ヘルマンら悪魔達を撃退したマギ。悪魔襲来後は特に大きな問題もなく、各々自由に過ごしていた。
のどか、夕映、千雨、亜子らは校長が
「せっかくだから魔法について、色々と教えようか?」
と提案してくれて、校長による特別授業が開かれることになった。
校長の授業は厳しいものであったが、やはり学校の校長という事もあって分かりやすく教えてくれたことによってのどか達は麻帆良に居た頃よりもレベルが上がったのだ。
プールスはネカネと共に買い物に行ったり、遊んだりしていた。ネカネはプールスがスライムの女の子でも普通に接してくれている。ネカネ自身も新しい妹が出来て嬉しいとのことだった。
そしてマギと雪姫はというと……
「なぁエヴァ、なんで俺……釣りなんかしてるんだ?」
マギは現在雪姫と一緒に池で釣りをしていた。
「ここに居た時のマギはここで釣りをしていたようだ。なら、ここで釣りをしていれば心が落ち着くかと思ってな」
マギは日本で来る前のルーティンを行っていた。朝起きてのびのびと釣りをして軽く体を動かしてご飯を食べて寝るを繰り返している。
「お前はあの悪魔と戦った時にあの魔法を使ったからな。今は魔法世界に行くまでは心と体を安静しておけ。それに今日には坊やがこっちに来るんだからな。あまり坊やを心配させるようなことはするなよ」
「あぁ、分かったよ。エヴァの言う通りにするよ」
そう言って釣り糸を垂らしていると
「お兄ちゃん!!」
とネギが手を振りながらこちらに駆けてきて来る。
「おぉネギ。数日ぶりに会ったのになんか懐かしく感じるな」
「そうだね。お兄ちゃんが元気そうで何よりだよ」
「なんかあやか達が来たって聞いたが、何でだ?ばれたのか?」
「いや、ばれたんじゃなくてあやかさん達が自主的にこっちに来たというか……」
「流石はいいんちょだな。直ぐに行動に移すとは」
微笑みながらネギの頭を撫でる。ネギも嬉しそうに微笑んでいたが、直ぐに暗い表情になってしまう。
「お姉ちゃんから聞いたよ。あの悪魔のおじさんが来たんだってね。僕もいればお兄ちゃんの手伝いが出来たのに、ごめん」
「大丈夫さ。なんやかんやで俺1人で解決したし、ネギが気に病む必要はないさ」
「それに坊やはトラウマを刺激されて足手纏いになっていたかもしれないな」
「うぅ、師匠そんなぁ」
雪姫にすぱっと切られてしょんぼりするネギに再度ありがとなと言いながら頭を撫でてあげる。
と微笑ましい光景が描かれていたが……
「こらぁ!!マギィ!!」
赤髪ツインテールの少女がマギに向かって駆けていき、そのまま飛び蹴りを放ってきた。
「おわっ、あぶね」
思わず顔を横にずらして赤髪の少女、アーニャの飛び蹴りを躱す。
「へ?うきゃぁ!?」
まさかマギに避けられると思わなかったアーニャは変な声を出した後に悲鳴を挙げて大きな水柱を出しながら盛大に池へ飛び込んでいった。
「あっアーニャ!?」
「おぉ、随分元気なご挨拶だな。大丈夫か?」
沈んでいったアーニャを心配そうに見ていると、またも巨大な水柱が上がり、そこからアーニャが飛び出してきた。
「あっあんたねぇ!避けるってどういうつもりよ!?ここは詫びの1つとして1発もらうのが礼儀でしょうが!!」
「どんな礼儀なんだそれは」
アーニャの無茶な要望にツッコミを入れるマギはううんと首を傾げる。
「なんか前だったら相手の顔を見たらその相手が誰かっていうのは分かるはずなのに、全然分からないぞ。俺って余り面識なかったのか?」
「そう言えば、お兄ちゃんはアーニャとはあまり会って無かったよね。会うのは何か大事な日な時だけだったし、基本お兄ちゃん此処に居た時は1人でいることが多かったし」
「何よそれ!?私は別に覚えていなくても問題ないってことなの!?」
「あーなんか悪いな」
地団太踏むアーニャに頭を下げるマギ。
「そう言う事だ。お前の立場が分かったら早くマギと私の空間から立ち去るんだな」
「うっさいわね!それよりもあんた誰なのよ!?」
雪姫に噛みつくアーニャにネギは慌てる。
「誰だって?私は坊やとマギの大事なお師匠様さ」
「ネギとマギの師匠ですって?って言う事はあんたが悪名高いエヴァンジェリンっていうの!?うっそ!私が聞いたのはエヴァンジェリンって私やネギよりも小さいちんちくりんの女の子って聞いたわよ」
ちんちくりんと聞いた瞬間、雪姫から殺気が漏れ、雪姫の周りの空気が数度下がった。
「ほぉこの私をちんちくりんのガキと言ったか。誰から聞いたのやら」
「えっえっと、アスナってネギと一緒に暮らしてる女からです」
雪姫の殺気に中てられ簡単に口を割ったアーニャ。アスナの最期が今日に決まった。
「そっそれで!お兄ちゃんは一体何をやってるの?」
「ん?あぁ、見ての通り釣りさ。過去の俺のやっていたことを再現していれば少しは気でも落ち着くかもなってな」
話題をそらすネギにマギも答える。こうして何時までも釣りをしているのもあれという事で、マギは釣り糸を上げ、切り上げることにした。
帰り道の道中、アーニャはマギに
「ねぇマギ、アンタも魔法世界に行くのよね?」
「あぁ、そのつもりだが」
「怖くないの?魔法世界ってこっちよりも危険がいっぱいなのよ?それにアンタより強い奴だって大勢居るはずよ」
「そうだな。だからこそ、負けないために強くなった積りだ」
「アンタが強くなったからって、アンタを慕ってる人が護れなかったら意味ないわよ。そこんトコロ分かってるの?」
「耳が痛い話だな。ベストを尽くすなんて言わない。俺はのどか達を護るために、残りの人生全てを賭けた。大切な人を護れなかった人生に意味はないからな」
「残りの人生って、ネギに聞いたけど、アンタもう不死身の存在になったんでしょ?残りの人生なんて無限にあるようなもんじゃない」
「それでも賭けるさ。それぐらい賭けなければ俺の覚悟をしってもらえないと思ったからな」
マギの目を見て、マギが酔狂や伊達で言っているつもりではないという事は理解したようだ。
「エヴァンジェリンだったかしら?」
「雪姫と呼べ、マギ以外で今はその名前を呼ぶことは禁じている」
「あらそうなの?まぁどうでもいいわ。アンタマギとネギの師匠なのよね?だったらマギとネギが無茶しないようにしっかり見張ってなさいよ。この兄弟性格は似てないけど内側はそっくりだから、平気で無茶なんかするんだからね」
「ふん、貴様に言われなくても、そんなこと……十分に承知してるさ」
「だったらいいわ。これ以上あーだこーだ言うつもりはないわ。ただ1つ、絶対に無茶なんてするんじゃないわよ」
などと話していると、うちに到着した。家の前ではアスナが待っていた。
「やっと帰ってきたわ。もうすぐ夕飯の時間よ。早く手を洗って――――ってどうしたのエヴァちゃん?なんでそんなに怒ってるの?」
「今の私は雪姫と呼べ。何、久しぶりに会ったんだ。貴様に特別メニューをご馳走してやる。拒否権はないぞ」
と夕食前にアスナは雪姫の八つ当たりの餌食となり、夕暮れの村にアスナの悲鳴が響いたのであった。
夕食を食べたのちに、ネギとマギは校長に連れられ、学園のある一室に案内された。
校長が扉を開けると、そこにはかつて村が悪魔に襲われた際に迎撃しようとし石化された村人たちが鎮座していた。そしてその中にはネカネの父であり、ネギとマギの叔父もおり
「スタンおじいちゃん、おじさん……」
「じいさん……」
幼いネギとマギを護るために自ら盾となった老人スタンもそこにいた。
「魔法世界に行くならスタンにもしっかり挨拶をしておけ」
石になったスタンを改めて見て言葉を失うネギとマギ
「まったく邪魔よ。黙っているならどいてちょうだい」
マギとネギを押しのけて、アーニャは石になった村人の1人の女性に近づき石像についている汚れやほこりを綺麗に掃除を始めた。
「じーさん、もしかしなくてもあの石像って」
「うむ。アーニャの母じゃ」
ほこりをかぶってもアーニャは母親の石像を大事に拭いている。
そんなアーニャを見て、ネギも覚悟が決まったかスタンと向き合った。
「スタンおじいちゃん。いえスタンさん。貴方が僕やお兄ちゃんを護ってくれて、もう6年が経ちました。貴方達のおかげで、今僕はここに居ます。貴方達のおかげで僕は、前にすすむことが出来ました。ありがとうございます」
「じいさん。俺はじいさんの事と何があったかは覚えてない。もしかして俺はじいさんとはそりが合わなかったのか、仲良かったのか……でもネギの言う通り俺たちはじいさん達のおかげで今がある」
そう言ってマギとネギは頭を下げた。
「だから……行ってきます。帰ってきたときには出来れば父さんを連れて帰ってきますね」
「そん時はじいさんもクソ親父に言いたいことがあるかもしれないから、見つけたら首根っこ引っ張って持って帰ってくるよ」
マギとネギは何も言わないスタンに今までの事を少しずつ話していった。
「スタン達を見て決意が揺らぐかと思ったが、杞憂に終わったようだな」
「当然だ。マギはともかく坊やはこの私が育てたんだ。簡単に折れるようには仕込んでいないさ」
校長と何時の間にか来た雪姫はスタンに話し続けるマギとネギを見ながらそう話している。
「……この前に悪魔を召還したあの男だが、どこの奴かは検討はついている」
「まあこっちもどこの奴らかは予想済みじゃ。うちの者達にした仕打ち、そのつけを払ってもらわんとな」
「心配するな。それはマギと坊やがしっかりとやってくれるさ」
と雪姫と校長が話している間にマギとネギはアーニャと一緒にスタン達を綺麗するために掃除を続けていると
「ネギ、アタシ達も手伝うわよ」
「マギさん。私達にもやらせてください」
アスナやのどか達もやってきてマギ達を手伝い始めた。
「これ、ここは一応関係者は立ち入り禁止なのじゃがな」
「私が呼んだのよおじいちゃん。それにみんなネギとマギに協力してるなら立派な関係者でしょ。人手が多い方が助かるんだから」
そう言ってアーニャがアスナ達に指示を出しながらテキパキと掃除をするのだった。
「どの子もいい子じゃのう」
「ふん、この私には足元にも及ばんがな」
こうしてスタン達を2時間ぐらいかけて綺麗に掃除をするのだった。
翌日の早朝、遂に魔法世界に出発する日である。
マギはまだ朝日の上らない中、村が一望できる草原に立っていた。
「当分、この村を見る事ないからな。この光景を目に焼き付けておきたいな……」
とマギが呟いていると
「マギさん」
と呼ぶ声が聞こえ振り返ると千鶴がこちらに歩み寄ってきた。
「どうしたんだ?」
「これを、渡しておきたくて」
そう言って千鶴がマギに渡したのはお守りであった。
「これは?」
「とある有名な神社のお守りです。マギさんが無事に帰ってこれるように御祈禱もしてきました。どうぞ」
お守りを手渡す千鶴にありがとうとお礼を言うマギ
「でもどうして」
「……本当は私も行きたかった。ですが、私が行っても足手纏いになると思いました。だったらせめて、無事をお祈りするしか出来ないとそう思った次第です」
千鶴の想いを確かに受け取って、マギは大事にお守りをしまった。
「ありがとう千鶴。確かに受け取ったよ」
「……ねぇマギさん。少し屈んでくれますか?」
「?あぁ、これでいい――――」
マギが屈んだ瞬間、千鶴はマギの口に口付けをした。急に千鶴に唇を奪われた事に思わず呆然としていると
「これも無事をお祈りするおまじないです」
としてやったりとウィンクをする千鶴はそのまま走り去りながら、一度振り返り手を振りながら
「無事に帰ってきたら、お返し期待していますね!」
と言い今度こそ走り去ってしまった。まだ呆然としているマギの背後に雪姫が立っている事にも気づけなかった。
「随分と素敵な贈り物をもらったようだな」
と不機嫌な様子を見せていたが
「エヴァ、絶対に皆で無事に帰ってこような」
マギの真剣な表情に、形だけの不機嫌を止めた雪姫は
「何を言ってる。この私がいるんだ。絶対に無事に帰ってこれるに決まってるだろう」
「……そうだな。そうに決まってる」
決意を新たにし、マギと雪姫は皆が待ってる集合場所へと足を運んで行ったのであった。