亜子と夜の街を遊んだ翌日。マギは雲海を見下ろしながら物思いにふけていた。
「まだ見つかってないのどか、夕映、プールス、風香史伽元気かな……」
頭の中で彼女たちの顔が浮かぶ。まさか何か大変な目にあっているのではないかと最悪なイメージを払拭しようと顔を思い切り振るう。亜子と一緒にすごしていても最近はナーバスに陥りがちになっていると実感している。
いかん、気持ちを切り替えようと思ったその時。
『マギ先生──!!』
和美のアーティファクトに乗ったさよが慌てた様子でマギの元へ飛んで行った。
「さよじゃないか。どうしたんだ?」
『大変なんです! 本屋さんが! 本屋さんが!』
さよの口から先程心配していた一人ののどか名前が出て、マギの顔色が変わる。
「のどかが、のどかがどうしたんだ!?」
『うひぃ! その、本屋さんがこっちに来る途中で、賞金稼ぎの集団と出くわしてしまったようで、今ゲート捜索してる刹那さんと楓さんが救援に向かっているそうなんですが、その相手も名うての傭兵組織らしくて!』
マギの気迫にビビりながらも状況を伝えてくれたさよ。しかしのどかが傭兵組織に狙われていると聞いた瞬間にマギの顔から感情が消えた。
「分かった……のどかがどこらへん居るか分かるか?」
『え、えっと、西の方角、距離は50㎞以内です!』
「分かった。教えてくれてありがとう」
そう言ってマギは雲海を見下ろして、飛び降りようとしたその時
「マギ」
雪姫がマギを呼び止める。マギが振り返ると、雪姫の他に千雨とマギウスも居た。
「マギ、私の手が必要か?」
「……いや、いい。俺一人で十分だ」
「そうか、なら1つ言っておく、絶対に相手は殺すな」
「……何だよ。俺がまるで殺すようないいようじゃないか」
「そうだよ。マギさん今の顔、相手を無感情で殺す殺し屋の目をしてるぞ」
千雨の悲痛な顔でマギも少しいつもの調子を取り戻したのかごめんと短く謝った。
「もう一度言うぞマギ、絶対に殺すな。相手が賞金稼ぎであってもだ」
「分かったよ。だが、俺のセーフラインを余裕で超えたら……死んだ方がましだと思うほどの地獄を見せてやる」
マギは影からグレートソードを出して肩に担ぐと崖から飛び降りた。暫くしてから下界で轟音がしてそれが少しずつ遠ざかって行った。マギがのどかの元へ文字通り飛んで行った音だろう。
ぽつんと残された雪姫と千雨達。
「エヴァンジェリンさん」
千雨が雪姫ではなくエヴァンジェリンと呼んだ。そして何時ものように呼び捨てじゃなくさん付けで呼ぶ。
「長谷川、貴様が礼儀正しく私を呼ぶとはな……何だ?」
「マギさんの元へ行ってくれないか? ああは言ってたけど、今のマギさんは何処か危なっかしいから。ホントはあたしも一緒に行きたいけど、あたしが足を引っ張ることなったら」
「ふん、貴様に言われるまでもないわ」
雪姫は背中蝙蝠の羽を出して崖を降りて行った。残ったのは千雨とマギウスとさよだけ。
「くそ、あたしも何かしたいけど、マギウスは遠隔操作は出来無いし……」
『申し訳ございませんちう様。私の遠隔での限界は100m以内でして』
『大丈夫です! 直ぐに他の皆さんが来ますから!』
「他の皆さん? 誰だよ?」
言っている意味が分からないでいると
「私の事だよ!」
後先考えないハイテンションの声が聞こえ、雲海を切り開き魚の顔をした飛行艇が現れた。甲板に居たのは
「おっ久! どうよこの私のグレート・パル様号は! というか千雨ちゃんの隣に居るカッコイイロボは何なの!? どことなくマギさんに似てるし!」
「やっぱテメェか早乙女! というか何だよその飛行艇!」
まさかのハルナの登場に驚きを見せる千雨。
「ふっふっふって不敵に笑ってる場合じゃなかった。さっきマギさんが超特急で飛んで行ったし、その後直ぐにエヴァンジェリンさんも飛んで行ったの見えたし、のどか所へ行ったんでしょ? 千雨ちゃんも乗っていくっしょ?」
「ああもちろんだ! 行くぞマギウス」
『かしこまりました』
マギウスが横抱きで千雨をグレート・パル様号の甲板に飛び乗った。
「よっし行くよ茶々丸さん! 取舵一杯!!」
「了解です!」
操縦は茶々丸がやっている。ハルナが途中で茶々丸と和美を乗っけたそうだ。舵を取り、のどかが居る方へ進路を取り、全速で飛び出した。
のどかは現在ピンチに陥っていた。あと少しでオスティアに到着なところで傭兵結社『黒い猟犬』と出くわしてしまった。のどかと行動していたトレジャーハンターのメンバーは皆倒されてしまい、残ったのはのどかのみとなった。
のどかはとっさにダンジョンで手に入れたアイテム『鬼神の童謡』、さらに文字を読み上げる魔法具を道中で手に入れ、えにっきを読まずとも相手の心の内を読む事が出来るのだ。因みに試しに使ってクライグ、アイシャ、クリスティンの三角関係を知ってしまい、無暗に使っては行けないと誓ったのであった。
そしてのどかは黒い猟犬の名前を聞き、隊長が偽名を使い、本名が恥ずかしい名前だということ、見た目が厳つい山羊の骨の魔族が実は気が弱く温厚な性格だということ、爬虫類の男は故郷に病気の母がおりお金を仕送る母思いなこと、巨大なミミズのモンスターを使役している見た目がわからないが胸に飽くなき探究を求めている事を知った。そして彼らの目的がのどかを餌にして白き翼を捕らえる事だった。
のどかは相手の目的を知り、何とか出し抜こうとしたが、黒い猟犬が連れていた巨大ミミズのモンスターの触手に捕らわれてしまった。
胸の事しか考えていない者に襲われそうになるが間一髪刹那と楓が助太刀に来てくれた。しかし黒い猟犬は転移魔法の札で少し離れた場所に転移。残された刹那と楓の上空に巨大な魔法陣が展開し雷撃が2人を襲う。のどかは遠い所から2人が雷撃に包まれる所を見ている事しか出来なかった。
(あぁ、私は無力だ。エヴァンジェリンさんの元で頑張ってもいざという時にこうやって足手まといになるなんて……)
『────まったく、情けない。自分じゃ何もできないと可哀想なヒロインを演じるなんて』
のどかの中でのどかを呆れるような嘲笑うような声が聞こえる。
(だ、誰なの!?)
『あー、そういうありきたりな台詞は充分だから。いいからさっさと私に体を明け渡しなさい』
声……のどかと同じ声がそういった瞬間にのどかの意識がぷっつりと切れ、がくんとのどかは顔を俯かせる。
「ふ、仲間が雷で焼かれるのに耐えられず気を失ったか。まぁ無力になった方がこっちとしては扱いやす──―!?」
黒い猟犬のリーダーザイツェフ、本名チコ☆タンの腕を意識が失ったのどかがいきりなり掴み、その力が万力の如くギリギリと締め付け始めた。
「ぐおぉ!? この、離せ!!」
あまりの激痛に腕を振り回し、のどかを放る。しかしのどかは空中で体を捻って音もなく着地をする。そして顔を上げるのどか。その顔は先程と真逆の冷笑を浮かべている。
「クスクス……」
「貴様、さっきまで俺達に怯えていた娘か?」
チコ☆タンはのどかの雰囲気がガラッと変わったことに警戒をする。他の仲間ものどかの変わりように驚いているようだ。
「あら、こんな小娘にビビッてるなんて可愛いこと。黒い猟犬じゃなくて、黒い子犬ちゃんに改名した方がいいんじゃないかしら?」
のどかは黒い猟犬を挑発するが、黒い猟犬達は別に動じてはいない。
「舐めるなよ。俺達はプロフェッショナルだ。戦いの最中に性格が変わる奴などごまんと見てきた。それに、小娘程度の挑発でムキなるほど幼稚ではないのでね」
「僕も。それに君を攻撃したらなんかヤバそうな雰囲気をビンビンと感じるんだよね」
「俺もだ。それに、いくら賞金稼ぎだからって女の子を甚振るなんてことすれば故郷の母ちゃんに顔向けできねーからな」
「私もネ。それに未成熟なおっぱいを散らすのはいささか勿体ないネ」
のどかは黒い猟犬に挑発は効かないのを分かっている。だが、更に畳み掛けるように黒い猟犬特にリーダーのチコ☆タンに狙いをつける。
「あら、チコ☆タンちゃんは我慢も出来るのね。偉いわねチコ☆タンちゃん。ご褒美になでなでしてあげようかしら?」
ぶちりとチコ☆タンの堪忍袋の緒が切れたようだ。偽名を使うまでに本名がばれるのを嫌っていたのにのどかのせいで部下に自分の本名をばらされさらに嘲笑の的にしたのだ。チコ☆タンとしては今ののどかは生かして返すつもりはなくなっている。
「ちょちょっと待ってよ隊長! たかが女の子の挑発じゃないか! それに僕ら隊長の名前がザイツェフじゃなくてチコ☆タンだからって笑ったりしないよ!」
「黙ってろモルボルグラン! 俺の本名をばらした挙句ああやって馬鹿にしやがって! 首だけ残しておけば賞金は手に入る!」
魔族、モルボルグランの静止を振り払い、魔力で強化したチコ☆タンの拳がのどかの顔を捉える。しかし、のどかはクスクス笑いながら指をクンッとすると、のどかの影が盛り上がり、チコ☆タンの拳を防いでしまった。
「く、操影術か!?」
のどかは高音と同じような操影術を使った。しかし高音のように覆面の黒装束の影ではなく、のっぺりと薄く、顔には複数の目があるだけの不気味な姿をしている。
「なんだこの影は!? 触れたら最後と言いたげな不気味さは……!!」
チコ☆タンは戦慄する。のどかが出したこの影はこの世のものとは思えないものだった。しかしチコ☆タンは隊長としてのプライドがある。のどかに屈せず攻撃を繰り出した。そしてのどかとチコ☆タンは攻防を短いが30秒ほど続いた所で
「ムム!?」
「おいどうしたんだパイオ・ツゥ!」
蜥蜴男がコートと帽子で身を包んだ者をパイオ・ツゥと呼び、パイオ・ツゥは何かに気付く。
「雷撃の勢いが落ちてるネ。可笑しい、まだ全然100秒も経っていないのに!」
パイオ・ツゥに続き、モルボルグランと蜥蜴男も刹那と楓を襲っている魔法陣が徐々に小さくなっているのを見た。そして魔法陣を消していっている張本人はハマノツルギを持ったアスナであった。
「何と!? あの雷撃を消しているのはあの娘か!?」
パイオ・ツゥはアスナが雷撃を消しているのを驚いているとのどかはくすりと笑いながら影を引っ込めた。
「あら、随分と早い到着ね。でも、私の為に血相を変えて駆けつけてくれるなんて素敵な人。ならば私も非力な女に戻りましょうか」
のどかから張りつめた気配が消え、そのまま地面に倒れてしまった。急に人が変わり、急に気を失ったことにチコ☆タン達も理解に追いつかないでいると、ぞわっと自分達の命が握られた感覚に襲われる。
チコ☆タン達からのどかを護るように、マギが音もなく立っていた。
「な、この男、どこから!?」
急にマギが現れた事にチコ☆タン達は行動に移せなかった。マギは倒れたのどかを見て、歯を食いしばりながら持っていたグレートソードを横に振り回した。それだけの風圧で吹き飛ばされるチコ☆タン達。マギはチコ☆タンに狙いを定め、がら空きになった胴に拳を当てた。
「紅蓮拳」
炎の拳はチコ☆タンの体の表面を焼き、チコ☆タンは膝から崩れ落ちた。
「が、は」
致命傷にはなっていないが、暫くは動く事は出来無いだろう。
「むぅ、小癪な!!」
パイオ・ツゥは使役しているミミズモンスターでマギを襲わせる。マギは倒れているのどかから離れ、少しでも被害に合わせないようにする。
「マギウス・リ・スタト・ザ・ビス 来たれ炎の精闇の精 闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎」
マギは詠唱し、拳に魔力を集中させる。
「固定 掌握 魔力充填 術式兵装『夜叉紅蓮』!!」
マギはかつて使っていた夜叉紅蓮の姿へと変わる。しかしその姿はかつての姿と少し変わっている。腰まで伸びていた髪は肩甲骨程の長さに整っており、右腕が巨大化しており、禍々しさが増していた。そして紅蓮の角が一本伸びていた。まさに姿は夜叉そのものであった。遠目で見ていたアスナ達はマギの変わった姿に呆然と見ていた。
マギは瞬道術でパイオ・ツゥの前まで移動し、巨大な右腕でパイオ・ツゥを鷲掴みすると、容赦なく地面に叩きつけた。
「ぐふぇ!?」
パイオ・ツゥは変な悲鳴を上げ、亀裂が走った地面に沈んだ。ぴくぴくと痙攣はしているが、マギは容赦はしたつもりだ。殺してはいない。
「2人目」
「キシャアアアアアアアア!!」
ミミズモンスターは主がやられ、仇を討とうと牙を光らせマギを喰らおうと襲い掛かる。
「マギウス・リ・スタト・ザ・ビスト 炎の国ムスペルヘイムの入口に立つ巨人スルトよ 我が手に授けん 全てを灰燼に帰す 猛々しい剣よ 炎の擲弾!」
マギは巨大な炎の剣をグレネードランチャーのように放つ。炎の剣は地面に刺さると巨大な爆音と火柱を上げる。ミミズモンスターは悲痛な悲鳴を上げながらこんがりと焼ける。しかし生命力は高いのかまだ辛うじて生きている。
「うはははは! やるじぇねぇか! この俺が本気を出しても大丈夫な相手に久しぶりに会え──―」
蜥蜴男の戯言など聞く耳持つつもりもないマギは蜥蜴男の背後に回り、振り向きざまのどてっぱらに本気の一撃を当てて戦闘不能にする。
「3人目。残りは……」
残ったのはモルボルグラン。相手が魔族だと瞬時に理解するマギは油断などせずに一気に攻める。
「マギウス・リ・スタト・ザ・ビスト 炎の国ムスペルヘイムの入口に立つ巨人スルトよ 我が手に授けん 全てを灰燼に帰す 猛々しい剣よ 炎の擲弾! 装填!」
炎の擲弾を右腕に装填する。対するモルボルグランの内心はというと
(おいおいおい! 隊長や皆があっという間にやられた相手に僕が勝てるわけないじゃん! それにこの青年の使ってる魔法ってあの闇の福音が使ったっていう伝説の魔法じゃないのかい!? そんな魔法をなんで使う事が出来るの!? もしかして闇の福音の身内か何か!? だからあんなに高額な賞金がかかってるのか! うわー帰りたいよ!)
骸骨なため表情は読めないが現在冷や汗顔面真っ青な積りだが、6本の骨の腕で攻める。しかしグレートソードで骨の腕を弾き飛ばす。そして間合いに入り、右腕でモルボルグランを殴りつぶす。
「右腕解放」
右腕に装填していた炎の剣がパイルバンカーのように貫くと、モルボルグランを縫い付けている地面が爆発で吹き飛んだ。黒い猟犬はマギになすすべもなく全滅した。いやチコ☆タンはまだ辛うじて動けるようだ。性懲りもなく何か仕掛けようとしている。
(く、くそぉ。俺達黒い猟犬がまるで子供のようにあしらわれるだと……だが、油断したな、この俺には更に二段階の変身能力が……!)
「……はあぁぁぁ」
マギの漏れた吐息とあからさまにヤバそうな雰囲気にあっさりと戦意が折れて気づかれないように直ぐに顔を伏せたのであった。夜叉紅蓮を解除するマギ。
「これで4人……ぐ」
反動が来たのか、マギの体の中で何かが蠢く感覚が巡り、荒い呼吸を整えようとする。
「いやぁ強いね君」
炎の剣が刺さっているとにマギに話しかけるモルボルグラン。
「悪いなアンタはヘルマンのおっさんと同じ魔族だからな。手加減は出来なかった。その剣も暫く経てば消えるだろうから」
「ははは。まぁ僕を止めるにはこれ位はしないとねうん。けどその若さでそれほどの力。完敗だよ」
マギは黙ってモルボルグランに一礼すると
「……ん」
のどかの意識が戻ったようで、マギはグレートソードを肩に担ぐとのどかの元へ急ぐ。
「のどか、おいのどか」
「……ん、マギ、さん?」
「あぁマギさんだ。のどか、今までよく頑張ったな」
のどかはマギの顔を見て暫く経つと、勢いよくマギに抱き着いた。
「マギさん、マギさん……会いたかった」
「あぁ俺もだ」
(ふふ、若いっていいねぇ)
倒れているモルボルグランの横で抱擁をするマギとのどかの元へボロボロながらも歩けるぐらいまでに回復したトレジャーハンターのクレイグ達が駆け付けた。
「アンタが嬢ちゃんのナイト様かい?」
「随分といい男じゃない。まぁクレイグ程じゃないけど」
「アンタがクレイグさんか? 今までのどかの事をありがとうございます」
「いやいや、俺らも嬢ちゃんには助けられちまってたからな。それと助かったぜ。あいつらマジでやばい奴らだからな。それに強いなアンタ、さっきの技何だったんだ?」
「……何だもう終わったのか。随分と早かったな」
上空から声が聞こえ、皆が上を見上げると雪姫がゆっくりと降りてきた。
「……綺麗」
思わずアイシャが言葉をこぼす。
「あぁ雪姫、問題なく終わったよ」
「そうか。のどか、久しぶりだな」
「雪姫さん、はい! お久しぶりです!」
と雪姫はのどかをじっくりと見る。雪姫に頭のてっぺんからつま先までまじまじと見られ、首を傾げるのどか。
「あの、雪姫さんどうかしたんですか?」
「いや……のどか、お前どこか体に異常を感じたことは無いか?」
「異常、ですか? いえ、別に問題ないですよ?」
「そう、か……ならいいんだが」
雪姫は歯切れが悪くそう答える。
(のどかの内側で闇の魔法に似たような力が混ざりかけている。杞憂に終わればいいんだがな……)
その後遅れてはせ参じた千雨達。グレート・パル様号に乗っていたこのかがクレイグ達を癒してくれた。黒い猟犬達は負けた事ですごすごと引き下がってくれた。とりあえず無事にのどかと合流する事は出来た。
「え、なにこれ?」
「女の子がいっぱいだぁ」
「おばか」
クレイグは女子が殆ど占める光景に呆然し、クリスティンは惚けた顔を浮かべているのをアイシャがツッコむ。
「しっかし凄かったねマギさん! 遠目から見てたけど、あんなド派手な技を使うなんて!」
ハルナは興奮冷めやらぬ様子でマギに詰め寄っている。
「何言ってんだ。マギさんにはあんまり無理はしてもらいたくないんだこっちは」
「そうよ! なんなのマギさんさっきのは前のときよりもヤバ目だったじゃない」
千雨とアスナはマギに詰め寄ってくる。2人も物申したいのだろう。
「言いたい事は分かるが、今回はのどかをいち早く助けたかったから容赦してほしい」
「ごめんなさいマギさん。その……」
「いいんだ。のどかに何かあった時の方が俺は辛い」
マギは騒動によってなりふり構わず突き進む傾向が強くなっている。ほんとこの人とネギは似てるわよね……とアスナは思った。
「そういえばそのネギはどうしたのよ?」
「ネギ先生はラカンさんと何か話があるって。あやかさんが付き添いしてるよ」
千雨がネギの行方を教えるとアスナは嫌な顔をした。
「アタシあの人苦手なのよね。出会い頭に人の胸を突いたんだから」
暫くしたらオスティアに到着したグレート・パル様号。クレイグ達はここからは別行動する積りのようだ。
「そんじゃ俺達はここで。嬢ちゃん、また何かあれば会おうぜ。ま、この祭りじゃ直ぐに会うだろうし。闘技大会に出るんだろ? 応援に行くぜ」
そう言って宿を探しに行ったクレイグ達に感謝の言葉と見送ったマギ達。
ハルナもグレート・パル様号を格納するために何処かへ飛んでいき、別行動することになった。とネギとあやかが戻ってきて、ネギが悩んだ様子でこちらへやって来た。
「ネギ、お前に渡すもんがあるぞ」
「お兄ちゃん、何渡すものって」
「ほれ」
そう言ってマギはネギの杖を投げ渡した。
「僕の杖! どうして?」
「ハルナが飛ばされた時に一緒にあったようだ。よかったな。お前その杖、大切にしてたもんな」
ネギにとってナギが使っていた杖は大切な繋がりだ。そんな杖が戻ってきた。しかしネギは嬉しそうな顔から直ぐに何時もの難しい顔を浮かべてしまう。
「どうしたんだ? 折角大切な杖が戻ったのに難しい顔を浮かべて。ラカンさんと何か揉めたのか?」
「うん……ねぇお兄ちゃん、アスナさんは何者なのかな?」
「あ? アスナ?」
ぽつりと呟くように話すネギ。今日ネギはあやかを付き添いにしてラカンと話をすることになった。最初は闇の魔法がちゃんと作用するのかの確認を、ネギが色んな女子と仮契約している事を茶化されたりした。
しかし話はアスナの事になるとラカンの茶化した態度も引っ込めた。何故アスナが魔法無効化の力を持っているのか、両親の不在、ナギやタカミチ、このかの家である近衛家との付き合い、保護、そしてこの世界との関わり合いを。ネギはここでアスナと合流したときにアスナにある薬を飲ませた。アスナもここに来るまで今まで体験した頭痛のようにかつてここにいたような幻覚や夢を見るようになったと告白した。
ネギは怖くなった。アスナは自分が考えている以上に魔法世界に大きく関わっており、もし知ったとき自分がどういう行動をするのかという恐れがあった。だからこそ、ネギはマギの答えを知りたかった。
そしてマギの答えは……
「いや、アスナはアスナだろ?」
ありきたりというか、普通な回答だった。
「え? そ、そんなあっさりと」
「だってよ、アスナがとてつもない奴だって知ったら、お前はアスナとの接し方を変えるのか?」
「そ、それは……」
言葉に詰まるネギ。マギは雲海を見つめながら
「俺も本能な感覚でアスナが普通じゃないっていうのはこっちに来てここで合流してから感じていた。けど、アスナはとっても元気で友達思いのいい子……それだけじゃいけないのか?」
その言葉を聞いてネギは付き添いをしてくれたあやかの言葉を思い出す。
『ラカンさん、貴方がなんと言おうとも私はアスナさんと友だと最後まで言い続けます』
『へぇ、けどあやかの嬢ちゃんはお姫様の秘密を知りたいとおもわねえのか?』
『そうですわね、私としてもアスナさんの出生は気にならないといえば嘘になります。けど、私にとって大事なのは泣いてる私の背中を蹴り飛ばす、そんなお馬鹿で、大切な親友。それだけわかっていれば満足です』
『成るほどな。あのお姫様もいいダチをもったじゃねえか』
『ええ、あの子には大切なお友達が多くいますから』
そうだったとネギはあやかの言ったことに何度も頷き
「僕はまた色々と深く考えすぎてたみたいだ」
「まぁアスナのことを気になるのは間違いじゃない。今は皆と無事に合流することを第一優先にしよう」
と話していると
「ネギ! 聞いたわよ! あんたもマギさんと同じあの闇の魔法なんて危なかっしいもんに手を出したそうね!?」
件のアスナが鬼の形相で寄ってきてネギの頬を摘み引っ張る。
「まったくあんたはアタシの知らない所で無茶して! それで何かあったらどうするのよ!?」
「待ちなさいアスナさん、ネギ先生は皆さんを護るためにその力を手にしました。頭ごなしに否定するのはお止しなさい」
あやかの待ったに頬を伸ばしていた手を止めた。そして直ぐに謝る。アスナ自身もネギが心配だったのだ。
「けど、あんた1人で無茶しないこと! アタシだってここに来るまで修羅場乗り越えたんだから」
と少し揉めたが、収まるとこで収まったのであった。
あの後、ラカンに呼ばれたマギとネギ。指定された場所に着くと先にラカンが待っており、雲海を見つめていた。
「悪かったな。さっきはネチネチとした感じでよ」
「い、いえ僕はその、気にしてはいませんから」
ネギ顔を見ずにの謝罪だが、悪かったという気持ちは言葉から感じ取れはした。
「この雲海の下に広がる廃墟な、昔は大小百の島々が天然の魔法の力で浮かぶそりゃあキレイな古都だったんだよ。メシは美味い美女も多い。この世界の文明の発祥の地とも言われてな。歴史と伝統のウェスペルタティア王国、麗しき千塔の都、空中王都オスティア」
ラカンが歴史を話し始め、その話がアスナに大きく関わる事を直感で理解するマギ。
「その王族の血筋には代々不思議な力を持つ、特別な子供が生まれてきた。この世界が始まったのと同じ力でこの世界に息づく魔法の力を終わらせていくという神代の力。『黄昏の姫御子』完全魔法無効化能力者」
その力はまるっきりアスナと同じ。つまりアスナは……
「20年前の大戦の時にな、あの壮麗だった島々が全部落っこちた。直径50キロに及ぶ巨大魔法災害『広域魔力消失現象』によってな。百万人の難民と様々な問題を残して王国は滅んだ」
(マジか。魔力が消失なんて、そんな凄い力をアスナは持っているのか……?)
マギが戦慄を覚えていると
「俺達、というかお前らの親父は己の私欲のために戦争おっぱじめたバカ共を暴き出し、世界を2つに分けていがみ合ってた連中をまとめ上げて、諸悪の根源をぶっ潰して世界が滅ぶのを喰い止めた。だが、1つの国と1人のか弱い女の子を守る事は出来なかった。ったく、何が英雄だよ」
呆れたように言っているが、ラカン本人も戒めとしてそう言っているように聞こえた。
「けどまぁ、あそこまで言い切るなんてな。ありゃいい女になるぜ絶対に」
けど、ラカンは嬉しそうにそう言った。
「ぼーずとマギ。お前らとあの嬢ちゃんは言ってみりゃあのバカの忘れ形見だ。今度はお前らが守ってやってくんねえかな。あの嬢ちゃんをよ」
「はい!」
「まぁ俺はアスナを護るネギや皆を護るさ。俺はネギの兄貴だしな」
「だ、駄目だよ! お兄ちゃんはそうやって無茶するんだから! 僕もお兄ちゃんを護るよ!」
「いやそれ言ったら誰がお前を護るんだよ」
「それを言うならお兄ちゃんでしょ?」
どっちが護る問答になっているのをラカンは愉快そうに笑いながら
「まぁお前らは皆を護るためにあいつの禁術に手を伸ばしたんだからな。まぁ頑張れよみんなを護れるようにな」
「はい!」
「勿論だ」
雲海に太陽が沈み、星が光りだす。翌日には終戦記念祭が始まるのであった。