ハルケギニアの小さな勇者   作:負け狐

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原作の流れは諦めました。

ゼロの使い魔らしさも諦めかけています。


勇者の休日≒魔王の祝日
その1


 はぁ、と酒場の一角で盛大に溜息を吐く一人の少女。そんな彼女に、酒場の給仕の少女が苦笑しながら追加のエールと料理を出し、店長らしき色々と怪しい格好をした男性が笑顔で声を掛けている。

 どうやら顔見知りらしく、出された料理を一口食べながら少女は仕方ないでしょうと男性に述べた。

 

「ただでさえ最近出席日数怪しかったのに、半月アルビオンで内乱に参加して……。まあ理由も理由だから留年は避けられたんだけど」

「なら、どうしてそんな?」

 

 男性の言葉に、少女はだってスカロンさん、と返す。あの人がわざわざ完全免除を補習ありに変えやがったんだから。そう続けながらエールを煽った。

 

「おかげで夏季休暇が一週間も潰れちゃって。帰るタイミング逃しちゃったのよ」

「あはは。でもダメよフランちゃん、多少遅くなっても、ご両親に顔を見せてあげなきゃ」

「それは、そうなんだけど」

 

 スカロンの言葉にフランと呼ばれた少女はバツの悪そうな顔で視線を逸らした。それを見たスカロンは、ああこれは別の理由があるなと察し、それならば仕方ないかと肩を竦めた。ジェシカ、と給仕の少女へ向き直ると、フランの方を見ながらウィンクをした。それで理解したのか、ジェシカも了解と笑い頷く。

 

「はい、追加」

「頼んでないわよ。そもそも昼間からお酒を追加したらわたしダメ人間じゃないの」

「違うの?」

「違う! そりゃぁ学院の宝物庫の修理代姫さまに肩代わりしてもらったおかげでお金もなくて個人じゃ家に帰れないけど……」

「ダメ人間じゃん」

 

 やれやれ、とジェシカが肩を竦める。カウンターでは同じようにスカロンが苦笑していた。まあそこまで深刻な理由でなくてよかった、そんなことを思いつつ、しかしそれは手助け出来ないなと頬を掻く。

 この店で働いてもらい金を稼ぐという手もあるにはあるが、目の前の彼女の場合それをやるくらいならオーク鬼を十頭なり二十頭なり討伐して報酬をもらう方がよほど早い。今はここで管を巻いているが、その内その方向に落ち着くであろうと結論付け、まあいいかとスカロンは思考を切り替えた。

 と、そこに来客を告げるように羽扉が開く音が鳴った。ん、とスカロンがそこに視線を向けると、太った貴族の中年男性が一人。ジェシカが一瞬顔を顰めたのを視界に入れつつ、スカロンはようこそいらっしゃいましたと男に笑みを浮かべた。

 男はそんなスカロンを見て、ジェシカを見やる。おほん、と咳払いを一つすると、髭を手でいじりながら口を開いた。

 

「流石の『魅惑の妖精亭』も、昼間は人もおらんか。ハッハッハ、ならば仕方ない、この徴税官であるチュレンヌが格安割引で料理の一つでもいただいてやろ――」

 

 言いながら店を見渡していたチュレンヌは、そこで一人の客と目があった。先程までスカロンやジェシカと話しており、二人にダメ人間認定されたピンクブロンドの少女。

 その名は――

 

「ふ、フランソワーズ!? 何故こんなところで昼食を食べているのだ!?」

「いや、わたし割とここでお昼食べてますからねチュレンヌ徴税官」

 

 チェレンヌに何かとんでもない魔獣でも見るような目で見られたフランソワーズ――ルイズは、溜息を吐きながら残っていた鶏皮を口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

「それで、何故ここで昼食を?」

 

 何故かルイズの向かいのテーブルに座りながら今日のランチを食べ始めたチュレンヌは彼女にそう問い掛ける。対するルイズは、さっき言ったではないかと眉を顰めた。

 尚、料金はきっちり通常価格を取られていた。

 

「違う。今魔法学院は夏休みであろう? 余程の事情がない限りは帰郷をしているものなのでは?」

「……余程の事情があるんですよ」

 

 ぶす、と不貞腐れながらルイズはチュレンヌにそう返した。その彼女の表情で何かを悟ったのか、チェレンヌもそうかの一言で話を切り上げ食事を再開する。

 が、半分程食べ終わった時点で彼は再びルイズに視線を向けた。

 

「ちなみにトリステイン貴族の生徒の大半はその余程の事情が金欠だと聞いているが」

「金欠ですよ! 悪いか!」

「いや、悪くはないのだが……君が金欠かね?」

 

 やかましい、と一言叫んでからルイズは改めて事情を語る。そういえばそんな話が上から降りてきていたなと思い出しながら、チュレンヌは彼女の話に相槌を打った。そうしながら、何故金策を行わないのか、それを不思議に思った彼は再度尋ねた。

 近場にそういう依頼がなかった。ガクリと頭を垂れながらルイズはそう返す。普段であれば彼女の仲間達の力で遠方でもそれほど問題はないのだが、現在の戦力は彼女と使い魔のみ。こと戦闘であれば充分ではあるが、移動やその他諸々の部分でどうしようもないほど問題があった。

 

「フランちゃん……」

「いや違うんですスカロンさん。お金! お金が無いからなの! 馬とか馬車とか使うんじゃ意味が無いからっていうことなの!」

「そもそも足代すらないって……」

「そんな目で見るのは止めなさいジェシカぁ!」

 

 まあそんな父親が見たら泣くような娘の現状は置いておいて、とチュレンヌはそれならば丁度いいものがあるとルイズに述べた。え、と三人が同時に彼の方に向くのを確認してから、ニヤリとその表情を悪い笑顔に変える。元々の顔付き、体型も相まって、実に小悪党らしかった。

 

「最近、トリステインとアルビオン、そしてガリアの連携が強化されているのは周知のことだが」

「まあそりゃぁほぼ全部わたしが関わってますからね」

 

 言いながら食べ終わった食器を横にどけ頬杖を突く。ガリアの蒼の双王、アルビオンの白の聖女、今現在そう呼ばれている人物達を思い出し、そして自身の君主を思い出した。

 今度黒の魔王とでも呼んでやろうか。高笑いを上げるアンリエッタを思考から追い出しながら、ルイズはそんなことを思う。

 

「その関係上、お互いの国の行き来を簡単にしようという動きがある。その一環としてトリステインでもガリアやアルビオンの友好街ともいうべき新たな一角が出来ておる」

「そういえばそんな話を聞いたなぁ」

 

 そこで台頭したカフェなる店に酒場の売上が脅かされている。そのことを思い出しジェシカは顔を顰めた。友好による発展は、必ずしもいいことをもたらしてばかりではないのだ。

 それで、それがどうかしたのか。ルイズはジェシカをちらりと見た後そうチュレンヌに問い掛けた。一体全体何が丁度いいのか今の前置きではさっぱり分からない。精々自分の巻き込まれたことが大規模だったことを改めて実感したくらいだ。

 

「うむ。……実はな、そこに賭博場がある」

「あらあら」

「それはまた……」

「へぇ」

 

 スカロンとジェシカは呆れたように肩を竦め、ルイズは少しだけ興味深そうに頷いた。

 賭博自体は別段禁止されているわけではない。大っぴらに大金を巻き上げるようなものは流石に取り潰されるが、ある程度の節度をもったものならばと万人に浸透もしていた。が、わざわざこの会話で出すからには、そんな普通のものではないのはほぼ間違いない。だからこそのスカロンとジェシカの態度であり、ルイズの反応なのである。

 

「表向きは普通の酒場で、通常の賭博場があるが、裏ではこっそりと膨大な金額を賭けて行う裏カジノがあるそうなのだ」

「トリステインとガリアとアルビオンの友好街でそんなことを?」

 

 スカロンのもっともな疑問にチュレンヌは友好街だからこそだろうと口角を上げた。そんな場所だからこそ盲点なのだ。そして、そんな場所だからこそ、三国の貴族がこぞって金を落とすのだ。

 そこまで述べ、さてではどうすると彼はルイズを見た。元々この話の出発点は彼女がお金が無いというところにある。そして、だからこそ彼は膨大な金が動く場所を伝えた。

 よし、とルイズが立ち上がる。懐から取り出した金貨袋の中身を確認すると、少しだけ悩むような仕草を取った。まあ勝てばいいだけの話よね。そんな物凄く不穏な台詞が三人の耳に届く。

 

「チュレンヌ徴税官。その賭博場、教えて頂戴」

 

 ルイズの目は、何だかやたらギラギラしていた。

 

 

 

 

 いらっしゃいませ。そう述べようとした『魅惑の妖精』亭の少女達は、幽鬼のような表情を浮かべるピンクブロンドの剣士を見て言葉を止めた。ひぃ、と誰かが悲鳴を上げるのを皮切りに、波が引くように入り口から人がいなくなる。

 何事だ、とその様子を見にやって来たスカロンは、その人物の姿を視界に入れると溜息を吐いた。まあそうなると思っていた、と。

 

「……フランちゃん、負けたのね」

「違うわ。あれは絶対、絶対、ぜぜぜぜ絶っ対! 何か不正してる!」

「あたしは百パーセントフランに賭博の才能が無いだけだと思う」

 

 同じくやってきたジェシカの言葉に、スカロンと少女達はうんうんと頷いた。が、何だとこら、と言わんばかりのルイズの眼光に揃って目を逸らしブンブンと首を横に降り始める。

 

「こらこらフランちゃん。駄目じゃない妖精ちゃん達をいじめちゃ」

「別に何もしてないわよ」

 

 ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向くルイズを見て、仕方ないなとスカロンは肩を竦める。まあとりあえず何か飲んでいくんでしょう、と彼女に笑顔を向けると、適当に開いている席に案内する。しようとする。

 が、ルイズはその言葉を聞いてピシリと固まった。あはは、と渇いた笑いを浮かべながら、えーっと、と頬を掻いて視線をあちらこちらに泳がせる。

 

「……まさか、全財産スッたの?」

「ち、ちちちち違うわよ! 全部じゃないわ!」

「じゃあ、何でそんな」

「……食事したら、宿代が……」

 

 無言でジェシカはルイズの肩を叩いた。皆まで言うな、そう表情だけで述べると、店の端にあるテーブルまで引っ張っていく。まかないだからサービスだ、そんなことを言いながら、彼女はテーブルの上に食事を並べた。

 ルイズは無言でそれを食べる。ときおり肩を震わせているのは怒りか、それとも悲しみか。ともあれ、何だかんだでペロリとそれを平らげた彼女は、ああもう、と叫びながら立ち上がりスカロンへと近付いた。

 

「ちょっと軍資金稼ぐから制服貸して頂戴!」

「……明日もやる気なのね」

 

 これはもうダメかもしれない。そんなことを思いつつスカロンはルイズの提案を飲み更衣室へと案内した。

 暫しの後、『魅惑の妖精』亭に新たな妖精が一人、現れる。笑みを浮かべながら適当なお客に料理を運び、ワインを注いだ。他の連中より胸が無いじゃないか、と騒ぐ酔っぱらいをにこやかに昏倒させつつ、新たな妖精はほいほいと無駄に手際よく仕事を行う。

 ジェシカはそんなルイズを見て溜息を吐いた。チップは貰えていないようだが、とりあえず問題も起こしていない。それで済んでくれるのならばまあいいのだが、と思いつつ自身は器用に立ち回りチップを頂いていく。

 そうこうしている間にルイズも段々と店に溶け込み、ジェシカの監視も少しずつゆるやかになっていった。まあ流石にそうそう問題も起こさないだろう。そう結論付けたジェシカは普段通りの立ち回りに戻る。

 が、少しして彼女は奇妙なことに気付いた。ルイズが、どうも客を選り好みして給仕をしているのである。軍資金を稼ぐ、と言った割には、どうも金回りの良くない相手にわざわざ声を掛けているのだ。

 どういうことだ、とこっそり仕事をしながらルイズの近くに近付いたジェシカは、そこで客と彼女の会話を耳にして目を見開いた。賭博、イカサマ、そして裏カジノ。

 

「成程。やっぱりあそこは不正をしているのね」

 

 そう言いながら頷くルイズに、酔っぱらいはそうだその通りと机を叩く。分かってくれるか嬢ちゃん、という彼の言葉に、勿論と物凄く力強く彼女は頷いた。そのまるで実体験でもしたかのような感情移入に、酔っぱらいは感極まってルイズの手を握り締める。ちょっと痛いわ、という言葉に慌てて手を離し、男はチップと追加注文を行った。

 こっそりとジェシカはその場を離れる。最後のチップはまあどうでもいいが、問題はその前のやり取りである。大分沼の深い場所まで浸かっているのではないか。そんな心配が彼女の頭をもたげた。

 とはいえ、今の彼女では何も出来ない。賭博をやめろと言って素直に聞くような性格ならば最初から悩んでいないのだ。せめて他にフランの仲間達がいれば、そんなことを思いつつジェシカは一人溜息を吐く。

 いらっしゃいませ。という言葉で思考を切り替えたジェシカは入り口に目を向けた。魔法学院の制服を着ている金髪の少年と、この辺りでは見ない不思議な格好をしている黒髪の少年。直接面識があるわけではないが、どちらも見覚えがある。従姉から聞いている学院の準問題児と、そして。

 

「ぶっ!? 何してんだよルイズ!?」

「何って、資金稼ぎよ資金稼ぎ」

「……僕が言うのもなんだが、そこまでお金に困っていたのかい?」

「ちょっと訳有りなのよ。後サイト、わたしはフランソワーズよ。はい復唱」

「あー、っと。ごめんフラン」

「よろしい」

 

 じゃあ注文何にする、とにこやかに尋ねるルイズに向かい、才人とギーシュはお薦めを頼む。了解、と振り返り歩いて行くその姿を、男二人はじっと見詰めていた。

 視線は若干背中より下を、ルイズの足から少し上を向いているのは言うまでもない。

 

「なあサイト」

「何だよギーシュ」

「……来て良かっただろう?」

「……ああ、そうだな」

 

 真顔でそう述べるとお互いに強く手を握り合う。そうした後は他の少女達を見ながらあの娘はどうだの向こうの娘がいいだのと思春期の男子丸出しの会話をしながら二人は料理を食べ、酒を飲んでいた。

 そんな男共をじっと見ていたジェシカにどうしたのかと声が掛かる。ああごめん、とその少女に謝った彼女は、少しだけ躊躇うように目を伏せた。一人にさせるのはどう考えても駄目だが、しかしアレで大丈夫なのだろうか。そんな不安が拭えなかったのだ。

 だがしかし。恐らくここを逃したらきっと彼女は単身で再び突撃し、そして玉砕して戻ってくるのだろうことは想像に難くない。否、ひょっとしたらもう戻ってこれなくなってしまうかもしれない。それだけは避けなくてはいけないのだ。

 

「ちょっと、いい?」

 

 え、と才人とギーシュは顔を向けた。そして、顔立ちのいい少女を見て少しだけ鼻を伸ばす。こほんと咳払いし表情を戻したギーシュが、何の用かなと彼女に尋ねた。

 ジェシカはクスリと微笑むと、貴方達はフランの友達でしょうと述べる。まあそうだね、と頷くのを確認した彼女は、なら少しお願いがあると言葉を続けた。

 

「実はあの娘、今賭博にはまってて」

「……何してんのうちのご主人」

「僕は、まあ、ノーコメントで」

 

 言葉はそんな感じではあったが、しかしその実心から心配しているのが見て取れたジェシカは笑みを強くさせる。噂通りの人物像で間違いない。これなら多分、問題ない。

 そんなことを思いつつ、彼女はその『お願い』を述べる。やって欲しいことを伝える。

 

「あの娘のお目付け、お願い出来ないかな?」

 

 二人を、特に才人に重点を置きつつ、ジェシカはそう言って可愛らしく小首を傾げた。




多分ギーシュの出番はこれで終了。

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