突然現れたソイツを見た俺の感想はただ一言。
恐怖。
圧倒的な恐怖の体現者がそこにいた。
長い耳(?)に長い尻尾。
それはまるで物語に出てくる悪魔や龍人のような姿をしていて。
その手に持つのは途轍もなく長い槍。
そして、その全身から迸らせるのは『雷』の魔法。
『保険をかけといて正解だったな。此奴こそが上位雷精『ルイン・イシュクル』だ!』
ピリッ、と俺の周りの空間が震えたのを感じた途端。
ガゴオォォォンと轟音が聞こえ。
俺は意識を手放した。
『……ああ、やっぱり勝てねえか……』
精神世界。
その中の別の空間で俺は背中越しに雪姫と会話していた。
『なんだだらしないな』
『やっぱり、無理なんだよ。借り物の力じゃ』
『なんだ。贅沢なヤツだな?』
『贅沢?』
『そうだろ? 私の知る人間達は、今手にあるもので生きるのに精一杯に見えたからな。配られた手札が不恰好だと悩むのは……貴族くらいなもんだ』
『そうか?』
『随分と呑気な……平和な時代に生まれたんだな』
『むぅ……』
『気持ちはわからんでもないが、使いこなしてくれれば私も嬉しいぞ』
『何でだ?』
『この『
『え?』
『……私が生きた証である技だ』
『え? そ、そうなるのか?』
『ふふ……どういう経緯で貴様にこの力が伝わったのかは知らぬが……私は嬉しいぞ』
『……っていうか、お前誰だよ?』
雪姫……であるはずはないし。
人造霊でもないよな?
『私はお前だよ』
『え?』
どういう意味だ?
俺が口を開く前に、雪姫は告げた。
『いいか、人の凄さというものは与えられた手札では決まらん』
そして雪姫は俺に掌を差し出してきた。
『手にした札で何をするのか?
どうするのか?
その選択で決まる!
違うか?』
『……』
無言になりながらも俺は差し出された雪姫の手を握り締める。
その時だった。
思考が元の空間に戻り。
何かが直撃したと気づいたその瞬間。
俺は無意識のうちに左手の掌を前に突き出していた。
キィィィィィ、と掌に雷の上位精霊が放った雷の魔法が直撃し、俺はその魔法を受け止めた。
その威力は俺が扱える大呪文・『雷の暴風』を遥かに凌駕する威力を誇る。
おそらく……いや、確実にこの魔法は『千の雷』と同等の威力があるだろう。
ちょっと前の俺なら確実に受け止められずに、死んでいたであろうその魔法だが。
だけど、今の俺ならなんとか出来る!
そう、確信していた。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
『善も悪も、強さも弱さも……全てをありのままに受け入れ、呑み込む力』
思い出せ!
雪姫と過ごしたあの日々を。
思い出せ!
大切な人と過ごしたあの日々を。
思い出せ!
大切な人を亡くしたあの日を。
それが……。
「『
それが俺の力になるのだから!
それに雪姫が言っていた。
『僅かな勇気こそが本当の魔法』だと!
一歩を踏み出す勇気がなければ何も変わらない。
だから俺はもう迷わない!
例え、どんなに強いヤツが相手だろうと引かないし、例え絶望したとしてももう、俺は後ろを振り返らない。
泥に塗れても前へと進んでやる!
それが俺の覚悟だ!
「術式兵装……『
……の劣化版。
見た目はオリジナルとほとんど変わらない、全身が白く光って雷そのものとなることで
スピードは最強クラスだが、その反面弱点は多く。
雷速と言っても技が発動したほんの一瞬だけで思考速度は変わらない。『雷』そのものという事は放電現象が起きるわけで、
テレフォンパンチのかっこうの餌食になりやすい。
一発限りの大技。
リスクが高い自爆技。
それが今の俺の雷天大壮だ。
だが、それでも……。
「喰らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
初見殺しにはなる!
俺は雷そのものの速さで移動する瞬動術。
『雷速瞬動』を発動させて『ルイン・イシュクル』の背後に移動した。
『ルイン・イシュクル』に向けて『八卦掌』を放つ。
中国拳法……そのうちの一つである『八卦掌』は
『雷速瞬動』で突進し、『八卦掌』で『ルイン・イシュクル』を押し出し、『
雷天大壮状態では弱点は多いが、
容赦はしない。
相手は人でも魔族でもない、精霊という化け物なのだから。
だから武偵法の範囲外だ!
「どんなに速い化け物だろうが……同じ土俵なら、負けるつもりはねえッ!!!」
相手が放つ雷を吸収して拳に取り込み、相手の力をそのまま返す!
ネギま! でネギがラカンの技を吸収して返したように……。
ガガガァァァン、と凄まじい爆音が鳴り響き。
森の一部が焦土と化すが。
俺は新たに手に入れた『自分の力』に興奮していた。
『雷天大壮』……ネギま! で出た最強クラスの術式兵装。
それを使えるんだ、興奮するなという方が無理だ、
もっともネギのように、まだ二重装填などは試した事はないからあの技が出来るかはわからない。
だが、この力があれば少なくても『武偵殺し』戦はかなり有利になり、『
さすがに
『千の雷』を使い
そんなことを思っていると、目の前の景色がまた変わり……。
『……ハデにやりおって』
『アイタタタ……拙者の負けでござるな』
仏頂面の雪姫と、たった今倒したはずの上位雷精『ルイン・イシュクル』の姿があった。
……。
これは一体、どういうことだ?
疑問に思う俺に偽雪姫は説明を始める。
要約すると、次のようになる。
俺が強さを求めることを悟った雪姫(本物)によって巻物、『真・
元々は
……まったく、傍迷惑な話だ。
こっちは死にかけたんだからな。
『心配せずとも、ここは精神世界。精神に多少の影響があっても肉体的には問題ないでござるよ』
『貴様なら大丈夫だ。殺しても死なないだろう?』
おいコラ、そこの二人!
少しは反省しろ!
『そんなことより、ミツル殿。お主……拙者に何か言いたい事があるのではないでござるか?』
「……バレてたか?」
『ん? 何だ……気づいてたのか』
『ここは精神世界。お主とは精神的に繋がっているでござるよ』
『フン、精霊などに頼らず私に聞けばいいものを』
『こればっかりは仕方ないでござるよ。
ユッキーの得意な氷魔法ではないでござるから』
『それもそうか……って、待て!
誰がユッキーだ!』
『エヴァたん、っていうのはさすがに抵抗あるでござる。キティ……うおっ⁉︎』
突然、『ルイン・イシュクル』に向けて偽雪姫は氷の矢を放った。
危ねえなぁ、俺にも当たるところだったぜ?
『貴様、雷精風情が調子乗りおって……』
『待ちなされ、冗談でござる!
ただのブラックジョークでござるよ』
「ブラック過ぎだろ……」
あれ?
雷の上位精霊の『ルイン・イシュクル』ってこんなキャラだったか?
ラカンの回想だと、夜の迷宮の奥で待ち構えるラスボス的なイメージがあったんだが。
『フン、今度フザけた事を抜かしてみろ。貴様のその長い耳と尻尾をちぎって、家庭用コンセント変わりにしてやる』
電気イヌみたいに自家発電に利用するんですね?
わかります。
『おっかないでござるな。まあ、冗談はさて置き……拙者に何か言いたい事はござらんか?』
『ホラ、とっとと吐け! 吐かないと愉快なオブジェにするゾ?』
「強引過ぎだろ! ……______して欲しい」
『ぬ?』
『ほう?』
俺の発言が意外だったのか、困惑気味に唸る二人(?)。
二人はしばらく思慮していたが、やがて『ルイン・イシュクル』が頷くと、偽雪姫は短く溜息を吐いて俺に告げた。
『……どうなっても知らんぞ』
「望むところだ! 強くならないとダメなんだ! どんなことをしても」
俺は偽雪姫と『ルイン・イシュクル』の顔を見つめ返し、そして頭を下げてお願いした。
「お願いします。俺を鍛えてください。俺に『
俺がさっき『ルイン・イシュクル』に告げたのはほんの些細な願い。
『俺に……雷精の魔法を教えてください。
俺を雷精の弟子にして欲しい』
雷精が扱う雷魔法。
それを人が『千の雷』と呼ぶのだから。
手っ取り早く、『千雷』を取得するのなら。
そのモデルになった人に聞けばいい。
そう考えた俺は『ルイン・イシュクル』に頭を下げた。
しばらく頭を下げていると。
『……顔を上げるでござる。わかったでござるよ。
拙者でよければ協力するでござる』
ルイン・イシュクルから許可が降りた。
思わず、ヨッシャーと叫びたくなる。
これで取得に難航していた『千の雷』に光が見えてきた。
後は、偽雪姫の方だが。
『フン、気はあまり進まんが……いいだろう。
私が知る全てを貴様に叩き込んでやろう。覚悟するといい』
あっさりとOKが出た。
『イヤイヤ振舞っておるが、その内心は頼られて嬉しいエヴァたんであった……』
『可笑しなモノローグ入れるなーーー!
雷精貴様ァ、やはりここで死にたいようだな……』
「どんだけ仲良しなんだよ、お前ら……」
もう、アレだな。
俺の中のイメージの上位精霊は優秀な対雪姫弄りのスペシャリスト的なポジションに変わったぞ。
『ごほん。まあ、冗談は半分置いとくとして『半分? 全部捨てぬか、貴様ァーーー!』……『千雷』だけで良いでござるか? お主のその巨大な魔力なら雷刀や雷槍も再現出来ると思うでござるよ?』
え? マジで。
『マジでござる』
ござる、ござる言われると。
何処ぞの腹ぺこBランク
『なんと、拙者のような口調の仲間がいるでござるか?
いずれ会いたいでござるな』
まあ、そのうちな。
しかし、『千雷』だけじゃなく、『雷槍』や『雷刀』も取得出来るかもしれないとは。
もしかして、俺は人間より精霊に近い存在なのか?
……イヤイヤ。俺は人間だ。
化け物になったはずはない。
少なくとも今は人間のはずだ。
『拙者の『千雷』を取り込んだ時点でただの人間ではないでござるな』
止めてー、言わないでー!
俺はまだ人間で居たいんだ!
人間辞めるのはキンジ一人で充分だよ。
『クックククク……人間を辞めるのは嫌だか?
だが、人間のままではいられんぞ?
貴様は禁呪に手を出したのだからな。『
ただの人間では耐えられぬ』
わかってるさ、そんなことは……でも、俺は人間を辞めるつもりはない。
人間の身で、人間だからこそ出来る。
人間しか出来ない方法で、俺は大切な人を守りたいんだ!
『フン、甘い選択だな。だが……面白い。
純粋な『白』ではない身で『黒』ではなく、『白』を目指すか。
やってみるといい……その先で私は貴様を待っているとしよう。
さて、長話は終わりだ。始めるぞ?
ここからが本当の修行の始まりだ!』
偽雪姫は、掌に巨大な氷柱を発生させ。
『拙者に着いて来るでござる!』
『
辛く、苦しい修行が始まるが、この修行を終えた俺はさらなる高みに達するだろう。
そう思うと、自然と笑みが浮かぶ。
そう。ここからが本当の始まりなんだから。
なんか、ラストが打ち切りっぽくなったような……?
まだだ、まだ終わらんよ……?
初めましての方は初めまして。
そうじゃない読者の皆様。
ごめんなさい。
大変長くお待たせ致しました。
4か月ぶりの更新です。
ネタバレすると、ちょっぴり意外な(そうでもないか?)怒涛の展開です。
ええ、この展開を書く為にUQ9巻刊行まで待ちました!
決して、ルイン・イシュクルの口調が難しかったわけではありません。
……ありませんて。
なんだよ、ござるって!
お前、日本人じゃないだろう!
つうか、忍者ですらないし。
そもそも人じゃないだろうがーーー!
と突っ込んだ私は悪くない。
悪くないったら、悪くない。
まあ、それはともかく。
修行編、次話で終わりです。