堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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拳王に 俺はなる!?

 亜子の元から去り、マギはネギと小太郎と千雨、マギウス、休みを貰ったアキラと夏美の元へと戻った。

 

「兄さん、亜子さんの様子は?」

「薬のおかげか大分調子が戻っている様子だ」

「よかった、亜子……」

 

 亜子が大丈夫だと耳にしてホッとするアキラ。その近くで小太郎と夏美が何かを話していた。

 

「何で見ただけで簡単にばれるんや」

「分かるよ。髪型や性格がそのままだもん。演技力がゼロ。これでも演劇の部活に入ってるからね、演技を舐めちゃいけないよ」

「完璧な変装のつもりやったんだけどな。けど、何で夏美姉ちゃんがついて来てんねん。俺は来るなって言ったやろが。おかげで借金や奴隷やら訳の分からん面倒事に巻き込まれおってからに。自業自得やで」

「ご、ごめん。けどコタロ―君何も話してくれないから気になったんだもん」

「何で夏美姉ちゃんが気になるんや?」

「だっだって、危険がどうとか言ってたし……」

「はぁ小さくて何言っとるか分らんわ。それに夏美姉ちゃんに心配される程俺は弱ぁないし、むしろ夏美姉ちゃんが心配や」

「な! 何言ってるの! いいんちょとちづ姉と私はコタロ―君の保護者なんだよ! 心配するのは当たり前でしょ! それとその変装調子がくるうからやめてよね!」

「何言ってるねん! この変装をとくのはまずいって言うたやろうが!」

「うるさい! うるさーい! 背が高くなる変装とか非常識でしょ! それに年下なのに背が高いとか生意気だー!」

「うっさいわ! 夏美姉ちゃんが他の奴よりちんちくりんなのが悪いんやろが!」

 

 女心が今一理解できない小太郎は夏美と微笑ましい喧嘩をしており、そんな2人をマギとネギとアキラと千雨が温かい目で見守っていた。

 

「あ、あの、ネギ先生、ですよね? 質問、いいでしょうか」

「ええ、大丈夫ですよアキラさん」

 

 アキラがおずおずとネギに質問をしてきた。

 

「まず最初に、貴方はネギ先生ですよね。そしてそちらの方はマギさん、そしてそこの女の子は長谷川さんで、そのロボットは何ですか?」

「はい、今はこんな姿ですが、僕はネギです」

「俺もこんななりだが、マギさんだよ」

「あたしも長谷川千雨で間違いないぜ。それとこいつはマギウス、あたしを護るように葉加瀬が作ってくれたロボットだ」

『初めまして、大河内アキラ様。私は魔導騎士マギウス、気軽にマギウスと呼んでください』

「は、はぁ……姿が変わってる担任と副担任にクラスメイト、そして流暢に話すロボット。これは、現実なんですね? さっきマギさんが使っていたのは魔法で、あの着ぐるみだと思っていたのは本物の獣人の人で、この世界は魔法世界、なんですね」

 

 アキラの質問に皆が首を縦に振る。

 

「それで亜子は、もうネギ先生やマギさんや長谷川さん側の人間で、道中で私や村上さんを助けてくれたのも現実。すみません、情報量が多すぎて何が何だか」

「そうだな、急に色々と言われても混乱するか。それじゃあ、俺らが何でこの世界に来ようとしたのかを教えた方がいいだろう。夏美、君も聞いていほしい」

「は、はい! 分かりました」

 

 そしてネギとマギで自分たちは魔法使いで、この魔法世界で行方不明の父の情報を入手したので、この世界にやって来た事を2人に全て話したのであった。

 

「……それじゃあ私達が来たせいで、ネギ先生とマギさんは何も出来ずに終わってしまったっていう事ですか」

「ご、ごめんなさい! 私達がよけいな事をしたせいで!」

「ほんまやで。しっかり反省しろよな夏美姉ちゃん」

「小太郎、今はそれを言う事はないぞ」

「へいへい」

「そんな事ありません。アキラさんや夏美さん、一般人組の方々が来なくてもあのフェイト達のせいで僕達は散り散りに飛ばされていたでしょうから。むしろ、危険な目に合わせてしまって、申し訳ありません」

「そうだ。俺が弱いばかりにすまない」

 

 とネギとマギが深々と頭を下げて、慌ててアキラと夏美が顔を上げさせようとする。

 

「ネギ先生マギさん頭を上げて! 私達が貴方達を責める権利はないし、むしろ私達に怪我を負わせないように護ってくれた事に感謝する立場だよ!」

「そうだよ! むしろ私達が勝手に来たせいで、ネギ君やマギさんに迷惑をかけちゃったみたいだし」

「おい、マギ兄ちゃんやネギには謝って俺にはないんかい」

「つーん」

「おいこら夏美姉ちゃん」

 

 またも小太郎と夏美が子供っぽい喧嘩をおっぱじめようとするが、マギがそれよりも早く大切な話を畳みかける。

 

「そして、君達の身にかかった借金とその奴隷契約は本当の事なんだ」

「そんな……」

「それじゃあ私達、6年もここで働かないといけないの!?」

 

 絶望に染まるアキラと夏美。

 

「そんな悲観的になるな夏美姉ちゃん。俺らが何とかするから安心して待っとれ」

「はい、僕たちが絶対に助けます。だから、信じてください」

「あぁ、亜子や君達をこんな所にずっと居座らせる積りはない」

 

 今はそれしか言えない。しかし早く亜子達を此処から連れ出す。それに変わりはないのだ。

 

 

 

 

 

 

 アキラと夏美は持ち場に戻り、マギ、ネギ、小太郎に千雨&マギウスは和美&さよと雪姫とあやかが居る場所に戻った。

 

「それで、亜子さん達が何で奴隷になっちまったのか、アンタは知ってるんじゃないか和美さんよぉ」

「そうだねぇ、まず結論から言うと、あの3人を力づくで助け出すのは今はまだ無理だね。色々な人から聞いたんだけど、和泉がこの土地の風土病にかかって相当ヤバかったというのは本当らしい。このあたり一帯の街はあの通り無法の街だったから助けてくれる人もいなかった。そこにここのボスが通りかかって、”親切”に魔法薬をくれたんだと。その魔法薬の名前は『イクシール』最高級の薬で一瓶使うと確かに100万ドラクマはするらしいからね」

「いや下心丸見えやないか!」

「酷いですわ! まるでそのまま3人を奴隷にするつもりだったみたいじゃないですか!!」

「みたいじゃあなかったんだろうな。3人はみてくれはいいんだ。いい儲けになると思ったんじゃねえか」

「亜子達をまるで商品のように扱いやがって……」

「兄さん落ち着いて」

「今お前が怒っても何も変わらないぞ」

 

 怒りに震えるマギをネギと雪姫が宥める。

 

「まぁそれでも和泉の病気は治ったみたいだし、もう借金返済の契約は結んじゃったみたいだからね。経緯はどうあれ和泉達は此処のボスの所有物。正式な奴隷であり、あの首輪は並大抵な魔法使いじゃ解除するのも厳しい。因みに無理に外そうとすれば……ボンっ!! だって」

「そんな!!」

「奴隷と同時に人質みたいなものじゃねえか」

 

 怒りに任せて無理に外そうしなくてよかったと、内心自身の行動を踏みとどまったマギはホッと胸をなでおろす。

 

「それじゃあ闇夜に紛れてそのボスをいてこまして契約を無しにするってのはどうや?」

「いやぁそれは一番お勧めできないね。第一和泉達の命が危ない。此処のボスはこの街の有力者の1人でいくつのか闘技場を経営してるみたい。過去にボスにいちゃもんつけた阿呆が次の日には惨い姿で見つかったってことはよく聞くらしくてね。やろうと思えば自分の手を汚さずに相手を消すなんて訳ないだろうさ。それにまだ皆と合流出来ていないのに揉め事は避けたいだろ」

 

 有力者という事はこの街の至る所に目があると思った方がいいだろう。下手をしたらこちらの人数を把握され、非戦闘員であるあやかが狙われる可能性がある。

 

「でしたらアスナさんが来るまで待って、アスナさんに首輪を解除してもらうというのはどうでしょうか?」

「そうや茶々丸の姉ちゃん! アスナ姉ちゃんならそれが可能やで!」

 

 アスナは魔法を無力化する術を持っている。上手く行けば首輪を外すことが出来るかもしれない。しかし

 

「確かに良い手かもしれないけど、さっきも言ったけど強引な手はお勧めしないし、下手をすればボスが和泉達を他の場所に売り飛ばすかもしれない。手っ取り早いのは今すぐに100万ドラクマを作ってそれで和泉達を買い戻すしかないだろうね」

「それが一番やがそんな大金直ぐに作れるわけないやろ。10年は遊べる額で6年働いてやっと返せるらしいんやで」

「いや、そうとは限らないみたいだぞ」

「師匠どういう事ですか?」

 

 雪姫はくいっと指である物を指さす。そこには『闘技大会 優勝賞金は100万ドラクマ』と書いてある貼り紙が貼ってあった。

 

『これだ!!』

 

 マギ、ネギ、小太郎は目を光らせ、手っ取り早い方法を見出す。

 それは、『自分たちが拳闘士になり、賞金をゲットしてまおう』というとてもシンプルな答えであった。

 

 

 

 

 

 

 

 強烈な日差しが闘技場にさしこむ中、マギ、ネギ、小太郎に雪姫が闘技場のど真ん中に立っていた。

 

「は! 何だてめぇら、てめぇらが拳闘士になりたいと言い出すとは思わなかったぜ!」

 

 顔に至る所に絆創膏をつけたトサカが観客席から見下ろし偉そうな態度を取っているが、別段マギ達は気にしないで

 

「金が欲しくてな」

「金です」

「あぁ金だ。俺たちは今すぐ金を手に入れなくてはいけない」

「まぁそう言う事だ」

 

 堂々と目的が金と言い切ったマギ達を気に入らなそうに睨むトサカ。

 

「金金金……てめぇら拳闘士を舐めてんのか!? てめぇらみてぇな馬鹿がやっていける世界じゃねぇんだよ」

「……っは」

 

 トサカが凄んでもマギは鼻で笑って返した。直ぐにトサカは鼻で笑ったマギを睨みつけた。

 

「てめぇ、何が可笑しいんだあぁ!?」

「いやなに、てめぇみたいな三下がやっていけるなら拳闘士も大した事は無いだろうなってな」

 

 マギが挑発し、トサカが顔に青筋を浮かべる。その様子を観客席からチーフと千雨と茶々丸、あやかに和美が見守っていた。

 

「おやおや、トサカをあんなに挑発して大丈夫かい? 私ほどじゃないけどトサカもある程度実力がある拳闘士なんだけどね」

「いやぁどうだろうね」

「はい、私も心配はしています」

「マギ先生、大丈夫なんでしょうか」

「まぁ、大丈夫だろ。それよか、手加減するかなぁ……結構キレてたし」

 

 チーフはマギを、千雨達はトサカの身を案じていた。

 

「……これでも俺は拳闘士としての誇りを持っている。てめぇ、覚悟は出来てるんだろうなぁ」

「あぁ? お前の言う誇りっていうのは、家の隅っこに溜まる塵みたいなもんだろう?」

「うわぁ」

「マギ兄ちゃんえげつないな」

「クク、マギの奴言うようになったじゃないか」

 

 ぶちりっとトサカからそんな音が聞こえ、目が据わったトサカが観客席から降り立った。

 

「座長は訓練士との模擬戦闘で勝ったら入団させてやるって言ったが、てめぇだけはこの俺が直々に相手をしてやる。訓練士の兄貴も強ぇが俺だって負けてねぇ。謝るなら今の内だぜ」

「悪いが謝るつもりはない。あぁそれと、お前に勝ったら雪姫も入団ってことでいいか? 雪姫が俺の相棒でな、俺より強いから下手したらここが滅茶苦茶になるだろうし、ついでに入団させてくれよ」

 

 謝りもしないし、条件を追加してきたマギの不遜な態度にトサカの怒りも頂点に達しそうだが、深く深呼吸をする。怒りは攻撃を乱れさせる。落ち着いて相手をするまでだ。

 

「いいぜ。この俺を再起不能にしてやったったら入団をOKにしてやるよ」

「言ったな? 言質は取ったぞ。チーフさん、そう言う事だからこいつに勝ったら入団を許可してくれるか?」

「まぁいいけど、大丈夫かい? 怪我をしても文句は言わせないよ」

「構わないさ。こいつに負けるぐらいじゃ、とても100万ドラクマなんて手に入らないさ」

 

 もう勝つ積りでいるマギにトサカは魔力を解放をした。

 

「今更謝っても遅いぜ。戦いの旋律 加速二倍拳!!」

 

 それはバルガスが使っていた戦いの旋律と同じであった。これが使えるという事は、トサカもかなりの実力者と見える。

 だが……

 

「ほぉ、成程な。そら、打って来いよ」

「……はぁ?」

 

 対してのマギは構えもせず、ノーガードでトサカに打って来いと挑発をする。

 

「てめぇ分かってんのか!? これを食らったら病院送りは確実なんだぞ!」

「御託はいいから早くしろよ。それとも何か? お前は挑発してくる敵には攻撃出来ない優しい奴(チキン野郎)なのか?」

「……あぁいいぜ。分かったよ。それなら、食らいやがれクソが!!」

 

 トサカは一気に間合いに入り、マギの顔面に拳を入れた。鈍い音が闘技場に響く。思わずあやかだけ手で目を覆い、チーフはもろに入ったマギに呆れの声を出している。チーフから見ればマギはかっこつけの阿呆にしか見えないだろう。

 しかし他の者達はあぁ、とこれから来る展開にトサカの身を案じていた。

 

「へっもろに入りやがった。俺を舐めすぎだ馬鹿が!」

 

 余りの衝撃に闘技場の土が舞い、マギの状態が分からないが手応えは十分にあり、これでマギはもう再起不能になったと自身の勝利を確信していたが

 

「……成程。いいパンチだ。普通の奴ならこれでノックアウト間違い無しだろうな」

「……へ?」

 

 土煙が晴れると、顔面にトサカの拳がめり込んでいるが、全然ピンピンしているマギがそこにいた。

 

「は? な、なん、で? 俺の攻撃は確かに当たって」

「あぁ確かに当たってるが、まぁその程度だったってことだよ。それじゃあ次は俺の番だ。しっかりガードしろよ。俺の拳には色々なものが詰まって、結構重いだろうからな」

 

 マギは魔力を解放し、左手に集中させる。その瞬間、トサカは全身から一気に汗が出る。それと同時に自分の首に鎌が当たるような錯覚を覚えた。

 あの拳はマズイ。本気で防がないと待っているのは”死”だ。

 マギはトサカのボディに拳を振りぬいた。今のマギの拳に宿るのは亜子に酷い事をしたトサカに対する怒りもそうだが、大切な者達を護れなかった自身の不甲斐なさ弱さ、その怒りが籠ったこの拳、それがトサカに放たれた。

 とっさに両腕を交差してガードするトサカ。次の瞬間にはトサカの体に衝撃が貫き

 

「もぺぇ!?」

 

 情けない声を出しながら後ろへ吹っ飛び、観客席幾つかを駄目にしてしまった。

 吹っ飛ばされたトサカの元へ向かうチーフ。其処には口から胃液の混じった涎を垂れ流し、白目を向いて気絶していたトサカの姿があったのであった。

 

「これで合格ってことでいいか?」

「まったく、此処まで強引な入団テストは初めてだよ。でもまぁ、合格だ。入団を認めるよ」

 

 こうして晴れて、マギと雪姫は拳闘士となったのであった。

 

「と次はそこの坊や2人だね。トサカが伸びちゃったから、此処からはこっちが仕切らせてもらうよ」

 

 チーフがネギと小太郎の入団のテストを担当することになった。

 

「といってもさっきトサカが言っていたように訓練士との模擬戦闘をしてもらうよ。訓練士は結構強いからね、怪我をしないように頑張るんだよ」

「強い奴か。楽しみやな」

「油断しないでねコタロ―君」

 

 小太郎は余裕綽々に構えているが、ネギは油断せずに待っている。この入団テストで勝てなければ意味はないのだから。

 暫く待っていると、選手入場口から一人の男がゆっくりと歩いてきた。筋骨隆々でいかにも強そうな……

 

「どこのどいつだぁ? 命知らずのガキどもは」

 

 バルガスであった。

 

「え?」

「は?」

「うぇ?」

 

 ネギ、小太郎、バルガスの時が止まった。

 

「なんだ訓練士ってアンタだったのか? 怪我の方と店の弁償の金は大丈夫だったのか?」

 

 マギは固まっているバルガスに気軽に話しかけた。

 

「てってめぇは!? てめぇも入団テストを受けに来やがったのか!?」

「いや、俺はもう終わった。俺の相手はあそこで伸びてるトサカ野郎がやってくれたよ」

 

 あれからマギがトラウマになったのかおっかなびっくりな態度を取るバルガス。しかしマギが入団テストをもう終えたという事を聞いてホッとする。

 しかしバルガスは失念していた。今から戦う相手がマギの弟であるネギと友人である小太郎だという事を

 

「いいかネギ、小太郎。あいつは酒場の時はあんな魅せる喧嘩をしようとしたが、実力は本物だ。最初から全力で行け。相手に付け入る隙を与えるな」

「言われるまでもないわ。行くで、ネギ!!」

「OK!!」

 

 マギに言われた瞬間にネギと小太郎は一気に魔力を解放した。そんな2人を見た瞬間、バルガス

 

(あ、駄目だ)

 

 心が折れ、瞬時に自分の負けを認識し、次の瞬間には2人に殴り飛ばされてしまった。

 ネギと小太郎。2人も晴れて拳闘士の仲間入りとなったのであった。

 

 

 

 

 

 

 そして、マギネギ小太郎雪姫が拳闘士となり、数日が経った。今日が拳闘大会の試合が始まる。試合はAブロックBブロックの2つに分かれており、互いのブロックの試合に勝ち進めた2組が本選の予選へ進めることが出来る。つまりは前座の前哨戦というわけだ。

 そして、今からネギと小太郎が最初の試合をする。相手は虎の獣人と妖精だ。前衛と後衛のオーソドックス、だが強力な相手になるだろう。

 

「ネギと小太郎の奴、初戦から強そうな相手と当たったな」

 

 選手控室の大型ディスプレイでネギと小太郎の試合を観戦して自分の試合を待つマギと雪姫。2人の試合は次の第二試合である。

 

「まぁ坊やとコタロ―ぐらいなら、あの相手位、容易く勝てるだろう」

「だな。相手も強いが、ネギ達の方が一枚上手ってことだな」

 

 試合開始のゴングがなり、まず最初に虎獣人が小太郎に仕掛けた。高速のラッシュ、その合間に何かの種を小太郎に向かって投げた。次に要請が呪文を詠唱すると種から蔦が生えて小太郎を拘束してしまい、動けなくなった小太郎に虎獣人の攻撃が入る。

 動けなくなった小太郎を援護するために、ネギが魔法の矢を虎獣人に向かって放つが、虎獣人は華麗に避けた後に、口から衝撃波を発しネギの魔法の矢を防いでしまう。

 自身の攻撃が衝撃波で防がれたことに驚いているネギに妖精が、小さい体からは考えられない大魔法を放った。

 大魔法に包まれ、姿が見えなくなり、勝利を確信する虎獣人と妖精。

 

「やるなぁあの2人。でも、相手が悪かったな」

 

 しかしネギと小太郎は虎獣人の左右に五体満足で立っていた。虎獣人が動揺している間にネギと小太郎は互いの強力な技を虎獣人に当てる。

 虎獣人も必死に受け止めようとするが、耐えきれずに直撃、そのまま戦闘不能になってしまった。虎獣人が戦闘不能になりそのまま妖精も降参した事によって、第一試合はネギと小太郎の勝利となった。

 

「まぁ、ネギと小太郎ならこれぐらいは余裕か」

「次は私達だ。坊や達に続くとするか」

 

 試合の準備をしている中でネギがインタビューを受けていると小太郎はオオガミコジローと偽名を名乗っていたが、ネギはインタビュアーのマイクを拝借し

 

『僕の名前は……ナギ・スプリングフィールドです』

 

 まさかの父の名前を使ったのだ。これには観客の殆どがどよめき、インタビュアーも慌ててネギにインタビューを続けた。

 

「ネギの奴考えたな」

「あぁ。あのバカの名前を使ったのは遠くに飛ばされた仲間に自身の事を知らしめる事と、ナギの名前を意識して相手が躍起になって修行にもなるだろうからな」

 

 ネギのインタビューを見て、段々と対抗意識が芽生えてきたマギの肩を優しく叩く雪姫。

 

「あまり意識を持っていかれるなよマギ。今は安定しているがお前の精神は今は不安定だ」

「あぁ、分かってるよエヴァ。けど、俺もちょっとやりたくなっちまったよ」

 

 インタビューも終わり、今度はマギと雪姫の試合が始まる。

 と選手入場口にトサカが壁に寄りかかって待っていた。

 

「なんだ、応援に来てくれたのか? 嬉しいね、一度戦えば友達ってか?」

「あぁ? んなわけねぇだろ。てめぇが惨たらしく負けちまえって言いに来ただけだ。さっさと行って負けちまえ!」

「あぁ、ご声援ありがとな」

 

 トサカをスルーして闘技場に入ろうとしたが

 

「待てよ」

「なんだ? 今から試合なんだ早くしてくれないか」

 

 トサカがマギを呼び止めた。

 

「てめぇはあいつの名前がナギだって知っていたんだよな?」

「だとしたらなんだって言うんだ?」

「……いや、何でもねぇ忘れろ。さっさといけ!」

 

 呼び止めておいてさっさと行けとはへんな奴と思いながらマギと雪姫は闘技場に入場した。

 

『さぁ! 興奮鳴り止まないミネルヴァ杯! Bブロック第一試合、西方はかつての英雄と同姓同名なナギ・スプリングフィールド選手と相方オオガミコジロー選手と同じグラニキス・フォルテ―スの新米自由拳闘士2名! 対して東方はこれまたベテランの拳闘士、竜人種のドラグ・マキア選手! 悪魔のジョウ・ワン選手!」

「へ! 何だよ。新人て聞いたがおっさんと女かよ」

「一回戦は楽に勝てそうだな」

 

 マギよりも大きい竜人とこれまた巨体の六本の腕の悪魔がマギを見下した態度で嘲笑っている。先程の虎獣人と妖精と違い、随分とアウトローな拳闘士のようだ。対してマギは別段気にしていない。涼しい顔で聞き流している。その態度が気に入らないのか舌打ちをする相手側。

 

『どんな試合を見せてくれるのでしょうか!? それでは試合、開始!!』

 

 インタビュアーが試合のゴングを鳴らす。

 

「なぁ雪姫、此処は俺1人でやらせてもらってもいいか? 俺の実力がこの世界でどれくらい通用するか試したい」

「そうか。まぁ無理はするなよ。ヤバそうなら直ぐに私も手を貸す」

 

 さっそくマギが1人で相手をすると宣言し、雪姫は後ろに下がって壁に寄りかかった。観客は何割かはざわつくかマギの蛮行を笑い飛ばしていた。相手はベテランの拳闘士、舐めてかかれば大怪我では済まない。

 対して相手もマギの言ったことに対して大声を出して笑い飛ばしていた。

 

「ぎゃははは! こいつ女の前でかっこつけようとしてやがるぜ! おいジョウ! 可哀そうだから一発くらい貰ってやれよ!」

「そうだな。おいオッサン! 大サービスだ俺を殴って見ろよ。その一発で俺を倒せるかな? まぁ無理だろうなぁ!!」

「おいおいジョウ! あんまオッサンをビビらせるなよ可哀そうじゃねぇかぎゃははは!!」

 

 まるで子ども扱い。普通なら頭に来るところだが、マギは

 

「おーそれはありがたい。んじゃ……お言葉に甘えて」

 

 マギは左腕に魔力を集中し、一気に解放しそのまま六本腕の悪魔を殴り飛ばす。六本腕の悪魔は悲鳴を上げずにそのまま吹っ飛び、選手入場口を砕き、そのまま瓦礫に埋もれてしまった。

 

「……は?」

 

 竜人は呆けた声を出しながら殴り飛ばされた相方を見た。六本腕の悪魔は白目を向きながら戦闘不能になってしまった。

 

「なぁ!? て、てめぇ! 弱いフリをしてやがったのか!? きたねぇぞ!!」

「別に弱いフリなんてしてないけどな。そっちが勝手に勘違いしてくれたおかげで楽に1人倒すことが出来た。ありがとうな」

 

 マギのお礼に竜人は青筋を浮かべ、魔力で自身の指の爪を鋭利に伸ばす。一本一本がまるで剣のように鋭くなっている。

 

「死ねやぁ!!」

 

 マギに向かって振り下ろす。その衝撃に土煙が舞いマギが見えなくなる。観客もマギが竜人の爪に貫かれてスプラッタな姿になっていると思い悲鳴を上げている。竜人も手ごたえを感じ、このままマギを引き裂いてやろうと息巻いていたが。

 

「成程な。この程度ならまだまだ俺の力も通用しそうだ。それじゃあお礼に、一発で沈めてやるよ」

 

 土煙からマギの腕が伸びて来て、そのまま竜人の顔にマギの拳がめり込む。

 

「のぺぇ!?」

 

 阿呆な悲鳴を上げながら竜人は地面に叩きつけられ、そのまま地面に亀裂を作ったまま沈み、痙攣をしながら戦闘不能になってしまった。

 あっさりとマギと雪姫が勝ったことに観客はぽかんとしていたが、インタビュアーがハッとして終了のゴングを数回激しく鳴らし

 

『しゅ、終了ぉぉぉぉ!! なんとぉ、新人拳闘士がこれまたベテラン選手を下してしまったぁ! しかもたった1人で完膚なきまでの完全勝利だぁ!!』

 

 土埃を軽く掃うマギに観客から歓声が上がった。マギは観客の歓声にこたえるように手を振っていると、インタビュアーがマイクを持ってマギと雪姫に近づいてくる。

 

『完膚なきまでの完全勝利おめでとうございます! まずはそちらの女性の方から、お名前と何故参戦しなかったのか教えて頂けないでしょうか?』

「名前は雪姫だ。私が参戦しなかったのは、私が出てしまえば簡単に終わってしまうのと、相方が1人で相手をしたいと言ったからな。尊重し任せたというわけさ」

『な、成程』

 

 インタビュアーは雪姫が誤魔化しで言っていないという事は肌で感じていた。雪姫から感じる力の気配は確かに本物で相手をあっさりと倒してしまうのは本当であるだろう。

 

『では次は男性の方にインタビューを行います! 素晴らしい勝利でした! お名前をお願いします!』

 

 マイクをずいっとマギの顔に近づけてくるインタビュアー。マギは雪姫の方を見ると、ふっと不敵に微笑み、雪姫は瞬時にマギの思惑を察しやれやれと肩を竦めた。

 そしてマギはマイクを受け取り

 

「俺の名前は……ネギ(・・)ネギ・スプリングフィールド(・・ ・・・・・・・・・)。ナギ・スプリングフィールドの息子だ」

 

 マギが自身の名前ではなく、ネギと答え更にナギの息子と暴露し、観客はまたもどよめきの声を出していた。

 

「ええ!?」

「ちょ! マギ兄ちゃんまじか!」

「マギさん、やりやがったな……」

「えっとこれ、大丈夫なのでしょうか?」

「分かりません。ですが、かなりリスクがあるかと」

「まったく、この馬鹿者が。まぁそう言う馬鹿な所がまた、いいと思っている私も居るんだがな」

 

 マギの仲間であるネギ達の反応は色々で別の場所では試合を見ていたトサカは驚愕な顔を浮かべていた。

 

『えぇ!? ナギ・スプリングフィールドのむ、息子さんですかぁ!? え、でも見た目の歳が同じくらいなのですが……』

「この世界は魔法世界なんだから年齢を変えるのは朝飯前だろ? 今は訳ありでこんななりだが」

 

 そう言ってマギは年齢詐称薬の若くなる方を飲んで、瞬時に10歳ぐらいの歳のマギへと姿を変えた。ネギの10歳の顔とはまた少し違い、マギの目は多少吊り上がっている。

 

「まぁこの姿も本来の姿じゃないけどな。まぁ本来の姿を見せられないのは残念だ」

『は、はぁそうですか。ですがナギ・スプリングフィールドの息子(仮)として聞きますが、何故この大会に参加しようと思ったのですか?』

「仮じゃないんだけどな。まぁクソ親父は行方不明っていう話だったのが、この魔法世界の何処かに居るっていう話を聞き、こっちに来たらトラブルに巻き込まれてな。俺や雪姫の仲間がみんな散り散りに飛ばされてしまった。アンタも知ってるだろ? ゲートを襲ったテロリスト達の事を。見つけたら落とし前を付けてやるさ。話を戻すと、此処に俺の大事な仲間の1人が奴隷になってしまっていた。俺は正式に仲間を取り戻すためにこの大会の本選の優勝賞金100万ドラクマを手に入れるために拳闘士になったのさ」

 

 そう言ってマギはまた3,40代の姿に戻った。今のマギのインタビューはかなりギリギリを攻めていた。この観客の中にはゲートポート襲撃事件の事を知っている者は殆どだ。下手をしたらマギ達の素性がばれてしまう。マギとしては勝手に懸賞金をかけた者達への牽制もかねていた。

 

『な、成程。もう本選そして優勝をイメージしているようですが、この大会の出場者もかなりのベテランの猛者達が参加しています。それらをかいくぐり本選の予選に辿り着けられると思いますか?』

「愚問だな。これぐらい余裕で勝てなければ、俺はクソ親父と並ぶことは出来ない。俺の最終目的は今まで育児放棄して何処をふらついていたか分からないクソ親父を見つけてぶん殴ることだからな」

 

 観客は黙ってマギの話を聞いていた。そしてマギが次に何を言うかを期待していた。

 

『ありがとうございます! それでは最後に、これからの大会に向けての意気込みをお願いしますでしょうか!?』

「この大会、そして本選に参加する拳闘士達よ! 英雄の息子、ネギ・スプリングフィールドがお前らに土の味を教えてやる! せいぜい首を洗って待っているんだな!」

 

 マギの宣戦布告に観客はしんと静まり返り、次の瞬間には闘技場を揺るがす程の大歓声に包まれた。

 観客のネギコールにマギは拳を天に向かって掲げながらマギは闘技場を後にした。

 

「大変だなマギ。恐らく坊やよりも目立っただろう。そっくりさんよりも血の繋がった親子の方が狙われるだろうな。路地裏とか気を付けた方がいいぞ」

「いいじゃねぇか。人気者には丁度いいトラブルだ」

 

 等と話していると、凄い形相のトサカがマギに近づきメンチを切って来た。

 

「おいてめぇ! てめぇがあのナギ・スプリングフィールドの息子だって!? ホラ吹かしてるんじゃねえぞ!」

「何でアンタがそんなにキレてるんだ? 別に俺がクソ親父の息子だからってアンタに何か迷惑をかけたか?」

「っそれは、そうだけどよ」

 

 トサカもそれを問われると、何も言えなくなってしまった。黙るトサカを押しのけマギは選手控室へと戻ろうとする。

 

「悪いがアンタに気をかけてる暇なんて無いんだ。俺は前しか向いてない。必ず大会に優勝するっていう未来にな」

 

 それだけを言い残し、マギと雪姫は後にした。

 

「……くそ!」

 

 トサカは気に入らなそうに悪態を吐きながら、壁を蹴とばすのであった。

こうしてネギ、小太郎改めナギとコジロー、マギ改めネギと雪姫は無事に一回戦を突破したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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