそも、八坂さんは数日前に須弥山の帝釈天の使者と会談する為に屋敷を出たらしい。けど、その会談の場に八坂さんは姿を見せず、不審に思った妖怪側が調査を開始。八坂さんに同行していた警護の烏天狗を保護した。その烏天狗の最期の言葉から、八坂さんが何者かに襲撃されそのまま攫われた事が明らかになったのだとか。
「八坂姫を攫ったヤツ等が未だにこの京都にいる事は確かだ。九尾である八坂姫がこの地を離れたり殺されたりすればこの地の気が大きく乱れ、何かしらの異変が起きるはずだ。しかし実際はそれらしい予兆は無い。ならば八坂姫はまだ無事であり、攫った連中もまだここにいる可能性が高いってわけだ」
先生の説明に、俺達は予想を確信へと変えた。
「ゼノヴィア、やっぱりあなたの予想が正しかったみたいね」
「ああ、きっと先輩はこの事を・・・」
「あ? お前等何の話をしてるんだ?」
ちょうどいい、ここで全部ぶちまけちまおう。
「アーシア」
「わかりました。んしょ」
アーシアが鞄の口を開ける。そして次の瞬間、中から出て来た存在に、アザゼル先生達の表情が凍りついた。
「がう!」
そんなアザゼル先生達など気にも留めてないのだろう。スコルは呑気そうに周囲を興味深そうに眺めているのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
「こんのばっきゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
説明終了後、俺達を待っていたのはアザゼル先生からのお説教だった。
「なんでそんな超重要案件を俺に教えなかった! ざけんなコラ! アレか!? お前等が今ここで話さなかったら、俺は知らない間にヤツの怒りに巻き込まれてたかもしれないってのか!?」
「だ、だって、説明したくても先生がどっか行ったりしてタイミングが・・・!」
「じゃかあしい! ええい! こうしちゃいられねえ! すぐに『神の子を見張る者』から幹部を数名呼び寄せ・・・いや、まずはアーシアを誰も手の出せない所へ避難・・・というかスコルの制御どうすんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「も、もももももちついてくださいアザゼルせせせせせ先生!!! まままままずは深呼吸ををををををを!!!」
「フューリーさん・・・本当に神喰狼をペットにしたんだ・・・」
頭を抱えて絶叫するアザゼル先生&落ち着かせるつもりが自分が思いっきり動揺しているロスヴァイセさん。そして、興味深そうにスコルを見つめるレヴィアタン様。この違いは何なんだ・・・。
「んぐ・・・!」
先生が懐から小ビンを取り出し、その中からカプセルを二つくらい取り出して口に含んだ。胃薬・・・じゃないよな? 明らかにヤバい色してたし。
「ふう・・・ふう・・・。まさかシャレのつもりで持って来た物を使うハメになるとは・・・」
「せ、先生。今の薬って・・・」
「イッセー・・・世の中には知らない方がいい事もある」
「り、了解ッス」
「で、話を戻すが。フューリーは京都で何かしらの事件が起きると予見してお前等にアーシアの護衛を頼んだ。だが、お前達では荷が重くなりそうな連中が出て来ると踏んで、さらにスコルを送って来たって言うんだな?」
「は、はい。ゼノヴィアがそれなら辻褄が合うって」
「さ、流石伝説の騎士。凄まじい先見の明ですね」
(そんなレベルじゃねえ。今の意味がわかってんのかロスヴァイセ。フューリーがコイツ等に護衛を命じたのはオーディンのじいさんが来る前だぞ。その時は当然八坂姫も攫われてなんかいなかった。それなのに今回の事件を読んでいた? 『禍の団』の中にフューリーの味方が潜んでいる? いや、『禍の団』を憎むヤツが連中を利用するとは思えん。ならば・・・まさか、未来予知? くそ、馬鹿らしいと切って捨てれないのが余計性質が悪いぜ)
黙りこくるアザゼル先生。それから数秒間、何とも重い沈黙が続いた。
「・・・わかった。お前等の意見やスコルの事、全部ひっくるめて考えさせてもらう。今ここにいないヤツ等にも俺から説明しておく。いいか? くれぐれもスコルを野放しにするな? マジで頼むぞ? 本当に頼むからな?」
そんな念入りにお願いされなくたって、俺達もスコルに好き勝手させたらヤバい事くらい十分理解してますよ。先輩がいないここで、コイツの力が解き放たれたら俺達じゃどうしようもないかもしれないし。
「・・・」
(アーシア?)
アーシアの様子がおかしい。スコルを鞄から出した所からずっと黙ったまんまだ。心なしか気まずそうな表情をしている様にも見える。
(え、え? スコルちゃんはリョーマさんに言われて私に着いて来たの? てっきりスコルちゃんがイタズラ心で潜りこんだとばかり。ど、どっちなの? あうう、頭が混乱して来ましたぁ)
「が~うが~う」
「な、なあじい、触ってもいいかの?」
「だ、駄目ですぞ九重様!」
両手をウズウズさせながらスコルへ近づこうとする九重を必死になって止める烏天狗のじいさん。
『禍の団』・・・話を聞く限りじゃ英雄派が動いているみたいだけど、本物の英雄が来る前に諦めて帰った方がいいんじゃねえのかな。
イッセーSIDE OUT
IN SIDE
「・・・っくしょん!」
「あら、リョーマ風邪でもひいたの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが、どうも昨日からくしゃみが止まらなくてな」
「ふふ、誰かあなたの噂でもしてるんじゃない?」
そうだろうか? 悪い噂でなければいいんだけれど。
「あ、それと話は変わるんだけど、この数日中でいいから、私と一緒に冥界に行ってくれないかしら。ミリキャスがあなたに見せたいものがあるらしいの」
「わかった。キミの都合がいい時に声をかけてくれ」
見せたいものか・・・。なんだろう。面白いものだといいな。
この時、俺は既に処刑台の階段を上り始めていたのだと、俺はその時になって思い出す事になるのだった。
というわけで、すでに幼狐様とはフラグを建てていたオリ主でした。
アザゼル先生のゆっくりな日々に再び暗雲がたちこめ始めたようです。