それではどうぞ
麻帆良保育園で園児達や千鶴と触れ合ったマギは、保育園を後にするとまた散歩を再開した。
ただ目的も無いブラブラとした散歩を続けるマギ、そんなマギの後ろを一定の距離を開けた高音と愛衣が尾行していた。
「むぅ…さっきは私の勘違いでしたけど、絶対にマギ先生の尻尾を掴んでみせます!」
「お姉様諦めましょうよぉ。言っちゃ悪いんですけどこの後もお姉様のやる事が空回りしそうですし…」
愛衣の言った事におだまりなさい!と小さい声で怒鳴る高音。
散歩をしているマギとマギを尾行している高音と愛衣の前方から泣きながらあっちへうろうろ、こっちへうろうろと歩いている女の子が現れた。
泣きながらママどこぉ~?と自分の母親を探している所を見ると、如何やら迷子の様だ。
「あの迷子の女の子…マギ先生はあの子を無視するに決まっています」
「ええッ?いくらマギ先生でも流石にそんな事はしませんって!」
マギが女の子を無視すると高音がそう言い切って、愛衣は流石にそれは無いですよとまたもやツッコミを入れた。
ツッコミを入れた愛衣に甘いですよと高音が言った。」
「私は以前彼を隠れた場所から観察し、彼の行動や癖などを見ていました。その中で彼がよく口にしていた口癖は『面倒くさい』が多かったのです。そんな面倒くさがり屋な彼が迷子の子を相手せずに無視するに決まっています」
…高音がそうマギの事を決めつけているが、これも彼女の勘違いであった。
マギがよく言っているメンドイという言葉はなんでもかんでも面倒と言う訳ではない。マギの言うメンドイは『今この面倒な事をやらないと、後々此れよりも面倒な事が起こるかもしれないから今やっちゃおう。メンドイけど』という言葉の意味も含まれているのだ。
そんなマギは未だに泣いている女の子に近づくと、腰を下ろして女の子と同じくらいの目線となった。
「おいお嬢ちゃん、こんな所で泣いて如何したんだ?」
「うぐッ…えぐ…ママがどっかいっちゃたの~」
「そっか…だったらお兄ちゃんがお嬢ちゃんのママを一緒に探すのを手伝ってやるよ」
「本当?」
女の子は首を傾げながらマギに尋ねた。あぁ本当さ、嘘はつかねぇとマギは頷いてみせた。
「それでお嬢ちゃんはママとどこら辺ではぐれたんだい?」
「あっち…」
女の子が指差した方向はショッピング街の方向だった。今マギが居る場所からショッピング街まで結構距離がある。
この子は一人で此処まで歩いてきたという事だ。
「ずっと歩いて疲れただろ?ほら俺の背中に乗りな。おんぶしてやるよ」
「うん…でもいいの?」
「別にお嬢ちゃんを背負っても重くもねぇさ。さ早く乗っちまいな、ママも心配してるだろうしな」
「うん…!」
漸く泣き止んだ女の子は元気よく頷いてからマギの背中に乗った。
背中に乗ったのを確認したマギは女の子と一緒に広場へと向かったのだった。
「なッなにをやっているんですかマギ先生は!?まままさか女児を誘拐なんて…愛衣直ぐに追いかけますよ!」
「だからそれはお姉様の勘違いだと…てあぁ行っちゃった…」
愛衣は高音のその思い込みの激しさを如何にかしてほしいと思いながらも高音について行った。
ショッピング街に到着したマギであったが、迷子のママは直ぐに見つかった。
女性が娘の様な名前を叫びながら辺りを走り回っており、女の子もママママと女性を指差しながらマギにそう言った。
マギは女の子のママに女の子を渡すと、ママは若干泣きながら自分の娘を抱きしめた。よっぽど不安だったのだろう。
女の子のママはありがとうございます!ありがとうございます!とマギに何回もお礼を言った。女の子もありがとうお兄ちゃん!とマギにお礼を言った。
マギは別に大した事はやっていないとその親子にそう返した。親子はマギにお礼を言いながら去って行った。女の子はマギに手を振りながらママの手を繋いで行ってしまった。
マギも手を振りかえしてはいたが、親子の姿が無くなるとふぅと溜息を吐いてしまった。
「ママ…か。やれやれだぜさっきので少しセンチメンタルになりかけたぜ」
マギはあの親子を見て少しだけ羨ましいと思ってしまった。
自分は産んでくれた母親の顔もあんまり覚えていていない。それに母親に甘える事もああやって手を繋いで一緒に歩く事もしなかった。
そんな事を考えていると、急に胸が締め付けられる思いであった。
…こんな事はもう忘れよう。マギはまた散歩を再開した。
「マギ先生…」
愛衣は何処かマギに同情するような視線をマギに送っていた。
しかし高音の方は
「愛衣、何をしてるんですか?私はまだマギ先生の事を信じてはいませんよ」
またもや自分の考えが外れてはいるが、マギの事を認めていなかった。
マギがまた散歩を再開する事数十分後、マギの目の前に重そうな荷物を担いでいるおばあちゃんの姿があった。その先には長い鉄橋が
マギはそのおばあちゃんに近づいて
「よぉばあちゃん、また重そうな荷物担いでいるのか?」
「あぁマギさんかい?また会ったねぇ」
如何やらマギと顔馴染だったようだ。マギはおばあちゃんから重そうな荷物を持って
「何かキツそうだから俺が運んで行ってやるよ」
「いいのかい?マギさんだって何処か行くんじゃないのかい?」
「いいさどうせ目的の無い散歩なんだし、ばあちゃんが楽できるんならそれでいいし」
「そうかい?じゃあお言葉に甘えようかねぇ」
マギはおばあちゃんの荷物を持って、その目的の場所まで一緒に行ってあげた。
「…お姉様これでもマギさんが悪い人だと言えますか?」
愛衣は高音にこう尋ねるが、高音は認めたくない様で
「いいえ彼は私達の尾行に気づいているんです。だからああやって良い事をやって誤魔化そうとしてるんです…」
などと呟いていた。愛衣は如何してお姉様はこうも真っ直ぐすぎるのだろうと思ってしまっていた。
高音と愛衣のマギの尾行は結果で言うと、マギは高音が思っているような悪い人間ではないという事が分かった。
おばあちゃんを目的場所まで荷物を運んで行った後に色々な事が起こった。
最初にマギの足元に誰かの財布が落ちていた。中を見てみると結構お金が入っていた。
高音はマギがネコババすると思っていたが、マギはその財布を近くの交番に届けた。1時間経つとその落とし主らしき人物が交番に現れ、本人の物だと分かりマギは大変感謝された。
次に川に流されていた子供をマギが救出した。子供も怪我が無かった様子で川に流された子と親に感謝されていた。
最後にマギの目の前に逃げていたひったくり犯を見事撃退、持ち物を盗まれた人とひったくり犯を追っていた警官にこれまた大変感謝されたのだ。
ここまで人の役にたった人間を悪い奴だとは言えないだろう。
さらにひったくり犯を捕まえた時からマギの姿を見失ってしまい、高音と愛衣はマギの尾行を諦める事にした。
…個人的にはこの黒いマントのような服を脱げるので有りがたいと思っている愛衣であった。
「お姉様、いい加減諦めましょうよ。マギ先生はお姉様思っているような悪い人じゃないって事が分かったでしょうし」
愛衣は高音にそう言っていたが、高音本人は
「分かりません…なぜマギ先生は、エヴァンジェリンの封印を解いたのか…」
高音は何故マギがエヴァンジェリンの封印を解いたのか理解が出来なかった。
高音は今日見た事でマギが自分が思っているような悪逆非道な人間ではないという事は分かった。だが何故マギがエヴァンジェリンの封印を解いたのか理解に苦しむ様子だ。
「それは…正直言うと私も分かりません。でもマギ先生も何か目的があって封印を解いたんだと思います」
愛衣が高音にそう答えた。高音もマギが何か目的があるのかと思っていたら、高音と愛衣の前方からわらわらと不良グループが歩いていた。
行き成りだが麻帆良には二つの不良に分かれている。
自分力を高めるために喧嘩に明け暮れている不良と、何人と群れて自分達よりも弱そうな人をターゲットにして、嫌がらせをする不良である。
高音と愛衣の目の前に居る不良はどうやら後者の様で、大通りを自分達でほほ占領して、道行く人を睨んでどかしていた。
さらに歩いていたおばあちゃんを軽く突き飛ばして面白がったりしていた。
そんな不良の集団を見て、愛衣はマズイと思った。彼らのような他の人の迷惑を考えず、平和を乱す人を高音は許さないのだ。
(あぁ~お姉様の事だ、絶対あの人たちの事を厳しすぎる注意を…)
と隣の高音の方を見ようとしたら高音の姿は何処にも無く、前を見ると不良達の元へ向かっていた。如何やら遅かったようである。
「貴方達!こんな所で他の人の迷惑も考えないで、恥を知りなさい恥を!」
高音が不良達を指差しながら大声で恥を知れと叫んだ。
しかし高音一人に全然臆することなく不良達も睨んできて
「あぁ?んだテメェ、俺達に何か文句でもあるのかおい」
不良の一人が高音に突っかかって来た。他の不良は高音をいやらしい目で見ていた。
「文句?文句ならあります!そうやって大勢で通りを占領して迷惑だと思わないんですか!?」
高音は一歩も引かずに不良達に注意を呼びかけた。しかし不良達はへらへらと笑いながら聞く耳を持たない様子だ。
「なんだよお前、先公でもないのに一々うるせえ女だな」
「よく見たらコイツウルスラの高音じゃねえのか?お高くとまってる女で有名な」
「あぁ口煩くてうぜー女って噂の女かよ、顔はいいのにもったいねえな」
と不良達がジリジリと高音との距離を近づけて来た。
「なッなんですか近づかないでください!」
高音が言っても不良達はニヤニヤしながら高音に近づくと行き成り腕を掴んだ。
「今から俺らと良い事しようぜぇ?そんなお固くしないでよぉ」
「なッ何するんですか止めなさい!」
高音は男の腕を振り払おうとしたが、男はガッチリと腕を掴んで離さなかった。
「あぁお姉様!…きゃッ!?」
「おい中学生のガキも居たぜ。高音の事をお姉様だなんてお前らそう言う関係かよ」
近くでオロオロしていた愛衣も捕まってしまった。
「愛衣!?この愛衣を離しなさい!」
「いいじゃねえかよ。一緒に楽しいもうぜ、えぇ?お姉様ぁ」
高音の腕を掴んで離さない男はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「この…いい加減にしなさい!」
高音は自分の腕を掴んで離さなかった男の顔に平手を打ち込んだ。
バチン!といい音を出しながら、男は自分の頬に手を当てた。
口を切ったのか血を一筋だけ流した。
「…このアマ許さねえ!」
さっきまでにやけていた不良は、女に殴られたという事で怒り心頭になってポケットからナイフを取り出して高音に切りつけて来た。
切られた高音は上の服が切れてしまい、ブラジャーが不良達に見られてしまった。不良達は口笛を吹いてはやし立てる。
「なッ何をするんですか!?」
高音は顔を赤くしながら切られた服を押さえて自分の服を切った男に叫んだ。
「この女だからっていい気になりやがって…おいお前らコイツの服全部奪ってやれ!」
不良達は一斉に高音に群がり始めて高音に抵抗できないようにした。
「はッ離して!止めなさい!いやぁ!!」
(くッこんな下品な男達なんて魔法で一掃できるのに…!でも魔法なんか使ったら私は…)
高音は自分に群がっている男達に必死に抵抗したが、自分1人に対して不良達は大勢いるのだ勝ち目はない。
魔法が使えるならこんな不良達なんか簡単に倒せるのだが、彼らは魔法を知らないのだ。
もしこの不良達が魔法を知る事になってしまったのなら、最悪自分はオコジョになってしまうのだ。
将来を期待されている高音としてはそんな事でオコジョにはなりたくはないのだ。
周りの人に助けてもらおうとしても、他の不良が睨みをきかせているために誰も助けに来てはくれなかった。
「だッ誰か!助けてぇ!!」
高音の叫びに応える者は現れなかった。哀れ高音は不良達に服を脱がされてしまうのか…とその時
「…何やってるんだアンタら?」
先程見失ったマギが突然現れて、怪訝な目で不良の集団を見ていた。
「なッなんだテメェは!あっち行ってろ!」
不良の一人がマギに怒鳴り散らしていたが、マギは全然動じていなかった。
と不良の間と間から服を脱がされかけている高音の姿を発見した。
「おいおい何白昼堂々とそんな事やってるんだアンタらは?馬鹿な真似はよせってば」
「うッうるせえ!これが見えないのか!?さっさと失せろ!」
不良は持っていたナイフをマギに向けたが、マギはハァと溜息をするだけで
「だから馬鹿な真似はよせって、そんな事やってたら人生棒に振るぜ?」
「おッおいコイツナイフ向けてるのに動じてねえぞ。どんだけ神経が図太いんだぁ?」
不良達は動じていないマギに逆に恐怖感を覚えて少し後ずさる。
すると一人の不良があぁ!と大声を上げながらマギを指差した。
「てッテメェはアン時のガキと一緒に居た中坊の担任!」
「中坊の担任って、オメェら若しかしなくても千鶴をしつこくナンパしてたチャラ男共かよ。今度は実力行使なんてどんだけ飢えてるんだよ」
やれやれだぜ…と呆れかえっているマギに黙れと大声で怒鳴り散らす不良共
「この前はテメェにしてやられたが、今回は仲間も大勢いるしナイフだってあるんだ。泣いて謝るんなら今の内だぜ」
「だから馬鹿な事は止めとけって、さっさと家に帰ってろよアンタらは」
まったくとマギは呆れてものが言え無いようだ。そのマギの態度にカチンと来てしまった不良達
『舐めてんじゃねぇぞコラァッ!!』
と一斉にマギに襲い掛かって来た。
「全くやれやれだぜ…」
マギは自分に襲い掛かってくる不良達を見てやれやれと小声でそう零していた。
――――数分後――――
「まぁ…こんなもんかな?」
あらかた不良達を伸してしまったマギは首をゴキゴキと鳴らしながらそんな事を呟いていた。
「うッ嘘だろ?あんなにいたのにたった一人でほぼ全員倒しちまうなんて…化け物じゃねぇか!」
「くそ覚えてろ!」
不良達はマギに捨て台詞を吐きながら一目散に退散して行った。
マギは別に覚えてるつもりはねぇよと思いながら、不良達が退散するのを眺めていた。
不良達が完全に見えなくなったのを見て、マギは高音の方へ行った。
高音の服は所々破けており、ボロボロであった。マギは自分が羽織っていた薄い上着を高音に羽織らせる。
「あッありがとうございます…」
「礼はいいさ。お前今日は散々な目にあったんだな高音」
高音はマギに助けてもらったが、こんなみっともない姿をマギに見せた事に羞恥心で顔を真っ赤にしていた。
「んで今日はあの中学生の女の子を連れて何してたんだ?」
「そッそれは…私と愛衣は学園の平和を護る為に自主的にパトロールしていたのです!」
高音は苦し紛れの嘘をマギに話した。お人好しのマギは直ぐに信じると思った高音
しかしマギはハァと疲れた様な溜息を吐きながら
「悪いんだけどな高音、お前が俺の後を付いて来ていたのは最初から知ってるんだ」
とマギは高音が自分を尾行していた事をもう知っているとそう言った。
「なッいつからですか!?」
高音は驚愕した表情で何時から尾行に気づいていたのかを尋ねるが、だから最初からって言ったじゃんとツッコミで返すマギ。
つまりマギは自分が寮から出た時から高音たちの尾行に気づいていたのだ。
「アンタら認識阻害の魔法を使ってるせいで、何処に居るのか丸分かりだったから逆に何やってるのかと思っちまったぜ」
呆れかえっているマギを見てポカンとする高音
しかし次の瞬間にはそうですか…そうだったのですね…とブツブツ呟いていたのは
「今日貴方を見ていて数々の善行をしていましたが、それは私が貴方を見ていたからそうやっていい人を演じていたのですね!えぇそういう事なら納得できます!」
「おッお姉様!流石にそれは言い過ぎです!」
高音の決めつけの発言に愛衣もそれは言い過ぎだと講義をした。今の発言は余りいいものではない。
しかし決めつけられている当のマギはハァ~と肩を竦めながら溜息を吐いた。
「あのな…今日起こった人助けは、全部困っていた人を助けたいって言う本心だ。いい人を演じているなら何で俺を監視してる奴までも助けたんだよ」
「そッそれは…私に悟られない様に演技を…」
マギに何故自分を助けたのかという質問に高音は思わず何も言えなくてマギが自分を助けたのも演技だと答えた
するとマギは行き成り真顔となり
「行き成りだが質問を変えるぞ。俺があの迷子の女の子を助けず無視したらお前は如何するんだ?」
「そッそれは決まっています!貴方を補導して、小さい子を助けるように私が「はぁ~違うだろうが」なッ何が違うのですか!?」
マギは高音の答えに違うと何処か怒った口調で遮った。高音は自分の答えが違うと言われて思わず何故違うのか強い口調で尋ねてきた。
そしてマギの答えと言うのは
「なんで泣いている女の子のそばに行こうとしないんだよ、俺の説教なんか何時でも出来るじゃあねえかよ」
頭をボリボリ掻きながらマギは話を続ける。
「俺がおんぶしてる間もな、あの子は震えていたんだぜ?一人でママを探していた怖さと心細さをお前は分かっているのかよ?」
「そ…それは…」
高音は正直言えばマギことで頭が一杯で迷子の子の事なんか考えていなかったのだ。
「それにあの重そうな荷物を持って居たばあちゃんだってそうだ。一緒に目的地まで行ったけど結構な距離だったぜ。あの距離を荷物持ちながらあのばあちゃんが歩くのは結構きつかっただろうな。お前は困っているばぁちゃんよりも俺の事が大切なのかよ?」
「…」
マギの問いに高音は何も答えられなかった。答えたとしても言い訳にしか聞こえないだろうと判断したからだ。
「はぁ~たくよう、
「なッ貴方みたいにのらりくらりとしている人に何が分かるんですか!?魔法社会の秩序を守る事がどんなに大変なのかを!」
マギの盛大な皮肉にカチンときた高音は大声で言い返すが、マギは全然動じていなかった。
「秩序を守る…か…そんな秩序を守って人は護れるんかねぇ」
マギの何処か遠い目に高音はまだ言いたい事を喉の奥に引っ込めた。
「確かにアンタらみたいに秩序を守るって事は立派な事だ。立派だけどな、その秩序のために見捨てられた人間、小より大の小の方の人達の気持ちはどうなるんだよ…」
エヴァだってそうだとマギは今度はエヴァンジェリンの話をし始めた。
「エヴァだって好きで吸血鬼になったわけじゃない。なのに吸血鬼なってしまった…アイツはずっと孤独は嫌だと叫び続けた。だけど人間たちはそんなエヴァの叫びを無視して化け物は敵だと決めつけてアイツを殺そうとした。俺はアイツを化け物だとは思っていない。だから助けたんだ」
そういう事だとマギは言い切り、そしてと高音の方を指差しながら
「アンタらは簡単に言えば秩序を守るような大衆的な正義で、俺は困った人を見捨てない正義だ。アンタらから見れば俺の正義は偽善に見えるかもしれない独善だと言う奴もいるかもしれない…だけど俺は俺の正義を貫く。ただそれだけだ」
マギの正義は絶対に揺るがない。たとえ高音たちのような正義の魔法使いと名乗る組織と争う事になったとしても自分の正義を貫き通すつもりだ。
「…分かりました、私は貴方を誤解していたようです。貴方には貴方自身の正義や信念があるという事を」
高音も如何やらマギの正義を認めてくれたようだ。
「悪いな、アンタは根が真面目でいい奴だとは分かってるつもりだったんだけど、少しムキになっちまった謝るよ」
す…とマギは高音に手を伸ばした。握手を求めているようで、高音もマギの握手に応じた。
これで一応だが、マギと高音の和解は出来たのである。
「さて…とそろそろ良い時間だし寮に帰るかね」
マギはそう呟きながら寮へ向かおうとしたが、あッあのと高音が呼び止めた。
「先程マギ先生が私を不良達から助けてくれましたが、あれはどうしてですか?」
高音は如何して自分を助けたのかその訳を聞きたかった。
「それはだな…主義主張が違っても困っている人間が居たら助けるのが俺のルールだし、それに女性は助けるのが普通だからな。こう見えて俺英国紳士だし」
そう言ってマギは親指で自分を指差した。
「それに…アンタみたいに綺麗な女が男達に嫌な事をされるのを見ていられなかったって言うのも理由の1つかな」
「きッ綺麗!?私がですか!?」
マギに綺麗と言われて思わず顔を赤面してしまう高音。マギは高音が顔を赤くしてると知らずに背を向けながら
「じゃーな綺麗な御嬢さん。あんまし無理すんじゃねぇぞ」
と高音に背を向けながら手を振って去って行った。
(ってそう言えば高音に上着貸したまんまだったなぁ)
まぁいっかと思いながらマギは寮へと帰って行った。
「マギ…先生…」
「お姉様…」
高音は去って行くマギに熱っぽい視線を送っており、そんな高音を見ながら愛衣は苦笑いを浮かべていた。
こうして高音のマギに対する見方が『要注意人物』から『気になるあの人』へ変わったのであった。
はい次回からは原作の8巻に突入するんですが
もうすぐ大学が始まるのでこれ以降はかなり更新スピードがもっと遅くなると思いますが、気長に待ってくれると幸いです