ハルケギニアの小さな勇者   作:負け狐

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エセ推理なので、細けぇことはいいんだよな精神でお願いします。


その4

「大丈夫よ、アンタは頑張ったわ――違うな。あの娘はもう死んでたの、気にすることでもないのよ――ちょっと冷たい感じがしちゃうかも。わたしの言うことを聞かないからこうなるの、反省しなさい――トドメ刺してどうすんのよ……あー、うー」

 

 翌日。村長の屋敷の二階にある一室、才人に割り当てられた部屋の前で、ルイズはうろうろと行ったり来たりしながらぶつぶつと何かを呟いていた。どうやら彼に何か気の利いた言葉を言おうと考えたものの、良い答えが見つからないらしい。

 そんな彼女を眺めていたキュルケは、ちょっとルイズ、とその背中に声を掛けた。

 

「ひゃう!? って、キュ、キュルケじゃないの。びび、びっくりさせないでよ」

「そんなこと言われてもね。あなたさっきからずっと同じ場所でウロウロしてるんだもの。そりゃぁ、何か言いたくなるわよ」

「う……」

 

 思わず視線を逸らし、そしてそのまま扉を見た。その隔てた向こうでは、落ち込んで暗い顔になっている才人がいる。再び視線をキュルケに戻し、だって、とルイズは述べた。

 そんな彼女を見て、キュルケは困ったように笑う。随分と心配するのね、と言いながら、ルイズの頬をツンツンと突付いた。

 

「ふぁにすんのよ」

「難しい顔してたっていい答えなんか出てこないわよ。こういう時は思った通りに行動するのが案外一番だったりするの」

「……そう、かしら」

「そうよぉ。まあ、後は、そうね」

 

 静かに見守るってのもいいかもね。そう言いながらキュルケはルイズにウィンクを一つ。は、と呆気に取られた顔をした彼女に向かい、だって、と続けた。

 

「サイトは男の子だもの。このくらい、平気よ」

「……男の子、ね」

 

 もう一度扉を見る。ふう、と息を吐くと、行きましょうと踵を返した。そんな彼女を見て、キュルケは頷き笑顔を浮かべる。

 頑張れ、男の子。そんなことを呟きながら、二人は一階へと降りていった。

 

 

 

 

「……なっさけねぇ……」

 

 部屋で体育座りをしながら一人ゆらゆらと揺れているのは平賀才人その人である。頭はある程度冷えてきたが、しかし心は未だ晴れない。こびりついたヘドロのようなものが、こそげ落とせない。

 ルイズ達と共に依頼を受けてきた中で、初めて生物を殺した時も同じようにショックを受けた。だが、それでもすぐにある程度割り切って立ち直ることは出来たのだ。

 だが、それが今は出来ない。少女のゾンビを一体斬った、ただそれだけで、才人は動く気力を無くしてしまったのだ。

 

「ファンタジーってのは、意外と残酷なんだよな……」

 

 軽口を叩いてみるものの、出るのは乾いた笑いばかり。どうしちゃったんだよ俺、と自問自答してみても、答えは全く出てこない。

 否、恐らく彼の中で既に答えは出ているのだ。ただ、それを答えとして認めていいのか迷っているのだ。

 ガチャリ、と扉の開く音がした。顔を上げると、エルザが皿を持って立っているのが視界に入る。ゆっくりと才人のところまで来ると、はい、とその皿を目の前に置いた。

 

「ご飯。食べないと力が出ないよ」

「……ああ、そうだな」

 

 そうは言うものの、才人は一向に皿へ手を伸ばさない。そんな才人をエルザは暫く眺め、ふう、と溜息を吐くと彼の対面に腰を下ろした。

 ねえお兄ちゃん、と静かな口調で述べると、彼と彼女の目の前にある皿を指差した。

 

「この料理に使われた野菜も、肉も、元々は生きてた」

「……?」

「生きてたのを、殺して、食べるの。どうしてだと思う?」

「どうしてって……そりゃ、食べないと、俺達死んじまうし」

 

 いきなりどうしたのだろう。そんなことを思いつつ、しかし他の事を考えて気が紛れたのか、少しだけ口調を戻しながら才人は述べた。

 そんな彼の答えを聞いたエルザは、そうだね、と微笑んだ。食べないと死んじゃうものね、と笑った。そしてそのまま、じゃあ、どうして、と彼女は続ける。

 

「食べないの? 食べないと死んじゃうんでしょ?」

「……」

「ねえ、お兄ちゃんは、死にたいの?」

「そんなわけ、ないだろ」

 

 そうだ、と才人は頷いた。死にたくなんかない、生きるために、殺す。普段目に見えないだけで、そんなことは当たり前だ。それが豚や野菜なのか、少女のゾンビなのかの違いだけ。

 

「いや、大違いだっつの……」

「何が?」

「あー、いや、こっちの話」

 

 才人の言葉にふうん、とエルザは返す。そのまま無言で彼を見詰め続けていた彼女は、しかし、立ち上がり窓まで歩いて行くと、これは私の独り言だけど、と呟いた。

 

「人も、豚も、野菜も、違わないよ」

「……エルザ?」

「吸血鬼にとって、人は豚や野菜と同じ。生きるために、食べるもの」

 

 カーテンが閉められ、陽の光の当たらない窓へと視線を向けたまま、エルザは言葉を紡いでいく。才人の表情を見ずに、続けていく。

 

「同じ姿で、言葉を交わせても。殺せないなんて言っていたら、生きていけない」

「……エルザ」

「だから私は、残さず、綺麗に飲み干すの。その人が、無駄にならないように」

 

 振り向いたエルザは、笑顔。ゆっくりと才人に近付き、そして、その首筋にそっと手を当てた。少しだけ開いた口元から、人間とは違う、鋭い牙が生えているのが彼の目に入る。

 才人はそんなエルザを見て、どこか困ったように笑った。エルザって、吸血鬼だったんだな、と雰囲気にそぐわぬ間抜けな言葉が口をつく。

 

「……怖がらないんだ」

「いや、まあ、エルザだし。それに」

「それに?」

 

 元気付けようとしてくれたんだろ? そう言って苦笑を笑顔に変えると、ありがとうなと才人は彼女の頭を撫でた。そのあまりにも動じない彼の態度に、当の本人が思わず固まってしまうほどだ。

 

「私の話、聞いてた?」

「おう、バッチリだ。そうだな、皆に心配掛けちゃったな」

「話噛み合ってない!」

「あ、そうだ。ちゃんと飯食べないと。無駄にならないように」

「違う! いや違わないけど、でも違う……」

「やっぱり、そうだよな……迷ってたら、死んじまうもんな」

 

 皿の上のパンを取る。それを思い切り齧ると、隣にあったサラダを頬張った。強烈な苦味が口内に広がり、思わず目を見開く。が、そのまま飲み込むと、二口三口と食べ続けた。

 

「……美味い。美味いなぁ……」

「そっか……良かったね、お兄ちゃん」

 

 一心不乱に食べ続ける才人を見ながら、エルザはどこか嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 一階に降りると、ルイズが遅い、と才人を怒鳴った。そんな彼女に向かいごめんと素直に謝ると、彼はそのまま椅子へと座った。その隣には、ルイズ達から離れるように距離を置いたエルザが座る。

 エルザがいるのを見た三人は少しだけ首を傾げたが、まあいいやとお互いに向き直った。どこまで話したっけ? とルイズが問うと、犯人の目星よ、とキュルケが述べる。

 

「へ? 犯人分かったのか?」

「いや、とりあえずこの事件を起こしたのは人間、それもメイジだってことくらいよ」

「メイジ? 何で?」

 

 才人がそう問い掛けると、考えてもみなさいなとキュルケが人差し指をクルクルと回す。あのゾンビ、魔法で動いていたでしょう、と。

 

「いや、俺はその辺よく分かんなかったけど、そうなのか?」

「……あれは『水』の魔法で無理矢理死体を操っていた」

「へー。んでも、それが人間の仕業だってのは、何で?」

「一度に複数を動かすと精度が落ちていた。先住魔法なら、そんなことはない」

 

 成程、と才人は頷く。とりあえず犯人の目星がついたのは分かった。そう反芻すると、それで結局犯人は誰なんだという疑問に行き着くわけで。

 

「それが分かったら苦労しないわよ。アンタが斬った女の子の遺体も村長が有無を言わさず埋葬しに行っちゃったし……」

「しょうがないわよ。吸血鬼に襲われた遺体が動いてくるなんて、村の人にとっては屍人鬼みたいな――」

 

 そこまで言いかけたキュルケが言葉を止めた。何か今の会話に引っ掛かりがあったのだ。だが、それが何かが分からない。一体何を自分は気にしたのか。彼女らしからぬ乱暴に頭を掻きながら、どうにか答えを導き出そうと必死に考える。

 と、そんな折、ドンドンと乱暴に扉を叩く音が聞こえ、皆は一斉にそちらを向いた。村長は先程ルイズが言ったように現在留守。となると、中にいる者が相手をするしかない。

 しょうがないな、と溜息を吐きながらルイズは扉を開けた。途端、村の男衆が雪崩れ込むように侵入してくる。各々に武器になりそうな物を持っており、どう考えても相談や酒盛りに来たようには見えなかった。

 どうしたのよ、とルイズが村人の一人に尋ねる。すると、男は怒りの形相で持っていた鍬を彼女に突き付けこう言った。

 吸血鬼を始末しに来た、と。

 

「は? 吸血鬼? 誰が?」

 

 この空気は覚えがある。あの時、村の外れで松明を持っていた連中が纏っていたものと同じだ。そんなことを考えつつ、ルイズは視線をキュルケとタバサにちらりと向けた。

 男達は叫ぶ。最初の犠牲者、十二歳ほどの少女を屍人鬼にした吸血鬼エルザは、その小さな体を使って煙突から忍び込み幾人もの村人の血を吸ったのだと。

 

「な、何言ってんだよお前等。てか、そんな話を誰から」

 

 才人の言葉に反応した男の一人が、アレクサンドルが教えてくれたと彼に述べた。証拠を確かめに村長に会いに行くと、確かにその通りだと少女の死体を見せてくれたのだとか。

 そこまでの会話を静かに聞いていたタバサは、そういうことかと一人呟いた。同じくアレクサンドルの名前が出た時点で怪訝な顔を浮かべていたキュルケも、程なく同じ結論に辿り着く。

 そしてもう一人。若干首を傾げていたピンクブロンドの魔法剣士は、合点が行ったとばかりに手を叩くと、その表情を般若へと変えた。

 

「そういうことか! あのクソババァァ!」

「……あの、ご主人様、もうちょい貴族らしい、てか女の子らしい言葉遣いしてくんないかな」

「無駄だ小僧、諦めろ」

 

 はぁ、と剣の癖に達観した溜息を吐くデルフリンガーを抜き放つと、ルイズは目の前の村人達にそれを向けた。どけ、さもなくば痛い目を見る。そう言い放つと、迷うこと無く足を踏み出す。

 さっさと吸血鬼をこちらに渡せ、と一人の男がルイズに持っていた武器を向けた。瞬間、その鋤は輪切りにされて床にバラバラと落ち、男の衣服がちぎれ飛ぶ。ひっ、と短い悲鳴を上げた男に向かい、次は首だ、と彼女は静かに言い放った。

 

「綺麗に人波が割れたわね」

「村人の洗脳を恐怖で上書きした」

「洗脳?」

「道すがら話す。それより」

 

 ちらりとタバサはエルザを見る。日陰から動かない彼女を眺め、ルイズ、とズンズン先に行こうとしている悪友の名を呼んだ。

 振り向いたルイズは、エルザを見て成程、と頷く。纏っていたマントを取り払い、それをエルザに向かって放り投げた。

 

「さる大貴族の特注品よ。被ってれば日光程度余裕で防げるわ」

「……ありがとう」

 

 彼女にとって少々大きいそれを外套のように纏い、エルザは才人の隣に立つ。

 それを若干生暖かい目で見るキュルケに違うと全力で手を振りながら、いいから行こうぜと才人は叫んだ。

 村長の家を飛び出す。そのまま真っ直ぐに目的地へと、村の外れのあばら家へと足を運んだ。

 

「で、どういうことなんだ?」

 

 道中、まだいまいち分かっていない才人が皆に問い掛ける。ルイズはタバサに視線を向け、タバサは面倒だからとばかりにキュルケに視線を向けた。やれやれ、と肩を竦めたキュルケは、まず大前提として、と話し出す。

 

「吸血鬼の事件なんか起こってなかったの」

「え?」

 

 それに反応したのはエルザだ。目を見開き、そして暫し考えるように視線を巡らせると、そういうことだったのかと呟いた。

 勿論才人は分かっていない。

 

「この事件の犯人はね、まず村人を洗脳したの。最初は多分簡単な暗示。ここで起きている事件は吸血鬼の仕業だっていう程度かしらね」

「……それが成功したら、次は実際に犠牲者を作る。多分、暗示で気付かない内に犯人を招き入れていたのだと思う」

 

 キュルケの説明に、タバサが付け加えた。そして出来た犠牲者をゾンビにして動かしていけば、完成、と続けると、視線をついとルイズに向ける。

 

「前任者も同じように罠に嵌めて殺したんでしょう。で、ゾンビメイジとして戦力強化、と。腐ってやがるわね」

「な、なあ。で、何であの婆さんが犯人になるんだ?」

 

 ここまでの説明を聞いてもそこに辿りつけなかった才人は、恐る恐る手を挙げて尋ねた。三人の視線が突き刺さり、同時に溜息が聞こえる。へーへーどうせ俺は馬鹿ですよ、と若干涙目で天を仰いだ。

 

「アレクサンドルが教えてくれた、って言ってたでしょ? 村の人と彼は凄く仲が悪いの。そんな人の話を信じて、私を吸血鬼だって断定するはずがない」

「あ、あー、そっか。え? でも、村人洗脳されてたんだろ? 向こうだって洗脳されてるって場合も」

「向こうも被害者なら、わざわざ私を攻めずにあっちを直接攻撃させればいいでしょ? 事件解決さあ帰れって追い出す大義名分になるもの」

「それにねサイト、洗脳っていっても、完全に人の心を操ることなんか出来ないのよ。それこそ御禁制の薬でも使わない限り。そして、村全体にそれを使うにはメリットがなさ過ぎる」

「そもそも! 杜撰なのよこの犯人! 夜にあんな集団で襲い掛かってきたら怪しいに決まってんじゃない! 馬鹿なの!?」

「……つまり、今まではそこまで細かいことを考えなくても上手く行ってたから調子に乗っちゃって、俺達にバレた、と」

「多分、それが妥当」

 

 よく分かりました、と才人は頭を下げた。よろしい、と満足そうに頷くと、じゃあさっさと退治しましょうかとルイズはデルフリンガーを掲げる。

 視界に見えてきたあばら家に向かって、その剣を真っ直ぐに向けた。

 

「突撃!」

 

 

 

 

 何だあんたら、と言うアレクサンドルの鳩尾に拳を叩き込んで黙らせたルイズは、あばら家の扉を強引に開いた。ベッドの上では一人の老婆が怯えたように毛布を被っているのが見える。

 が、ルイズが見ていたのはそこではない。ボロボロの床に残っている黒い染み、それを見付けた彼女はニヤリと笑った。

 

「あらお婆さん。それ、どうしたのかしら?」

 

 え、と老婆はルイズの指差す場所を見る。これがどうかしましたか、と聞き返すと、まあ大したことではないですよと彼女は笑った。

 

「昨日のメイジのゾンビの修理を、そこで行ったんだなぁ、って」

 

 何の話ですか、と老婆は首を傾げる。そこの染みですよ、とルイズは指差したまま笑顔を崩さない。首と腕を繋げたんですもの、やっぱり血が沢山流れたのね。そう続けて、後ろにいる皆に同意を求めるように顔を向けた。

 老婆は答える。何を言っているんですか、ゾンビは血なんか無いですから、と。

 

「あ」

「あら」

「……ふぅ」

「成程、馬鹿だこの婆さん」

 

 そこでようやく老婆は自分が余計なことを口走ったのに気付いたらしい。しまった、と思った時にはもう遅い。ルイズと才人は剣を、キュルケとタバサは杖を。それぞれ構え、いつでも捕縛出来るように臨戦態勢を取っている。

 舌打ちが聞こえた。寝たきりで怯えていた老婆の面影はどこにもなく、しっかりと二本足で立ち上がった犯人は、隠し持っていた杖を振り呪文を唱える。

 瞬間、あばら家が炎に包まれた。

 

「ゾンビメイジの仕業!? それとも」

「ちょ、これマズいぞルイズ!」

「ボロ屋だから簡単に燃え広がっちゃう!」

「……出番」

 

 待ってましたと言わんばかりにタバサが自身の杖を振るった。彼女を中心に生まれた氷の竜巻は、燃え広がる炎をあっという間に吹き飛ばしてしまう。どうだ、と言わんばかりに杖を掲げるタバサを、一行は流石と褒め称えた。

 

「って、犯人!」

 

 炎に紛れて老婆は既に逃げ出していた。『フライ』の呪文で距離を取り、足止めとばかりに持っていた宝石を放り投げる。パリン、という石の砕ける音と共に、昨晩現れたゾンビが土の下から這い出てきた。その中には首と腕を繋ぎ直された前任者の姿も見える。

 八人のゾンビはそれぞれの得物を構え、老婆を捕縛せんとしている四人に向かって襲い掛かった。

 だが、しかし。

 

「邪魔!」

 

 一番の戦力であるはずのメイジのゾンビは、怒りに任せたルイズの剣閃により八つ裂きにされた。バラバラと人のパーツだったものが地面に落ちる。

 

「せめて、安らかにね」

「ゆっくり、眠って」

 

 少女のゾンビは、キュルケの炎とタバサの氷で次々に始末されていった。縫い止められ、燃やされ、灰になっていく少女だったのものは、風に吹かれてサラサラと舞っていく。

 

「ごめんな。俺、もう決めたんだ」

 

 そして才人も、残った少女のゾンビを一刀のもとに斬り伏せていた。生きていれば快活であっただろう少女の体は、縦に寸断され左右に分かれて地面に倒れる。

 所詮は死体。彼女達の障害になど、なりはしないのだ。

 表情を青ざめた老婆は、急いでこの場から離脱しなくてはと呪文を唱える。スピードを上げ、この連中が追い付けない場所までいかなくてはと杖を振る。

 

「――枝よ。伸びし木々の枝よ。あの老婆の腕を、掴み給え」

 

 その直前、木から突然伸びた枝が老婆の体に絡み付き、持っていた杖を叩き落としてしまった。空中で『フライ』の呪文の効果を失った老婆は落下を始め、しかしやはり伸びてきた枝に掴まれそのまま地面に降ろされる。

 身動きの取れなくなった老婆の目の前に、金髪の少女がゆっくりと近付いてきた。マントを外套代わりに被って全身を覆い、その口元に鋭い牙を生やしながら。

 ゾンビ共を始末したルイズ達も老婆の場所まで駆け寄る。だが、そんな彼女達を、一足先に辿り着いていたエルザが手で遮った。

 

「ねえ、お願いがあるの」

 

 この人、私に頂戴。そう言って、エルザは微笑んだ。一体老婆をどうするのか、などと聞く者はおらず、全員が思わず息を呑む。

 暫しの沈黙の後、ルイズはやれやれと息を吐いた。そして、ねえ才人、と自身の弟子で使い魔の名を呼ぶ。

 

「アンタが決めて。わたし達はそれに従うわ」

「……あの婆さんは、悪人で、死ななきゃどうしようもない奴か?」

「そうね、そういう奴よ」

「そうか。なあエルザ」

 

 残さず、綺麗に飲み干せよ。

 才人のその言葉に、エルザは当たり前だよ、と笑顔を見せた。




多分次がこのエピソードのエピローグ。

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