麻帆良の図書館島にて、一般の学生には知られていない秘密のイベントが行われていた。
その名も『麻帆良祭㊙コスプレコンテスト』。
その会場に、千雨が可愛らしい格好でウンウンと唸っている。出ようか出ないかと迷っているようだ。そこに
「あっいたいた。ちさじゃなかった、ちうさーん!」
「おうちう。探したぜ」
「げえっ!?」
千雨は少しの間固まるが、マギとネギの手を引っ張りあやかと小太郎から離れ、何故ここに居るのかを問い詰める。これはゲリラ的イベントで一般の生徒は誰も知らないはずだと。
千雨の慌て具合に首を傾げるマギとネギ。
「いやお前が自分のホームページにここのイベントの事書いてたし」
「参加しようかしないか迷ってるって言う事も書いてましたよ」
「ってなんでアンタらが知ってるんだよ!?」
「さっきも言ったように俺とネギ、毎日お前の日記読ませてもらってるし」
「僕とお兄ちゃん、色々な人からパソコンの使い方を教えてもらいましたから、今じゃ自分達でチェックしてます」
2人は吸収するスピードが早い。今では普通にパソコンを使う事が出来る。マギとネギが日記を毎日楽しく読んでると聞かされ、秘密の活動が簡単に特に最近気になってるマギにばれた事に恥ずかしくなる千雨。
「それで出るんですよね?コンテスト」
「えっそれはあたしは……」
「俺としては、千雨のコスプレを見たいだけどな」
マギがコスプレを見たいと言い、千雨もそれで揺らいでしまう。そしてマギに手を引っ張られ、あやか達が居る場所まで戻る。
戻ってみると、まき絵が居る。何でもネギの姿を見かけた様で、後をつけてきたようだ。彼女もネギの事が気になっているようだが、あやかよりもネギの事を弟のように見ているのが強いとマギは見ている。
そのまき絵がコスプレコンテストとは何かを聞かれ、ネギが分かりやすく教えると、まき絵とあやかがコスプレコンテストに出る事になったのだ。
「しっかし、改めて人が多いな」
「うん。この人たちは仮装するのが大好きなんだね」
マギとネギは大勢の人達がゲームやアニメの格好してるのを見て、彼らは本当にコスプレが好きだという思いが伝わる。
「あのマギさん。あたしはコンテストには出るつもりはないんだけど」
「え?何でだ?」
「あたしはこんなくだらないイベントに出ないで、ネットの中でコスプレできればいいんです」
としぶっていると、あやかとまき絵が衣装に着替えて来た。と言っても恰好はあやかがナースで、まき絵はネコミミに体操着という格好だ。
千雨は2人の恰好に憤慨して物申す。今回はキャラクターコスプレと言う事で、そう言ったコスプレはお門違いというのだ。
キャラクターコスプレとはなんなのかを熱く語る千雨は、自身が持っている魔法少女ビブリオンなる作品の衣装を貸してあげる。
ポーズを教えたりして、ご満悦の千雨。そんな千雨を見てクスリと笑うマギ。
「千雨がこんなにテンションが高い所を見るなんて、新鮮だな」
「はっ!あたしとしたことが、こんなみっともない所を」
マギに自分が熱く語ってる所を見られてしまい、狼狽する千雨。
「そこまでコスプレを熱く語れるのに、なんで千雨は出ないんだ?」
「あたしはあの2人みたいに、美人じゃないし可愛くもない。普通の女子中学生です。あたしが出たって結果は見えています。リスクの高い勝負はしない主義なんです」
だからほっといでください。と千雨は冷めた表情で言い切る。千雨は自身を卑下して見ている。それが彼女の生き方なのかもしれない。
「そうか?俺は千雨の事は可愛いと思うけどな。HPを抜きにしても、俺はお前の事は可愛いと言い切るぜ」
「……どうしてアンタはそう平気でそんな事を言えるんだよ」
ポツリと千雨が呟いていると、マギが
「なぁ千雨、出てみないか?俺と一緒にさ」
「はあ!?マギさん、アンタコスプレやった事あるのかよ?」
「ない。でもたまにはリスクの高い勝負をやってみるって言うのも、案外うまく事が運ぶかもしれないぜ?」
そう言いながら、半ば強引にマギは千雨と一緒にコスプレコンテストに出る事にしたのであった。
コンテストの壇上で、あやかとまき絵がパフォーマンスを行っている。小太郎は恥ずかしがらずに良く出来ると言っているが、逆に恥ずかしがると、客の方が恥ずかしくなると千雨はそう言う。
「しっかしコスプレって自分で着てみると、別の人になったみたいだ」
「なんであたしがこんな目に」
黒い騎士の恰好をしたマギと、小悪魔の恰好をした千雨が立っている。千雨のコスプレはビブリオンのライバルでマギの黒騎士はその小悪魔を護る騎士の設定だ。
「なぁマギさん、あたしは眼鏡を取って人前に出られないんだよ。緊張しちゃって」
「大丈夫だ。俺が近くにいる」
見れば千雨が震えているのが見える。マギはその震えを解こうと肩をそっと触れる。
『18番19番、長谷川千雨さんマギ・スプリングフィールドさん!キャラクターはビブリオン敵幹部『ビブリオンルーランルージュ』そしてルージュを護る黒騎士『シャドウナイト』どちらも衣装の完成度は高い!お手製ならかなりクオリティが高いです!』
司会の進行に熱が入る。中には千雨がちうなんじゃないかと囁き始める人もちらほらといる。
千雨は顔から冷や汗を大量に流し始める。顔が白くなり、パクパクと口を開くだけで喋れる様子ではない。
パソコンの前ではいつでも堂々とちうを演じている千雨だが、人前では彼女は普通の少女なのだ。遂には目に涙を溜める。
(やっぱり千雨には無理があったのか?いくら俺が千雨の事を可愛いと思っても、千雨自身が……)
これ以上千雨が恥ずかしがる姿を、観客に見せるわけにはいかない。マギは黙って、千雨を観客から隠す様に立つ。
「すまない千雨。お前に恥ずかしい思いをさせ―――――」
観客の一人が可愛いと言う声を発した。そして次々に可愛いやらカッコイイなどの声が上がり、次の瞬間には拍手口笛ちうの名を叫び続けると言う大歓声となる。
マギと千雨は目を丸くするが、司会の解説によると千雨のキャラコスプレは引っ込み思案の泣き虫キャラ。マギの黒騎士はそんな幹部を護る寡黙な騎士。マギや千雨の行動がキャラを演じていると見られたのだ。
そしてあれよあれよとコンテストは進み、結果は満場一致でマギと千雨の優勝が決まった。
優勝トロフィーを持ちながら、乾いた笑みを浮かべる千雨に、マギは
「リスクの高い勝負はしない。それはある意味普通の選択かもしれない。けど勇気をもって一歩を踏み出してみると、案外上手くいくときもあるものだ」
「あぁそう見たいだけど、こんな恥ずかしい思いは当分こりごりだからな……!」
顔を赤くしながら、そっぽを向く千雨。
(でも人前に立つっていうのも、悪くないかもな。でも当分はマギさんが隣に立っているなら大丈夫そうだ)
熱っぽい視線をマギに向ける。
「?どうした千雨」
「なっなんでもないです!」
(もう誤魔化すのは止めだ。あたしはマギさんの事を男として好きだ。その気持ちは偽りじゃない。ちうじゃなくて、千雨としてあんただけのアイドルになりたい)
千雨はマギに対して、気になる男性として見ている。その恋が実るのかは分からない。
千雨と別れ、まき絵の新体操を見終わると、また少し回ってみるマギ達。
「しっかし今日は丸1日を使ったな。体がくたくただ」
「そうですね。兄貴や大兄貴達は明日大会があるんだし、エヴァンジェリンの別荘を使った方がいいかもしれませんね」
「師匠に頼んで使わせてもらおう」
何はともあれ、これで学園祭1日目が終了した。色々としっちゃかめっちゃかな所もあったが、丸く収まって良かった。
そう思いながら、打ち上げの会場へと向かうマギ達であった。