「うううううおおおおおおらああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
雄叫びとともにグレートソードで相手をなぎ倒す
大会の予選も大詰めでマギと雪姫のペアは最後の予選相手を蹴散らした所である。今日朝風呂を浴びたおかげか頭もスッキリしている。
『ネギ選手圧勝!! これでネギ選手と雪姫選手の決勝トーナメント出場が決定しました!!』
喝采に応えて一礼してから戻るマギ。
「マギさんお疲れ様! それと決勝進出おめでとう!!」
選手入場口に戻るとタオルを持った亜子が駆けつけてくれた。
「おうありがとな」
亜子の労いの言葉を受け取りながらマギは亜子からタオルを(雪姫は特に動いていないから亜子からの気持ちだけを)受け取る。
「もう少しで自由の身だ。待っていてくれ」
「はい!」
しかし亜子は心配そうに
「でもマギさん大丈夫なん? 決勝トーナメントっていうことは、強い人がいっぱい出場するんやないの?」
「大丈夫大丈夫。俺には雪姫が一緒に居るんだし、それにネギ達も決勝トーナメントに出場するだろうし、俺に何かあったらネギ達に任せるさ」
「随分と後ろ向きな事を言うじゃないか。そこは和泉を安心させる台詞を言う所じゃないのか?」
マギの若干後ろ向き発言に雪姫がツッコミを入れるがマギは不安気味に
「なんか変な胸騒ぎを感じてな。この決勝トーナメント……何かありそうだ。ネギ達の試合の後にネギと戦ったカゲタロウが出場するんだが、その相方がシークレットなんだ。絶対何かある」
そう言ってマギはネギ選手からマギに姿を戻すと簡単な変装をする。
「観客席で見て見ようぜ。カゲタロウの相方がどんな奴……か」
マギが観客席に向かい、その後を雪姫と亜子が続く。
「ぼーず。マギ、てめぇらは確かに強くなった。この短期間で驚くほどにな。成長のスピードならナギも上回るかもな」
上映会の帰りにマギとネギを呼んだラカンがそう言ってくれた。だが直ぐにまだフェイトに及ばないと言われて凹むネギではあるが。しかし直ぐにネギは立て直す。ネギはフェイトがアスナを狙っていると判断した。
「まぁそれよりも今は大会に集中しな。大会に優勝出来ねぇようじゃフェイトには勝てねえだろうからな」
「はい……」
「そうだな。俺達が今やらなければならないのは亜子達を解放する事だ」
「もっとも、今のお前らならどっちでも大会優勝は確実だろうけどな。ということでへい千雨君頼むぜ」
「なんであたしがアンタの助手みたいな扱い何だよ」
待機していたらしい千雨がぶつくさ文句を言いながら黒板を転がしてきた。
「久々に俺式強さ表で解説してやろう!」
「あ、懐かしいですね」
最初に書いたのはカゲタロウ。そしてネギはラカンの元で修行したことによって基礎能力はカゲタロウと同等かそれ以上になった。そして闇モード使用で出力は50%アップ。闇の魔法を発動する事によってさらに倍の2200にまで上がるとのことだった。前の自分よりも4倍の強さに喜ぶがフェイトはそれよりも強いと書かれてそのまま落ち込むのであった。完全にぬか喜びである。それでも力量差は闇の魔法の術式兵装を効率よく行えば差を埋めることができるのではないかというのがラカンの談ではあるが
「それでも奴のモノホンの力はもっと高いと俺は読んでいるがな」
「む……」
そう簡単にフェイトと力量の差は埋められない事を知り現実を思い知らされるネギであった。
「おいおっさん。ネギ先生の事は分かったが、マギさんの力はどのぐらいになったんだよ」
「おおマギが、マギは俺から見てな……」
そう言ってラカンが書いたマギの力は
リョウメンスクナよりも更に上であり、ラカンよりも少し下位の所であった。しかもフェイトと同列かそれよりも少し上というかなりの上昇ぶりである。
「まじかよマギさんもかなり強くなってるじゃねーか! しかもフェイトと同列って」
「まぁマギはかなり強くなった。下手したら俺ら『紅き翼』と同じくらいにな。だが……それは万全の状態だった時の場合だ」
「どういうことだよ」
「簡単だ。今のマギはかなり不安定だ。修行の時に無理して闇の魔法を改めてものにしたからな。かなりの高火力は出るがその反面メンタルがグラグラだ。下手に陥るとかなり弱体化する。その理由はマギも分かってるだろ?」
「ああ。俺が思わず衝動的に発言してしまう所も闇の魔法を制ししきれていない証拠だ」
「お兄ちゃん…………」
悔しげに拳を震わせるマギ。そんなマギを見てふっとラカンは笑いながら
「仕方ねえな。悩める若人を導いてやるのも人生の先輩ってな。ありきたりだが大切な事を教えてやろう。いいか、戦いにて大事なのは? 敵を圧倒できる力? 戦い方を編み出す頭脳? どっちも大事だ。が、最も大事なのはここだ」
ラカンはマギの胸に手を当てる。
「心が折れちまったらどんなに強いやつでさえ使い物にならなくなる。まぁ俺やナギはそういうことは一切なかったがな」
「だろうな。ラカンさんやクソ親父にはそんなイメージは一切わかないけどな」
「心を強く持てばお前の闇の魔法はだいじょぶだろ。それに今回の大会はイレギュラーがなければ楽勝だろ。よっぽどの珍事がなければ……な」
そう言って笑うラカン。その笑みは特に印象的であった。時は今に戻る。
「どうしたマギ、急に黙って」
「いやさ、ラカンさんが言ってた事を思い出してな。案外カゲタロウの相方はそのラカンさんだったりしてな」
「そんな軽く言っとるけど大丈夫なん?」
「どうなんだろうな……まぁ、その時はその時でやるしかないかな」
などと話している間に観客席に到着したのであった。
『紅き翼! 千の刃のジャック・ラカ────ン!!』
口は災いの元とはよく言うがもし過去に戻れるのなら少し戻って軽率な発言をした自分を軽く締めてやりたいと思ったマギ。カゲタロウの相方はまさかのラカンでマギと同じく観客席に居るネギと小太郎そして周りの観客も驚きで声が出ない様子だ。
ラカンは出鱈目な力で対戦相手を秒で地面に沈めて完勝してしまった。
「どういう事やネギ!? なんであのおっさんが選手で出場しとるんや!?」
「ぼ、僕にも何がなんだか!!」
小太郎に詰め寄られるがネギも未だに困惑している。
「落ち着けよ。今はラカンさんが戻った控室に行ってみようぜ」
と纏め上げたマギの顔にも一筋の冷や汗が流れる。早速控室に向かうマギ一行。途中で千雨とあやかと合流するが、2人も試合を見ていたようでラカンの出場に驚きと焦りの表情を浮かべていた。そしてネギが控室のドアを開けるとラカンとカゲタロウが祝勝の酒を飲もうとしている最中であった。
「どういうことなんですかラカンさん!? なんで貴方がカゲタロウさんと」
「ああカゲなぁ、お前が腕切られて気失ってた時に話してみたら気が合ってな! カゲが大会出るって事でな俺も出ようって思ったんだよ」
「なんですかそれ聞いてないですよ!!」
マギはカゲタロウとラカンが繋がっている事は知っていたがネギは知らされていないので抗議する。
「それに何でラカンさんが大会に出場してるんですか。今朝は今回の大会は楽勝だって言ってたのに」
「俺が出ないとは言ってないし〜」
「ああ言えばこう言うおっさんだな……」
とぼけるラカンを白い目で見る千雨。
「そうか! あれやな! 師匠が弟子へ向けての最終試験的な」
「おお漫画やアニメでよくあるパターンか」
「いやぁどうかぁ? ラカンさんがそんな殊勝な心意気を持ってるとは思えないんだけどな……」
小太郎と千雨が勝手に納得する。しかしラカンが弟子思いな男ではないだろうと思うマギ。
「で、ではもしラカンさんが優勝することがあっても賞金はこちらに渡していただけるのですね?」
「あ゛〜ん? 何ふざけた事いってんだ? 俺が優勝したら賞金は俺のもんに決まってるだろ!!」
あやかの言ってことはあまりにも虫が良すぎることであった。これにはラカンも面白くないだろう。
「まぁ落ち着いて話を聞けやぼーず。てめぇはあのフェイトと決着を着けたいんじゃないのか?」
フェイトの名を聞いてネギも落ち着きを取り戻した。
「俺様とナギは永遠のライバル。負けはしたもののフェイトとナギは同格。てことはどういったもんかというと……俺の登場にぎゃーぎゃー喚く奴がフェイトをどうにか出来るのか? ましてやナギに追いつく事が出来るか?」
「で、でもフェイトとラカンさんは違います! ラカンさんは別次元の強さで父さんとは……」
呆れた溜息を吐くラカン。
「なーにが別次元だ。何も違わねぇよ。まったく何も見えてねぇな我が弟子は。ぼーずてめぇは『本物の強さ』がほしかったんだろ」
本物の強さ。その言葉を聞いてネギも口を閉ざす。
「フェイト、エヴァ、それにナギとそこに居るマギ。そして俺がその舞台への扉だぼーず」
「で、でもラカンさんそうは言っても……」
ネギにとってもラカンと戦えるのは滅多にない機会だとは分かってる。しかしもしもの事があってラカンが優勝する事になれば賞金はラカンのものにそうなっては元も子もない。ネギはラカンを説得しようとするが
「御託はいい。戦ろうぜネギ」
今までにない獣のような獰猛な笑みを見せネギを圧倒してしまった。
「あのー……なーんか俺だけ蚊帳の外な感じなんだけど」
完全にラカンとネギが戦う流れになっていた。
「あー? ……いいや別にお前とは」
さっきまで獰猛な笑みを浮かべていたのにマギが話しかけた瞬間に興味が失せたかのようにそっぽを向いて耳をほじり出した。
雑な感じで相手をされて流石のマギもカチンと来た。
「なんだよラカンさん。さっきは俺も本物の強さってカテゴライズしてたじゃないか」
「したよ。確かにお前の強さは俺らレベルだ。だが朝にも言ったがお前の精神はブレブレだ。万全のお前と戦えないのは正直つまらねえしよ。だったらナギや伸び代があるネギと戦った方が面白えよ」
お前は眼中にないと回りくどく言われた気がした。弟のネギと比べたられるのはまだいい。だがナギと比べられるのは我慢ならんと腹の奥底で黒い感情がグツグツと煮える感覚があった。そのまま爆発しそうになるが、何とか耐える。
「──―成るほど、な。要するにあんたはビビってるわけか」
「……へえ?」
マギは笑みを浮かべる。しかしその笑みは日和った子供が見せるぎこちない笑みと同じだった。対するラカンはマギの言葉に特に反応を見せる事なくにやにやと笑う。
「ラカンさんは言ったな。俺の強さはあんたらレベルだって。もし英雄の仲間で最強と謡われたあんたが只の英雄の息子にやられちゃったら面子が丸潰れだよなあ」
「悪いが俺に安い挑発は効かないぜ。言いたい事があるなら全部吐いちまいな」
ラカンはマギに続きを促す。
「そうだ。俺は自分の、心の不安定さを気にしてた。何かあった時はネギ達に任せようと後ろ向きな考えだった。けど、ラカンさんが俺に全くの眼中にないという事を今知って俺の今の気持ちは単純だが、むかつきと悔しさだ」
ぎゅっと拳を握る。少しずつマギから魔力が溢れだす。マギの異常な魔力の上昇にネギや小太郎に千雨やあやかはびびっているが、雪姫カゲタロウは特に気にしておらず、ラカンはニヤリと楽し気に笑う。
「ああ……もう誰かに後の事を任せるなんて後ろ向きな考えは止めだ。ラカンさん言ったな俺がその舞台への扉だって。だったらその役目は俺がやってやるよ。いや、ネギが舞台に上るかなんてもうどうでもいい」
「俺がラカンさんやネギを喰らって俺の強さの糧にしてやる。優勝するのはこの俺だ」
マギが魔力を解放した瞬間空気が揺れた。ラカンとカゲタロウワイングラスとボトルが砕け散り、部屋の窓ガラスも割れた。さらに周りでも悲鳴が上がる。どうやらマギの魔力で周りにも何かしらの被害が出てしまったようだ。
マギの実質的な宣戦布告にラカンは
「……いいねぇ。やっとらしい顔になってきたじゃねえか──―マギ」
さっきのネギの時よりも愉しそうに笑みを深めるのであった。
「うわぁ。さっきの揺れ何だったんだろうね。結構揺れたね」
「そう、です……ね」
闘技場の外にいたコレットと夕映も揺れを感じていた。夕映だけは揺れの正体を分かっていた。
(今の魔力の感じはマギさん? あの人に何かあったです……?)
出来る事ならマギの元へ行きたいが、今は行くことが出来ない自分の立場に歯嚙みしていると
「いやーまさかジャック・ラカンが出場するなんてね。会場大騒ぎだった! そろそろトーナメント表が出来上がったみたいだから見て見ようよ!」
コレットがそう言うので早速出来上がったトーナメント表を見て見ると
(ネギ先生とコタロー君はここのブロックですね。順調に行けば決勝戦までマギさんと当たらないみたいです)
では肝心のマギは何処だろうと探し見つけた。しかしある人物を見て夕映の思考は暫し止まる。何故かそれは
「うっそ! マギさん順調に行けば準決勝でジャック・ラカンと戦うじゃん!!」
コレットは驚きの声を上げる。周りの者達もジャック・ラカンと英雄の息子が戦う光景が見れると先の事なのに興奮鳴り止まない状態だ。
「あぁ! まさか千の刃のジャック・ラカンとナギ様のご子息であるネギ・スプリングフィールドという世紀の一戦がこの年に行われるなんて!! これはどちらを応援すればいいのでしょう! やはりナギ様のご子息であるネギ選手を……」
「お嬢様、英雄のご子息も魅力的かと思われますが、ジャック・ラカン様も大変魅力的です。何故なら──―」
ナギのファンであるエミリィはマギを応援するつもりだが、彼女の使いの者であるベアトリクスがラカンについて力説し始めた。隠れファンだったようでいつもは無口な彼女の饒舌な語りにエミリィも若干引き気味である。
「大丈夫かなー。超有名人が相手になるなんて。ジャック・ラカンが出場するって分かってジャック・ラカンに客が持ってかれてるし」
ラカンが出場してネギ派ナギ派に続いてラカン派が現れて少しずつラカン派に流れているようだ。賭けのオッズも1位はラカン、2位にネギ、3位にナギと大きく変わったようだ。
コレットは心配そうに夕映に尋ねるが
「……大丈夫です」
夕映は心配はしていない様子。
「マギさんは絶対に勝ちます。私はマギさんを信じてるです」
「そっか。それじゃあ大丈夫だね」
夕映が信じているなら大丈夫なんだろうとコレットもそれ以上は何も言わなかった。
こうして決勝トーナメントは大波乱が起こりそうであった。