闇の魔法を使える武偵っておかしいか?   作:トナカイさん

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大変お待たせしました。
今回、最長の9000文字です。



装填19最強の名探偵、現る⁉︎

「________初めまして。僕はシャーロック・ホームズだ」

 

突然出現した黒い球体から現れた男は、俺の方に向かって一歩、一歩、歩き始めながらそう言った。

 

______シャーロック・ホームズ。

 

イギリスの英雄。

誰もが認める世界最高の、そして最強の名探偵(Great Detective )

古めかしいデザインのスーツで正装したその身体は、大柄だ。

背丈は180センチほどで、年齢は20歳ほどに見える。

髪はオールバックで整えられており、鼻は高く、顔つきは端正。

しかし、その印象は探偵科(インケスタ)の教科書で見た写真よりも頑健で、手強そうな雰囲気を漂わせている。

 

 

「______もう逢える頃と、推理していたよ」

 

そう告げたシャーロックの発言に、俺の全身は硬直した。

身体だけじゃない、まるで心まで鷲掴みされたみたいだ。

 

なんだ_____この雰囲気は。

カリスマとでもいうのだろうか。

この男の前では誰もがひれ伏せてしまいそうになるほどの、そんな_____格の違いが、伝わってくる。

たった一言発しただけなのに……。

 

「_____卓越した推理は、予知に近づいていく。僕はそれを〈条理予知(コグニス)〉と呼んでいるがね。つまり僕はこれも全て、予め知っていたのだ。

だからミツル君。君が奥の手を使ってクゥィントゥム(5番目)を倒すことも_____推理できていた」

 

まるで全てを見透かしているかのようなそんな瞳で俺を見つめてきたシャーロック。

 

「さて、八神ミツル君。君も僕の事は知っているだろう。いや、こう思う事は傲慢ではない事を理解してほしい。何故なら僕の事は世界中で書籍や映画で取り上げらているだからね。でも、可笑しい事に_____僕は君に、こう言わなければならないのだ。今ここには、僕を紹介してくれる人が一人もいないようだからね」

 

癖なのか回りくどい言い方をしたシャーロックは、そこで一拍おいてから______

 

「では改めて、僕はシャーロック・ホームズだ。

と同時に教育互助組織〈伊・U〉(イ・ウー)のリーダーで教授(プロフェシオン)と呼ばれている者だ」

 

名乗った。

そうだよ。

そうだったな。

やっぱり(・・・・)奴はいやがったよ。

何故『完全なる世界』と手を組んでいるのかは解らないし、奴が何処まで知っているのかも不明だけど……。

この世界に奴がちゃんと存在していることに何故か安心したと同時に奴が精霊魔法を身に付けていないか不安な気持ちになった。奴が言った伊・Uは簡単に言うと能力を持つ者が能力を互いに教えあう場だからな。まあ、何で奴が伊・Uを教育互助組織として名乗ったのかは今は置いとくか。

どう考えても教育組織というより問題児が集まった犯罪者集団なんだけどな。

 

 

「ふむ……予想以上に冷静だね。

もう少し戸惑った様子をみせるかと思ったんだが……君の事は不思議な事に推理できないからね。

君という異分子に直接会えば少しは解ると思ったんだけが僕でも推理できないなんて初めてだよ。

これは刺激を加えなければ変化は現れないかな?

少し確認させてもらおう」

 

刺激?

俺が疑問を述べる前にシャーロックは動いていた。

一瞬の事だった。

シャーロックの姿が忽然と消えたと思った時には俺は地面に横倒しになっていた。

一瞬の出来事で何が起きたのかも全くわからなかった。

 

「ふむ。先程までの力は今はないようだね。

術式(プロ)装填(・アルマティオーネ)と言ったかな?

長い間は装填し続ける事は難しいようだね。

やはり闇の魔法なしだと魔法を使えない竜種とほとんど変わらない強さしかないか……。

なるほど。ということは装填しないとジャンヌ君よりも少し弱いくらいか……」

 

シャーロックは何かを確かめるように一人で呟くと俺の背中を履いているブーツで踏みつけながらさらに俺の首筋に何か冷たい物を押し当てた。

 

「少し予定より速いけど、ミツル君。

君には……これから戦うであろう難敵の技を、「予習」させてあげよう。

なにしろ僕は、古い怨敵と同じ名前_____教授(プロフェシオン)と呼ばれているのだからね」

 

そう言ってシャーロックは俺の首筋に当てた『何か』を一度引っ込めると背を踏んでいた足も退かした。

足を退かれた後は不思議な事に踏まれていた圧迫感や重さを感じなかった。

俺は手に握っていた重力刀をシャーロックに向けて刺突させる勢いで突き出した。

 

_____バチィ、パリーン。

 

突き出した刀はシャーロックの片手の掌で真剣白羽取りの要領で受け止められ、止められると同時に砕け散ってしまった。

《風のアーウェルンクス》相手に効いていた重力剣だが、この男には片手で受け止められた挙句、砕かれる程度の意味のない魔法だった。

未完成とはいえ、オリジナル魔法を簡単に破られたショックと彼が現れた目的に混乱しつつ、俺は彼の鳩尾につま先に魔力を込めた蹴りを放ち立ち上がった。

 

直ぐに立ち上がるとシャーロックから離れる為に飛び退いて距離を空けた。

30メートルほどの距離だが至近距離よりはマシだ。

 

「さあ、見せてごらん。

君の魔法を」

 

シャーロックがそう微笑みながら言うと、彼の周りにはいつの間にか黒い球体が現れ、その中から複数のセグウェイ現れた。

それが自走して迫ってきた。

セグウェイの行き先は、標的は当然俺のようだ。

その数はおよそ30台程だ。

この状況はアリアと出会った、あの時の……。

 

「まずは……『復習』からだよ」

 

考え事をしていたがシャーロックの声で我に還った。

奴が言葉を放った直後、一台のセグウェイが速度を上げて迫ってきた。

俺はシャーロックが放った一台のセグウェイを防弾制服の腰ベルトに装着していたホルスターから抜いた銃で打ち抜いた。

セグウェイは銃座にイスラエルのサブマシンガン『uzi』が備えられていたが弾が当たり銃座は吹き飛んだ。

3発の銃弾が放たれのは想定外だが嬉しい誤算だった。

余った2発の弾丸は破砕したセグウェイの部品に当たり、運がいい事に跳ね返った弾はそのセグウェイのタイヤに直撃してセグウェイは大破した。

3点バーストを標準装備してあるせいか弾が3発もほとんど同時に出てしまったが先行で攻撃してきた一台に確実に当てて破壊させる事ができたので結果オーライだ。

GIIIじゃないけど銃は主武器(メインアーム)じゃないしな。

 

俺が手に持っている銃。

それは______

 

ベレッタM93R。

対テロを想定して造られたモデルで弾数は20発。(通常は15発)

ダブルカラムマガジンと呼ばれる弾倉(マガジン)を使用している為弾数はやや多く、3点バーストも元から撃て、単発しかでない拳銃に火力を上げ、かつ、撃った時の反動によって命中率が変化するものを3発ほど一気に放つのでそれほど射撃においてぶれることはない拳銃だ。

もっとも、秘匿性があまり良くない、銃検の間隔が短い、日本ではほとんど流通してない、本体や専用パーツの相場も高い、世間的な実戦数も少なく信用度は改造銃の92改と変わらないなどの理由で武偵といえあまり使う奴はいないけどな。

 

セグウェイを一台潰す事は出来たがまだ残り29台も残っている。

チラッとシャーロックの方に一瞬、視線を向けるとシャーロックはその場を動かず、俺がどう動くかをじっくり観察していた。

その眼は子供のように好奇心に溢れた眼差しをしていた。

 

あまり手札を見せたくはないんだけどなあ。

 

そんな事を思いながら襲ってきたセグウェイが放つ銃弾の嵐の中を歩法の一つで縮地法と同じ効果を生み出す『瞬動術』と瞬動術の一種で空中ジャンプと空中移動ができる『虚空瞬動』を使って回避していった。

セグウェイが放つのはベレッタで使う9ミリパラべラム弾。

その威力を示すと弾のエネルギーは約450〜500ジュールで音速を超える弾を撃ち出す事ができる程だ。

自動車のドアなら外装を貫通し貫ける。

二枚目(内部)は無理だけどな。

普通に避けようとしたら避けられない。

だが銃口の向き、セグウェイの動きを予測して身体を動かせば躱せる。

機械的な動きで放たれた弾なら尚更な。

 

銃弾を避けてセグウェイの脇を通り過ぎる時に、魔力を纏った手刀を放つ。

銃座を破壊され固定されたUjiは支えが無くなり、次々と地面に落ちていく。

30台のセグウェイを無力化するのにはそれ程苦戦はしなかった。

まあ、当然と言ったら当然だ。

雪姫の魔法の矢や槍と比べたら大したことないからな。

いくら自動走行できようと機械的な動きと人間的に……いや、化物的な動きをする吸血鬼とじゃ差があるしな。

魔法を使うまでもなかったな。

まあ、おかげで無駄な力や装備を消耗しなくて助かったが。

弾代は節約しとくことにこしたことはない。

本命の教授(シャーロック)がまだ残っているしな。

その教授は俺の動きを観察し終えたのか満足そうに「ham……」等と呟き、俺を見つめる瞳を細めた。

その表情は何故か不満そうだ。

 

「どうしてだい?」

 

シャーロックは何故か不満気な顔で聞いてきた。

 

「何がだ?」

 

「何故、魔法を使わないのかね」

 

「あんな程度の玩具に魔法なんて勿体無いだろ」

 

「ふむ。この間は使っていたのにかね?」

 

シャーロックはあの時の様子を知っているみたいだな。

武偵殺し本人から報告を受けたのか。見ていたのか。

いや、違うな。奴なら推理するだけで全てが解るのだろう。

奴の条理予知はかなり厄介な能力だからな。

 

「それも条理予知の力か……」

 

「いやいや、こんなものは推理の基本だよ、ワトソン君」

 

「ワトソンじゃねぇよ‼︎」

 

ボケたのか?

ボケをかますとは余裕だなぁ、シャーロックの奴。

 

「おっと失礼……蜂のマークのゲームメーカーの社員の方だったかな?」

 

アウトー!

 

「そりゃあ、ハ◯ソンだろ!」

 

「冗談だよ……ツッコミ役は大変だね」

 

「誰のせいだと思っているんだ⁉︎」

 

「君がツッコム事は推理していたよ」

 

「いらねぇんだよ。そんな推理」

 

「三年前から解ってたよ」

 

「もう捨てちまえ、そんな能力」

 

シャーロックさん、貴方なんて能力の使い方してんの?

無駄だよ。

事業仕分けの対象になるよ?

 

「てやぁ」

 

突っ込みながらもシャーロックに接近し、魔力を纏って手刀を叩きこむ。

手刀が、手の先が届く距離まで近いたその時。

 

バッ!ババッ!

 

シャーロックが懐から抜いたリボルバー式拳銃で俺の腹部を撃った。

ワルサーp99に通常使われているのは9×19パラベラム弾。

俺が使うベレッタM93Rに使用している弾丸とほとんど同じ物だ。

防弾制服を着ているとはいえ、かなり痛い。

通常、武偵は防弾繊維でできた衣類を身に纏い犯罪者や同業者と戦う。

その為、防弾繊維で出来た衣服を身に纏った相手と戦闘になった場合、拳銃は一撃必殺の刺突武器にはならない。打撃武器(・・・・)なんだ。

まあ、頭部に被弾すれば即死するけどな。

通常弾(9ミリルガー)なら当たりどころさえ気をつければ痛いですむ。

 

痛みを堪え奴を見るとその手には小型拳銃のワルサーp99を握っていた。

ワルサーp99の特長としてフレームが一体成型されている他のポリマーフレーム拳銃と異なり、グリップ後部のバックストラップと呼ばれる部品が交換式となり、使用者の手に合うよう形状を3段階に変更できる。露出した撃鉄を持たないハンマーレス型となっており、目視や指による触感で撃発可能な状態か確認できるよう、スライド後端からストライカーの一部が突き出す構造になっている。装填についても、薬室内に弾薬が装填されるとスライド側面のエキストラクターが動き、後端に赤い印が現れることで目視と接触による確認が可能になっている。

などがあり使い勝手が良い銃の一つだ。

 

「さて、ここまでが『復習』だよ、ミツル君。

そしてこれからが『予習』だよ」

 

奴が持つ銃や強襲してきたセグウェイの残骸を見て分かった。

成る程。

『復習』と『予習』ってそういう事かよ。

これから戦う事になる彼女(・・)の銃と技で俺を抑える……そう言ってたのか。

シャーロックの奴は完全に嘗めてるな。俺の事を。魔法使いを。

いいぜ。好きなだけ嘗めてろ。

その方が付け入る隙ができる。

 

魔法の射手(サギタマギカ)連弾(セリエス)氷の101矢(グラキアーリス)‼︎」

 

俺は瞬動を使い50メートルくらいの距離をとって離れ、氷の魔法で形成された矢を放ったがシャーロックの周りに現れた謎の気体の泡、ゴマ粒みたいなサイズの、小さなシャボン玉に矢が触れた瞬間、大爆発が巻き起こった。

今のシャボン玉には身を覚えがある。

確か……。

 

爆泡(バオパオ)⁉︎」

 

そうだ。

あれは気体爆弾の一種で、シャボン玉が弾けて中身が空気中の酸素と混ざると爆発するものだ。

 

「これは藍幫(ランパン)曹操(ココ)が使う技か」

 

「知っているのかね?君と彼女に面識があるとは驚きだ。それはさすがに僕でも推理できなかったよ。不思議な男だね、君は」

 

シャーロックが驚きの声をあげた。奴にしてみれば接点がない筈の俺とココの間に何かがあるという疑念が生まれた筈だ。実際はただ俺が原作知識でココの技を一方的に知っているだけなんだけどな。

 

「推理したんだよ。貴方のお得意のな」

 

「なるほど……探偵科(インケスタ)Sランクだけの事はあるね」

 

勘違いしてるようだが好都合だ。Sランク武偵だから類稀ない推理力で技の詳細がわかったという事にしとこう。

 

「ふむ。君が使える魔法は光、火、風、闇、氷、重力の6つの属性のようだね。

ん?おや……」

 

シャーロックが何かを探るような視線で俺を見たかと思えば眉を曇らせ、理解できないといった顔で俺を見つめてきた。

 

「精霊の動きが活発化している⁉︎

これは……そうか。どうやら君の事をみくびっていたようだ」

 

シャーロックはそう言って手にした太めの金属製ステッキを持ち上げた。

拳銃ではない……あれは⁉︎

 

「仕込み武器……スクラマサクスか」

 

「ははっ。凄い推理力だ。君には名探偵の素質がある。僕が保証しよう」

 

「……適当だな、あんたも」

 

そんな会話をしながらもお互いの距離を詰めていく。

接近戦は一見不利に思うが奴には条理予知がある。

遠距離攻撃をしかけても躱されるのは目に見えている。

なら接近戦に持ち込んで推理できないくらいの連続攻撃をしかければ効く筈だ。

 

「ハッ‼︎」

 

闇き夜の型(闇モード)を発動させてシャーロックが振り下ろすステッキを魔法障壁でガードしつつ中国拳法の技の一つ、寸勁(すんけい)による掌打を放つ。

寸勁は発勁を短い距離から行うものだ。発勁には比較的長い距離を必要とするものを長勁、短い距離から行うものを短勁と言って距離による区別がある。

 

突き出す自分の拳と相手との距離によって尺勁(長い距離)、寸勁(短い距離)、分勁(極めて近い、ほぼ触れた距離)に分けることもある。具体的に言うと相手から一尺(約30センチ)ほどの距離から突くのを尺勁と呼び、一寸(約3センチ)の距離から突くものを寸勁、さらに短く相手に殆ど触れたような状態から突くものを分勁と呼んでいる。つまり尺勁は長勁に分類され、寸勁・分勁は短勁に分類される。

 

ちなみに発勁(はっけい)とは、中国武術における力の発し方の技術のことで元々中国語には発勁という熟語はないが、発と勁で「激しく力を発する。」という意味ともとれる。楊式太極拳の第三代伝人の楊澄甫の弟子である鄭曼青によれば「左莱蓬老師曰く『力は骨より発し、勁は筋より発する』」と主張している。この論は形意拳大師の郭雲深の『三歩功夫』にも重なる論であるとされている。

 

「ぬ……」

 

「おい嘘、だろ……」

 

拳がシャーロックの腹部に直撃するも入った手ごたえは感じなかった。

硬い障壁に拳が阻まれているのがわかる。

 

「……今のはいい攻撃だったね。

精霊魔法を使えなければかなり危なかったよ」

 

そう言うシャーロックの周りには無数の魔方陣が出現し、幾十にも重なった魔法障壁『曼荼羅魔法障壁』が展開されている。

 

原作でさえ、誰も手がだせなかったシャーロックが精霊魔法という本来なら緋弾のアリアの世界に存在しない筈の魔法を駆使している事を露見させた瞬間だった。

 

 

「驚いたかね」

 

シャーロックの顔を見るとまるでイタズラに成功した子供のような顔をして笑っていた。

 

「3年前になるかな。僕は世界中を旅していたんだけどその時、たまたまウェールズを訪れたのだよ。魔法使いが隠れ住む町という噂と異世界への扉があると聞いてね。

大きなストーンサークルに行った時、そこで出会った白髪の少年とちょっとトラブってね。

彼が使っていた魔法障壁に興味が湧いてね。彼との戦闘を観察してその後、魔法世界から戻った後に僕なりに研究した結果できてしまったのだよ」

 

フェイトォォォォォ______お前の仕業かー‼︎

シャーロック強化の原因があの白髪イケメン野郎にあるなんて。

今度魔法禁止弾を撃ち込んで殴る!そう心に決め、中国拳法を繰り出しながら魔法の呪文詠唱を始める。

 

闇夜(ウーヌス)切り裂く(・フルゴル) 一条の(コンキデンス)(・ノクテム)

(イン)(・メア)手に(・マヌー)宿りて(・エンス) 敵を(イニミークム)喰らえ(・エダット)

白き(フルグラティオー)(・アルビカンス)!!!」

 

稲妻を放射して攻撃できる魔法を中国拳法と組み合わせてゼロ距離から放った。

 

_____バチイィィィッ!

 

_____ギギギギギィィィィィ!

 

電撃系魔法がシャーロックに直撃したがやはり、奴が展開している障壁を破る事はできなかった。

シャーロックがステッキで刺突してきたのでそれを躱し、距離を少し放しかといって距離が離れすぎないように気をつけながら魔法の詠唱を始めた。

 

影の (ロコース)(・ウンブラエ)統ぶる者(・レーグナンス)

スカサハの(スカータク) (イン)(・マヌム)手に(・メアム)授けん(・デット)

三十の(ヤクルム)棘もつ(・ダエモニウム) (クム)しき(・スピーニス)槍を(・トリーギンタ)

     雷の(ヤクラーティオー)投擲(・フルゴーリス)!!!

&……」

 

雷の槍を放ちさらに……

 

「集え氷の精霊 槍もて迅雨となりて 敵を貫け

     氷槍(ヤクラーティオー)弾雨(・グランディニス)!‼︎」

 

多数の氷の槍を飛ばして攻撃を仕掛けた。

雷と氷の槍はシャーロックに向かって勢いよく降り注いだが展開されている多重魔法障壁により放った槍は全て貫通する事なく防がれてしまった。

 

「チッ、硬いな……やっぱ普通の魔法じゃ効かねえか」

 

予想通りだが、状況としてはかなり分が悪い。

魔力はまだまだ余裕があるが闇の魔法はできれば使いたくない。副作用の『魔素』があるからな。使い過ぎた結果負の感情により進行して人外の化物になりたくないしな。

それに……ネギと明日菜がこの場にいるのがせめてもの救いだ。

あの二人なら教授の障壁を破る術を持っているし、俺より遥かに強いからな。

今、俺がすべき事は出来るだけ長く戦って時間を稼ぐ事だ。

無理して勝つ必要はない。

 

「時間稼ぎかね?」

 

シャーロックが手に持つステッキで地面を突きながら俺の方へゆっくりと歩いてきた。

何度もその身に魔法を放たれた筈だが傷一つない。

全て障壁で防いだようだ。

 

「残念ながら助けは来ないよ。彼らは彼の相手で忙しいだろうからね」

 

そう言ったシャーロックが視線を左に向けた。

奴が向けた先を見るとそこにはいつの間にか巨大な龍種が召喚されていた。

 

「なっ⁉︎

ば、馬鹿な、あれは……龍樹(ヴリクショ・ナーガシャ)

 

古龍《エインシェントドラゴン》の一体であちらの世界で帝国を守護している守護獣。

某帝国傭兵剣士いわく友達。(飲み仲間)

巨大な召喚魔方陣が3つ現れ、中から三体の召喚龍が出て暴れだした。

 

「なんや、あれ!」

 

小太郎の声が聞こえ、視線を上に向けると空には巨大な浮遊物が浮かんでいた。

鳥か?

いや、違う。

あれは……。

 

「どうやら免れざる客達も来たようだね。

まさか、富嶽(ふがく)を持ち出すとは……」

 

呆れたような声で呟き、短い溜息を吐くとシャーロックは視線を俺の方に戻した。

 

「僕は出来れば彼女達、いや彼らには渡したくないのだよ。

僕が持つ「緋弾」もアリアが「所持している緋弾」も、そして君達が扱う闇の魔法(マギア・エレベア)もね。

彼女達、鬼はまだ来ないよ。

僕の仲間がお邪魔しているからね。

さて少し講義をするとしようか」

 

そんな事を言いシャーロックは自身が所持している拳銃、アダムズ1872・マークIIIを抜いた。

かつて大英帝国陸軍が使用していた、45口径ダブルアクション拳銃だ。

 

弾倉から奴は一発の銃弾を取り出した。

 

「ミツル君。君は『緋色の研究』は知っているかね?」

 

シャーロックが言ったその言葉なら聞いたことはある。

アーサー・コナンドイル作の小説のタイトルにある有名な推理小説。

 

あらすじは簡単に纏めるとこうだ。

 

医学博士ジョン・H・ワトソンはイギリス軍の軍医としてアフガニスタンの戦場に赴くが、左肩に重傷を負い、イギリスに送還された。為す事もなく過ごしていると、かつて助手をしていた男からシャーロック・ホームズという特異な人物を紹介され、ベーカー街221Bで共同生活を開始する。初対面にもかかわらず、ワトソンが負傷してアフガニスタンから帰ってきたことや、見も知らぬ男の前歴を言い当てたホームズの観察力と推理力は、ワトスンを驚かせる。

 

共同生活を始めて間もなく、ホームズの元にスコットランド・ヤードのグレグスン刑事から殺人事件が発生したとの手紙が届き、ホームズはワトソンを連れて現場に向かう。グレグスンとレストレイド刑事は難事件にお手上げの様子である。殺されていたのは立派な服装の中年男で、イーノック・ドレッバーの名刺を持っており、壁には RACHE (ラッヘ:ドイツ語で復讐の意)と血で書かれた文字があって、女の結婚指輪が落ちていた。

 

シャーロック・ホームズシリーズの第1作目として世界中で有名だ。

もっともそれは元の世界での話で、この世界ではシャーロックとワトソンのパートナーで挑んだ最初の事件として探偵科の教科書に載っている。

 

「ああ。知っている」

 

「そうか。やはり君は知っていたのだね」

 

有名だしな。あの小説は。

 

「なら話は早い。僕が手にしているこれが、『緋弾』だ」

 

シャーロックはそう言って手に持つ銃弾を摘んで見せてきた。

その銃弾は_____血のような、薔薇のような、炎のような_____緋色をしている。

 

「この弾丸が、緋弾なのだよ。いや、形は何でも構わない。日本では緋々色金(ヒヒイロカネ)と呼ばれている……要は、金属なのだからね。近いうちに君達の前に現れる武偵殺しが持つ青い十字架もこれと同じ同族異種の金属を極微量に含むイロカネ合金だ」

 

ん?

あれ?

ひょっとしてシャーロックが言う『緋色の研究』と俺が思った『緋色の研究』って違うんじゃ……。

まあ、いいや。どっちも少しは知ってるしな。

 

「ふーん。で?」

 

「で、とは?」

 

「それと闇の魔法が何か関係あるのか?」

 

「イロカネ合金は例えるなら『超常世界の核物質』で、闇の魔法は『超常世界の異分子』となる。まあ、これはあくまでも僕の考えだから完全ではないけどね」

 

異分子か。

その通りかもな。

俺がいなければ多分二つの世界が融合してこの世界に精霊魔法があるなんていうことにはならなかった筈だしな。

 

「君なら解るだろう。もうすぐ世界を巻き込む大きな戦いが始まる。

その日は近い。そしてその時が来たら僕はいないだろう。

僕の意思を継いだ者が組織を引き継げばいいが、残念ながらこのままでは世界は争いを始めるだろう。

だから僕は育てなければいけないのだよ。

後継者と彼女を護る騎士達をね」

 

騎士?

 

「さて、長い講義は一端終わりだ。

今から試験を受けてもらうよ。

彼女を護れる騎士になれる力を持っているかを見せてくれたまえ!

 

術式装填(プロ・アルマティオーネ)……」

 

そう奴が言った瞬間、奴の身体が黒い焔を纏った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(シム)(・ファブリカートゥス)(・アブ)(・インケンディオー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘……だ……」

 

信じられなかった。否、信じたくなかった。

最強の名探偵と呼ばれるイギリスの大英雄が闇の素質を持っているなんて、な……。

 

 

「ぐっ……!やはりキツイな。

僕はこれでもギリギリだよ。

普通に使えるなんてやはり君は特別な存在なんだね。

キツイが3分は大丈夫だ!

さあ、始めよう。

 

 

第2ラウンドの開始だよ」


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