マギとクウネル(ナギ)の試合が始まろうとしていた中、分身マギが率いているタカミチ&ちび刹那捜索隊(アスナ命名)はタカミチの反応が消えた地下水路へと到着していた。
「結構暗いな。お前ら、足元気を付けろよ」
先頭を歩いていた分身マギは後ろに居るアスナ達にそう呼びかける。
「一々言われなくても分かってます。ってきゃあっ!?」
言われなくても分かっていると返そうとした高音は、足元にあった管に足を引っ掛け転びそうになった。
が転びそうになった高音の腕を分身マギが掴み、高音が転ぶのを防ぐ。
「だから言ったろ、気を付けろって」
「あっありがとうございます……」
赤面しながら分身マギの手を離す高音。そんな2人の遣り取りをニヤニヤと見ていた美空。
「ほうほう、いい雰囲気っすね~」
「なんかおっさんぽいわよ美空ちゃん」
とアスナが美空にツッコミを入れたが、ふとある物に気づく。
駆け寄るとまだ中身が入ったタバコの箱だった。
「これ……高畑先生が吸ってたタバコ!やっぱり高畑先生ここで何かあったんだわ!」
「いやこれ、有名なタバコの銘柄じゃん。結構吸ってる人いるよ」
「こんな地下に来て吸う人なんていません!」
スッと高音がアスナと美空の言い合いを手で制した。何か前方から此方に向かって来ていた。
その何かとは田中だった。それも同じ田中が大勢と、田中軍団だ。
「たっ田中さん!?こんなにいっぱい!」
「おっお姉様どうしたんですか!?」
アスナは大量の田中に驚き、愛衣は高音の様子がおかしくなったのを見て慌てる。
目の前の田中に服を脱がされ痴態を晒してしまった事が高音のトラウマになってしまったのだろう。
分身マギ達を敵と判断した田中軍団は口を開きエネルギーを充填し始める。
「このぉ!来るなら来なさいよ!」
「神楽坂さん!お姉様の様子がおかしいんです!」
「私皆様の前で2度も素裸を晒したんですよね。フフ、フフフフフフ……」
ハリセン状態のハマノツルギを構えるアスナ。一方まったく使い物にならない高音を正気に戻そうとする。
そしてさりげなく美空はこの場をずらかろうとしていた。分身マギは田中軍団を見て頭を掻いた。
田中軍団の口からレーザーが一斉に放たれる。思わずアスナと愛衣は悲鳴を上げた。
「……たく一々悲鳴を上げるな喧しい」
レーザーはアスナ達に当たる事は無かった。分身マギが仕込み杖を構えて障壁を張ったからだ。
「俺が目の前のロボットどもを蹴散らす。アスナ、お前は援護を頼む。お前のハマノツルギはこいつらにはあまり効果がない。こいつらが使ってるのは魔法じゃないからな」
「わっ分かったわ」
「フゥ……さて、それじゃあ行くかぁ!!」
仕込み杖を構え、一気に田中軍団へと突貫する分身マギ。田中軍団もマギを近づけさせまいとレーザーをマギに向かって放ち続ける。
分身マギは瞬動術を使いながらレーザー群を紙一重で回避する。
「ふっ!」
間合いに入った分身マギは仕込み杖を一体の田中へと振るった。斬られた田中はまるで豆腐が切れたようにずるりと崩れ落ち、そのまま機能を停止した。田中軍団も腕や足を振るってマギに反撃をする。
分身マギ対田中軍団と激しい攻防戦が繰り広げられる。
「マギさんに続くわよ!」
「姐さん、闇雲に突っ込んでも意味がないですぜ。さっき使ってた奴を使うべきでさぁ!」
「カモ!アンタ何時の間に!?」
「気になってついてきたんでさ。話は後!もたもたしてるとやられますぜい!」
「うっうん!」
アスナは咸卦法で自信を強化し、田中軍団へと突っ込んで行った。近くに居た田中一体にハマノツルギを横に揮うと、田中は吹っ飛びそのまま地下水路を流れて行った。
「凄い……コレなら行ける!」
「油断したら駄目ですぜ姐さん。奥からまだまだ来てる!」
カモの言う通り、奥からぞろぞろと田中軍団が列をなしてきている。分身マギが斬っても斬ってもきりがない。
ふと後ろを向くと、美空がクラウチングスタートの構えをしていた。
「ちょ!美空ちゃん何逃げようとしてんのよ!?」
「いやぁ私のアーティファクトは戦うのには向いてないんだよね。だから……」
美空は一気に駆けだした。
「後はお願いねぇぇぇ!!」
「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
アスナが止めようとしたが時既に遅し。美空はすでに数百mまで走り去っていった。
「ほっとけアスナ、今は目の前の敵に集中しろ」
「でもマギさん!美空ちゃん勝手に逃げ出したのよ!?」
「いいから見ろ」
分身マギに言われ渋々と見ろと言われた方を見てみると、蜘蛛の様な8本足のロボットの上にミニガンのような武器を持った田中が、美空が逃げて行ったのと同じ方向へと向かって行った。
数秒後……
「ぎゃあああ!!何かごつい武器を持った奴と中ボスで出て来そうな奴が私の所にぃぃぃ!!」
「美空自業自得」
「ココネまでぇ!って今度は目の前からぞろぞろとうひゃぁぁぁ!!!」
美空が逃げた方向から連続で弾丸が発射される音とレーザーの音が連続で聞こえ、美空の悲鳴が地下水路に響き渡る。
「美空が何体かの敵の注意を引いている。今の内に蹴散らせるだけ蹴散らしていくぞ」
「……美空ちゃんの自業自得だけど、結構鬼ね」
顔色を変えずに淡々と言い終えた分身マギに冷や汗を流すアスナ。
さらに時間が経つ。分身マギとアスナと愛衣は次々と田中を撃破していく。
と分身マギの体がぶれ始める。
「……如何やら本体の俺が本気を出し始めたようだ。俺が動けるのはあと精々1時間あるかないかぐらいだ。此処からは一刻の猶予もないぞ」
分身マギがそう言っている間に、更に田中軍団が追加され、蜘蛛型のロボットと浮遊型のロボットが更に追加された。
「ねっねぇ、これ何時になったら終わるの?アタシそろそろ魔力が尽きそうなんだけど……」
「すみません私はMPが尽きてしまいました」
愛衣はもう魔力が尽きてしまい、戦力としては成り立たない。圧倒的に不利かと思われたが
「ふふふ、皆さんお待たせしました。正義の使徒、高音・D・グッドマンここに復活!私が戻ったからにはもう安心です!行きますよ!操影術近接戦闘最強お―――――」
高音が技名を叫んでいる最中に、蜘蛛型のロボットが高音にレーザーの発射口を高音に向けた。
へっ?高音が気が抜けた言葉を出している間にレーザーが高音に放たれようとしていた。
その蜘蛛型のロボットを分身マギが殴り飛ばした。
「何敵が大勢いる中で突っ立ってるんだよ。狙ってほしいのか?」
「うっうるさいです!そんなわけないじゃないですか!!」
「だろうな。んじゃ俺と試合やった時の奴を早く出してくれ。俺の時間もそろそろなくなってきたからな」
「わっ分かってます!操影術近接戦闘最終奥義!『黒衣の夜想曲』!!」
高音の背後にマギと試合の時に出した巨大な影の人形が現れた。
「さっさと行くぞ」
「一々命令しないでください!」
分身マギと高音がロボットの軍団へと突っ込んでいく。ロボット達がレーザーを放つが、高音の影がレーザーを全て防いでしまう。
「無駄です!この影の鉄壁の防御は破れたりしません!」
「だから一々べらべら喋るなっての」
無詠唱で魔法の矢を放つ分身マギ。即席のコンビとなったが、中々に2人のコンビネーションは合っていた。
分身マギに攻撃が入りそうになると、高音が影を操り、攻撃を防ぐ。
高音の背後ががら空きになると、マギが障壁を張りながら高音を護る。
次々と敵を蹴散らしながらも高音は高揚感を感じていた。
気になっている男性と背中合わせで戦い、自分達を襲っているロボ達を倒していく。高音が理想としている光景であった。
だが段々と分身マギの体が薄れ、ぶれ始めて来た。
「ヤバいな本体の俺の魔力が荒ぶってるみたいだ。俺の体も維持が難しくなってきたな……」
「ちょマギさん!?マギさんが居なくなると更に戦力ダウンなんだけど!?」
「後は任せたいんだけどな……だから油断はするなって言っただろうが」
「へ?きゃっ!?」
分身マギの体が消えそうになっているのを高音は見て、高音は動きを止めてしまった。
その高音を田中がを放つ。分身マギが高音を引っ張り、高音をレーザーから避けようとするが、分身マギの腕にビームが当たり、分身マギの腕が消えてしまった。
「成程、分身の俺は、服じゃなくて体ごと消えるんだな」
「ちょ!マギさん痛くないの!?
「分身だからな痛みとかはないぞ」
「うっ腕……マギ先生の腕が……くぴゃ!?」
目の前で分身マギの腕が吹き飛んだのを見て、ショックで固まってしまった高音に、容赦なく田中が高音にレーザーを撃つ。
レーザーが直撃した高音は全裸になってしまった。
「おねぇさまぁ!!」
高音が全裸になってしまったのを見て、悲鳴を上げている愛衣にもレーザーを当てる田中。
全裸になった高音と愛衣。戦力は消えかけている分身マギとアスナだけ。
「悪いアスナ、俺あと少しぐらいで消えそうだわ」
「えぇ~……アタシ一人でこれ全員相手にするのは無理なんだけど……ごめんなさい高畑先生、アタシ貴方を助けるどころか、こんな所で全裸になって倒れることになりそうです……」
死ぬ事はないのだが、完全諦めモードなアスナ。確かにこれを1人で相手にするのは骨が折れる以前の問題だ。
「まぁこいつ等を1人で片づけるのは無理があるか……アスナ伏せろ」
「へ?」
「いいから伏せろ。若しくは屈め」
分身マギはアスナの頭を強引に掴むとその場で屈んだ。瞬間轟音と一緒に、田中たちが1体も残さずに吹き飛んだ。
「なっ何何!?」
アスナは目の前で全滅した田中を見て混乱を隠せなかった。
「……やれやれだぜ。最初から自分で動こうと思えば動けたのか」
呆れたような独り言をつぶやく分身マギ。へ?と分身マギが言った事に首を傾げるアスナだが、分身マギの見ている方向を見てみると
「すまない、心配をかけたようだね」
スーツが少し汚れているが、大事の無いタカミチがタバコを咥えていた。
「高畑先生!」
タカミチが元気そうなのを見て、アスナは顔を輝かせながら喜んだ。
「私もいます!」
タカミチの背の後ろからちび刹那も元気そうに手を振っていた。
更に目を回して気絶している美空とココネ。此方に会釈している五月の姿があった。
「何だよ元気そうじゃねぇか」
「ちょっと失敗してしまったけど、こういった場面は何回か会った事があったからね。もう慣れっこさ」
「まぁ無事で安心した」
と分身マギの足が段々と消え始めて行った。どうやら時間の様だ。
「タカミチが無事ならもう俺の役目は終わりって言う事でいいか?正直俺の方は限界に来ちまったんだが。タカミチ、後は任せるわ」
「あぁ、マギ君ありがとう。僕がヘマをしたばかりにアスナ君達には迷惑をかけてしまった」
「アスナはそう思ってはいねぇだろうさ。んじゃ俺は此れにて失礼するぜ」
分身マギは元の身代わりの紙へと戻り、持っていた仕込み杖がカランと落ちる。
分身マギが消えた後、アスナ達はタカミチの案内の元、さっきまで超が居たとされる場所へ向かったが、そこはもぬけのからで、手がかりを掴めることが出来なかったアスナ達は武道会場へと戻る事にした。