のどか達がジャングルでサバイバル修行を行っている最中、マギは雪山にてエヴァンジェリンと対峙をしている。
「マギ、お前はあの時の野生の獣のように戦っていた時の感覚を覚えているか?」
「あぁ。あの時は体の奥底から力が沸き上がってくる感覚が後から後から押し寄せてくる感じだった。あと少し止まるのが遅かったら呑まれてたかもな……」
あの感覚は多分一生忘れないだろうと思ったマギ。少しずつ黒マギに精神を侵され本能で暴れる獣へと変わりエヴァンジェリンを襲おうとしたのは恐怖でしかなかった。
「その獣の力を自分の武器に出来ると知ればお前はどうする?その力を物にしようとするか?」
「どういうことだ?」
マギの疑問にエヴァンジェリンは説明する。
「きっかけは暴走だが、マギは簡易的に闇の魔法を使い自身を強化した。なら暴走しない範囲で使用すれば暴走せずに強化出来る筈だ」
「でもどうやって……」
「頭の中で扉をイメージして、それをゆっくり開けてみろ。全部ではなく少しずつ少しずつ開けるイメージをしてみれば上手く行く筈だ」
「……分かった」
マギはエヴァンジェリンに言われた通り、頭の中で扉をイメージしてみた。そしてドアノブを握り少しずつ扉を引きゆっくりと開ける。
よし、上手くいきそうだと思った矢先に
『なんだぁ?随分とお早いお呼ばれじゃねぇか』
黒マギの声が聞こえ、扉の奥から闇の魔法の魔力が濁流の如く流れ出てきた。
「!?ぐっが、がああああああ!!」
頭の中で不快感が溢れ出てきそうで、マギの理性を獣性が埋め尽くそうとする。
「GAAAAAA……GAAAAAAAAAAAA!!」
咆哮しながら暴走したマギがエヴァンジェリンに襲いかかろうとするが
「リク・ラク・ラ・ラック・ライナック 来たれ氷精闇の精!!闇を従え吹雪け常夜の氷雪 闇の吹雪!!」
闇の吹雪を詠唱していたエヴァンジェリンは本気の一撃をマギに放つ。
「GAAAAAAAAAAAA!?」
悲鳴を挙げながらきりもみ回転しながら飛んでいき、雪山に激突する。
激突して暫く痙攣していたが、直ぐに起き上がった。
「俺、どうなった?」
「暴走して私に襲いかかって来たぞ」
暴走は収まったようでマギが状況を聞いて項垂れてしまう。
「こうもいとも簡単に暴走しちまうなんて。我ながら情けない」
「だがこれで用途は分かった筈だ。今はゆっくり開ける事をイメージしろ。決して気を抜くな。でないとまた直ぐに暴走するぞ」
そうしてマギは夜通し頭の中で扉を開け続け、暴走したらエヴァンジェリンの闇の吹雪で吹き飛ばされるのを続けるのだった。
翌日の朝日が登り始めた所で
「はぁはぁはぁっ」
マギの体を黒い靄のようなオーラが纏っていた。
「第一ステップを通過したな。今からその状態を維持したまま私と戦い続ける。暴走せず少しずつ出力を上げていけ。そして暴走せずにその力で戦い続けられる限界値を知るんだ」
「了解だ」
そう言いつつ近くに刺さっていたグレートソードを抜き構えるマギ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
気合いを出しながらエヴァンジェリンに向かって行った。そして自分でも驚く
(体が何時もより軽い!)
自身の体が軽く感じる。そしてグレートソードも軽く持ててしまっている。この擬似闇の魔法のお陰でマギに力がついた事に改めて実感する。
それと同時に一種の快感が芽生え始めていた。本能のままに暴れられる力の解放に段々と抗えなくなりそして
「ふん」
「ごふぇ!?」
エヴァンジェリンの拳がマギの鳩尾にめり込み、膝から崩れ落ちた。
「漏れだしそうになっていたぞ。力の解放を常に少しずつ行うように意識しろ」
「わっ分かった」
その後も暴れそうになった時はエヴァンジェリンに止められ、少しずつものにするようにしていった。
そして1日飛んで4日目。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫びながら目を赤く光らせ、黒いオーラを纏いながらグレートソードを振るうマギ。その形相は荒々しいが目には理性がしっかり残っていた。
エヴァンジェリンは断罪の剣をマギに向かって連続で振るい何十合も打ち合う。
「うぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鍔迫り合いから思い切り押し出し、空へとエヴァンジェリンを打ち上げた。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライナック 来たれ氷精闇の精!!闇を従え吹雪け常夜の氷雪 闇の吹雪!!」
空へと打ち上げられたエヴァンジェリンは闇の吹雪をマギに向かって放つ。
「ふぅぅぅぅ………」
深く息を吐き意識を集中させ、グレートソードの刀身に闇の魔法の黒いオーラを纏わせる。
「オラァ!!」
気合いを入れながらグレートソードから黒いビームを放ち、闇の吹雪と衝突し、そのまま闇の吹雪を消滅させ、そのままエヴァンジェリンに向かっていく。
エヴァンジェリンは右に避け、そのままビームは別の雪山を消滅させてしまった。
雪原にエヴァンジェリンは降り立ち、赤い眼光のマギと睨み合い数秒
「……よし、それまでだ」
戦意を解いたエヴァンジェリンが数回大きく手を叩いた。その音に応じるかのように、赤い眼光は消え黒い靄のオーラを霧散させたマギがグレートソードを突き刺し大きく深呼吸をする。
「たった2日でよくものにしたな。流石だな」
「はは、エヴァの教えがとても良かったおかげ……だ」
最後まで言いきれずに座り込んでしまった。かなり体力を消費しているようだ。
「まだかなり飛ばしすぎているようだな。今後は魔力の消費を最低限に抑え、小出しにしていくのがいいだろう」
「分かった。善処するよ」
そう言ってグレートソードを肩に担ぐ。こうやって肩に担ぐスタイルが落ち着くようだ。
「一時的に闇の魔法で狂戦士のような戦い方をする……SWITCH ON BERSERKERと名付けよう。そして強化する時はレベル10、20、30と繰り上げていけ。今はレベル40が限界だな。それを越えると意識を闇の魔法に持っていかれるだろう」
「分かった。強化する時はレベル40までにする。それは絶対だ」
そう固く誓っていると、茶々丸から念話で連絡が来た。念話の最中は鼻で笑っていたが、終えると舌打ちをした。
「どうやらあっちの修行でトラブルが発生したようだ。転移魔法も使えないようだ。今から茶々丸の影を伝って転移する」
トラブルと聞いて、マギの感覚がゾワリとした。のどか達が危ない目に会っている所を想像してしまい、いてもたってもいられない。
「エヴァ、俺も行きたい。のどか達が危険な目に会っているのに何もしないなんて出来ない」
「まぁ良いだろう。お前の修行の成果を発揮させる良い機会だろう。着いてこい」
エヴァにお礼を言い、マギはエヴァンジェリンの影の転移魔法でのどか達の元へ向かったのだ。
「……それでエヴァの転移魔法でのどか達の元へ飛んで来てあの黒騎士を倒したってことさ」
話しは今の時間に戻り、マギやエヴァンジェリン、のどか達は別荘の中央地点にある城に戻ってきていた。
「でも、間に合って良かった。君達に何かあれば……」
「無事で本当によかったレス」
合流したプールスものどか達が無事な事をほっとした表情を浮かべていた。
「あたしらも確かに危なかったけどさ、マギさんアンタは大丈夫なのかよ?黒騎士を倒したあの姿、まともな感じじゃないだろ。あれは一種のドーピングみたいなものじゃないのか?」
「そうだな。一応限界値はレベル40でこれ以上上はまだ見たことない領域だ。けど、レベル40が獣と人とのギリギリの境界線だ。余りレベルを上げすぎて獣の領域が多くなれば暴走する可能性は高くなるだろうな……」
ガントレットを何回か開閉しながら呟くマギを見てのどか達はマギの身を案じる。
「マギを心配するならもっとお前達は自身を強めることだな」
そう言ってエヴァンジェリンはのどか達を見る。
「まぁまずは無事に修行を終えた事を誉めてやろう。よくやったな」
上から目線の称賛を送るエヴァンジェリン。しかしと続ける。
「どうやらお前達は近接格闘を覚えた方がいいようだな。敵に近付かれてしまったらどうしようもなくなってしまったら話しにならないからな。修行の第二段階は近接格闘だ。この修行は私が付きっきりで行う」
エヴァンジェリンが付きっきりと言った瞬間、のどかや夕映は戦慄を覚えた。エヴァンジェリンのことだ。絶対優しく手心をくわえることは一切ないだろう。
「私の修行は厳しいぞ。骨が折れて砕けようが続ける積もりだ。まぁ酷い時は近衛木乃香に治療させてやる。怖じ気ついたか?尻尾を巻いて逃げても私は笑わないから安心しろ」
逃げても良いんだぞ?とエヴァンジェリンが目で語っていたが、のどか達は逃げる様子は一切見せない。
「……いいだろう。明日から開始する。容赦なく行うから覚悟しておけ」
こうして明日からまた新しい修行が始まるのだった。