ハルケギニアの小さな勇者   作:負け狐

18 / 185
怒涛の勢いで収束に向かわないクライマックス。


その5

 盛大な溜息を吐き、そして頭痛を抑えるように額に手を置く。そのまま暫く動きを止めていたウェールズは、ゆっくりと顔を上げた。ルイズを見て、キュルケを見て、タバサを見て、そして再びルイズに視線を戻す。

 

「……君達は、トリステイン魔法学院の生徒で友人同士。アンリエッタとも交友があり、そのため今回の使者となった。……で、いいのかい?」

「あーっと、はい、まあそんな感じです」

 

 実際の依頼はウェールズの誘拐なので大分違うのだが、わざわざ藪をつついて蛇を出す必要もないとルイズは曖昧に笑った。そもそも服装からしてワルド以外はとても使者とはいえない恰好なのだが、どうやらこれまでのインパクトによりそこを気にする余裕は無くなっているようである。

 完全に納得しているわけではないが、とりあえず分かったと頷いたウェールズは、彼女達に話の続きを促した。元々状況の説明をして欲しいという話であったことを思い出したのだ。

 が、当のルイズは続きが一体何なのか分からず首を傾げている。

 

「ルイズ、ルイズ、ウェールズ王子に今の俺達の状況の説明」

「え? あ! あ、はい! えーっと、状況ですね。状況、状況」

「落ち着きなさいよ……」

「駄目かもしれない」

「大丈夫だ。ルイズ、僕がついているのだから」

 

 ワルドを除く三人は駄目かもしれないと諦めかけたが、予想に反して彼女は深呼吸を一つするとゆっくりとこれまでの経緯を語り始めた。同盟締結を兼ねてウェールズ皇太子を一時トリステインに招致するという建前でここまできたこと。ジェームズ一世に書状を渡した際、アンリエッタの策略によりレコン・キスタの誘拐犯を装う羽目になったこと。こちらの戦力を使い真犯人を作り上げたので、それらを撃退して一件落着をでっち上げること。

 

「というわけで、殿下にご協力お願いしたいのですが……殿下?」

「……ああ、大丈夫だ。気にしないでくれ」

 

 腹部を押さえながらよろめく姿はどう見ても大丈夫ではなかったが、本人がそう言っている以上何かを言うことも出来ず、しょうがないとルイズは話を続ける。

 

「ああ、待ってくれ。その前に一つ聞きたいことがあるんだ」

「何でしょうか」

「アンリエッタは……本当は私をどうする気だい?」

「……姫さまは、その、殿下を」

 

 ちらりとルイズはキュルケ達を見た。しょうがない、と肩を竦めるのが見えて、分かったと言わんばかりに彼女は溜息を吐く。

 そして、ワルドが一人訝しげな表情を浮かべている最中、ルイズはウェールズへの返答を行った。

 

「殿下をトリステインまで攫って、婚儀を行うつもりです」

「……あ、ああ。そうか。アンリエッタは、僕と……」

 

 愛しい相手の行動に喜んでいいのか、無茶苦茶な行動を嘆くべきなのか。どちらかに感情を振ることが出来ず、ウェールズは泣き笑いのような表情を浮かべながら再び腹部を押さえた。

 

「あら、子爵様は案外驚かないのね」

「……この状況から考えれば予想は付くからね。はぁ……振り回される僕達はいい迷惑さ」

「だったらホントにレコン・キスタ行っちまえばいいんじゃねぇの?」

「馬鹿なことを。ルイズと袂を分かつくらいなら自害して果てるさ」

 

 迷いなくそう言い切ったワルドを見て、才人は少しだけ感心したように彼を見た。が、認めるのは癪なのですぐに顔を背ける。その先に見えたウェールズの青い顔を見て、この人本当に大丈夫だろうかと心配になったりしたのだが。

 それは彼の主も同様のようで、その眉尻を下げながらおずおずと彼に言葉を紡いだ。

 

「殿下。あの……ご無礼かもしれませんが、一つお聞きしたいことが」

「……何だい?」

「本当に姫さまでいいんですか?」

 

 ウェールズのような美男子ならば、他にも引く手数多であろう。見た目は極上だがそれ以外がどうしようもないアンリエッタの婿になる必要などないのではないか。幼い頃からの付き合いであるルイズは余計にそう思ったのだ。

 が、ウェールズはその青い顔をゆっくりと縦に振る。他の誰でもない、アンリエッタがいいのだと頷く。

 

「彼女の性格は充分知っているさ。だから、無茶苦茶やっているようでも、本当は他人を思いやる心優しい人だというのも知っている。……僕は、そんなアンリエッタを愛しているんだよ」

「殿下……」

 

 愛を語るにはいささか顔が青白過ぎやしないかと思わないでもなかったが、今ここでそこを突くのは確実に無粋なので誰も何も言わなかった。

 代わりに、ではこちらの手筈を進めてもよろしいでしょうかとルイズが彼に問い掛ける。ああ、というウェールズの言葉を聞き、彼女は視線を後ろにいた一行へと向けた。

 

「よっし。じゃあみんな、ここからが正念場よ」

 

 気合入れなさい、というルイズに、皆それぞれの得物を取り出し応と答えた。

 

 

 

 

 

 

 報告します、とジェームズ一世の前に兵士が傅く。先程の誘拐犯のことで状況に変化があったらしい。そう伝えると、兵士は一つ一つ思い出すように言葉を紡いだ。

 曰く、ワルド子爵の偽物が犯人であった。曰く、背後に控えていたメイジ三人と剣士一人は犯人とは無関係であり、本物の子爵を探し出し次第こちらの協力者となった。曰く、偽物達レコン・キスタの誘拐犯はウェールズ皇太子の護衛を行っていた協力者達と遭遇、戦闘を開始した。

 現在はウェールズ本人も無事であり、彼の護衛を行っていた者達は協力者達の援護に専念することを伝えると、兵士は一礼をし退室していった。

 話を聞いていたジェームズ一世は己を恥じた。この現状を見抜けなかった自身はそろそろ引退かもしれぬと自嘲すると、城全体を犯人捕縛の為駆け回っている兵士達に伝令を飛ばした。城から犯人が逃げ出さぬよう警戒しろ、と。

 

「……まあ、そんなところじゃないかな」

 

 報告に向かわせた兵士が戻ってくる前に大体の予想としてそう述べると、とりあえずこれで問題無いとウェールズは笑みを見せた。その言葉を聞き、一行も少しだけ安堵の溜息を零す。これで後はやることは一つ。

 城の天守から暴れまわる事の出来る広い場所へと移動したルイズ達とウェールズ、おまけで護衛の兵士達は、そこで対峙する四人の仮面のメイジに視線を向けた。待っていたとばかりに仮面のメイジは杖を抜き放ち、ルイズ達へとそれを突き付ける。

 

「え、っと。私達はここで見ていればいいのかな?」

「はい。後はこちらで適当にでっち上げます」

 

 ウェールズの言葉にそう返すと、ルイズは持っていたデルフリンガーを肩に担ぐ。足に力を込め、一足飛びに仮面のメイジへと飛び込むと、その大剣を横薙ぎに振るった。

 一箇所にいた仮面のメイジが各々バラバラの方向に飛ぶ。それを追い掛けるように、キュルケとタバサ、そして才人が駆け出した。

 

「ワルド子爵、君は参加しないのかい?」

「はい。『遍在』は四体ですので、今回のところは殿下と同じく応援と相成りますな」

「ふむ。……その、彼女達の実力はどうなのかな? 子爵は風のスクウェア、手加減するとしてもある程度の実力が必要だと思うのだが」

 

 ウェールズの質問に、ワルドは薄く笑う。ご心配なく、と言いながら、彼の婚約者へと視線を向けた。

 

「彼女達は、この私が本気で戦っても尚お釣りが来る実力者にてございます」

 

 ほう、と驚いたようなウェールズの目の前で、それを証明するような光景が繰り広げられる。

 キュルケの火球と仮面のメイジの風の槌がぶつかり合い、弾けた。それを見逃さぬと一気に間合いを詰めた仮面のメイジであったが、杖を前に向け笑っているキュルケを見て思わず動きが鈍る。誘い込まれた、と思ったがもう遅い。回避に行動を変化させることは叶わない以上、攻撃を行うことで防御の代わりにせんと彼女と同じように杖を突き出した。

 仮面のメイジ、『遍在』が唱えたのは『エア・ニードル』。杖に回転する風を纏わせ鋭利な切っ先に変える呪文だ。対するキュルケが唱えた呪文は『ブレイド』。本来ならば杖に使用者が唱えた属性の刃を作り出すものであったが、しかし。

 

「ルイズ達は、アンタの見た目にお似合いだ、とか言うのよねぇ」

 

 するりと、まるで鞭のようにしなやかに杖から伸びた炎は、『遍在』の杖を『エア・ニードル』ごと巻き取り、両断した。同時に、炎の余波で体勢を崩した相手に向かってキュルケはその鞭を振るう。小気味いい音と共に弾き飛ばされた『遍在』は、そのまま城の外壁にぶつかって消え去った。

 ふう、と一息吐いたキュルケは視線を横のタバサに向ける。風同士のぶつかり合いは互角の様相を成していたが、二つの竜巻が混ざり合い巨大になっているその中にわざと突っ込んだタバサの行動により、その均衡は一気に崩れ去った。

 紙のように舞い上がるタバサだが、しかしその体には傷一つ付いてはいない。流れに逆らわず、風の刃をすり抜け、余計な呪文を唱えること無く一気に『遍在』の頭上を取った。

 

「たまには、わたしも派手にやりたい」

 

 くるりと空中で回転すると、彼女の持っていた大きな杖を両手で構えた。その両端に魔力が集まっていき、それぞれ異なった属性の力が紡ぎ出されていく。

 片方は風、彼女を空中に運んだそれと遜色ない竜巻が、相手を蹂躙する。片方は氷、相手を凍て付かせる猛烈な吹雪が、それと合わさりさらなるうねりを生み出す。

 広場の一角を覆い尽くすような『アイス・ストーム』は、その中心に閉じ込められた『遍在』を一つの氷の彫刻へと作り替えていた。仕上げ、とタバサはその彫刻を自身の杖でフルスイングする。細かい氷の礫となった『遍在』は、風に溶けるように消え去った。

 後は、とキュルケと顔を見合わせルイズへ視線を向けた。『遍在』の放つ呪文を当たり前のように軌道を読んで躱すと、持っていたデルフリンガーを思い切り振るう。真っ直ぐに振り下ろすだけの単純な一撃であったが、だからこそその威力は折り紙付きで。

 杖に呪文を纏わせ強化していたそれごと、彼女は『遍在』を断ち切った。何かを払うように剣を振り、手首を回し大剣を背中の鞘に仕舞う。遅れて真っ二つになった『遍在』がさらさらと消えていった。

 

「……成程、子爵の言う通りだ。アンリエッタが彼女達に無茶を言うのも分かる気がするよ」

「ははは。私としてはああもあっさり倒されると少々自信を無くしますがね」

 

 ウェールズにそう返しながらも、ワルドは視線を一箇所から動かさない。それはキュルケでもタバサでも、彼の婚約者であるルイズでもなく。

 最後に残った一人、才人をただじっと睨んでいた。

 

「彼女達はともかく、貴様はここで無様な姿を晒してもらうぞ」

「子爵? 何か言ったかね?」

「いえ、何も」

 

 振り向き、笑顔でそう返したワルドは、その表情のまま才人を再度見る。見て、笑みを凍り付かせた。

 『遍在』の左腕が、才人の剣により断ち切られていた。無表情の仮面が、焦るようにたたらを踏み、右手の杖から呪文を放つ。船の上ではいとも簡単に吹き飛ばしていたはずのそれは、目標に当たらず大地を抉った。

 

「あん時は揺れてたからな。しっかりとした地面ならこのくらいは!」

 

 才人の叫びに呼応するように左手のルーンが光る。格下に見ていた相手の予想外の動きに戸惑っている『遍在』の懐に潜り込むと、その左側に回るように剣を振るった。脇腹が深く切り裂かれ、『遍在』の体勢がぐらりと崩れる。それを逃さんと彼はもう一度横薙ぎに剣を振りぬいた。今度こそ胴を断ち切られた『遍在』は、霞のようにぼやけて消える。

 

「は! どんなもんだ髭野郎!」

 

 驚愕に目を見開いているワルドに向い、才人は誇るように剣を向けた。調子に乗って笑い声を上げた。だから、これで一勝一敗だと笑いながら続ける彼は、ワルドの目が据わっていくのに気付かない。ただならぬ気配に眉を顰めるウェールズに気付かない。

 どうしたのかね、とウェールズはワルドに声を掛けた。それに大丈夫です、と短く返した彼は、大きく息を吐き、そして吐く。

 瞬間、一足飛びに間合いを詰めると軍杖を抜き放ち才人へと斬り掛かった。

 

「子爵!?」

「おおなんということだ、どうやら僕は洗脳されていたらしい。というわけだ使い魔、死ねぇ!」

「大人気ねぇにも程があんだろ髭面ぁ!」

 

 それを剣で受け止めた才人は、全力で目の前の男に向かって悪態を吐いた。

 

 

 

 

「ちょっと、え? 何やってるのよあの人!?」

「馬鹿なの?」

 

 キュルケとタバサは突如才人と決闘を始めたワルドを見て目を丸くさせた。『遍在』との戦闘も終わり、これで一件落着と行くはずであったところにこれである。ようやく終わったと思っていた二人は、完全にやる気を無くして溜息を吐いた。

 どうするのよあれ、とキュルケは残った一人に問う。完全に呆れた顔で二人を眺めているルイズに問い掛ける。

 

「なんなのよ……もう」

「止めないの?」

「……もう、好きにすればいいんじゃないかしら」

 

 知るか、と言い捨てると彼女はウェールズのいる場所まで歩き出した。そのまま今回の事態が収束したことを伝え、アンリエッタの願い通りこちらに来て欲しいと彼に述べる。

 ウェールズはそんなルイズに分かったと頷き、しかし、と疲れたような顔で言葉を続けた。

 

「あの二人は、いいのかい?」

「多分死なないので、もういいです」

「……成程、確かに君はアンリエッタの友人だ」

「いくら殿下でも言って良い事と悪い事があります」

「……申し訳ない」

 

 殺気すら篭っていたようなその言葉に、ウェールズは素直に謝罪をする。コホン、と咳払いを一つすると、ルイズと同じように二人の戦闘へと目を向けた。

 矢張り本物、というべきか。ワルドの剣技は『遍在』より数段鋭いものであった。受け損ねた才人の肩に軍杖が打ち据えられ、彼は盛大に吹き飛んだ。船の上の焼き増しではないか、とそんな才人を見てワルドは笑う。

 

「ナメんな! さっきの『遍在』だかなんだかってのと同じようにぶった斬ってやる」

「ふん。やれるものなら……やってみろ!」

 

 杖の切っ先が向けられる。瞬時に呪文詠唱を終えたワルドは、才人に向かい次々と呪文を打ち込んだ。風の塊が目の前の相手を吹き飛ばし蹂躙せんと唸りを上げるが、しかし才人は烈帛の気合と共にそれを躱しきった。ルイズのように回避と攻撃を同時に行うことは出来ないようであったが、その動き自体はワルドの意表を突くには充分であった。

 

「なんだと!?」

「これでもルイズの弟子やってんでね。さっきも言ったぞ、ナメんな!」

「……それは、こっちの台詞だ!」

 

 一瞬の隙を突いて懐に飛び込んだ才人は、持っていた剣を全力で振り被る。左手のルーンが更に強く光り輝き、その一撃に力を加えた。彼は知らぬことであるが、左手のルーン『ガンダールヴ』は心の震えで力を増す。今の才人は正に、心を強く震わせている最中であった。

 だがしかしワルドも負けてはいない。常人では反応出来ないそのタイミングにも拘らず杖に『ブレイド』の呪文を掛け、威力を増したそれで迎え撃った。彼の力により最大限まで攻撃力を引き上げられた軍杖は、ルーンにより力を増した才人の一撃と盛大にぶつかり合う。

 剣と剣。お互いの意地と意地。そして。

 

「ルイズは、貴様のような下郎の好きにはさせん!」

「ルイズは、テメェみたいな髭面なんかとは結婚させねぇ!」

 

 それは、恋なのか愛なのか。それとも、友情、あるいは忠誠心か。

 叫び、ぶつけ合った想いはどちらも譲らず。強固な『固定化』を掛けてあるはずの才人の剣は衝撃に耐え切れず根本から砕け散り、魔法衛士隊用に拵えてあるワルドの軍杖もまたへし折れ吹き飛んだ。

 お互いの得物が無くなり、双方の体がぐらりと後ろに流れる。が、同時に両足を踏ん張り体勢を立て直した二人は、残っていた武器の成れの果てを持っていない方の拳を握り込み全力で振り被った。

 後はそれを、相手目掛けて真っ直ぐに突き出すのみ。

 

「ワルドォォォ!」

「サイトォォォ!」

 

 ドゴン、と広場全体に響くほど盛大な打撃音が響き渡り、綺麗に顔面に拳を叩き込み合った二人はそのままゆっくりと倒れていった。

 

 

 

 

 

 

「ああルイズ! よくぞ戻りました! ……で、ウェールズ様はどこ?」

「開口一番それですか」

 

 トリステインの謁見室にて、一応臣下の礼を取っていたルイズはその言葉を聞いてかしこまるのをやめた。テクテクと扉まで歩き、ならもう皆こちらに呼びますよとアンリエッタに述べる。ええ勿論、という言葉を聞いて、では遠慮無くと扉を開いた。

 まず入ってきたのはキュルケとタバサ、次がお互い顔を腫らした才人とワルド。そして最後にやってきた人物は。

 

「ウェールズ様ぁ!」

「と、っとと。アンリエッタ、ここは謁見室だろう? ちゃんとしないと駄目じゃないか」

「関係ありません! わたくしがどれだけ待ったと思っているのですか! ああウェールズ様、こうして貴方を抱き締めるのをどれだけ待ち望んだことか」

「まったく。……僕も、こうして君を抱き締めるのを心待ちにしていたよ。僕の可愛い、アンリエッタ」

「ええ、アンリエッタは身も心も貴方のものですわ、ウェールズ様……」

 

 言いながら、二人はゆっくりと顔を近付けていく。謁見室のど真ん中で王族二人が口付けを交わす光景はさながら舞台劇の一場面のようであったが、いかんせん観客はこの光景を心待ちになどしていない。特にルイズはもういい加減にしろと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

「ねえタバサ」

「絶対に違う」

「いや、まだあたし何も言ってないんだけど」

「絶対に違う」

 

 何かを否定するように頑なに首を横に振り続けるタバサを、キュルケは苦笑しながら抱き締めた。だから大丈夫だってば、とその頭を優しく撫でる。

 それをしながら、それでルイズ、と彼女は声を掛けた。

 

「どうするの?」

「え? 今からぶん殴るわよ姫さま」

 

 躊躇いなくそう言い切ったルイズは、皆の見ている中でベーゼを終えたアンリエッタに声を掛けた。笑顔のまま振り返った彼女は、何かありましたか、と首を傾げる。

 ルイズも同じく笑顔を浮かべ、今回の依頼の報酬を頂こうかと、と言葉を返した。

 

「報酬ですか? その辺りは後日用意しようと思っていましたが、何か早急に入用なのですか?」

「ええ、とりあえず一つ」

 

 ビシ、と指を一本立てると、その拳を握り込み迷うこと無くアンリエッタの顔面に拳を放った。何を、と驚愕しているウェールズの横で、アンリエッタの整った顔にその拳は叩き込まれ。

 

「おほほほ。流石に貴女の行動パターンは読んでましてよ」

「ちぃ!?」

 

 体をずらすことでそれを躱したアンリエッタは勝ち誇ったように微笑む。その姿がどうにもアルビオンでの誰かさんと誰かさんに見えて、ウェールズは思わず笑ってしまった。

 む、とアンリエッタは頬を膨らませる。ルイズのせいで笑われたではありませんかと言い切ると、その細い指を突き付けた。

 

「懐かしいわ、幼い頃はこうやってよくケンカをしたものね」

「姫さまが勝ったことは殆どありませんけどね」

「なら、今日は久しぶりの勝利となりますわね」

 

 そう言うと、アンリエッタは少し距離を取った。ルイズもそれに合わせ、拳を固く握り込む。とりあえず何が何でも一発殴ってやる、そう決意し、彼女は足を踏み出し。

 

「衛士隊! 曲者よ! すぐさま彼女を捕縛して!」

「革命されてしまえこの馬鹿姫ぇ!」

 

 何事だ、とルイズに向かってくる魔法衛士隊の後方から高笑いを上げているアンリエッタを見ながら、彼女は怒りの咆哮を上げるのであった。

 




ルイズの勇気が世界を救うと信じてエンド。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。