堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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闇の魔法修行④ ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん

「マギさん! 手が!」

「え? ……黒く戻ってる」

 

 夜。某海賊漫画や龍玉の格闘漫画のような巨大な魔法生物の簡易な丸焼きを食していると、千雨が新マギの右手が黒く戻っているのに気づき声をあげた。

 新マギも右手が黒く、闇の魔法が自分に少し戻っているのに気づいて驚く。

 

「さっきのデカガメを追っ払った時にはもう俺様から魔力を奪っていっただろ。見ろよ、俺様の誇らしい肉体が縮んじまったぜ」

「何言ってんだ。全然変わってないだろが」

「スルーしとけ。コイツの言ってることを一々真に受けてもしょうがない」

 

 黒マギは自身が縮んだと言っているが、その巨体が変わった様子はない。精々1cm縮んだかその程度だろう。千雨が黒マギにツッコミを入れようとするが、白マギがそれを諌める。

 

「けど、何でいきなり力が戻ったんだ……?」

 

 あの時は無我夢中で力が戻った実感がわかない。

 

「まぁじっくり考えてもいいが、時間は有効に使わなねぇと勿体ねえぜ?」

 

 黒マギがまともな事を言っているが、それが別の意味も含んでいると察するマギ達。

 

「どういう事だ?」

「あと3日もすれば俺様は完全な実体を手に入れることが出来るってわけだ」

『……は?』

 

 黒マギの言っている事が分からず目が点になっているマギ達を放っておき、黒マギは話を続ける。

 

「今の俺様は巻物に召喚された言わば霊体の状態。しかし3日もすれば俺様の体は魔力で作られ、ゆくゆくは俺様単体で顕現出来るってわけさ」

「なんだよそれ!? ラカンのおっさんは一言もそんな事を言ってなかったぞ!! それにアンタだってマギさんが折れちまったら入れ替わるとは言ったけど、そのまま居座るとは言ってなかったじゃねえか!!」

「けど巻物にはそう書いてあるぜ。ほれ、ここの一番下にしっかりとよ」

 

 黒マギは巻物の一番下を指差す。魔法世界の文字はまだ完全に読む事は出来ない千雨ではあるが、米粒のように小さい一文が巻物の一番下に分かりづらく書かれているのを見つけた。

 

「いやちっっさ!! こんなの詐欺の常套句じゃねえか!!」

 

 納得がいかず声を荒げる千雨。そんな千雨の肩に手を乗せ首を横に振る新マギ。

 

「千雨、俺は巻物を取った時に禍々しい力を感じていた。この巻物は自分にとって良くない代物だってことは」

「だったら何で──────」

「こうでもしないと俺が強くなることが出来ないと思ったからだ」

 

 新マギの曲げない信念に押し黙ってしまう千雨。強くなるためにはリスクを覚悟しないといけない。

 

「けど、時間がないならさっさと続きを始めるぞ」

 

 新マギは丸焼きを急いで口に頬張る。

 

「おお。いいぜいいぜ。夜通しやり逢おうぜ」

 

 黒マギもグレートソードを構えて不敵に笑っている。

 

「旧の俺と白い俺は千雨の事を見ていてくれ。今日みたいな事がまた起きるかもしれないから」

「あい分かった。俺達が加勢した所で戦力差は余り変わらないだろうからな」

「業腹だが、全て新しい俺に任せる事になる。何も出来ず、申し訳ない」

 

 加勢出来ない事に白マギと旧マギは新マギに謝罪するが、気にはしていまい。と言いたげに首を横に振るう。

 

「……ごめんマギさん、あたしが来なきゃ他の2人も一緒に戦えたのに……」

「そんな事ないさ。千雨に見守ってもらえればそれだけで頑張れるからさ」

 

 新マギは月光の剣の剣先を黒マギに向けて構える。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 新マギは吠えながら黒マギに向かって突撃したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……しかし、修行を始めてマギ、そしてネギは何の成果も得られずに、2日が過ぎようとしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 場面は変わり、2日目の夜。ネギはまだ目を覚ます様子はない。

 

「ネギ先生……まだ目を覚ましません。もう2日経っておりますのに……」

 

 マギウスと交代でネギを看病しているあやか。目にはくまが出来ておりまともな睡眠は取れていないようであった。

 

「もうすぐラカンさんに頂いた薬草が切れてしまいます……」

『申し訳ございませんあやか様。私の魔力の残量も残り僅かとなりました。恐らく稼働できる時間は夜明けまでかと思われます』

 

 マギウスの方も限界に近いようだ。

 

「おう、ぼーずの様子はどうだ?」

 

 ラカンが甚平に着替えて様子を伺ってきた。

 

「ラカンさん、今ネギ先生はどのような状態なんですか……?」

「今のぼーずのいる空間は現実の数倍。10日は戦い続けてるだろう。俺も一度似たようなものをくらった事があるがまさに無限地獄だった。普通の奴なら一日だってもたねえだろうが、やっぱり闇の魔法との相性は悪くないみたいだな。が……」

 

 ネギの状態を診てラカンは

 

「もって今日の夜明けまでだろうな。夜明けまでに糸口を見つけなければ二度と目を覚まさないか、魔法は使えなくなるだろうな」

 

 残酷な現実を突きつけた。嬢ちゃんも覚悟は決めておけよ。もうタイムリミットが迫ってる事に蒼白になるあやか。

 そんなあやかの眼前にラカンは単眼の装飾が施された禍々しいナイフをテーブルに刺す。

 

「これは……」

「このナイフをエヴァの巻物に刺せ。そうすればぼーずの命は助かる。が、闇の魔法は二度と使えなくなる。判断は嬢ちゃんに任せるさ」

 

 そう言ってラカンはまた去る。少ししたらまた様子を見に来るぜと気楽に言い残して。無責任に聞こえるが、これはあやかを信頼している所もあるのだろう。

 ナイフをテーブルが抜き取り、柄をぎゅっと握りしめた。

 

「マギウスさん、私は、私はどうすればいいのですか……」

 

 本音を言えば直ぐにでもナイフを巻物に突き刺したい。しかしまだネギは戦っているのだ。そんなネギの覚悟を自分が踏みにじる真似をしていいのだろうかと葛藤が頭の中を巡っていた。

 そんなあやかにマギウスが優しく肩に手を置く。

 

「マギウスさん?」

『今ネギ様のバイタルチェックを行いました。今も変わらず危険な状態です。しかし例えるなら崖際で踏ん張っている、そんな状態でもあります。ラカン様は今日の夜明けがリミットとおっしゃっていました。ならば夜明けまでネギ様を信じて待ってみましょう』

 

 それは今あやかが聞きたかった言葉かもしれない。ネギを慕い信じると豪語するあやかでもネギの命に関わるならその決意も揺らぐ。だからこそ、第三者からの言葉で改めて自身の信条を強くすることが出来る。

 

『ですが、もしバイタルが急激に変化する事があれば、その時はナイフを刺すことを提案します。もし躊躇ってしまうのならば、私がナイフを刺しましょう』

「ありがとうございますマギウスさん。ですが、これは私の役目です」

 

 迷っていた心も決まった。自分は何があってもネギを信じぬくと。それを思い出させてくれたマギウスに礼を言う。

 

「ありがとうございますマギウスさん。貴方はネギ先生やマギ先生に似て優しい方なのですね」

『私はマギ様をモデルにしたただのロボットです。人のような優しさというのはデータでしか認識しておりません。ですがちう様が悲しむ姿を見たくないのです』

「ふふ、それを人は優しいというのですよ」

 

 マギウスさんのおかげで平穏を取り戻したあやかはネギの手を握りしめたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃マギの修行も佳境に入ろうとしていた。ジャングルの奥から轟音と貴金属のぶつかる音。時折月光の剣が出た蒼い光波と闇の魔法の触手が顔を覗かせる。

 

「なぁマギさん」

「何だ?」

 

 戦いを遠巻きから見ることしか出来ない千雨は旧マギに問う。

 

「この修行、もしタイムリミットまでに間に合わなかったら前のマギさん達もこのまま現界し続けるのか?」

「どうだろうな。まぁおそらくは千雨の予想通りかもな」

 

 曖昧な回答ではあるが、旧マギはそうだろうと答える。

 その答えを聞いて千雨はポツリとつぶやく。

 

「あたしさマギさん達がそのまま居続けるならそれでいいかもなってそう思っちまってさ。どうせなら戦うのは黒いマギさんに任せちまってあたしらは後ろで茶でもすすってればなーって」

「……それは本心かい?」

 

 少し意地悪な問いかけに千雨も苦笑いをしながら

 

「ううん、今のはリミットが迫ってナーバスになっていた戯言だと思ってくれ。それに、そんな未来今のマギさんが納得するわけないだろうし」

「あぁ。思えば今の俺には酷な事を強いらせてるわけだな。まだ日が浅いのに過酷な戦いを任せることになるわけだから」

「だが、身勝手ではあるが、俺にはこの試練を超えてもらわないと俺達の存在も危ういかもしれない」

 

 戦いの光景を真剣な眼差しで見ながら白マギはそう言った。

 

「どういう意味だよ白マギさん」

「今回使った巻物はある種の呪いのアイテムだ。何の代償も払わないという生易しい代物じゃないだろう。今の俺は旧の俺、そして今の俺は黒い俺と比べたら希薄な存在だ。もし、黒い俺が現界することになったら入れ替わるどころか、希薄な俺達はあいつに吸収されてしまうかもしれない」

 

 そう推測した白マギの体が急に透けだした。

 

「白マギさん体が!」

「始まったか。黒い俺が持っていこうとしてるな。だが、下品なあいつと1つになるなど……虫唾が走る」

 

 ふんと全身に力をこめ、透けていた体を元に戻す白マギ。ますます黒マギの暴走に歯止めがきかなくなりそうのをみて時間がないのを嫌でも実感してしまう。

 

「本当に大丈夫なのかマギさんは……」

「大丈夫かもしれないし、大丈夫じゃないかもしれないな」

 

 こればかりは断言出来ない旧マギ。

 

「ただこれだけは言えるが、今の俺がきっかけを掴む事が出来れば、大きく変化する事が出来るだろうな」

「マギさん、どうか無事に乗り越えてくれ……」

 

 千雨は未だに戦い続けている新マギが無事に試練を乗り越えられるように祈り続けた。

 その新マギはと言うと……

 

「がはっ……!!」

「おいおいどうした俺ちゃん? もぉへばっちまったのかぁ~?」

 

 巨木に闇の魔法の触手によって串刺しにされ、磔にされてしまっていた。

 

 

 

 

 

 2日2晩戦い続けてマギ(黒マギと2人しかいないため呼称は戻す)は勝てるヴィジョンが全く浮かんでこなかった。

 相手している黒マギが闇の魔法をふんだんに使用し、触手のように器用に使い続けてマギを翻弄していた。

 対してマギの武器は月光の剣だけであった。マギが月光の剣を振るい光波を出しても黒マギが触手で防いでしまう。

 しかもこっちは両腕2本だけに対して黒マギは触手が無数にあるせいで半ば強制的に防戦一方になってしまうのだ。とにかく手数に圧倒されてしまう。

 これまで触手によって頭を割られたのが5回、手足を折られたのが10回、ねじ切られたのが20回、そして体を貫かれたのが今体を巨木に磔にされて30回を迎えた。

 圧倒的な力量差。例えるなら自分はライターの火だとしたら黒マギは山火事を起こせる程の大火であった。

 しかも黒マギがいちいち大げさにマギの状況を叫ぶのだ。必要以上に煽ってきて、それが苛つかせ焦らせる。

 怒りや焦りで攻撃が大雑把になれば攻撃なんてちっとも当たらない。そしてあっさり返り討ちにあってしまう。

 そんな一方的な攻撃に晒せれ続けて、遂にはタイムリミットの夜明け前に迫っていた。

 しかしマギはまだ諦めておらず、月光の剣を構え、目はまだ死んでいない。

 

「まだだ。まだ俺はやれるぞ」

「おいおい、ここまでくればただの往生際が悪いクソガキとおんなじだろ。見ろよ、お日様がそろそろおはようございますしそうだぜ? 日が完全に登ったら俺はゲームオーバー。晴れて俺様が現界して大暴れ出来るようになるってわけだ」

 

 夜空が東から青白くなり始めている。夜明けが近いのだろう。黒マギの言う通りもう時間がない。

 

「まだ完全に夜が明けたわけじゃない。俺は、まだ諦めない」

「……はぁ、いい加減うざったくなってきたなぁ」

 

 そう言って黒マギは闇の魔法の触手でまたもマギの体を貫いた。

 

「がはぁっ……!」

「言い訳みたいに大層な御託並べやがってよぉ。うざいったらありゃしねーぜ。おい俺よぉ、何でこの修行を始めたのかわかってるのか?」

「当たり前だ。俺はこの修行で闇の魔法を完全にコントロールするためだ!」

 

 ……あれ、本当にそうだったか? 噛み合わないパズルのように違和感を覚える。

 手段と一番大事な目的が入れ替わり、重大な事を見落としていてならない。

 一度頭の中のパズルをすべて崩し、もう一度組み立て直す。そうすることで頭の中で色々と浮かび上がる。

 麻帆良学園。3ーAの生徒達。アーニャ、あやか、アスナ、このか、せつな、カモ、小太郎、風香、史伽、茶々丸、夕映、亜子、千雨、プールス。皆の顔も浮かんできた。

 そして最後に浮かび上がったのは、ネギ、のどか、そしてエヴァンジェリンだった。

 何故皆を思い浮かべたのか。決まっている……自分が皆を護りたいからだ。そう思った瞬間、最後のピースがピタッとはまった。

 

「──―あ」

 

 ぽつりと言葉が溢れたと思いきや

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 突然狂ったように笑い出すマギ。天を仰ぎ笑い続けるその姿はタイムリミットで可笑しくなったのだろうとそう見て取れる。

 そんなマギに向かって、黒マギはまたも闇の魔法の触手で貫こうとマギに向かって突き出した。

 しかし触手はマギを貫くどころか、マギは触手の束を掴んだ。先程までの力の差が嘘のようである。

 

「そうだ……何を俺は回りくどい事をしてたんだ。俺はただ単純に皆を護れる力を手に入れるために闇の魔法を使いこなそうとしていたのに」

「漸く分かったか。そうだ、自分が護るという本能にも勝る欲望。ネギでもエヴァでもない。俺自身が皆を護るという傲慢とも言える力への渇望だからこそ」

「あぁ、だからこそ俺は闇の魔法を完全に制しなけれなならない。ということで、その力俺に寄越せ」

 

 そう言って黒マギから伸びている触手を数本引きちぎった。引きちぎられた触手はトカゲのしっぽのようにのたうち回るが、マギが握りしめると触手は魔力の霧となり霧散し、マギの腕に吸収された。手のひらまで黒かった右手が肘の辺りまで黒く戻ってきた。

 

「漸く半分位まで戻ってきたか。だが、まだ足りない。そのまま全部寄越せ」

「へん、やなこった。そんなに欲しいなら、力づくで奪うんだなぁ」

 

 そう言って黒マギは魔力を開放した。禍々しい黒い魔力がグレートソードを包み、漆黒の黒刀へと姿を変える。

 

「あぁ、その積もりだ。力づくで全部奪ってやるさ」

 

 マギも魔力を開放し、月光の剣が蒼白く煌々と輝く。そして互いに刃を構える。

 

「もうそろそろ時間だな。互いの最大の一撃をぶつけ合うなんて何とも唆られる展開じゃねえか」

「ふっそうかもな。けど……勝つのは俺だ」

「ギャハハハハ。それはどうかな? ここでお約束を破った大どんでん返しな展開になるかもしれないぜぇ?」

「ハハハハハ」

「ギャハハハハ」

 

 互い笑い合っているが

 

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 次の瞬間には足を踏み込み刃を振るう。2つの力がぶつかり合った瞬間

 2人が居るジャングルが文字通り吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2つの力がぶつかった瞬間には千雨は少し離れた場所で戦いを見守っていたが、巨大な力の爆発に千雨は悲鳴を上げた。

 

「なななな何だぁ!?」

 

 いきなり目の前のジャングルが轟音と共に爆裂すれば目が飛び出す程の仰天になるだろう。

 しかしかなりの至近距離で大爆発が起こればその分の衝撃波も凄まじい事になる。

 

「白い俺! 盾を構えて障壁を張れ! 俺もなけなしの魔力で障壁を張る!」

「了解した!」

 

 旧マギと白マギの判断は早く、白マギはタワーシールドを湖の浜辺に刺し魔法障壁を展開し、旧マギも障壁を展開する。

 

「千雨! 絶対離すなよ!」

「死んでも離すか!!」

 

 千雨が旧マギの腰に抱きついた瞬間、衝撃波が襲ってくる。体感10秒程であったが、気を抜いたら吹き飛ばされそうだった。

 衝撃波が晴れると千雨の目の前にあったジャングルは巨大なクレーターへと変貌を遂げており、開いた口が塞がらない千雨。

 

「新の俺と黒い俺が最大の力を使ったんだろう。勝負が決まったのかもな」

「それじゃあマギさんが……」

「まだ分からない。もしもな事もあるかもしれない。だから千雨、最悪の場合は覚悟しておいてくれ」

 

 そんな話をしてしばらく待っていると、新マギと黒マギが戻ってきた。どちらもぼろぼろで汚れていた。

 

「ま、マギさん。どうなったんだ……」

 

 千雨がおそるおそる新マギに結果はどうなったのか聞くと、黒マギがグレートソードを地面に急に刺した。いきなりの黒マギの行動に千雨は警戒をするが、黒マギは大きく伸びをするとそのまま背中から寝転んでしまう。

 

「は?」

 

 黒マギが急に寝転んだのを見て千雨は呆然としていると

 

「負けた負けた。俺様の負けだ」

 

 黒マギが自身の敗北を宣言するのであった。

 

「え? 負けって……」

「二度も言わせんじゃねえよ。この俺様が負けを認めてやったんだ。もっと喜ぶところだぜ?」

 

 というか黒マギは他のマギたちよりも巨体であったはずなのに、格好は元のままだが、背は同じ位に縮んでいた。

 そして、新マギの右腕も元の漆黒に戻っていたのである。

 

「それじゃあ……!」

 

 千雨は期待の混じった眼差しで新マギを見ると、新マギも頷き

 

「何とかぎりぎりで間に合った。試練、クリアしたぜ」

 

 ヘロヘロながらも新マギは震える手で千雨に向かってサムズアップをした。

 もう大丈夫だ。それが分かった瞬間、千雨は体を震わせ感極まってそのまま新マギに抱きついた。受け止めきれずにマギは仰向けで倒れてしまう。抱きついた千雨は嗚咽をこぼしていた。

 

「うぐっ、よかった……! あんまり心配させんじゃねえよバカ……」

「ごめん。心配かけて」

 

 泣きじゃくる千雨をあやすように頭をなで続ける新マギであった。

 

「ヒューヒュー! そのままブチュっとやっちゃいなYO!」

「茶化すな痴れ者が。しかし、クリア出来て良かった」

「だな。今の俺には色々と無理をさせてしまったな。けど、これでとりあえずは大丈夫だろうな……」

 

 茶化す黒マギを諌める白マギ。そして朝日を見ながらぽつりと呟く旧マギ。

 ぎりぎりではあったが、試練をクリアすることが出来たマギであった。

 

 

 

 

 

 

 時間は少しだけ遡り、ネギの方も決着が付きそうであった。

 うなされ夥しい血を流していたが、それがピタリと止み静かな時間が流れまるで死んでしまったようだった。

 小さく呼吸はしている。しかしそれは弱々しく、ネギの体が限界に近い事を意味していた。

 

『あやか様……残念ですが、そろそろ時間です。夜が、明けてきました』

 

 朝日が差し込み、もう時間がないのを物語る。あやかはナイフを両手で持ち巻物に目を向ける。しかし、ナイフを握る手は震えていた。

 

『あやか様、もしも無理であるならば私にナイフをお渡しください』

 

 ここで一分一秒でも躊躇いナイフを刺すのが遅れればネギの身に何が起こるのか分からない。

 マギウスならばネギの身を第一優先にし躊躇なく刺すことが出来るだろう。

 しかしそんなマギウスの好意を受け取りながらもあやかは首を横に振る。

 

「ありがとうございますマギウスさん。ですが、これは私がやらなければいけないことなのです」

 

 あやかは数回深呼吸をするが、ネギの事を考えると罪悪感で目を閉じてしまう。しかし、目を反らし逃げてしまえば、二度とネギと向き合う事は出来ないと判断し、目をかっ開き

 

「あああああああああ!!」

 

 今日を払拭するために叫びながら、巻物に向かってナイフを振り下ろす。

 ナイフは巻物に当たる僅か数cmで止まった。

 何故なら、ネギの2本の指がナイフを挟み止めてしまったのだから。

 

「……え? ネギ、先生?」

「はい。ご心配をおかけしましたあやかさん。ぎりぎりでしたが、間に合いました」

 

 呆然としているあやかに衰弱していながらも微笑むネギ。とそこに寝起きのラカンがやって来る。

 

「そろそろ時間だろうと思って来てみれば、何とか会得したみたいだな闇の魔法を」

「はいラカンさん」

 

 ネギの両腕には刻印が浮かび上がる。この刻印こそが闇の魔法を会得した証拠である。

 

「ま、とりあえずはおめでとさんって所だな。けど気を付けろよ、そいつはバンバン使っていい代物じゃねえってことを忘れるなよ」

「はい、それは重々承知の上……です」

 

 ネギは暴走し、悪魔の形相になったマギを思い出す。だがそれでも自身が大きな一歩を踏み出せたのも間違いはないのだ。

 決意をあらたにしていると、からんという音がする。あやかがナイフを落とした音だった。

 

「おめでとうございますネギ先生。ですが、私は最後までネギ先生を信じる事が出来ませんでした。不甲斐ない私で申し訳ございません……!」

 

 遂にはぼろぼろと涙をこぼし始めるあやか。しかしネギはあやかを咎める事はしない。あやかはネギの事を思って行った事であるからだ。

 

「そんな! あやかさんは僕を今まで見てくれていたのに、そんなあやかさんを咎めるなんてしません。絶対に!」

「あぁ、ネギ先生、その言葉をいただけて、私は十分で……す」

 

 糸が切れたように前のめりに倒れそうになるあやかを抱き留める。

 

「嬢ちゃんはほぼ寝ずにお前を見てたからな。緊張の糸が切れたんだろうよ」

「はい。本当にありがたい限りです」

 

 ネギはゆっくりとあやかを横に寝かせてあげた。

 

『ネギ様、私もそろそろエネルギーが切れるようなので、強制スリープに入らせていただきます』

「うん、マギウスもお疲れ様」

 

 マギウスも目から光が消え、スリープモードに入ったようだ。暫し時間が過ぎているとマギが戻って来た。

 

「ネギ、目が覚めたようだな。闇の魔法は使えるようになったのか?」

「お兄ちゃん。うん、何とかギリギリで……ってお兄ちゃんが4人いる!?」

 

 マギの声が聞こえて振り返れば、マギが4人に増えたことに驚き目を見開いた。

 

「そう言えばネギが眠った後にこっちも修行を始めたからネギが知らないのも無理ないか」

 

 新マギは修行のこと、こっちも闇の魔法を使うための基盤が固まったことを話した。マギの方も無事に終わったと知って喜ぶネギ。

 

「それじゃあそこにいるお兄ちゃんは……」

「そうだ。久しぶりだなネギ」

 

 かつて自分とずっと一緒に居てくれたマギだと知った瞬間に、ネギは旧マギに飛びついた。そしてぎゅっと旧マギを抱きしめる。

 

「酷いよお兄ちゃん……! 勝手に僕達の前からいなくなっちゃうなんて……!」

「あぁ、悪いな。酷い兄貴でごめんな」

 

 涙を流すネギをあやすように優しくネギの背中に手を回し撫でまわす。

 久方ぶりの兄弟の再会。このまま少しでも一緒にいさせてあげたい。しかし、時はそう兄弟に甘くなかった。

 

「んじゃそろそろ時間だな。さっさと俺の中に戻ろうぜ」

 

 黒マギが時間だと言った。見れば黒マギの足から少しずつ消滅していっていた。

 

「おい黒マギさん! アンタ足が消えてるぞ」

 

 慌てる千雨を馬鹿にするかのように深い溜息を吐く黒マギは説明する。

 

「おいおい何馬鹿な事を言ってんだ? 俺様はあの巻物で俺の中から出てきたんだ。俺が試練をクリアしたなら、俺様がこの世界にいる必要はないんだよ」

「俺達は魔力の残り香で実体を保っていたんだ。まぁつまり、時間切れだ。俺達は魔力に戻り、俺の体に戻る」

 

 見れば、白マギもそしてネギをあやす旧マギも少しずつ体が薄くなっていた。

 

「そうか、もう時間がないのか。残念だな、せっかくこうしてネギと話せるかと思ったんだけどな……」

「そんな! お兄ちゃん、もう行ってしまうの?」

 

 残念がる旧マギ、もう旧マギが行ってしまうと知りショックを覚えるネギ。

 しゅんと沈むネギを見て、何を思ったのか、旧マギはネギの両脇を持って、上へと上げる所謂高い高いを行った。

 

「お兄ちゃん!? 何やってるの!?」

「……そう言えば、昔は馬鹿みたいに斜に構えていたせいで、お前と接する時間をあまり持てなかったからな。失ってから大事にな事に気付くってよく聞くが、正にそうなんだな」

「お、お兄ちゃん、僕そんなに小さくないから、その、嬉しいけど、恥ずかしいよ」

「悪いな。けど、もう少しだけこうさせてくれ」

 

 顔を赤くしながら恥ずかしがるネギを降ろすが、少しでも多くネギと接しようと、普通の兄弟のようにじゃれ合うネギと旧マギ。微笑ましい光景でもあるが、それもあと数分あるかないかである。

 

「なんか、複雑な気持ちなんだが」

「そうだな。けど、少しでも昔の俺の自由にしてあげたい」

 

 複雑に見ている千雨と、旧マギの気持ちを尊重してあげたい新マギは旧マギとネギの戯れを微笑みながら見ていた。その間にも白マギと黒マギは消滅を続け、今ではもう胸から上までしかなかった。

 

「どうやら俺達が先に戻るようだな。何も手伝う事が出来ずにすまなかった。俺の内側で俺が頑張るのを応援するよ」

「そんなことない。白い俺が千雨のそばにいてくれたから俺も頑張る事が出来たんだ」

「……ありがとう」

 

 そう礼を言い、微笑みながら消滅し、新マギに戻っていく白マギ。

 

「けっ折角俺様が大暴れしようとしたのになぁ。言っとくが俺様はまだ諦めたわけじゃねえぞ。調子乗ってまたへまでもしたら俺様が大暴れしてやるぜ」

「あぁ、そうならない様に頑張るさ」

「へっそうやって精々いきっておくんだな」

 

あ、そうだと何か言い忘れたのか黒マギはにやりと笑いながら

 

「ただ戻るのは癪だから、ちょっとちょっかいかけさせてやるぜ」

「は?おいそれはどういう――――」

「じゃあな!ぎゃははは!!」

 

 そう言って黒マギはだらしなく舌を出しながら消滅し、新マギの中へと戻っていった。ちょっかいを出すという何か不吉な事を言い残して。

 そして残りは旧マギだけになった。旧マギも段々と消えて行っていく。

 

「さて、俺の番か……」

「お兄ちゃん、また会える?」

 

 不安げに旧マギを見上げるネギの頭に優しく手を置く。

 

「すまない。まだ俺は俺でやらなければならない事があるからな。だから……勝手な物言いだが、後は頼むぞ俺」

「ああ、任せろ俺」

 

 固く誓いを立てる新マギに頷き返す旧マギ。

 

「それじゃあ皆、またな」

 

 そう言って旧マギも魔力となって霧散し、新マギに戻り、マギ1人だけとなった。

 

「どうだマギさん、体に変な感じあるか?」

「そうだな。足りないものが全部器に戻って来た感じだ」

「つまりは大丈夫ってことだよな。ならよかった」

 

 こうして、どちらも危ない橋を渡ったが、無事に闇の魔法の修行を終えることが出来た。

 

「しかし闇の魔法を使えるようになったが、まだまだスタートラインだ。これから修行はもっと厳しくなる。本番は此処からだぜ」

「はい!」

「あぁ、望むところだ」

 

 やる気に満ちているネギとマギ。これから更に過酷な修行が始まるかと思いきや

 

「んじゃ修行の前に腹いっぱいに飯食って寝ろ!」

「っておい今から始めるんじゃなかったのか!?」

「まぁそうだがネギは今までずっと血を流し続けてただろうし、腹も減ってるだろ。腹が減ってたら修行は出来ねえぜ」

「そこは戦だろ」

「戦も修行もどっちも変わらねえだろ! んじゃ今から飯だ! いっぱい食え!」

「はい!」

「そうだな。そう言えば腹が空いたな」

 

 そう言ってマギとネギは腹を満たすためにラカンについて行った。

 

「……まぁなんやかんやであたしも腹減ってたし、マギウスにも魔力をあげなくちゃな」

 

 少し遅れてマギ達について行く千雨。その後、あやかも目を覚まし、皆で腹を満たすために豪快なバーベキューを行うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マギ達がバーベキューを行っている間、廃都オスティアが一望出来る岩山にフェイト・アーウェルンクス達が居る。その背後には石化している巨大な竜の姿が。

 そんなフェイト達の元に巨大な鷲が降り立った。鷲からアーチャーが降り、続いて千草に、カモにプールス、風香と史伽も降りた。

 

「やあ。目的の物は手に入ったのかな」

「おかげさまでね。不死斬り、手に入れることが出来たよ」

 

 そう言って背中に担いだ不死斬りを見せるアーチャー。

 

「それは良かった。けど……どうしてネギ君の仲間が一緒にいるのかい?」

 

 感情の無い目でプールス達を見るフェイト。カモとプールスは警戒するが、風香と史伽はびくりと肩を震わせる。

 

「この子達は君達が行った強制転移の魔法で私の目的地に飛ばされたみたいでね。そこのカモ君に依頼されて、マギ・スプリングフィールド達と合流出来るまで護衛してほしいという訳さ」

 

 プールス達が何故いるのかの理由が分かると、そうかいとさほど興味無さそうにフェイトはプールス達を見るのを辞めた。

 

「まぁっ可愛いお嬢さんやなぁ。この子達がひどい目にあったら刹那センパイも怒ってもっと強くなるかえ?」

「ひっ」

「ちょ、やめてよ!」

 

 風香と史伽を見て、狂気的な笑みを浮かべながら鞘から少し刀身を抜く月詠に怯える声を出してしまう風香と史伽。

 

「月詠! その風香と史伽とかいう子は魔法に巻き込まれた一般人やえ! 魔法使い共はどうなっても構わんがこの子達に手を出すのは許さんえ!」

 

 鷲を札に戻し、月詠が風香と史伽に手を出さない様に牽制する千草。

 

「あらら千草さんそんなムキになって怒らんでも。ほんのちょっとの冗句やえ。ごめんなぁ、怖がらせて」

 

 けたけた笑う月詠にすっかり腰が抜けてしまった風香と史伽。そんなやり取りを見ててフェイトは小さく溜息を吐いた。

 

「さぁネギ君早く来るんだ。君なら僕達の計画を止められるかな」

「舞台は整いつつある。さぁマギ・スプリングフィールド。貴様はこの私が断ち切ってやろう」

 

 マギ達が気付かぬ内に物語は大きく動き出そうとしているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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