ハルケギニアの小さな勇者   作:負け狐

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才人の出番をことごとくルイズが奪う未来しか見えない。


その2

「よし、さっぱり分からない」

「セリフパクられた!?」

 

 さて次は才人のターン。自分は地球の日本からやってきましたという説明をして首を傾げられた後、異世界がどうたらとか扉を開いたのだとか自身の持つファンタジー知識を交えながら状況の説明をしたのだが。

 それを聞き終えたルイズ嬢の言葉がこれである。

 

「当たり前じゃない。異世界? チキュウ? ニホン? 聞いたことも無いわよそんなの」

「んー。こっちってそういう異世界冒険物語とかそういうの流行ってないのか」

 

 ジェネレーションギャップというやつか。そんなことを思いながら才人は肩を竦めた。そんな彼の態度がルイズは少し癪に障る。貴族がとか使い魔がとかそういうわけではなく、単純にバカにされている感に腹が立ったのだ。

 とりあえず何かを言ってやろうと彼女は口を開きかけたが、それを遮るように才人がまあ仕方ないと話を打ち切ってしまった。おかげで彼女の矛先を向けるべき場所は立ち消え、不完全燃焼の気持ちだけが残る。

 

「何が仕方ないってのよ!」

「え? いや、分かんないもんはしょうがないだろ。今んとこ信じなくても別に何か問題があるわけでもないし。とりあえずは妄想家のホラ吹き男で構わねぇよ」

「何よその自分は分かってますと言わんばかりの態度。さっきまでのアンタだって似たようなもんだったじゃない!」

「まあな。んじゃお相子ってことで」

「納得いかない!」

「えー。どうしろってんだよもう」

 

 どうすればいいのか。そう問われると確かにどうしていいのか分からないが、しかしルイズには一つだけ譲れないものがあった。どうしても曲げられないものがあった。自分が納得しないものは終わらせられない。それがルイズの行動理念であった。

 早い話が、ただの負けず嫌いである。

 

「わたしの部屋に行くわよ! しっかりとアンタのその国のこと話してもらうんだから!」

「いや、まあ、構わんけど」

「何よ。さっきまでの色々動じなかった態度はどうしたのよ」

「俺ってそんな態度だったのかよ」

 

 自分では普通だったつもりだったのに、と若干凹む才人を尻目に、ルイズはいいから何を気にしているのだと更に詰め寄る。至近距離になったことで若い少女の甘い香りが鼻腔をひくつかせたが、ここで表情を崩すとまずいことになりそうだったので彼は自重した。そのまま、とりあえずあそこ、と指を差す。

 ん? と彼女が振り返った先には見知った赤毛と青い髪の二人の少女が。片方は満面の笑み、もう片方は分かりにくいもののその口角は上げられていた。無論、二人のその表情が侮蔑や嘲笑といった負の感情でないことは向けられているルイズが一番良く知っている。知っているが、しかし。

 現在の心境と喚び出した使い魔との会話で、彼女は大分いらついていた。

 

「あぁ? 何しに来たのよアンタ等、ひょっとしてわたしを馬鹿に? いいわよその喧嘩買った!」

「……貴族ってこんなんだっけ?」

 

 先程からの会話と今の啖呵を聞いた才人は思わずそう呟くが、生憎と彼のその疑問に答えてくれる者はこの場にいない。やってきた二人、キュルケとタバサはまあそれでもいいけれどなどと言いながらルイズをからかうのに夢中だからだ。

 どうやら三人の会話はあれが普通らしく、彼の心配を他所に剣呑な空気などなく話は進んでいく。そして、それぞれの目が才人へと向けられた。

 

「中々いい男じゃない?」

「弱そう」

「ミスタ・コルベールも言ってたけど、火メイジ受けする顔なのかしら? 後タバサの言葉には全面同意ね」

 

 各々好き勝手な事を言いながら、簡単に自己紹介を行った。長いからキュルケでいい、事情があるからタバサと呼べ、そんな二人の言葉に頷き、じゃあ自分も才人と呼んでくれと彼は返す。

 そうしてお互いのことをある程度話した後は、先程中断されていた部分へと戻るわけで。

 

「で? 異世界のチキュウとかいう場所のニホンのサイトは、一体どういう生活をしていたのかわたし達に教えてくれるのよね?」

「結局やるのかよ」

「当然じゃない」

「それはあたし達も加わっていいのよね?」

「断っても無理矢理加わる」

「いいわよ。むしろ二人の見解を聞きたいくらいだもの」

「うわぁ、マジっすか……」

 

 異世界召喚ファンタジーでの最初の壁、自分の世界について話す。これを実際にやるとどれだけ大変か、それをこの晩才人は嫌というほど味わったのであった。

 深夜遅くまで説明を続け、揃って適当な場所で雑魚寝をするうら若き乙女三人を眺めつつ才人は溜息を吐く。こんなことならもっとこの手の小説を読み漁っておくんだった、という斜め上の後悔をしながら。

 

 

 

 

 

 

 陽の光で目が覚めた。体を起こすと、目の前に少女の寝顔が映る。うお、と思わず飛び起き、そして昨日のことを思い出すと頭を掻きながら床に腰を下ろした。そういえば召喚されたんだった、と。それだけで済ませてしまう豪の者、平賀才人は再び立ち上がると固まっていた体を伸ばし、改めて部屋を見渡す。どうやら眠っているのは三人の内一人、キュルケと呼ばれていた少女だけらしく、残り二人はどこかに行ったのか姿が見えない。

 彼女を起こして居場所を聞くのも悪いと思った才人は、ゆっくりと部屋を出て、廊下を歩く。

 

「ここで忘れちゃいけないのがマッピングだよな」

 

 ポケットに入っていたメモ帳とボールペンで部屋番号と簡単な寮の地図を描きながら、才人は外に出て澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込んだ。ちなみに何故そんなものを持っていたのかというと、突然ペンションで殺人事件が起きても困らないようにという割と頭の沸いた理由である。当然彼の友人は口を揃えて備えるところが間違っていると返した。

 そんなものが役に立つのだから人生分からないものである。

 

「ん?」

 

 そんな彼の耳に、何かの音が届いた。風切音のような、あるいは激突音のような。所謂戦闘音と呼ばれるそれを耳にした才人は、誘われるようにふらふらとその方向に足を向けた。好奇心は猫を殺す、そんな言葉は彼の辞書に存在しない。

 開けた場所で、一人の剣士が舞っていた。ピンクブロンドの髪を靡かせながら、自身の身の丈程もありそうな大剣を軽々と振り回し縦横無尽に動く様は、その少女の可憐さも相まって一種の芸術とも言えるほどであった。事実、それを目にした才人は動きを止め、ただひたすらに見惚れてしまっている。

 そのまま暫く剣舞を続けていた少女は、視線に気付くと動きを止めた。ヒュン、と剣を一振りすると、あらサイトおはようと笑みを見せる。

 

「あ、ああ、おはようルイズさん。あ、いや、ご主人様?」

 

 魔法が解けたように我に返った才人がしどろもどろに挨拶をするのを見たルイズはクスクスと笑い、別にルイズでいいわよと返す。その魅力的な表情に目を奪われた彼は、少し照れくさくなって視線を逸らした。

 そんな状態のまま、ところで何をやってたんだと彼は続ける。

 

「日課よ。朝はこうやって体動かさないと鈍っちゃうのよね」

「へぇ。……ん? 確か昨日ここは魔法学院だって」

「そうよ。ここの生徒はメイジ。学ぶのは勿論魔法」

 

 だからこれは学院の生徒としては必要のない技術。そう続けながら彼女は近くの木にもたれかかった。そして、どうせ分かることだから言っておこうと彼女は述べる。

 

「わたしは魔法がほとんど、いえ、全く使えないわ。出来ることは精々呪文を失敗して爆発させることだけ」

 

 それは充分強力なんじゃないんだろうか、という才人の言葉は寸でのところで飲み込んだ。

 

「まあ相手を攻撃するにはかなり有用だから重宝してるんだけど」

「俺の空気読もうとした努力返せよ」

「ふふっ。まあとにかく、貴族として、メイジとしては落ちこぼれなのよ」

 

 だから、別のことを極めようと思った。言葉にはしていないが、多分そんなようなことを言いたかったのだろう。そう才人は判断した。実際、先程見た剣舞は素人目に見ても素晴らしいと思える動きであった。自分と同じくらいの年齢の少女があの域に到達するのにどれだけの修練が必要なのか、それを考えると、彼の中に彼女に対する尊敬の念が少しずつ芽生えるのを感じた。

 

「昨日言ったでしょ? 使い魔の仕事はほとんど必要ないって。あれ、こういうことなのよ。メイジらしいこと碌に出来ないから」

「……じゃあ」

 

 そう言って笑うルイズを見て、才人は思わず口を開いていた。自分でも気付かないうちに、こう言っていた。

 せめて、身を守る手助けくらいはさせてくれ、と。

 

「あら、一端の騎士気取り?」

「……そんなとこさ。異世界に来たんだから、それくらいはやらなきゃ男が廃る」

 

 ふぅん、とルイズは目を細める。それじゃあちょっとテストをしようかしら。そう言うと、傍らに置いてあった袋から木剣を取り出した。はい、とそれを才人に投げてよこすと、自分も同じように木剣を取り出し肩に担ぐ。背中に背負っていた大剣は鞘ごと取り外すと投げ捨てた。

 

「ちょ! 相棒、扱い荒いぞ」

「いいからいいから。ちょっと見てなさい」

 

 かちゃかちゃと鍔を鳴らして喋る剣を見た才人は何かに感動したように目を輝かせ、しかし気を取り直すと再びルイズの方へと向き直った。

 テストをする、と彼女は言った。剣を渡し、お互いに武器を構えるということはつまりそういうことだ。理解をした才人は木剣を握りしめ、剣道の授業で習ったように正眼に構えた。

 瞬間、左手のルーンが光り、彼の中に様々な情報が流れ込んでくる。剣士としての動き、戦い方、それらを一瞬にして体で理解した才人は、思わず目を見開き、そして笑った。同時に身体能力が跳ね上がっているのを感じ取った。

 

「ルイズ」

「どうしたの?」

「油断してると、怪我するぜ」

「するわけないでしょ」

 

 なんてことないようにそう述べるルイズへと、才人は剣を構えたまま踏み込んだ。

 

 

 

 

 朝食を済ませ、授業へと向かうルイズの傍らには、いつもの面々であるキュルケとタバサがいる。そしてその後ろでは使い魔となった才人が頭に包帯を巻いた状態で付き添っていた。

 

「あははははっ! それであっさりやられちゃったの?」

 

 言いながらキュルケが後ろの才人に視線を向ける。バツの悪そうな表情で彼はそこから顔を逸らした。

 タバサも口にはしていないものの、キュルケと同じ感想を持ったらしく、やれやれと肩を竦めているのが彼の目に入った。

 

「まあ、でも悪くなかったのよ。多分その辺のメイジなら余裕で倒せるくらいには強かったわ」

「あら、そうなの? へぇ」

「意外」

 

 ちょっとだけ見直したようなその声に、才人は胸を撫で下ろす。更に追加でボロクソに言われたら流石に折れてしまうと思っていたからだ。

 

「磨けば光るわね。案外いい拾い物したかも」

「へぇ。じゃあ」

「今は無理ね。せめてもう少し強くなってもらわないと」

 

 上げて、落とす。お手本のようなその言葉を聞いた才人は再び肩を落とした。ファンタジーは自分に厳しい、そんなことを呟きながら溜息を零す。まあ評価はしてくれているのだからよしとしよう、そう前向きに考えると、彼は朝の戦いを思い返した。

 ルーンの効果で力を得た才人は、その身体能力を充分に発揮して一気に間合いを詰めた。ルイズが後に評したように、ハルケギニアの一般的なメイジでは反応出来ないほどの速さのそれは、的確に相手の意識を刈り取るために振るわれていた。

 が、生憎と彼の相手をしているのは一般的なメイジではない。体を少しずらすことでその一撃を躱すと、踏み込みや斬撃の鋭さとは比べ物にならないほどお粗末な残心の体勢を取っていた才人に向かい容赦無い一撃を叩き込んだ。誤解無きように言っておくが、容赦はなくとも手加減はしっかりとしてあった。そのくらいの気配りは当然出来る女なのだ、ルイズという少女は。

 そうした結果、あっさりと地に叩き伏せられた才人は潰れたカエルのように情けない声を上げて蹲ることとなったのだ。意識を飛ばさなかったのはせめてもの意地といったところであろう。

 はぁ、と才人は溜息を吐く。武器を持った途端に湧き上がる力。これこそ選ばれし勇者の力だと興奮していた才人にとって、この敗北は冷水を浴びせられるには充分であった。だがそれでも彼はへこたれない。勇者だって最初はレベル一からスタートするのだから、そう自分に言い聞かせ、凹んだ心を立て直した。先程ちょっとだけ持ち上げられたのも意外と大きい。

 

「ねえサイト」

「ん?」

「修業、してみない?」

 

 唐突に自身の主人から浴びせられたその言葉に思わず目を瞬かせる。そしてその意味を噛みしめると、右の拳を力強く握りこんだ。

 望むところだ。そう言いながらその拳を前に突き出す。そんな気合の入った言葉を聞いたルイズは、よろしい、と満足そうに笑みを浮かべた。じゃあ早速、と背中に背負っていた大剣を取り外すと、彼の前に差し出す。

 

「へ?」

「まずは、基礎ね。そこのデルフリンガーが色々教えてくれるわ」

 

 ルイズの言葉に応えるようにカタカタと剣の鍔が揺れ、そこから豪快な笑い声が響く。朝も見た光景であり、彼女と剣がお互いを相棒と言っていたのも覚えている。まあつまりそういうことなのだろう、と判断した才人はコクリと頷き、デルフリンガーを受け取るとルイズがやっていたように背中へと装備した。

 その最中彼が剣を持った際にルーンが反応し淡く光る。そしてそれに反応したデルフリンガーが素っ頓狂な声を上げた。

 

「相棒! こいつ『使い手』だ!」

「え? アンタが時々言ってた伝説の剣士とかいうホラ話?」

「ああ、確か千人を一人で打ち倒したとか言う酔っぱらいの戯言みたいな」

「眉唾」

「嘘じゃねぇよ! ほら、こいつ、こいつがそうなんだって!」

 

 カタカタ鍔を鳴らしながら必死にそう叫ぶデルフリンガーであったが、当の三人は全く信じていない。言われた才人ですら、本当かよ、と訝しげな表情を浮かべるほどだ。

 

「だって、もしサイトがそうだったのなら、わたしは二千人くらい倒せることになるわ」

「うっ……」

 

 剣である身で器用にうめいたデルフリンガーは、まあそうなんだけどよ、とバツの悪そうな声で呟いた。うんうんとキュルケとタバサ、ついでに才人も頷いている。

 そんな四人の態度を見たデルフリンガーは押し黙った。そして暫しの沈黙の後、分かった、と低い声で言葉を紡ぐ。

 

「証明してやる。見てろよ相棒。俺はこの小僧を伝説の剣士に仕立てあげてみせるからな!」

「へぇ、それは楽しみね」

「俺の意見ガン無視っすね」

「そうだな……まずは今日中に相棒に一撃入れられるように鍛える!」

「……面白いこと言うわね」

 

 す、とルイズの目付きが変わるのを才人は見逃さなかった。あれは猛獣が狩る獲物を見付けた時の眼だ、と何となく本能で察した彼は、これから起こることを想像し思わず顔を青くする。

 しかし、それも一瞬。元々修業を受けると言った身、これはかえってチャンスではないかと思い直したのだ。よし、と頬を叩いて気合を入れると、背中の剣に向かって声を掛けた。これからよろしく、と。

 

「おお、やる気じゃねーか小僧」

「まあな。毒を食らわば皿まで、ってやつさ」

 

 そう述べ、よしじゃあまずは何だ、と尋ねた才人に返ってきた言葉は一つ。彼の気合を根本からポッキリと折ってしまう言葉が一つ。

 授業なんだから、教室に向かうに決まっているじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 授業にてこの世界の魔法の仕組みを知るという異世界ファンタジーイベント(才人談)を済まし、昼食を終えた四人と一振りは朝ルイズが鍛錬をしていた広場までやってきていた。校舎から離れたここは生徒達の姿は無く、暴れるのにはうってつけだとルイズが口角を上げていたのは才人の記憶に新しい。

 

「で、まず何をやればいいんだ?」

「何って、決まってんだろ? 手っ取り早く強くなるには」

 

 実戦あるのみ。そう言って背中の剣はカタカタと笑った。は、と絶句している才人の眼前では、まあそうでしょうねと頷いているキュルケとタバサの姿も見える。

 視線を少し横にずらした。ペロリ、と可愛らしい舌を出しながら唇を湿らせている少女の目は、どこまでも加虐に満ちていた。

 

「る、ルイズ! ルイズさん! ルイズ様! ご主人様! 俺普通の修業でも――」

「え? 修業は基本実戦よ」

「詰んだぁ!」

 

 オーマイゴッド、と天を仰いで叫ぶ才人を見ながら、ルイズは朝も使っていた木剣を肩に担ぐ。大丈夫よ、そんな言葉を発しながら、優しげな声色で彼にこう述べた。聖母のような笑みを浮かべながらこうのたまった。

 

「タバサがいれば、骨の一本や二本簡単に治せるもの」

「首でもオッケー」

「死んじゃうから! 首の骨折れたら死んじゃうから!」

 

 必死に叫びながら、しかし逃げるという選択肢は取らずに才人は涙目で木剣を構えた。そんな彼の姿を見て、少しだけ感心したようにキュルケが息を吐く。意外と根性は据わってるのね。そんな感想を抱きつつ、さてどうなるかと二人の動向を眺めた。

 

「さ、来なさい」

「ああもうヤケだよ行くぞこんちくしょー!」

 

 情けない叫びとは裏腹に、才人の動きは鋭かった。朝は直線的であったその踏み込みは相手の死角へと回りこむような動きへと変わり、繰り出す斬撃は一撃必殺の大振りから相手の動向を感じ取れる細かいものへと変化している。デルフリンガーから少しアドバイスを受けただけでここまで対応出来るようになったそんな彼の姿を見て、ルイズは楽しそうに笑った。

 

「何笑ってんだよ!」

「あながち、伝説の剣士ってのも嘘じゃないかも、って思ったのよ」

 

 言いながら繰り出される斬撃を自身の得物でいなす。手首を返し、少し強く弾くようにしたその行動で出来た空間に、彼女は素早く斬撃を放った。

 がら空きとなっていた胴へとその一撃は叩き込まれ、『く』の字に体を曲げた才人はそのまま宙を舞う。一瞬意識が飛んでいたこともあり、受け身を取ること無く地面へと倒れ伏した。幸いだったのが、この場所が石畳ではなく芝生だったことだろう。

 

「かはっ……」

 

 それでも、ただの高校生である才人が許容出来るダメージかといえば、答えは否。視界はチカチカと点滅し、攻撃を受けた胴と地面に激突した背中はズキズキと痛む。喧嘩であれば勝負あり、といったところであろう。

 

「終わりかしら?」

 

 ルイズは涼しい顔でそう述べる。息も切らせず、何でもないようなその態度を見て、才人は少しだけ恐怖を感じた。ああ、そうだ。ファンタジーなんだから、当たり前じゃないか。死と隣合わせなのは、当たり前じゃないか。間違っているようでそうでもない彼独自の思考で現状を納得すると、口を大きく開きゆっくりと息を吸った。

 そのままゆっくりと吸った息を吐き出すと、点滅していた視界を元に戻した才人は立ち上がる。取り落とした木剣を拾い、もう一度構えて真っ直ぐに相手を見る。

 

「まだ、まだ……!」

「上等。それでこそわたしの使い魔よ」

 

 裂帛の気合を込め再び挑んでくる才人を見ながら、ルイズはそう言って嬉しそうに微笑んだ。

 




ガンダールヴより強い主人(cv釘宮)。

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