(迷える少女を導いていたら、最凶の吸血鬼がやって来た件について……終わったっす……)
エヴァンジェリンと対峙する美空は冷や汗が滝のように流れて止まらない。
「おい春日美空、聞いているのか?」
「へぅ、はいはいはい聞いてるっすよ!んでエヴァンジェリンさんの悩みってなんなんっすか?」
美空は神父の声ではなく素の声でエヴァンジェリンの悩みを聞き出す。エヴァンジェリンはどこかそわそわしながらぽつりと呟く。
「……私はやはり酷い女なのだろうか」
「…………はい?」
(何を言ってるんだこのロリッ娘吸血鬼は)
思わず怪訝な顔をした美空を壁越しで感じ取ったエヴァンジェリンは美空を睨む。
「今貴様、私のことを馬鹿にしたな」
「あーすんませんす。んでどうして自分は酷い女だと思ったんすか?」
内心どきどきだが表情出さないように流すようにしてどうしてそう思ったのかを再度尋ねる。
「お前も知っているだろうが、私とマギは世界樹前の広場で傭兵と対峙した。私は闇の福音であるこの私がいれば傭兵など容易い、そう思っていた。だが実際は乱入者や一般人のクラスメイトが紛れ込んでしまい、マギはクラスの奴らを護るために傷つき、マギの体の事情を知っていながらもガキの如く激昂して傭兵に返り討ちにあい、挙げ句の結果マギは完全に私の血を受け入れ不死身の存在となり、無茶な闇の魔法を使用してマギは記憶を失った。傲っていた私の落ち度だ」
「んーー……でエヴァンジェリンさんは其処からどうして自分が嫌な女だって思ったんすか?」
確信に迫るために美空が再度聞くとエヴァンジェリンは悲痛な顔を浮かべ
「今のあいつを直視出来ない。今のマギと記憶を失ったマギは別人だとそう思ってしまい、マギが前に進もうとしているのを見ていると、私が知っている………私が愛したマギが居なくなってしまうそう思ってしまうと今のマギを否定するようにアイツを敵意のある目で見てしまう……最低な女だな私は」
自虐的な笑みを浮かべるエヴァンジェリンに美空はこう答えた。
「別にそんなに深く考えなくても良いんじゃないすかね。そんなんに自分を責めても良いことなんかないし、馬鹿を見るだけっすよ」
「……ほう私の話を聞いてそのような答えを出したか。どうしてその答えに至ったのか話して貰おうか」
周りの空気が比喩ではなく本当に冷え始めた。殺気に近い気配にココネは固唾を飲み込んだが、美空は表面上では落ち着いた様子で
「だって前のマギさんと今のマギさん、根本的な所はあんまり変わってないように見えるんですけどねーまぁ記憶が失くなって雰囲気は変わったすよ。けどなんていうか『あー今のマギさんの方がしっくりくるなー』って思う位だし」
「しっくりくるだと?」
そうっすねーと何度か頷く美空
「最初に来た時のマギさんって、気を抜くとどこかしらで『めんどうだ』って言って何か私らから一歩引いてた感じで壁作ってるように見えたんすけどね。けど3年になって暫く経ってから雰囲気がチョロっと変わったような感じがしたし、前よりも親しみみたいなものを感じ始めたし何人かの女子にモテ始めたし、あーこれが本来のマギさんなんだなーって思えたんすよ。記憶喪失になっても雰囲気があまり変わってないし、さっきも言ったすけど根本的な所はしっかりと残ってる感じはするっすけどねー」
「アイツの根本的なところ……」
エヴァンジェリンが復唱するように呟くのを見て、調子に乗り出した美空は
「まさかエヴァンジェリンさんはマギさんの上部な所だけを好きになったんす―――」
最後まで言えなかった。何故ならエヴァンジェリンがずんと重くなる殺気を放ったからだ。
ココネは小さい悲鳴をあげ美空は
(やっべええぇぇ地雷を踏み抜いたぁ!!お終わたぁ!!)
己の死を察する美空。だが直ぐにエヴァンジェリンからの殺気が霧散する。
「……そうだな。貴様の言う通りだ。私はマギのほんの一部しか愛していなかった。ナギが私の元を去りそういった所がマギに依存していたのだろうな。のどかの事をライバルなどどほざいていたが、私は足元にも及ばないだろうな」
(いやまぁその本屋ちゃんもちょっとダークな所が見えそうになったけど……まぁいいや黙っとこ)
今までのマギに対しての見方を恥じたエヴァンジェリン。ふっと笑みを浮かべる。
「色々と話をして楽になった。礼を言うぞ春日美空」
「いえいえー悩める人の役に立つのは冥利に尽きるもんすよ」
快活に笑う美空。懺悔室を去ろうとするエヴァンジェリンを見て、危機は去ったと心底安心していると、急に歩を止めるエヴァンジェリン。
「………今回は私に非があったから何も言わないでおこう。ただし、今度私を侮辱するような言動を言ったら3分の2氷漬けにしてやるからな」
「……はいっす」
(それはもう死ぬんじゃないでしょーかね)
エヴァンジェリンの威圧感に首を縦に振る美空。やがてエヴァンジェリンが去ったことでようやく威圧感は失くなった。ほっと胸を撫で下ろす美空。ココネは青い顔のまままだ震えている。
「あー寿命10年は縮んだような気がするよ。ほんとあんな風に締め付けられるような感じはこりごりだよ」
見れば空も綺麗な夕焼け。もうそろそろ時間だろう。だがあと一組、それも本命が今やって来ると美空の勘が囁いていた。
そして……
「これが懺悔室か……初めてだからか些か緊張するな」
「大丈夫だよお兄ちゃん。別に悪いことなんかしてないんだからそんなに気を張らなくても」
「こんにちはレス!」
マギにネギにプールスのスプリングフィールド3兄妹が懺悔室に入ってきた。
「……ってあれ?もしかして生徒の美空、だよな?シスターしてるって聞いたが何で懺悔室にいるんだ?」
「まあ神父様が居ないから代役でやってるんすよ。というか何で私だって分かったんすか?一応幻惑の魔法使ってるのに」
「何か雰囲気が美空っぽいなと思ってな」
「あーそうすか、流石すねー」
(もういいやツッコムのもめんどい)
流石流石と流すことを決めた美空である。
「それで誰が悩みを打ち明けるんすか?ネギ先生?マギさん?それとも以外にプールスちゃんとか?」
「いや俺だ。悩みと言うなら悩みだが、生徒とどう接しればいいのか聖職者にアドバイスをと思ったんだが丁度いい。なぁ美空、記憶を失う前の俺ってどんな感じだった?」
マギが記憶を失う前の自分がどういった感じだったのか聞いてみると美空はそうっすねと呟きながら
「強いて言うなら『悪ぶろうとしてたけど似合ってない』って感じっすかね」
「悪ぶろうとしていた……」
「こっちに来はじめた時は嫌々オーラ常に放ってたというか、常にめんどうだって口に出してたんですけどね。でも結局仕事はしっかりやるし生徒達の話はしっかり聞いてましたよ」
「そうなのか。なんで俺はそんな回りくどい事をしてたんだ?」
「僕らの父さんは謂わば英雄みたいな人で、この学園の魔法使い達からも英雄視されてるから、父さんの息子って言う目で見られたくなかったから悪ぶってる所があって、無理して気を張ってたからちょっと怖かった所があったな……でも師匠の元で修行し始めてから雰囲気も柔らかくなったような気がするよ」
美空とネギの話を聞いてマギは少し沈んだ様子で
「……なんというか、クソ親父の息子だからって特別視されないように無理して悪ぶろうして絡まってるとか、無駄なことしてたんだな俺って……馬鹿みたいだな」
自虐的な笑みを浮かべたマギ。心なしか逆立った髪の毛もへたりこんでいる。そんなマギになに言ってんすかと美空が
「人生なんて失敗の連続っすよ。それこそ私なんてシスターシャークティーに何度もどやされてますよ。失敗して人は学んで成長するんだから、一度のキャラ設定を失敗したからってくよくよしないでニューマギさんを楽しめばいいんすよ。人生なんてまだこれからなんすから」
そう励ました。人生は失敗の連続であり一度の失敗で止まってしまったらそこから何も始まらないのだ。
「失敗して成長……そうだな、失敗しない奴なんていない。失敗してそこから成長すればいいんだ」
「そうだよお兄ちゃん。僕や皆が応援するから頑張って!」
「マギお兄ちゃんがんばってレス!!」
ネギとプールスに応援され下がっていた気持ちの波も安定するようになってきた。
「うんうんやっぱこの3人は和気あいあいしてる方がこっちとしても接し安いっすからねー」
「そうか?まぁそうなのかもな。ありがとな美空」
「いえいえー。それじゃあこのまま世間話でもしますかー?」
「いや、それはいいのか?」
「いいんですよー。今日は色々とあって疲れたんで話し相手になって欲しいんすよー」
「……まぁそれ位だったらいいか」
「うん、大丈夫だよ」
「美空お姉ちゃんともっとお話したいレス!」
その後1時間位、他愛ない世間話で花を咲かせるのであった。
「美空!貴女はまた勝手なことをして!!」
マギ達が去っていった後にシスターシャークティーが戻ってきて、勝手に懺悔室を使った美空に説教をしようとしている。
が当の美空は遠くの夕焼けを見てふと微笑みを浮かべながら黄昏て
「シスターシャークティー……人って其々の悩みを抱えて、それがまた前に進むための大事な一歩でもあるんですね……」
遠くを見ながらそうぽつりと呟くのであった。
何時もはマイペースな美空のどこか悟った達観した表情に面食らったシスターシャークティーは
「……美空、今日はもう休みなさい」
小一時間説教をしようとしたが今日はもう帰らせることにした。
帰っていいと言われた瞬間、少しだけ何時もの調子に戻った美空はすたこらと教会を去っていった。
まだそんなに元気なら少しでも注意すればよかったかもしれないと思ったシスターシャークティーだが、今日はまぁ許してあげようかと思っていた。
なぜなら教会に戻る途中にマギ達に偶然鉢合わせとなった時にマギから
『美空のおかげで少しだけだが気持ちがスッキリした。本当にありがたい』
と感謝の言葉を贈られたからだ。
「でもまた勝手な事をしないように、もっと指導しないといけませんね」
と更に美空を厳しく指導することを強く誓ったのであった。
後日、あれから美空はシスターシャークティーからこってりと絞られ、罰として早朝の掃除を命じられた。絞られた以降懺悔室にて人の悩みを聞くことはなく、美空に悩みを話した生徒達からは残念がられ、幻の神父様と学園の都市伝説となったのであった。
「美空、自業自得」
「はぁぁ、もう神父様はこりごりっすよー」
今回で今年の投稿は以上となります。
なんとか2週間に1回の投稿を続けることが出来ました。
この1年間で新たにお気に入り登録や評価をしてくださり、なによりこの作品を見てくださりありがとうございました。
来年も自分のペースで頑張っていきますので読んでいただければ幸いです。
それでは皆様まだ早いですがよいお年を