闇の魔法を使える武偵っておかしいか?   作:トナカイさん

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遅れました。本当すみません。
今年残り少ないですがいい年越しにしましょう!
では来年もよろしくお願いします。


装填21 神の代理人?

「ヒカリ……なのか、本当に?」

 

思わず聞き返してしまった。

俺は夢でも見ているのだろうか?

目の前に立つ彼女は、かつてその胸に抱いたとても可愛い我が子にソックリだった。

俺が我が子である娘を最後に見たのは娘が幼稚園に入る直前だ。

こっそり、彼女の家の近くで遊ぶ我が子を物陰から見たのが最期だった。

娘が目の前にいる。

その事実に戸惑いのあまり認める事ができないでいるとヒカリの隣に立つ雪姫が珍しく気を利かせたのか『ひなた荘』の方を指差しながら「落ち着けバカモン!ひとまず場所を変えるぞ。お互いに話したい事があるみたいだからな」と言った。

 

ヒカリはそんな雪姫を見て何故だか頬を膨らませると爆弾を投下した。

 

「ねえ、パパ。

このオバサン誰?」

 

途端に、その場の空気が冷えこんだ。

比喩ではなく、実際に気温が低くなっていく。

恐る恐る雪姫の方を見ると雪姫は笑顔だった。

見たこともないほど爽やかな笑顔を浮かべていた。

だが、俺はすぐに解った。

雪姫の目は全くと言っていいほど笑ってない事に。

その証拠に顔は笑顔を浮かべていたが、雪姫の左手の指先に氷を鋭く尖らせた刃を魔法で作り出していた。

あの魔法なら知っている。

(エクス)(キュー)(ショナー)(ソード)』……固体・液体の物質を無理矢理気体に相転移させる剣状の魔法だ。

 

「乳臭い餓鬼が何か言ったようだな。

よく聞こえなかったからもう一度言ってみろ」

 

「耳まで悪いんですね。

年増だから仕方ないでしょうけど」

 

こめかみをヒクつかせて聞き返した雪姫に対し、さらに挑発的な行為を行うヒカリ。

師匠VS娘大戦勃発。

 

「だ、誰が年増だー‼︎

この餓鬼!一度痛い目に遭わないと解らないようだな」

 

「600年生きている年増を年増と言って何が悪いのよ。

私のパパを誑かそうとしたってそうはいかないんだからね!」

 

そう言って俺に抱きつくヒカリ。

 

「あ、ちょっ……当たってる。当たってるし、柔らけぇ……」

 

抱きつかれた俺は、美少女の柔らかい感触とシャンプーの匂いを感じて思わず狼狽してしまう。

そんな俺の態度が気に入らなかったのか雪姫が矛先を俺に変えた。

 

「ほう、貴様はワザワザ助けに来てやった師匠よりも何処の馬の骨だかわからん乳臭い餓鬼の方がいいのか……そうか。なら二人仲良く冥土に送ってやろう」

 

「ちょっ⁉︎

雪姫待って⁉︎

違う、これ違うからー」

 

必死に雪姫を宥める俺だが俺に抱きつくヒカリがさらに雪姫の怒りのガソリンタンクに油を注ぐ行為をしやがった。

 

「パパ暴れないで……もう、仕方ないなあ」

 

微笑んだヒカリがその手を伸ばして俺の頬を両手で挟み______そして。

 

「______ちゅ!」

 

俺の頬を両手で挟んだヒカリが、自身の口で俺の口を封じる行為を行った。

 

「ん、ん、んー、んちゅ、ぬちゅ……」

 

重なり合う唇と唇。

唇を吸われているという行為に訳が解らずに呆然としていた俺をされるがままに口付けをしていた。

やがてその行為はエスカレートしていき、舌と舌が絡み合う行為に変わる。

 

「な、な、何をしておるかー!

貴様らー‼︎」

 

雪姫の絶叫により正気に戻った俺はすぐに離れようともがいたが、俺の頬を挟むヒカリの力はただの少女にしては強く、引き離せられずにいた。

抵抗しようとヒカリの腕を掴んで離そうとしたがヒカリの腕に触れた途端、俺の腕はビシ、ビシという音を立てて固まっていった。

 

これは______石化呪文⁉︎

 

「駄目だよ、パパ。

もう離さないからね……二度と」

 

俺が気づかないうちに石化呪文を発動したヒカリによって俺の身体は指先から腕にかけて石化していった。

 

「ヒカリ、お前は一体……」

 

「パパと同じような存在だよ。

私も転生者なんだよ。

女神の駒。

神の代理人って言えば解るよね?」

 

無邪気な笑顔で笑いながら石化の術を行使していくヒカリ。

事態に気づいた雪姫が断罪の剣でヒカリに襲いかかるが______

 

「もう、邪魔だなー。

せっかくの親子の再会を引き裂こうとするなんて」

 

雪姫の断罪の剣でその身を真っ二つにされながらもヒカリは笑ったまま、笑顔を崩さずに俺の身体を石化させていき、やがて雪姫の魔法剣により完全に引き裂かれた。

俺は雪姫に視線を向けたが雪姫の顔は驚愕した表情を浮かべていた。

視線をヒカリに戻すと。

雪姫に切断された箇所はみるみる再生されて何もなかった、かのように元通りの姿に、彼女の身体は元の状態に戻っていた。

 

「無駄だよ。

今の私は神様の眷属だからね。

死ねない、傷つかない身体になってるから例え真祖の魔法でも死なないよ」

 

「……神呪か。

厄介だな。

アイツと似た力か」

 

雪姫が何やら呟いていたが俺はショックのあまり聞き取れなかった。

 

ヒカリが神の代理人⁉︎

それじゃあ、ヒカリも俺と同じように女神に無理矢理転生させられたのか。

 

「ヒカリ、お前も力を渡されたのか?」

 

「うん、そうだよ」

 

「この石化呪文がそうなのか?」

 

「ううん。これはほんの一部だよ。

パパの力は闇の魔法(マギア・エレベア)なんだよね?

究極の不死転生術の……。

私は神力と一部天使の加護が使えるんだよ。

ねえ、パパ、私と一緒に戦おう。

戦で勝ち進めればママにも会える(・・・)よ」

 

娘の言葉に呆然としながらも俺は状況を飲み込む為に彼女の話しを聞く事にした。

 

「それはどういう意味だ?」

 

「同盟を結ぼうよ」

 

「同盟?」

 

「そう、女神同盟」

 

「お前をこの世界に送った女神は誰なんだ」

 

「知りたい?」

 

「ああ……知りたいな」

 

「なら条件があるの」

 

条件という言葉に嫌な予感を感じつつ、身動きが取れない俺は視線を、雪姫に向けたが雪姫は何やら考え込むような顔をしていた。

周りを見渡してみても雪姫以外、誰も彼もその場から動けないように、完全に静止していた。

______これは?

 

「停止魔法だよ。

禁呪だけどね」

 

時間や空間を停止させるような大規模魔法を無詠唱で発動させただと⁉︎

そんな事、普通の魔法使いには不可能だ。

 

「3日分の『運勢』と『体力』と『魔力』を消費すれば神の眷属なら一日中張れるよ。

張った後はキツイけどね」

 

キツイと言いながらも石化呪文を解く事はせずに部分的にかけたまま、俺をその細腕で抱きしめた。

 

「同盟結んでくれたら石化も解いてあげる。

結ばないならこの辺一体、全て焦土にしちゃうよ〜」

 

ヤバい。

笑顔で言っているが、この子は見た目と違って大変デンジャラスな発想をしている。

親の顔を見てみたい……まあ、前世での父親は俺なんだが。

 

「……解った。

その代わり早く術を解いて周りの人や土地、建物を壊すな」

 

「わ〜い、話しが解るパパ大好き〜」

 

そう俺が答えるとヒカリはパアッと笑顔を輝かせて「じゃあ、解くねー」とあっさり呪文を解除し、ふらつく俺を支えながら隣を歩いて『ひなた荘』の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

話し合いの最中にも、明日菜や雪姫、ヒカリは俺に密着してきて、それが原因でぶつかり合い、何故だかその矛先は俺に向かった。

……理不尽だろ。

それから数時間後。

何故だか、一緒に付いてきたヒカリを伴って学園島に戻った俺達は車輌科(ロジ)のガレージで車を降りるとそこで一時解散をした。

 

ヒカリや小太郎と学園島に帰ってきた俺は、転入手続きの為に教務科(マスターズ)に向かったヒカリや強襲科(アサルト)の蘭豹に呼び出された小太郎と別れて先に寮に戻り______

疲れた俺は寮の部屋の中に入るとダイニングにあるソファーに倒れこんだ。

現在、時刻は午前10時30分。

既に遅刻が確定している時間だが雪姫から、午後の専門科目の授業から出ればいいと遅刻の許可は貰っている俺は少し身体を休めることにした。

あまりのんびりできないが朝っぱらから連戦した為、体力や精神を休めることが必要だと自身にいい聞かせて携帯をテーブルの上に置き、ソファーに横になったまま、瞼を閉じる。

今日は色々あったせいで疲れたな。

特に精神的に。

瞼を閉じると急激に眠気が襲いかかってきて俺の意識は落ちていった。

 

どれくらい時間がたっただろうか、意識を覚ますとテーブルの上から騒がしい音が鳴っている事に気づいた。

手を伸ばしてその元凶を取ると、俺の手の中で喧しく鳴り響く音の原因______携帯電話が着信を知らせていた。

 

鳴り響く携帯の通話ボタンを押してすぐさま出ると______可愛らしいアニメ声が聞こえてきた。

 

『あんた、今どこにいんのよ?

今日は強襲科(アサルト)に行く約束したでしょ。

もうお昼過ぎてるじゃない!午後の専門科目の時間までに強襲科(アサルト)に来なかったら風穴を開けるから!

早く来なさい!』

 

アリアはそう言うと電話を切ってしまった。

聞こえて来るのは『ツー、ツー』と鳴る携帯から聞こえてくる音だけ。

アリアの電話で気づいたが、そういやそんな約束していたなー。

眠い目を擦りソファーに寝そべったまま、携帯の画面を見ると時刻は12時50分を示していた。

 

……は?

12……時……50分?

 

時刻を確認した途端、俺の脳は覚醒した。

 

ヤベエー寝過ごしたー!

 

慌てて俺は制服の上着と鞄を掴んで寮を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

また、来てしまった。

強襲科(アサルト)……通称、『明日無き学科』に。

この学科の卒業生存率は97.1%。

100人に3人弱は、生きてこの学科を卒業できない。

任務を遂行中、または訓練中に死亡しているんだガチでな。

それが強襲科(アサルト)であり、武偵という仕事の暗部だ。

そんな場所に何故俺が来ているのかと言うと桃まん武偵(アリア)に呼び出されたからだ。電話で。

発砲や剣戟が鳴り響く施設の中を歩いていると俺の携帯にメールが来た。

差出人はアリアからだ。

何だかとっても嫌な予感しかしないが開かないと風穴を開けられそうな予感も同時にしたので仕方なく開いて確認してみる。

 

タイトルは『来ないと風穴!』

 

……メール開く気を無くすな、オイ。

 

『今どこにいるの?あたしは強襲科(アサルト)模擬戦(モックB)ルームにいるから早く来なさい!

あんたが魔法なしでどれだけ戦えるか見てみたいわ。

相手にあたしの後輩を用意するから必ず来なさいよ。

来ないと風穴!』

 

一方的に模擬戦の参加を決められていた。

それも相手は後輩だと……俺が断れないようにワザと後輩を相手にしたんだろうが流石にこれにはイラっとくんな。

後輩との模擬戦を断れば、どんな理由があろうと逃げた、と言われるだろう。

そうなれば俺は残りの学校生活を『上勝ちが怖くて逃げた男』と呼ばれ馬鹿にされながら過ごすハメになる。

それは武偵高ではとても不名誉な事だ。

なんとしても避けたい。

だが、メールには俺に魔法を使うなと書いてある。

銃技か、剣術、あるいは体術で俺は上勝ちを阻止しないといけない。

魔法使いに魔法使うなとか、イジメにも等しい指示だが……上等だ!

魔法使い……いや、魔法拳士を舐めんなよ!

こうなれば相手が1年だろうが容赦しねえ‼︎

 

()ってやるよ!」


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