堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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求めよ必殺技! そして伝説の男……

 ネギは焦っていた。別に闘技大会で良い戦績を取れていないというわけではない。むしろ全勝無敗で勝ち進んでいる。それなのに何故気持ちが沈んでいるのか

 現に目の前の対戦相手も上の空で殴り飛ばしていた。彼らも決して弱くなはい、しかしネギの方が強いのだ。これでは自身が強くなっている実感をまったく感じられないのだ。

 このままずっと闘技場で戦っても、またフェイト・アーウェルンクスと遭遇し、彼と善戦出来るビジョンがまるっきり浮かんでこない。

 更に

 

AAAAAAAAAAAA!! GRUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!! 

 

 マギが四つん這いになり、ゲートポートで使っていた魔法で対戦相手を蹂躙している姿を見てしまい、今の自分とマギではかなり力の差が開いていることを実感していた。

 この前マギに言われたことを思い出し、胸が締め付けられるのを感じていると

 

「おいネギ、なーにそんな黄昏てるんや?」

「コタロー君……」

 

 小太郎がネギの頭を軽く小突いた。2人の周りには闘技場でファン達に手を振っているネギ(マギ)に黄色い声援を送るミーハーな集団が居た。

 

「ねぇコタロー君、僕思ったんだ。ここで戦っていればレベルアップ出来ると思ったんだけど、そんな実感があまりなくて、このまま行っても駄目な気がするんだ。何かが足りない。お兄ちゃんのような圧倒的な……何かが足りないんだ」

 

 ネギは焦っていた。僕にはお兄ちゃんのような圧倒的な”力”が足りない。と力を羨望していた。

 

「そうやな。お前が強くなるために足りないもん、それは」

「それは?」

「必殺技……やな」

「ひっ必殺技!?」

 

 小太郎のあっさりと言ったことに対してネギは愕然としてしまう。

 

「違うよ僕が言いたいのは────」

「何言うてんねん。とても重要な決め手やろうが。お前の何とか崩拳シリーズも悪くはないが、やっぱ必殺技っちゅうのはインパクトが大事なんや。それこそ仮面ラ〇ダーのような〇イダーキックやか〇はめ波のようにインパクトある技が。なんかないんか? 目からビーム出してネギビームとか全身から力を解放するネギカイザーとか」

「ないよそんなの!」

 

 ちぇーと残念そうにしている小太郎。しかし小太郎の言う事ももっともだ。今の自分には何か決定的な必殺技が無い。それこそ相手が戦闘不能になるような圧倒的な必殺技が無い事も強く実感していた。

 ネギは焦っていた。このままの自分はマギや師匠のエヴァンジェリン、クウネル、フェイト・アーウェルンクス、そして父のナギ。彼らのような本物には届かない……と

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日さんさんと太陽が照りつける中マギは街を千雨とマギウスと歩いていた。

 ネギが焦っている一方、マギはもやもやとしていた。

 対戦相手を悉く圧倒的な力で勝利をもぎ取ってきたマギ。

 しかしどの勝利も納得のいくものではなかった。

 理由は……弱い。いや、相手が実力がないというわけではない。ただ、単純にマギの方がレベルが上というわけである。

 といっても戦う数を重ねると相手もだんだんと強くなっている。

 雪姫の許可をもらい、SWITCH ON BERSERKERのLEVEL20で相手をしてみた。

 結果は瞬殺。相手も強者の雰囲気を出していたが、マギの狂戦士のような戦いかたに恐れをなしてしまっていた。

 だがマギが求めているものには届いていないそれがもやもやとしていたのだ。

 

「はぁ……」

 

 マギは深い溜め息を吐いていた。

 

「どうしたんだよマギさん。ずっと連戦連勝なのに浮かない顔して」

 

 幼女スタイルの千雨が心配そうにマギを見上げる。

 

「いや、相手に勝っても自分が強くなっている実感を感じなくてな。やっぱりあの力を使いこなさないと俺は前に進めなさそうだ」

 

 千雨はマギの服の裾を引っ張る。

 

「それは駄目だ。マギさんゲートポートで無理したのもう忘れたのか? あんた無理して一時ヤバそうになったし、ジャングルで魔法生物の内蔵を食って凌ごうとしたんだぞ。あたしは心配だ。もしマギさんが暴走した悪魔のような姿になるんじゃないかと思うとあたしは……」

「ありがとう千雨、心配してくれて。けど、爆発で散り散りに飛ばされた君達の恐怖の顔が脳裏に焼き付き、夢の中でもその光景が何度もループしている。俺はもう君達にあんな怖い目にあわせたくない」

 

 千雨は何も言い返せなかった。ここであたしらは大丈夫といってマギは安心するだろうか。いや無理だと千雨は心のなかで首を横に振る。

 夏休みの期間中に千雨は自分には合わないと思っていた修行を行い、過去の自分よりも体力が大きく向上し、自身を護る術を手に入れたと思っている。

 しかしそれでも千雨はマギウスがないと自分は何もできないと悟った。

 雪姫に伸されてやっと身につけた柔術も自分よりも格下にしか通じないと、バルガスやトサカには返り討ちにあってしまうとそう思った。

 そんな自分がマギを護るなど到底出来ないと改めて痛感した。

 

 

 

 

 

 

「駄目だぜお嬢ちゃん、女の涙で男が強さを求めるのを邪魔しちゃ」

 

 と屋台の椅子に座っていた褐色のがたいのいい男がマギ達に話しかけてきた。

 ただの飲んだくれが茶化してきたのかと思い千雨が言い返そうとしたが、マギが手で制す。

 

「人の話に勝手に入ってきたが、何かようか?」

「いやなに、アンタの戦いを見ていたが、中々筋がいい。が、まだまだ粗削りなようだな。どうだ? 俺が一から鍛えてやってもいいぜ? ただしレッスン一回に10万ドラクマだ。こいつはお得だぜ」

 

 酔った勢いの悪徳商法だと判断した千雨。マギも馬鹿馬鹿しいと判断し男の事を無視し行こうとしたが

 

「あの魔法はエヴァンジェリンの闇の魔法の簡易版ってところか? だが暴走を恐れてかなり力をセーブしてるな。あれじゃあ強くなろうとしても先に進むことは出来ないぜ」

 

 マギは足を止める。闇の魔法の事は発案した本人とマギ、ごく一部の人しか知らない禁術の禁術。それを知っているのだ。口から出まかせで言っているには的確すぎる。

 

「アンタ、何者だ?」

「名乗るほどの男じゃねえさ。まぁ、強いて言えば『最強の男』ってところかな」

 

 最強の男と名乗った男は立ち上がり、マギに歩み寄った。歳を変えているマギよりもかなりの巨体だ。

 

「……何をする気だ?」

「まぁ軽い挨拶だ。そんじゃ……しっかり受け止めろよ」

 

 男は呼び動作もなくいきなりマギに殴りかかった。咄嗟にマギは男の拳を防ぐ

 瞬間風圧が吹き起り、千雨のスカートが捲れそうになった。周りの人達も急な拳圧による風に悲鳴を上げている。

 

「急な攻撃、何の積りだ?」

「ふっ、俺の1億分の1本気パンチを防ぐとはな。普通の奴なら病院送りになっているんだけどな……合格だ! これを受け止められるなら俺の教えを受けるに値するぜ」

 

 不敵に笑う男にマギウスの銃口が向けられ、千雨もキーボードに手が当たるように準備していた。

 

「おっさん、妙な動きはするんじゃねえぞ。あたしのマギウスの銃口から火が噴くぜ」

『ちう様。ちう様のご命令があれは直ぐにでも撃てます』

「千雨、マギウス、待て」

 

 マギは千雨に何もするなと命じる。

 

「でもマギさん!」

「この人に敵意が無いのは本当だ。それに確かに手加減はされたみたいだ。けど、けっこう痺れてるけどな」

 

 マギは手を軽く振っている。未だにマギの手はじんじんと痺れている。

 

「あんた、何で俺にこんな事を急にしたんだ? それに俺の教えって」

「まぁその話は後にしようぜ。それに、あっちでもおっぱじめてるみてぇだぜ」

 

 その時轟音と共に塔や建物が崩れ落ちて、崩れ落ちた所にネギと黒装束に身を包んだ男が戦っている姿が見えた。

 

「ネギ先生!」

「ネギの奴、襲われているみたいだが、相手、かなりの手練れみたいだな」

 

 マギから見てネギが押されているのが分かる。現に黒装束の男が無数にネギに向かって伸ばしている影のようなものが刃状になっており、ネギを襲いながら次々に建物が崩壊していく。黒装束の男はネギを殺そうとしている。まさに命を賭けた真剣勝負だ。

 

「あらら、やっぱAAクラスはまだひよっこには無理があったみたいだな」

 

 男はぼそりと呟いた。男の呟きをマギは拾う事は無かった。

 

「おっおいネギ先生やばいだろあれ! 早くコタロー呼んで助けないと! マギさん!」

 

 マギは助け舟を出すか迷った。

 だって、遠目から見たネギの表情が……楽しそうに笑っていたのだから。

 その瞬間ネギは叫びながら魔力を解放、黒装束の男もネギが魔力を解放したことに驚いていながらも、自身も本気を出し、刃の影が一斉にネギに迫った。

 ネギは刃の影を殴るか蹴り飛ばすか、マントが刃の影に貫かれながらも紙一重で避けていき、収束されて放たれた百の影の槍も雪姫が使っている断罪の剣、歪でありながらも影の槍を蹴散らし、間合いに入った。そのままネギは黒装束の男を殴り飛ばそうとする。

 しかし、相手の方が一枚上手だった。

 黒装束の男は自身のマントを翻し、ネギの攻撃を逸らさせるとそのままネギの右腕を切断してしまった。更に伸びた影の刃がネギの腹を貫く。軌道を変えた事で心臓には達しなかったが、それでも致命傷だ。

 

「ネギ先生!!」

 

 千雨は悲鳴を上げる。これで勝負あり、黒装束の男の勝利かと思いきや、ネギはまだ諦めておらず今度は左腕を振るい、黒装束の男も影の刃で応戦しようとした。

 流石に助け舟を出そうと決めたマギ。マギは不死身で切られても何ともないが、ネギは不死身ではない。このまま出血多量で死んでしまう。

 とマギが動く前に男が飛び出し、ネギと黒装束の男の攻撃を止めてしまった。

 

「くっく、いい見世物だったが、この勝負俺に預からせろや」

「きっ貴様は! 紅き翼の!? 千の刃のラカン!! 馬鹿な! 紅き翼のメンバーの行方は詠春とタカミチ以外の行方知らずのはず!」

 

 黒装束の男は男の事を知っているようで動揺している様子だった。

 紅き翼。それはネギとマギの父であるナギが名乗っていた組織の名前である。

 

「ネギ!」

 

 マギも遅れながらもネギに駆け寄り、これ以上血が流れない様に傷口を強く抑える。

 

「お兄ちゃん、あの人、前に写真で見た人……」

「今は喋るな。傷口を縛るから抑えとけ、千雨!」

「了解だ!」

 

 マギウスで横抱きをされながらネギに駆け寄った千雨が綺麗な布でネギの傷口の断面を見ないようしながら傷口を強く縛った。

 

「あるラブら~? なんだそりゃ、知らねえ名前だな。俺がそのアラ何たらの面子だっていうならどうだっていうんだ?」

 

 ラカンと呼ばれた男は舌を出しながら余裕そうな態度を崩さない。

 

「ふ、貴様があの千の刃のラカンであるならば願ってもない事だ。私はボスポラスのカゲタロウ、尋常に勝負!!」

 

 黒装束の男、カゲタロウは影の刃をラカンに向けて放つが、ラカンは涼しい顔で影の刃を指で止めてしまった。

 

「っ! ぬううん!!」

 

 カゲタロウはネギと戦った時よりも大量な影の槍を放つ。が

 

「はっ甘ぇ!」

 

 ラカンはアーティファクトのカードを取り出した。その瞬間、カードからカゲタロウのような影の刃に似た光の刃が応戦し、カゲタロウの攻撃を寄せ付けないでいた。

 

「くっ理不尽な……! それが如何なる武具にも変幻自在・無敵無類の宝具と名高き」

「おうよ、今日は見料無料の特別サービス。これがアーティファクト『千の顔を持つ英雄』だ!!」

 

 ラカンの周りには様々は剣が現れた。

 

「ならば!!」

 

 カゲタロウは影を集約し一本の槍を作ったが、ラカンが剣達を射手し、剣の檻でカゲタロウを動けなくし

 

「いくぜダメ押し。必殺、斬艦剣!!」

 

 正に戦艦を両断出来そうな巨大な剣をそのままカゲタロウに向かって落とし、建物はそのまま崩壊してしまった。

 あまりの理不尽な力にネギは呆然し、千雨は開いた口が塞がらなかった。

 

(この人、強い。それにまだ力をセーブしている。駄目だ、今の俺に勝てるイメージがわかない)

 

 マギだけ、ラカンがまだ本気でないことを見抜き、その中で彼が本気になった時に勝てるイメージが全く浮かんでこなかったのであった。

 

「くっまだだ! まだこの程度では!」

 

 砂塵が晴れると五体満足のカゲタロウがまだやろうと息巻いていたが

 

「止めときな。俺が本気を出せばお前ぐらいなら芥子に消えてる。それに、俺は素手の方が強ぇ」

 

 千の顔を持つ英雄を解除し、カードに戻したラカンはもう戦う気はないようだ。

 

「先の戦ので雪辱を晴らせれば、この命など軽いものだ。いくらでも賭けてやろう!」

「なんだ、てめぇも俺らにボコられた口か。まぁあいにくだが、俺はてめぇらなんか少しも興味ない。それに」

 

 とラカンはネギの頭に手を置きながら

 

「そんなに俺と戦いたいなら、この俺の弟子に勝ってからにしてもらおうか。場所は闘技場、正式な試合でな」

 

 と勝手にネギを弟子にしてしまった。

 

「弟子、だと……?」

 

 これにはカゲタロウも納得しておらず、何よりネギ本人も血が足りのもあるが状況が上手く読めていない

 

「あぁまだ修行段階でな、こいつはこんななりをしてるがまだ10歳でな。見所あるだろ? まぁ少しの間待っててくれや」

 

 カゲタロウもネギが10歳と聞いて驚いているが、内心、そんな幼い少年が一時だけだが、自分を押していたことに、ラカンに鍛えて貰えればもっと強くなるのではないかと思い、楽しさも湧き上がっていた。

 

「ラカンさん……」

「いい線いってたぜ。けどま、まだまだだな。さっさと怪我直して俺の所へ来な。お望みの力が手に入るぜ」

 

 ネギに限界が来たのか、そのままラカンの話を聞き終えて気を失ってしまった。

 

「ネギ先生! ネギ先生しっかりしろ!!」

 

 千雨が意識を失ったネギを強く揺する。

 

「おい、その弟子とやら大丈夫なのか?」

「あ? おいおい片腕くれぇで情けねぇな」

「いや、腹の傷だと思うが」

 

 ネギが気を失った瞬間に、さっきまでラカンに殺気を向けていたカゲタロウが普通に話しかけてきて、ラカンも気楽な感じにカゲタロウの相手をしている。

 これではまるで茶番だ。まさかだが

 

「アンタら、まさか最初からグルだったのか?」

「ご名答。目の前で普通に話していたら普通に気づくか」

 

 ラカンとカゲタロウがグルでカゲタロウがネギの腕を斬り腹を貫いた事を承知だったのに涼しい顔をしたラカンにマギは静かに怒りの火を燃やし、黒い魔力を解放し敵意をラカンに向ける。

 マギに敵意を向けられてもラカンは涼しい顔を止めず

 

「待ちな。俺がカゲちゃんをけしかけたのはこいつをテストするためだ」

「テスト、だと?」

「おう、こいつの試合は見てた。確かに筋はいい。だが、自分に足りないものを求めていたが、何かまでは分かっていなかったみてえだったから、カゲちゃんが勝負をし、それで今の強さを計ろうと思った次第さ。カゲちゃんはAAクラスの実力者、良い感じに喰らいついていたな。もし何も出来ずにボロボロになってたら、俺は鍛えるつもりはなかったぜ」

「だからって態々腕斬ったり、腹を貫かなくてもよかったじゃねえか」

「それに関してはすまない。以外にいい動きをするもので、私も些か本気になってしまった。しかし貴公の弟に重傷を与えたのは事実。すまなかった」

 

 カゲタロウが深々と頭を下げて、彼が本気で謝罪しているのは感じ取れていたので、怒りや黒い魔力を霧散するしかなかったのであった。

 

「まぁ心配するな。腕の切断くらいなら、こっちの世界の治療で直ぐにくっつく。カゲちゃんの実力のおかげで切断面もきれいだからな。そんじゃネギの怪我が治ったら此処に来い。俺が強くしてやるよ」

 

 それだけ言うと、カゲタロウは跳躍し去っていき、ラカンは普通に歩いて去っていった。

あぁそれと、とラカンは足を止めて振り返ると

 

「ネギには俺とカゲちゃんがグルだった事はオフレコで頼むぜ。その方が面白いだろうからな」

 

とそれだけ言うと今度こそラカンは去って行った。

 

「マギさん……」

「大丈夫だ千雨、大丈夫だ……」

 

未だに怒りで震えるマギを心配している千雨に大丈夫だと言いながら、騒ぎを聞き駆けつけ、救急隊が来るまで怒りで体を振るわせるマギであった。


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