「すごいな……ここがオスティアか」
オスティアに降り立ったマギ一行はオスティアの賑わい具合に感嘆の声を上げていた。
街を歩く人人人の姿、種族も様々でマギ達と同じ人の姿もあれば、エルフのように耳の長い種族、角がある種族獣耳の種族、二足歩行のイルカのような亜人の姿もあった。
今オスティアで行われているのは『オスティア終戦記念祭』しかし終戦記念というわりには厳格な祭りではなく、まさにどんちゃん騒ぎの大賑わい。今オスティアに集まっているのは観光客はもちろん、あらゆる人間の区別なく参加すること事が可能ということで、お尋ね者や賞金稼ぎといったごろつきも祭りに参加しているというぶっ飛んでいるのだ。
それが7日7晩も続くというのはこの祭りはそれほどまでに大事なのだろう。しかも今年は終戦20年という節目でもあるのだ。いつもよりも多くの人で賑わうだろう。
「どこか、学園祭の仮装行列みたいですわね」
「こっちは皆本物だけどな」
学園祭を懐かしむあやかに千雨も同意する。
「あっちではクソ親父の映画なんて上映してるみたいだな」
「あんな奴でも戦争を止めた英雄だからな。映像作品になっていてもおかしくはないだろうさ」
マギはナギの映画の垂れ幕を見て、複雑な顔を浮かべている。
「お、マギ兄ちゃんあれ見て見い」
小太郎が指さした方向には、グレートソードを担いだマギと雪姫、ネギと小太郎の闘技場の選手としての垂れ幕が飾ってあった。現に垂れ幕の下でミーハーなファンが記念撮影をしており、どっちが優勝するのか賭けをしており、ヒートアップした何人かが野良試合という喧嘩をし始めた。
「すっかり俺らも有名人やな。こりゃ今のうちサインの練習をした方がええか」
「もうすっかり調子に乗ってるんだから」
いい気分な小太郎に水を差す夏美。夏美、アキラそして亜子も一緒にオスティアにて給仕の仕事をすることに。オスティアの闘技場での給仕も亜子達がやることになっていて、マギ達も亜子達が一緒に居た方が安心はする。
とそう言えばネギが居ない事に気づいたマギ。
「ネギの奴、どこに行ったんだ?」
「若しかしたら仲間の誰かがもう来てるかもしれないから探してみる……と言っていたが、観光もしたいのだろう。坊やもまだまだ子供だからな」
雪姫には一言言っておいたみたいだ。しかしネギはただの子供ではないので、1人にしといても問題はないだろう。
「しっかし、改めてけったいな人混みやな。ここまで多いと人で酔っちまいそうや」
「それぐらいこの祭りがこの世界の人にとっては大事って言う事だろ? だからこそ、警戒もしとかないとな。いつどこで狙われるかわかったもんじゃないからな」
『半径100m以内では敵性反応は見られず。強いて言えば野良試合で戦っている選手とそれを取り締まろうとしている警備の者達のみです』
マギウスもスキャニングは絶えず行っているようだ。
道中、屋台の物をつまみながら、マギ、雪姫、小太郎目当てのファンの相手をしたり、野良試合とかこつけて喧嘩を吹っかけてきたごろつき共を地に沈めてと各々祭りを楽しんでいると
「お兄ちゃん! 皆さん!」
ネギが嬉しそうに手を振っており、その後ろにはアスナが居た。
「あぁ……アスナさん……!」
懐かしい友の姿に安堵の表情を見せるあやか。
「あやか、皆久しぶり!」
アスナの方も皆が元気そうな姿を見て喜びを見せるのであった。
「ってなんか凄いロボットがいるんだけど!」
『初めましてアスナ様。私は魔導騎士マギウスと申します。以後お見知りおきを』
訂正、新たな顔ぶれに驚きも見せるのであった。
その日の夜。アスナと行動していたこのかと刹那に楓と合流し、そこにラカンも加わりレストランへと入った。ラカンは先にアスナと会っており、挨拶にセクハラをかまし、アスナに殴り飛ばされたのであった。
ラカンに驚きを見せるこのか達、思わず膝をついてしまう刹那と楓(スーツ姿)。このか(獣耳)は父の詠春とラカンが友人ということもあり、すっかりと警戒を解いており、ラカンもすっかりこのかに気を許していた。
武人として、ラカンの凄さを見抜く刹那と楓はラカンに助っ人を頼んだ。
「ラカン殿の御噂はかねがね、出来れば我々にお力添えをいただきたいのですが」
「えーめんどい。残念だが刹那の嬢ちゃん。俺は俺の為にしか戦わない。ま、どうしてもって言うなら500万は頂かないとなあ」
「ごめんなさい刹那さん。ラカンさんはこんな人なんです」
「そういうこった。自分らの尻は自分らで拭くこった」
「はい、お尻はしっかり僕が拭きますので」
ネギがお尻を拭くと言ったことに赤面するアスナと刹那。この一ヶ月でネギも色々と変わったことを実感した。
自分達がやらなければならない事は3つ。亜子達の解放、他の仲間との合流、帰還ゲートの発見と解放である。
「亜子達の解放は俺とネギのどっちかが優勝すれば問題ない。ま、俺に任せておけ」
「むう、お兄ちゃんはまた自分だけで何でもやろうとして」
マギの豪胆な態度にネギも頬を膨らませる。そんなマギをちらちらと見るアスナ。
「アスナさん、何でお兄ちゃんをちらちら見てるんですか?」
「えっと、その……なんでマギさんはおじさんの姿をしてるの?」
今マギは拳闘志ネギの姿になっている。つまりはおじさんの姿だ。しかもアスナが好みの少し覇気がないくたびれた姿の
「あ、もしかしてアスナ、マギさんがおじさんの姿だからドキドキしとるん?」
「まぁ、アスナさんたら」
「神楽坂、あんたそんなに節操がなかったのか」
「神楽坂、私の前でマギに色目を使うとはいい度胸じゃないか」
「うぇ!? ちょ皆!?」
はしゃぐこのか、呆れるあやか、ジトの目の千雨に目に殺気を混じってアスナを睨む。たじたじなアスナは必死に弁解する。
「マギさんがおじさんの格好になってるのがびっくりしただけで、そのなんかいいなぁって思って」
「だから色目使ったのだろ貴様」
「しまった! 墓穴を掘った!」
自分から白状した事にもう弁解できないアスナ。
「そっか、アスナってオヤジ好きなんだ」
納得した素振りを見せたマギはニヤリと笑って
「だったら今日は一緒に寝るか? 楽しい夜にしてやるぜ?」
「……え? ええ!? マギさん何言ってるの!?」
マギの大胆なセクハラ発言に羞恥で真っ赤になるアスナ。
「ほわぁ……マギさん大胆やわぁ」
「あ、あのマギさん? 流石にお言葉が」
「少し離れていた間に髄太とワイルドになったでござるな」
このか達からの様々な反応。対して件のマギは
「あー……悪い、またやっちまった」
口を押えて、申し訳なさそうに謝罪するマギであった。
「え? どういう事なの?」
「実は……」
マギは闇の魔法をもう一度使えるようになるために、ラカンの元で修行をし、何とか使えるようになったのだが、その時に黒マギがマギにちょっかいをかけたようだ。
「その結果、黒マギの感覚が混じったのか、時折何も考えずにぽろっと口から変な事を口走ってしまう。だからさっきの事は聞き流してくれていい」
「ああ、うん分かったわ。けど、その感じだと私以外にも言ってたみたいね」
「そう通りだよ神楽坂。マギさんは修行から戻ってきたら、所かまわずナンパはするわ、喧嘩を売られれば直ぐに買っちまうわで大変だったんだよ。その時も思わず言った感じになるから場が変な空気になったちまったし、その場を修正するのが大変だったよ」
「まったく、私はお前を軽薄な男にするためにラカンの元へ行かせたわけじゃないぞ。これではラカンと同じじゃないか」
「なんだ雪姫? そんなむくれちまって。だいじょぶだって! 俺にとって一番はお前や千雨達なんだから!?」
冷ややかな目で雪姫はマギの口を凍らせ、千雨は無言でマギの脇腹を突いた。
「少しは冷やして黙ってろ」
口が凍ってるためマギは黙って頷いた。マギを皆が可哀想な目で見ると言ったグダグダな空気が漂っていた。
話を今後の事に戻る。他に散り散りになった仲間の捜索だが、それは茶々丸と和美にさよがやっており、着実に仲間と合流が出来ている。
そして最後のゲートの捜索と解放であるが
「それを刹那さん達にお任せしたいんです」
嘗てのオスティアは今のオスティアよりも大きい浮遊大陸だったが、そのほとんどが地へと堕ちて行った。旧オスティア大陸のどこかにゲートはあるが、今は魔獣蠢く複雑怪奇なダンジョンと化しており、今は許可を受けた熟練の冒険者しか入ることが出来ないのだ。
「とても危険な任務です。ですがあなた方にしか頼めない。すみません」
「何を謝るのですかネギ先生。こういう時こそ我々を頼ってください。必ずゲートを探し出して見せます」
「……お願いします」
マギも凍った口のままだが、刹那達に頭を下げて頼み込んだ。
「それじゃ今後の方針も決まったわけだし! アタシ達も刹那さん達と一緒にゲート捜索行ってくるわ」
「いえ、アスナさんとこのかさんは僕達と一緒に居てもらいます」
「ええどうして? 別に魔獣ぐらいなら何とかなるわよ?」
「いえ、魔獣ではなく、むしろ魔獣よりも厄介というか」
どう言えばいいのか迷っているとラカンが
「フェイト・アーウェルンクスだろ? ぼーずが危惧してるのは」
フェイト・アーウェルンクスの名を出した瞬間、皆の警戒が一気に上がる。
「お前らがウチに帰るまで、もう一戦交わる事になるだろうからな。何せそのフェイト・アーウェルンクスっていうのは、俺らがかつて戦った奴らの生き残りだろうからな」
ラカンがフェイトのいる組織とかつて戦った事がある。その事実を知り刹那が代表として聞く。
「ラカン殿、フェイト・アーウェルンクスの組織の目的がどんななのかご存知でしょうか?」
「えー? 知らね。悪い奴らなんだからどうせ世界征服とかじゃねえの?」
かなりいい加減な答え方にずっこけそうになる皆。雪姫と千雨はラカンのいい加減さに溜息を吐いた。
「おれはそういうめんどーな事は考えないんだよ。ただあのアルが言うには『あいつらは世界を終わらせるつもりです』だそうだ」
「世界を」
「終わらせる……」
世界を征服するどころか、終末を迎えようとしている。それほどにぶっ飛んだ考えを持っている組織だったとは
「だったら簡単だ」
マギが氷を噛み砕き
「あのフェイトって奴らが世界を終わらせるっていうのがある種の救いとか考えているカルト的な考えを持っている組織かもしれないが、この世界の奴らがそんな事を望んではいねえ。だったら俺らがその目的を叩き潰す。それだけシンプルな事だ」
マギの言った事に皆も頷く。
「いいんじゃね。それぐらいシンプルでよ」
大声笑うラカン。
こうして、来るかもしれない敵に備えて、マギ達はそれぞれ動くのであった。