堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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~第5章~修業と喧嘩と仲直り
地獄の特訓


「はぁッ…はぁッ…はぁッ…!」

 

 全身血だらけ怪我だらけのマギが荒い呼吸をしていた。

 

「なんで…こんな事に…なっちまったんだかな…」

 

 マギが今いるところは麻帆良の森の中ではなく、湿気でじめじめとした霧がかかった城の廃墟であった。

 何故マギが血だらけの怪我だらけで、如何してこんな辺鄙な場所に居るか。それは数時間ほど時間を遡る。

 

 

 

 

 

 修学旅行が終わった翌日の日曜日の女子学生寮のアスナの部屋にて

 アスナは日曜でも朝の新聞配達のバイトをやっており今は二度寝をしている。そんなアスナは今夢の中だ。

 夢の中のアスナは夜空を見ていた。

 

(あれ此処何処よ。砂漠?)

 

 夢の中のアスナは如何やら夜の砂漠に居るようだ。

 

「よう起きたかい?嬢ちゃん」

 

 男の声が聞こえて、その声の方向を見るとアスナが好みそうなダンディーなオジサンが座っていた。

 

(ちょ!何よこの渋めのオジサマ…てあれ?この人確か…)

 

 アスナは目の前のオジサンの顔を見て思い出した。ナギの別荘にあったナギと戦友の記念写真に写っていたオジサンだった。

 

「起きたんなら顔を洗いな。水たまりがあっちにあるからよ」

 

「うん…」

 

 嬢ちゃんと呼ばれているなら少女だろう。少女は顔を洗いに水たまりに向かった。

 

(ちょ!もっとオジサマを見させてよ!)

 

 アスナは水たまりに向かう少女に文句を言ったが夢なので意味が無い。そして少女が水たまりに屈むとアスナは言葉を失った。何故なら水面に映っていたのは幼いアスナ自身。

 

(これ小さいアタシ…よね?何でアタシこんな所に居るの?綺麗な砂漠の夜空…そんな記憶全くないのに)

 

 自分には無い記憶にアスナは困惑していると

 

「おーい今帰ったぜ!」

 

 新たに誰かが現れた。

 

「おう早かったな。何か獲れたのか?」

 

「おうネズミみたいなのが3匹な」

 

 と新たに現れた男は何か食糧になる物を探していたようだ。ネズミみたいな生き物をオジサンに渡した。ネズミみたいな生き物を渡されて食えんのかコイツ…と尻尾を持ちながらオジサンは呟いていた。

 

「お、お早いお目覚めだな」

 

 食料を渡した男は幼いアスナに近づいてきた。

 

(あれ?アタシこの人知ってる…と言うかこの人って…)

 

 男は幼いアスナの頭に手を置いて

 

「向こうの空を見て見なアスナ。夜明けが綺麗だぜ」

 

 ニッと笑いかけて男…ナギがアスナに言った。

 

「う…う~んアレ?」

 

 夢から覚めたアスナは先程見た夢を思い出した。

 

「変な夢見たな…ってもうお昼か~少し仮眠しようとしたのに結構寝ちゃったなぁ」

 

 アスナは寝巻きから私服に着替えるとこれから如何するか考えているとネギの姿があった。

 アスナとこのかの部屋のロフトはマギとネギの部屋にと改造されており、たった今ネギは作業の真っ最中だった。

 

「何やってんのよネギ?そんなカリカリと」

 

「あッアスナさんお早うございます」

 

 ネギの挨拶にアスナもおはよと返す。そんな事よりも何をやっているのか尋ねると

 

「長さんから頂いた手がかりを調べていたんです。そしたら驚くことにこの麻帆良学園の地図の束だったんです。父さんがあの別荘に最後に来た時に研究していたものだそうです」

 

「えッ学園の地図!?何で」

 

 アスナの驚きにネギも分かりませんと答えた。

 

「何か暗号で書かれて今解読を試みたんですが、どうもうまくいかなくて」

 

 ネギは難しい顔をしながら言った。

 

「だったらマギさんにも協力してもらったらいいじゃない」

 

「僕もお兄ちゃんにそう頼んだんですけど、お兄ちゃんは…」

 

 ―暗号解読なんてそんなメンドイ事俺が出来るわけねぇだろ?てことでネギ、頼んだ―

 

「って僕一人でやる事になっちゃって」

 

 アハハと笑っているネギを見てアスナは溜息を吐いた。

 

(マギさん、ここぞとばかりに大変な事をネギに押し付けて全くもう…)

 

 とアスナは呆れていたが、押し付けられたネギは妙にウキウキとしていた。

 

「ねぇネギ、やけに楽しそうじゃん」

 

「そうですか?でも悪い人や強い敵とかもいて大変でした。けど父さんの別荘にも行けて手がかりも見つかった。何か凄くやる気が出て来ちゃって…今回の事で色々とやらなきゃいけないことが出来ちゃいました。先生の仕事もあるし大変ですけど…」

 

 ネギはアスナにサムズアップしながら

 

「見ててくださいアスナさん。僕頑張りますから」

 

 ネギの顔と夢に出ていたナギの顔が重なりアスナは呆然としてしまった。

 呆然としているアスナを見てネギは不思議そうにしながら

 

「如何したんですかアスナさん?」

 

「なッなんでもないわよ!」

 

 ネギが覗きこんできたので思わず距離を置いた。

 

「そッそう言えばマギさんの姿が見えないけど、如何したの!?」

 

 アスナは強引に話題を変えた。今此処に居ないマギは何処に行ったのかネギに尋ねると

 

「あぁお兄ちゃんなら今…」

 

 ネギが答えようとしたその時チャイムが鳴って

 

「お邪魔致しますネギ先生!せっかくの日曜日ですので一緒にお茶などいかが?」

 

 あやかが和美と一緒にやってくると

 

「ネギく~ん遊びに来たよ~!」

 

「カラオケにいこ~!」

 

「マギさんいる!?貸してた本返して欲しいんだけど!」

 

「マギ兄ちゃ~ん」

 

「遊んでほしいです~」

 

 3-Aの生徒の殆どが部屋に押し込んできた。すっかり大所帯となってしまい、いつの間にか帰ってきたこのかは大量の御茶菓子を用意しようと大忙しだ。

 すっかり部屋がワイワイと騒がしくなってしまい、アスナが拳をプルプルとしていたが

 

「あれ?マギさんの姿が無いじゃん。ネギ先生マギさんは?」

 

 和美の問いにネギは

 

「お兄ちゃんだったら、今日朝早くに荷物を纏めてエヴァンジェリンさんのお家に行ってしまいました。何でもほんの2~3週間だけ泊まって来るそうです」

 

あれだけ騒がしかった部屋がビキッと固まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…ここにはつい最近来たはずなのに、何だかずいぶん昔に思えて来るなぁ」

 

 アスナが二度寝している間にマギは荷物を纏めてエヴァンジェリンの家へとやってきていた。

 

「前に来たのはエヴァの呪いを解いた時か。懐かしいぜ」

 

 っと思い出話に老け込んでる時間はねぇかとマギはドアをノックした。

 

「開いています」

 

「サッサト入リヤガレ」

 

 ドア越しから茶々丸とチャチャゼロの声が聞こえた。マギはドアを開くと

 

「お待ちしておりましたマギ先生」

 

「ヨク来タナ。マァユックリシテケ」

 

 お辞儀をする茶々丸とケケケと笑うチャチャゼロ。邪魔するぜとマギも腕を上げて応じる。

 

「っとチャチャゼロと会うのは今日が初めてか?」

 

「オウ初メテダナ。マギッテ言ッタカ?オ前殺シガイガアリソウダナ。今度俺ト殺シ合オウゼ」

 

 ケケケと笑いながら言うチャチャゼロに、よしてください姉さん、と茶々丸が注意する。チャチャゼロはエヴァンジェリンの夢で見た事があるが、ロボットでもなく普通の木の人形が喋って殺し合おうと言っていたら少し不気味である。

 

「マギ先生、マスターは二階です。ご案内します」

 

「チャッチャト付イテ来イヨ」

 

 チャチャゼロを頭に乗せ、茶々丸がエヴァンジェリンのいる部屋に案内させた。

 マギがノックするとクシャミのあとに、入れという鼻声のエヴァンジェリンの声が聞こえマギは部屋へと入った。

 

「ズズ…遅かったなマギ」

 

 エヴァンジェリンが鼻を啜りながら、もっとこっちに来いとマギを手招きした。

 

「なんだエヴァ風邪ひいたんか?だったら日を改めるけどよ」

 

「違う。これは花粉症だ…まったく、日本は花粉が酷過ぎて嫌になってしまう」

 

「花粉症にやられる吸血鬼って威厳もねぇなおい」

 

 マギが言った事に五月蝿いぞ!と半分ムキになってマギに喚き散らす。

 エヴァンジェリンが鼻をかみ終えると、先程とは違うキリッとした表情になり

 

「さてマギ……お前は私に闇の魔法を制御できる術を教えてほしいと頼んだな?ハッキリ言うぞ。闇の魔法は普通の魔法と違い、普通の人間では扱う事の出来ない危険な魔法だ。生半可な覚悟では死ぬぞ。お前に死ぬ覚悟はあるか?」

 

 エヴァンジェリンは問いにあぁと頷くマギ。

 

「愚問だぜエヴァ。俺はとっくに覚悟を決めてんだ…もっと強くなるために手段は選ばないってな」

 

 マギの覚悟を聞いてそうか…とエヴァンジェリンはクククと悪い笑みを浮かべながら

 

「お前の覚悟はよく分かった。だが…お前は忘れていると思うが、私は有名な悪い魔法使い。悪い魔法使いに魔法を教えて貰うのだったらそれなりの代償があるものだ」

 

 ス……とマギに自分の足を出しながら

 

「私の足を舐めろ。私の弟子となるなら私の下僕となり忠誠を誓え」

 

 クククと悪い笑みを浮かべながらマギに早く足を舐めろと命令するエヴァンジェリン。

 

「なぁマジで足舐めなきゃいけねぇのか?」

 

「如何した舐めないのか?だったら弟子の話は無しだ」

 

 如何した如何した?と笑み浮かべるエヴァンジェリン。そんなエヴァンジェリンを見てマギはハァと溜息を吐きながら

 

「分かったよ、舐めればいいんだろ?」

 

 マギはエヴァンジェリンの足首を掴んで舌を出した。

 

「……え?」

 

 エヴァンジェリンは一瞬固まってしまった。本当は足を舐めろと言うのは冗談だったのだ。マギをからかうつもりだったのにマギが本気で捉えてしまったのだ。

 

(まッママママギの舌が私の足を…!いッいや足を舐められると言うのはそれはそれでいいのかもしれないけど。でも舐めてもらったら私は足を舐められて喜ぶ変態だと思われしまう!そ…それはその…えーと…!)

 

 目をグルグルと回してどうしていいのか分からなくなってしまったエヴァンジェリンは

 

「う…ウワァァァァッ!!」

 

 足を舐めようとしたマギを思い切り蹴飛ばしてしまった。

 

「ブべッ!?」

 

 蹴飛ばされたマギは変な声を出しながら床をスライディングした。マギは顔を押さえながら

 

「おい!行き成り蹴飛ばすなよ!」

 

「うっウルサイ!冗談で言ったのに何真に受けてるんだお前は馬鹿なのか!?」

 

「冗談で足を舐めさせようとすんな変態!」

 

「変態だと!?だったらマギは足好きの足フェチだ!」

 

「何だと変態!」

 

「やるか足フェチ!!」

 

 遂には取っ組み合いの喧嘩に勃発したマギとエヴァンジェリン。

 

「あぁマギ先生にマスター。喧嘩は止めてください」

 

「ガキノ喧嘩ダナ」

 

 茶々丸がオロオロとしながらマギとエヴァンジェリンの喧嘩を止めようとして、チャチャゼロはケケケと笑いながら喧嘩を傍観していた。

 

 喧嘩は10分ほどで終わり、マギとエヴァンジェリンは肩で息を吸っていた。

 

「こッこんな無駄な喧嘩はもうやめよう…」

 

「誰のせいだと思ってんだよ」

 

 マギの呆れた溜息を吐いているのを無視したエヴァンジェリンはマギを地下室に案内した。地下室には前にマギが世話になった別荘が置いてあった。

 

「懐かしいな…エヴァの呪いを解除した時に死にそうになったけど、この別荘に世話になったっけ」

 

「あぁ、マギのおかげで私は今や自由だ。私を自由にしてくれたことに今でも感謝してるぞ」

 

「別に礼なんて、ていうか前来たよりも別荘が増えてないか?」

 

 マギが言う通り、別荘の数が増えていた。前に見た塔の他に砂漠や氷の世界…南極とアルプスが混ざったようなもの。生い茂るジャングルにそのジャングルにそびえ立つ城。そして霧がかかっている廃墟。

 

「お前の修業のために掘り出したのと新しく作ったのが幾つかある。闇の魔法はそれほどまでに危険な禁術だ。再度問うが覚悟は出来てるんだな?」

 

「くどいなエヴァ、俺は覚悟を決めたんだぜ?今更引き下がれるかよ」

 

 マギの覚悟は揺るぎないもののようだ。そうかと呟くエヴァンジェリン。

 

「だったら魔法陣に乗れ。さっそく修業を開始する」

 

 マギとエヴァンジェリンに茶々丸が魔法陣に乗ると、魔方陣が光だしマギ達は別荘の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 別荘の中に入るマギ達。マギは塔のエリアに居た。

 

「久しぶりに来たけどやっぱデカいよな…下が見えねえぜ」

 

 マギは遥か真下の地面を見降ろしてそう呟いた。

 

「おいマギ何してるんだ早く行くぞ。お前の荷物を部屋に置いたら早速修業を開始する」

 

 マギを置いてエヴァンジェリンと茶々丸は先に行っていた。

 

「おい待ってくれよエヴァ、茶々丸」

 

 マギは荷物を担いでエヴァンジェリンと茶々丸を追いかけた。

 着いたマギの部屋は前にマギが意識を失って7日(外の世界では7時間)ほど眠っていた部屋だった。

 懐かしいな…と感慨深くなりながらも荷物を置いたマギ。

 

「マギ、動きやすい服に着替えたら塔の広場に来い。今後の修業内容を教える」

 

 エヴァンジェリンはそれだけ伝えると先に広場へと向かった。マギはエヴァンジェリンに言われた通り、動きやすいジャージに着替えて広場へと向かった。

 

「着替えたぜエヴァ。それで修業は如何いったのをやるんだ?」

 

 修業内容を尋ねるマギ。あぁとエヴァンジェリンは頷いた後にマギの方を見て

 

「修業を始める前にマギに言っておきたい事がある。いいか?」

 

「あぁ大丈夫だぜ。ハッキリと言ってくれ」

 

 マギの言った事に分かったと言うエヴァンジェリン。

 

「マギ…はっきりと言わせてもらえば今のお前では闇の魔法を制御できるのは不可能だ。基礎体力や魔力構成が闇の魔法制御に達していない」

 

 ハッキリと言われたマギ本人だが、あぁそうだなとマギも認めていた。

 

「俺も分かっていたさ。京都の時は強引に闇の魔法を封じ込んでいたってな。あのまま闇の魔法を使っていたら俺は確実に死んでいた」

 

 マギも分かっているなら話は早い。そこでだとエヴァンジェリンは1つ提案をした。

 

「最初の修業は、修業でもあり試験でもある…付いて来い」

 

 と2人は転移魔法陣に乗り、別のエリアに転移した。

 

 転移したのは深い霧がかかった廃墟だった。

 

「それで試験って言うのは何をやるんだ?」

 

「今からやる試験、この廃墟には26体の茶々丸の姉が居る。マギ、お前はその26体の姉を全て行動不能にするんだ。何かの漫画であったな『健全なる魂は健全なる肉体と健全なる精神に宿る』とマギにはいかなる敵も倒せる強靭な肉体と一時も途切れない精神力を身に着けてもらおう」

 

「なぁエヴァさっき試験って言ったよな?もしかして不合格とかもあるのか?」

 

 マギの不合格発言に、エヴァンジェリンはあぁあるぞと頷いて

 

「期限は4日だ。その4日の間にすべての茶々丸の姉を行動不能に出来なかったり、私の判断でマギがもう駄目だと判断した場合は不合格だ。後は攻撃魔法を使うのも禁止だ。但し身体強化の魔法はよしとしよう。不合格となったら私はお前に闇の魔法の制御の術を教えない」

 

 4日長いようで短い期間である。

 

「OK4日だな…だったら2日か3日で試験をクリアしてやるぜ」

 

 マギは試験を2~3日で合格してやると豪語した。

 

「やる気は十分のようだな。だったら気を付けておけ。茶々丸の姉達は私の魔力で動いている。そう簡単にはいかないはずだ。一応殺さない様に命令しておいたが、精々負けるなよ」

 

「御武運をマギ先生」

 

「ケケ、死ヌンジャネーゾ」

 

 エヴァンジェリン達はそう言い残して、転移魔法陣に乗って塔へと戻ってしまった。

 塔に戻ったエヴァンジェリンは何も言わずに黙っていた。

 

「あの…マスター。マギ先生は大丈夫でしょうか?」

 

 茶々丸はマギが心配だとエヴァンジェリンに伝えた。

 

「大丈夫だろう…不可能を可能にすることが出来る。アイツはそんな男さきっと」

 

 エヴァンジェリンはマギが試験を合格して戻ってくると信じていた。ケケケとエヴァンジェリンの頭の上に乗りながらチャチャゼロは

 

「ヨー御主人、ソンナニアノマギッテ奴ガ好キナラ、サッサト襲ッテ既成事実デモ作ッチマエヨ」

 

「なッ何言ってるんだこのボケ人形が!」

 

 とエヴァンジェリンはチャチャゼロの頭をグリグリとしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「さてと。エヴァたちが居なくなって急に静かになってきたな」

 

 1人となったマギはシンと静まり返った霧の廃墟で1人佇んでいた。

 

「もう試験は始まっているんだよな。はてさて何処に隠れてんやら茶々丸の姉達は」

 

 マギは修学旅行で使っていた仕込み杖を構えて、直ぐにでも迎撃できるように警戒を強めた。

 マギは360°を見渡しながら何処から現れるのかと考えながら歩いていると、ヒュンと風を斬る音が聞こえ、聞こえた方向に向かって短剣を振った。

 キィンッ!と弾かれる音が聞こえ、弾かれた物は矢だった。

 

「おっと…漸くお出ましか」

 

 マギの呟きに応じるかのように5体の茶々丸の姉が現れた。姉達は手に長剣や短剣に槍等を持っていた。

 

「お初にお目見えになりますマギ先生」

 

「マスターの命により貴方の力量を計らせてもらいます」

 

「マギ先生分かってはいると思いますが」

 

「どうか御覚悟を」

 

「……それでは参ります」

 

 と一斉に姉達はマギに向かってきた。マギも仕込み杖を構える。

 

「上等…かかって来いよ!」

 

 マギは仕込み杖で長剣と短剣を防いだ。しかし…

 

(おッ重ぇ!こいつ等どんな馬鹿力だこれ!?踏ん張ってねぇと直ぐにやられちまいそうだ!!)

 

 マギは両足で踏ん張るのがせいいっぱいだった。姉達はエヴァンジェリンの魔力供給で動いているが、その供給された魔力は膨大で下手をすれば巨大な樹木を持ち上げられるほどのパワーとなるのだ。

 マギは咸卦法で何とか踏ん張っているだけで何もできないでいた。動けないマギのボディーに槍が迫ってくる。

 

「うおあぶねッ!」

 

 マギは長剣と短剣の攻撃をずらして、自分を突こうとする槍を紙一重躱した…と思ったが腹を掠めた。

 槍は連続で突いて来たり、薙ぎ払い攻撃でマギを襲った。突きを短剣で防ぎ、薙ぎ払いは体を捻ったり屈んだりして躱す。

 

「うわ!ちょ!あぶね!!」

 

 マギは攻撃を防ぐことでいっぱいいっぱいなのに、更に短剣や長剣を持った姉達も攻撃に加わり、マギは防戦一方だった。

 

(っておいおいこんな奴ら、どうやって行動不能にすればいいんだよ!?)

 

 何か攻略法は無いか、防戦しながら攻略法を考えるマギ。すると姉達の頭上に何か光る物が見えた。まるで糸の様だ。

 

(糸?そう言えばエヴァの通り名に人形使いって云うのが有ったような)

 

 だったら!とマギは咸卦法フルパワーで武器を弾き飛ばすと跳び上がり、姉達の頭の上の糸らしきものを斬った。

 ブツンッ!という音が聞こえたと思ったら、5体の姉達は言葉の通り糸が切れた人形のようにぐったりとしてしまい、動かくなった。如何やらエヴァンジェリンが言っていた行動不能になったのだろう。

 

「まっマジかよ。まだ始まって1時間と経っていないのにキツすぎるだろ…それにさっき矢が飛んできたしな。他にも隠れてる奴が居るーーー」

 

 はずだと言おうとしたが、マギの顔の近くに矢が過ぎて行って、マギの顔に一文字の傷を付けた。

 

「こりゃマズイ!同じ場所に居続けたら格好の的だ」

 

 マギは矢を逃れるために駆けた。動き続けた方が矢に当たる可能性は低くなるだろうという考えだ。

 10分位走っただろうか。と新たに現れた茶々丸の姉達。今度はトンファーとヌンチャクだった。

 

「次々に来過ぎだろうが!もっと空気読めよ!」

 

 マギのツッコミを無視し姉達はトンファーを振るい、ヌンチャクを振り回した。

 トンファーを仕込み杖で防ぎ、ヌンチャクを蹴りで弾いた。トンファーを持っていた姉の方が今度は蹴りを放ってきた。足には隠し刃が仕込まれていた。

 

「くッそ!」

 

 マギは隠し刃を防ぐが、トンファーを持った姉はトンファーの打撃と足に隠していた隠し刃の蹴りを放ってきた。カポエイラと呼ばれる蹴り技はまるでコマのように回っており

 

「ほんとに何でもアリかよ!」

 

 マギは蹴ってきた足を掴んだ。

 

「どらぁ!」

 

 マギは怒声を上げながらヌンチャクを持っていた方の姉に投げ飛ばした。ぶつかった姉達はそのまま木に叩きつけられる。そしてそのまま動かなくなったようで行動不能となる。

 

「これで倒した数は7対。まだまだ先がなげぇなおい」

 

 マギは溜息を吐きながら少し気を緩ませてしまった。それがいけなかったのだろう。マギの後ろには巨岩ほどの大きさの棘付きの鎖鉄球モーニングスターを振り回している姉の姿が

 

「!しまっ」

 

 マギが気づいた時には遅く、モーニングスターがマギに迫っていた。マギは咸卦法を防御面に回す。

 ドゴォッ!と云う鈍い音を出しながらモーニングスターはマギに直撃。そのまま木々をなぎ倒しながら吹っ飛び、廃墟の壁に叩きつけられた。

 

「かはぁッ!」

 

 肺から酸素が一気になくなる感覚に陥り、マギは荒く深呼吸した。

 

「やっやべぇ。油断しちまった」

 

 マギは立ち上がろうとしたが、酸素不足のせいか足元がフラフラとしてしまい上手く立ち上がれなかった。

 マギが怯んでいる間に7~8人の姉達が武器を持ってマギに近づいてきた。

 

「あっあれ?これってヤバくね?」

 

 マギが乾いた笑みを浮かべている間に姉達は一斉にかかった。

 

「ギャアァァァァァァ!」

 

 マギの悲鳴が霧の廃墟に響き渡る。

 

 

 

 

 

 そして話の冒頭へと戻る。今の時刻は3回目の朝日が昇って、そろそろ3日目の正午位だろうかとマギはそう思った。

 これまで行動不能にした茶々丸の姉達は19体。残り7体となった。正直言うとマギの体はもう限界となっていた。

 此処まで倒した姉達は剣や槍などは弱い方の様だ。姉たちの方も段々と強くなってきており10体を過ぎると、人間と同じくらいの大きさの斧や、死神の持つような様な鎌や大剣などと強さを増してきていた。射撃武器は弓からアサルトライフルやマシンガン、果てはバズーカなどによる容赦のない攻撃方法となってきていた。

 更に夜に休もうとしても夜襲を仕掛けてくるので一睡もできず、朝から晩まで戦い続きなのである。

 つまりマギは不眠不休で戦い続けて体力はほぼゼロで、集中力にも限界がきていた。体の至る所から血を流しており、見るからにボロボロだ。

 

「くっそ。残りの奴も……行動不能にしない……と」

 

 マギはフラフラの体でも一歩前に進もうとした。しかし体力がほぼゼロのマギにとって、一歩動く事すらも辛かった。

 

「やば……これ結構つらい」

 

 そしてマギはバランスを崩してうつぶせに倒れてしまった。

 

(やべぇ…もう指1本も動かせねぇ。それに何か目の前が真っ暗になってきやがった)

 

 もう意識が朦朧とし始めていた。もう此処までなのか…マギはもう諦めかけていた。

 

(てか何で俺こんなに頑張ってるんだ?何でおれ一人がこんなに頑張んないといけないんだよ…)

 

 と段々と考えがマイナスの方向へ行ってしまった。

 

(昔の俺だって一人で何とか出来てたじゃねぇか。それに出来ない事はやらない。面倒な事は後回しが俺のスタンスだったんだ。日本に来てから色々と変えようとしたけど無理な話だったんだよ)

 

 そうだ……強くなる事だってネギに押し付けちまえばいい、そんな考えをしだすマギ。

 

(もう何もかもが面倒だ)

 

 そしてマギは意識を手放した……

 

 目を覚ますとマギは3-Aの教室の前に居た。

 

「ったくなんだよ夢だって言うのに、俺は何でこんな所に居るのかね…」

 

 マギは夢だと分かっていた。溜息を吐きながらマギは教室のドアに手を置いた。

 どうせドアを開けたら喧しい3-Aの生徒達が騒いでいるだろう…と。

 

 しかしマギがドアを開けると其処には喧しい生徒達ではなく、石化した生徒やネギの姿が。しかも何かに逃げようとして間に合わなかったと言った形だ

 

「…おいおい何だよコイツは」

 

 マギは何の冗談かと思いながら、石化しているネギに手を置いた。手を置かれたネギの石像に罅が入りそして砕けてしまった。

 

「おっおいネギ!」

 

 マギが思わず叫んだのと同時に次々と石化した生徒達にも罅が入り始めて砕け始めた。アスナもこのかも、のどかに刹那、夕映にハルナに和美にと次々と砕け散り、砂の山へと変わってしまったネギや生徒達。

 

「は…はは…なんだよコレ。最悪の悪夢じゃねぇか」

 

 マギは砂の山へと変わってしまったネギ達を見て、乾いた笑い声を上げていた。そんなマギに

 

「フン。夢だとしても貴様の大切とも言える弟や生徒を守れんとは大したものだな」

 

 声が聞こえ、振り返ると其処には京都で撃退したアーチャーの姿が

 

「アーチャー!このクソ傭兵!これはテメェがやったのか!?」

 

「だとしたら何だ?怒りでこの私を殺すか?いやはや、一度の辛い事で何もかも放り投げるとは、こんな腑抜けた男に一度でも負けたとは…私自身を情けなく感じるよ」

 

「黙れよ」

 

「志が弱い人間が強くなろうとしてもこの様か。結局貴様はその程度の人間だったという事だ」

 

「黙れって言ってるだろうが……!」

 

「貴様にほれ込んだ女たちが可哀そうだなぁ。弱い貴様に付き添っていては、死期が早まるという事だ。だったらネギ・スプリングフィールドに惚れていた方がましだ」

 

 それにとアーチャーの隣には石化してないのどかの姿が

 

「まっマギさん……助けて。皆この人に石にされちゃって……」

 

「おっおいテメェ、何しようとしてるんだよ!?」

 

 マギにはアーチャーが次に何をしようとしているのか分かってしまった。恐ろしい事だと

 

「何ってこうするのさ」

 

 アーチャーはのどかを足から石化し始めた。のどかは助けてとマギに助けを求めたがのどかはそのまま石化してしまった。

 

「やっやめ」

 

 止めろ!と叫ぶ間もなく、アーチャーはマギの目の前で石になってしまったのどかを砕いてしまった。

 砕けたのどかの破片を見てマギの中で何かが切れた。

 

「テェェェメェェェッ!!」

 

 怒りに身を任せてマギはアーチャーに突撃した。そしてアーチャーに殴り掛かろうとしたが

 

「……あ?」

 

 殴ろうとしていた腕が肘から先が無くなっていた。アーチャーに斬られてしまったのだ。

 地面に落ちた自分の腕を呆然と見ているマギにアーチャーは長剣でマギの上半身と下半身を斬り離してしまった。

 

「あっあ……」

 

 言葉も出ない斬り離されてしまったマギの上半身はゆっくりと落ちて行った。落ちていくマギをアーチャーは仮面越しではあるが冷めた目で

 

「下らん。弱い貴様は薄っぺらい覚悟を抱いたまま奈落の底へ墜ちよ」

 

 アーチャーに言われた通りにマギは奈落の底へ墜ちていくのだった。

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 マギは悲鳴を上げなら飛び起きた。何とも恐ろしい悪夢を見てしまった。

 

「くそ……情けねぇ。覚悟を決めたって言ったのにこの様かよ……」

 

 マギは自分自身を叱咤した。見るとマギの周りに茶々丸たちの姉達が待っていた。

 全部で7体丁度残りの数だった。しかし武器が違った。戦闘用のバトルアックス、クレイモアにハルバード。バトルアックスよりランクが上のグレートアックスとバスタードソード。そして恐らくマギを吹き飛ばしたモーニングスターなどほぼ重量級の武器ばかりだ。

 

「なぁ、俺はどれくらい寝てたんだ?というか今何日で何時だ?」

 

 マギはバトルアックスを持っている姉に尋ねた。

 

「ただ今4日目の午後3時です」

 

 と云う事は丸1日ほど寝てしまった様だ。残り時間はあと9時間しかない。残りの時間で残りの7体を行動不能にするのは難しいだろう。

 

「どうしますかマギ先生?此処で自らリタイアすれば私達はもう貴方を攻撃しません」

 

 茶々丸姉達はマギはリタイアするかと思った。しかしバ~カとマギはそう言って笑うと

 

「誰がリタイアするかよ。上等だ……その残り時間で全員倒してやるよ」

 

「理解不能です。このような絶望的な状況で諦めないとは」

 

 茶々丸姉の言った事にそうだなぁとマギは呟いた。

 

「確かに前の俺だったらとっととリタイアしてたかもな。だけども決めちまったからな、覚悟を。弱ぇ自分とはおさらばだ」

 

 だからよ、とマギは短剣を構えながら

 

「来いよテメェ等。とっとと倒して俺はまだまだ強くなる」

 

 マギの覚悟を聞いてそうですかと茶々丸姉達は頷いて。

 

「ならば参りますマギ先生」

 

 武器を持った茶々丸姉達と短剣を構えたマギとの残り時間を賭けた戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 塔の広場でエヴァンジェリンはソワソワとマギが帰って来るのを待っていた。

 現在の時刻は午後の11時55分。あと5分でタイムオーバーでマギは不合格となってしまう。

 しかしマギは一向に現れず、刻々と時間が迫っていた。まさか駄目だったのかとそんな不安が頭を過ったエヴァンジェリン。否マギに限ってそんな事は無いと信じた。

 だが56分57分58分と時間が迫ってきてもマギは現れなかった。それでもエヴァンジェリンは、マギがもうすぐ戻ってくると信じていた。しかし…

 

「11時59分30秒……間もなく時間です」

 

 茶々丸がエヴァンジェリンにそう報告した。此処まで待っても来ないという事はやはり駄目だったのか…エヴァンジェリンが諦めていたその時転移魔法陣が光り、光の中からマギが現れた。

 

「マギ!」

 

 エヴァンジェリンは現れたマギに近づき、優しく抱きしめて地面に降ろした。見れば全身傷だらけのボロボロである。

 

「茶々丸時間は!?」

 

 エヴァンジェリンは茶々丸に時間を尋ねた。

 

「11時59分58秒……ギリギリセーフです」

 

 時間は如何やら大丈夫の様だ。しかしこんな時間になってしまったのだ。若しかしたら全員を行動不能に出来なかったのかそんな不安が頭を過ってしまう。

 

「マギ、茶々丸の姉達は全員倒したのか?まさか……やはり駄目だったのか?」

 

 マギ駄目だったのかと尋ねるエヴァンジェリン。マギはゆっくりと腕を上げて弱々しくだがしっかりとサムズアップをした。つまり…

 

「全員…ちゃんと動けなくしたぜエヴァ」

 

 は…ははと弱々しく笑いかけるマギ。つまりは試験は合格したのだ。

 

「まっマギ!よくやったぞ!心配したんだからな!!」

 

「おめでとうございます。お疲れ様でしたマギ先生」

 

「ケケ。ギリギリデ帰ッテ来ルナンテ分カッテルジャネェカ」

 

 エヴァンジェリンは泣き笑いをしながらマギに抱き着き、茶々丸は微笑みながらマギに労いの言葉を送り、チャチャゼロは相変わらずケケと笑っていた。

 

「心配かけたなエヴァ。途中で心が折れかけちまってな…でも大丈夫だ。俺の覚悟はもう揺らぐ事はもう無いだろう。だから俺をビシバシ鍛えてくれ」

 

「あぁ今回の試験は序の口だ。本当の修業はもっとキツクて死にそうになるほど苦しいものだ。覚悟しておけよ!」

 

 エヴァンジェリンは笑いながらマギにそう言った。

 そりゃ大変だな…とマギは軽く笑った後に疲れた時にはタバコをふかそうと思い、タバコを加えようとしたが止めてタバコを箱に戻した。

 

「いいのかタバコを吸わなくて?」

 

 エヴァンジェリンの問いにあぁと頷くマギ。

 

「タバコを吸う時は大抵嫌な事から逃げたいって感情が出てたんだよ。だから逃げたいなんて弱い気持ちとは一先ずさよならだ。少しずつでもいいから変わって行こうと思う。……変われるかな俺?」

 

 マギの呟きにあぁとエヴァンジェリンは

 

「変われるさきっと。それまでお前の事は私が見てやろう」

 

 と微笑んだ。マギも微笑みかけるとタバコの箱をクシャッと握り潰す。

 今回の地獄のような試験、しかし本当の地獄の修業はこれからだという…


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