堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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雪の日の悲劇 受け継がれる思い

 ネギの目の前で村が炎に呑まれていたのをネギとアスナは呆然と眺めていた。

 何故村全てを巻き込むような大火事になったのか見当がつかない。

 

「お姉ちゃん!お姉ちゃーん!」

 幼いネギはネカネを探し始めた。

 もしかしたらネカネはこの火の中に居るのではないかと思ったからだ。

 

「ちょ!ネギ!?危ないわよ!戻ってきなさい!!」

 

 アスナは炎の中を駈けるネギに戻ってこいと叫んだが、いかんせんこれはネギの記憶であり、アスナが干渉できる訳ではないのだ。

 仕方なくネギの後をついていくアスナ。

 しばらく駆け回っていると、ネカネの父親の姿が見えた。回りには村の住民の姿も見える。この火事は村で何か起きたようだ。

 

「おじさん!何があったの!?おじさん!おじ…さん?」

 

 ネギの大声になにも反応見せないネカネの父。

 ネギは少しずつ近づいて思わず立ち止まってしまった。ネカネの父親や村の住民達は皆石になってしまっていたのだ。

 

「これって修学旅行と同じ…」

 

 アスナの言う通り、石化の魔法である。

 ネギは何故おじさんや村の人達が石のようになってしまったのか理解できなかった。

 とその時、ネギの後ろの方からズシンズシンという足音が聞こえてきて、ゆっくり振り替えると其処には様々な魔物が大勢いた。筋肉達磨のようなごつい悪魔もいれば、スライムみたいに液体状の魔物。その数千は優に越えるだろう。

 幼いネギでも理解した。この魔物達がおじさんや村の人達を石にしてしまったのだ。

 逃げなければ自分も石にされてしまうか…下手したら殺されてしまう。

 だがネギは逃げようとしても足が言うことをきかなかった。

 

「ちょネギ!何ボケッと突っ立てるのよ!?早く逃げるわよ!」

 

 アスナはネギの手を取って逃げようとするが、ネギの体をすり抜けてしまう。

 そうだった…これはネギの過去でただ自分はなにもできないんだと思いだし、アスナは何もできない歯痒さに顔を歪めてしまう。

 その間にも筋肉達磨のような悪魔がネギに手を伸ばし今にも捕まりそうになったその時

 

「魔法の射手 連弾・闇の22矢!!」

 

 ネギを捕らえようとした筋肉達磨の悪魔に闇の魔法の矢が直撃、悪魔も思わず怯んでしまう。

 悪魔が怯んでいる隙に誰かがネギに近づくと、ネギを抱き抱えて一目散に退散した。

 その誰かというのは

 

「おいネギ!大丈夫か!?しっかりしろ!」

 

 マギがネギを助けてくれたのだ。お兄ちゃん…とネギは半ば呆然としながらマギを見上げながら

 

「お兄ちゃん村が村が…」

 

「あぁ分かってる。俺も今日は村を離れてて、ネカネ姉が帰ってくるのを思い出して村に帰ってみたらこの有り様だ。俺も何が起こってるのか訳が分からねぇ!」

 

「おじさんや村の皆が石に…石みたいになっちゃった…」

 

 ネギはおじや村の人達が石になったのを思い出してガタガタと震えだした。

 

「俺も村を回っていて、村の殆どの奴が石になっちまってた。原因はもしかしなくてもあの悪魔や魔物たちの仕業だ。恐らくだが…村で無事なのは俺達しか居ないかもしれない…」

 

 マギの悲痛な表情を見て、ネギはごめんなさい…ごめんなさい…と呟き始めた。

 

「僕が…僕がいけないんだ。僕がピンチになればっていつも思っていたからこんな事に…おじさんや村の皆が石になっちゃったのは僕のせいなんだ」

 

 まだ小さいのに自分のせいだとそう思い込んでごめんなさい…ごめんなさい…と呟き続けるネギに対してマギが馬鹿野郎!!と怒鳴った。

 ネギはびくつきながらマギの顔を見たが、マギは怒鳴ったのに怒った顔ではなく寧ろ悲しい表情を浮かべていた。

 

「ネギ、お前はなにも悪くない。寧ろ悪いのはこの俺だ…俺が親父を越えようなんてバカな事を考えて、お前に対して無関心であまつさえお前が危ない目にあったのに、俺は悪くねぇなんて言う始末…俺が悪ぶっていた罰なんだよ…おじさんや村の奴が石になっちゃったのは俺が悪かったんだ。すまねえネギ…」

 

 だからとマギは決意を決めた表情でネギを見ながら

 

「今更…本当にいまさらだが、俺がネギを守る。親父みたいなヒーローにはなれないが、大切な弟一人位は守ってやるよ」

 

 マギの表情は今までのようなネギに無関心で冷たい表情でなく、弟を守ろうとする兄の顔になっていた。

 ネギを担いで逃げてるマギへ小悪魔やスライムのような小さい魔物が襲いかかって来た。

 

「どけぇッ!」

 

 マギは襲い掛かって来る魔物達に向かって魔法の矢や、 簡易的な魔力供給の身体強化を使った格闘術で魔物達を蹴散らしていった。

 倒そうなんて思っていない。今は村から逃げることを専念することにした。

 自分はただ見守るしか出来ないアスナは目の前のマギとネギが無事に逃げ切れるように祈ることしか出来なかった。

 しかし流石はネギの兄なだけはある。迫り来る魔物達を次々に蹴散らしているのだ。この調子なら無事に逃げられる。そうアスナは思い込んでいた。

 …だがアスナのその考えは甘かった。

 

「!ネギ!!」

 

 突然マギがネギを前に放り投げた。ネギは何故放り投げられたのか最初は分からなかったが、地面におちた時にネギは理解した。

 マギが怯ませた筋肉達磨の悪魔が、マギに追い付いており巨木のような否、巨木そのものの腕がマギに向かって降り下ろそうとしていたのだ。

 

「このクソッタレ!」

 

 マギは素早く魔法障壁を展開して、悪魔の攻撃を防いだ。

 だがとっさに展開した障壁なため、マギの障壁は脆かった。剛腕によって確実に障壁が破壊されており、そして…障壁が砕けた。

 

 ミシミシミシィ… ゴキィッ!!

 

 悪魔の剛腕とまだ小さいマギの細い腕がぶつかり合い、マギの腕の方から骨が軋む音から何かが折れる鈍い音へと変わった。

 悪魔はマギをいとも簡単に殴り飛ばすと、マギは錐揉み状に吹っ飛ばされて、建物の壁に叩きつけられてしまった。

 

「お兄ちゃん!」

 

「まッマギさん!」

 

 ネギとアスナは殴り飛ばされたマギの元へ駆け付けた。

 駆け付けて、近づいてマギが無事かどうかを確かめると、ネギは絶句アスナはヒッ!と短い悲鳴を上げた。

 アスナが何故悲鳴を上げたか、それはマギの右腕が折れていたのだ。それも曲がらない方向へ盛大に折れ曲がっていた。余りのむごさにアスナは思わず後ずさる。

 

「お兄ちゃん…うッ腕が!」

 

「はは…心配すんな、片方の腕が折れただけだ…障壁のおかげでダメージを最低限減らしたから、腕が折れた以外平気だ」

 

 マギが平気だと言っているが、腕が折れてしまっていてはパワーが半減されてしまうだろう。

 マギは折れた右腕を押さえながらゆっくりと立ち上がっていると、マギを殴り飛ばした悪魔がゆっくりと近づいてきた。

 

「くそこれまでか…ネギ、コイツは俺が食い止める。だからお前は早く村から逃げろ」

 

「いッ嫌だよ!お兄ちゃんと一緒に逃げないと僕は嫌だ!」

 

「駄目だ、今の俺は片腕を動かせない。正直お前を護れる自信が無い…だからネギだけでも逃げろ」

 

 マギがネギだけでも逃げろと言ってもネギは嫌だと言い続ける、その間にも悪魔は今度こそ仕留めようと、腕を振り上げた。今度は確実に殺すつもりのようだ。

 

「ちょ!ネギとマギさんがピンチじゃない!誰か早く助けに来なさいよ!!」

 

 アスナの叫びも虚しく、悪魔はその剛腕を振り下ろした。

 此処までかとマギとネギはギュッと目を瞑った。とその時

 

 ドンッ!!

 

 ローブを着た何者かがマギとネギを護るように颯爽と登場。片腕で悪魔の剛腕を受け止めていた。

 ローブを着ており誰だが分からなかったが、剛腕を受け止めた衝撃波でフードが飛ばされてしまい、マギやネギと同じような赤髪が姿を現した。

 

「あ…あの人はッ!」

 

 アスナはマギとネギを助けた赤髪の男が誰だか分かった。2人の父親でサウザントマスターとも呼ばれているナギ・スプリングフィールドである。

 ナギは悪魔の腕を受け止めながら詠唱を始め、魔法を放った。

 

 ――雷の斧!!――

 

 ネギが放った雷の斧よりも何倍も大きい雷の斧が悪魔に向かって振り落された。

 悪魔は何の防御も出来ずに雷の斧によって両断されてしまい、塵となって霧散した。

 いとも簡単に仲間の一人を倒したことにより、遠くから様子を見ていた魔物達はナギが只者ではないという事を理解した。一気に仕留めようと魔物達が一斉に攻めてきた。

 その数は軽く千体は居る模様、幾らサウザントマスターと呼ばれているナギでも一人で魔物達と戦うのは無謀すぎる。

 …かに思われたが、ナギはまるで赤子の手を捻るかのように魔物達を次々と蹴散らして行った。余りの圧倒的な強さにネギやマギ、アスナも呆然としてしまう。

 

 ――雷の暴風!!――

 

 またもやネギ使っている最大魔法、雷の暴風の倍以上の威力をナギは発動して、ナギが放った雷の暴風によって魔物達は吹き飛ぶか消滅してしまった。

 ナギが雷の暴風を放った後は、殆んどの魔物が黒焦げで炭化してくたばっていた。ナギは辛うじて息がある悪魔の首を持って持ち上げていた。

 

「フフ…そうか貴様はあの…成程な、この力の差ではどちらが化け物か分からんな」

 

 悪魔はニィィと笑いながら言っているが、ナギは何も答えなかった。代わりにこれが答えだと悪魔の首をへし折った。ゴキィと言う骨が折れる鈍い音が嫌に響き渡る。

 

「なッなんかナギさんが変…?」

 

 アスナはナギが何処かおかしいと感じ取った。自分が前に見た夢でのナギは優しい感じがしたが、今自分が目の前で見ているナギはいくら敵だからと言っても簡単に首をへし折り殺すなんて怖いとも思えた。

 現にネギは目の前で敵だった悪魔が首の骨を折られてぐったりとしているのを見て怖くなり、震えながら思わず逃げ出してしまった。

 

「おッおいネギ!一人でどっか行くな!」

 

 マギは折れた右腕を押さえながら一人で逃げ出したネギの後を追った。その後をアスナが追う。

 マギの後を追いながらアスナはチラともう一度ナギの姿を見たが、今はそれよりも恐怖によって先に逃げ出してしまったネギを追いかける事の方が大切である。

 

「待てネギ、待つんだ!まだあの魔物達の生き残りがいるかもしれないんだぞ!」

 

 マギの言う通り、ナギが粗方倒したといっても全滅させた訳ではないのだ。何処かに隠れているかもしれないのだ。

 マギが言ったのと同時に、瓦礫から生き残りの悪魔1体とスライム3体が現れたのだ。

 悪魔はマギとネギを発見すると口をガバッと開き、エネルギーを溜めるとマギとネギに向けてビーム状の魔法が吐き出された。

 一瞬の出来事で、マギは障壁を張る事が出来ず今度こそお終いだと思ったが、マギとネギの元へスタンとネカネが間一髪で助けに来てくれて、レジストの魔法を発動しビームを防ごうとした。

 だが悪魔のビームが強力だったのか、2人のレジストでも全く歯が立たず、かなりの速さで石化していくスタン。ネカネはそこまで石化は激しくないが、足が完全に石になってしまった。ネカネはレジストの魔法で殆どの魔力を消費したのかよろめきだし、ネカネが倒れそうになったのと同時にバキィ!と石になってしまった両足が砕け散ってしまった。

 

「ネカネ姉!」

 

 マギは背中から倒れそうになったネカネを、左腕だけで何とか受け止めてあげた。

 ネカネが戦闘不能になったと分かると、悪魔とスライムたちは一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 しかしスタンはまだ奥の手を残しており、残りある魔力と最後の力を振り絞り懐から星のマークが描かれている小さな瓶を取り出すと悪魔達へ投げつけた。

 

「六芒の星と五芒の星よ 悪しき霊に封印を 封印の瓶!」

 

 スタンが詠唱を終えると、瓶の蓋が開いて悪魔とスライム達をかなりの勢いで吸い込んで行った。悪魔たちが完全に吸い込まれると蓋は独りでに閉まり、ゴトンと地面に落ちる瓶。

 

「これで一応安心だわい…うぐ」

 

 一安心だとは言っているが、スタンは殆どが石化しており人の部分は胸から上だけであった。

 

「無事がぼーず共」

 

「おッおじいちゃん!?体が皆みたいに石に…!」

 

「スタンのじーちゃん、大丈夫なのかよ!?それ元に戻るのか!?」

 

 マギが戻るのかと言ってもスタンは否無理じゃろうな…と首を横に振った。

 

「あの魔物どもを召喚したのは恐らくナギに恨みを持った奴らじゃろうて、この村の殆どの住民はナギを慕っているクセのある奴も多かったからのう。下位悪魔でありながらあの数に強力さ、相手は並大抵の術者じゃないじゃろう。この村の奴らが集まれば軍隊1個大隊ほどの実力はあると言うのに…平和すぎて腕が鈍っちまったようだわいべらんめい…うぐ!」

 

 スタンの石化が更に早まり、人間の部分が段々無くなっていった。

 

「この石化も強力じゃ…治す方法は無いじゃろう。よかったなマギ、ワシみたいな口煩い爺の怒鳴り声をもう聞かなくてすむのう」

 

「…なに馬鹿な事言ってるんだよじーちゃん、何時もくたばれとか言ってたけどそんなの口だけに決まってるだろう!?じーちゃんも石なんかにならないでくれ!頼むよ…お願いだから…」

 

 マギは何時もスタンに生意気な口をきいていたが、今思えばスタンは自分の事をただのナギの息子と言う訳ではなく、マギ本人として馬鹿なガキとして見てくれていた数少ない人物の一人だ。

 そんな大切な人をマギは失いたくなかった。マギそしてネギもスタンに石にならないでほしいと懇願した。

 

「そんな馬鹿な事言ってるんじゃないぞこの馬鹿坊主共め。頼むから逃げるんじゃ…どんなことがあってもお前らを護るとあの馬鹿へのワシの誓いなんじゃ」

 

 スタンは顔に汗を浮かべながら苦し紛れにニッとマギとネギに笑いかけた。そして無事な治癒術者を探せとマギとネギに言った。

 ネカネの石化を早く止めないとネカネも直ぐに石になってしまう。

 

「さぁぼーず共、こんな老いぼれ何かほっといて…はや…く…にげ」

 

 スタンは遂に石になってしまった。ネギはおじいちゃんおじいちゃんと石になってしまったスタンの体を揺すってみるが、石になってしまったスタンに何をやっても無駄であった。

 マギは静かに涙を流しながら左腕で何回も地面を殴り続けた。手が血で滲んでもマギは構わず殴り続けた。

 だが今はこんな事をやっていたらネカネがスタンと同じように石になってしまう。それだけは絶対に嫌だ、ネカネだけは絶対護ると悲しい気持ちを無理やり引っ込めて治癒術者を探す事にした。

 ネギじゃ体格差的にネカネを運ぶのは無理であったので、マギが担いで運ぼうとしたが右腕が折れているために上手くネカネを運ぶことが出来なかった。時間が迫っているせいで焦る2人、とその時誰かが此方に近づいて来る足音が聞こえてきた。

 まさか悪魔の生き残りじゃと思っていたが、振り返ってみるとローブが魔物達の血で汚れてたり所々焦げてボロボロになっていたナギが立っていた。

 

 

 

 

 村が見渡せる丘にて、村は完全に火に呑まれており夜になっても村だけは炎によって明るかった。

 丘にはマギにネギ、石化が治ったネカネ。そしてマギ達を助けてくれたナギが居た。

 ナギは炎に呑まれている村を黙って見降ろしていた。

 

「…すまなかったな。来るのが遅すぎた」

 

 今迄黙っていたナギは振り返りながらすまないと謝った。

 確かにナギがもう少し早く来れば助けられる人が居たかもしれない。だがそれは結局は結果論にすぎないのだ。

 ナギが1歩づつ近づこうとするとネギがネカネを護ろうと、初心者の杖を持ちながら立ちふさがる。

 ネギは目の前のナギが自分の父親だとまだ知らない。だから目に涙を溜め足が震えていながらもネカネを護ろうと精一杯だった。

 ナギはネギの顔をジッと見た。自分とそっくりな顔にそうか…お前がそうか…と呟いた。

 

「お前がネギなのか…」

 

 ナギは少しづつ近づきネギの近くまで来た。

 そしてネギに向かって腕を伸ばしてきた。ネギはギュッと目を瞑ったが何も起こらなかった。代わりに頭に優しい感触が伝わってきた。

 

「お姉ちゃんを護ろうとしたのか…大きくなったんだな」

 

 ナギの優しい声にネギは思わず顔を上げた。

 あぁそうだとナギは自分が持っていた杖をネギに渡した。今ネギが使っているあの杖である。

 

「この杖をやろう。俺の形見だ」

 

 そう言いながらナギはネギに自分の杖を手渡した。がまだネギには重すぎたのかちゃんと持てずに手から落ちてしまう。

 

「ははやっぱり重すぎたか、そりゃそうだよな…悪いがもう時間が無い。ネカネは石化は治したから大丈夫だ。後はゆっくりと治してもらえ」

 

 それだけ言うと、ナギは立ち去ろうとした。だが待てよ…と今迄黙っていたマギが口を開いた。

 

「今の今迄何やってたんだ親父、俺達を放っておいて挙句の果てにはこんな俺達が死にそうになって、スタンのじーちゃんオジサンたちが石になっちまったと言うのに、そうやって遅い登場をして俺やネギを助けるなんて…まだ自分をヒーローとか思ってんのか!?英雄気取りもいい加減にしろ!テメェの子供を放っておいて何が英雄だこん畜生!!」

 

 マギは今迄溜まっていたナギに対する怒りや悲しみなどを一気に爆発させた。ナギは黙ってマギの怒りの叫びを聞いていた。

 ナギは黙ってマギに手を伸ばそうとしたが、気安く触るな!とマギが手を叩いた。

 

「…そうだよなマギ、俺はお前やネギを放っておいて今更父親面するなんて…むしのいい話だよな。すまなかったなマギ」

 

 そう言うとナギはマギを強く抱きしめた。マギは抱き着いてきたナギから離れようとしたが、マギの力じゃナギを振りほどけなかった。

 とその時マギの頬に何か冷たい粒が一つかかった。何だろうとマギは思った。雪は今は止んでおり、自分の頬にかかった冷たい粒の正体が分からなかった。

 

「だからマギ、お前は俺みたいになるな。大切な者を護れなかった男にはな」

 

 そう言うとナギはネギにこっちに来いと手招きした。

 ネギがやってくるとナギは。マギとネギの額に指を当てた。

 指先から優しい温かい物が体中に廻って行くような感じがした。体中から力が湧いてくるようなそんな感じだ。

 

「今のはおまじないだ。俺よりも強くなって大切なヤツを皆護れるような強い男になってくれ…そんなおまじないだ」

 

 そう言い終えると、ナギは浮遊術で夜空に飛び出した。ネギは飛んで行くナギを思わず後を追い始めた。

 

「こんな事言えた義理じゃないが、元気で育てマギ、ネギ…幸せにな」

 

「お父さん!」

 

 ネギはナギを追いかけようとしたが、躓いてしまい顔面を地面にぶつけてしまった。

 顔を上げると、もうナギの姿は何処にも無かった。

 

「お父さん…お父さぁぁぁぁぁん!!」

 

「クソ親父の…バッカ野郎が…!!」

 

 ネギは夜空に向かって泣き叫び、マギは小さく呟きながらも嗚咽に交じって涙を流していた。

 そんな2人をアスナも静かに涙を流しながら見ていたのであった。

 

『…すみませんみっともない所を見せてしまって』

 

「えッああうん!」

 

 今のネギがすみませんと謝ってアスナは思わず返答が出来なかった。

 少しの間沈黙が続いたが、アスナは尋ねた。この後はどうなったのかと

 

『あの後3日後に僕とお兄ちゃんお姉ちゃんは救助されて、ウェールズの山奥にある魔法使いの町に移り住むことになりました。そこで僕は5年ほどの間は魔法学校にて勉強の毎日でした。お兄ちゃんは山奥で魔法を修行をしていて、家に帰って来るのが1ヶ月に1回あるか無いかでした』

 

「村の人達はどうなったの?」

 

 アスナは石になってしまったスタン、ネカネの父親に村の住民はどうなったのか尋ねるがネギは分かりませんと答えた。

 

『お姉ちゃんや学校の校長先生は僕に心配しなくてもいいと言っているだけで子供の僕には教えてくれませんでした』

 

 それからとネギの話は続く

 

『僕はあの雪の日が怖くて、何故だが勉強に打ち込むことになっちゃいました。お父さんがくれたおまじない…そのおまじないの為に僕は強くなって大切な人を護ろうと思ったんです。そしてまた父さんと会えるように強くなろうと…』

 

 その強くなろうと言うのが、今のネギに繋がっているのだろう。アスナはそう思った。

 でも…とネギは何処か沈んだ気持ちになりながらこうも言った。

 

『今でも思い出すんです。あの雪の日の出来事を…僕は時々思うんです。いつもピンチになったら父さんが来てくれて、僕を助けてくれるなんて思っていて、皆に迷惑をかけた僕への天罰じゃないかって…』

 

 ネギがまた自分が悪いと自己嫌悪に陥った。

 そんなネギにアスナは、思わずネギの肩を強く掴みながら

 

「何言ってるによ!?今の話であんたのせいだった所なんて1つもないじゃない!それなのにまたそうやって、自分が悪いなんて…ばっかじゃないの!?」

 

「あッアスナさん…」

 

「大丈夫よ!お父さんは生きてたんだからまた会えるわよ!!アタシがあんたのお父さんともう一度会えるように協力するから!」

 

「アスナさん…ありがとうございます」

 

 ネギはアスナが協力してくれるということで、ありがとうと気持ちを込めてアスナにお礼を言った。

 とネギの後ろの方から大勢のすすり泣く声が聞こえてきて、後ろを振り替えるとのどか達が全員号泣しておりネギとアスナはビックリした。

 

「まさかネギ君やマギさんにそんな過去があったなんてねぇ」

 

 和美が涙をハンカチで涙をぬぐいながら、よし決めた!と何かを決めたようで

 

「ネギ君!私もお父さん探しを協力するよ!」

 

「私もネギ坊主の老師として協力するアル!」

 

「ウチも協力するえー!」

 

 ネギやマギの過去を見て、和美達はナギ捜索のお手伝いをするといいだし始めた。

 ネギはエヴァンジェリンになんとか言ってもらって、捜索の手伝いを止めさせてもらおうと思った。がしかし…

 

「いや…まぁ、私も協力してやらんこともないが…ぐす」

 

 エヴァンジェリンはエヴァンジェリンで、初恋の相手でもあるナギが生きている事が分かったのが嬉しくてばれないように涙を拭いていた。

 

「よーし!そうと決まれば、ネギ君とマギさんのお父さんが見つかることをねがってもういっちょ乾杯!」

 

『かんぱーい!!』

 

 和美の音頭で 2回目の宴会が開始された。

 ネギが止める前にもうネギとマギに協力してくれる雰囲気になってしまい、どうするかネギは迷っていると、なぁネギ…とマギがネギに

 

「お前がアスナにあの雪の日の事を見せたのは、本当に俺達に関わっていいのかもう一度考え直してほしかったんだろ?」

 

「うん。魔法の世界がどんなに危険か改めて見てもらって、本当に僕達に協力するか考え直してもらいたかったんだ。僕もアスナさん達を絶対に守り通すとは言えないから…」

 

 ネギが自身なさげにな声で呟いた。そんなネギをやれやれだぜ…と呟きながらマギはネギの頭に手を置いて軽めにグシグシと撫でまわした。

 

「わぷ…ッ!」

 

「ネギはそう言う所が優しいよな…だから俺はお前の事は安心できるんだ。アスナだけどな、お前がいくら突き放そうとしてもああいう奴はついて行くって言ったら最後までついて行くつもりだぞ?一度決めた事は最後までやり遂げそうだしな…和美や古菲達もそうだ。アイツ等は面白半分もあるだろうが、基本お人好しだ。それも超が付くほどのお人好しだな…お前が困っていたら手を差し伸べてくれるはずだ」

 

 だから…さとマギはフッと笑いながら

 

「今はその厚意に甘えて力になってもらおうぜ?俺達にしか出来ない事があるように、俺達じゃ出来ない事があるんだ。それをアイツラに助けてもらおうじゃねぇか。その代り…アイツ等を絶対護らなきゃな」

 

「お兄ちゃん…そうだね!僕達でアスナさんを絶対に護りきるんだ!」

 

 マギの言った事にネギは力強く頷いた。何だかみんなでやればナギにもう一度会える…そんな気がしてならない。

 

「おれっちを忘れないでくだせぇお二人方!俺っちも兄貴と大兄貴をしっかりサポートするでさ!!」

 

 カモがネギの肩に乗りながらしっかりお手伝いすると言い切った。

 

「あはは、うん改めてよろしくねカモ君」

 

「お前の情報把握能力はかなり強力だ。期待させてもらうぜ」

 

 勿論でさ!とふんすと胸を張るカモ。そんなカモにマギとネギは笑みを浮かべた。

 

「ところで…姐さんたちは何時までどんちゃん騒ぎをするつもりなんですかねぇ?」

 

 カモがギャグ汗を流しながら、いまだにどんちゃん騒ぎをしているアスナ達を見て何時まで続くのかとぼやいた。

 ネギとマギもはははと乾いた笑みを浮かべながら

 

「アスナさん達元気あるなぁ…」

 

「アイツ等の事だからこのまま朝まで騒ぎまくるんじゃねえのか?」

 

 そのすぐ後にマギとネギもどんちゃん騒ぎに参加して、マギの言う通り朝日が昇ってくるまで騒ぎまくったのであった。

 

(こいつ等体力あり過ぎだろ…)

 

楽しい事をやる時のアスナ達の体力は無限大ではないのか?とそう思ったマギである。


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