ネギとアスナが喧嘩してもう3日が経ってしまった。
この3日の間アスナはネギと口をきく事が無く、寮の部屋でも重い空気が漂っていた。
最近ではマギの方でも飛び火があり、今までの中でも最大級の喧嘩であるかもしれない。
今日は金曜日、という事は明日から土日と休日だ。休日の中でも今のアスナとの険悪な雰囲気を部屋で過ごすというのはかなり堪えるものがある。
ハァァァとネギとマギは深い溜息を吐いていた。
「アスナさんもう3日とも口をきいてくれなかった…話し掛けようとしても避けられちゃうし…」
「アスナの奴俺にまで睨めつけてきやがって、悪いのはネギだっていうのにとばっちりじゃねぇか。世間はゴールデンウィークだっていうのに何で俺らの所だけ空気が重いんだろうな…」
そう今は5月で今は学生の殆どが休日のゴールデンウィークである。生徒達は祝日を謳歌してるのに、ネギとマギの所だけギスギスしている。
「どうしよう…このままじゃあアスナさんと一生口をきいてもらえないかも…」
「早く関係を元に戻してくれよ。これ以上は俺もアスナの無言の睨みは堪えるぜ…」
ネギはどうやって仲直りすればいいのか分からずじまいで、マギはもう勘弁してくれと言いたそうな溜息を吐いた。
そんなマギとネギの目の前に一台の高級車が停止した。誰が乗っているのだろうかと付き添いの人が車のドアを開けるとあやかが登場した。
「こんにちはネギ先生マギ先生。ご機嫌は如何ですか?」
と言いながらネギとマギの方に近づく。ネギはこんにちはいいんちょさんと空元気で
ネギの事が好きなあやかはネギに元気がない事を瞬時に把握した。
「まぁネギ先生お元気がない様子で…どこか御疲れなのですか?」
「いえいいんちょさん。僕は大丈夫です」
ネギはあやかに心配をかけまいと大丈夫だと振舞った。
「そうですか…所でネギ先生はこのゴールデンウィークは何処かへお出かけになられましたか?」
あやかはネギに何処か出かけたのかと尋ねるが、いえ何処にも行ってませんと答えるネギ。
それはよかったとあやかはそう言いながら
「いかがでしょうか?せっかくの週末、私が南の島へご招待したいのですが」
「南の島…ですか?」
ネギの復唱にハイとあやかはにこやかに笑いながら
「私の実家の雪広グループのリゾートアイランドの1日貸切、海もとっても綺麗ですわ」
ネギは綺麗な海という言葉に惹かれたが、アスナの顔を思い出してまたシュンとしてしまった。
「すみませんいいんちょさん。やっぱり僕…」
「どうかしましたネギ先生?若しかして何か予定がおありで?」
「そうじゃねぇんだよあやか。実はネギとアスナがな…」
マギはネギとアスナが喧嘩をしている事をあやかに説明した。
「まぁ明日菜さんと喧嘩を?」
「あぁネギも一応謝ろうとしたんだけどな、タイミングを間違えてそれでアスナをもっと怒らせるはめになっちまって。今でもアスナの奴ネギの事を無視しててな」
マギの説明で成程と納得したあやか
「道理で最近の明日菜さんの態度がそっけないと…分かりましたわ」
あやかは何か思いついたのか手を打ちながら
「それでしたらネギ先生、明日菜さんも南の島にご招待いたしましょう。明日菜さんも開放的な南の島だったらきっとネギ先生を許してくれますわ」
「ほッ本当ですかいいんちょうさん!?」
ネギの輝いた顔にええ本当ですわと肯定するあやか。
「どうせなら3-Aで行ける方を全員招待いたしますわ。大勢の方が楽しいでしょうし」
「ありがとうございますいいんちょさん!僕嬉しいです!!」
南の島だったらアスナもきっと許してくれると思ったネギは大喜びではしゃぎ回った。
そんなネギを暖かい目で見ているあやか。
「いいのかよあやか?本当はネギと2人きりで行きたかったんじゃねえのか?」
あやかは本当はネギと2人きりで南の島に行きたかったに違いない。何故ならさっきからネギは招待するとは言ったが、マギの名は一度も出てこなかったからだ。まぁ自分の名が出てないからと言って別に気にしてるわけではない…気にしてないからねマギさんは
「いいんですの。ネギ先生が喜んでくれるのなら私は何でもいたしますわ」
「ありがとなあやか。やっぱお前はいい奴だよ」
ありがとうございますとあやかはにこやかに笑いながらそう言って未だにはしゃいでいるネギを微笑ましそうに見ていた。
はたしてネギは南の島でアスナと仲直りをすることが出来るのか…
あやかに誘われた翌日、マギ達はあやかの自家用飛行機に乗って南の島に向かっていた。
飛行機に乗る事数時間かけて漸く飛行機の窓から目的の南の島が見えてきた。
水の上へ着水する飛行機、飛行機が完全に止まったのを見て、マギ達は飛行機から降りた。
「此方に行けば止まるコテージがありますわ。向こうに行けばビーチがおありになりますわ」
あやかが南の島の説明をネギに教えていた。そんなあやかやネギをよそに
『うみだぁッ!!』
水着に着替えた。生徒達が海に飛び込んで行った。
「おーいあんまりはしゃいで溺れたりすんなよ…って聞いちゃいねぇや」
生徒と同じく水着に着替えたマギが生徒達に注意を呼び掛けていたが、聞いている生徒は余り居なかった。
「まったく何でアタシまでいいんちょのとこの島に来なくちゃいけないのよ」
スクール水着に着替えていたアスナは乗り気では無い様子で疲れた溜息を吐いていた。
「ええやんアスナ、丁度新聞配達のバイトが休みやったんやし、いいちょの誘いにのっても」
同じくスクール水着のこのかがアスナにそう言った。
(海で遊んでネギ君との喧嘩を忘れてくれるとええんやけど)
(だといいんですが)
このかと刹那がアスナに気付かれないようにヒソヒソと話していた。
そんなアスナの元にネギがやって来た。
「あ…あのアスナさん?」
ネギが声をかけても
「…フンッ!」
そっぽを向いてネギの事を無視して行ってしまった。そう簡単にネギの事を許すつもりは今のアスナは今は無いようだ。またアスナに無視をされて落ち込むネギ。
そんなネギとアスナの事なんか他の生徒達は知らずに、ビーチバレーや泳いだり日光浴を楽しんでいた。
「まぁ他の生徒にとっちゃネギとアスナの喧嘩なんか知らねえしな。今は南の島で楽しむ方が優先か」
マギは一応何か問題が起こらない様に監視員擬きな事をやっていた。
そんなマギはネギとアスナの遣り取りを眺めていた。はやく仲直りをしないもんかと呟いていると
「フン、坊やと神楽坂明日菜は仲直りをしていないのか」
黒いワンピースタイプの水着を着たエヴァンジェリンと緑のビキニタイプの水着を着た茶々丸がやって来た。
「あぁ早く仲直りをしないもんかね…とふ~ん」
マギはエヴァンジェリンと茶々丸の水着をまじまじと見ていた。
なッなんだ!とエヴァンジェリンは思わず顔を赤くして体を隠していた。
「いや、エヴァと茶々丸の水着だが似合ってるなと思ってな」
「あッ当たり前だ!私は何を着ても似合うからな!」
「褒めてくれてありがとうございますマギ先生」
エヴァンジェリンは胸を張って誇らしそうに、茶々丸は素直にマギの似合っているという言葉を受け取った。
「そう言えばエヴァは泳がないのか?海は真水じゃないし泳げるんじゃねぇのか?」
「そッそれは…だな…」
マギはエヴァンジェリンが言葉を濁したことに首を傾げていると茶々丸が
「実はマスターはカナヅチなのです」
「おいボケロボ何喋っているんだお前は!」
エヴァンジェリンは自分が秘密にしていた事を普通に暴露した茶々丸を強く揺さぶった。
「そうなのか…だったら俺が軽く泳ぎを教えようか?」
マギが泳ぎを教えようかと提案し、揺さぶっていたエヴァンジェリンはピタリと動きを止めて
「本当か?」
嘘じゃないかと再度聞くが
「教えると言っても水になれる程度だぞ?それでもいいか?」
「だったら教えてもらおうかな…」
マギに泳ぎを教えて貰うなら万々歳なエヴァンジェリン。
「オッケーな。それと茶々丸は海に入っても大丈夫なのか?」
「ご心配なく。超さんやハカセによって私のボディーは防水対策は完璧です」
ですので無問題ですと無表情でサムズアップする茶々丸。
何も問題は無いようで、マギはさっそく泳ぎを教える事にした。
「そんじゃ軽くバタ足からな。苦しくならない様に鼻でブクブクした後に呼吸をしてみるか」
「う…うん」
初めて泳ぎを教えて貰う事に聊か緊張しているエヴァンジェリン。
エヴァンジェリンの足がつきそうな浅瀬で泳いでみる事にした。
「1-2-ブクブクーパ!1-2-ブクブクーパ!…中々いい調子だぜエヴァ」
「プハッ!そうかいい調子か!」
マギにいい調子だと褒められて嬉しそうなエヴァンジェリン。
しかしそんなキャッキャッウフフフな光景を黙って見ているつもりは毛頭も無いのが3-Aでマギの事を気になっている生徒達である。
「マギ兄ちゃーん僕達にも泳ぎを教えろー!」
「教えてですー!」
「マギさんウチ平泳ぎが出来ないんや教えてな!」
「マギさん!ウチラのどんくさいのどかにも泳ぎを教えてよ!」
「マギさんのどかにもぜひ水泳の御教授を!」
風香や史伽に亜子にハルナに夕映がマギに密着してきた。
「おッおい俺にそんなにくっ付くなよ!バランスが取れねぇだろうが!」
マギはそう言って離れてくれるように頼んだが、離れる様子も無く遂にはマギはバランスを崩して倒れてしまった。
数秒間水にもぐっていたが、直ぐに顔を出すと
「お前ら危ねえだろうが!水の中でふざけてれば事故につながるだろうが!」
マギはくっ付いていた生徒達を軽く怒った。
「ったく…てあれ?エヴァは何処に行った?」
とマギはエヴァンジェリンが自分の手から離れていることに気づき何処に行ったのかと辺りを探していた。
「あ…あのマスターならあそこです」
茶々丸が指を差した場所にはプカプカと浮かんでいるエヴァンジェリンの姿が
「てうぉい!さっそく事故発生じゃねえか!おいエヴァ大丈夫か!?」
「あぁマギかぁ不死なのに何か変な川が見えるぞぉ…」
「軽くやべぇじゃねぇか!しっかりしろい!」
とマギの行動が早かったおかげで何とかなったようだ。こうしてエヴァンジェリンにめでたく新たなトラウマが植え付けられたのであった。
他の生徒達が楽しく過ごしている間、ネギは生徒達と離れたビーチにて体育座りで落ち込んでいた。
落ち込んでいる原因は先程アスナに無視された事である。
「はぁ此処に来ればアスナさんの機嫌が良くなると思ったのに、考えが甘かったのかな…」
「まぁ姐さんだって女ですし、もうちょっと経てば機嫌を良くしてくれるはずですよ」
カモはこれ以上ネギが落ち込まない様に励ましていると
「ネギ先生」
ネギが心配になったあやかや千鶴に夏美と和美がネギの元へやって来た。
「如何ですか?明日菜さんとは仲直りは出来ましたか?」
あやかが尋ねても出来ませんでしたとネギは首を横に振った。
「やっぱりアスナさんは僕の事が嫌いになってしまったんでしょうか…」
ネギが目に見えて落ち込んでいるのを見てあやかは何かを決めたのかネギの手を取り
「分かりましたわ。私がネギ先生と明日菜さんとの仲直りをお手伝いさせていただきますわ」
「ほッ本当ですかいいんちょさん!?」
「ええ私にドーンとお任せくださいな」
おほほと高笑いをしながら任せてほしいと断言したあやか。和美はこの隙にネギとの距離を一気にあやかが縮めると思っていたが
「悲しみに打ち震えるネギ先生に近づくなんて卑怯な…それにあんな仲の良かった明日菜さんとこのままではネギ先生が可哀そうですわ」
と言い切った。あやかは普通にいい人なんだが、自分の恋愛で損するタイプだと和美はそう読んだ。
「それでこそ私の知ってるあやかだわ。いいわ私もひと肌脱ぎましょう」
あやかの熱意に感動した千鶴がネギとアスナの仲直りに一役買ってくれるようだ。
こうしてアスナが知らないうちにネギとアスナの仲直り作戦が実行されることになった。
一方のアスナはというとビーチの上を散歩していた。
「なぁアスナ、ネギ君もう許してあげたら?」
このかがネギを許してもいいんじゃないのかと言っても
「うッうるさいわね、アタシの勝手でしょう」
の一点張りであった。本当はネギの事は許してる気持ちは心の片隅にあるのだが、アスナの意地などがそれを遮っているのだ。
そんな意地を張っているアスナの元へあやかが慌てたような素振りで走ってきているのが見えた。
どうせネギに早く謝れと言うだけだろうと思っていたがそうではなかった。
「大変ですわ明日菜さん!ネギ先生が海で泳いでいたら深みで足を取られて今にも溺れそうなんです!!」
というのは嘘で、ネギが溺れていると言えばいくら喧嘩をしているアスナでさえも正義感でネギを助けに行くはずだという作戦である。
案の定ネギが溺れてるビジョンを思い浮かべた。アスナは
「何処よいいんちょ!何処でネギが溺れてるの!?」
あやかに何処でネギが溺れているのかを急いで問い質した。
アスナに聞かれたあやかはこちらですわとネギが溺れている場所へと案内した。
道中ネギが溺れていると聞いたマギもネギが溺れている場所へと向かった。
到着しネギが溺れいているのが見えた。溺れているのだが、あやかまでがあんぐりと口を開けていた。何故なら
「うわぁぁぁんッ!誰か助けてぇ!!」
3~4m程の大きいサメと1~2m程の小さいサメがグルグルと弧を描いて泳ぎながらネギの事を狙っていた。
「さッサメェッ!?」
アスナはまさかサメにまで狙われているのを見て慌てだす。しかし早く助けないとネギがサメのエサとなってしまう。
「ネギィッ!」
アスナは危険を顧みず、ネギを助けるために海へと飛び込んで行った。
「明日菜さん!私も…」
アスナについてきた刹那も援護しようとしてカードの力を発動させようとしたが
「おっとちょい待ち」
と和美が刹那の動きを止めた。
「あッ朝倉さん止めないでください!早くしないとネギ先生が…!」
あやかもネギの元へ駆け付けようとしたが、落ち着きなっていいんちょと和美が宥める。
「正義感の強いアスナにネギ君を助けてもらうって作戦さね」
「でッでしたらあのサメは何なんですの!?」
あやかがサメを指差しながら何なのかと尋ねた。それは私ですわと千鶴が笑いながら
「ただ溺れてるだけだったら緊迫感が無いし、だったら何か付け足そうと思ってそしたら南の島だからという事でサメという考えにたどりつきましたの」
「だからってやり過ぎですわ!」
千鶴の提案にやり過ぎだとツッコむあやか。
ここであのサメの種明かしをすると、2匹のサメはホテルにあったサメの剥製と着ぐるみを古菲と夏美が作戦に協力して、大きい方に古菲そして小さい方に夏美が着込んでいると言う訳である。
なので食い殺される心配はないと言う訳であるが、襲われているネギとしてはそんな事分かるはずも無かった。
「というよりこれがドッキリだって分かっちまえば、アスナの奴もっとキレるんじゃねぇのか?」
マギが言っている事も十分あり得る。もしサメが偽物だと分かればアスナの事だ、心配していたのにそれを仇で返されたら怒り心頭である。
仕方なく見守る事にしたマギ達である。
「ああ兄貴反撃!反撃ですぜ!」
カモが食われない様に反撃するようにネギに言った。
「でッでも今僕杖を持ってないし…はッそうか!」
ネギは水の中に潜り、両手に魔力を集中させた。
こんな時こそ古菲に教わった拳法と、最近エヴァンジェリンに教わった簡易版魔力供給が役に立つ時が来た。怖いがやるしかない
大きいサメの方が大口を開けながらネギに迫ってきた。辛うじて躱してネギはサメのエラを狙った。サメの弱点はエラと鼻面である。的確に弱点を狙っている。
しかし目の前のサメは本物のサメではなく、古菲が入っている偽物であり。
(ホウホウ、水中でこの動きはやるアルね。だがしかしまだまだ甘いアル)
古菲はネギの拳を軽くいなして逆にカウンター技を決めてしまった。
「何でサメが拳法を~!?もう駄目だぁ!!」
「にょほほほ」
簡単に防がれてしまい、ネギは涙目で必死に泳いで逃げようとした。古菲も悪乗り仕出し始めてネギを面白半分で追いかけまわした。
「ネギ!」
アスナは目の前でネギが食べられてしまう…!そう思ってしまい頭の何処かが切れてしまった。
「アデアット!!」
アーティファクトを発動して、アスナの周りの海の水が強大な魔力の力によって吹き飛んでしまった。
またハリセンが出てくると思っていたマギ、しかし出て来たのはハリセンデはなく、巨大な大剣であった。
「サメなんて…サメなんて今更怖くないわよ!!」
アスナが大剣を振るうと、剣の衝撃波で海が割れてしまった。剣の衝撃波によって2匹のサメも空へと打ち上げられた。
「うッ海がわれたぁ!?」
和美たちはアスナが海を割った事に驚いていたが、マギはアスナが手にしている大剣の方が気になっていた
(アレがハマノツルギの本来の姿に違いないが、何で何時もはハリセンの姿をしてたんだ?謎だ…)
サメからネギを助け出したアスナは砂浜へと戻ってきた。
「ネギ大丈夫!?」
「は…はい大丈夫ですありがとうございますアスナさん」
如何やらネギは無事の様でホッとしたアスナ。しかしアスナは見てしまった。サメの口から目を回した古菲と、サメの着ぐるみを着た同じく目を回した夏美が浜へ上がっているのを。
「これは…どういう事かしらねぇ…!」
自分は騙されたと思ったアスナは怒りで体が震えていた。
「あッあのアスナさん!?僕も今一状況がよく分からなくて!」
「違いますのよ明日菜さん!これは貴女とネギ先生が仲直りをしてもらおうと!」
ネギとあやかが必死に弁解しようとしたが、アスナがネギに大股で近づいて
「この馬鹿ネギ!」
手を振り下ろそうとした。またぶたれると思い目を閉じたネギだが一向にぶたれず、かわりにピタリと自分の頬に冷たい感触が伝わってきた。
「え…?」
ネギはおっかなビックリで目を開くを目に涙を溜めているアスナの姿が。
「こんなイタズラして…心配かけんじゃないわよバカ…」
「あ…アスナさん…」
ネギはこの流れで今迄の事を謝ろうとしたが、それよりも早くアスナのまたもや容赦のない一撃によってネギは砂浜に沈められてしまった。
「ネギの大馬鹿!」
それだけ言うとアスナは走り去ってしまった。
「やっぱ逆にアスナを怒らせちまったようだな…これでネギとアスナの溝はより一層深まったって感じだな」
マギはネギとアスナの関係をそう呟いてみていた。
「あぁアスナさん…」
ネギはアスナが走り去っていった方向をただ見ているだけしか出来なかった。
「申し訳ありませんネギ先生…!」
あやかもネギに誤る事しか出来なかった。
ネギとアスナの仲直り作戦失敗である。
夕方になり、生徒達も遊び疲れて各々が休むコテージへと向かっていた。コテージは海の上に立っておりとてもおしゃれであった。
南の島での夕日はいつも見ている夕日よりも綺麗に見えた。
「ふむ、今後も学園の外に出る事が出来ないと思っていた私がよもやこんな南の島に行けるとは…これもマギのおかげかな」
エヴァンジェリンはおしとやかに夕日を眺めながらジュースを飲んでいた。
「そんな大げさな、まぁ封印を解いたのは俺だけどさそんなに言わないでくれ背中が痒くなっちまう」
マギは背中を軽く掻きながらエヴァンジェリンにそう言った。
「おおげさじゃない。お前のおかげで私は自由になれたんだ。だから私は…」
エヴァンジェリンは自身の思いをマギに伝えようとしたが。
「アスナさん!待ってくださーい!」
「しつこいわよ!こっち来ないで!」
ネギとアスナの追いかけっこにエヴァンジェリンはテーブルに顔を打ち付けてしまった。
「相変わらず良くやるなネギとアスナは…ッて如何したんだエヴァ」
マギはテーブルに顔を埋めているエヴァンジェリンを見て首を傾げた。いやなんでもないと誤魔化すエヴァンジェリン。
「それよりも坊やと神楽坂明日菜の喧嘩はまだ続いているのか?」
「まぁさっきは上手くいきそうだったんだけどな、失敗しちまってさらに悪くなっちまったて感じかな」
「坊やと神楽坂明日菜には大停電の時に辛酸をなめさせられてるからな、もっとやれとは思っていたが…あそこまで来ると鬱陶しく感じて来るな」
とマギとエヴァンジェリンがそんな遣り取りをしていると
「マギさん…」
夕映とのどかがマギとネギの元へやって来た。エヴァンジェリンとしてはせっかくマギと2人きり(茶々丸が付き添いでいるが敢えて無視)だったというのに邪魔が入って不機嫌そうだ。
「おぉ夕映とのどかか如何したんだ?」
何の用か尋ねると夕映が
「マギさん覚えているですか?私が図書館島に脱出した時の言葉を」
「あぁ魔法使いになってドラゴンを倒すってやつか?でも流石にドラゴンを倒すのは無理が…」
マギが喋っている間にいえそうじゃないんですと夕映が言葉を遮った。
「あの後私としてもよく考えたんです。流石にドラゴンを倒すのは無理があり過ぎると…私とのどかは別の目的で魔法使いになりたいんです」
別の目的?その別の目的と云うのが何なのか尋ねると
「別の目的と云うのがファンタジーな世界を体験したいというのが一つの理由で、もう一つはマギさん貴方を助けたい理由で魔法使いになりたいと思いました」
「俺の?」
再度尋ねるとハイですと夕映は答えた。
「ハッキリ言えば私達は戦闘面ではマギさんの足元にも及ばないです。ですが私達でもマギさんのお手伝いが出来たらとそう思ったのです」
「わッ私もマギさんには色々と助けてもらいました。なので恩返しがしたいです」
のどかも真っ直ぐマギを見てそう言った。参ったなとマギは思った。こういった自分に対する厚意と云うのは如何も苦手でどう答えればいいのか返答に困っていた。
そんなマギに変わってエヴァンジェリンがオイ貴様等と夕映とのどかの方を見て言った。
「貴様たちが手を貸さなくてもマギは十分強い。逆にお前達のような者は足手まといだ」
それにと夕映の事を指差しながら
「魔法の魔文字も知らんお前達に覚悟というものはあるのか?」
エヴァンジェリンの凄味に夕映は軽く屈しようとしたが
「私とのどかは魔法を知ったその日から覚悟は決めていたです!」
のどかも同じくと頷いた。
2人の覚悟が一応本物だと分かったエヴァンジェリンはフウと息を吐いてから
「分かったよ。魔法はマギや坊やにでも教えて貰え」
エヴァンジェリンが折れてくれたようだ。
「でもなぁ俺が魔法を教えるって言ってもそう上手くいくかね…」
マギは魔法をどう教えればいいのか考えていると
「その事ですが、マギさんよろしければですが…私と仮契約というものをさせてはいただけないでしょうか?」
夕映がマギと仮契約をしたいと言いだしてきた。
「おッおい夕映お前本気か?」
「はい仮契約をすれば戦力アップにもつながると思ったのですが、もしかして私とは仮契約は出来ないのですか?」
「いやそう言う訳じゃあないんだけどな…」
マギは如何ゆえに説明しようか迷っていると
「ほうほう、ゆえっちもマギ先生と仮契約がしたいなんて積極的さね~」
と何処からともなく和美が出現した。
「和美おま何処から出て来たんだよ!?」
「特ダネのある場所に私ありってね。話は変わるけど仮契約をすれば1人に1つ面白アイテムがついてくるんだよね~」
どうマギさん私とも1つと和美が迫ってきてお断りだとマギは断った。夕映は何故マギが断っているのかと疑問に思っていたが
「あぁそう言えばゆえっちは仮契約の仕方を知らなかったか。仮契約の簡単な仕方はその仮契約をしたい人とキスをすればいいんだよ」
ひそひそ声で夕映に教えた和美。数秒間思考が停止した夕映は
(え゛?キスってもしかして修学旅行の時のこのかとネギ先生のキスが仮契約だったんですか!?もしかしてホテルの時ののどかとの事故のキスでカードが手に入ったとは言ったましたがそれも仮契約だったんですか!?)
夕映は思わずマギの唇を凝視してしまった。
「如何したの夕映?」
「はぅ!なんでもないです!」
のどかに声をかけられて夕映は思わず声が裏返ってしまった。
「んで如何するのゆえっち?マギ先生と仮契約というかぶっちゃけキスはするの?」
「ちょ!朝倉さんは黙ってほしいです!!」
と色々と話がゴチャゴチャしてしまい、仮契約の話は自然となくなってしまった。
夜となり、殆んどの生徒は自分達のコテージに戻ってもまだワイワイと騒がしかった。
そんな中でマギはアスナが泊まっているコテージへと向かった。
コテージに到着するとマギはドアをノックした。しばらくたつとドアが開き中からあやかが現れた。如何やらアスナと一緒に居るのはあやかのようだ。
「あらマギ先生どうしたんですの?」
「いや、ちょっとアスナに話があってさ。アスナは部屋に居るよな」
マギの問いにえぇいますわと答えるあやか。ただ…とちょっと困ったような表情をして。
「今は誰とも話したくない様子で特にネギ先生やマギ先生とは特に…と先程もネギ先生が来たんですけどネギ先生ともお会いにならないで」
「そうか…まぁいいや兎に角上がらせてもらうぜ」
ちょまって下さい!とあやかを無視してマギは部屋の中へと入って行った。
「おうアスナ、話があるんだけどちょっといいか?」
「ちょマギさん何勝手に入ってきてるのよ帰って!」
アスナはマギを追い出そうとしたが、マギはビクともしなかった。
「いいからちょっと話し合おうぜ?直ぐに終わるからよ」
「だからアタシは今は誰とも会いたくないの!さっさと出てってよ!」
アスナは会いたくもないし話したくもないの一点張りであった。
アスナの態度に溜息を吐いたマギはグイッとアスナの手を引っ張って。
「いい加減下らない意地を張ってるんじゃねぇよ。黙ってついて来い…あやかアスナをちょっと借りてくぞ」
「あ…はい分かりましたわ」
あやかの了承を得てマギはアスナを外へと連れ出した。
アスナを連れ出してマギは少し広い広場みたいな所で漸く止まった。
「まこんな所までくれば大丈夫だろう」
「どういうつもりマギさん、こんな所まで女の子を強引に連れだして。一歩間違えれば犯罪よ犯罪」
アスナの睨みにマギはスマンスマンと軽く謝ったマギ
「で話って何なのよ?」
アスナはマギに話とは何なのか尋ねた。
「話も何もお前ネギの事はもう許さないつもりなのか?」
マギの質問にアスナは反応して俯いてしまった。
「ネギはアスナに酷い事言ったって反省してる。アイツもお前の事が心配でそれであんなことを口走っちまったみたいなんだよ。まだネギは子供だ自分で言った言葉の意味を偶に理解していない時がある。だけどもアスナに危険な目にあってほしくないからああやって…」
「分かってる分かってるわよマギさん。アタシもうネギの事は許してるからさ」
アスナはネギの事を許しているようだった。なら何故ネギの事を避けるようなことをしていたのかと尋ねるとよく分からないと返した。
「ネギがまだ麻帆良に来た頃は、オッチョコチョイで頼り無くてメソメソしているただのガキンチョだと思ってた…だけどアタシが知らないうちにどんどん強くなって、アタシが知らない内に先に進んじゃって…今じゃネギの事が分からない時があるの。でもネギがアタシの知らないうちに大怪我してるんじゃないのかとか、若しかしたら死んじゃったりしてないのかとか思っちゃって、心配なのよアタシは…」
アスナの独白を聞いて成程なと頷いたマギは
「つまりあれだな。心配してた弟が知らないうちにたくましくなっちゃって、これからどう接すればいいのか分からないお姉ちゃんみたいな感じか?」
マギは1つの答えを見出した。
「おねッ…確かにそんな感じかもアタシ一人っ子だから弟とかよく分からないけど、うんアタシはネギが心配。アイツ色々と無謀すぎるから」
マギの言う通り今のアスナは何処か故郷のネカネと一緒のような表情をしている。
弟を心配している姉の表情になっていた。
「だったらその気持ちをネギにぶつけてみろよ。アイツだってきっと分かってくれるはずだぜ」
マギはアスナに自分の気持ちをぶつけて見ろとそう言った。
「ふぅ…何かマギさんに喋ったら少しすっきりしたなぁ。あぁそれと睨み付けてごめんなさいマギさん」
「いいさ、俺は全然気にしてねぇよ。だからその勢いでネギと仲直りしちまえよ」
「うんそうする。それじゃあマギさんおやすみなさい」
あぁお休みとマギとアスナは自分達のコテージへと帰って行った。今のアスナなら大丈夫だろう…マギはそう思っていた。
翌日の早朝、結局ネギはアスナの事を考えており余り眠れなかった。
同じコテージで寝ているマギに如何すればいいのか尋ねてみても
「これはネギとアスナの問題なんだから俺に振るな」
と言うだけ言ってマギは爆睡してしまった。今日もアスナに無視されてしまうのではないかと思ってしまったネギ。
とネギがそんな事を考えていたその時、コテージの窓がコンコンと鳴った。風で窓が鳴ったのかと思いきや、窓の外に水着のアスナが居た。
「あッアスナさん!?如何して此処に…?」
ネギはアスナが如何して此処に居るのかと思っていたが、アスナは外に出ろとネギにジェスチャーを送った。
ドアを開けるとアスナは無言で袋をネギに渡した。袋の中はネギの水着が入っており着替えてこいと云う事だろうか。
着替えたネギは無言のアスナに引っ張られてコテージのベランダへと向かった。
ベランダの階段から海へと直行できるようでアスナはこのベランダからネギとマギのコテージへと来たのだろう。
「あ…あのアスナさん?」
ネギは未だに一言も喋っていないアスナを見てまだ自分に対して怒っているのだと思っていたが、アスナがネギを思い切り引っ張って海へと落とした。
「あぶぶぶ!あッアスナさん何を!?」
行き成り海に落とされて手足をばたつかせるネギ。
「ぷ…アハハ!何よその顔バッカみたい!」
アスナは溺れているネギを見て大笑い、そして自分も海に飛び込んでネギをもう一回海の中へ沈めた。
「フフフ…はぁスッキリした」
「行き成り何するんですかアスナさん…」
何も言わず海に落としたと思ったら今度は海の中へ沈めたりと酷いとアスナにそう言ったが
「別にぃ、南の島に来たのにアンタと遊んであげてなかったなって思ってさ」
そう呟いた後にアスナはネギに近づいた。ネギは又ぶたれると思い目を瞑ったが、アスナはネギをぶつことなく逆に抱きしめた。
「へ?あの…アスナさん…?」
ネギはアスナが抱き着いてきたことに戸惑っていたが、アスナが小さな声でゴメンと呟いていた。
「しばらくの間無視しててゴメン。ちょっと意地張ってた」
「ぼッ僕の方こそごめんなさい…僕アスナさんに酷い事言ってしまって」
ネギもアスナに酷い事を言ってしまった事を謝った。
「いいの。アンタがアタシにこれ以上危険な目にあってほしくないからあんな事言ったんでしょ?アタシの事を心配してくれるのは嬉しい。けどねアタシはアンタが心配なの」
ネギの頬に何か水のようなものが当たった。
「アスナさん…?」
ネギは思わず顔を見上げるが、アスナがネギから離れて顔をグシグシと擦った。
「アンタは一度決めた事は絶対投げ出さないからね。お父さんを追う事も、強くなろうとすることも」
でもねとネギに微笑みながらアスナは言った。
「アンタを護らせてよ。アタシを…アンタのパートナーとして見てよネギ」
アスナの笑顔に呆然としてしまったが
「…はい!お願いしますアスナさん!!」
ネギもアスナに負けない程の笑顔で元気よく叫んだ。
それからは今迄積み重なった仲違いが一気に吹き飛んでアスナとネギは大声で笑いあった。
そんなネギとアスナの大笑いに殆どの生徒が起きてしまった。
「いやはや兄貴と姐さん、仲直り出来て良かったですね」
カモが笑いあっている2人を見てしみじみと呟いた。
「全くだぜ。これ以上ギスギスした関係が続くかと思うと冷や冷やするぜ」
カモの隣でマギがベランダに手を置きながら言った。
「大兄貴起きてたんですね」
「まぁなアイツラの大笑いのせいで目が覚めちまったよ」
というのは嘘でネギがコテージの外へ出て行った時から目が覚めており寝たふりをしながらネギとアスナの様子を窺っていたのである。
「まッこれで何時ものネギとアスナに戻ったかな。まさに雨降って地固まるってやつだな」
マギはそう呟いた。
これでネギとアスナは一応大丈夫だろう。
だがあの2人の事だ。またいつか喧嘩をするはずだ。
だが今日のようにしっかり仲直りが出来るだろう。
そうであるはずだとマギは信じていた。
此れで一応原作7巻が終了しますが
次回からは原作の8巻ではなく、ちょっとした小話を2~3話ほど出してから
8巻に進もうと思います
それでは