破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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ビルスが創造主と彼らが作りだし星々に放っていたBETAを一掃してから暫くの間に地球では様々な動きがあった。


第8話 知った事による決断

国連は先ずBETAによる侵略の危機が去った事を正式に世界に発表した。

各国はビルスによるBETA攻撃の際の怪異を目の当たりにしており、その所為かこの驚き狂喜すべき発表にも意外にもそれほど混乱や疑問の声があがらなかった。

それよりも驚くべきだったのは、BETAの脅威が去って早々その事実を確かなものであると判断した各国が、戦後の事後処理と復旧費用の現地負担を渋った事だった。

BETAという脅威に立ち向かう為に一致団結しているかに見えた世界だが、それはあくまで共通の敵という名の下に結ばれた一時的な軍事同盟という認識が強かったらしい。

流石に米国や日帝、ヨーロッパ諸国などの今まで戦いを主導的に牽引してきた諸国はこの動きに憂慮し、自制するように強く呼びかけた。

だがそれでもソ連や中国、一部のアジア諸国の軍事的、社会的思想が比較的近い国家などがこれを一方的に戦後の指導的立場を確立しようとしていると難癖を付けて真っ向から対立する姿勢を見せたのだった。

果たして世界は再びBETA侵攻の傷跡が冷めぬ内に新たな火種に人類自ら火を灯さんとした、が――

 

『戦争して美味い飯が減ったら仕掛けた国を優先的に破壊する』

 

というビルスの一言で一瞬で鎮静化した。

 

というのも、世界各国がこのように対立する動きを見せる中で、その様子に呆れて面倒になったビルスがウイスに言って、各国の有力な首脳陣を国連が北極に設けた観測基地に強引に全員テレポートさせて自らの力を彼らの目の前で示したのが決め手となった。

 

ドーーン!

 

果たしてビルスのデコピンによって直径100メートルほどの底が見えない穴が目の前で出来た瞬間彼らの絶望と恐怖は如何ほどのものであったか。

防寒具もまともに与えられず殺人的な寒さのなか、本当に物理的に思考が停止すると思われた最中に更に起こった悪夢のような光景である。

 

『僕は優しいから納得できる理由ならまぁ許すかもしれないけど、もし納得できない理由で戦争をしてその国の美味い料理とかが減ったりしたら先に仕掛けた国を破壊するからな』

 

あまりにも理不尽に近い暴言だった。

以後自分たちの世界は飯の為にたった一度の過ちで国ごと消えてなくなるかもしれないのだ。

 

各国の首脳はその裁定に苦悩し涙し、ある者は自らの野望が完全に消えてなくなった事に慟哭した。

だが逆らえば結果は火を見るより明らかである。

何しろ目の前の怪人は実際に存在し、BETAなど比較に出す事自体が愚かな考えであると断言できる程の力を持つ絶対者なのだ。

 

彼らに残された手段はただ一つ。

国力を自らの力で付けて経済で戦うしか術はなかった。

 

 

 

「呆れた。ビルス様、あなた、あの一言で世界が別の意味で滅ぶかもしれないわよ?」

 

再びウイスによって自分の国へと送られる首脳たちの姿を見ながら夕呼は呆れたような口調で言った。

 

「その時は君や君らが信用できる国で何とかすればいいよ。正直、いちいち遠くにある星の事を気に掛けるなんて面倒だしね」

 

「今のはハッタリだったの?」

 

「いや、本心だよ。ただ僕が気付けば、の話さ」

 

「とんでもない置き土産を残してくれたものね。これから世界は何がきっかけで自分の国が滅ぶか分らない恐怖に震えていかなくてはならなくなったわ」

 

「けーざいで戦争をするんだろう? 平和的でいいじゃないか」

 

「貧しい国は一瞬で消えるわよそれ」

 

「じゃ、助ければいい」

 

「無責任な……。それがきっかけで内政干渉とかを理由にまた争いの火種になるかもしれないわ」

 

「人間は本当に面倒くさい生き物だね。まぁ余程の事がない限り僕は手を出す事は無いから後は君達で勝手にやったらいいよ。飯を食べに来た時に不味いのしか出なくなっていたらその時は破壊するけどね」

 

「それ、あなたの真意を知ってる私の国だけ勝ち組じゃない? それだと世界のバランスは取れないわ」

 

「だから君らが信用できる国とその情報を共有すればいいんじゃないか」シレッ

 

「……あなたという人はもう……」

 

夕呼はもうそれ以上何も言う気はなかった。

これから世界を立て直すのは大変だろう。

だが、少なくとも新たな争いの危機は、この目の前の人物の無茶苦茶な方法で取り敢えずは去った。

なら自分たちはその環境下で如何に手腕を発揮して人類を宇宙に誇っても恥ずかしくない種族に導くかに没頭すれば良い。

少しズルいがイニシアティブもらった、これを効果的に扱えば確かに何とかなるかもしれない。

夕呼はこのように考え、取り敢えずは今までの件も合わせてビルスに感謝だけする事に止める事にした。

 

「それで、もう行くのかしら。その、また何処かに……?」

 

「まぁそのつもりだけどね。でもその前にちょっとやる事がある」

 

「え?」

 

「いや、僕じゃないけど。ほら、ウイスの奴が前に言った約束」

 

「約束……?」

 

ビルスが後ろ指で指すウイスを見ながら夕呼は自分の記憶を辿って、彼が何の約束をしていたのか思い出そうとした。

 

「あ……」

 

流石は自他ともに天才と認知されている彼女である、大分前の、本当に何気ない時の事だが、確かに彼はある約束をしていた。

それは……

 

 

 

「お願いします……!」

 

武は土下座せんばかりの勢いでウイスに頭を垂れた。

彼の後ろには人間の脳髄と思われる物が浮かんでいる大型の試験管の様な装置があった。

そしてその周りには夕呼を始め、冥夜や千鶴、慧、壬姫、美琴といった武の友人達も何やら緊張した様子で控えていた。

そしても一人重要な人物が一人――

 

「ほんとに、大丈夫……?」

 

消え入りそうな不安な声でそう武に囁く、外見的な印象で真っ先に兎を連想させる様な格好をした一人の少女がいた。

彼女は社霞、BETAから得た情報と人類の科学技術の粋の結晶とも言える感情を持った感情を持った人工知能体であり、とある計画の要になる予定だった少女だ。

今霞は容器に手を触れて心配そうな表情をしたままそれを崩さないでいた。

 

「霞……純夏は……どう?」

 

武は霞の不安を和らげるように優しく話し掛ける。

彼が今、純夏と言ったのは紛れもなく容器の中に浮かぶ脳の事であり、それこそ彼がとある事情でこの世界に来ても尚忘れずに想い、記憶に残り続けた少女。

幼馴染にして今はハッキリと恋心も自覚している鑑純夏、その人だったものだ。

彼女が何故今このような無残な状態になって生きている状態なのか、それにはかなり深い事情と経緯がある。

しかし今の時点では取り敢えずそれは置いておいて、ビルスの付き人であるウイスは以前武の記憶を覚醒させる為に不可抗力とはいえ、その記憶をかいま見てプライバシーを侵害してしまった事への謝礼として彼女の復元を約束していたのだった。

その申し出に武は狂喜し、勿論1つ返事で受け入れた。

そして今に至るのである。

 

「凄く……不安を感じる……。皆が見てるから……あまりこのままなのは良く……ない」

 

霞は容器を安心させるようにそのガラス面に掌を付けたまま、少し武を非難するような目でそう答えた。

 

「だ、大丈夫だ……多分。その、ウイスさん……」

 

「はいはい、お任せください」

 

霞の視線に狼狽えた声とは対照的に、やっと自分の出番が回ってきた事に少し嬉しそうなウイスが相変わらず穏やかな調子で前に進み出た。

 

「待って、何を……するの……?」

 

当然だが、得体のしれない人物を前にして容器を守る様に手を広げて霞がウイスの前に立ちはだかった。

ウイスはそんな彼女に優しい目で微笑みかけ、こう言った。

 

「大丈夫ですよ。特にその装置に影響を与えるような事は一切致しません。私がする事はただ“戻す”事だけですよ」ニコッ

 

「戻す……?」

 

霞はウイスの言葉が理解できず、眉を潜める。

明らかに不審がっていた。

 

「はい、私実はあなた達でいうところの時間に干渉する力を持っておりまして。宇宙全体に影響を与える時などはそれこそ数分がいいところなのですが、今回はその対象が一個人なのでほぼ間違いなく元の姿に戻せるはずです」

 

「……それはまた。では一個人を戻すと言うと」

 

流石、夕呼はさっきの話でもう彼がどういう論理で純夏を元に戻すのかを理解したらしい。

もうウイスの力に対しては何もツッコまず、ある程度確信の籠った声でそう言う夕呼にウイスはにっこりと頷いて続けた。

 

「そうです。今回はかがみさん個人の時間をこうなる前の姿にまで時間を元に戻します。なので当然服も当時のまま復元されるのでその点もご心配なく!」

 

「……?」

 

最後の言葉は余計だったらしい。

ある程度希望が満ちて暖かい雰囲気だったのに最後に服の話をした所為で若干気まずい空気が流れた。

ビルスはと言うと一人だけその理由が解らず、不思議そうな顔をしていた。

 

「こほん。ま、まぁそれではいきますよ」

 

ウイスは場を繕うように軽く咳払いを一つすると、持っていた杖を軽く容器に向けた。

すると……。

 

脳が収められていた容器が一瞬その中身が確認できないくらい輝き、その光が収まったと思った矢先に――。

 

 

「純夏!!」

 

武がそれこそ今までにないくい大きな声と勢いで容器に駆け寄り、そのガラス面に感動で涙に濡れた顔を映した。

その視線の先には……。

 

「……!」ドンドンッ

 

自分の置かれた状況を理解できず、息ができない溶液の中で必死の形相で苦しむ鑑純夏がいた。

 

「あ……」

 

元に戻しても戻す場所までには気を付けてなったウイスはしまったという顔をしていた。

 

 

 

それから数時間後。

ウイスによって完全に元の状態に戻った純夏は、その健康状態や記憶も当時の状態を保ったままだったので、装置から解放されても身体的に様子を診る為の検査入院の必要は全くなかった。

夕呼にとってはそれだけでも驚異的な事だった。

純夏は丁度彼女が武と一緒にBETAに捕らわれた直後の頃の状態で元に戻ったので、今までの経過を説明を受けて少は混乱した様子を見せたものの、BETAの存在を認知した時点までの記憶を持っていたおかげで動揺はそこまででずに状況を理解する事が出来た。

そして今は、今まで苦労してきた武の労を労い、そして自身の武と再会した喜びを噛みしめるように強く彼に抱き着きながら改めて二人でビルスとウイスにお礼を言っていた。

 

「本当にありがとうございました!」

 

「ありがとうございます!」

 

二人が深く頭を下げてお礼を述べる様にビルスはまんざらでもない表情で、ウイスはいつものにこやかな顔で応える。

 

「もういいよ。分ったから」

 

「ほほ、そうですよ。別に大した事をしたわけじゃありませんから」

 

「……」

 

人類側からしたらそんな言葉では足りないくらいとんでもない事をしたわけだが、それを平然と大した事ないと言い切る二人に夕呼は何処か不機嫌そうな顔で頬杖を突いて晴れた空を見ていた。

確かに彼らの言葉も多少は勘に障るがそれ以上に、この“世界の鑑純夏は生きている”という結果だ。

これが彼にとってどういう意味になるのかは明白だった。

武を因果導体としてこの世界に引き付ける原因となっていた彼女が生きているという事、即ちそれは……。

 

「白銀」

 

和やかな雰囲気の中、凛としながらもどこか冷たさを感じさせる声がした。

 

「……」

 

武がその声に反応して見た先には真剣な話をする時の怖さすら感じさせる厳しい表情をした夕呼がいた。

 

「ちょっと話があるんだけど」

 

夕呼はそう言って武を何処かに案内しようとしたしたが、意外にも武はそれをやんわりと手を振って断った。

 

「いえ、大丈夫です」

 

「……」

 

彼女にしては珍しく、驚いた顔をして武を見つめ返していた。

 

「あなた……」

 

「解ってますよ俺。ウイスさんに記憶を覚醒してもらった時にいろいろと……」

 

「……」

 

「俺は最後の作戦の結果と、それによって自分がどこに行ったかまで、それを全て記憶から知りました」

 

「武ちゃん?」

 

「武?」

 

二人の妙な雰囲気に純夏と冥夜が気になって声を掛ける。

武はそんな彼女をまるで愛おしいも者を見るような目で見た。

そして千鶴、慧、壬姫、まりも……。

皆彼が知った記憶ではこの世界では……。

 

「な、なんだ?」

 

「た・け・る・ちゃん……?」

 

冥夜は今までにないくらい慈愛に満ちた武の視線を受けて顔を赤くして視線を逸らす。

その様子に純夏が微妙に嫉妬して睨むような目で彼を見た。

 

「え? な、なに……?」

 

「……?」

 

「武さん?」

 

「白銀……?」

 

千鶴、慧、壬姫、まりも、皆武から何か意味ありげな視線を受けてその真意を知りたそうに彼を見つめていた。

 

「大丈夫です、先生」

 

そう言う武は周りから何か期待されるような視線を受けながら、ある種の幸せを実感していた。

自分は確かに自分が元に居た世界に帰るのが目的だった。

だがそれには、BETAとの最後の作戦で共に戦った親友達の果て様を見届け、最後には自分をこの世界に繋ぎとめている“この世界の純夏”の最期までも見届けなければたどり着けないゴールだ。

元の世界に戻った自分は確かにそこで幾分前より良くなった世界を見た。

そこでは皆楽しそうに学生生活を送っており、自分もまたそれを謳歌していた。

だが……。

 

「……」

 

武は再び周りを見た。

この世界ではそれほどの幸せは感じていない。

皆からそんな笑顔や幸せも感じていない。

確かに厳しい世界を生きている内に強い絆はできているだろう。

しかしそれでも、元の世界で分かち合ってたような年相応、当たり前にあるはずだった幸せは……。

 

「……先生」

 

武はまた呟くように言った。

自分はこの世界で彼女達からそんな幸せを感じた笑顔を見たい、共に分かち合いたい。

そう望むようにいつからかなっていた。

だから武は決めた。

 

「俺、残ります」

 

武は正面から夕呼を見据え、ハッキリとした口調でそう言った。

 

 

 

それから程なくして、ビルスとウイスは呆気なく地球を後にした。

武がこの世界に残るという決断をしてからウイスは一応望むなら元の世界に自分の力で戻す事も可能だと話したが、それでも武は改めてこの世界に残ると彼に伝えた。

それを聞いたウイスはどこか感心した顔をして、そのまま程なく少ない人数に見送られながらビルスと一緒にその場を後にしたのである。

 

次の世界への旅の中でビルスはウイスにある質問をした。

 

「おい、あいつ何で残ったんだ?」

 

長い耳は伊達ではないのであろう。

ビルスはウイスと武の会話をしっかり聴いており、その上で何故武が自分の付き人の誘いを断ってこの世界に残ったのか訊いた。

それに対してウイスは少々わざとらし大袈裟に考える素振りでこう言った。

 

「んー……そうですねぇ、ビルス様から地球を守る為じゃないでしょうか?」

 

「はぁ? くっく……それは……ふっ、はははは」

 

ウイスの冗談はビルスにいたくウけたらしい。

ビルスは笑い過ぎた事によって目尻に滲んだ涙を拭いながら強く印象に残ったその地球にまた遊びに行ってもいいなと思ったのだった。




最後の話、いろいろ駆け足で矛盾してるところがあるかもしれません。
因果導体のネタもよく理解していないかもしれません。
ビルス様の活躍もあまりなかったような……。

まぁそれだけマヴラブの世界が自分にとって手に余るくらい難しかっただけの話ですが、それでも原作は大好きだし、この世界を題材にできて楽しくもありました。

さて、次の世界は何処するかな……。

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