「しっかしお前ら随分と妙な鍛え方をしてるな。誰に教えてもらったんだ?」
マギが地表を荒地にするという大事をしでかしたが、特に何かがオアシスに来るといった大騒ぎになることは無く、暫く経ってからラカンがそう尋ねてきた。
「僕とお兄ちゃんは、師匠……エヴァンジェリンさんに教えてもらいました」
「俺はあのさっきの魔法も雪姫に色々と教えてもらった」
「なにぃ!? あのエヴァンジェリンだって? はっはっは、道理でな。それとマギ、お前が言った雪姫ってなんだ?」
「俺がそう呼んでる。雪姫はこの世界でも狙われているからな。下手に本名を言ってばれちゃいけないから来る直前に俺がそう言う風に呼ぼうって決めたんだ」
成る程なと納得するラカンだが、あることを思い出す。
「あの美人な姉ちゃんがエヴァンジェリンだとして、あいつ確かナギがかけた呪いのせいで学校に縛られたままじゃなかったか?」
「あぁ、それは前の俺がその呪いを解いたらしいんだ。ずっと学校に縛られているのは可哀想だと思ったんだろうな」
「まじか。それって結構適当な呪いだったはずだろ。それを解くとは流石はナギのガキってわけか」
とそこで何かを察したのかにたにたといやらしい笑みを浮かべながら、マギの横腹を肘で小突き始めた。
「何だよ何だよエヴァンジェリンの奴、ナギの次はマギってか? しっかしナギと言いお前と言い気の強い女にモテるんだなぁ!」
「別にアンタが想像してるような関係じゃないよ雪姫とは。まぁ一緒には住んでるけど」
「何だよ同棲はしてるんじゃねえか。こりゃ秒読みって段階かぁ!?」
「むぅ……」
『ちう様気持ちを落ち着かせてください』
ラカンが面白がっているのを見て心中穏やかじゃない千雨を宥めるマギウス。
マギはラカンの態度に呆れのため息を吐き、ラカンは暫しマギを茶化すのを堪能してから何かを察して
「ていう事はあいつはマギが俺と修行をするって事を知ってるんだよな」
「そうだぞ。あの人はあたしら以上にマギさんを心配してるからな。言っとくけど、アンタがふざけた修行をしてマギさんが大変な目にあったら、あたしは一字一句溢さずにあの人に言うからな。まぁその時になったら止められなかったあたしにも何かしらの重い罰は課せられるだろうけどな」
ラカンは過去の茶化して酷い目に会ったことを思い出す。なんやかんや言って彼女は自分と同等かそれ以上。何せナギが罠を仕掛けて騙し討ちをするぐらいなのだから。正面からやりあえば無事じゃすまないのが目に浮かぶ。
「……分かった! マギに対してはおふざけは無しだ!」
「ええ!? ラカンさん!?」
「えこひいきですわ!」
「うっせ! ネギには手を抜くとは言ってないだろ! 俺だって命は惜しい!」
(それにマギは下手をするとマジで危なさそうだからな。お遊び無しのマジな修行が良いだろう)
あやかがブーイングをしているが、強制的に断ち切る。そして話を何故強くなりたいのかという理由聞きに強引に切り替えるのでった。
「それでネギ、改めて聞くがお前はどうして強くなりたい?」
「僕は、強くなって皆を護りたいです」
「弱いな」
ネギのありきたりな強くなりたい発言を一掃するラカン。
「そんなよわっちい目標じゃねえだろ。お前の中には倒したい、越えたい相手がいる違うか?」
「……はい、僕は倒したい倒さなければいけない相手がいます」
「やっぱりな。俺に教えてみろ。口に出すと意識も固まってくるぜ」
「フェイト、フェイト・アーウェルンクスという少年です」
その名を聞いた瞬間、ラカンの目の色が変わった。
「アーウェルンクス……そいつはまた、懐かしい名前だな」
ラカンは遠い目をしながら思案顔に変わる。ラカン、もとい紅き翼もフェイトに強い因縁があるようだ。それを直ぐにネギも感じとり
「ラカンさん! もしかしてフェイトと何か関わりがあるんですか!? もしそうなら教えてください!」
「駄目だ。知りたかったら100万な」
「ええ!?」
「そんなご無体な!!」
「なぁマギさん、あれ絶対にネギ先生の事を思ってとかじゃあないよな」
「あの人の性格からして話すのが面倒とか、そういう感じだろうな」
しかしフェイトの名を聞いてからラカンの目の色が変わったのも事実。ラカンは自前のキャスター付きの黒板を縦にして何かを書き出し始めた。
「あの、ラカンさん? 何を書いていますの?」
あやかがおずおずと聞いてみると
「今から俺目線の強さを可視化したものを表にするのさ、その名を聞いたからには是が非でもぼーずを強くしないとな。が、それに伴いぼーずは今から辛い現実を見ることになる。それでもいいか?」
「はい! 構いません!!」
まず最初に書いたのは0.5と書かれた、ラカンが描いたとは思えないようなデフォルトされた猫が描かれた。
「まずはこの猫が一番下だ。それに次はあやか嬢ちゃんは魔法は使えないんだろ? あやか嬢ちゃんが基準にすると、千雨嬢ちゃんは一応魔法は使えるんだろ?」
「一応はあの人に鍛えてもらいました。けどあたしはそこまで強くはない。あたしよりかはマギウスの方が強いはずだ」
『私のスペックは現在の兵器よりは上だと自負はしております』
「成程な、それじゃあ旧世界の現用兵器をこれ位にして、ぼーずはこれ位で、カゲタロウはこれ位それでマギはこれ位、タカミチはこれ位だが、あいつは本気をあんまり出さねえからなぁ」
こんなもんかと表が出来上がった。
一番下から
0.5 ネコ
1 あやか
2 魔法使い(平均的魔法世界住人)
3~50 旧世界達人(気未使用)
100 魔法学校卒業生
200 千雨 戦車
300 麻帆良学園魔法先生(平均)本国魔法騎士団団員(平均) 高位と呼ばれる魔法使い
400 マギウス
500 ネギ
650 竜種(非魔法)
700 カゲタロウ
~~~~~~~
1500 イージス艦
という風に続いている。千雨は頭の悪そうな表を見ながら自分は一応戦車と同じだということにめまいを覚え、やはりカゲタロウの方が自分よりも強いという事を改めて実感したネギは渋い顔をしている。
「まぁこれは俺の主観で図った強さだからこれ位だろうって所だ。大体の物理的力量差だと思え。それに戦いってのは相性の問題だ。そっちのマギウスってロボットもイージス艦位は楽に落とせるだろ?」
『はい。私のスペックならイージス艦程度なら落とせると創造主も自負しておりました』
(落とせるんだなぁ。使い方誤らないように気を付けよう……)
「戦いには相性もあるが、その他に肉体や精神の健康状態、相手の油断、その場の環境、その他諸々……つまりは運も戦いに作用される。んで、ぼーずが倒そうとしてる謎の少年の強さは、これぐらいだろうな」
ラカンはフェイトの強さを表に書き加える。ネギが気になっているフェイトの強さを見て、愕然とする。
1500 イージス艦
2000 タカミチ(本気かどうか怪しい)
2800 鬼神兵(大戦期)
3000 謎の少年(おそらくこれよりも強い)
8000 リョウメンスクナノカミ
イージス艦2隻分の強さを目の当たりにして、ネギとフェイトの圧倒的な力の差を痛感してしまうのであった。
「待ってください! ネギ先生は高畑先生に一度勝っています! 納得いきません!」
「それこそ環境やその時の状況だろうよ。言っておくがタカミチが本気の100%中の100%を出せば嬢ちゃん達が通っている学校はたちまち廃墟と化すだろうぜ。それにこの数字だって怪しいもんだ。あいつやベー時じゃないと基本本気出さねーからな。下手すると相手がぺしゃんこだぜ」
確かにとネギも思い出す。学園祭の武道大会でタカミチと戦った時もどこか手加減とタカミチが油断して勝てたラッキーの勝利だったと。本気のタカミチと戦っていたら確実に負けていた。
そんな手加減してくれたタカミチよりも、フェイトの方が上なんだと重い感情がのし掛かるのを感じた。
と千雨がラカンに尋ねる。
「そう言えばマギさんが書かれてないけど、マギさんって今どれくらい強いんだ? まぁネギ先生よりかは強いだろうけど」
「千雨さん! ネギ先生の前でそんな……!」
「事実だろ? ネギ先生だってマギさんと差はあることは分かってるだろ?」
「はい……」
ネギは力なく頷く。まぁ倒さなければいけないと思っている相手と力量差が開いていたら落ち込むよなとネギの心境は理解している積もりの千雨である。
「マギなぁ、さっきのを見てある程度分かった積もりだが、マギは力の振り幅が大きいからなぁ……」
そう言ってラカンはマギの戦闘力を表に書き込む。皆が気にしてるマギの強さは
8000 リョウメンスクナ
2000~9999 マギ
~~~~~~~~~
12000 ラカン(自称)
「9999!? っていうかおっさん何で自分だけ1万越えなんだよ!?」
「なんで俺だけ振り幅が大きいんだ?」
「お兄ちゃんあのリョウメンスクナよりも強いんだ。はは、流石だなぁ……」
「だっ大丈夫ですわネギ先生! ネギ先生は絶対に強くなれますわ!」
千雨はラカンにツッコミを入れ、マギは首を傾げネギは乾いた笑みを浮かべあやかはそんなネギを必死に励ますのであった。
「仕方ねえだろ。俺は自分の強さに絶対的な自信を持ってるからな。そんで何でマギの強さの振り幅が大きいか。マギ、今のお前は未完成なスポーツカーだ。スペックは高性能なのにエンジンが不安定なせいで本来の力量を出すことが出来ていねえ。それこそまさに、あの闇の魔法擬きを使いこなせていないで、自分が扱える限界の下の力を使っていればそりゃ強くはなれねえだろうな」
「そうか……」
ラカンに痛い所を突かれたがそれはマギ自身も承知をしていた。やはり自分は内なる力を乗りこなすしかないことを。
「それとネギ、お前とその謎の少年との力量差が分かった所でハッキリ言うと、正攻法で強くなるとしたら無理な話だな」
「っ……」
無理と言われ下を俯くネギにあやか何を言えばいいのか迷っていたが、ラカンは呆れた溜め息を吐きながら
「おいおい、早合点するなよ。まともなじゃ無理だが、まともじゃない道ならないでもない」
「ほ、本当ですか!?」
俯いていた顔を上げるネギ。
「ネギ、お前エヴァンジェリンに修行をしてもらってどの位経った?」
「えっと、3ヶ月位ですけど、師匠の別荘を使ったら7、8ヶ月は経っていると思います」
それだけ聞くとラカンはニヤリと笑いながら
「ネギ、そしてマギ、お前らは親父のナギには似てねえ。どっちかと言うとお前らはエヴァンジェリン側の正反対の性質を持った奴だ。だからこそ、ネギはあいつが編み出した禁術、そいつを使いこなせるだろうな」
「師匠が編み出した禁術……まさか!?」
あぁそのまさかだと肯定するラカンは
「闇の魔法、お前が手っ取り早く強くなるのはそいつを身につける他ねえ」
そしてと今度はマギの方を向き
「マギ、お前はあの闇の魔法擬きは今後一切使わず、もう一度闇の魔法を己のものにしろ」
そう言うのであった。
マギとネギが
魔法学術都市アリアドネー。学ぼうとする意思と意欲を持つものなら例え死神でも受け入れるを謳う、どんな権力にも屈しない世界最大の独立学園都市国家。
そんな学園都市には皆成長するために生徒達が切磋琢磨していた。
「コレットも来るでしょー? 何時もの場所で待ってるね!」
「うん!」
友人の女学生にコレットと呼ばれた獣耳の少女は友人が待つ場所に向かおうと準備した所で、ある少女を見つけた。
「あ、おーいユエー!!」
呼ばれた少女はコレットと同じ制服を着た綾瀬夕映であった。
「あ、どうもですコレット」
夕映はコレットに会釈する。コレットは笑みを浮かべながら夕映に近より
「これから皆と一緒に下の待ちでお夕食しない?」
夕食のお誘いをしたが夕映は申し訳なさそうに首を横に振り
「ごめんなさいです。私は図書館に行ってまた調べものをしようと思ってるです」
「えー。折角の外出日なのに、残念だなー」
「誘ってくださってありがとうです。けど私はまだまだ知りたい事が沢山あるです」
夕映が誘いを断るとコレットは残念がりながらも夕映の事を尊重するのであった。
「ユエはもう此処にはなれた?」
「はいです。コレットのおかげで少しずつですが慣れてきたです。ですが」
そう言って夕映はポケットから白き翼のバッジを取り出し空へと掲げながら
「私はもっと強くならないといけないです。あの人のため、そして皆のために」
決意を改めて口に出すのであった。
何故夕映がここアリアドネーで生徒として活動しているのか、それは今から19日前、強制転移まで遡る。
夕映は奇跡的にジャングルや無法地帯と言った危険な場所ではなくここアリアドネーに転移された。
最初は強制転移に戸惑っていた夕映ではあるが、箒に乗って呪文詠唱の暗記で前を見ていなかったコレットがぶつかってきた。
その時にコレットが持っていた杖に充填していた戦いの歌が半ば暴発で夕映にかかってしまい、夕映の魔力が勝手に全解放されてしまい、気を失ってしまいそのまま2日目を覚まさなかった。
夕映が眠っている間は魔法を誤発動させてしまったコレットが自身の部屋にて責任をもって介抱をしてくれた。
そして目を覚ました夕映に謝罪をしながら自己紹介をするコレットに面食らいながらも自身も自己紹介をする夕映。
互いに自己紹介を終えてからは、コレットが夕映を見て貰うために先生の元へ向かった。
「それじゃあ診てみるわね。ちょっとくすぐったいけど我慢してね」
「はいです」
夕映の体に魔方陣が展開され、ナース服を小さい妖精2人が夕映の体をぐるぐる回りながら検査をしていき、検査結果を教員に見せる。
「体に異常は無いようね。魔力にも問題なし。ただ……魔力が勝手に放出してしまうのはどうしてかしらねコレット?」
「うっ……すみません。私がぶつかった拍子に杖の魔法が暴発して」
「まったく、それで綾瀬夕映さん、だったかしら? 貴女は何処から来て何をしに来たのかしら?」
溜息を吐いた先生は夕映に何故ここに来たのかを尋ね始める。
「はい、私は日本の麻帆良学園からやって来ました」
「日本、旧世界の国だったわね。それで貴女1人で来たのかしら」
「いえ、私以外に友人や先生と一緒に来たです」
「その先生というのは誰なのかしら? 教えてもらっても構わないかしら?」
コレットはおや? と首を傾げる。先生の質問の仕方がまるで尋問に聞こえるからだ。
「マギさん、いえ、マギ・スプリングフィールド先生とネギ・スプリングフィールド先生です。あの、ナギ・スプリングフィールドの息子です」
「ええ!? スプリングフィールド!?」
コレットは大声を出して驚く。先生はそんなコレットを注意するが、先生も驚いている様子だ。
「まさかあのナギ・スプリングフィールドに息子が居たなんてね。それで、何故ナギ・スプリングフィールドの息子がこの魔法世界に来たのかそしてユエさんは何故ここアリアドネ―に転移されたのかそれも教えてもらってもいいかしら?」
「はい。それは……」
ナギの行方を捜すために魔法世界に来たら、フェイト・アーウェルンクス達に襲われゲートポートは崩壊してしまい、ゲートポートが暴走し強制転移で皆バラバラに飛んで行ってしまい、自分はここに飛ばされたことを全て話した。
聞き終えた先生は黙っている。
「成程、嘘は言っていないようね」
「え? 先生、嘘って何ですか?」
「実はね、メガロメセンブリアからこんなのを送られたのよ」
そう言って先生は魔法で空間に映像を展開させた。それはマギ達の写真が載った懸賞金の奴だ。
「ええ!? ユエも載ってる!? ユエってそんな悪い事をするような子なの!?」
「いっいえ! 私自身目の前のものを見てびっくりしてるです!」
「落ち着きなさい2人共。別に私はこのままユエさんをお縄に着けなんて酷い事はしないわ。実はさっきの検査の時に噓を見抜く魔法もかけさせてもらったわ。ユエさんが嘘を言えば直ぐに反応するんだけど、何も反応がないという事は、ユエさんは嘘を何1つついていない証拠よ」
「よ、よかったぁ」
ほっと胸を撫で下ろすコレットと夕映。夕映自身知らぬうちに自分に懸賞金が賭けられたことにまだ驚いている。
「けど、どうして私にいえ、マギさん達にも懸賞金がかけられているんです?」
「それは分からないわ。けど、貴女達は何かしらに嵌められた可能性が高いわ。そこで何だけど、ここに居るつもりはないかしら?」
「ここ、アリアドネーですか?」
「ええ、ここアリアドネーは学ぶ意欲と意志を持つ者なら例え死神でさえ受け入れる。どんな権力にも屈しない世界最大の独立学術都市学園よ。ご友人やそのスプリングフィールド先生たちとの連絡が取れるか、こちらで情報が掴めるまで安心してここにいなさい」
「それは、ありがとうございますです」
先生の温かい言葉に張っていた心が少しだけ和らぎ、少しだけ涙目になる夕映であった。
「よかったねユエ!」
「コレット、ありがとうです」
まるで自分事のように喜ぶコレットに感謝の言葉を送る夕映。なんやかんや言って、今のコレットの存在は夕映にとって心の支えになっているのだ。
「あの先生、学びたい者は誰でも受け入れると言ったですよね」
「ええ、言ったわね」
「その、不躾であるのは重々承知してるです。ですが、私もコレット、いえコレットさんと同じ魔法騎士団候補生の授業を受けられないでしょうか? 最悪見学でも構わないです」
「ええ、ユエ、それは……」
「ふむ、一応理由を聞いてもいいかしら?」
渋るコレット。魔法騎士団とは言わばエリート中のエリートであり、その中での精鋭『戦乙女旅団』はアリアドネー騎士団の華なのである。その反面授業、訓練共に厳しいものである。あまりの厳しさに涙を流し自ら辞退する者もいるという。そんな魔法騎士団の授業を何故夕映は受けたいのか。
「恥ずかしながら私は麻帆良でとある方に魔法のイロハを叩きこまれたです。魔法の事や戦闘の修行の御かげで幾段か強くなった自負はあったです。ですが、魔法世界に来て直ぐに敵に襲われた時は私は何も出来なかったです。せいぜい落ちてくる瓦礫を排除するのが限界でした。私はあの人がこれ以上傷つかないために強くなったはずなのに、あの人よりも強い存在はまだ居ることを痛感したです。私は出来る事なら此処でもう一度ゼロから学び、あの人のためにもっともっと強くなりたいんです」
夕映の決意を黙って聞いていた先生は
「いいわOKよ。向学心旺盛な子はいつでも大歓迎! 掛け合っておいてあげるわ」
サムズアップをするのであった。
夜、改めてコレットの部屋でお世話になることになった夕映。コレットは夕映に箒と杖を渡してくれた。
「はい、杖と箒ね。ユエどっちも持ってなかったから」
「ありがとうですコレット」
夕映は強制転移の時に杖が無くなってしまっていた。新しい杖を貰えるのは正直ありがたい。
「でも本当に大丈夫なのユエ? 魔法騎士団の授業本当に厳しいよ。それに私のせいだけど魔力のコントロールもあるし」
検査後に去り際に先生に言われたことを気にしているコレット。
『ユエさん、貴女は今コレットが暴発させた戦いの歌が貴女を強化しているけど、その反面魔力が駄々洩れになっているわ。命にかかわるほど深刻ではないけど、気を抜いていれば直ぐにガス欠になるから気を付けてね』
今の夕映は常に強化状態ではあるが、デメリットとして常に魔力が放出されてしまい、気を抜いてしまえば直ぐに行動不能になってしまう。現に夕映はコレットと話しながら魔力を抑えるといった器用な事を行っている。
「魔法騎士団も魔力のコントロールも今の私には必要な物だと思ったのが1つです。それに私は興味のあるものには意欲的なのが私です。そういうコレットはどうして魔法騎士団に?」
「だって魔法騎士団ってカッコイイじゃん! それに精鋭の『戦乙女旅団』は華だしちょーモテるんだから! 絶対になってやるんだって思ってるんだよね!」
それを聞いて微笑む夕映。コレットは単純だと思われたのかと思ったが
「いえ、私のクラスメイトもそんな感じの人が多いので懐かしいなと思っただけです」
「そうなんだ! 私ユエのクラスメイトと仲良く出来そうだね!」
と和気藹々と話していた2人だが、何かを思い出したコレットは話題を変えた。
「そう言えばユエ先生と話していた時に”あの人”ってよく言ってたけど、あの人って若しかしてユエの好きな人なの!?」
「うぇ!? えっと、その……はい、です」
急に恋バナを吹っかけてきたコレットに戸惑う夕映だが、正直に頷く。それを見て勝手にはしゃぎ出すコレット。
「どんな人!? 若しかしなくてもさっき言ってたナギ・スプリングフィールドの息子さん!? どっちなの!?」
「えっと、マギさんです。その恥ずかしながら親友が最初マギさんを好きだったのですが、段々と私も惹かれていって、何時の間にか好きになっていたです」
「わーお青春だね! 親友と同じ人を好きになるなんて!」
「あ、因みにマギさんを好きな人は私を含めて9人位いるです」
「そんなに!? そのマギさんって人モテモテなんだね!」
マギの話で盛り上がる夕映とコレット。その後はコレットが夕映からマギの事を色々と聞き出す質問攻めになったのであった。
「────それでマギさんは私達に向かって手を伸ばしてたです。あの時のマギさんの悲痛な顔は瞼に焼き付いているです」
「そっか、マギさん今頃自分を責めてるだろうね。でもマギさんのせいじゃないよね」
「そうです。マギさんは頑張っていたです。けど、マギさんは真面目な方ですから多分今も自分を責めてるかもしれないです。だから、私はここでもっと強くなって少しでもマギさんを安心させてあげたいのです」
そう言って握拳を作る夕映だが次の瞬間には魔力が一気に放出してしまった。
「わー! ユエ抑えて抑えて!」
「ご、ごめんなさいです!」
慌てて魔力を抑える夕映。かなりの魔力放出量に2人ともびっくりしてしまった。
「だったら私ユエの事を応援するよ! このまま魔法騎士団になれるように! それとユエの恋路もね!」
「ありがとうですコレット」
その後消灯時間まで箒の浮遊の練習をする夕映とコレット。
そして……
「コレット・ファランドールの遠い親戚、ユエ・ファランドールさんです。皆仲良く」
「よろしくです」
コレットの遠い親戚としてコレットのクラスメイトの仲間入りを果たした夕映。何故偽名を使ったのか、それは昨日検査をしてくたかつコレットのクラスの担任の先生が
『本名で最悪身バレをしてしまうのはリスキーだから、だったらコレットの遠縁という事にしてしまえば怪しまれる確率はぐっと下がる』とのこと。
会釈した夕映をクラスの皆は各々興味や怪訝、敵意と色々な感情で夕映を見ていた。
席はコレットの隣となり、夕映はどっさりと魔法に関わる本を机に乗せた。
「すごいやる気だね」
「改めて基礎から学ぶのは大事なので、座学も全部吸収してやるです」
そして夕映のアリアドネーでの学生生活が始まり冒頭に至り、そのまま時が流れて行った。授業は座学には旧世界についての事や魔法薬の実験、数式や文語等色々な授業を吸収していった。
そしてその中で飛行訓練の授業が始まった。
「ユエ大丈夫? 行けそう?」
「が、頑張るです」
緊張の面持ちで箒に跨る夕映。何度か深呼吸をしてから助走をつけてから跳ぶ夕映。だが
「うべ!」
顔面から突っ込んでしまった。そう、夕映は魔法や戦闘の修行は付けてもらっていたが、飛行などの訓練は特にしていなかったのだ。結構重大な基礎であるはずなのに、大事な所で抜けているのはさすがはエヴァンジェリンといった所だろうか。
「ユエ大丈夫!?」
「だ、大丈夫です。やっぱり上手くはいかないですね」
「まったくどういう事ですか」
顔に着いた土を払いながら問題ないとコレットに言う夕映だが、そんな2人に獣耳の褐色の少女が腕を組みながら近づく。
「ユエと言ったかしら新入りさん。ホウキも碌に乗れない人がこのクラスに居るなんて論外です。出来ないのなら見学に徹した方が良いのではなくて?」
「もー! いいんちょはまた直ぐに怒るんだから! 夕映はまだこっちに来て間もないんだから優しくしてよ!」
「いいんですコレット。いいんちょの言う通りです。箒に乗れない私が悪いんですから」
注意したいいんちょことエミリィ・セブンシープの後ろでは夕映を下に見て笑う者や睨んでいる者も居る。魔法騎士団になりたいのに箒に乗れない夕映なんて論外だとそう思っているのだろう。
エミリィの言っていることは至極当然なので何も言い返さない夕映。しかし目の前のエミリィ、真面目な所と気が強くそしてツインテールの髪型、あやかとアスナを思い出す夕映であった。
「貴女のように出来ない方がいると私達の士気に影響が出てしまいますわ。悪い事は言いませんから早めに去った方が身のためです」
「んな! そこまで言う事はないじゃんか!」
「いいえコレット、これは事実です。ですが、いいんちょ私は絶対にここを去るつもりはありません。絶対に私は強くならないといけないんです」
「そうですか。そこまで言うのなら私はこれ以上は何も言いませんわ。せいぜい赤っ恥をかかないといいですわね」
それだけ言うとエミリィは次の戦闘訓練の場所に向かっていく。エミリィの取り巻きとクラスメイトの何人かは夕映を敵視しながらエミリィの後を着いて行った。
「何あれ感じ悪い! ユエももっと言い返せばよかったじゃん!」
「事実ですから。それに私はこの悔しさもばねにして成長してみせるです」
「ふぇぇ、逞しいんだねユエは。それじゃあ私達も戦闘訓練の場所に行こうか」
「そうですね。行くです」
夕映とコレットも戦闘訓練の場所に向かった。戦闘訓練の場所には巨大な人形が立っており、その人形に魔法を当てるといった内容だ。
「それでは最初にエミリィ、やってみなさい」
「分かりましたわ」
そう言ってエミリィは杖を構え
「氷槍弾雨!!」
無詠唱で氷の槍を人形に向かって放ってのであった。
「さすがいいんちょ! 無詠唱で魔法を使えるなんて!」
「まぁ、これ位当然ですわ」
クラスメイト達はエミリィを褒め称え、エミリィ自身も満更ではなさそうに胸を張っていた。
「うぅ流石だなぁいいんちょは。やっぱ成績上位者は伊達ではないかぁ」
「無詠唱とは流石ですね」
コレットは悔しそうにしているが、夕映は感心していた。すると
「先生! 私ユエさんの魔法を見て見たいでーす」
お団子ヘアーの生徒が茶化すような言い方をして提案した。魂胆としては箒が乗れない事と魔法が使えないことで馬鹿にしたいのだろう。
「あいつら子供みたいな事を! ユエ相手にしなくても」
「いいえ、私からお願いしたかった所です」
「ユエ!?」
まさかの乗り気な夕映に驚くコレット。まさかの乗り気な夕映に戸惑うクラスメイト達。
「ユエさん無理をしなくてもいいんですわよ。貴女が魔法を使えなくても私はもう何も言いませんから」
「いいえいいんちょご心配なく。私は大丈夫ですから」
そう言って夕映は人形と対峙する。
「先生止めましょうよ! このままじゃユエが笑い者になっちゃうよ!」
「いいえコレット、ユエは心配しなくても大丈夫よ。それと、貴女もユエの事をもっと目に焼き付けておきなさい」
コレットは心配していたが、先生は心配はしていなかった。むしろ生徒達にはいい薬になるだろうと思っているぐらいなのだから
「先生、この人形をもしも壊してしまったら申し訳ないです」
「構わないわ。むしろ壊す勢いでやっちゃいなさい」
サムズアップで許可する先生にクラスメイト達はどよめく。まさかあの転校生は人形を壊すつもりなのだろうかと
ざわつくクラスメイト達はほっといて、夕映は大きく深呼吸する。そして魔力を解放し詠唱を始める。
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来たれ雷精風の精!!」
(マギさん、恐らく貴方は自分のせいだと責めているかもしれないです。ですが、私はいまここで元気に頑張っているです)
「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」
(無茶だとは分かっているです。ですが、今は届いてほしいと思っているです見ていてくださいです)
夕映の杖に魔力が集中する。クラスメイト達はまさか、いやこけおどしだと騒いでいるが、夕映には聞こえない。
「雷の暴風!!」
(これが今の私の力です!!)
今までで一番強力な雷の暴風が杖から放たれ、人形に直撃しそのまま人形の上半身は砕け散り、地面を抉ったのであった。
夕映がまさか雷の暴風を放った事にクラスメイト達は呆然としていたが
「す、すごい! 凄いよユエ! ユエってこんなに凄い魔法を使えたんだね!」
コレットが夕映に駆け寄り夕映の手を握ってぶんぶんと振り回す。
「ま、まだまだです。それに、1回放っただけでもうガス欠です。まだまだ修行不足です」
現に限界が来た夕映は膝から崩れ落ちて座り込んでしまった。そんな夕映をクラスメイト達は畏怖や驚きの目で見ていた。中にはエミリィや先生にばれない様に陰で夕映を虐めてやろうと思った生徒も居たが、そんな考えはまさに雷の暴風と一緒に吹き飛んでしまった。
「ユエさん! いくら貴女がそれ程までに強力な魔法を使えたとしても私はまだ貴女を認めようとはしませんから!!」
それだけ言うとエミリィは足早にその場を去ろうとするが、待ってほしいですとエミリィを呼び止める夕映。
「確かにまだ私は箒で飛べない未熟者です。ですが絶対に貴女をぎゃふんと言わせられるように成長してみせるです。ですから、楽しみに待っていてほしいです」
「……そうですか、期待せずに待っていますわ」
それだけ言い捨てると今度こそエミリィ達はその場を去って行った。夕映はエミリィの背を見続けていたがコレットが後ろから夕映を抱きしめて
「すごいじゃんユエ! いいんちょにあそこまで言い切るなんて! 私スカッとしちゃった」
「今のは自分に対しての宣言です。いいんちょを超えるぐらいじゃないと私はあの人には追い付けないと思っているですから」
そんなコレットと夕映のやり取りを見て
(ユエ、この子は絶対に大きく化けるはずだわ。それが見れるのは楽しみね)
そう先生は思うのであった。
その後夕映は放課後になったら図書室で勉学に励み、完全下校時刻ギリギリまで飛ぶ練習を毎日続ける。そんな夕映に感化されてコレットも一緒に勉強に飛ぶ練習に付き添ってくれた。そんな修行を続けてきた結果遂に
「やった! やったよユエ!」
「出来た……出来たです!!」
数mではあるが、箒で飛ぶことが出来るようになった。飛べるようになったことに夕映は歓喜に振るえ、コレットも自分の事のように喜んでくれたのであった。
(マギさん、私は絶対に貴方に追いつけるように頑張るです。だから、待っていてくださいです)
何処かに居るであろうマギを想って、決意を改める夕映であった。