堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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幸せの道

 小太郎とネギの試合の次は、刹那とエヴァンジェリンの試合だ。

 

 

「せっちゃん、次の試合頑張ってな」

「はいお嬢様」

「相手はエヴァちゃんだし無理しないでね」

 

 

 ネギの怪我をこのかのアーティファクトで治しながら、アスナとこのかが刹那を応戦していた。

 そして少し離れた所で

 

 

「……」

 

 

 不機嫌そうなエヴァンジェリンが刹那達の会話を聞いていた。

 

 

「どうしたんだエヴァ?」

 

 

 不機嫌そうなエヴァンジェリンに声をかけるマギ。

 マギに声をかけられ、振り向いたエヴァンジェリン。

 

 

「いや、桜咲刹那だが……随分と腑抜けてしまったなと思ってな」

 

 

 苛々したように答えるエヴァンジェリン。

 

 

「腑抜けた?」

「お前や坊やが来る前の桜咲刹那は鋭く冷たく、まるで刃の様な女だった。だが坊やとマギがが桜咲刹那とあのお嬢様との関係に割って入り、あの2人が昔の様な仲良しになった途端あれだ。以前の様な冷たさは消え、神楽坂と言った弟子を取り刃もすっかり衰えてしまった。中途半端な幸せを手に入れて浮かれて、腹が立っているんだ私は」

「中途半端?」

 

 

 マギが首を傾げる。エヴァンジェリンは話を続ける。

 

 

「まだ中学生だからと甘い事は言えない。5、600年も化け物をやってたら人間がどういう目で私達を見ているのかよく分かる。まだお嬢様や坊やや神楽坂が味方しているからいい。だが世の中の闇が優しいものじゃないと言う事を知らないとな」

 

 

 そう言って控室から出ようとするエヴァンジェリン。

 

 

「この試合で桜咲刹那にどれ程の覚悟があるのか確かめる。もし駄目だったら容赦なく沈める。試合の中で精神を揺さぶる事を言うが、神楽坂が何か喚くかもしれないがお前は何も言うなよ」

「そうか。でも刹那やこのかが悲しむことを言うのはあまり止めとけよ。それにエヴァが無理に悪役になろうとするのは俺はヤダな」

 

 

 悲しそうな顔を浮かべるマギにフッと微笑み、エヴァンジェリンはマギに屈むように指示する。

 屈んだマギの頬をエヴァンジェリンは優しく撫でる。

 

 

「お前は優しいなマギ。そういう事を言われると、私も腑抜けてしまいそうだ。桜咲刹那の事を言えないな。だが……それとこれは話は別だ。私は『闇の福音』。偶には悪役にならないと貫禄が無いからな」

 

 

 それだけ言い、エヴァンジェリンは今度こそ控室から出ていく。恐らくエヴァンジェリンと刹那の試合は色々な意味で荒れるであろう。

 無事に試合が終わって欲しい。そう思うマギであった。

 

 

 

 

 

 

 エヴァンジェリンと刹那の試合だが、試合は一方的な展開となってしまった。マギに封印を解いてもらったエヴァンジェリンに刹那が敵う訳もなく、体術でなぎ倒される。刹那が攻めても合気道で返す。さらに糸を使って刹那の身動きを封じるなどと、刹那は手も足も出ていなかった。

 しかも鈍い音がしているが、本気を出していないエヴァンジェリンは刹那が気を失わないように力を抜いて攻撃している。

 さらに

 

 

「お前の翼白かったなぁ。髪は染めたのか?瞳はカラーコンタクトか?クク、何とも浅ましい事をするもんだな」

 

 

 現在糸で雁字搦めにして、身動きが出来ない刹那は、言われたくない事をエヴァンジェリンに延々と言葉攻めで攻めている。刹那は目に涙を溜めはじめた。

 遂には外野であったアスナがキレて喚き始めると言ったネギだけでは手に負えない状況へとなった。

 エヴァンジェリンはアスナが怒鳴り散らしているのを呆れた溜息を吐きながら聞いていた。

 

 

「桜咲刹那、私の目を見ろ」

「え?」

「いいから見ろ」

 

 

 エヴァンジェリンの目を見た瞬間、刹那は固まりエヴァンジェリンも固まったかのように動かない。

 両者がピクリとも動かなくなり、観客もどうしたのかとザワザワする。

 

 

「エヴァが幻術を見せてるな。今刹那とエヴァは幻術の中で戦っているみたいだ。ネギ、お前アスナと一緒に行って見てきてくれ。俺はこっちで待ってるからさ」

「うん分かったよ」

「マギさん。マギさんは何とも思わないの!?刹那さんの事を色々と言ったエヴァちゃんの事を……」

「言い方はあれだが、人ならざる者として長く生き続けてたエヴァとしては、刹那に物申したいんだろ。俺はこの戦いには干渉はしない。それにコレぐらいで折れるぐらいなら、刹那はこのかを護るのが今後難しいだろうさ」

 

 

 エヴァンジェリン寄りのマギの考えに、アスナは何も言えなかった。ネギはアスナとカモとチャチャゼロを連れて、エヴァンジェリンの幻術に入り込むことにした。

 

 

「マギさん、せっちゃん大丈夫なん?」

 

 

 このかが刹那の事を心配し、マギに大丈夫かと聞いてくる。

 

 

「このかは刹那の事を信じてるんだろ?だったら刹那が勝つことを信じないとな」

「でもマギさんはエヴァちゃんに勝ってほしいと思ってるやろ?」

 

 

 マギは疲れて寝てしまったのか、頭の上に寝ているプールスを撫でながら

 

 

「まぁエヴァは素直じゃないからなぁ。今の刹那を見てて心配だと思った所があるんだろ。今回は刹那の一つの試練として取ればいいだろうさ。エヴァに勝ってほしいてのもあるけどな」

 

 

 とこのかと話していると、幻術が解けたのかエヴァンジェリンと刹那が動きを見せた。刹那が気で自身を雁字搦めにしていた糸を吹き飛ばし、モップを構え突っ込んだ。

 対するエヴァンジェリンは何もせずにニヤリと笑っているだけ。そのままエヴァンジェリンの胴に一閃入れた刹那。そしてそのまま倒れ込む。

 

 

「せっちゃん!」

「行けよこのか。たぶん勝負はついただろうからな」

 

 

 マギがそう言っている間に、エヴァンジェリンはギブアップを宣言。刹那の勝利が決まった。

 

 

「おやキティが負けてしまいましたか。これは意外ですね」

「アンタは急に出てきて背後に立つなよ。ビックリするから」

 

 

 背後に立っているクウネルにツッコミを入れるマギ。これはすみませんとニヤニヤと笑うクウネル。

 

 

「キティにはツンデレの要素がありますからね。素直に刹那さんが心配だと言えないんですよ性格上」

「エヴァの奴、長年悪の魔法使いって呼ばれてたからな。貫禄ってものを見せたいんだろ。無理して悪ぶらなくてもいいと思うんだけどな」

「それにしても刹那さんはよくやりましたね。いやはや少女の成長と言うのは輝かしいものがありますね」

「アンタが言うと危ない匂いがするのは何でだろうな」

 

 

 ワイワイと騒いでいるエヴァンジェリン達をニヤニヤと見ているクウネルを見て、コイツに女子生徒を近づけさせるのはいけないと思ったマギである。

 

 

 

 刹那の怪我を治すために、保健室で治療をしているこのか。そしてアスナとエヴァンジェリンは付き添い。ネギとマギは刹那が服を脱いで治療すると言う事で保健室には居ない。

 

 

「うんこれで大丈夫や」

「ありがとうございますお嬢様」

「ふん。手加減してやったんだ。それほど大した傷じゃないだろう」

「もうエヴァちゃんは……」

 

 

 怪我が治った刹那はエヴァンジェリンに向き合い。

 

 

「あのエヴァンジェリンさん。試合が始まる前に生まれつき不幸を持った私には共感を覚えると言ってましたが、あなたも不幸を背負っていたと言う事ではないですか?」

「言ったな。だが特に意味はない。忘れろ」

「ちょっとエヴァちゃん、刹那さんに色々言ったくせに。刹那さんが勝ったんだから、今度はエヴァちゃんが話す番でしょ」

 

 

 アスナが目で早く話せと語っている。仕方なく折れる事にしたエヴァンジェリン。

 

 

「話すが、正直言って面白い話じゃないぞ。それに血生臭い所もある。それでも聞くか?」

 

 

 

 アスナ達が頷いたので、エヴァンジェリンは自身の過去を話した。

 エヴァンジェリンは中世の欧州にて、領主の城に預けられ何不自由のない少女時代を過ごしていた。

 10歳の誕生日、エヴァンジェリンはある男に吸血鬼に変えられてしまった。その男に復讐を果たした後に、エヴァンジェリンは城を出た。そこからは苦難の連続であった。

 吸血鬼の体に慣れるのに数十年。最初のころは吸血鬼らしい弱点も残っていた。

 魔女狩り時代では同じ場所には長くはいられない。体が成長しなければ疑われる。一度ヘマをして焼かれてしまった事もあった。

 魔法使いの国にも受け入れられる事は出来ず、エヴァンジェリンを討伐しようとしてきた者達も悉く返り討ちにし、殺していった。人を殺さなかった時期もあったが、人を殺し続けていた時代と比べたら短い時間である。

 100年200年と生き続けていたら、人を殺す辛さ。人に恐れられ、化け物として見られる悲しみ。どれもが薄れていき、楽になっていった。

 

 

「分かるか?私は人並みの幸せを得るには人を殺し過ぎた。何よりも長く生き過ぎた。だからこそ桜咲いや刹那、お前はまだ間に合う。お前は幻想空間の中で私に剣と幸福、どちらも諦めないと言った。もう一度言おう。剣を捨て、人並みの幸せを得るのも悪くはないと思うがな」

 

 

 エヴァンジェリンの話を聞き、アスナ達は黙っていた。だがこのかだけは違った。エヴァンジェリンの方を向き

 

 

「そんな事言ったら駄目だえエヴァちゃん。エヴァちゃんだって幸せになっていい権利はあるんやから」

「お前は私の話を聞いていたのかお嬢様?私は人を殺し過ぎた。人の幸せを奪ってきたんだぞ」

「でもエヴァちゃん、マギさんの事好きなんやろ?好きな人に好きって言わなかったら、自分から幸せを手放したら悲しいえ」

「っ!のほほんとしたお前に何がわかる!……そりゃ私だってマギに好きだと告白して、マギと付き合いたいと思ってるさ。のどかや茶々丸に負けないと宣言したさ。けど私は不老不死の吸血鬼。愛している男が老いて死んでも私は生き続けている。刹那を見て私もとそう思っている。けど私みたいな奴が幸せになっちゃいけないんだよ」

 

 

 エヴァンジェリンは自分が幸せになってはいけないとそう自分に言い聞かせる。そんなエヴァンジェリンの後頭部をアスナがはたく。

 

 

「何馬鹿な事を言ってるのよエヴァちゃん。女の子が幸せを捨てじゃ駄目なのよ。いい?女の子はね、幸せになっていいんだから。マギさんにちゃんと好きって告白しなきゃ!」

「なっお前は何を言ってるのか分かってるのか神楽坂!私がどれほどの人間を殺したのか、教えてやろうか!」

「う~ん、アタシ馬鹿だからそう言う難しい事言ってもよく分からないから。でも大丈夫、何とかなるって」

 

 

 サムズアップをするアスナ。根拠も何もないのに、そこまで自信満々に言い切る自信は何なのか。馬鹿らしく、呆れかえってしまったエヴァンジェリン。

 

 

「そう言う事を言うんだったら、タカミチに告白してから言うんだな」

「んな!?そう言うエヴァちゃんもそう言ったつんけんな態度ばっかしてると、マギさんに愛想尽かされちゃうわよ!」

「お前には言われたくないわ!このアンポンタン!」

「うっさいバカエヴァちん!」

 

 

 刹那とこのかをほっといて、取っ組み合いを始めたアスナとエヴァンジェリン。その光景を苦笑いを浮かべながら見ている刹那とこのか。

 このかに向き合う刹那。

 

 

「お嬢様。私はお嬢様を護る役目、そして幸せになる事を手放しません」

「うんせっちゃん」

 

 

 このかは刹那に笑いかけた。そして刹那は改めて誓う。剣の道と幸せの道。どちらも諦める事は絶対にしないと。そう誓ったのだった。

 

 

 

 

 


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