ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
小猫SIDE
夕方、一緒に帰って来た神崎先輩と黒歌姉様によって、私達はリビングへ集められた。何でも私達に報告しないといけない事があるらしい。
そうして揃った私達の前で、神崎先輩が姉様を正式な眷属にした事を発表した。さらに、姉様だけじゃなくて、あの堕天使の女性達三人も一緒に眷属にしたのだとか。
もちろん驚いたけれど、それ以上に姉様を祝福する思いの方が強かった。姉様が先輩を慕っているのは私や部長達だって知っている。知らないのはその思いを向けられている先輩だけだ。
「おめでとうございます、黒歌さん!」
「ありがとね、アーシア」
「リョーマ。黒歌達の事・・・大事にしてあげないと駄目よ?」
「もちろんだ。眷属を大切にするお手本の人物が目の前にいるんだからな」
アーシア先輩からお祝いの言葉を受けた黒歌姉様は、いつも私をからかう時などに見せるあの飄々とした笑みでは無く、本当に嬉しそうで、心から幸せそうな笑顔を見せた。
部長から眷属を持つ責任について話を聞く先輩は、一切迷いの無い目をしながらしっかりと頷いた。この人になら安心して姉様をお願い出来る。そう私に思わせるくらいに。
先輩は姉様を。姉様は先輩を。互いに互いを思うその姿は、王と眷属という関係に相応しいと思う。恩人である先輩と、私の唯一の肉親である姉様。私の大切な二人がそんな関係になって私も嬉しい。
そう、嬉しい。これは喜ぶべき事。なのに・・・どうして私の胸はこんなにもざわつくのだろう。
「うふふ、今日はお祝いにご馳走を作らないといけませんわね、小猫ちゃん」
「・・・そうですね」
自分の事なのに理解出来ないそのざわめきの所為で、朱乃先輩への返しが変に固い声色になってしまった。そんな私の反応がおかしいと思ったのか、朱乃先輩が気にする様な目線を送って来たけれど、私はそれに気付かないフリをした。
「それじゃあ、詳しい経緯は夕食の席で聞くとして、朱乃の言う通り、今日はお祝いという事でちょっと豪勢にいきましょうか」
部長の仕切りで全員で夕食の準備をする事になった。私も小さく頭を振って準備を始める事にした。どうせこの違和感もすぐなくなるはず。・・・そう思って。
小猫SIDE OUT
黒歌SIDE
みんなのおかげでとっても美味しい夕食を堪能した後、私は一度自室へ戻ってから白音の部屋に向かった。あの子ったら、夕食が済むなりささっと部屋に戻っちゃうんだから。やっぱり朱乃が言う通り、何か悩んでいるのかな。
「白音~」
「姉様・・・入る時はノックしてくださいと前から言ってるじゃないですか」
部屋に入ると、白音はベッドに横になったまま私にジト目を向けて来た。ふむふむ、こういう所はいつもと変わらない様だにゃ。
「いいじゃない。私と白音の仲なんだから。そ・れ・と・も、いきなり部屋に入られたら困る様な事でもしてたのかにゃ?」
「なっ! は、破廉恥です姉様!」
「ん~? 私は具体的な事は言って無いんだけど。白音ちゃんはナニを想像しちゃったのかにゃ~?」
「し、知りません! からかうだけで用が無いのなら出て行ってください!」
おっとと、そろそろ止めとかないとマズそうにゃ。私はススッと白音の傍へ近寄った。
「用ならちゃんとあるよ。白音とちょっと話がしたいの」
「なんですか、改まって」
「まあまあ、とりあえず起きて起きて」
白音をベッドから降ろし、カーペットの敷き詰められた床に二人で座る。そして、机の上に部屋から持って来た物を置く。
「姉様、それってまさか・・・」
「秘酒『猫殺し』。猫魈なら死ぬ前に一度は飲んでみたいとっておきのお酒にゃ。白音も名前くらいは聞いた事あるんじゃない?」
「は、はい。でもそんな珍しいお酒をどうやって・・・?」
「前に合宿で冥界に行ったでしょ? その時、リアスのお父様に人間界でのご主人様とリアスの事を色々教えてあげたらお礼にくれたの」
「で、それをここに持って来てどうするつもりですか?」
「ほら、白音って本心をあまり出さないツンデレちゃんじゃない? だからお酒の力で普段抑え込んでいる部分をはっちゃけさせてあげようと思って」
「私はツンデレなんかじゃありません!」
「はいはい。ツンデレは総じてそう言うにゃ。とにかく、私のとっておきを出すんだから、諦めて付き合うにゃ。これから私が色々質問するから、白音はそれに答えて。それで、もしも答えたくない質問だったら、答える代わりに『猫殺し』を飲むにゃ。」
ふっふっふ、こうすれば飲まざるを得なくなるにゃ。そして、飲んで酔っ払った所でもう一度同じ質問をすればきっとこの子も答えるはず。完璧な作戦にゃ。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
私の作戦は完璧。・・・そう思っていたのは私だけたった。
「ちょっとぉ。ちゃんと聞いてるんれすか姉しゃまぁ!」
正座する私の前で、『猫殺し』の入ったコップ片手に呂律の回っていない言葉を発する白音。顔も真っ赤で、人間界では隠すと決めていた猫耳と尻尾まで出してしまっている。
私の予想通り、白音は私の質問にすぐに答えに詰まった。・・・まあ、ご主人様の事好き? なんていきなり聞いた私も悪いとは思うけど。
事前の決まり通り、白音は『猫殺し』を一口飲んだ。本当にちょっとだけだ。なのに、その直後白音から出た言葉は「姉様、正座」だった。目が完全に座っていて、私はその命令に何故か逆らえなかった。
「だいたいれすね、先輩は酷いんれすよ。部長やアーシア先輩達の事は名前で呼んでる癖に、私だけ未だに塔城さんなんですよ! 何なんですか、私だけ仲間外れですか!」
「え、えっと、それはたぶん、白音が名前で呼んでくれって言わないからだと思うよ。ほら、他の子達も名前で呼んでってお願いしたから呼んでもらってるみたいだし」
「んぐ・・・」
『猫殺し』を一気飲みする白音。あーあ、二日酔い一直線コースだにゃ。
「ほら、コップが空ですよ姉様」
「は、はい! すぐに入れます!」
「ありがとうございます・・・って、誰が正座を崩していいって言ったんですか!」
それは流石に理不尽過ぎにゃ白音ぇ・・・。この子がお酒を飲む所は初めて見たけれど、まさかここまで酒グセが悪いなんて・・・。
「先輩だけじゃないれすよ。姉様達にだって文句があります。いつもいつも私の目の前でイチャイチャして、ずるいんですよ! 私だって先輩にナデナデされたりギュッとしてもらったり、甘えたいんですからね!」
「それも白音が言わないか・・・え、ちょっと待って。それじゃあ、白音もご主人様の事・・・?」
「好きれすよ。好きになるに決まってるじゃないれすか。姉様を助けてくれて、私と姉様の仲を取り持ってくれて、こんな可愛げの無い私を可愛いって言ってくれて、好きにならないわけがないじゃないれすかぁ」
・・・そっか。うん、やっぱりそうだったんだ。白音も私達と同じだったんだね。なら、もしかして白音は、ご主人様との距離を中々縮められない事に不安や焦りを抱いていたのかな。それがあなたの悩みだったんだね。
「・・・なんですかその目は。もしかして、信じてませんね?」
「え?」
「いいですよ! なら私が先輩の事をどれだけ好きなのか証明してあげます!」
そう言うなり、立ち上がった白音は勢い良く部屋を飛び出した。酔っぱらってるはずなのになんて俊敏性! 流石私の妹にゃ。
「って、感心してる場合じゃない! 早く追いかけないと!」
私は慌てて白音の後を追いかけるのだった。
黒歌SIDE OUT
IN SIDE
明日の準備を済ませ、そろそろ寝ようと思っていた矢先、突然部屋の扉が勢い良く開かれた。ノックが無かったので、おそらく黒歌だろうと思って振りかえると、そこには黒歌ではなく塔城さんが立っていた。
「塔城さん。何か用か? それにその姿は・・・」
白音モード(黒歌命名)の塔城さんにそう声をかけた瞬間、彼女は俺の胸に飛び込んで来た。
「えへへ、せ~んぱい」
ッ!? な、なんなの!? なんなんなの!? てか酒臭!!
「塔城さん、もしかして酔っているのか?」
「・・・」
「塔城さん?」
「先輩。私、先輩に嫌われてるんですか?」
「え?」
「そんなのやーです。私は先輩に名前で呼んで欲しい。もっと撫でて欲しい。もっとギュってして欲しい。もっと・・・もっと甘えた・・・」
塔城さんの声が徐々に小さくなっていき、同時に体から力が抜けて行く。まずい、この状況を誰かに見られたら変な誤解を与える恐れが・・・!
「ご主人様!」
ああだろうね! こういう事考える事自体がフラグだもんね! しかも黒歌かよ! 大事な妹が抱きしめられてるとか絶許じゃん!
「く、黒歌、これは・・・」
「ごめんなさい、ご主人様。白音がそうなったのは私の所為なの」
あ、あれ、思ってた反応と違う。とりあえず事情を聞いてみよう。眠ってしまった塔城さんをベッドに寝かせ、俺は黒歌から詳しい話を聞いた。
「私はただ、白音の本心を聞きたかっただけなの。もしも悩みがあれば力になってあげたくて」
それで酒っていうのはどうかと思うが、彼女なりに真剣だったのだからそれを咎める権利は俺には無い。でも、塔城さんに悩みか・・・。情けないな、一緒に暮らしているのに気付けなかったなんて。姉である黒歌でも気付かなかったから仕方ない・・・なんて言いわけにもならない。
「ご主人様、白音の事でお願いがあるの。聞いてくれる?」
俺の答えはもちろん決まっていた。
SIDE OUT
小猫SIDE
朝、目が覚めた私を激しい頭痛と喉の渇きが襲った。風邪ともちょっと違うその不快感にイラつきながら、ひとまず何か飲もうと部屋を出た。
昨日何か変な事をしただろうか。確か、姉様が部屋に来て、それで・・・何があったっけ? それ以降の事を全く思い出せない。
「あ、神崎先輩・・・」
リビングには神崎先輩がいた。他の人達はまだ目覚めていないのか姿が無い。先輩も私に気付いて挨拶して来た。
「おはよう、小猫」
「おはようござ・・・え?」
「少し顔色が悪いな」
先輩は私に近づいて来て、右手で私の頭を優しく撫でながらこう言った。
「辛い時・・・いや、いつでもいい。甘えたい時は甘えてくれていいからな」
そのまま私の横を通り過ぎて行く先輩。残された私はその場から動けなかった。
「先輩、今私の事を名前で・・・」
聞き間違いでなければ、先輩は私を塔城さんではなく小猫と呼んだ。
先輩に撫でられた所に妙な熱を感じる。・・・なんでこんなにドキドキしてるんだろう。
「・・・不意打ちだったからしょうがない」
きっとそうだ。不意打ちは先輩の得意技だから、今回だっていきなりされてビックリしてしまっただけだ。
「あ、おはよう小猫ちゃん!」
「おはようございます、アーシア先輩」
「・・・小猫ちゃん、楽しい夢でもみたの?」
「夢どころか昨日の記憶も無いんですけど、どうしてそんな事を聞くんですか?」
「だって、今の小猫ちゃん、とっても嬉しそうな顔をしてるもん」
「・・・気のせいですよ」
何故かこれ以上見られたくなくて、私は洗面所に退避した。相変わらず頭痛は治まっていないけど、さっきまでのイラつきは無くなっていたのだった。
「・・・変なの」
そろそろ小猫の気持ちを明確にしておきたかったので、今回はぶっちゃけさせました。まあ、素面じゃまだまだですけどね。
とりあえず、次回で二年生を修学旅行に行かせます。その後は、オリ主側と修学旅行側でわけながら進めさせようと思っています。