本年も自分の作品を少しでも多くの方に読んで頂ければ幸いです。
千雨、あやか、小太郎そして雪姫と合流し、人里まで歩くこと4日
『まっ街だぁ!!』
崖から見下ろし、拾い街が見えたことに歓喜の声を上げるネギや小太郎。
「いやぁ300キロをわずか4日で踏破するなんてな。最高の夏休みだよ」
「あはは……」
「何言ってるんや千雨姉ちゃん。姉ちゃん自分の人形におんぶ抱っこやったやろうが」
『ちう様を護るのが我が役目』
毅然とした態度で答えるマギウスにへーへーと面白くなさそうな態度を取っている小太郎。
「そんな事よりも街や街! 先に行っとるで!!」
「あ、待ってよコタロ―君!」
先に崖を飛び降りた小太郎に続くようにネギも崖を飛び降りたのであった。
「まぁ街は最初に居た所よりファンタジーっぽさが無い外観で安心した」
「私達も降りましょう」
「本当にあの街に誰かいるのでしょうか?」
「バッジの反応があったのは確かだ。しかし茶々丸の探索ではそのバッジの反応がここ数日全く動きがないとのことだ。無事かどうかは定かではない。マギ、気をしっかり持てよ」
「あぁ、分かった」
マギ達も崖を飛び降り街へ向かうのであった。
街に到着し、千雨の普通の街であってくれという願いは大きく裏切られた。
見渡す限り自分達と同じ人以外にエルフのような長い耳を持つ男女や獣の耳の人や完全な獣人に小さな妖精もいた。これだけ聞けばよくあるオンラインゲームの光景だと思われるが
「残念ながら現実、か」
「千雨さん、早々に諦めた方がよろしいかと」
「かもなぁ」
目の前の光景を見て乾いた笑みを浮かべる千雨。前の自分なら非日常な光景を見たらアレルギー反応のような反応を見せていただろうが、随分と受け入れられるようになったものだと自身を褒めてあげたいものだ。
「随分と治安が悪いようですね。あまり離れて行動するのはよろしくありませんわ」
「辺境の地だからな。こういった場所は自分の身は自分で護るのが常識だ。お前のように特に力のない者は力ある者に護られおけ。下手したら人攫いに襲われて奴隷商人に売り飛ばされるぞ」
「き、肝に銘じておきます」
あやかと雪姫の前で食い逃げを行った不届き者が店の店主に魔法で吹き飛ばされてしまった。なんと治安の悪い事か。某漫画の犯罪都市並みだと言いたいぐらいだ。
ネギと小太郎が色々な露店に興味を持ながら木の実を購入(お金は事前に両替済み)
「しかし曲がりなりにも人里だ。メガロなんたらに長距離電話か念話でもして助けを呼べばいいじゃないか?」
千雨が今できるであろう最善策を提案する。それに誰も反対はしない。
「ドネットさんが健在なら今頃私達を心配して捜索しているかもしれません」
「……そう簡単にいけばいいのだがな」
「どういうことですか雪姫さん?」
等と話していると街頭テレビでお昼のニュースを放送し始めた。獣耳の女性キャスターがニュースを読み上げる。
『6日前、世界各所で同時多発的に起こったゲートポート魔力暴走事件の続報ですが、各ゲートポートでは依然魔力の流出が続き復旧の目処は立たず旅行者の足にも……』
「我々の事件についてのニュースの様ですね」
「てか今のニュース世界各地って言ってたよな。あいつらあそこ以外も襲ったっていうのか」
フェイト・アーウェルンクス達はマギ達がやって来たゲートポート以外のゲートも襲っているようだ。
しかしそんなフェイト達の事を忘れるぐらい驚くことがマギ達を襲う。
『また依然犯行声明もなく、背景が全て謎に包まれたままのこの事件ですが、メセンブリア当局により今日、新たな映像が公開され……実行犯と見られるこの外見上10歳程度の少年と10代後半から20代前半に見える青年に見える人間に、懸賞金付きの国際指名手配がなされました』
マギとネギに懸賞金が付けられ、指名手配犯へとなってしまっていた。
「えっええ!?」
「バカ! 声を出すな!」
「はぁ? なんで俺に懸賞金が付いたんだよ」
「マギさん。今は人が集まっている所から離れた方がいい」
ネギが驚き声を出そうとした所を素早く小太郎が黙らせてくれた。ネギ達の周りに居た者達は懸賞金の額で3年は遊んで暮らせるやらこの姿のままじゃないとか好き勝手に言ってくれている。
更に映像はネギが要の石を破壊したり、マギが月光の剣で警備兵斬っている映像に変わっている。明らかに捏造映像だ。
直ぐに人気のない路地裏に隠れ、何故こんな事になったのか言い合う。
「なんであんな捏造映像が流れてネギ先生やマギさんが指名手配犯になってるんだよ!? おかしいだろ!?」
「あいつやフェイト! 格下に邪魔されて頭に来て嫌がらせをしたにきまっとる!」
「いや、あいつらがこんな事をするか? 俺たちの事は眼中にないって態度を取ってたのに七面倒な事をするとは思えないけどな。雪姫はどう思う?」
と雪姫の意見を聞こうとしたが、雪姫は黙っている。
「雪姫?」
「……まったく、またも下らない事をして来たものだな」
「雪姫、どうしたんだ?」
「ん? あぁ、すまないな。マギの言う通りこの件はあのフェイトは関係ないだろう」
「師匠何か知っているんですか!?」
「あぁマギや坊やに懸賞金を付けた者の正体はある程度把握した。しかしそれよりも今重要なのはこの街に居るであろう仲間を見つけることと、長距離の連絡は控えることだ。下手したら逆探知をされるかもしれないからな」
一刻も早くこの場から立ち去ろうとしたその時
『なお、今回の事件の首謀者がかの悪名高い『闇の福音』、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルという情報が今入ってきました。今まで消息を絶っていた闇の福音が今我々の前に牙を向かせています。メセンブリア当局はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの情報を求めており、情報提供者には100万ドラクマ、捕縛した方には1000万ドラクマをお送りします』
それを聞いた瞬間、街頭ニュースを聞いていたガラの悪い者達が大声で騒ぎだし、自分が捕まえると豪語してそのまま喧嘩をおっぱじめる始末となってしまった。
「たく、こっちの気も知らないで勝手に祭りのようにはしゃぎやがりやがって」
「しかしマスターが此処に居ることを麻帆良の皆さましか知らないはずです。何故マスターが居ることを知っているのでしょうか」
「そんな、師匠までもが……」
「まったく、好き勝手な事をするやつらだ」
ネギたちは雪姫までも懸賞金が付いたことにパニックになり、雪姫本人は魔法世界に自分が居ることをばらした相手に対して悪態を吐いた。
とマギは黙っていた。どうしたのかと声をかけようとしたその時
「「「「っ!!」」」
マギから途轍もない圧を感じて、見れば瞳孔を開いたマギが黙って肩に担いでいる月光の剣の柄を掴み騒いでいる群衆に向かおうとしている。
明らかにやばいと判断した雪姫はマギの肩を掴む。
「おいマギ落ち着け」
「落ち着け? 落ち着けだって? あいつらは雪姫を、エヴァをまるで金のなる木のようにしか見ていない。ふざけんな。死なずとも死よりも辛い苦痛を与えないと俺の気が済まない」
「いやマギさんアンタそのままあいつら皆殺しにしそうな勢いだぞ。落ち着けって!」
「落ち着いてお兄ちゃん! 辛いのは分かるけど今は堪えて……!」
「マギ、私達の本来の目的はなんだ? この街にいるだろう仲間を見つけることだ。こんな事で騒ぎを起こすなんて馬鹿な事はしないことだ……気にするなこんな事しょっちゅうで私は別に気にしていない」
雪姫達の説得により、マギは月光の剣の柄から手を離した。そして未だに街頭テレビ前で騒いでいる群衆を睨みつけて、その場から去ることにしたのだ。
「茶々丸、早くバッジの反応を追え。余り流暢にこの場に留まるのもよくはないだろう」
「はいマスター……反応ありました。この先50m、この路地の突き当り、あの酒場と思われる建物の前です」
「あの建物ですね!!」
ネギはバッジの反応があった酒場へ突っ走った。
しかし、バッジの反応があっても誰も見えない。
「なぁ茶々丸さん、雪姫さん、マギさん、あんま考えたくないけどよぉ……」
「はい、これは……」
「最悪な展開を考えた方がいいだろうな」
「くそ、くそったれが……」
マギ達もネギに続くがいい結果を予想は出来なかった。
「そんな……」
ネギは青い顔をした。ネギの足元、そこには白き翼のバッジだけが落ちているだけであった。
「最悪な展開だ。便利バッジも落としたら意味はないよなぁ」
落ちていたバッジをまじまじと眺めながら溜息を吐く千雨。手がかりが途切れてしまい、このバッジの持ち主が誰なのかも分からずじまいだ。
ネギは自身の懸賞金が付いた紙を貰い、自分に30万マギに60万懸賞金は幾段か落ちているが、アスナにやのどか果てにはプールスまでにも懸賞金がついてしまっている。幸いなのは一般人組に懸賞金がかかっていないことだ。
懸賞金の紙を見てネギはまたも自分のせいだと悪い方へ考えを巡らせていると
「おいネギ、お前またも自分のせいやって思っとるやろ。この間の話忘れたんか? お前に足りんもんが何かって話を」
「でもこんな大変な状況になったのに、アホっぽさなんて!」
「だからといって悩んで状況が変わるんかいな。ネギ、お前の仲間はそう簡単にくたばるような貧弱な奴ばっかか? この程度の状況切り抜けられることを信じるんや」
「コタロ―君はなんの根拠でみんなの事を信じられるの?」
「なんの根拠もなく信じぬく事が仲間じゃないんかい」
小太郎の言ったことに衝撃を覚えたネギ。
「せっかくの頭、もっと生産的に使うのがいい使い道やろ」
確かに小太郎の言う通り、今は仲間を信じぬく事が大事だろう。ネギには確かに小太郎のようななんの根拠もないアホっぽさが必要なのかもしれない。
千雨や茶々丸は小太郎の根拠ない自信に感心し、実際小太郎の自信に救われている所もある。
「ネギ先生、コタロ―君の言う通りです。このバッジが例えアスナさんのものであってもしぶとく無事にいるはずですわ!!」
あやかも必死にネギを励ます。
「ありがとうな小太郎。俺より年下なのにお前の方がしっかりしてるよ」
「何言ってるんやマギ兄ちゃん。俺はアホやからアホなりに仲間を信じぬくだけや」
子供らしく鼻をこする小太郎を見て微笑ましい光景になる。
気持ちを切り替えて今後どうするかを話し合うことにした。
「それじゃあ、現状の確認といこう。何の因果かハメられてあたしらは賞金首のお尋ね者だ。こっちから捕まりに行って、メガロメセンブリアまで連行してもらった上で身の潔白を訴えるって手もあるが……」
「それは賢明ではないな。既にハメられる以上潔白を保証できる保証はない。ましてやこの私が一緒にいて正体があいつらにばれれば全員打ち首、或いは幽閉なんて結果だろうな」
それだけは絶対にあってはならない。
「その理由では警察や大使館に助けを求めるのは難しいですわ。下手をすればその場で拘束されてしまいお終いです」
「てことは結局」
「あぁ、俺たちがやらなければいけないのは、自力で仲間を探し出し」
「自力でドネットさんか誰か信頼できる人の許まで辿り着くか、自力で元の世界に戻るしかないってことだね」
これが基本方針となるだろう。しかし問題なのは今の自分たちの容姿だ。皆写真と同じだ。人が多い所にいれば見つかってしまうだろう。そんな中で仲間を見つけるのは至難だ。
そんな中でネギがあることを思い付く。
「皆さん! 僕に考えがあります!」
その考えとは……
ここはとある酒場。客は先程の街頭テレビの懸賞金の話題で持ちきりだ。
そんな酒場に団体の客が来店してきた。
赤髪の青年と犬耳の青年と青年と同年代と、少し年上であろう金髪の女性が2人。猫耳の少女と緑髪の少女。そして赤髪で無精髭が目立つ少々くたびれている30歳後半から40歳前半の男だ。
言わずもがな今来店してきた団体の客達はマギである。
ネギの考えとは年齢詐称薬で各々の年齢を騙しての変装である。
「お兄ちゃん、こっちに座ろう」
ネギがマギを呼ぶと酔っている客何人かが吹き出して大笑いをしだす。
何故客達が笑っているのか分からず首を傾げるネギだが
「おいネギ、今の俺の姿はなんだ? 3、40代のおっさんだ。お前だって高校生位の姿がお兄ちゃんなんて子供っぽい呼び方したらおかしいに決まってるし、怪しまれるかもしれないからもう少し口調は考えた方がいい」
「あ、そう言う事か。なら……カウンターが空いてるからここに座ろうか、”兄さん”」
少し声のトーンを落とし、マギを兄さんと呼んだネギ。マギもネギに促されるようにカウンター席に座った。
「あぁ、ネギ先生が年相応な呼び方ではなく、凛々しくマギ先生を呼んでいますわ。私、凛々しいネギ先生を見ていたら愛が溢れてしまいますわ……!」
「あやかさんあやかさん、鼻鼻。アンタの鼻から愛が溢れているからさっさと止めろ」
「マギ兄ちゃん、俺も呼び方変えた方がええか?」
「いや、お前の呼び方はどの年齢でも使えるからそのままでいい」
等と話しながら皆が席に座り、カウンターのマスターに注文を聞かれ
「み、ミルクティーで」
「俺はこぶ茶で」
「私は宇治茶をお願い致します」
「おいアンタら注文のチョイスが、ていうかあたしも未成年だからな。オレンジジュース」
「私もミルクティーをお願いします」
ネギに小太郎と千雨と茶々丸とあやかが酒を頼まないのを他の客が笑っているが、マスターは特に笑わずに注文の飲み物を用意してくれた。
そしてマギと雪姫は
「俺は酒をくれ。マスターのお勧めでいいから」
マギが酒を注文したことに、ネギ達は驚き
「に、兄さん! 兄さん今までお酒なんて飲んでいなかったのに急にお酒なんて」
小声でマギに何故急に酒をと聞くと
「こんな容姿で酒を飲まないのは下手すると舐められる的になる可能性があるからな。それに俺は不死身でもう歳を取ることはないから俺にもう未成年とかはないからな。それに……今は少しでも飲んで酔いたい気分なんだ」
「それじゃあ私もご相伴にあずかろうかな。マスター私はワインを頼む」
マスターはマギにジョッキの酒を出し、雪姫にはワインをグラスと瓶で出した。マギはジョッキを掴むと、一気に酒を飲み干す。かなりアルコールが強いのか喉をまるで炎が通っていくかの如くかっかと熱くなるのを感じた。
どんとジョッキをカウンターに置いたマギに周りの客は拍手を送る。
「なんだ?」
「あぁお勧めって言われたから私が好きな奴を入れたんだよ。結構キツイやつでね、一気で飲んだらそのまま病院送りになる一品を飲んでもピンピンしてるとは、気に入ったよ」
「そりゃどうも。旨かったからもう一杯くれ」
「はいよ」
マスターはマギの飲みっぷりに気に入ったのかおかわりを入れてくれる。そして出されたものをまたも一気で飲み干してしまう。
マギの豪胆な飲みっぷりにネギ達はぽかんとして、雪姫はマギと飲むのが楽しみだと今後マギと飲む光景を想像して、自分もワインのグラスを呷った。
そんなマギを見て、気に入ら無さそうに舌打ちをする集団があった。
マギが酒を飲んでいる光景に唖然としてしまったネギだが、はっとしてマスターに出席簿を見せる。
「失礼ですが、この写真の中で見かけた人をいませんか?」
「何だいこりゃ? あぁさっきニュースで出ていた懸賞金をかけられた賞金首達だね」
「誰でもいいです? 誰か見ていませんか?」
「はは、馬鹿カ言っちゃいけないよ。こんな賞金首心当たりがあったら私が捕まえに行ってるよ」
このマスターは嘘は言っていないだろう。さっきも食い逃げの輩を店主が吹っ飛ばしていたのだ。こんな治安の悪い街で何も力がない人がマスターなんかやっていないはずだ。
手がかりが見つからない事に焦りを感じながら、マギは酒を飲んでいると、マギの肩を誰かが叩いてきた。
振り返れば、マギよりも一回り大きいスキンヘッドのガラの悪い男がにやにやと笑いながら
「よお赤髪の兄ちゃん、その面が気に食わないから一発殴らせな」
喧嘩を売ってきた。余りの無法地帯に驚きを通り越して呆れを見せる千雨と笑っている小太郎。
そして喧嘩を売られたマギはというと
「……あ゛?」
顔に青筋を浮かべ、スキンヘッドの男を見上げる形で睨みつけた。完全にスキンヘッドの喧嘩を買ってしまった。
「ちょ! 兄さん!?」
「放っておけ坊や、あの男が売って来たんだ。マギは喧嘩を買っただけだ」
「あの、マギ先生大丈夫なのですか?」
『危険なようなら助太刀いたしますが』
「余計な手出しは無用ですマギウス。あやかさん、マギさんはそんじょそこらのならず者に後れを取るほど弱くはありません」
マギはスキンヘッドの男とメンチを切り
「いきなり殴らせろとか物騒じゃねぇか。なんでもかんでも喧嘩を売るのか? 喧嘩の大安売りか?」
スキンヘッドの男を煽るとスキンヘッドの男は
「俺は昔、お前のようなアホ面の男にボコられたことがあってよぉ。それいこうてめぇみたいな赤髪の奴を見ると条件反射で喧嘩を売っちまうんだよお」
スキンヘッドの男の後ろには取り巻きの軍団が居て、各々自分も伸された事を自己申告してきた。
「それって父さん、父さんの事ですか!?」
「ああん! あいつにんなでけぇガキが居たなんて話は聞かねぇぞ! それよりも赤髪の兄ちゃん、こいつを潰したら次はてめぇだ! 覚悟しておけ!」
スキンヘッドの男の男はマギに殴りかかるが、マギはスキンヘッドの男の拳を簡単に避ける。
「くそ! 何で当たらねぇ!」
「そんな大ぶりな拳、避けてくれって言ってるようなもんだろうが」
スキンヘッドの男はマギが言ったように大振りで拳を振るってはいない。的確にマギを倒そうと素早く拳を振っているのだ。それのなのにマギはスキンヘッドの男の攻撃を避けているのだ。
「あの男バルガスの攻撃を避けてやがる。俺はあの赤髪の男に200出すぜ!」
「いいや俺はバルガスに500出す! 行けバルガスやっちまえ」
スキンヘッドの男の名はバルガスというようだ。マギとバルガスそっちのけで賭け事が始まるがバルガスの方がオッズが大きい。どうやらバルガスというのはかなりの有名人の様だ。
「やるねあのおっさん。けど相手が悪かったね」
「あぁ、バルガスはあんな図体だが高位の魔法使いだ」
ネギ達の近くに座っていた獣人の女性と獣耳の女性がマギが勝てる要素はないと断言している。
「相手が悪かった? ふん、それはこっちの話だ。あの禿げ頭、マギがあいつとそっくりだからと言って喧嘩を売らなければ痛い思いをしないで済んだのにな」
「え? 師匠、どういうことですか?」
ネギが雪姫はどういう意味なのか聞くと、まぁ見ておけとそれ以上は何も言わなかった。
一方マギに喧嘩を売ったバルガスはマギに攻撃が当たらない事に埒が明かないと判断したようで
「どうやらこの俺を本気にしたようだな。ならば見せてやろう! 戦いの旋律 加速二倍拳!!」
「! 凄い、戦いの歌の上級です!」
ネギはバルガスが戦いの歌の上級魔法を使うバルガスに素直に賞賛する。
「更に厳しい修行を重ねた俺は見事な瞬動術の使い手でもある! その滑らかさ、最早縮地レベル!!」
バルガスはその巨体には似合わない高速移動を魅せる。その速さは残像が残るほどである。
「更に!!」
バルガスは無詠唱で砂の魔法の矢を5本、出現させる。
「おぉバルガスの奴魅せるねぇ! 無詠唱で5本とは!」
「バルガス腕上げたな!」
「全方位から狙い撃てる砂矢5本に瞬動術! あのおっさん終わったな!」
ギャラリーはかなり湧き上がっているが、バルガスの相手をしているマギ本人は冷めた目でギャラリーに魅せているバルガスを見ており、ネギ達はバルガスの身を案じていた。
「ははは! 悪いな兄ちゃん! 一発喰らってもらうぜ!!」
準備が完了したバルガスはマギに向かって攻撃を仕掛けようとしたが……
「いや、長ぇんだよ。さっさとやれや」
あろうことか、マギは月光の剣を高速で抜くとバルガスの腕を切断してしまった。
『……へ?』
バルガスや取り巻き、ギャラリーは一瞬何が起こったのか分からないほど思考が停止していたが
「う、うぎゃあああああああ!? お、俺の腕がぁ!!」
バルガスは叫びながらこれ以上血が出ない様にもう片方の手で押さえて止血する。
「て、てめぇ! 何武器使ってるんだよ!?」
取り巻きの1人がマギに怒鳴り散らすが、マギははんと鼻で笑い
「武器を使っちゃ駄目って、こいつ言ってなかったからなぁ。それに、ショーみたいに派手な事をしてたからな。うざかったんだよ」
マギの返しに我慢ならんと取り巻き達がマギを囲み武器を持っている者は武器を構え
『てめぇ! ぶっ殺してやるう!! 兄貴の仇だぁ!!』
一斉にマギを攻撃した。しかしマギは何時の間に出したのか分からないが、グレートソードを出してそのままグレートソードを一回転横に振り回した。
マギが横に振り回した結果、取り巻きの足はいとも簡単に切断されてしまった。
『ぎゃああああああああ!!』
『うわああああああああ!!』
取り巻き達は足を切断され、断末魔の悲鳴を上げ、ギャラリーやあやかはスプラッタな地獄絵図にパニックの悲鳴を上げてしまう。ギャラリーもたまったもんじゃないだろう。ここら辺で喧嘩など日常茶飯事なものなのにこんな惨劇を見る事になるとは思っていないだろうから
「兄さん! そりゃあ喧嘩を売って来たのはあちらだったけど、だからってこんな酷い事を……!」
「まったく坊や、少しは落ち着け。落ち着いてもう一度目を凝らしてよく見て見ろ」
ネギがマギを咎めようとしたが、雪姫に待ったをかけられたのでネギやあやかやは瞼を擦り、もう一度見てみると
「いてぇ、いてぇよぉ……」
「あ、あぁ死ぬぅ」
「助けてぇ……」
ピンピンしているバルガスと取り巻きがそこに居た。
「ど、どういうことですか?」
「マギの奴、あの禿げを睨んだ瞬間にここ等一帯に幻術魔法をかけたようだ。おいマギ、これ以上続けるとそいつらの心が壊れてしまうぞ」
「あぁそうだな。こっちは色々といっぱいいっぱいだったのに、そっちの都合で喧嘩売って来たのが腹立っちまってたからな、少し痛い目を見てもらおうと思ってんだが、やりすぎたな。直ぐに解除するよ」
そう言って、マギは指を鳴らした。その瞬間幻術が解除されたようで、さっきまで痛みで悶えていたバルガスや取り巻き達は目をぱちくりとして
「あれ、腕、ある……」
バルガスや取り巻き達は無事な腕や足を見てほっとしていると、マギが優しくバルガスの肩を叩き
「よぉ、夢からお帰り。それと……お休み」
そう言ってマギは情け容赦なくバルガスの顔面を殴り飛ばして、バルガスを床に叩きつけた。バルガスに続くように次々と取り巻きも床へ沈めていく。
『あ、悪魔だ……』
幻覚で大怪我を見せて、現実でも情け容赦なくバルガスを沈めていくマギを見て、ギャラリーの客は戦慄を覚えるのであった。
マギがバルガスの後に取り巻き全員を伸したら、酒場の中は酷い有様になってしまった。
「いや良い暴れっぷりだったね。おじさん若い頃を思い出しちゃったよ」
「悪いマスター。店で暴れちまって」
「いいよ。元はと言えばバルガスが喧嘩を売ったのが事の始まりだったんだから。弁償はこいつらに払わせるよ。勿論いいえなんて言わせないさ」
にっこりといい笑顔をしているマスター。場慣れしているのだろう有無を言わさず絶対払わせるという感覚がひしひしと伝わってくる。
「しかしお客さんの暴れっぷり、昔ここらへんで暴れてた彼を思い出すよ」
「それって……」
ネギがその事を聞き出そうとするが、マスターが話を続ける。
「あのお客さんも強いが君達も強いだろう? どうだい拳闘士でもやってみないかい?」
「拳闘士それってなんやおっちゃん?」
「拳闘士っていうのはその名の通り拳で戦い武道大会とかで優勝して食べていくことさ。きっとガッポリ儲けられると思うよ。それに、強い相手と戦うのはワクワクしないかい?」
「強い相手、へっおもろそうやないか」
小太郎は強い相手を想像し、期待に胸を膨らませているが
「コタロ―君っ」
「せやった。拳闘士っちゅうのは魅力的やが今は情報が欲しいんや。おっちゃん、何か思い出した事はないか?」
「うん? あぁ、思い出したよ。賞金首ではないけど、この子がね水を貰いに来たから気前よくあげたんだよ」
「! ほんとうですか!?」
「誰や!? 早う指させ!」
マスターが出席簿で誰に会ったのか探し
「あぁこの子だよ」
と指を指したのは、白き翼のメンバーでもなく、行方知らずの一般人組でもなく
────夏美であった。
「え?」
「へ?」
「はぁ?」
「な、夏美さん?」
「夏美姉ちゃん?」
「そばかすが可愛い子だったから間違いないけど、前の通りで何か男達とモメていたかなぁ。他にも女の子がいたか……そういえばチラッと見えたけど、確かこの子も一緒だったかなぁ。その後馬車に乗り込んでいったよ。奴隷商人にでも捕まったんじゃなければいいだが……」
そう言ってマスターがもう1人を指さした。
その子は……亜子であった。
その瞬間、ネギ達は店が揺れるほど大声を出し、マギはがらりと雰囲気を変えて黙り込んでしまうのであった。
あの後、ネギ達は散らばり待ちの住民や旅人に、夏美や亜子の情報を聞いて回っていった。
聞いて行くにつれ、色々な情報を手に入れることが出来た。そしてもう一度あの酒場に戻って情報を纏めることにした。
「纏めると、夏美姉ちゃんと亜子姉ちゃんらしき人物が奴隷商人の一団に連れ去られた。行先は南のグラニクスっちゅう港町や」
「目撃者によれば他にも女の子がいたらしいのですが、誰かは不明です。ただ内1人が病気であったという事です」
「ということは、先程拾ったバッジは亜子さんの物っていうことですわね……」
「さて、ネギどないするんや?」
「行くしかないでしょう! 助けない理由がありません!」
「だな。しっかしまさか奴隷商人に捕まるとか、日本じゃあり得ない奴に捕まるなんてな」
皆、迷いもなく決まっていた。
「しかしまさか夏美さんまでもがこっちに来ていたなんて、私はてっきり裕奈さんとまき絵さんと風香さん史伽さんアキラさんだけだと思っておりました」
「まっさか夏美姉ちゃんまでもがな……まぁ悩んでいる暇なんてないな。さっさと行くで!!」
マギ達は港町グラニクスへ出発することにしたが、その前にマギがネギに待ったをかけた。
「皆、先に言っておきたい。その奴隷商人っていうクソ野郎が亜子に酷い事をしていたら……俺は自分を抑えられる自信がない。下手したらそいつを殺してしまうかもしれない。そうなったら俺の首を遠慮なく刎ねてくれ。首を斬られても俺は死なない。亜子の前で俺は、人殺しにはなりたくない」
現に今、マギは体から殺気が漏れている。マギ自身抑えようとしているが、亜子が奴隷商人に捕まっていると聞いてからは、やっとこさ自分を抑えている状態であった。
「任せろそうなったら私が止めてやる。坊ややコタロ―ではお前を止めるのは厳しいかもしれないからな」
『私も尽力します。私なら多少無理をしても問題ありません』
「なに勝手な事を言ってるんだよマギウス! でも、そうだな、あたしもマギさんが人殺しになる所なんて見たくない。そうなったら荒っぽく止めてやるよ。マギウスがな」
「僕だって兄さんが非道な事をするのを黙って見ているわけないよ。僕が傷ついてでも兄さんを止めるよ」
「俺やってマギ兄ちゃんが人殺すとこなんて見とうないわ。そん時はぶん殴ってでも止めてやるわ」
「私は皆さんみたいに力はありません。ですが、言葉でマギ先生を止めますわ」
「私もマギさんを傷つけて止めるのは正直言えば出来ません。ですがマギさんを傷つけないで止めてみせます」
「皆……ありがとう」
マギは深々と頭を下げる。少しだけだが、マギの殺気も薄れているように感じる。そして改めて酒場を後にしようとする。
「もう行くのかい? 店の修理を手伝ってくれてありがとな」
「いえ、マスターも情報をありがとうございました」
ネギが代表してマスターにお礼を言った。
「グラニクスは此処よりも治安が悪い。気を付けてな」
「はい。あの、マスター。昔、この街にサウザンドマスターが来たことがあったんですよね?」
「あぁ、18.9年前だったかな。その時彼は放浪していてね。あぁ、その時風の噂で聞いたんだけど、一時、サウザンドマスターは背中に赤子を背負って旅をしてたって聞いたな。時折綺麗なお嬢さんが赤ん坊を背負って喧嘩をしてるサウザンドマスターを っていたけど、あのお嬢さんはサウザンドマスターの奥さんだったのかな」
(お兄ちゃんだ。父さんはこの世界でお兄ちゃんを連れて旅をしてたんだ。それにお嬢さんってもしかして母さんも一緒だったのかな……)
マギは一応今年で18歳だ。逆算するとマギは赤ん坊の頃にこの世界に居て、暫くしてからウェールズに預けたのだろう。ナギの過去の話を聞いて、マギと雪姫はピクリと反応した。
「それで父……彼は、どんな人だったんですか?」
「そうだね。彼はこんな辺境でも名は知られていたし、戦を終わらせた英雄ってことで、どんな切れ者かと思ったんだが、うん、そうだな……バカっぽい奴だったよ」
バカっぽい奴、それを聞いて雪姫は少し噴き出していた。まさかナギの事を知ることが出来るとは思わなかったネギは改めてマスターにお礼を言う。
「ありがとうございます。彼の事を聞けて良かったです」
「いいってことよ。君らはどこかサウザンドマスターに似ているな。仲間が奴隷商人に捕まって辛いだろうが、気持ちを楽にして頑張れよ」
「はい! ありがとうございます!」
「ありがとうなマスター。達者でな」
と今度こそ酒場を後にするマギ達であった。
「……ふっ。中々、面白い奴らだったな」
マスターは小さく微笑みグラスを拭き、次のお客を待つのであった。