堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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マギとネギの過去  雪の日の悲劇

 エヴァンジェリンの別荘にて、マギの提案によりアスナ達を交えて軽いパーティを開いた。

 見た事の無い料理を舌鼓しながら特に古菲が多く食べていた。塔から見る夕日はとても綺麗で、心が洗われていく感じであった。

 カモもカモで、アスナ達の前では普通のオコジョのふりをすることも無いので、チャチャゼロと一緒に酒を飲んでいた。見た目はオコジョだがその中身はおっさんであるカモだ。チャチャゼロとはいい飲み仲間なのだ。

 パーティをやっている間、夕映はエヴァンジェリンに詰め寄っていた。何の話をしているかと言うと…

 

「――という事で、私達に魔法を教えてほしいのですが」

 

「魔法を私がか?なんで私がそんなメンドイ事をやらなければいけないんだ?マギや坊やに習えばいいだろう魔法先生なんだしな」

 

 夕映がエヴァンジェリンに自分とのどかに魔法を教えてほしいと懇願したが、エヴァンジェリンは面倒だと断りマギやネギに教えて貰えと返した。

 そういう事でエヴァンジェリンはマギとネギを呼んで、夕映とのどかに魔法を教えろと言ってきた。

 

「僕とお兄ちゃんで魔法を教えるんですか?」

 

「俺、他の奴に魔法を教えるなんてやった事無いし、上手く出来るか分からねえぞ」

 

 マギとネギは上手く魔法を教えられるか不安であったが、まぁ心配するとゴロゴロしながら本の読んでいるエヴァンジェリンは

 

「この別荘では外の世界よりも魔力が充溢してるから、素人でもポッと使えるかもしれないぞ?」

 

 という事でさっそく魔法を教える事にした。

 ネギは自分が持っている初心者の魔法の杖を夕映とのどかに渡した。

 

「では最初に教えるのは僕達が習う初歩的な魔法です。プラクテ・ビギ・ナル 火よ灯れです」

 

「まぁ俺が見本を見せるよ。 プラクテ・ビギ・ナル 火よ灯れ」

 

 マギが見本で魔法を詠唱すると、杖の先から火が灯った。

 火が灯ったのを見てのどかと夕映は感嘆の声を上げる。

 

「まッこんな感じだ。と言ってもこんなの覚えるよりも百円ライターを使った方が早いんだけどな」

 

「いえ!自分の力で色々な事をしてみたいですし…」

 

「なんでもかんでも科学の力に頼ると言うのも面白くないです」

 

 のどかと夕映はマギが言っても、魔法を使えるようになりたいとそう言った。

 魔法使いになりたいという理由もあるが、本音は自分達がマギの役に立ちたいと言う思いもあるのだ。

 マギ達が初心者への魔法のレクチャーをしていると、和美や古菲このかまでもがやって来て、結局全員に魔法を教える事になったのであった。

 

「プップラクテ・ビギ・ナル 火よ灯れ!」

 

 のどかは最初の方で噛んでしまい、ちゃんとした詠唱が出来なかった。

 

「最初の方は誰だって出来ないもんさ。焦らず落ち着いて詠唱する事が大事だ」

 

「はッはい!分かりました」

 

 マギはのどかに力みすぎない様にリラックスして詠唱するように教えた。

 

「…成程、つまり魔力と言うのは水や空気などのこの世界にある万物のエネルギーという事なのですね」

 

「そうですね、大体あっています。そのエネルギーを吸う感じで体に取り込み杖の一点に集中するようなやり方が一番ベストです」

 

 夕映はネギに理論でどうやって魔法を発動させればいいのかを聞いてみた。

 ネギの言った通りに夕映は深く深呼吸をして、万物のエネルギーを体に取り込もうとしてみる。

 そして杖の一点に集中して

 

「プラクテ・ビギ・ナル 火よ灯れ!」

 

 詠唱をする。が…

 

 シーン―――

 

 特に何にも起こらなかったのであった。

 

「いやまぁ夕映、そんな簡単には魔法を使う事は出来ないって」

 

 マギに言われて夕映は恥ずかしくなって顔を赤くする。

 他にも和美や古菲にこのかも試してみるが火が灯る事は無かった。

 

(まったく皆して何やってるんだか…)

 

 アスナは特に魔法が使えなくても別にいいかなと思っていた。

 中学生にもなって魔法の呪文を唱えるなんて少し気恥ずかしいとも思っていた。

 とアスナの足元に余りの杖が置いてあったので、アスナは何も言わずに杖を手に持った。

 手に持った杖をジーッと見ながら

 

「…プラクテ・ビギ・ナル 火よ灯れ」

 

 と軽く杖を振りながら詠唱してみた。が火なんて灯らなかった。

 何かやっていて照れくさくなったアスナ。

 

「如何した?何をやってるんだ神楽坂明日菜」

 

 エヴァンジェリンがニヤニヤとしながらアスナの一部始終を見ていたそうだ。

 

「うッ五月蝿いわね!ほっといてよ!」

 

 アスナは見られた恥ずかしさでムキになって返した。

 と火を灯そうとしても全然灯る気配が無く、古菲が成功したと思いきやライターであったりと色々であった。

 こうしてのどか達は火を灯すことなく夜になってしまったのであった…

 

 

 

 

 夜になってみな寝静まっていたが、殆んどが寝言でも魔法詠唱をしていた。夢の中でも魔法の特訓でもしているのであろうか。

 アスナがベットからムクリと起き上がった。トイレ…と呟いておりトイレの元へ向かった。

 アスナが階段を降りていくと広場の方からパシンッ!パシンッ!と言う音が響いていた。

 何なんだろうかと広場の方を見てみると、ネギが拳法をしながら無詠唱で魔法の射手を発動、次に雷の斧で床に置いてあった空き缶に雷の斧を振り落した。

 一通りやり終えるとネギは大きく深呼吸する。

 

「兄貴凄いですね!2・3ヶ月は掛かるって言っていたのにこんな短時間でものにするなんて」

 

「まだ駄目だよ、雷の斧の威力は弱いし無詠唱の魔法の射手も全然出てないし」

 

 カモが凄いとネギに言っているが、ネギ自身はまだまだ全然だとそう返した。それにこの別荘は外よりも魔力が充溢してるから出て当然だとも言った。

 また連携技の練習をしようとすると、軽い拍手が聞こえた。拍手が聞こえた方向を見てみるとアスナがこっちに近づいて来ていた。

 

「あアスナさん若しかして起してしまいましたか?」

 

「ううんアタシはトイレで起きただけだから。それにしても流石魔法先生、天才少年は違うわね」

 

 でも…アスナはネギのほっぺを思い切り引っ張って

 

「アンタは如何してそう簡単に無茶しようとするのかしら?もう少し自分の体を労わりなさい!」

 

「でッでも今日は皆さんと遊んじゃったから少しでもその分を…」

 

「遊びも立派な修行よ!アンタは頑張り過ぎなのよ馬鹿ネギ!」

 

 と何時ものようにアスナがネギを説教すると言う形になって、ネギが折れる形で今日は修業をすることを止めた。

 修行を止めたネギとネギに説教したアスナは夜の塔の景色を眺めていた。

 

「それにしても不思議よね、あれだけ騒いだのに外では20分位しか経っていないなんてね」

 

「そうですね…」

 

「これこそ魔法の力ってもんでさ姐さん」

 

 カモが魔法の力という事でしめた。

 ネギは夜景を見ながら何処か黄昏ていたが、アスナの方を見ながら

 

「あのアスナさん…ちょっと僕の話を聞いてもらってもいいですか?」

 

「えッなッ何?」

 

 ネギの何処か決意めいた表情に少し戸惑うアスナ。

 ネギはふぅと一息ついてからアスナの方を見ると

 

「僕が如何して頑張っているのかその理由を…6年前僕とお兄ちゃんが父さんと出会った時に何があったのかを」

 

 

 

「うう~お手洗いって何処にあるんだろう…」

 

 のどかもトイレに行きたくて何処にトイレがあるのか探していると、マギが塔の柱に寄りかかっているを見た。

 

「あれ?マギさん?何してるんですか?」

 

「ん?あぁのどかか…いやネギがな…」

 

 とマギが指を差しているのを見てみると、魔方陣の中でネギとアスナが額と額をくっつけあっていた。

 

「あ…ネギ先生とアスナさん。何やってるんだろう?」

 

「ふむ如何やら意識をシンクロさせる魔法だろう」

 

 背後からエヴァンジェリンの声が聞こえてマギとのどかはビクッ!としてしまった。

 

「エヴァあんまり気配消さないでくれよ。ビックリするだろうが」

 

「あぁすまないな。で坊やは何を神楽坂明日菜に見せようとしてるんだ?」

 

 エヴァンジェリンの質問にマギはあぁと何処か暗い表情になりながら

 

「6年前の事、ある意味俺とネギの人生が狂っちまった日って俺は考えているな」

 

「マギさんとネギ先生の」

 

「人生が狂うなんて何があったんだ?」

 

 狂うなんて言葉が出てしまったら嫌でも気になってしまう。マギはそうだなぁと呟きながら

 

「ネギのやり方に便乗するか…俺も一応仮契約をしたのどかや師匠でもあるエヴァには話そうと思っていたからな」

 

 そしてマギは夕映達の元へ向かった。行き成り起こすのは失礼だと思うが、魔法を知るとしたら自分達の過去も知ってほしいと言うのがマギとしての考えた。

 

「のどか、お前のアーティファクトでネギの頭の中を見てくれ。恐らくだけどネギの過去の出来事が見れるはずだ」

 

 そう言ってマギは夕映達の方へ行ってしまいマギの姿が見えなくなってしまった。

 

「はい、分かりました…アデアット」

 

 のどかはアーティファクトのいどのえにっきを出現させた。そしてえにっきを開こうとしたその時

 

「宮崎のどか…」

 

「はッはい!何でしょうかエヴァンジェリンさん?」

 

 行き成りエヴァンジェリンに呼びかけられ、のどかはおっかなびっくりでエヴァンジェリンの方を見た。

 エヴァンジェリンは何処か睨めつけるような目でのどかを見ていた。

 その目は何処か試しているような目のようにも感じたのどか。

 

「貴様はマギや坊やの過去を見て如何する?もしあの兄弟の過去が辛く残酷な過去であったら潔く身を引くか?それともマギを支えようとついて行くのか?」

 

 エヴァンジェリンの問いにのどかは

 

「…私はマギさんが私達のために傷ついてほしくないから、私はたとえマギさんの過去が辛く残酷であっても、私はマギさんを支えていきたいです。この気持ちに嘘はありません」

 

 のどかは正直に答えた。今言った答えは自分自身の本心である。

 のどかの答えを聞いてエヴァンジェリンはそうかと呟いた。その答えが自分が思っているのと同じだったのか満足げであった。

 

「宮崎のどか、お前は私が思っているよりも強い女だったのだな…ならお前は薄々分かっていただろう?私が……マギの事を好きだと」

 

 エヴァンジェリンのマギが好きだと言う告白にのどかは思わず身を固くしてしまった。

 

「…はい」

 

 エヴァンジェリンの言った事にのどかも肯定しながら首を縦に頷いた。

 のどかは薄々ではあったが、エヴァンジェリンがマギに好意を寄せていると言うのは分かっていた。

 そう思ったのは修学旅行の時に、エヴァンジェリンがのどかに『お前には負けぬ』とそう言っていた。

 最初は言っている意味が今一分からなかったが、あれから考えてエヴァンジェリンもマギが好きだと言う事が分かった。

 のどか自身はマギが好きな同士仲良くしようとも思っていたが、エヴァンジェリンの何処か冷たい雰囲気に話し辛かったのだ。

 だが今目の前に居るエヴァンジェリンはフッと不敵に笑うと。

 

「私は最初、お前なんか取るに足らない女だと思っていた。何時もモジモジしていてオッチョコチョイで何とも気の弱い女だと何回思った事か…だが今の答えを聞いてお前が強い女だと分かったよ」

 

「エヴァンジェリンさん…」

 

 のどかはエヴァンジェリンに認めてもらって何処か嬉しそうだった。

 

「エヴァでいい。宮崎のどか否のどか、私はお前を友と認めるのと同時に、好きな男を支える好敵手と認めよう」

 

「あッはい!宜しくお願いします…」

 

 スとエヴァンジェリンが手を伸ばし握手を求めて、のどかはエヴァンジェリンの握手に応じた。

 

「よろしくな。だが…マギはこの私が手に入れてやる。覚悟しておけ」

 

「のッ望むところです!」

 

 マギが知らない間にのどかとエヴァンジェリンは友になった他に、マギが好きな恋敵となったのであった。

 そしてマギが寝ていた夕映達を起すとのどかのえにっきに集まった。

 集まった事を確認すると、のどかはえにっきを開いたのであった。

 

 

 

 ネギの記憶、其処は雪の降るウェールズ・ペンブルック州の小さい山間の村、マギとネギが住んでいた村である。

 

「ってなんでアタシ裸なのよ!?」

 

『すみませんそう云う仕様なんです』

 

「雪降ってるのよ、風邪引いちゃうじゃない!」

 

『いえ、これは僕の記憶なので風邪をひく事は無いです』

 

「そういう事じゃなくて…」

 

 今のアスナはネギの記憶を除いているという事で、アスナ自身がネギの過去に干渉しているわけではないのだ。だからアスナが周りの人に見えると言う訳ではないのだ。

 だがまぁ裸と言うのは見られているわけではないという事だが、恥ずかしくは思っているのだ。

 アスナが喚いていると、誰かの話声が聞こえた。アスナは話し声が聞こえた方へ向かってみると、其処には4歳のネギと少し小さいネカネが居た。

 何の話をしているのか聞いてみると

 

「ねえお姉ちゃん、もう会えないってどういう事?お父さんは、遠いところへ引っ越しちゃったの?」

 

「そうね遠い遠い国に行ってしまったの。死んだという事はそういう事なのよ」

 

 小さいネギにネカネは何も隠さずにそう教えた。しかし小さいネギは

 

「じゃあ僕がピンチになったら、お父さんはお父さんは来てくれるの?」

 

 死と言う意味が分かっておらず、父親のナギがやってきてくれると無邪気に信じているようだ。

 ネギはナギがやってきてくれると信じており、ネカネはそんなネギを見てなんて返していいのか迷っているとアンタ馬鹿ねーと女の子の甲高い声が聞こえた。

 

「死んだ人間はもうやって来ないのよ。サウザントマスターの息子なのにそんな事も分からないのかしら?」

 

 今よりも小さいアーニャが腕を組みながらネギを小ばかにするような態度で言った。

 小馬鹿にされたネギはムッとしながらも

 

「そんな事無いもん!お父さんはきっと来てくれるよ!」

 

「アンタ死ぬっていう意味が分かってるの?だから馬鹿ねって言ったのよ!」

 

 ネギとアーニャが口喧嘩を始めて、アスナはアハハと苦笑いしながら

 

「あの子は誰?ずいぶんとおしゃまね」

 

『僕の幼馴染のアーニャです。僕より1つ年上ですが』

 

 ネギがアスナに軽くアーニャの紹介をしていると、口喧嘩を終えたアーニャがネギに初心者用の杖を渡した。

 

「ほらアンタにこの杖を貸してあげる。来年からアンタも魔法学校に入学でしょ?」

 

 それで少しは魔法の勉強でもしておきなさいとアーニャはネギを指差しながら言った。

 強めの口調だが、小さいのに世話好きなのねと、アーニャを見てクスリと笑うアスナ。

 とアスナはまだマギの姿を見ていなかった。

 

「ねえネギ、マギさんは如何したの?マギさんも一緒に住んでいたんだし、6年前って事は今のネギ位なのかしらね」

 

『アハハハ…この時のお兄ちゃんは…』

 

 ネギが乾いた笑みを浮かべているので、アスナは如何したのよと聞こうとした次の瞬間に、ネギとアーニャとネカネの目の前のお店が行き成り大爆発を起した。

 大爆発で店のドアが吹っ飛ぶのをネギやネカネにアーニャとアスナは思わずポカンとしてしまった。モクモクと黒煙が立ち上る中、黒煙の中から出て来たのは

 

「ゴホッ!ゲホッ!ゲホ!!やっべぇ大失敗だわ!」

 

 ネギと同じ赤髪の少年、過去のマギがむせながら現れた。如何やらこの爆発の犯人はマギだったようだ。

 

「くっそぉ今度は上手くいくと思ったのになぁ…」

 

 とブツブツ呟いていると

 

「コラァッマギ!この悪ガキがぁ!!」

 

 白いローブを着た長い口髭を蓄えた老人が怒鳴りながらマギに近づいてきた。

 老人を見たマギは顔を真っ青にしながら

 

「やっべぇスタンの爺さんだ!逃げろ!!」

 

 と慌てて逃げようとしたが、慌てていたせいで雪に足を滑らせて盛大に背中から転んでしまった。

 そしてスタンと言う名の老人にアッサリと捕まってしまって、説教と一緒に拳骨を喰らってマギは蹲ってしまった。

 

「けッ結構過激だったのね昔のマギさんって…」

 

『ハイ。そうだったんです』

 

 

 

「はぁ~懐かしいんだけどあの時の拳骨はマジで痛かったなぁ…」

 

 マギは頭を摩りながらそんな事を思い出していた。

 

「何かマギさんも普通の子供だったんだねぇ」

 

「と言うか玄関を吹き飛ばすなんてかなり過激な気がするですが」

 

 和美と夕映がそんな事を呟いており、マギはほっとけと返した。

 

「マギさんだってなぁ悪戯をするし、バカな事をするよ。そうやって間違いを正して大人になって行くもんなの。ほらのどかさっさとページを捲れって」

 

「はッはい!」

 

 マギに言われてのどかもえにっきのページを捲った。

 

 

 

 時間は少したって小さなパブの中、ギャグ漫画のような大きなたんこぶを作ったマギと、杖を持ったネギにネカネが食事をとっていた。

 カウンター席ではマギに拳骨を落としたスタンが酒を飲んでいたが、ひっくとしゃっくりをするほど飲んでおり、パブのマスターからも飲み過ぎたよと止められていた。

 

「たくあの馬鹿の息子のせいで散々な目にあったわい。あの悪がきが死んで少しは村も平和になると思いきや、その悪がきの一番息子がまた悪戯をするせいで、苦労を掛けられるばかりで迷惑な話じゃ」

 

「っけ、そんなに苦労をかけられたくなければ、さっさとおっちねば良いんだクソジジイ」

 

 拳骨を落とされたのを根に持っているのか、マギは聞こえるような小声でスタンに悪態をついた。

 そんなマギによしなさいと叱るネカネ。

 

「スタンさんも余りそういう事言わないで…まだネギだって小さいんだし」

 

 ネカネやスタンの話を聞いていたネギは飲んでいたミルクと一旦置くと

 

「お父さんってそんなに悪い人だったの?」

 

 子供らしい純粋な問いかけに、酔っていたスタンが、あぁ悪がきだったわいとそう呟きながら

 

「アイツがしでかした騒ぎの後始末を何回やらされたか…村が巻き込まれるなんてしょっちゅうだったわい。あの馬鹿が死んでせいせいしとるわい」

 

 スタンのナギが死んでせいせいしてるという言い方に、まだ小さいネギは黙ってパブの外に出て行ってしまった。

 自分の父親の悪口を言っている老人と一緒の場所には居たくないと言うのはまだまだ子供なのだろう。

 

「スタンさん言い過ぎだよ」

 

「ほんとの事じゃわいべらんめい」

 

 酔いが回ってきたのか、べらんめい口調で話し始めるスタン。

 出て行ったネギを心配そうにしていると、まだ食べ残しがあるのにパブの外に出ようとするマギ

 

「マギ何処行くの!?」

 

「何処って家に帰るんだよ。こんな嫌味を言ってるクソジジイが居る場所で飯なんか食えるかよ」

 

「おー帰れ帰れ、ワシもお前が居なくなったらせいせいするわい」

 

 クソジジイがと呟きながらマギは割と強めでパブのドアを閉めた。

 アスナはパブを出て行った小さい頃の兄弟を黙って見ていた。

 そして時間が一気に過ぎて1ヶ月後、ネカネとアーニャがバスに乗り込もうとしていた。

 

「元気にしてるのよネギ」

 

「ちゃんと魔法の練習しときなさいよ」

 

「うん分かった。行ってらっしゃい」

 

 ネギはネカネとアーニャが乗り込んだバスに向かって手を振り続けていた。

 

「あれ?お姉ちゃんは何処に行っちゃったの?」

 

『お姉ちゃんとアーニャはウェールズの学校に行っていまして、会えるのが偶の休みだったんです』

 

 そんな事を話していると、小さいネギは家に帰るとさっそく魔法の練習をすることにした。

 

「プラクテ・ビギ・ナル 火よ灯れー」

 

 ネギは詠唱しながら杖を振ると、火ではないが花火のような火花がパチパチと少しだけ出て来た。

 杖から少し出たとネギは喜びながら魔法の練習をしていた。

 一方のマギはと言うと

 

「ふッふッふッ」

 

 腕立て腹筋に格闘術の真似事をしながら体を鍛えていた。

 それにしても…とアスナは家の周りを見渡した。叔父の離れに事実上2人だけで住んでいるなんて何ともさびしいと思ってしまった。

 魔法の練習に飽きたネギは歌を歌いながら絵を描いていた。絵はサウザントマスター、ナギの絵であったが全然似てないことにアスナは思わず吹き出してしまった。小さい子が描く絵なんて此れ位だろうとそう思っていた。

 だがネギが絵を描いていてもマギはネギの絵なんか見る気もせずに何かを呟きながら計画書に色々な計画を書いていた。

 

「ねえお兄ちゃん、どんな事をすればお父さんがやってくるかなぁ?」

 

 しかしマギはあーすればこうする。こうすればこうなると呟いており、ネギの声が聞こえていない状態だった。

 ネギはねーお兄ちゃんとマギの服を引っ張り始めた。ネギが余りにもしつこく服を引っ張って来るからマギはしつこいと軽くネギを突き飛ばすと

 

「知るかよ。犬に追われたり冷たい池で溺れてたら助けに来てくれるんじゃないのか?」

 

 それだけ言うとマギは又ブツブツと呟き始めた。

 アスナはネギとマギを見て複雑な表情を表していた。この時のマギはネギに構っていなかった。

 そう…まるで無関心だったのだ。

 

 

 

「なんて言うか、マギさんネギ坊主に冷たいアルね。何であんなに冷たかったアルか?」

 

 古菲は何故冷たかったのかその理由を尋ねてみた。マギはそうだなぁと遠い目をしながら

 

「あの時の俺は色々と焦っていて、ネギの事が眼中になかったのさ」

 

「焦っていた…ってどういう事ですか?」

 

 のどかが何故この当時のマギが焦っていたのかその理由を尋ねると

 

「この時の俺は魔法学校を首席で卒業した。けどな周りの奴らは俺がクソ親父の息子と言うことで、首席で卒業なんて当たり前とか言ってる奴が殆どだった。生徒の中にも俺がクソ親父の息子というだけで陰口を言われる始末。俺はクソ親父の息子としか見られないでマギ・スプリングフィールド個人として見てほしかった。だから…」

 

「だから悪戯で目立とうとした…と。やっぱそう言う所は子供なんさね」

 

 和美の言ったことにほっとけと頬を掻いて返すマギ。

 けどなぁとマギは呟きながら

 

「クソ親父は子供の頃から悪がきだっらしくてな、俺が悪戯をしても結局はクソ親父の息子だからしょうがないとか、悪戯でも親父の影がちらつくんだ。だからあん時の俺は悪戯でもいいから親父を越えようとしたんだ」

 

 そのせいでマギはまだ幼いネギに対して構ってあげなかったのだ。

 マギは昔の自分がバカらしく思えるぜと深い溜息を吐いた。

 

「本当に俺は昔の俺自身を殴り飛ばしてやりたいぜ。たった一人の大切な弟に対して無関心だったんだからな…この時のネギは本当に純粋だった。だから俺の言った適当な事をやれば本当にクソ親父が来てくれると信じていたんだ」

 

 のどかがまたえにっきのページを捲ると、ネギが苦しそうに寝込んでいる姿があった。

 

 

「お父様!ねッネギが池で溺れたって本当ですか!?」

 

 学校から血相を変えて戻ってきたネカネは、ネギが溺れたが大事は無いのかネカネの父親に聞いた。

 

「あぁ心配いらないよ。40度の熱を出して寝込んでいるが、命に別状はないはずだ」

 

 ネカネの父はだから心配するとネカネを安心させようとした。

 ネカネもネギが無事だと分かると力が抜けてしまい、ペタリと座り込んでしまった。

 

「まったく本当に呆れるわい。普通の人間だったら死んでおったぞ。そこはあの悪がきの息子って言う訳じゃな」

 

「他にも犬に悪戯して追われたり、木から飛び降りたりと。まぁ元気がある事は良い事という事であんまりお咎めはしないという事で」

 

 スタンやネカネの父にその他ネギを心配して見舞いに来た村の人達はネギが大丈夫だと分かると、外に出て行った。

 残ったのは寝込んでいるネギとネギの手を取っているネカネ。そしてマギであった。

 

「まったくもぉ…何で危ない事をしたのネギ?」

 

 ネカネは優しくネギの頭を撫でまわしながら如何して危ない事をしたのか聞いてみると

 

「あの…ね、お兄ちゃんが危険な事をすれば、お父さんが来てくれると教えてくれたから僕、色々とやってみたんだけど…お父さん結局来なかったんだ」

 

 それを聞くとネカネは目に涙をためて、バカ…ネギ…とネギの体に手を置いてすすり泣いた。

 

「ネギ…もうこんな事をしないで…お願いだから…」

 

 ネギはネカネは自分が泣かせたと小さいながら理解して

 

「ごめんなさい…もうしないから泣かないでお姉ちゃん…」

 

 暫くの間、ネカネのすすり泣くのとネギのごめんなさいが続いたのであった…

 ネギが疲れてしまって寝息を立てたのを確認すると、ネカネはマギに近づいた。

 そしてネカネはマギの頬を平手で叩いたのだ。

 

「マギ!貴方は何でネギにあんなことを言ったの?下手したらネギは死んでいたのよ!?」

 

 ネカネに肩を掴まれ揺すられながら怒らているのに、マギは舌打ちをしながら

 

「知るかよ。アイツが一々五月蝿かったから適当な事を言ったんだよ。自分でも危ないって分かっていてやってたんだ。自業自得だ俺は悪くないね」

 

 全く反省していないマギ、ネカネは思わずマギの肩から手を放してしまった。

 

「如何してマギ、ネギは貴方のたった一人の弟なのよ?なのになんでそんなに冷たくするの?」

 

 ネカネはマギに何故と聞いても、マギはうるせぇンだよ!とネカネに怒鳴り返した。

 

「何で冷たくするかって?うるせえんだよ!見てて苛々するんだよ!俺とネギは親父に捨てられて今の今迄まで生きて来たんだ!今まで話してなかったげどな、俺は学校で何時も陰口されてたんだよ。何やってもサウザントマスターの息子だからできて当たり前だとか、サウザントマスターの息子だから何やっても出来てムカつくってな!嫌がらせも受けた、それにアイツ等は俺とネギに親が居ないって事でバカにされた。卒業しても誰も俺個人を認めようとしない皆サウザントマスターの息子だからって事で片づける!だから俺が嫌だったんだ!それなのにネギは俺にお父さんは何処?お父さんは如何すれば会えるの?いつもいつもいつも聞いて来て!俺がどんな事をされたのか知らないで…こんな奴死んだ方がせいせいするよ!!」

 

 マギは怒鳴り終えると何も言わずに外へ飛び出して行った。

 ネカネは追いかけようとしたが、追いかける事が出来なかった。マギがそんな事をされていたなんて知らなかったのだ。否マギはネカネやネカネの父親に迷惑をかけてはいけないとそれで自分の悩みを打ち明けなかったのだろう。

 ネカネ自身マギは大丈夫だろと何処か安心していたのだ。安心しきっていたせいでマギは今の今迄潰れそうなのを耐えていたのだ。

 

「ごめんなさいネギ…ごめんなさいマギ…」

 

 ネカネは寝ているネギと出て行ってしまったマギにゴメンナサイを言い続けていた。

 アスナは何処か居た堪れない気持ちになってしまった。

 

『すみませんアスナさん。なんかお見苦しい所を見せてしまって』

 

「え?うッううん大丈夫よ気にしないで。でもマギさんも結構悩んでいたのね」

 

『はい…昔の僕は今より子供で、どちらかと言うとお父さんの事をよく考えていました。でも時々お兄ちゃんが父さんの事を聞くと凄く怖い顔をしていたのを少しだけですが覚えています』

 

 そして時間はさらに進み、ネギが風邪で寝込んでから3ヶ月経ったと言うのに村では雪が降り続けていた。

 

「まだ雪降ってる。もう春が近いって言うのに雪が降るのね…随分とこの記憶に付き合っちゃたわね」

 

 小さいネギやマギの事が色々と分かったなとそう思っているとバスが止まって、ネカネが降りてきた。

 

「1ヶ月ぶりね。ネギとマギは元気にしてるかしら…」

 

 1ヶ月ぶりに帰ってきて、ネギとマギが元気にしてるかネカネは気になっていた。

 あの風邪の後、ネギとマギは一応仲直りをしたが、マギは未だにナギの事に対しては許していなかった。

 それでもネギに対する無関心な所か少し治ったようである。

 仲良くやってると良いんだけど…と呟いて笑うネカネ。

 …とその時である。

 

「あら?…何かしらあれ?」

 

 ネカネは村の方向を見てみると、村の上空では黒い大きな鳥のような物体で埋め尽くされていた。

 

 

 

 村の近くにある大きな池で、ネギは魚釣りをしていた。

 

「あッそうだ、今日はお姉ちゃんが学校から帰って来る日だ!」

 

 ネギはネカネが帰って来ることを思い出して魚釣りを止めると、村へ駈け出して行った。

 

(ホント、可愛いもんね。此れ位小さいとまだまだ無邪気ねぇ)

 

 アスナは元気に走っているネギを見て無邪気だと微笑みながらそう思った。

 丘を登りきれば村が見えてくる。

 

「お姉ちゃーん!」

 

 ネギはそのまま丘を駆け下りようとしたその時、ブワァと行き成り熱風が巻き起こりネギが被っていた帽子を吹き飛ばしてしまった。

 ネギは思わず顔を手で覆ってしまったが、手を戻して村見てみると…村が炎に呑まれていた。

 

「なッなによこれ…!?」

 

 アスナは呆然としながら炎に呑まれている村を眺めていた。

 

 




今日は長くなりそうなので一旦切ります
次回は若しかしたら短くなるかも

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