こちら、アインクラッド解放軍第104小隊   作:ハイランド

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08陸稲を飲み込む蛇 帰り道

 夜。淡く光る街道を歩く2人。

 

「すっかり遅くなってしまいましたね」

 

「ええ。でもそのぶん、収穫は大きかったと思います。……私、レベル5も上がったんですよ」

 

「そんなにですか?それはすごい、僕も3つは上がりましたが」

 

「それは、先生が元から私よりレベル高かったからです」

 

「これを繰り返してたら、そのうち追いつかれてしまいそうですね。……僕はもうごめんですが」

 

「私もです。ますますカエルが嫌いになりそうですよ」

 

「まさかあのビンの中身がアレとは……。僕も予想してませんでした」

 

「あの時はごめんなさい。私がミスしなければ、先生を危険な目に合わせずにすんだのに……。それと、盾も」

 

「気にしないで下さい。言ったでしょう?あなとを守ると。それに盾は、店売りの既製品です。壊れたのは残念ですが、せっかく機会なので新調することにしますよ」

 

 手ぶらになった左肩をまわすハイド。

 

 

「盾……。ねえ先生、私先生の盾スキルの名前、気に入りました」

 

「<矛盾>ですか?意味不明なネーミングだと思うのですが。どこが気に入ったんです?」

 

「……じゃあ、宿題にしておきます。次までに答えを考えておいて下さい」

 微笑むキサラと、首を傾げるハイド。

 

 

「先生、どうして今日はこの層に来ようと思ったんですか?」

 

「そうですね。1日でクリア出来そうなクエストで検索して、ヒットしたというのもあるのですが」

 

「他にもなにか?」

 

「あの村の名産の、お粥を食べてみたかったんです」

 

「……呆れた。ただの食い道楽じゃないですか」

 

「食事は大事ですよ。とくにこの世界では、それだけが楽しみたいなものじゃないですか」

 

「それはそうですけど……」

 

「きっとキサラは普段から美味しいものを食べているから、慣れてしまっているのですよ」

 

「イルのことですね……あ、そうだ!」

 

「なにか?」

 

 両手を打ち合わせるキサラ。

 

 

「私、今日のレベルアップでスキルスロットが増えたんですけど……。どのスキルにするか、決めました」

 

「それは今聞いても?」

 

「うーん、これは私の方の宿題というか……。次の機会にうまく習得出来てたら、御披露目します」

 

「……ふむ。そうですか」

 

「はい」

 

 

 しばし、無言で歩く2人。

「……先生、今日の<聖竜連合>の人たちのことなんですけど」

 

「彼らがどうしました?」

 

「あの人たちって、私たち中層プレイヤーを見下してたじゃないですか。自分たちが強いからって」

 

「……そうですね」

 

「でもそれって、下層での軍と同じなんじゃないかって……そう考えたんです。私たちの場合個々の強さじゃなくって、人数差で上に立とうとしているわけなんですけど」

 

「うん」

 

「下層の人たち……例えば<メービウス>から見た軍って、私から見た<聖竜連合>と同じなのかなって思ったんです」

 

「上層と下層の違いでしかないと?」

 

「はい。もちろん、軍の理念は分かるんです。皆のために強くなって、守るってことは。……でもそこにこだわりすぎて、ギルド員以外のプレイヤーに冷たくしてたら、結局反感を買っちゃうんじゃないかと思うんです。……私、今日のことで<聖竜連合>が嫌いになりましたもん」

 

「ははは……」

 

 頬を膨らませるキサラ。ハイドはそんなキサラを見て穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

「それならキサラ、あなたはあなたのやり方で下層の人たちと交流してみてはどうでしょうか。自分が例えば、DDAやKoBのような人たちにしてもらったら嬉しいことを、下層の人たちにしてあげるんです。軍の人間として」

 

「なるほど……」

 

「必ずしも、感謝されるとは限りません。軍のお節介と忌避する人もいるでしょう。それでも、軍内部にも外の人間のことを気にかける人がいるという事実は、分かってもらえるはずです」

 

「先生……」

 

「……ちょっと格好つけ過ぎたかな?」

 

 照れて頬をかくハイド。キサラは首を横に振る。

 

 

「いいえ。昔、先生は同じことを私に教えてくれました。自分がされて嫌なことは他人にしない、それがネチケットだって。やっぱり先生は、今も昔も私の先生です」

 

「……そうですか。僕が、そんなことを……」

 

 頭上を見上げるハイド。当然ながら、空に星などは浮かんでいない。

 

 

「キサラ。もし僕がきみに……」

 

「はい?」

 

 小声で呟かれたそれを、キサラは聞き取れない。

 

 

「……いえ、なんでもありません。おや、あの明かりは」

 

「<フローリア>ですね。やっと着きました……」

 

 空腹を訴えるように、腹部を押さえるキサラ。それを察したハイドは、自身も腹をさする。

 

 

「昼に食べたお粥だけでは、やはり足りませんね。……ところでキサラ、あのお粥の具、なんだったか分かります?」

 

「あのお肉ですか?鶏肉だったと思いますけど」

 

 キサラの答え聞き、満足げに頷くハイド。

 

 

「残念ですが、違います。これは僕からの宿題としましょう……ヒントは、あの村の名物です」

 

「え?あの食感は確かに……。いえ、ちょっと待ってください。村の名物って言ったら。……まさか」

 

「おお、さすがはキサラ。もう答えが出たのですか?」

 

 呆然とするキサラと、忍び笑いを浮かべるハイド。

 

 温かな街の明かりは、目前である。

 


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