とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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これは手抜きではない……物語が進むためのッ……!


007 そして裁きが下る 『7月24日』 Ⅰ

 上条からそげぶを貰ってはや3日。時刻は午後7時半。そろそろ頃合いである。この日はインデックスの傷が完治し、上条と二人仲良く銭湯に出かけるもエロ聖人こと神裂火織に遭遇。勝てるはずもなく圧倒的敗北……といった出来事が起こる日である。

 

「この3日間……長かったような短かったような。まぁでも第7学区の地理に少しだけ詳しくなれたし、得るものはあったな」

 

 

 21日、あの日家電を見に行った俺は、そのあまりのラインナップの多さに圧倒されてしまい、完全下校時刻を余裕でぶっちぎり、あえなく警備員(アンチスキル)の御用となってしまった。迎えに来た木原数多の顔が忘れられない。「すまん親父……」と素直に頭を下げると、まるで今にも人を殺しそうな顔をしながら「お前、わざとやってんのか?」と脅され車に押し込まれた。そのまま川で魚の餌コースかと思ったが、実際は何事もなく家に着いたのでホッとした。ちなみに車の中では終始無言だった。こわかった。

 

 22日、警備員の事情聴取のため、午後に警備委員第七三活動支部へと出頭した。事情聴取自体は20分ほどで終了したのだが、黄泉川先生に昨日の失態(門限ぶっちぎり)がバレてしまい、「なんだか危なっかしいじゃん?」と言う理由でまさかの拘留。夕方まで足止めされた挙句、「これから小萌先生と飲みに行くじゃん? ついてくるじゃんよ」と謎の連行。それでいいのか警備員。

 その後飲み屋についていき、焼き鳥とオレンジジュースをいただきながら小萌先生と黄泉川先生の愚痴を延々と聞かされた。小萌先生には「かすり傷です」と言っていたあの事件の内容も黄泉川先生は喋ってしまい、「なんで黙ってたのですかー!」とぽかぽかアタックを貰った後、そのまま21日の門限破りもバラされ、「最近の明るい木原ちゃんはとってもいいのですが、上条ちゃんの真似をするのはダメなのです!」と微妙な怒られ方をした。真似って……

 そしてべろんべろんに酔った小萌先生が言葉を発しなくなった頃、小萌先生を背負い黄泉川先生と共に小萌先生の家へ向かった。黄泉川先生も顔がだいぶ赤かったが、「大丈夫じゃん。少なくともその辺の能力者には後れは取らないじゃんよ?」と強気である。なんでも、警備員として俺を特別扱いすることはできないが、知人として一緒にいる分にはいいのだとか。なるほど、そういう意図があったのか。本当にいい先生である。だからといって飲み屋につれてくるのはいいのだろうかと疑問は残るが。

 小萌先生の家に到着し、眠い目をこすっている上条当麻に小萌先生をパス。そのまま黄泉川先生の護衛の下、自宅へと送ってもらった。「くれぐれも気をつけるじゃんよ。まだ犯人は捕まってないじゃん?」と念を押された。善処します。

 

 

 23日、昨日はできなかったお店巡りを敢行した。学園都市の携帯の最新機種はどんなものかと見に行ったり、ゲーセンを冷やかしに行ったり、本屋に寄ったり、窓のないビルをペチペチしにいったりした。ペチペチした後で「俺はなにをやっているんだろうか」と我に返った。さすがに3日も経つと統括理事長(アレイスター)への恐怖が薄れてきたのか、それとも恐怖でおかしくなったのかは不明である。そのまま逃げるように帰宅し、いつ粉々にされるかもわからない恐怖にとらわれながら、1日を過ごした。

 

 そんなこんなで来たる24日である。この日上条は20時ジャストに小萌先生宅から銭湯に向かう道中でインデックスとはぐれ、そのまま神裂火織と戦闘となる。地図で小萌先生の家からもっとも近い銭湯を調べると徒歩15分と出た。この学生寮からは20分強かかるので、そろそろ出ないとまずいだろう。

 

(理想としては上条が昏倒して、神裂が立ち去る直後を確認したいところだな。その次は28日の竜王の殺息(ドラゴンブレス)。……先に起こることを既に知っているって、なんだか変な気分だな)

 

 特に持ち物は必要ない。財布とケータイを持ち、木原統一は出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は19時55分。少しだけ早く着いてしまった木原は、おそらく上条と神裂が戦闘をするであろう通り(アニメそっくりなので一目でわかった)から300メートルほど離れた公園にいた。公園と言っても砂場すら無い、15メートル四方の狭いスペースとベンチが2つ置いてあるだけで、どちらかと言えば広場である。

 

(あの二人の戦闘はそれほど長くは続かない……戦闘音がしたらゆっくり近づいて、状況を確認するだけだ。簡単簡単……)

 

 既に辺りは薄暗く、一人でいるには心細いためか。言い知れない不安が心を乱す。そろそろ戦闘が始まるかと思われた瞬間、イレギュラーが現れた。

 

「この3日間の神裂からの報告では、君はただの学生だという結論が出たわけだが」

 

 木原の顔から一気に汗が吹き出す。ベンチからすぐさま立ち上がり、声の主を探した。

 

(この声は───!)

 

 柵を挟んだ道路の真ん中。数日前、自分を瀕死の重傷に追いやった男。天才魔術師、ステイル=マグヌスがそこにいた。

 

「なるほど、僕達を欺くための、偽証(フェイク)だったということだね。人が良い神裂だからかもしれないが、まんまと騙されたよ。なに、偶然とは言わせないさ。君がこの時間にここにいることがなによりの証拠だ」

 

 ステイルは努めて冷静に話しを進めている。が、木原は完全にパニック状態だ。

 

(ステイルの役目はインデックスの誘導だったはず。なんでこいつがここに!?)

 

「僕は神裂とあの男の交戦ポイントから500メートルの範囲に人払いのルーンを貼った。そしてあの二人がその範囲に入ったのを確認してから、発動させたんだ。つまり、その後入ってきた侵入者は例外なく黒って事さ」

 

 誤算だったのは魔術の特性。人払いのルーンの効果だった。

 

「人払いは魔術師か、その場所が最優先事項である人間には効果が無い。なにか言い訳はあるかな?」

 

 タバコを咥え、口元をゆがめるステイルだが、目が笑っていない。ここで誤魔化せなければすぐさま戦闘に突入するだろう。

 

「こ、この公園に用があったんだ。だから───」

 

「おや?」

 

 ステイルはタバコを地面に落とし、こう呟いた。

 

「その口ぶり、まるで僕の話を完全に理解してるみたいじゃないか?」

 

 瞬間、木原の目になにかが映る。しまった、と思う前にステイルが動いた。

 

炎よ(kenaz)巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)!」

 

 灼熱の炎剣が叩きつけられる。摂氏3000度を超える魔術には、公園の柵なぞ壁にもならない。たやすく柵を貫通し、木原のいたベンチは爆炎に飲み込まれた。ステイルが腕を振るった瞬間、木原は焼死体になるのを防ぐために横に飛んだ。おそらくその判断は正しかった。直撃は免れ、黒煙の中で木原はまだ生きていたのだ。だが───

 

「ぐ、がァァあああああああああ!!」

 

 木原統一の左ひじから先が、焼失していた。

 

「わざわざ声を出して位置を教えてくれるとはねッ!」

 

 返す刀で、続く第2撃を放つステイル。木原は激痛で歪む景色の中、歯を食いしばって立ち上がり、ステイルとは逆の方向へ走り始めた。本来ならばそのまま背中を焼かれ絶命していたかもしれない。だがステイルの放った炎剣は、木原のいた位置から2メートルほど右に逸れた。

 

「煙のせいで狙いが甘かったか……だが」

 

 手傷は負わせた。もう獲物に逃げる術はないだろう。激痛と貧血により、走り続けることはできないはずだ。

 

(今度こそ死ぬまで焼き尽くす。次は当て……!?)

 

 ステイルは無様に走る木原を見ていた。正確にはもう存在しなくなった木原の左腕を。

 次の瞬間、ステイルは驚愕した。まるで植物の成長を早回しに見ているような速度で、木原の左肘から腕が生えた( 、 、 、 、 、)のだ。

そして、腕を焼かれたダメージがまるで最初から無かったかのように、ステイルから逃げるために木原は全力で走り続ける。

 

「……チッ、超能力か」

 

 この科学の街において、もっとも主軸を置いて研究されている、魔術とは対をなす異能の力。ステイルは、以前抱いた木原への疑問が氷解するのを感じた。

 

(前回殺し損ねたのはアレが原因か……まったく、忌々しい街だな)

 

(くっっっそ痛ぇ!! 痛みだけで死ぬかと思った……だけど、肉体再生(オートリバース)は正常に働いてくれたみたいだ。助かった!)

 

 公園の柵を飛び越え、ちらりとステイルの方を見る。

 

「原初の炎、その意味は光、優しき温もりを守り厳しき裁きを与える剣を!」

 

走りながらも唱えたステイルの右手から、轟ッ!と炎剣が現れる。

 

(まずいまずいまずいまずいまずい!!! あんなもん直撃したら再生する前に消し飛ぶんじゃねぇか!? かといって立ち向かっても勝てるわけがねぇ!!)

 

よって木原の取る行動は1択。

 

(逃げるッ!!)

 

 公園を出て、公道を全力疾走する木原。その後を、炎剣を構えたステイルが追いかける。

 

(……よし、ステイル(あいつ)の足はあんまり速くない。このまま逃げ切る!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……逃げ切った……か?」

 

 木原統一は公園からだいぶ離れた、工場跡地まで逃げていた。いまでは何の工場だったかわからないほどに寂れたところだが、ところどころゴミが散乱していたり、落書きがあることから、一応人の出入りはあるらしい。

 

(あれからステイルを突き放して、姿が見えなくなった後も延々と走り続けた。原作ではステイルに追跡魔術は使えないし、土御門のバックアップがあってもアレは魔力をサーチする術式だ。俺を見つけるのには使えない)

 

 息を切らしながら木原は無数に並ぶ廃工場の中の一つに、足を踏み入れた。

 

(さて、どうするか・・・当初の目的はあきらめるしかない。朝までここに隠れるか?それとも電話で助けを呼ぶ?……ダメだ、どうしたらいいかさっぱりわからん)

 

「……まぁ、ひとまず安全みたいだし、少し休んでから考えるか」

 

「それは助かるね。このつまらない追跡劇(おいかけっこ)も、いい加減飽き飽きしていたところなんだ」

 

 背筋が凍りついた。完全に逃げ切り、助かったと思った瞬間、首に鎌をかけられていたのだ。それと同時に、木原はステイルという魔術師を甘く見ていたことを実感した。

 

 廃工場の入り口に、死神が立っていた。

 

「な……ぜ……?」

 

「では逆に聞くがね。何故君はここに足を踏み入れたんだい?」

 

 何故と聞かれて、木原はその理由を答えられない。言えない、ではなく答えられない。何故なら理由が存在しない( 、 、 、 、 、 、 、 、)からだ。木原は別に道を選んで逃げていたわけではない。ただ、ステイルから距離をとるために───

 

(道を……選んでいない? いや違う……)

 

 特に理由が無くとも、この場所に来る過程で道は選んでいる。もしも───

 

 もしもその選択に、作為的なものが加えられていたとしたら───

 

「……人払い……か?」

 

「ああ。神裂をサポートするために人払いを仕掛けたと言ったが、なにもそれが全てとは言っていない」

 

 それはいたって単純(シンプル)な話だった。木原はステイルを撒くために、ランダムで道を選んでいたつもりだったが、それはステイルにより誘導された思考だったのだ。思考を誘導、と言ってもステイルが木原の心を操ったわけではない。木原の走るルート周辺の人払いを順次発動し、逃走ルートを狭める。無数にあるはずの選択が、ただの一本道と化す。たったそれだけのことで、いとも簡単に獲物は檻にかかる。

 

(に……逃げ道はッ!?)

 

「無駄だよ。この建物への出入り口はたった一つしかない」

 

(クソッ!ここはあらかじめ用意されていた場所だってのか!?)

 

 コツコツと、ステイルは建物へ足を踏み入れる。一歩一歩、着実に木原に歩み寄る。木原統一という一人の人間を殺すという明確な意思が、その足音には込められている。

 

(俺は……死ぬのか……?)

 

 もはや逃げ場は無い。木原の足がガクガクと小鹿のように震え、戦う意思を見せることすらも叶わない。不意に全身を焼き尽くされた経験が蘇る。呼吸もできず、体中の神経が焼かれ、激痛の海に沈む自分の意識。

 今度は目覚めることはない。全てが終わる。涙は出なかった。声も。ただ呆然と、目の前の男を眺めるだけ。それだけが、木原統一が取れる唯一の行動だった。

 

「やれやれ、手間取らせてくれたが……これで終わりだ」

 

「あー、奇遇だな。今まったく同じこと考えてたわ」

 

 不意にステイルの背後で声がした。

 

「ッ!!」

 

 ステイルはとっさに振り返り、声の主に炎を放つ。呪文も無く放たれたそれは、先ほど公園で木原に放ったものよりは遥かに貧弱な一撃だが、人一人を殺すのには十分な威力が篭っていた。

 

「駄目なんだよなぁ……オラァ!!!」

 

 バシュッ!っと何かがはじける音がした。そして声の主は無傷で、こう続けた。

 

「ようやく会えたな……クソ野郎」

 

とんでもないお父さんが、そこにいた。




冥土帰し「火傷した端から回復していくはずだね?」

ステイル「僕の魔術に、常識は通用しない」


※火力のせいです


ステイルさんは弱くはないんです。その他がチートなだけなんです……

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