破壊神のフラグ破壊   作:sognathus

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ご馳走してくれと言ったビルスを夕呼は幹部の休憩室に連れて行った。

そこで彼らに出された食事は見た目は簡素ながらも不通の食事に見えた。
だがハムに姿をしたその食べ物を口にした時、ビルスは直ぐに思った。


第3話 故意でない悪夢

「不味い」

 

ビルスは開口一番そう言った。

 

「見た目は肉なのになんだこれ。凄くポソポソしてるぞ」

 

「プリンも思いのほか甘くなかったですね。まるで豆腐のようでした」

 

「とーふ?」

 

「地球のある国のスープによく使われる具ですよ」

 

(あの青いの、豆腐なんて知ってたんだ)

 

外見からは予想できなかったウイスの意外な知識に夕呼は心の中で小さく驚きながら、申し訳なさ半分不機嫌半分といった様子でビルス達に言った。

 

「BETAに侵攻されて日本もただでさえ低かった食料自給率が更に悪化してしまったのから仕方ないのよ。その人工肉だって初期の頃と比べれば大分マシになったのよ? プリンが甘くないのは単に砂糖が貴重で手に入り難い所為よ」

 

「へぇ……僕がこんな不味い飯を食う羽目になってるのはベータの所為だっていうのか……。なるほど、そう考えるとなんだか凄くあいつらに対して腹が立ってきたな」

 

夕呼の話を聞いて、ビルスは早速理不尽な怒りをまだまともに相手もしていないBETAに対して持ち始めた。

 

「だったら早くあなたの力というものを見せてほしいものね」

 

「ま、不味いとはいえ食事は出してくれたわけだしね。その約束は守るけど、その前に」

 

「? なに?」

 

「君に一つ贈り物がある。まりもを助けた時に凄く僕に感謝してた奴がいただろう? そいつを呼んでくれるかな?」

 

「あなたに感謝していた……。もしかして白銀武の事かしら?」

 

「多分そうじゃないかな。彼にちょっと用がある。呼んでくれないか?」

 

「……それが私への贈り物だっていうの?」

 

「結果的にはね。そうなると思う」

 

「いいわ。待ってて」

 

突然の申し出い戸惑いを覚えつつも、ビルスが何故白銀に用があるのか興味を持った夕呼はその場では一応承諾した。

 

 

 

「何ですか夕呼さん。俺に用って……っ、あなたは!」

 

自分が呼ばれた理由が解らずに連れて来られた白銀は、最初は不可解なその状況に不信感を露わにしていたが、それもビルスを見るなり驚きの表情と共に一気にそんな事は忘れてしまった。

 

「や。また会ったね。うん、君だ。名前はしろがねたけるっていうのか」

 

「夕呼さん……?」

 

怪訝な顔で夕呼をみる白銀。

だが呼び出した当事者である夕呼もその理由を知らなかったので、それを正直に言うしかなかった。

 

「ビルスさんがあんたに用があるって言うのよ。その用自体が私へお贈り物になるらしいわ」

 

「はぁ?」

 

「いいから黙って命令を聞く」

 

「は、はぁ……」

 

白銀は流石にまだ納得できていないといった顔だったが、それでも軍人らしくその場は夕呼の指示に従った。

そして改めて彼と対面したビルスは少し目を細めながら傍らにいたウイスに何やら目配せをして話し始めた。

 

「たける、でいいかな? 君を呼んだのは他でもない。その理由は僕が君に対してちょっと悪い事をしちゃったから、そのお返しをする為だ」

 

「俺に対して……? お返しって……え?」

 

「ま、そんな顔をするのも仕方ない。まぁ、取り敢えず聞いてくれ」

 

「は、はあ」

 

「たける、一つ訊くけど。僕があの時ベータを倒さなかったらまりもはどうなっていたと思う?」

 

「え……?」

 

唐突な質問とその内容に白銀は戸惑いを戸惑いの声をあげる。

 

「正直に言ってくれればいい。答えるんだ」

 

ビルスの得も言われぬ落ち着いた声に何故か気圧された白銀は、渋い顔をしながらも答えた。

 

「……多分死んでいました」

 

「多分?」

 

「いえ、確実に」

 

「そうだね。その結果は君にとって耐え難い事実になった事だろう」

 

「あの、一体何が言いたいんですか……?」

 

まりもを助けてくれた恩人とはいえ、質問の内容が気分のいいものでない事には変わりはなかった。

白銀はその事実に対して明らかな忌諱感を醸し出しながらビルスに訊いた。

 

「ああ、ごめん。僕が言いたのはね。どうやら僕がまりもを助けた事が結果として君の将来あるべき姿、つまり成長を妨げてしまったらしいという事なんだ」

 

「……は?」

 

あまりにも明後日の方向の答えに白銀は目を点にする。

 

「ま、驚くのも無理はないさ。でもね、ウイスに言われて君の可能性を覗き見てみたらこれが本当にその通りだったんだ」

 

「え、えっと……つまり、ビルスさんは人の未来が分かるって事ですか?」

 

「他にも寿命とか運命とかいろいろ見えるんだけどね。普段使う事もないし、使いたいとも思わないから眠る時に暇潰し程度にしか使わないんだけど」

 

「あの予知夢の確率の低さはその所為ですか……」

 

その事実を初めて知ったらしいウイスが呆れた様子で溜息を吐いた。

 

「うるさいな。別に僕がそんなの分かったって、僕が楽しいわけじゃないんだからいいじゃないか」

 

「あ、あのそれで、具体的にビルスさんは僕にどうしたいんです?」

 

最早話に着いて行けずに呆然としていた白銀が遠慮しがちに口を挟む。

 

「ああ、すいません。つまりですね、たける君。あなたにその“もしも”が起こっていた未来の結果を記憶として君に植え付けて強制的に成長させて頂こうかな、という事なんですよ」

 

「は、はぁ!? な、なんでそんな事を!?」

 

ウイスのとんでもない話に白銀は流石に素っ頓狂な声をあげる。

 

「まぁそんな顔をするよね。でもね、さっきも言ったけどこれは君にとって結構重要なんだ。もっと言ってしまえば、君一人じゃない。ここの基地の人間にとっても重要なんだよ」

 

「そんな……。でもだからってどうしてそこまで……」

 

「ゆーこは僕が力を貸す代わりに今度は間違いなく美味い飯をご馳走してくれる約束をしてくれた。だから僕もゆーこの期待に応えるついでにそれもサービスしてあげようってわけさ」

 

「俺の成長は飯のついでなんですか?」

 

「ま、そういう事。という事でゆーこ、いいかな?」

 

ビルスは今までのやり取りを黙って聞いていた夕呼の方を向くと、改めて許可を求めてきた。

それに対して彼女は半分呆れた顔で投げやり気味な声でこう言った。

 

「安全なんでしょうね?」

 

「君が信じているたけるが本来ない記憶を植え付けられた程度で発狂しないくらいしっかりしているならね」

 

「なら問題ないわ。やってちょうだい。面白そうだし」

 

「ちょっ!」

 

あまりにもひどいやり取りに白銀は血相を変えて抗議しようとした。

だが、その時――

 

「失礼しますね」

 

いつの間にか白銀のすぐ横にいたウイスが、光り始めていた杖の先端を彼の頭に向けていた。

 

コツンッ

 

「……!!!!!」

 

情報の濁流が白銀を襲う。

その濁流の中には自分が知らない筈の頭を砕かれて無残な死にざまを晒すまりもや、重大な作戦中に力及ばず散っていく仲間の最期、そして最終的に掴むことになる小さな勝利に辿り着くまでに更に散る親友たちの姿と自分の最愛の人の真相もあった。

頭では理解できても心が悲鳴を上げるその状況で、白銀の意識は精神にこれ以上負担を掛けまいという防衛本能により途中でぷっつりと途絶えた。

 

 

 

そして数時間後――

 

「……はっ!?」

 

「やぁ、お帰り」

 

目覚めた白銀を迎えたのはビルスだった。

白銀はそれだけで、目が覚めるその瞬間まで自分が見てきたものは事実なのだと確信した。

そしてその事実、あり得た未来に現実感を急速に憶えていき……。

 

「あ、あああああああああ! うわ、あっ……うわぁぁぁぁぁ!?」

 

「……! 武!?」

 

突然悲鳴をあげて頭を抱える白銀に冥夜が心配して駆け寄ろうとした。

それを軽く手で制してウイスが止める。

 

「心配いりませんよ。少し混乱しているだけです」

 

ウイスの言う通り、さっきまで絶叫していた白銀は、まだ小さく震えながらも落ち着きを取り戻しつつあるようだった。

身を守るようにして自分の腕を抱き、俯きながらブツブツと何かを囁く白銀の口からはこんな言葉が漏れ聞こえた。

 

「あ、あ……神宮寺きょ……まりもちゃ……。純夏……? ゼロゼロユ……ぐっ、うぐぅ……ぁ」

 

「!」

 

漏れ聞こえた単語のいくつかに夕呼が僅かに反応する。

 

「少し休ませたらいい。どうせ今の状態じゃ何もできやしない」

 

「……そうさせてもらおうかしら」

 

ここに来てビルス達の得体の知れない力に言いようのない危機感を感じ始めていた夕呼は、なんとかそれを悟らせまいと努めながらビルスの提案に賛成した。

 

 

 

それから暫く後……。

 

「あれがハイヴか」

 

日本帝国唯一にして最大の攻略目標である佐渡島ハイヴ上空にビルスは一人ぽつんと浮かびながらそれを俯瞰していた。

白銀が倒れてから再び意識を回復するまでの間にBETAの相手をして暇をつぶす事にしたビルスは、目的地へ移動する為に夕呼の特別な計らいで用意された戦闘機に乗る事を促された。

しかし当然そんな物に乗らなくても一瞬で移動できるビルスは、彼女たちの目の前から早々に姿を消し、今こうして目的地の上空にいるのだった。

しかも目的地に着いた直後にそれを伝える為に夕呼を含めた基地の人間の意識に直接語り掛けたりした為に、横浜基地は一時かつてない程の混乱を見せる事態に陥ったのだった。

そして今、ようやく落ち着きを取り戻した基地では、ウイスの術によって杖から投影されたビルスの映像を、横浜基地司令官パウル・ラダビノッドと夕呼以下の幹部たちが集まり固唾を飲んでその様子を見守っていた。

 

「ん……?」

 

ビルスの存在を察知したのだろう。

見下ろしていたハイヴから無数のBETAが姿を現し、それを守るようにハイヴの周りに広がっていく。

続いて対空能力を持った超重光線級が重光線級以下の群れを引きつれて現れ、一斉にビルスに向けて射撃を開始した。

 

標的はビルスしかいない以上、BETAの攻撃が集中するのは必然だった。

故に、その閃光が地球上に存在する全ての物質にとって、抵抗の余地が皆無である必滅の光となることもまた、必定であった。

しかしてその閃光は当然の如くビルスに直撃し、彼は1秒と経たない内に地球から消滅した……。

と、思われたその時――

 

レーザーの光に包み込まれたかと思われたビルスは、なんと依然としてそこに存在していた。

それどころかなんとそのレーザーはビルスを通過できずに、壁に当たった放水よろしくビルスに当たったその場で分散していた。

その様は、制空権がほぼ存在しなくなっていたこの世界においてまさにその常識が覆った瞬間であった。

 

「……うるさいな」(単純な攻撃も嫌いじゃないけど攻撃している相手が魂が無い物置じゃ、それも仕方ないか)

 

レーザーの直撃を受けながらビルスは全く被害を受けた様子もなくおもむろに片手を上げると、今度は真正面からレーザーを防御する様にそれを遮った。

 

「……」スッ

 

「!?!?!?」

 

今までレーザーの射撃に対してビルスが抵抗をしていなかったので、攻撃していたBETAは単に徒労をしていたに過ぎなかったのだが、今度はそれを正面から押さえつけられる形でビルスが遮ってきたのでその衝撃とエネルギーははもろにBETAへと返ってきた。

吐き出していた光が熱の塊となって抗えない力になす術もなく逆流してきて超重光線級達たちを襲う。

BETAは抵抗する瞬間もなく一瞬で蒸発し、そこから爆心地のように灼熱の炎が燃え広がり群がっていたBETAの大群を燃やしていく。

 

「あ、しまった」(これじゃ余計に飯が食えなくなる)

 

燃え広がる炎がまだBETAに侵略されずに残っている植物などの貴重な資源に燃え移って、消失する事を危惧したビルスはすぐさま干渉の方法を変える事にした。

この時点でBETAにとって恐るべきだったのは、まだビルスがこの行為を攻撃として認識しておらず、ちょっと息を吹きかけた程度の干渉をしたくらいにしか思っていなかったという事だった。

 

「……」ギンッ

 

ビルスはクロノたちの世界で見せた威圧を、まだ地上で形を残しているBETAに向けて放った。

その見えない衝撃は、やはりあの時と同じように音もなく広がって地上にいたBETAを一瞬で一つ残らず塵にした。

 

パアッ……!

 

 

 

『こ、これは……!』

 

基地でその信じられない光景を見たラダビノッド司令は戦慄しながら驚愕に満ちた顔で目を見張った。

 

『……』

 

黙ってはいたが、心情は夕呼も同じだった。

これは本当にBETAよりヤバイ存在なのかもしれない。

白銀の記憶を“追加した”時からビルスに危機感を感じ始めていた夕呼は、その時科学者として明確に彼を警戒していた。

だが警戒したところでどうなるというのだろう?

あのレーザーの直撃を受けながら平然とし、それどころかそのまま反撃に転じている時点でビルスはもう彼女からしたら無敵の存在だった。

 

 

 

「……」(下のやつらが地上に出る度に同じことの繰り返しになりそうだな。一度上げるか)

 

ビルスはハイヴを見下ろしながら軽く指を横に振った。

すると、ハイヴの周りを覆っていた地面が彼の指の動きに合わせて土砂となって横薙ぎに根こそぎ巻き上げられ空中で何万トンともつかない土の塊となった。

 

(土はちょっとおいておこう。あれを破壊した後に穴を埋めるのに使ったらいいか)

 

土砂の塊をひとまず空中で止めたビルスは、続いて完全にその巨大な威容を現したハイヴに目を向けた。

そして、今度はまるでコップを持ち上げるような仕草で腕をあげ、不可視の力でハイヴを丸ごと空中高く吊り上げた。

 

ズ……ズズ……ォォォ

 

そのハイヴは、全長1500メートルはあろうかという巨大なものだった。

ビルスはそれを見つめながら何を思ったのかか感心した顔をする。

 

(はぁ……こんなのがいくつもあったらそりゃここの人間は堪らないな。というか弱い癖に本当によく耐えるよな。そこが面白いんだけど)

 

「ん……」

 

ビルスは僅かにハイヴの中から音を聞いた。

どうやらまだ相当数のBETAが中にいるらしい。

 

(出て来られても面倒だしな。取り敢えずまずこれを一個破壊しておくか)

 

「えーと、確か月にもアレはいるんだっけ。そこにぶつけるか。ん……」クィ

 

ビルスは月がある方向を見定めると、未だに浮いていたままのハイヴを軽く手で押すような仕草をした。

すると、ハイヴが突然猛スピードで彼方へと移動を始め、やがて成層圏に達してその熱で赤く光ったかと思うと、直ぐに見えなくなった。

ビルスはその様を満足そうに見届けてから基地にいる夕呼たちに連絡を取った。

 

「ゆーこ、聞こえるかい? 今この国のハイヴを一個月へ飛ばした。何、大丈夫さ。月は壊れないようにしたから。……ああ、うん。残りのやつもまた後で……ん? 時間? いや、今度はまとめて消すから次で終わりだよ」

 

今回の行いは人やBETAには悪夢でもビルスにとってはあくまで暇潰し。

破壊神ビルスの規模が小さい“優しい破壊”が今まさに始まろうとしていた。




白銀の成長については原作そのものにとって欠かせないものだと前から思っていたので、今回半ば無理矢理な形で実行する事にしました。

やはりマブラヴは難しい……。
ただでさえ下手くそな文が余計に酷く見えます。
でも、そこは修正と訂正と細やかな読者様の指摘を受けながらマシにしていこうと思います。

マブラブもビルス様も大好きなので。

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