修行3日目。気絶するように眠ってしまったのどか達。起きたのは正午を過ぎた位だ。そしてのどか達は衝撃の事実を茶々丸から聞かされる。
『転移の魔方陣が書かれた場所が無くなった!?』
「はい。どうやら昨日の黒い極光によって、あらゆる場所が破壊されたようです。その中に転移の魔方陣が書かれた場所も」
のどか達が寝ている間に被害がどのくらいかを確認するために周囲の状況を見て回った茶々丸。そしてその中に初日にこのジャングルに来た時に使用した魔方陣が書かれた入口が無惨な事になっていたと言う。
「じゃああたしら謂わば遭難したって扱いか!?もう此処から出ることが出来ないのかよ!?」
「いえ、マスターは影をつたって移動する術を持っています。何かあったときはマスターが私の影を伝って来てくだされば改めて転移の魔方陣を書いて頂ければ出ることが出来ます」
「ねっねぇ茶々丸さんはテレパシーみたいなのでエヴァンジェリンさんを呼ぶことは出来んの?」
「いえ、どうやらマスターが外部との連絡を断ってしまっているのかノイズのような雑音だけしか聞こえません。マスターを今すぐ呼ぶのは難しいかと……」
昨日は頑張ろうと決意を改めていたが、ビームよってログハウスが揺れ続けた結果恐怖が上書きされてしまった。このまま恐怖で一歩も動けなくなってしまうのか……
「ねーねー何でどっかのやさい王子みたいにもうだめだぁ、おしまいだぁ状態になってるの?私らつい最近に死ぬような目に会ってるんだからさ、もっとリラックスしよーよ」
ハルナは呑気に言いながらスケッチブックに自身のマンガのアイデアを書きなぐっていた。
「何でお前はそんなにゆっくりしてるんだよ早乙女!?昨日だってあんなに揺れて死ぬかと思ったんだぞあたしは!!」
「だってさエヴァンジェリンが張った結界が私が作った黒騎士で簡単に壊されると思ってなかったし、まダイジョブでしょって」
凄く呑気な返答にええと引き気味の千雨。なんやかんや言ってハルナはかなり肝が据わっている少女だ。
「それでどうする?選択肢は2つ。1、明日の最終日までこのログハウスに引きこもっているか。2、神殿の宝をゲットして早めに修行を終わらせるか。私としては2をおすすめするけどね。まぁエヴァンジェリンの事だから1を選んだらのどか達を魔法世界には連れて行かないだろうね。怖じ気ついた者は足手まといとか言って」
ハルナの言う通り、エヴァンジェリンは戦わずに最終日まで引きこもっている者を魔法世界には連れて行かないだろう。
昨日も言っていたではないか、自分達が向かう場所は死地と隣り合わせのような世界。自分達がマギの力になりたいとそう思い、自分達から危険な世界に足を運んだのだ。
「……あぁ怖いけど、正直引きこもっていたいけどやるしかねーか!!」
「うん」
「はいです!」
「最後まで諦めたくないから!」
昨日折れかけた覚悟を完了させたのどか達。こうしてあの黒騎士に挑むことにしたのだ。
神殿は黒騎士が地面に大剣を刺して佇んでいた。黒騎士は動じず、神殿に来る者達を排除するだけだ。
「おい黒騎士野郎!!」
自分を呼ぶ声が聞こえ、声が聞こえた方を見ると千雨と木の守護者に亜子が居た。
「それじゃ亜子さん、頼む」
「うん、歌魔法『戦の歌』~♪」
亜子が戦の歌を歌い千雨と亜子の身体能力が上がる。
「行け木の守護者ィ!!」
木の守護者に黒騎士に近づく様に念じる。黒騎士も地面から剣を抜き構える。そして間合いに入ってきた木の守護者に向かって横凪に大剣を振るう。
「今だ!」
千雨は木の守護者に避けるように念じ、木の守護者はスライディングのように横凪に振るわれた大剣を避ける。そしてついでに黒騎士の脛に木の守護者の足を当てる。
かんと乾いた音が聞こえるが、黒騎士にダメージというダメージは一切ない。そのまま黒騎士は大剣を舌に振り下ろし木の守護者を砕こうとするが、千雨は木の守護者に横に転がりながら大剣を避け、起き上がるのと同時にカエルパンチ黒騎士の顔面に当てるが、やはり乾いた音がするだけで黒騎士が堪えている様子はない。
黒騎士は木の守護者に横凪に振るう剣技や振り上げ振り下ろし、袈裟斬りに突き攻撃、時折回転斬りを繰り出す。木の守護者に全て避けるように念じ時折ダメージにならない攻撃をするように念じる千雨。
何故千雨と亜子がここにいるのか、それは黒騎士の攻撃パターンを見て覚えるためだ。やっていることは昨日のリザードマンバーサーカーと同じ。違うのは一回でも攻撃が当たってしまったらアウトと言うところだろう。
しかしいくら強い黒騎士でも生き物ではない。パターンさえ分かってしまえば幾らでも対処は出来る。気分は高難易度のアクションゲームだなと思った千雨である。
そして攻撃パターンが全て出しきった所で木の守護者は一気に後ろに下がる。
「よし、退避ぃ!!」
千雨の掛け声で神殿を後にする千雨と亜子。戦の歌によって身体能力が上がったことにより、直ぐに神殿を後にすることが出来た。
しかし、千雨達が神殿から出たということはあのビームがやって来るということだ。大剣の刀身から黒い極光のオーラが出て来始めた。そして千雨達がいる場所に向かってビームを放つ。
「っ!!伏せろ!!」
千雨と亜子と木の守護者は伏せる。その後直ぐに黒いビームが千雨達の頭上を通過していった。
そして何度か放たれたビームを辛うじて避けながら、千雨達はログハウスに帰還した。帰還した後もログハウスにビームが直撃するが、エヴァンジェリンが張った結界のお陰でびくともしない。
「大丈夫千雨ちゃん?」
「……正直、生きた心地がしない。けど、しっかり役割は果たしたぜ」
そう言って亜子が棒人間が書かれた紙をのどか達に見せる。それは黒騎士の攻撃パターンが棒人間として書かれていた。亜子はサッカークラブで棒人間で動きの研究をしていた。それを黒騎士の攻撃パターンに応用したのだ。
「結構雑に書いたんやけど、大丈夫かな?」
「ダイジョブダイジョブ。これをこうしてちょちょいのちょい♪」
亜子が描いた棒人間をスケッチブックで正確に書き直していくハルナ。その精巧さに今まさに動きだそうな躍動感を感じられる。これを見て、パターンを研究。明日、自分達があの黒騎士を出し抜き神殿の宝を手に入れ修行を完了させるために。
黒騎士の攻略の作戦決めは日付が変わるギリギリまでに行われたのだった。
そしてのどか達は4日目に神殿、黒騎士と最後の対峙をする。
「大丈夫ですか私が助力しなくても?」
「私もゴーレム1体位は召喚出来るけど?」
「ううん。これは私達がやらなきゃいけないことだから。だから茶々丸さんやハルナは手を出さないで」
「私達の修行なのですから、私達が決着を着けなければいけないです」
茶々丸とハルナの助太刀を拒むのどか達。しっかり対策はしてきた。後は実戦で試すだけだ。亜子があんちょこ本のページをめくり止めた。
「行くよ!歌魔法『獅子奮迅の歌』~~!!♪」
亜子はシャウトした。普段の亜子ではイメージ出来ない雄叫びの如く歌い出す。その瞬間、皆の身体能力は戦の歌以上に上がっているのを感じる。
獅子奮迅の歌。戦の歌の上位互換になる魔法。その歌を聴いた者は戦の歌の倍以上の力を身につける事が出来る。ただデメリットは強化してくれる時間が短いことと
「はぁ……!はぁはぁ……!!これ、結構、きっつい……!!」
亜子がバテそうになってしまうことだ。獅子奮迅の歌は亜子の魔力かなり消費させてしまう。決着は早めにつけるしかない。
そして作戦は至ってシンプル『4人で黒騎士をボコり怯んでいる隙に宝を手に入れよう』という簡単に思い付くような作戦だ。
だが、今は変に奇策に講じるよりかはシンプルな方が良いだろう。
黒騎士が大剣を構える。臨戦態勢は整っているようだ。ならこっちも応えてやろう。
「木の守護者ィ!!」
千雨が木の守護者に突っ込むように念じ、木の守護者は黒騎士に向かって突っ込む。
黒騎士は大剣を横凪に振る。しかし大剣は木の守護者に当たらず空を切る。木の守護者が上に跳躍したからだ。
「悪いがその攻撃は食らわないぞ!」
木の守護者の飛び蹴りが黒騎士の顔面に直撃する。大したダメージは入っていないようだが、数歩下がりよろける黒騎士。
「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ」
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ」
詠唱しながら黒騎士に近付くのどかと夕映。
「来れ 虚無の炎 切り裂け 炎の大剣!!」
「来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!」
炎の大剣と雷の斧が黒騎士に直撃する。雷と炎が直撃し、黒煙が黒騎士の体から昇る。今度はのどかと夕映に狙いを付け大剣を振り下ろそうとするが
「おらぁ!!」
木の守護者が黒騎士に接近し、がら空きになっている脇腹めがけて思い切り殴り飛ばした。意識外からの攻撃によろけそうになった黒騎士はまたも木の守護者に攻撃をしようとしたが
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!」
またも夕映の雷の斧が黒騎士に直撃し、明らかにダメージが入っているのが目に見えて分かるようになった。今度は夕映に突き攻撃をしようとしたが
「えーーい!!」
今度は亜子がサッカーボール大の瓦礫を黒騎士目掛けてキックをする。本来ならこんな瓦礫を蹴れば足の骨など簡単に砕けてしまうが、身体能力が向上しているお陰でいつもサッカーボールを蹴るように簡単に蹴れる。
高速で蹴られた瓦礫は正確に黒騎士の顔面を捉えた。行きなり瓦礫が顔面に直撃し面食らったのか手で顔を覆う仕草を見せる黒騎士。
そして今度は亜子にターゲットを絞り向かおうとするが
「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来れ 虚無の炎 切り裂け 炎の大剣!!」
またものどかの炎の大剣が黒騎士を斬り付ける。さらに
「オラオラオラオラララオラァ!!」
木の守護者の高速ラッシュが黒騎士の胴体に抉り混むように入っていく。
誰かが攻撃し、黒騎士が狙いを付けたらまた別の誰かが黒騎士を攻撃する。スイッチのように次から次へと移り変わる戦略で黒騎士を翻弄し、黒騎士は先程から攻撃できずにいた。
巨大な大剣を振るうことが出来ずに、遂に片膝をついてしまう黒騎士。今こそ好機と判断したのどかと夕映が大技を仕掛ける。
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来たれ雷精風の精!!」
「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来たれ炎精闇の精!!」
「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」
「闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎」
「雷の暴風!!」
「闇の業火!!」
のどかと夕映の雷の暴風と闇の業火が放たれる。黒騎士は大剣を盾にして雷の暴風と闇の業火を防ごうとするが、踏ん張りが足らず、そのまま魔力の奔流に呑まれてしまった。
雷の暴風と闇の業火が晴れると、黒騎士は仰向けで倒れている。まだ消滅していないところを見るとまだ体力は残っているもだろう。
しかし今なら黒騎士の邪魔もなく神殿の宝を手に入れる事が出来るだろう。
「今がチャンスだ!今のうちに宝をゲットするぞ!!」
千雨の指示に皆が頷き、神殿の階段を登る。
………しかしのどか達は失念していた。この作戦『完膚なきまでに黒騎士を倒す』といった作戦ならばもっと安心して宝をゲットしてエヴァンジェリンを向かい入れていただろうに。
黒騎士から爆発のような轟音がし、皆は一斉に黒騎士の方を見る。
黒騎士の甲冑や兜にひびが入り砕けるとそのまま地面へと落ち
て漆黒の影のような体や顔が露になった。残った鎧は手と足と腰だけになり、いかにも身軽でありそうだ。巨大で武骨だった大剣ではなく、一回り小さい両手剣に変わっている。
黒目がなく白目しかない顔をのどか達に向けると次の瞬間黒いオーラを放出し体を覆う黒騎士。
「……おい、もしかしてあれって"第二形態"とかそう言った類いかよ?」
冷や汗を流しながらポツリと呟く千雨にハルナが
「あー、うん、そうだよ。因みに第二形態になると身軽になってバンバンビームを打ってくるから気をつけてねー」
「おっま!ふざけんなよ!!それを聞いてたら第二形態なんてさせずに倒す作戦を考えてたわ!!」
ハルナの遅れての報告に千雨は恨み節を延々と叫びたくなったが、今は早く宝を手に入れることが先決だ。
直ぐに階段を登るのを再開しようとしたが、黒騎士が一瞬で消えたと思いきや、のどか達の目の前に立ち塞がった。
両手剣に魔力を纏わせ、ビームを放とうとしたその時
「うおぉら!!」
やけくそ気味に叫びながら、千雨が木の守護者にタックルを命じ、木の守護者は黒騎士にタックルし、そのまま階段を一番下まで転げ落ちる黒騎士と木の守護者について行くように階段を駆け降りる千雨。
「こいつの相手はあたしがやる!!あんたらは今のうちに宝をゲットしてくれ!!正直持ちこたえて1分あるかないか位だから!!」
『千雨さん(ちゃん)!!』
鬱陶しいと言わんばかりに黒騎士は纏わりついている木の守護者を殴り飛ばした。殴られた胴体は歪に凹み、木屑が小さく舞った。
直ぐに起き上がるように木の守護者に念じる千雨。だが生まれたての小鹿のように足を震わせながら鈍重な動きで起き上がる木の守護者。
木の守護者をほっとき、黒騎士は階段を登り続けるのどか達に狙いをつけて両手剣にビームを纏わせ放とうとする。
「させるかぁ!!」
黒騎士にドロップキックを当てる木の守護者。だが攻撃を当てる度に動きが鈍くなっていく木の守護者。
鬱陶しく感じたのか、体を反転させて千雨と木の守護者に黒騎士はビームを放つ。
千雨はとっさに横に飛びビームを避けたが、木の守護者は避けることが出来ずに左腕に左脚が消滅し倒れてしまった。
直ぐに起き上がるように念じるが、ダメージプラス腕と脚が無くなったせいで思うように動かせない。
動けなくなった木の守護者に近付く黒騎士は両手剣を振り下ろし、胴体を両断した。上半身と下半身が離れたことによって千雨と木の守護者の繋がりも切れてしまったのか念じても動きはしなかった。
たった4日と短い日数であったが、半身のように自分を護ってくれた木の守護者の最期に悲しさや悔しさの感情が沸き上がる千雨。
そんな千雨にゆっくりと近付く黒騎士は剣先を千雨に向ける。『今からお前を斬る』と言いたげな黒騎士の目を見て千雨は諦めの色を見せる。
そして振り上げた両手剣を振り下ろそうとするのをジェット噴射のドロップキックで阻止した茶々丸と神殿の宝をゲットしたもはほぼ同時だった。
瞬間にファンファーレが鳴り響いた。今この瞬間をもってのどか達のサバイバル修行は終了した。のだが……
「やはり、止まってはくれませんか……!」
黒騎士の両手剣をビームサーベルで防ぐ茶々丸。修行が終わっても黒騎士は止まる様子を見せなかった。
『おい茶々丸。修行が終わったようだからそっちに行こうとしたが転移しないぞ。どういうことだ?』
「マスター、実は……」
念話をしてきたエヴァンジェリンにこちらのアクシデントを伝えると、ふっと笑い声が聞こえてきた。
『どうやら面白い展開になっているようだな。分かった。2分持ちこたえろ。影の転移でそっちに行く。私が来るまでくたばるんじゃないぞ』
そう言い残して念話を切ったエヴァンジェリン。2分、2分持ちこたえればエヴァンジェリンが助けに来てくれる。勝機は見えてきた。
だが茶々丸が鍔迫り合いをしていた黒騎士を蹴り飛ばしたあと直ぐにガトリングを展開し全弾を放ちそのまま片膝をついてしまった。
「茶々丸さん!!」
「申し訳ありません千雨さん。先程のジェット噴射と攻撃によって私のエネルギーはほぼゼロになってしまいました。今の私はただの動けない人形と同じです」
無防備な茶々丸を容赦なく蹴り飛ばす黒騎士。茶々丸は蹴り飛ばされそのままずるずる地面に倒れ混んでしまった。
のどか達の中で一番戦闘力があった茶々丸が戦闘不能になってしまった。ゆっくりとした足取りで千雨へと歩み寄っていく。
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!」
それを阻止するために夕映が詠唱しながら黒騎士に向かって雷の斧を振り下ろす。雷の斧が黒騎士に直撃し紫電が走る。だが
「………」
黒騎士は特に堪えた様子もなく、千雨ではなく夕映に狙いを変えて夕映の体に蹴りをいれた。
「かっは……!」
体から酸素が抜ける感覚に顔を歪める夕映。本来なら肋骨が折れても可笑しくはなかったが、獅子奮迅の歌によって護られているお陰で大事はなっていない。
だがダメージが全く入っていないわけではない。
「げっほ!えっほ!え……!!」
「しっかりしろ夕映さん!!」
大きく咳き込む夕映に駆け寄る千雨を一瞥して今度はのどか達がいる神殿の最上に黒騎士は跳ぶ。今度はのどかに狙いをつけ黒いオーラを纏った両手剣を横凪に振るう。
とっさに炎の障壁を展開したのどかだが威力を殺しきれずに、亜子やハルナを巻き込みながら階段を転げ落ちてしまう。
「いっつう……」
「体が、痛い……」
「うぅ……骨が折れてないのが奇跡なんだけど」
痛みに悶えているのどか達。黒騎士は最上から跳び亜子の近くに着地すると、亜子の顔に脚を狙いつけるとそのまま下ろした。
「ひ!?」
短い悲鳴を挙げながら横に転がる。亜子の顔面があった場所はそのまま黒騎士の脚によって砕けていた。あと少し避けるのが遅かったら亜子の顔もどうなっていたか分かったものじゃない。
今だ倒れているのどかに蹴りを入れて強引に立たせ、首を掴む。そしてゆっくりと力を入れていく。
「本屋ちゃん!のどかちゃん!」
「この、私が作ったゴーレムがこれ以上勝手な事をするんじゃないわよ!行け剣の女神!!」
多少魔力が戻ったハルナは剣の女神を召喚し黒騎士へ攻撃を仕掛ける。
だが剣の女神の剣を片手で持った両手剣で防いでしまい、いとも容易く斬り伏せてしまった。他愛なしと言いたげに何もなかったかのように首を締める力をこめていく黒騎士。
のどか達は確かに魔力を手に入れ、強力な魔法を使えるようになった。だが、魔力は上がったが近接格闘といった身を護る術をまだ身に付けてはいない。魔法が使えなければ無力な少女と化してしまうのだ。
首を締め続けられ意識が遠くなるのを感じたのどか。一瞬マギの微笑みを浮かぶ。
「マギさん、ごめん……なさい」
それは何の謝罪なのか、のどか自身も分からなかった。だがよく分からない謝罪でも想いは届くのだ。
「………おい、何黒い手でのどかに触ってるんだ」
怒気を孕んだ声でマギが黒騎士の腕を掴んでいた。黒騎士がマギの方を見るより早く、ガントレットの方の腕で黒騎士の横っ面を殴り飛ばしたのだ。
黒騎士の拘束がなくなり地面に落ちそうになった所をマギが横抱きで受け止める。
「悪い、のどか……もっと早くこれればこんなことにならなかったのに」
「ううん、嬉しい。マギさんにこうやって抱き留められて」
首に跡を残しながらも笑みを浮かべるのどかに一瞬だけ悲しい顔をするが、マギは直ぐに微笑みを浮かべる。
「よく頑張ったな。あとは……俺に任せろ」
そう言って背中に担いでいたグレートソードを抜いて構える。
「ふん、どうやら間に合ったようだな」
と茶々丸の影からエヴァンジェリンがぬっと現れた。ボロボロになっている千雨や夕映を見て鼻を鳴らしながら
「良い格好になっているじゃないか。お似合いだぞ」
「うっせ。というか何でマギさんもいるんだよ?」
「あいつも影の転移魔法で着いてきただけだ。のどかが危ないのを目にしたら真っ先に向かって行ったというわけだ」
千雨とエヴァンジェリンが話している間に夕映はマギの事を見ていた。マギから感じる気配に全身の産毛が逆立つのを感じた。
「エヴァンジェリンさん。マギさんは一体どうしたんです?前のマギさんとは何処か違う感じがするです」
「ほう、綾瀬お前は感じ取ったようだな。そうだ、マギは新たなステップを踏んだのだ」
グレートソードを構え黒騎士と睨み合っているマギはハルナに呼び掛ける。
「なぁハルナ。あのゴーレムお前が出した奴だろうが……あいつぶった切ってもお前にダメージは来るのか?」
「え?まぁ暴走してるし多分だいじょぶでしょ」
現に散々攻撃を黒騎士に当ててもハルナはなんともなかったから大丈夫と言いきっていいだろう。
「あぁ。それを聞いたら……思う存分やれるな」
獰猛な笑みを浮かべるマギを見て、のどか達もぞくっとした感覚を味わう。数回大きく深呼吸し精神を集中させるマギ。
「SWITCH ON BERSERKER LEVEL……40!!」
次の瞬間にはマギはグレートソードを持ちながら四つん這いになる唸り声を出しながら歯を食い縛っている。
「マギさん!?」
「来るなのどか。大丈夫だと思うが下がってろ」
そう言いつつもどこか苦しげに唸り続けるマギを心配そうに眺めていると
「UUUU……GAAAAAAAAAAAA!!」
雄叫びを挙げながら目が赤く光出した。あまりの大きさにのどか達は耳を塞ぐ。今マギは人から荒々しく猛々しい獣へと変わったのだ。
吠えながら黒騎士に向かって突撃をかます。黒騎士は動じず両手剣に黒いオーラを纏いマギに向かってビームを放つ。このままいけばマギに直撃する。
「UUUUUUUU……AAAAAAAAAAAAA!!」
叫びながらマギはビームをグレートソードで両断してしまう。あれだけ苦戦を強いられていたビームをいとも簡単に斬ってしまったことに大口を開けてしまうのどか達。
「間合いに……入ったぞ!」
ビームを切り裂き、マギは間合いに入った。
「食らえ……狂牙の乱舞!!」
まず最初にグレートソードで黒騎士の胴体を貫き、そのまま闇雲にグレートソードを振り回した。かなり重量があるであろう大剣を小枝のように振り回す。黒騎士はなす術もなくただ斬られ続けられた。
「これで!終わりだ!!」
最後はグレートソードを下から上へと斬り上げながら跳び着地してから、また肩に納刀した。マギの後ろでバラバラになった黒騎士そのまま爆発するように消滅した。
「ふぅ……これで、完了、みたいだな」
獣から人へと戻り、玉の汗を流しながら大きく息を吐くマギ。黒騎士を倒した状態はかなり体力と魔力を消費してしまうようだ。
どかりと座り込みそのまま仰向けで寝っ転がるマギ。
「あーしんどかった」
仰向けに寝っ転がったマギにのどか達が駆け寄る。
こうして大変なトラブルが起こったが、のどか達の修行はなんとか無事に終わるのだった。