デート・ア・ライブ 千璃ホロコースト   作:泰邦

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色々書いてたんですが難産過ぎて諦めました(おい
結局次の話に使おうと思ってたことを前倒しする形に。原作沿いでもそのものではない、みたいな部分が難しいですね。
……結局文字数はかなり減ったわけですが。


第十話:到来

 やはりというか当然というべきか。

 千璃はASTから最大級の危険災害扱いをされることとなった。今回だけでもASTのメンバーを七名ほど殺害している以上、当たり前の扱いだろう。

 陸上自衛隊・天宮駐屯地の一角にあるブリーフィングルームにて会議が行われ、千璃──というより<サイレント>の扱いが決定した。

 非戦闘員も含めたASTのメンバーは全員が仲間の死を悼み、それを引き起こした<サイレント>という精霊をより強く敵視する。

 中でも折紙の憎悪は特に凄まじい。

 親を殺され、同僚を殺され、それでもなおのうのうと生き続けている精霊が憎い。ほぼ確実に精霊であるとあたりをつけている夜刀神十香も、「反応が出ていない」と言って討伐の許可さえ出ない。

 精密検査でもすれば絶対にボロが出る。だからこそ折紙は上層部の意見に食いつこうとした──が、今やっても立場を悪くするだけだと、上司である遼子に言われて落ち着きを取り戻している。

 ──幾分ざわついていたが、隊長でもある遼子がブリーフィングルームに戻ってきた。

 上層部との会議などが長引いたのだろう。遼子は疲れた顔で部屋に入り、隊員が一斉に立ち上がって敬礼する。

 

「いいわ、座って」

 

 話題が話題であるだけに、重苦しい雰囲気を避けられない。

 死亡した隊員の亡骸は回収したし遺族に見舞金もでるが、それだけで済ませていい話では決してない。

 ただでさえ精霊の現界率が高いこの天宮市で、ついに死者が出た。

 今まででもそれほどの成果を上げていると言えたわけではなかったために、上層部はASTの補充要員を充てられることになった。

 当然、この場にいる全員の顔は良いものではない。

 確かに減ったASTのメンバーは補充しなければ今のままでは危険だ。だが、それがわかっていても自分たちが代えの効くコマのようにさえ思ってしまう。

 こればかりは仕方がない。人の気持ちだけで世界は回らないのだ。

 

「……気に入らないかもしれないけど、<サイレント>が能動的に殺人をする精霊である以上、現有戦力ではどうしようもなかったというのが上と、私の見解でもあるわ」

 

 実際に前回戦闘した時、ASTは千璃に翻弄された挙句燃料気化爆弾などというものを使われた。

 あの時は折紙も含めて数名の判断が早かったからこそ今も生きているが、そうでなければ死者はさらに増えていた。

 そして今回の狙撃。「<サイレント>は科学兵器を使う」と分かっていながら、狙撃という可能性を排除してしまっていた自分たちの視野の狭さを反省しなければならない。

 

「今回補充要員としてあてられたのは、世界でも五指に入るほど顕現装置の扱いが上手いトップエースよ。──実際、単独で精霊を殺害したことがあるみたいだしね」

 

 その言葉に、集められた面々は驚く。

 ASTの精鋭十人がかりでも手に余るような存在をたった一人で殺した。それがどれほどのことかは、実際に戦ったことのあるASTだからこそよくわかる。

 遼子は予想通りの反応を示すメンバーを一瞥し、部屋の外で待つそのエースに入るよう促す。

 入ってきたのは一人の少女だった。

 ポニーテールにまとめた青い髪。中学生ほどの幼さを残しつつも利発そうな顔。左目の下の泣き黒子が特徴的な少女。

 

「──祟宮真那三尉であります。以後、お見知りおきを」

 

 唖然とする隊員たちを尻目に毅然とした態度で自己紹介する真那。

 

「た、隊長、この子は……?」

「件のトップエースよ。……一応言っておくけど、実力は本当に本物よ。この前の映像を流すから、その辺に座ってて」

「はっ」

 

 文句を言わせる前に手早くことを進め、壁際のボタンを操作してスクリーンを天井からおろし、そこに映像を流す。

 一度目の千璃との戦闘は真那も事前に見せられていたため、今回流すのは先日ASTから死亡者を出した戦いだ。

 <ハーミット>を打ち倒そうとしたところで遠距離から狙撃され、次々と落とされていく仲間たち。その様子を映像で再度確認すると、誰もが怒りと悲しみを堪えるように拳を握る。

 

「……あの精霊を最優先で倒すべきではあるけど……自信はある?」

「出来るかできないかでいえば出来るでしょう。ですが、ちょっとばかりきつい相手ではありやがりますね」

 

 物質の創造。それは最早人の成しえる域ではない。

 だが、戦闘力という意味では突発的に生み出される破壊兵器に気を付ければなんとかなる範囲ではあるだろう。

 問題はその生み出される破壊兵器──核兵器まで創造できるというのであれば、それはもう空間震よりよほど現実的な脅威だ。真那一人では対処しきれない。

 

「私が追ってる精霊もこっちに来てるって情報もありますし、面倒でありやがりますね。……これはやっぱり、小隊の一つでも送ってもらった方がよかったでしょうか」

 

 真那はDEM社からの出向社員だ。陸自のASTよりも粒ぞろいの精鋭の中にあってなおかつアデプタス2というコードを与えられている真那は、一小隊くらいなら動かすことは造作もなかった。

 まぁ、動かすにしてもアデプタス1であるエレンに許可を貰う必要があるかもしれないが。上司を通さずに勝手に動かすといろんなところがうるさいのだ。

 

「……あの人も近いうちに来やがるって話ですし、大丈夫ですかね」

 

 ウェストコットに呼び出され、写真で<サイレント>の顔を見た時のエレンの驚きようを思い出しながら、真那はそんなことをつぶやいた。

 

 

        ●

 

 

 喫茶店の中は空調が効いており、六月になって蒸し暑い外とは大違いの過ごしやすさだ。

 昼時のその時間は昼食を楽しむ者たちも多く、近くの会社のサラリーマンなどがほとんどだ。そのサラリーマンたちがチラチラと視界の端にいれようとするのは、今までの人生でほとんど目にすることのない二人の女性だった。

 一人はウェーブのかかった金髪の女性。西欧系の顔立ちをした彼女はデニムと白のTシャツに薄手の赤いパーカーを着ており、店自慢のアイスコーヒーを飲んでいる。

 もう一人は黒曜のような髪の少女。長い前髪は顔の左半分を隠しており、右目しか見ることが出来ない。黒のブラウスとロングスカートという出で立ちの少女は、穏やかに微笑んだまま眼前の女性を見ている。

 

「……まずは、こっちの呼び出しに応じてくれたことを感謝するわ」

「いえ、わたくしも貴重な情報をいただけましたので、当然ですわ」

 

 コーヒーを置き、千璃が目の前の少女に礼を言うと、少女も同じように礼を言う。

 時崎狂三。それが少女の名前であり、千璃が求めた協力者でもある。

 精霊の中でも<刻々帝(ザフキエル)>という強力な『天使』を持つ存在だ。実力でいえば千璃でも危ないだろう。

 

「ですが……信じられないというのが正直なところですわね。精霊三人分もの霊力を身に宿した人間など」

「場合によっては更に増えていくけどね。元からそれだけの量を持っているわけじゃなくて、精霊の持つ霊力を自分の身に封印してるだけだから」

「それ、貴女もわたくしも霊力を封印されてしまう可能性もあるのでは?」

「キスさえしなきゃこっちのものよ。もしくは、彼に対して好意を持たなければいいだけの話」

 

 対処法などすぐに考え付く。要は口説き落とされなければいいだけの話なのだから、何も問題はない。

 くすくすと笑う狂三は可愛らしいが、千璃を射抜く眼光は鋭く、目は笑っていない。

 

「そもそもの話、どこでわたくしの目的を知りましたの? そうでなければ、わたくしに対してこのような取引を持ちかけはしないでしょう」

「別に貴女の目的を知っているわけじゃあない。単純に、<刻々帝>って天使が凄まじく燃費の悪いものだから──『十一の弾』と『十二の弾』を使いたいと考えていれば飛びつく。そう思っただけよ」

 

 狂三は目を細め、千璃の目的を探る。

 自身の『天使』の情報が知られていて、相手の情報はほとんどと言っていいほど存在しない。この時点で既に千璃は警戒対象だ。

 本能的に警戒心が先に出たあの青年といい、どうにもやりにくい相手だと感じる。

 

「……貴女としては、わたくしに何を求めていますの?」

「ちょっとぶち殺したい奴がいるんだよねぇ。個人的な復讐心だからそっちは自分で片付けたいけど、DEM社丸ごと敵に回すことになるわけよ」

「少しでも戦力が欲しいと、そういうことですの?」

「簡単に言うとね。貴女を追ってる魔術師(ウィザード)の、祟宮真那だっけ。あの子も大分強いほうだしね」

「ふふ、そうですわね」

 

 とはいえ、それはあくまでも人間の中でという話だ。単純な戦闘力でいえば十香にも迫るであろう実力者も、狂三の『天使』の前では歯が立たない。

 ──<刻々帝>は時間の操作を可能とする『天使』だ。その代償として霊力だけでなく自身の寿命さえも削るが、それは人間の寿命を奪うことで幾らでも補填できる。

 莫大な霊力を必要とする『天使』ではあるものの、その分強力無比な力を備えている。

 完全無敵という訳ではないものの、精霊の中でも群を抜いて強力な存在であることに間違いはなかった。

 

「普通の魔術師から見て、祟宮真那が反則とするならエレン・ミラ・メイザースは別次元。DEMの中でもあの二人だけが異常なまでに抜きんでてる」

「それはそれは……それほどの方から追われるなど、光栄ですわね」

「意外と笑い事じゃないけどねぇ、これ。祟宮真那はこっちに来たっていうし、エレンもこそこそと動いてるみたいだし」

 

 だが、逆に言うと各個撃破するには今が一番都合がいい。流石の狂三もあの二人を相手にするのは面倒だろうし、千璃としてもそちらが楽だ。

 

「同盟ってことでどう? 悪くはないと思うけど」

「そうですわね。貴女自身の強さはわかりませんが、自信がおありなのでしょう? こちらとしても期待させていただきますわ」

 

 千璃は武力を。

 狂三は情報を。

 科学という武器を使って世界の情報を集められる千璃は狂三にとって有益だし、強力な『天使』を持つ狂三は千璃にとって有益だ。

 無論、役割が逆になる可能性はあるがそれでもかまわない。互いに必要な部分を補えればそれで十分すぎるほどなのだから。

 二人は立ち上がり、千璃が支払いを済ませて店を出る。

 

「これからどうするの?」

「来禅高校に転入しようと思いますの。そのための準備もしてありますから」

「へぇ、士道君と同じ学校ねぇ。無いとは思うけど、籠絡されないようにね」

「ふふ、わかっていますわ」

「それと──本体によろしくね(・・・・・・・・)

 

 互いに笑いあう二人は握手を交わして反対方向に歩き出し、帰って行った。

 




感想とかあったらうれしいです。

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