堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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シスター美空のお悩み相談

学園祭の振り替え休日が終わり、学生達はいつも通りの学生生活を送る中で3ーAは少しだけ日常が変化した。

まず朝礼でネギがマギの記憶喪失の事をクラスの皆の前で話した。ネギから話を聞いた魔法関係の生徒以外は驚いた表情を浮かべた。

何人かになぜマギが記憶喪失になったか聞かれ、ネギは苦し紛れの誤魔化しで学園祭の最後のイベントでアクシデントを起こしてそれで記憶喪失になったと話した瞬間に裕奈と風香と史伽そして千鶴が悲痛な顔を浮かべていたがネギは気付かなかった。

一応知識は失くしていないマギは他のクラスで歴史の事業を行っている先生に補助してもらい授業を続けることにするという。

ネギや事情を知った学園長はマギに無理して授業をしなくてもいいのではないかと提案するが

 

「無理を承知なのは分かってる。けどネギ達以外に忘れた人を少しでも多く認知したい」

 

と頭を下げたマギに根負けしてしまったネギ達はマギに引き続き教師を任せることにした。

今日は補助ありでクラスメイトの顔と名前を思い出すために軽い問いかけをしながら事業を進めた。

がマギの歴史の授業はどこか暗く静かな授業となってしまった。

 

 

 

 

と3ーAは新たなスタートを踏み出したが、3ーAの中でもいつも通りの日常を歩む者もいた。

 

「あー暇っすねーなんか面白いイベントでも起きないかなー」

 

制服からシスターの修道服に着替えた美空が教会の聖堂内を掃除しながらそうぼやいていた。

 

「美空、掃除」

「わーかってるよココネー。サボってたらシスターシャークティがマジギレするからねー」

 

美空を注意したのは美空と契約した褐色の少女のココネ。年下であるがマスターの彼女の注意に流しながらもしっかりと掃除を続ける美空。サボると自分達の上のシスターシャークティによるお仕置きは本当に怖い。サボるのだけはしないと肝に銘じている美空である。

そんなこんなでありながら今度は懺悔室を綺麗に拭く美空。

懺悔室は懺悔、告解ともいい自分の罪を悔い改め、それを神父に聞いてもらい神からの赦しをもらうことである。

といってもここに懺悔をする者達は誰かと喧嘩したとか金を借りたままで返し忘れたとかそういったものである。

鼻唄を歌いながら懺悔室を掃除していると、教会に来訪者が現れ、そのまま真っ直ぐに懺悔室に入ってきた。

急に懺悔室に人が入ってきたことに美空は驚き、誰が入ってきたのか見て更に驚く。

入ってきたのがまさかの裕奈だったのだ。

 

(ええー!?何で裕奈がここに!?懺悔とかに無縁そうなあの裕奈が!?)

「あのーすいません。こういった所に来たことがないから勝手が分からないんですけどいいですか?」

 

いつも快活で元気な裕奈がどこか遠慮というか明らかに元気がない形で壁の向こうにいる美空に話しかけてきた。

しかし今は神父は外出しており誰も対応する者がいなかった。故に……

 

「はい続けてください。貴女は何の罪を懺悔しに来ましたか?」

 

魔法で声を変えて神父の声で半ば出任せで続けることにした。

 

(美空、勝手な事をしたら怒られる)

(ここまで来たら後は突っ走るだけ!だからココネは黙ってて!!)

 

裕奈に聞こえないように小声で言い合う美空とココネ。

 

「うーんと罪なのかな……その、私ってノリと勢いで生きすぎなのかなーって」

「……はい?」

 

一瞬聞き間違いかと思ってしまった美空。ノリと勢いの権現とも言いそうな3ーAの筆頭である裕奈がどうしてそんな事を言ったのか

 

「えー申し訳ありません。話が見えないのですが、どうしてそう思ったのか詳しく話して貰っても宜しいですかな?」

 

美空は再度裕奈から訳を聞くことにした。

 

「学園祭の最終日に凄いイベントがあったんですけど、私結構活躍して調子に乗りすぎて、私らの副担任の先生が仮面を着けた男と対決してたんです。最初は仮面を着けた男もイベントの一環だと思って助太刀したんです。けどイベントの一環じゃなくて学園祭の観光客を装った不審者みたいだったんです。マギさん……あ、副担任の先生の名前です。マギさんが私ら護ろうとして大怪我しちゃって、私目の前のマギさんの怪我が本当なのか演出なのか分からなくなって、目の前が真っ暗になって気を失って……気が付いた時には学園祭は終わってて、今日学校に来たらマギさんが記憶喪失になったって聞いて……」

 

いつもの元気もなくポツリポツリと話す裕奈。

 

「若しかしたら、じゃなくて絶対私達が助太刀なんて邪魔しなかったらマギさんが大怪我することなかったんじゃないかって、ずっと頭から離れなくて……というか来年から高校生なのにまだ子供みたいにはしゃぐなんて……裕奈・ザ・キッドとか子供みたい。はは……」

 

終いには自身の事を自虐し乾いた笑みをこぼす裕奈。

一方、懺悔を聞いていた美空の心境はというと

 

(………お、おもぉぉぉぉぉ。なんだよこの沈んだ空気は!?こんなに沈んだ裕奈見たの初めてだわ!そりゃそうだよな!一般人があんな戦い目の当たりにして目の前で血だるまになってるの見たら普通だったら発狂もんだわ!それなのに気が沈むだけとかさすが3ーAの生徒だわ!まったく脱帽だよ!!)

 

荒れに荒れていた。3ーAの賑やかし筆頭と言っていいほどの裕奈からまさかここまでヘビーな悩みを打ち明けられるとは思っていなかったからだ。

しかしどうしたものか、興味本意で裕奈の懺悔を聞いてしまったがここで適当な事を言ってしまえば余計裕奈は悩んでしまうかもしれない。

ならばと美空の導きだした答えは

 

「……なるほど、貴女は自分の活発な行動のせいで恩師の先生が傷ついてしまった事を悔いているのですね。ならば貴女の贖罪はいままで通り元気な姿を見せ続けることです」

「え?神父さん?言い方あれですけど話ちゃんと聞いてました?私は自分のノリと勢いの生き方を悔いてるって言ったのに」

 

話は最後までお聞きなさいと美空は裕奈の言葉を遮る。

 

「聞いていれば貴女のそのノリと勢い、言い換えれば元気な姿勢が貴女の個性なのでしょう。そんな貴女が暗い表情を浮かべていれば学友は心配するでしょう。ならばどんな時でも、例え苦しく辛いことが会ったときでも笑顔で元気な姿を見せなさい。それが貴女が行うべき善行なのです」

「どんな時でも笑顔で元気よく……」

「頑張りなさい。私も陰ながら応援していますよ」

 

ホッホッホと大袈裟に笑う美空。裕奈も色々と話せたお陰か懺悔室に入ってきたよりも少し表情が戻ってきたようだった。

 

「ありがとう神父さん!私も私なりに自分の罰に向き合ってみまーす!」

 

神父(美空)にお礼を言い、懺悔室を出てそのまま教会を後にした。

裕奈の気配が教会からなくなったところで美空は大きく息を吐き

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………な、なんとか切り抜けたぁぁぁぁ」

 

どっと疲れが押し寄せてきて切り抜けた自身を称賛した。

 

「まぁ裕奈のお父さんも裕奈が元気ないのを心配してたしこれで少しはあの家族の役にたったかな」

 

裕奈の父親は美空達と同じく魔法使いで自身の娘がマギとアーチャーの戦いに遭遇し落ち込んでいたのを心配していた。

いつもは活発な娘が沈んでいるのをとても心配していたのでこれで少しはいつもの裕奈に戻るだろう。

 

「しっかしなんやかんやで上手くいくとは、私に神父としての才能があったってことっすかねー」

「美空、悪ふざけよくない」

「分かってるよー今回はなんとか切り抜けたけど、でまかせごまかせで切り抜けられない懺悔も来るかもしれないからさっさと掃除を済ませて今日はお開きに……」

 

しようとしたらまたも懺悔室に誰か入ってきたようだ。

申し訳ないがもうこれ以上相手は出来そうにない。来て早々申し訳ないが神父は不在で後日来て欲しいと言おうとした瞬間

 

「神父様お願いします」

「どうかボクたちの懺悔を聞いてください」

 

懺悔室に入ってきたのは風香と史伽だった。

 

「本日2回目!!」

 

まさかクラスメイトがまたも懺悔に来たことに思わず地声で叫んでしまった美空。

 

「ひう!?」

「しっ神父様?いきなりどうしたの?」

 

壁の向こうで叫んだ美空に驚く風香と史伽。はっとした美空が大きく咳払いし

 

「失礼、少々驚いてしまいましてな。それでお嬢さん方一体なんの罪を告白しに来たのですかな?」

 

直ぐに声を神父のものにして双子の懺悔を聞くことにした。

 

「私とお姉ちゃん、好きな人がいるんです。けど私達が邪魔したせいでマギお兄ちゃんが酷い目にあったんです」

「邪魔したボクらがせめてもと思ってマギ兄ちゃんに酷いことした奴から護ろうとしたけど、ボクたちちっちゃいし弱いからそいつからマギ兄ちゃんを護れなくて、それで………」

 

限界が来たのか大声で泣き出してしまった風香と史伽。ここまで来るのに我慢したのだろう。泣き出した双子を見て美空は

 

「今は大いに泣きなさい。泣いて気持ちを洗い流しなさい」

 

泣くことを勧めるのであった。

風香と史伽が泣いて10分位経った。懺悔の内容は祐奈と大まかに同じで違うとしたら自分達が小さく幼い体のせいでマギを護れなかったという所だろう。

 

(いや、これ何て言えばいいんだ?相手は傭兵だったらしいし、土俵が違うから敵わないのは当たり前だし、けどそんな事を言えるはずないしなー)

 

泣いている間に何を言えばいいか唸っていた。風香と史伽がマギに好意を寄せていたのは察していた。2人に効果的なのは

 

「お嬢さん方、貴女達は好きな人を護るために動いたそうですが、いかんせんこの世の中には自分じゃ出来ないことは多々あるのです。だからこそお嬢さん方のやらなければいけないことは、自分の出来ることで相手に尽くすことです」

「自分の……」

「出来ること……」

 

風香と史伽の復唱に左様と頷く美空。

 

「人は出来ない事を頑張っても時にはどうしようもならないこともあります。ですが、自分の出来ることを知りそれを伸ばせば立派な武器になります」

(まぁ私のアーティファクトは逃げることに特化したようなもんだかねー。でも足の早さは誰にも負けないって自負はあるしねー)

 

美空のアーティファクトは自身の足を速くさせる靴。主に逃げることに使用しているが、それでもそれが自身の強味であると胸を張って言える程であった。

 

「お嬢さん方にはありますかな?これだけは周りには負けないと言えるようなことは」

「……正直言うと……」

「……ない…です……」

「ならばこれから見つけなさい。そして見つけ目一杯に好きな人に尽くしなさい。それがお嬢さん方がすべき善行です」

 

おそらく美空の言ったことをあまり理解はしていないかもしれない。が先程の祐奈と同じように暗かった表情が少しだけ戻ったようだった。

 

「ありがとうございます神父様!」

「ボクたち自分が出来ることを絶対見つけます!!」

「頑張りなさいお嬢さん方。その元気があればいつか見つかりますよ」

 

美空にお礼を言い教会を後にする風香と史伽。

本日2回目のお悩みを聞いた美空は

 

「ふ……ふふふふふ。なんかすっごい良いことした感じで気分いい」

 

半ば勢いで助言してる所もあるが、それぞれの悩みを最初は興味半分で聞いていたが自分なりに正直に助言したつもりだ。その結果で悩める少女が多少救われたのであればとても気分がいい。

しかし……

 

「二度あることは三度ある……私の勘が囁いてる。この後もう1組やって来る……!」

何てことを言っている間に教会にまた1人入ってきてそのまま懺悔室に入ってきた。

 

(はい入ってきましたよー!お次は誰だー!?)

「……神父様、どうか私の告解をお聞きください」

 

千鶴だった。思わず頭を打ち付ける美空。大きな音が出たことに千鶴も驚いた。

 

「あの神父様、大丈夫ですか?」

「い、いえお気になさらず。軽く滑ってしまっただけですので」

(薄々感じてはいたけどやっぱ千鶴さんかー!!マギさんに関わった一般人スリーコンボとか出来すぎじゃね!?)

 

運命のいたずらと言えるほどの出来すぎな展開にツッコミを入れざるを得なかった。

 

「失礼しました。どうぞ続けてください」

「……私、お慕いしている人がいるんです。その人はどこか私達と住んでいる世界が違うと薄々感じていました。その人がまるで映画やアニメで見せるような戦いを繰り広げて、助けに入ろうとした私達を護るために大怪我をしてしまいました。せめて私が盾になろうとしましたが、私が盾になることは出来ませんでした。気が付いた時には既に終わっていまして、その人は怪我のせいなのか分からないんですけど記憶を失くしてしまっていました。悲劇のヒロインのように聞こえますが私は無知な自分が許せない。もっと早くにあの人のことを知ることが出来れば何か出来たかもしれない……そんな思いです」

 

千鶴の告解を聞き終えた美空は

 

(いや少ない情報でマギさんが普通の人じゃないって見抜くとは、やっぱクラスでも上位の学力だし大人っぽいし侮れないっすねー)

 

ここまで2組も悩みを聞いていればどっか呑気なことを考えだした。

だがしかし千鶴は自分は何も知らない無知は罪と言ったがそれはしる手立てがなかっただけである。

むしろ自分は魔法使いの立場だがこんな性格だからむしろ千鶴の言っていたことを聞いて段々と頭が痛くなりそう。現にココネの冷たい視線が突き刺さる。

 

「あーお嬢さん、貴女は自身の無知が許せないそう仰いましたが、大事なのは無知なことを責めるのではなく無知でいることに胡座をかいていることなのですよ」

「大丈夫ですか神父様?随分とお声が震えてますが」

「あーお気になさらず。過去の自分を振り返り恥じているだけですから」

(あー泣きたい……)

 

神父として過去を恥じていると演じているが今恥じて泣きそうになる美空はそのまま続ける。

 

「しかし話を聞いていますと貴女がお慕いしているその人の事はそう易々と知ることが出来そうにないですな。それでも貴女はその人の事を知ろうと思いますか?」

「はい」

「もし知って、自分の身に危険が降り注がれることになっても?」

「はい、覚悟は出来ています。もしあの人のことを知ろうとするのを止めてしまったのなら、もうあの人のことを真っ直ぐに見ることは出来なくなるでしょうから」

 

そう言いきった千鶴。その目は真っ直ぐで迷いは見えなかった。

 

(かぁー真っ直ぐというか、眩しいっすねー……私にはそんな生き方出来そうにないや)

 

真っ直ぐな姿勢を見せる千鶴をちょっと羨む美空。そんな千鶴を茶化すことなくしっかりと答える。

 

「一度言ったことはそれは誓いの言葉。それを裏切れば貴女は一生苦しむことになるでしょう。それでも覚悟を決めたのなら進みなさい。さすれば道は切り開かれるでしょう」

「元よりそのつもりですわ。ですがありがとうございます神父様。話したことでこれで一歩踏み出せますわ」

 

微笑みを浮かべた千鶴は教会を後にする。千鶴が教会を後にし、暫く経っても次の人が来る気配がないので美空は大きく伸びをし

 

「よっし!!今日のお仕事終わり!!」

 

達成感を感じながら勝手に今日の教会の仕事を終わらせようとした。

 

「美空、まだ掃除終わってない」

「あー分かってるてーの。ちゃちゃっと終わらせて今日はもう帰るよー」

 

3組の懺悔を聞き掃除が途中だったのでさっさと掃除を終わらせて今日はもう帰る事にした。

 

「今日は今までにない濃密な時間だったなー当分は神父の真似事はこりごりっすわ」

 

そんなことをぼやく美空だった。

 

 

 

 

 

しかし次の日3ーAの間で

 

「あそこの教会で悩みを話したらとてもスッキリしたんだよねー!」

「ボクと史伽はとってもいいアドバイス貰ったからそれを目指して頑張るんだ!」

「神父様がとっても話しやすかったです!」

「しっかり私に目線を合わせてくれるよい神父様でしたわ」

 

と悩みを話した裕奈達が神父(美空)のことを絶賛しており、早速今日の放課後に教会に行こうという話になったのだ。

 

(え……まじっすか……)

 

話を遠くから聞いていた美空は青い顔になった。

今日の放課後も一波乱ありそうな予感が肌にびんびんと感じるのであった。

 

 

 

 

 

 




続きます

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