堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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最近は早い段階で投稿できるのでサクサク進んでいるつもりです
大学の春休みものこり約一か月

何とか原作の8巻までたどり着きたいです

それではどうぞ


覚悟の差

 ネギのエヴァンジェリンへの弟子入りのテストへ向けて、ネギは今日も古菲に中国拳法の特訓をしてもらっていた。

 そして今日がその試験当日の土曜日である。現在午後の4時、試験まで残り時間は8時間を切った。

 古菲は今迄主にカウンター技をネギに教えていた。ネギでは真正面からの正攻法では勝ち目がないと考えた古菲。だったらカウンター技だという事になった。

 カウンターこそが中国拳法の真骨頂だと云うのが古菲の考えである。

 ネギは特訓の締めとして、今まで古菲に教えて貰った技を駆使して最後の組手を行っていた。

 

「…ウム、私が教える事はもう何もないアル。後は体を休めながら技の復習を行うヨロシ」

 

「はい…ありがとうございましたくー老師」

 

 古菲は一通りネギに技を教える事が出来たようだ。ネギと古菲は合掌しあい、特訓を終了した。

 

「おーいネギくーん!」

 

 特訓が終了したネギの元へまき絵やアスナ達がネギの元にやって来た。

 

「まき絵さん今日は!」

 

「こんにちはネギ君!拳法の方はどんな感じ?」

 

 まき絵がどんな感じかと尋ねるとネギはう~んと唸ってから

 

「くー老師には僕が今できそうな技を全て教えて貰いました。その力をどれだけ出せるかは今日の試験次第です…でもやれるだけやってみるつもりです」

 

 そう言ってサムズアップをした。そう言うまき絵さんは?とネギがまき絵の新体操の具合を尋ねると

 

「ネギ君やアスナ達のおかげで自信は取り戻せたと思う。けど上手くいくかは分からないな。でも私も自分が出来る精一杯の演技をするつもり」

 

「それじゃあまき絵さんは明日」

 

「ネギ君は今日の夜中」

 

「「がんばりましょう(ろうね)!」」

 

 ネギとまき絵は互いに頑張る事を誓い合った。

 

「おーいネギ君!今夜試合するって聞いてたから差し入れ持ってきたよ~!」

 

 と裕奈とアキラが大量の弁当を差し入れに持ってきてくれた。少し時間が早いが夕食を食べることにした。

 

「所でくーふぇ、ネギ君試合では勝てそうなん?」

 

 このかが古菲に勝てるかどうかを尋ねると、古菲はいやそれどころか…とおかずを食べながら難しい顔をして

 

「それがネギ坊主の飲み込み能力が反則過ぎるアルよ。普通なら様になるのに1ヶ月かかる技を、わずか3時間でマスターしたアル。全くどうなってるアルネギ坊主は」

 

 古菲の言った事に裕奈達はネギの飲み込みの速さに感心した。

 

「だけどそれ位頭が良くないと10歳で先生はできないかも」

 

 アキラがもっともな事を言った。

 

「そっか流石天才少年!それじゃあ楽勝ジャン!」

 

 ネギそっちのけで裕奈達が騒ぎ始める。

 

「いや…そんな簡単にいくとは…」

 

 今日ネギと試合をするのはあのマギだ。しかもあのエヴァンジェリンがマギの師となっているのだ。

 絶対簡単に試験を合格するという保証は零に近い。

 そんな不安そうなネギに近づいて元気づけようとするアスナ。しかしネギに近づいて鼻を動かすと

 

「ネギ、アンタ臭うわね。まさかまたお風呂に入ってないでしょう?」

 

 アスナに指摘されドキリとするネギ。そうネギはお風呂が苦手で特訓を理由にお風呂に入るのを厳かにしていたのだ。

 清潔好きな女子達にとってお風呂に入らないネギはドン引きされていた。

 

 ハァァ~と呆れながらネギの首根っこを掴んで

 

「ちょっとシャワーを浴びて来るわよ!これからマギさんとの試合だって言うのに臭くちゃ失礼でしょ!」

 

「あわわごめんなさ~い!」

 

 ネギが喚いているのを無視してアスナはシャワー室がある場所まで引きずられていった。

 アスナとネギの遣り取りを見ていたまき絵達は

 

『何か世話がかかる弟を躾けるお姉ちゃんみたいな関係かな』

 

 と思ってしまっていたのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 マギの方も修業の第一関門が終了しようとしていた。

 

「…」

 

 マギは雪山の頂上にて腕を組んで静かにたたずんでいた。

 

「今だ、一気に魔力を開放してみろ」

 

 エヴァンジェリンがマギに言った次の瞬間

 

「!ハァァァァァッ!!」

 

 魔力を一気に解放したマギの拳を雪山の山頂に叩きつけた。叩きつけられた山は頂上から罅割れを始め、頂上から崩れ始めた。

 

「うおッ!ちょやり過ぎたか!?」

 

 崩れ出したので危ないと感じたマギは黒き翼で空に回避した。マギは崩れ去り更地になってしまった雪山跡を見降ろした。

 

「漸く魔力のコントロールを完璧に出来るようになったな。修業の第一関門はこれで終了した」

 

「あぁこれまでの魔力の力が半端じゃなく感じるぜ…でもまだ修業の第一関門なんだな」

 

 当然だと断言するエヴァンジェリン。

 

「魔力のコントロールが最初の土台なんだぞ。闇の魔法はそれ位強力なんだ。魔力をしっかりコントロール出来ないと闇の魔法の力に飲み込まれるからな」

 

 エヴァンジェリンの説明に成程なと納得するマギ。

 

「まぁ今日は坊やの弟子入りのテストだ。マギ、今日はもうゆっくりしておけ」

 

 エヴァンジェリンのご厚意に甘えるマギ。そんなマギがなぁエヴァと呼ぶ。

 

「ネギの事だけどさ、お前本気でネギを弟子入りさせるつもりなのか?」

 

 さぁな分からんと肩を竦めるエヴァンジェリン。ただ…と何処か遠くを見ながら

 

「私から見て駄目だと判断したら、私は容赦なく坊やを見捨てるつもりだな」

 

 手厳しいねぇとマギも呟く。

 

「まぁ俺も、ネギの奴が思っていたのよりも腑抜けていたら容赦なく潰すけどな」

 

 マギとエヴァンジェリンも準備は完了をしていた。

 

 

 

 

 

 そして、遂に土曜日の深夜12時。

 試験の時間となった…

 

 

 

 

 

 場所は世界樹の近くの階段広場。

 マギ達が先に広場に到着していた。

 マギは試合という事で柔軟体操などをして準備をしていた。

 

「ネギの奴遅いな…まさか遅刻なんてしないだろうな」

 

「いや私達が先に着いたようだ。もう少し坊やを待ってみろ」

 

 マギは腕の関節をボキボキ鳴らせながら、ネギの遅さを愚痴っていた。

 

「ケケケ、早ク俺ニ血ミドロノ殴リ合イを見セテクレヨ」

 

「姉さん大人しく待っていてください」

 

 チャチャゼロが早く殴り合いを見たくてうずうずしているが、そんなチャチャゼロを茶々丸が押さえていた。

 

「しかし宜しいのですかマスター?マスターの元で修業したマギ先生にネギ先生が一撃を入れる可能性はほぼ0%に近いです」

 

 茶々丸が言っている事は正しいだろう。そうだろうなとエヴァンジェリンも否定しない。

 

「だけどな、一発でも攻撃を当てれば合格なんて破格の条件だ。それに坊やはナギの息子でマギの弟だ。若しかしたらなんてことがあるかもしれないからな…しかし今回のテストで駄目だったのなら坊やはその程度だったという事だな。だからマギ容赦するなよ本気で行け」

 

「あぁ最初から本気で行くぜ」

 

 とマギ達が話をしていると。話に出ていたネギがやって来た。

 

「エヴァンジェリンさんそしてお兄ちゃん。ネギ・スプリングフィールド、弟子入りテストを受けに来ました」

 

 やって来たネギによく来たなとエヴァンジェリンがネギを見降ろしながらそう言う。

 

「では早速始めるぞ。坊やのカンフーもどきでマギに一発でも攻撃を当てれば合格だ。しかしマギに手も足も出せずに貴様がくたばればそれまでだ。分かったか?」

 

 エヴァンジェリンが改めてテストのルールを教える。

 

「その条件でいいんですね?」

 

 対するネギは自身満々で返した。如何やらこの2日間の特訓に自信を持っているようだ。ネギの反応が自分が思っていたのと違うので若干戸惑ったエヴァンジェリン。

 

「それじゃあ始めるかと言いたい所だが…そのギャラリーは何だ!?」

 

 エヴァンジェリンが言ったギャラリーとはアスナやこのかに刹那。ネギに中国拳法を教えた古菲にこの2日間目的が違えど一緒に頑張ってきたまき絵。そして面白半分で付いてきた裕奈とネギが心配で付いてきたアキラであった。

 

「何か付いてきちゃって…」

 

 ネギも苦笑いを浮かべていた。ギャラリー達はネギに声援を送っていた。

 

「ネギ君大丈夫そう?」

 

 まき絵はネギに大丈夫か尋ねると

 

「まき絵さん、練習の成果を出し切ってみます」

 

 サムズアップして心配しないでと返した。

 

「ネギ!」

 

「兄貴!」

 

 アスナとカモも心配でネギに声をかける。

 

「大丈夫ですアスナさん、カモ君」

 

 そしてネギはマギと相対する。

 

「お願いしますお兄ちゃん」

 

 ネギはマギに合掌をする。

 

「この2日でどんだけ成長したか見てやるよ」

 

 マギも拳を構えて戦闘態勢に入る。

 

「ねッねえくーふぇ、ネギ君は大丈夫かな?」

 

 まき絵はやはり心配で古菲に尋ねる。正直言って分からないアルとそれだけしか答えられなかった古菲。

 

「マギさんが戦っている所は一度位しか見てないアル。その時マギさんの戦いを見て、ハッキリ言って化け物クラスだと感じたアルよ。そんなマギさんに長期戦を挑むのは無謀アル。だから私はネギ坊主にカウンター重視の技を教えたアル…正直1分以内にカウンターを当てなければ勝機は無いアル」

 

 それだけ聞くとネギが勝てる見込みはほぼ0ではないか。

 

(ネギ君…頑張って!)

 

 何も出来ないまき絵はただネギが無事に合格してくれるように祈るだけだった。

 

「では始めろ!」

 

 エヴァンジェリンの号令で試験は開始した。

 

「んじゃ行くぜ」

 

 マギは一瞬の魔力強化でネギに一気に接近した。

 

「契約執行90秒間 ネギ・スプリングフィールド!」

 

 ネギも契約執行で自身の身体能力を向上させる。

 

「シッ!」

 

 マギの正拳突きをネギは腕でガードする。

 

「そらよ!」

 

 更にマギはもう片方の腕でパンチをするが、ネギは受け流す。そして受け流した反動で

 

「八極拳 転身胯打!」

 

 古菲に習ったカウンター技を放つが、マギの腕によってガードされる。

 

「おお!?」

 

 裕奈達は何が何だか分からないが歓声を挙げていた。

 

「むッ惜しい!」

 

 古菲は今のカウンターがかなり惜しい所だったと分かった。

 

「…へぇ」

 

 攻撃をガードしたマギも今の攻撃はまぁ中々だったと思った…それしか思わなかった。

 その後もマギとネギの殴り蹴りは何十合か続いた。

 

「なんかすごい!ただ殴り合うだけだと思ったけど何者なのあの兄弟は!?」

 

 裕奈は改めてマギとネギがただの兄弟じゃないと思い知らされた。

 

「あのスピードやるアルヨネギ坊主!」

 

 古菲もネギのスピードにこれならばと思っていた。しかし

 

「だけどこれは…」

 

「ああ兄貴がヤバいでさ」

 

 アスナとカモは此れはヤバいと感じていた。何故なら

 

(ふん我流の自分への魔力供給か。これまた強引な術式だな…しかしたった2日の修業では、スピードパワーが追いついた所でマギには勝てんぞ)

 

 エヴァンジェリンがネギの強引な魔力供給に呆れているのと同時に、マギに思い切り蹴飛ばされるネギ。

 マギと距離が開いてしまい、少しだけよろけるネギ。その間にもマギが再度接近する。

 

「ネギ君!」

 

 またネギがやられてしまうと思い、悲鳴を上げるまき絵。

 

「いや作戦通り、あれは誘いアル!」

 

 誘い!?まき絵は作戦の事を良く知らなかった。見ればネギは足を踏ん張っていた。

 

 何も知らずに(・・・・・・)マギはネギに向かって正拳を放った。

 

 しかし放たれた正拳はネギに掴まれてしまった。

 

(上手いアル!そこでカウンター!)

 

「八極拳 六大開頂 攉打頂肘!!」

 

 ネギのカウンター技が今度こそマギに当たろうとしていた。勝ったと誰もが確信していた。

 …だがそれは間違いである。

 

「悪いなネギ、その程度のカウンター技はもう見切っちまってるんだ」

 

 攻撃が当たる瞬間、マギは腕を使わず地面を蹴り上げて、逆立ちの状態になってネギの攻撃を躱した。

 マギはネギのカウンターのタイミングを見切り、敢えてネギの誘いに乗ったのである。

 

「そらお返しだ」

 

 マギは地面に足が降りる力を借りてネギの腹に蹴りを食らわした。

 

「ガフッ!」

 

 クリーンヒットしたネギはそのまま地面をズザザと滑っていった。

 滑り終え動けなくったネギと同時に、魔力供給の魔法が消えてしまった。

 

「あ…」

 

 さっきまで勝利を確信していたまき絵達はシン…と静まり返ってしまった。

 

「ッチ、やはりガキはガキか。こんなものだろうさ」

 

「機嫌ガ悪イナ御主人」

 

 チャチャゼロの言った通り、今のエヴァンジェリンは不機嫌だ。マギの弟だから少しは出来るかと思いきや、いざ戦ってみるとその程度。ハッキリ言って興ざめものである。

 

「残念だが坊や、これが貴様の実力だ。顔を洗って出直してこい」

 

 此れでもう終わりだろうと思い、気絶しているだろうネギにエヴァンジェリンがそう言い放つ。

 

「ネギ!」

 

「ネギ君!!」

 

 アスナとまき絵がネギの元へ駆け付けたが、ネギの指がピクリと動いたのを見て思わず立ち止まる。

 

「へへ…まだですよ。僕はくたばってませんエヴァンジェリンさん」

 

 ボロボロであるが、何とか起き上がったネギ。まだやる気で拳を構える。

 

「何言ってるんだお前、もう試験は終わりだ。さっさと帰って寝たらどうだ?」

 

 エヴァンジェリンはシッシと追い払う仕草をした。

 

(ネギの奴、俺が蹴り飛ばす直前に障壁を張って攻撃を軽減したのか…たく器用な真似するよなホントに)

 

 マギは舌打ちをしながらネギを見ていた。

 

「エヴァンジェリンさんが言っていた条件は『僕がくたばるまで』でしたよね?それに確か時間制限は無かったと思いますけど?」

 

「おい、まさか貴様」

 

 エヴァンジェリンはネギが言おうとしていることが分かってしまった。そのまさかですとネギはマギの方を見た。

 

「一撃入れるまで何時間でも粘らせてもらいます。お兄ちゃん続きを」

 

「…まだヤル気の様だな」

 

 マギは少しだるそうに頭を掻いていた。ネギはまだ諦めていない様子だ。それととネギはまだマギに言いたい事があるようだ。

 

「お兄ちゃん、今度からは本気を出して欲しいんだ」

 

 ネギはさっきまで戦って、マギが手を抜いて戦っていると分かった。

 

「…いいのか俺が本気を出しても?」

 

 マギはネギに本気を出してもいいのかと確認を取る。

 

「本気を出して欲しいんだ。手を抜かれた状態でお兄ちゃんに勝っても意味は無いんだ」

 

 …そうかよとマギは呟いて関節を鳴らす。そして纏っている雰囲気を変えた。

 

「やぁぁッ!」

 

 ネギはマギに意地でも一撃入れようと前に出るが、マギは一瞬で消え、一瞬でネギの目の前に現れた。

 

「…え?」

 

 ネギは一瞬で現れたマギに動揺を隠せなかった。

 

「…覚悟しろよ。此処からは俺の軽い本気モードだ」

 

 マギの目にも見えないパンチがネギの顔面に抉るように入った。

 パンチがモロにネギに入り、ネギがかけている眼鏡が宙を舞った。

 

 

 

 

 

 試験が始まって1時間が経った。最初の方はこのか達もネギに声援を送っていたが、それが段々無くなってきた。何故なら

 

「はぁッ!…はぁッ!…ハァッ!…」

 

 ボロボロのネギと

 

「なあネギもう止めねぇか?俺もう疲れちまったよ」

 

 ネギとは逆に眠そうに欠伸をしているマギ。

 此処までの戦いはマギのワンサイドゲームと化していた。

 最初の方はネギの攻撃を防いでいたが、もうネギに攻撃を許す事はしなくなった。マギはエヴァンジェリンに教わった格闘技を全て駆使ししてネギを潰そうとした。

 ボディががら空きなら鳩尾に肘打ち、足元がお留守なら足払いで転ばせ、腹を思い切り蹴り飛ばした。さらに腹にめり込むかのようなラッシュを連続で喰らわした。

 ネギが反撃に出ても合気道や柔道の背負い投げで地面に叩きつけ、足を持ってジャイアントスイングで投げ飛ばした。

 それでもネギは立ち上がって今も尚マギに攻撃を入れようと足掻いていた。

 

「なぁネギまだやるの?お前が俺に勝てないって分かっただろ?」

 

「いえ…まだでふ」

 

 マギが諦めろと言ってもネギは諦めない様子だ。

 

「あっそ…だったら本格的にくたばってもらうか」

 

 そう呟いてマギはフラフラなネギの腹にまたもや容赦のない蹴りあげ攻撃をして、ネギが蹴り上がったら今度は踵落としでネギを地面に叩きつけた。

 そして叩きつけられたネギの背中を踏みつけるマギ。余りの残酷さにこのかや裕奈などが目を逸らす。

 

「ったく弱すぎだろ…ホントに古菲に中国拳法を習ったのかよ。って事でおい古菲!ネギの奴に本当に中国拳法を教えていたのかよ!?」

 

 今迄ネギが一方的に攻撃されているのを見て呆然としていたアスナ達だが、マギが古菲の名を呼んだことにハッとして

 

「もッ勿論アル!ネギ坊主は1ヶ月かかる技を短時間で覚えてしまったアル!そんなネギ坊主が弱い訳ないアル!」

 

 古菲の言った事にやっぱりなとマギは呟いて

 

「おいネギ、俺は今迄言わなかったが、お前に嫌いな所が有る。それはそうやって簡単に自分は強くなったって思い込んでる所だ」

 

 マギは冷めた目でネギにそう言い放った。行き成りマギがネギの嫌いな所を言った事にアスナ達は息を呑んだ。マギはネギを踏みつけながらも話を続ける。

 

「俺にとってネギ、お前の頭の良さは兄貴としては鼻が高い思いだ。さっきの中国拳法も中々だった…けどなそれだけだ。お前が強くなったとは思えない。ただ古菲の技を真似してるようにしか感じられなかった。だからお前の攻撃は簡単に見切れるんだよ」

 

 そう言い終えると、マギはネギの髪を掴んで持ち上げてネギの顔を見た。

 

「なあネギ、お前本気で強くなりたいと思ってるのか?今までの攻撃を見ても強くなりたいという感じがしなかった。大方古菲が最初の方でふざけた修行法で時間を無駄遣いしたんじゃねぇのか?」

 

 古菲はマギに言い返そうとしたが、マギの言った事が図星で何も言えなかった。確かに古菲は修業初日に、自分がやっている無茶な修行法にネギにも(まき絵も巻き込み)やらせて朝の修業を無駄にしてしまった事があるのだ。

 

「お前だって痛感しただろ?京都の時の自分達の不甲斐なさを…だから強くなろうと思ったんじゃねぇのかよ?死ぬ気で強くならなくちゃいけないのにお前はのうのうとこの2日間無駄な時間を過ごしてたのか?」

 

 マギに聞かれてもネギは何も言えなかった。そのネギの態度が気に入らなかったのか、マギはネギに頭突きをやってまた地面に沈んだ。

 ネギはマギに殴られ蹴られをされながら気づいた。自分とお兄ちゃんとの力の差が離れきっていることに。

 ネギは古菲の所で今迄した事の無い辛い修業をしてきたつもりだ。おかげで少しは格闘戦で強くなったと思っていた。

 だがマギは自分のそれ以上の強さだ。エヴァンジェリンの元で過酷で、それこそ死ぬかもしれない修業をしていたのだろう。

 

(無理だ…今の僕じゃお兄ちゃんに勝てない…)

 

 力の差に絶望するネギ。

 

「…ッチ!覚悟もねえ奴が強くなっても意味ないんだ。だったらそこでずっと寝てろ」

 

 それだけ言ってマギは倒れているネギの元から去ろうとした。アスナ達ももうネギが戦えないと思いネギの所へ駆け付けようとした。

 だがその時

 

「待ってマギさん!」

 

 まき絵がマギ向かって叫んだ。呼ばれたマギは黙ってまき絵の方を見た。

 

「ネギ君に覚悟が無いなんて言わないで!ネギ君は今日まで一生懸命に頑張ってたもん…覚悟があって目的のために頑張ってきたもん!だから…だから」

 

 まき絵の言いたい事は分かるだろう。しかしマギは溜息を吐きながら

 

「なぁまき絵、覚悟ってなんだと思うお前は?」

 

「…え?」

 

 マギに聞かれ、まき絵は改めて覚悟というものが何なのか考える。

 

「まき絵が言った通りネギにも覚悟があるのならば力の差でも、覚悟の差でも俺よりも下だ」

 

 一旦区切って話を続けるマギ

 

「ネギは目的のために一生懸命頑張る覚悟…俺の覚悟は大切なものを死ぬ気で、命を賭ける思いで護る覚悟だ。ネギの方は一生懸命ベストを尽くせばそれでいいかもしれない。だけどな俺は違う。俺は大切なものを護れなかったらこの命捨てる覚悟だ。守れなかったら意味が無いんだ」

 

 アスナ達はマギの目を見た。マギの目は嘘を語ってない目だ。本当に守れなかったら死ぬつもりなのだろう。

 

「ネギ、お前はアスナやこのかに刹那、それに他の生徒達を護れなくても、ベストを尽くした一生懸命頑張ったけど駄目だったで終えるつもりか?それだったら敢えて言わせてもらうぞ…失望した」

 

 話はそれだけだ。それじゃあなとマギは今度こそ去って行こうとした。

 

「ま…待って…お兄…ちゃ…ん」

 

 倒れていたネギがゆっくりと立ち上がる。その目にはまだ光が宿っていた。

 

「僕も一生懸命頑張ればアスナさん達を護れると思った…けどお兄ちゃんと戦って分かったよ…一生懸命だけじゃ護れない…だったら…死ぬ気で覚悟を決めるべきだって」

 

 足をガクガクと生まれたての小鹿のように足を震わせていたが、その目は力強くマギを見ていた。

 

「その言葉に嘘や偽りはねぇか?」

 

「無い…よ。今言った事は…今の僕の本心だよ」

 

 今のネギはまさに覚悟を決めた者の目だろう。良い目だとマギは呟いて

 

「なぁエヴァ、今から試験のルールを変えてもいいか?」

 

「構わんぞ。今の坊やじゃマギに一発でも当てるのは無理そうだしな」

 

 ありがとうとマギはエヴァンジェリンにお礼を言って再度ネギの方を向く。

 

「いいかネギ、今から俺が全力のマジな一撃をお前に喰らわせる。その一撃にお前が耐えたら合格だ。くたばったら残念だが不合格だ…それでいいか?」

 

「うん、構わないよ」

 

 ネギも構わないと覚悟を決めたようだ。上等とマギは呟いて自分の魔力を一撃のために集中し始める。

 マギが魔力を集中し始めた事によりマギの周りで乱気流が起こり始めた。

 

「ちょ大兄貴!それは流石にやばいでさ!」

 

 カモはアスナに聞こえるぐらいの声で喚き慌てた。

 

「ちょ何がヤバいのよカモ!?」

 

 アスナは他の人にばれない程の声でカモに何がそんなにヤバいのか尋ねる。

 

「大兄貴、修学旅行の時よりも魔力や魔力を練る力が格段に上がってるんでさ!今の大兄貴の本気の一撃を兄貴が喰らったら、顔が言葉道理に吹っ飛ぶか顔が粉砕されちまうか…」

 

「ちょちょっとそれは不味いでしょ!早く止めないと…ネギ!」

 

 アスナはネギが頭を吹っ飛ばす姿を想像して顔を真っ青にしてしまった。

 

「行くぞネギ…死ぬ覚悟は出来てるか?」

 

「死ぬ覚悟じゃないよ。これを耐えてもっと強くなる覚悟だ」

 

「そうか…行くぞ!」

 

 マギは溜めていた魔力を一気に放出した。まき絵達はもう見ていられなくなって目をギュッと閉じていた。

 

「たぁぁぁッ!」

 

 

 

 バキィィィィィッ!!

 

 

 

 マギの一撃がネギの頬を抉るように決まり、さっきの倍以上も吹っ飛ばされてしまい、広場の壁に思い切り叩きつけられた。

 ネギは壁からずり落ちるとそのまま倒れて動かなかった。

 

「ネギ!」

 

「ネギ坊主!」

 

「ネギ君!!」

 

 アスナ達は倒れているネギに向かって叫んだ。しかしネギは何の反応も見せなかった。

 やはり駄目だったのか…アスナ達が諦めかけていたその時、ネギの指がピクリと動いて

 

「う…うあ…」

 

 ネギがまたもや立ち上がったが、目に光は宿っておらず意識も朦朧としているようでフラフラとしており今にも倒れそうだった。

 起ちあがったネギを見てマギはフッと笑うとゆっくりとネギに近づいた。

 まさかまだネギを攻撃する気なのか、マギがネギに向かって手を振り上げたのと同時にアスナがハマノツルギを出そうとした。

 

「…良く耐えたなネギ、試験は合格だ」

 

 そう言ってマギはネギに何時もやってるように頭に手を置いて、優しく撫でまわした。

 

「ほ…本当…?」

 

 ネギは虚ろな目でマギに再度聞いた。あぁとマギは頷いて肯定する。

 

「よく頑張ったな。これでお前も今日からエヴァの弟子だ」

 

「や…やったぁ…!」

 

 そしてネギはそのまま意識を失ってしまった。

 

「ネギ!」

 

 アスナがネギの元に駆け付ける。

 

「心配すんな。ただ気を失ってるだけだ」

 

 マギはネギをアスナに渡した。渡されたアスナは少しだけ呆然とするがハッとしてマギの方を見て

 

「マギさん!アンタ何自分の弟にこんな事して、これでネギが死んだらどうすんのよ!?」

 

 アスナはマギに向かって自分の思った事を素直にぶちまけた。マギは何も言わなかったが、エヴァンジェリンは

 

「フン貴様の目は節穴の様だな」

 

 とアスナを小馬鹿にするような態度でそう言った。

 

「どういう意味よエヴァちゃん!?」

 

 アスナは自分の目が節穴だという事に納得できなかった。

 

「マギは終始坊や相手に本気ではなかったのだよ。それにあの最後の1撃も坊やに当てる直前にマギは一気に力を制限した。全くよくそんな芸当ができる物だな」

 

「悪いなエヴァ。やっぱコイツをこんな所で潰すわけにはいかないと思ってさ。さっきはああは言ったけどコイツにだって覚悟はあるようだし」

 

「でも覚悟を持ってるからと言ってネギはまだ子供なのよ!?あそこまで酷い事しなくてもいいじゃない!」

 

 アスナは言った事は皆思っている事だろう。あのなアスナとマギは真剣な目でアスナを見て

 

「覚悟を決めたんだったら、子供も大人も関係ないんだよ。俺達が強くなるためにはそんな甘い気持ちは捨てないといけない…捨てないといけないんだ」

 

 マギが言った事にアスナは何も言い返せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日が昇り始めた頃にネギは漸く目を開けた。

 ネギが目を覚ましたことにアスナ達はホッと一安心だ。

 

「アスナ…さん、僕テストはどうなったんですか?」

 

 ネギは意識が朦朧としていたのか覚えていなかった様だ。

 

「ネギ、テストは合格よ。頑張ったじゃない」

 

 アスナはネギに微笑みかけながらそう言った。おいネギとマギが呼ぶ。マギはネギの近くに座り込んでいた。

 

「ネギ、最後はガッツがあったぜ。だけどなまだまだ俺には遠く及ばないな。もっと精進しろよ」

 

「へへ…はい!」

 

 精進しろよと言われてネギは元気よく応えた。

 

「坊やお前の勝ちだ。約束通り今日から私はお前の弟子だ。いつでも私の家に来い…それとカンフーの修業は続けておけ。どのみち体術は必要だしな」

 

 そう言ってエヴァンジェリンは立ち去って行った。ネギの元にまき絵や古菲も集まる。

 

「ネギ坊主頑張ったアルな!」

 

「はいくー老師…まき絵さん、今度はまき絵さんの番ですが頑張ってください」

 

「うん…私もネギ君みたいに頑張るよ!」

 

 

 

 

 

 こうしてネギのエヴァンジェリンへの弟子入りのテストは合格したのであった。

 その後自信を取り戻したまき絵は自分らしい演技を披露し、無事選抜テストに受かったのだった


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