堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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最近になって漸く一回目のエルデの王になりましたが
ラスボスを他の褪せ人に倒して頂いたので、己の強さに納得出来ず、レベル上げのためにカエルを狩る毎日。
最近全然執筆出来てない……

とりあえず今は焦らず続けます。


取り残された武士の地

プールス一行はアーチャーの護衛の末に目的の地である城へと到着した。

城は所々崩壊しているが、荘厳な見た目はしっかりと維持はされている。

プールス達は崩れている城壁から侵入を試み、無事に侵入には成功出来た。城の中はあちこちに人の気配を感じる。

 

「さて、目的の地に辿り着く事は出来たが私達は招かれざる客。相手はこちらを見つけたら必ず襲って来る。言いたい事は分かるね?」

「おい嬢ちゃん達の前で血なまぐさい光景を見せるつもりか?」

 

カモがアーチャーに物申そうとしたが

 

「誰か来るレス!」

 

蹄と嘶きが聞こえ、その他にも大勢の足音が聞こえてきた。

急いで隠れられそうなしげみへと入る。

 

「いいか、呼吸はなるべく小さく、気配は殺せ」

 

アーチャーに言われ、小さい呼吸で身動もせずに気配を殺し悟られないようにする。

暫くすると馬に乗った者と走りでやってきた者が数人。

全員安土桃山時代で死闘を繰り広げたような鎧を纏い、手には太刀や槍、弓や鉄砲を装備していた。正に武士(もののふ)と呼ばれるような風貌だ。

 

「今ここらへんで声が聞こえたぞ!また内府の奴らか!」

「おのれ内府の奴らめ!我等葦の地へ土足に入り込み好き勝手に仲間を殺してからに!」

 

武士達は殺気立ちながら辺りを散策する。手に持っている刀や槍の刀身が怪しく光る。あれら全てが真剣で簡単に自分の命を狩り取ることが出来ると分かると固唾を飲まずにはいられない風香と史伽。

 

「もうよい!内府の奴らのことだ、もう移動していると考えた方が良いかもしれん。奴らは小賢しいが強いのは事実、これ以上あ奴らの好きにはさせぬぞ!」

 

馬に乗っている武士が部下の武士を指揮し別の場所に移動していった。暫くしてから殺気立った気配が無くなり、もう大丈夫と判断してしげみから出るプールス達。

 

「見ただろうあの武士達の異様な殺気を。もし見つかればこちらの大半が女子供だからと言って許す事はないだろう」

「でもよ、やっぱり不殺とか出来ねえものか?」

「……そうは言っていられなくなったようだな」

 

空を切りながら矢がアーチャーに向かって飛んでくる。

アーチャーは干将と莫耶を投影し、飛んでくる矢を切り落とした。

見れば先程の武士達が戻って来ようとしている。

彼らの索敵範囲の力を侮っていたと舌打ちをするアーチャー。直ぐに風香と史伽へ隠れていろと命じる。

しかしプールスだけは残った。

 

「どうした?君も早く隠れてほしいのだがね」

「私も覚悟を決めたレス」

「……そうか、ならそれなりに働いてもらうぞ」

 

プールスの覚悟を一掃せず、アーチャーは干将と莫耶を構える。

こちらへやって来た武士達。槍を持ったものが切先をアーチャーへ向ける。

 

「何者だ!?見慣れんやつ、新しい内府の者か!?」

「見ろ!こやつおなごを連れとるぞ!」

「おのれ内府め!おなごを連れて俺達から油断をさそうつもりか!?」

「しかしどうする?おなごを斬るのは武士の名折れぞ」

 

好き勝手に騒ぐ武士達を見てまるでこの前戦った猿軍団のようだなと思いだしていると

 

「ええい騒ぐな!我らは今内府の者共との戦の最中、今は仲間以外は全て敵だ!例えおなごであろうとも斬って我らは修羅になろうぞ!!」

『おおおおおおおおお!!』

 

馬上の武士の一声によりまずい方へ決意が固まり、一斉に襲いかかって来る武士達。

 

「話し合いの余地なし。いや、端から期待はしていなかったのだがね」

 

溜息を吐きながら魔力を解放しアーチャーは瞬道術を見せ、目の前で消えたアーチャーに驚いた武士達の後に立った。

そして振り返り動揺している武士達を連続で攻撃し違和感に気付く。

 

(何だこれは、まるで肉を切ったと思ったら豆腐を切ったかのように見た目に反して手応えがない……)

 

そして切っても血が直ぐに霧散してしまっている。

一方のプールスも武士達を殺さない程度に殴ったり蹴ったりしているが、妙な手応えに困惑しながらアーチャーを見る。アーチャーはそのまま戦えとプールスにアイコンタクトを取り、プールスも余計な事を考えないように武士達と戦った。

数分後には立っているのはアーチャーとプールスの2人だけ。アーチャーにかかった者は容赦なく切り崩され、プールスにかかった者はプールスが不殺で戦っていたので皆気絶だけで済んでいる。

もっとも硬質化している腕や足で殴られ蹴られされているので無事ではなく痙攣しているのだが。

 

「おのれぇ儂の部下を尽く蹴散らすとは……!ならば今度は儂が相手。我が必殺の槍を受けてみよ!いざ尋常に勝―――」

 

馬上で口上を述べていた武士は最後まで言うことなく事切れた。

何故ならアーチャーが弓と矢を投影し、矢で頭を貫いたからだ。

 

「済まない。だが君達の相手をしている暇も私にはないのでね。早々にかたを付けさせてもらった」

 

馬上から力なく落ちる武士。主がいなくなった馬は一回嘶くと何処かへ走り去っていった。

敵がいなくなり、しげみから風香と史伽とカモが出てくる。死屍累々の上に立つアーチャーを見て恐れも混じった目でアーチャーに尋ねる風香。

 

「こ、殺した……の?そりゃ相手は殺す気で来たんだし、正当防衛なのかもしれないけど……」

 

動揺しているためかなり目が泳いでいる風香。そんな風香を安心させるように優しめや声色を出すアーチャー。

 

「心配するな。私は誰も殺してはいない。というより誰も生きてはいないというのが正しいかな」

「え?それはどういうことですか?」

 

首を傾げる史伽。ちらりとアーチャーはプールスを見て、プールスもこくりと頷く。

 

「この人達と戦った時に違和感を覚えたレス。まるで目の前にいるのにここには居ないみたいな……」

 

プールスの表現に上手く理解出来ず首を傾げたままの風香と史伽に助け船を出すように説明するアーチャー。

 

「あの武士達はとっくの昔に亡くなった者達。所謂亡者と呼ばれる者達だ」

「亡者?ゾンビとは違うの?」

「ゾンビとはまた別物だ。あの者達は簡単に言えば実体のある幽霊のようなものだ。残留思念、地縛霊、この者達はこの地に縛られている。ゴーストタウンならぬ、ゴーストキャッスルに」

 

ゴーストキャッスルと聞き顔を青くする風香と史伽であるが史伽はあることに気付く。

 

「でもアーチャーさんが戦ってた武士の人達は血を流してたし幽霊なら死なないのに何で皆起きないの?」

「この者達は自分達がもう死んでいる事を理解していない。否もう死んで長い、もう死んでいることを忘れているのかもしれない。だからこそ生きていた時のようにこの城をさ迷い、嘗ての敵が来たように侵入者と戦い、そして死ぬ。彼らはそれを繰り返しているのだろう。延々と」

「なんか、可哀そう……」

 

風香は哀れんだ。死んでもなお敵と戦うために城を彷徨うなんて

 

「今は哀れむ暇はない。城にはまだ多くの武士が居るだろう。この場に留まるのは得策ではないだろう」

 

倒れている武士に少しの哀悼の意をこめて合掌しその場を後にする一行。

道中他の武士達が襲われる中、風香と史伽は邪魔しないために茂みや瓦礫に隠れていた。相手が生身の人ではないと知ったことで少しは落ち着きを取り戻したが、しかしそれでも見られたものではないのは確かなので極力目を閉じるか耳を塞ぐようにしていた。

カモはプールスと連携を取り、所々で目くらましのマグネシウム攻撃で相手の目を潰すファインプレーを繰り広げていた。

武士達と戦い、時に隠れるために廃墟の床下を匍匐前進で進み、落ちるすれすれの崖を渡るなどした。

その中で何回か人の白骨を見る。しかし格好がかなり時代錯誤していた。

アーチャー曰く、この地に迷い込んだ者か、はたまたトレジャーハンターの類か。いずれにせよこの地に入って生きて帰れなかった哀れな末路を辿った者達。自分達も最後はこうなるのではないかと最悪のビジョンが頭に浮かぶが頭を横に振り嫌なイメージを頭から消し去った。

暫く歩き、周りに敵の居ないエリアにたどり着いた。

 

「どうやらここはセーフハウスのような場所のようだな。暫くは此処で小休憩するとしよう」

「賛成だ。ずっと武士達の相手をしたり隠れたりしたせいで気が張りすぎたからな」

「ね、ねえあんな所に仏像があるよ」

 

風香が指差した所にポツンと仏像が置いてあった。6本の腕で禅を組む、鬼の形相を浮かべた仏像だ。

 

「ねぇ、お参りしとこうよ。少しでも供養出来るならさ」

「あぁ、そうだな。それがいいだろう」

 

風香の提案に誰も拒否はしなかった。皆仏像の前で跪き、合掌をした。その時不思議な事が起こる。

青い炎が燃え上がったと思いきやそのまま一行を包み込む。

思わず悲鳴を出す風香と史伽であるが、青い炎は全然熱くなかった。

戸惑いを見せているプールス、風香、史伽。しかしあるものを見てある場所に指を向ける。

 

「カモおじちゃんあれ!」

「なんだ?……おいおい、まじかよ」

 

カモも思わず唖然とする。カモが見たものそれは

 

「あ、あぁ……ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

アーチャーに斬り倒された武士がゆっくり起き上がり、何事もなかったかのようにまた城を徘徊し始めたのである。

 

「どうやらこの仏像に合掌した瞬間に力が発動するのだろう。今までの事が全てリセットされ、倒れた者は復活、城を徘徊し現れた敵を排除する。それを延々と繰り返すのだろうな」

 

アーチャーは呟き遠目で敵を探し求め徘徊する武士達を見る。バイザーで隠れているがプールスはアーチャーから哀れみを感じた。

 

「それで、目的の品まではあと少しなのかアーチャーさんよ?」

 

カモの問いかけにアーチャーは古い羊皮紙を取り出し、それを広げる。それは地図であり、恐らくはこの城の全体図であろう。

アーチャーはとある場所を指差す。

 

「この城から少し外れた場所にすすき畑があり、そこに1人の忍がいる。その忍が背に背負っている大太刀には力があり、まさに不死をも断つ力があると言われている」

「改めて聞くけどよ何でこんな地図があってそんな事を知ってるんだ?ここに入ってきた者は生きて出てこれなかったんだろ?」

 

カモの言ったことにプールスや風香史伽も頷く。これでは矛盾している。一方のアーチャーもそれはご尤もと頷きながら話を続ける。

 

「昔、ここを脱出出来た学者が居たらしい。その学者はここを調査するために来たらしく、なんとか武士達の攻撃を掻い潜り、身を潜めながらすすき畑に到着し忍びとであった。その時にこう尋ねられたそうだ」

 

――――御子様は何処だ――――

 

「その問いに学者は『御子なんて知らない』そう答えた瞬間に意識を失い、気づいたときには学者はとある街病院のベッドの上だった。学者を助けた者が言うには道端で倒れていたそうだ」

「それじゃあその忍者に御子なんて知らないって言えば!」

「上手くいけばここから出られる。そんでどこか見知らぬ所を当てもなく彷徨うってか?一応言っておくがここの外を出ても危険な魔法生物や山賊や人攫いなんてごまんと居ることを忘れるなよ」

「う……」

 

カモに指摘され言葉に詰まる風香に何も言わずに目を反らした史伽。史伽も出来ることならアーチャーの頼りにはしたくないもようだ。

 

「別に私はそれでも構わないよ。私は君達の意見を尊重しよう」

「いや今のは聞き流してくれ。大兄貴には悪いが俺は安全にこの子らを合流させなければいけないからな」

 

例えアーチャーに媚び売ってでもプールス達をマギの元へ連れて行こうと固い決意をカモは決意を変えなかった。

そして軽い食事を済ませると目的のすすき畑に向かうのであった。

そしてあるき続けて数刻、空も暗くなり満月が上り出したた頃。

 

「うわぁ……」

「キレイレス……」

「一面のすすき畑だ」

 

史伽、プールス、風香の順番で感嘆な声を上げる。

一面に広がるすすき畑を月明かりが照らし黄金に輝く幻想的な光景が広がっていた。先程まで殺伐とした場所と目の前の光景は高低差が激しい。

しかし一行の目的はすすき畑を見るためじゃない。すすき畑の奥に佇む1人の男に用がある。

すすき畑の奥に佇む男、それは城にいた武士のような整った装備ではなく、泥と煤、赤黒いのは恐らくは血だろう。薄汚れた格好に、片腕が精巧な義手となっており、背には大太刀を携えている。この男が件の忍である。

忍はこちらに気づき、虚ろな目を向け問いかける。

 

「御子様はどこだ」

 

感情のない機械的な問いかけ。何度も同じようにこのすすき畑に来た者へ問い続けているのだろう。

御子なんて知らない。だがアーチャーが答えたのは

 

「悪いが私は御子なんて者よりもその大太刀に用がある。私の目的のために、その大太刀頂きに参った」

 

そう答え、干将と莫耶を投影し構える。対して忍の反応は

 

「――――参る」

 

先程までの朧気な雰囲気から一変し、鋭い殺気をアーチャーに向けながら手に持っていた刀を構えるのであった。


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