帰って来る時間が深夜と疲労がたまるので全然指が進まない……
「ねぇネギ、マギさんどうしちゃったのよ……」
「わかりません。僕が戻ってきた時にはお兄ちゃん、あんな調子でした」
ネギとアスナはヒソヒソ声で話していた。
「なぁなぁマギさん、どうかしたん?」
「……別に、何でもねぇよ」
ネギが戻ってみると、マギがピリピリした状態になっていた。このかが訪ねても別にの一点張りである。
とふとマギが上を見上げた。
「おい、避けねぇとあぶねぇぞ」
と言って数歩下がるマギ。マギにつられ上を見上げてみるネギ達。見上げると褐色の少女のシスターとアスナ達と同い年位のシスターが落ちてきた。
慌ててその場から離れるネギ達。シスターはネギ達が居た場所に丁度着地した。
「ふぃ~。さぁって高音さんを探しますかねぇ~。アベアットと」
シスターがアーティファクトを解除する呪文を呟くと、彼女が履いていた靴が光、カードへと戻った。そしてカードにはMISORAの文字が書かれていた。というか同じクラスの美空であった。
ふと視線を感じたシスターもとい美空は周りを見渡してみると、おなじみの顔ぶれのアスナ達が凝視している。
やっべ……と内心思った美空は他人のふりをしてその場を去ろうとしたが、アスナが美空の肩を掴んだ。
「美空ちゃん!美空ちゃんでしょアンタ!?何やってんのよこんな所で!?何よそのカードは!?」
「いえいえいえ、ワタシ美空という者ではアリマセン」
「嘘つきなさい!クラス短距離で1・2位を争ったアタシの顔を忘れたとは言わせないわよ!!アンタも魔法使いだったの!?こっちを向きなさい!」
「いえ私、美空ではありません」
美空ではないと言い切る美空。対応が段々と面倒な方向へ進んでいく。
「んじゃナゾのシスターさんと言う事にしておくから、何でここに来たのか説明しろよ」
「なんか投げやりっすねマギ先生。まぁいいや、高音さんに用があったんすけど、高音さんいますか?」
「ん?高音ならあそこだ」
くいっと親指である方向を指すマギ。美空はその方向を見てみると、見るからに落ち込んでいる高音とその高音を必死に慰めている愛衣の姿が其処にあった。
「一応聞くっすけど、何があったんすか」
「……アイツの面子とかそう言うのもあるから深くは聞かないでくれ」
異性に二度も裸を見られた高音については詮索しないでほしいとそう美空に言っておくマギ。
「でも高音さんに接触しろってシスターシャークティーに言われてるし、しゃあない」
落ち込んでいる高音には気にも留めないで、近づく美空。結構マイペースなんだなと思ったネギ達も高音の元へ向かう。高音に近づくと不意に顔を上げる高音。
「貴女は美空さん。どうしてここに」
「だから私は美空では……あぁもう何かメンドイからもういいっす」
誤魔化すのが面倒になった美空は、超を調査するために地下へと向かったタカミチの反応が突然消えたと言う事で、魔法生徒で実力のある高音に向かってもらいたいとのことである。
美空の話を聞き、さっきまで落ち込んでいた様子が消え、直ぐにでも向かうと言った高音。だがしかし
「アタシも行く!」
気になっているタカミチが行方不明と言う事で、自ら向かうと言ったアスナ。これには美空や高音は反対する。アスナは魔法に関わっているが、魔法生徒と言う訳ではないのだから。
なら刹那はどうかと思ったが、彼女はネギとの試合でのダメージが完全に消えてないために逆に足を引っ張ってしまう。
「だったら僕が……」
「アンタは駄目よネギ。アンタはまだ試合が残ってるんだから」
「でも……」
「でももへちまもないわよ。アンタはこの大会に自分から出たいって思ったんだったらちゃんと最後までやりなさい。少しはアタシを信じなさい。アンタのパートナーなんだから」
アスナに言い切られてしまい、ネギは何も言えなかった。するとさっきから黙っていたマギが刹那に近づいた。
「刹那、身代わりの紙持ってるか?」
「ええ、持っています」
「悪いが一式貸してくれ」
「分かりました。どうぞ」
刹那に身代わりの紙と筆ペンを貸してもらい、一回で自分の名前を書けたマギ。身代わりの紙に、自身の魔力と気を少しづつだけだが送る。
そして紙が光、マギの分身が現れた。目の前でマギの分身が現れた事に驚く高音と愛衣。
「俺の分身も連れて行こう。限られた時間しか動けないが、戦力は多いに越した事はないだろう。そう言う事だから任せるわ」
「あぁ任せろ」
仕込み杖を渡された分身マギはアスナや高音と愛衣に美空達を連れて地下へと向かおうとしたが、足を止めマギの方を見た。
「さっきまでの記憶は引き継いでいるからな。今の俺の心の内は分かってる。分かってるからこそ言うが、変に爆発なんてするなよ」
「……あぁ分かってる」
言いたい事はそれだけだと言い残して、分身マギは今度こそ地下へと向かった。そしてマギも会場へと向かう。
「おいマギ」
頭にチャチャゼロを乗せたエヴァンジェリンがマギを呼び止めた。
「お前の分身が怒りをあらわにするなと言っていたが、アイツには逆に遠慮などするな。アイツの舐めた態度を見返してやれ」
「エヴァ……」
「偶には私もお前のそのな……えっと……」
「ハッキリ言エよ御主人。オ前のカッコイイ姿を見てェッテよ」
「うるさいバカ人形!えぇい!くどいようだが遠慮などするな!思い切り戦え以上だ!!」
言い切ったエヴァンジェリンは恥ずかしさを隠すかのように大股で去って行った。
頭を掻きながら、思い切り戦えね……と呟きながら会場に立つマギ。
「待っていましたよマギ君。君と戦う事に」
「そうかい。俺はアンタに確かめたい事があるんだけどな」
和美の実況など耳に入っていないマギは拳を構える。対するクウネルは構えない。不敵に笑っているだけだ。
『それではファイト!!』
和美の合図と同時にクウネルの周りに無数と呼んでもいいほどの本が浮かび上がる。
マギはクウネルが自分にアーティファクトのカードを見せ、それがクウネルのアーティファクトだと読んだ。
「ふふふ、私は貴方と戦って見たかった。今こそ私の本名を名乗りましょう。我が名はアルビレオ・イマ。サウザントマスター、ナギ・スプリングフィールドの友人です。ですが私の事は今迄通りクウネル・サンダースと呼んでください」
「アンタの事は如何でもいい。というか、あんたの本名詠春さんから聞いてるから。それよりもさっきのタネをさっさと教えろ」
「せっかちですね。いや、それよりも焦っていると言った方がいいでしょうか。ではお見せしましょう。そして私も10年来の友との約束を果たす事が出来ます」
そう言うと、クウネルの周りに浮かんでいた本の1冊を手に取る。
ページを何枚か捲ると一枚のしおりが顔を出す。それはクウネルはすかさず取る。
するとしおりが光、光がクウネルを包み込む。マギは思わず腕で顔を覆い、光から目を護る。
そして光が晴れると、そこにいたのはクウネルではなく、タカミチよりも年上な男性が現れた。
「アンタは……」
「ふふ」
行き成り姿が変わった事に驚いているマギに対して、男は瞬動術でマギの背後に回った。
マギは避けようとするが、男はタカミチと同じ居合拳を数発を敢えて外し、水煙で会場にマギの姿を隠す。
「流石はガトウです。素晴らしい威力ですね。今の攻撃でマギ君貴方は理解したはずです。私のアーティファクト『イノチノシヘン』の能力は特定の人物の身体的特徴の再生です」
と今度は詠春それも若い姿へと変わった。得体の知れない能力にマギは動けないでいた。
「しかしこの能力は自分より優れた人物はわずか数分しか再生できず、余り優れた能力ではありません」
と今度はネカネに変わる。しかも声も変わる為に、ホントに目の前にネカネが居るとしか思えないマギ。
「私の趣味は他者の人生の収集。この魔法書一冊一冊にそれぞれ一人分の半生が記されています」
そしてとまた一冊の魔法書を手に取るクウネル。
「そして我がアーティファクトのもう一つの能力。この『半生の書』を作成した時点での特定人物の性格記憶感情、全てを含めての『完全再生』」
それを聞いて、マギはクウネルが何をしようとしているのか大体理解してきた。
「もっとも経った10分しか再生出来ず、再生が終わった魔法書もただの人生録になってしまうため、これも余り使えない能力です。使えるとしたら、動く遺言……それ位しか使い道がないかもしれませんね」
「遺言……」
また元の姿に戻り、不敵に笑うクウネル。それと同時に水煙が晴れる。
『水煙が晴れて状況が分かるようになりました!クウネル選手はまたフードをかぶっているが、マギ選手は呼吸が荒いぞ!水煙の中で何が起こっていたんだぁ!?』
マギは荒い呼吸を整えようと深く深呼吸する。もう周りは見えておらず、クウネルの事しか見えていなかった。
「では本題です。10年前、我が友の1人からある頼みを承りました。まだ幼い息子と、まだ見ぬ息子に何か言葉を残したい……と」
動悸が早くなり、胸が苦しくなったマギは必死で胸を押さえていた。
「心の準備はよろしいですか?時間は10分、再生は一度限りです。では……」
「まっ待てよ!あの時っあの6年前の雪の日、あれはテメェだったのかクウネル!?」
「6年前、私は何もしていません」
そしてさっきよりも強い光がクウネル、マギ、そして会場を覆った。
マギは目を凝らしながらクウネルを見た。
もうそこにはクウネルは居らず、一人の男の周りに白いハトが数匹集まっていた。
風でフードがフワリと脱げ、マギとネギと同じ赤髪の男が立っていた。
そして男は振り返り、マギを見てニヤリと笑う。
「よぉ。若しかしてマギか?大きくなったなぁ」
マギとネギの父親、ナギ・スプリングフィールドが其処にはいた。
「あっあぁ……」
マギは開いた口が塞がらなかった。まさしく自分の父ナギであった。
「ぺっぺなんだよこの鳥たちはよぉ。アルの奴、また過剰な演出しやがって」
「……」
口に入っていた鳥の羽を吐き出すナギにマギは無言で駆けだした。
「親父!!」
マギの親父発言に会場はどよめきだす。まさかクウネルが本当にマギやネギの父親だとそう思っているのだろう。
「親父……」
会場のどよめきなど目もくれず、マギはナギに一直線に向かう。
観客の殆どは、マギが生き別れになった父親と漸く再開したと思ってるのだろう。中には涙ぐんでいる者もいる。
……だがマギの心の内は会場が求めているような御涙頂戴の展開とは程遠い。
「親父……っ」
自分はマギは
「親父っ!」
目の前のナギを……
「クソ親父ィィィィィィィィィっ!!」
ぶん殴ってやりたかったのだから。
魔力を込めた本気の拳をナギの顔面に容赦なく振るった。
ナギは咄嗟にガードする。マギの拳とガードしたナギの腕がぶつかり合い、衝撃波で会場が罅割れ、水しぶきが上がる。
『えぇぇぇぇぇぇっ!?』
会場の人達は目を飛び出す位に驚いた。皆漸く会えた父親と抱擁とかするのだろうと思っていたからだ。
だが結果は、家庭が崩壊するかもと言った暴力沙汰だったからだ。
「おいおいマジか……」
ナギはマギの本気の一撃を防ぎながら、冷や汗を流しながら乾いた笑みを浮かべていた。
「会いたかったぜクソ親父、俺はテメェをぶん殴る為に……目の前のテメェが偽物でも構わねぇ。本物のクソ親父に会うための前哨戦だ。テメェをぶちのめしてやるよぉ……っ!覚悟しろよクソ親父!」
マギは怒りで無詠唱で闇の業火を手に集め掌握し、夜叉紅蓮となる。
ナギとマギの戦いが今始まる。