新たなる道標
マギが新たなる一歩を踏み出した翌日。学園祭の振り返り休日なため学生達はみな思う存分羽を伸ばしている中、マギやネギ一行が図書館島の地下深く、かつて来たことがある巨大な扉の前に来ていた。
扉の前にはかつてマギ達を襲ったドラゴンが鎮座している。唸り声をあげるドラゴンに緊張が走るなか、ネギはドラゴンに自身の名が書かれた紙を見せる。
紙を見たドラゴンは唸るのを止め、何処かへ羽ばたいていった。ドラゴンと戦うことがなくほっとしていると扉がゆっくりと開いた。
奥へ歩いていくと大きな空間にたどり着き、不思議な建物が聳え立っていた。
この建物はクウネルの住居であり、ネギやマギがお茶会に誘われたのだ。
付き添いではアスナにこのかに刹那とプールスにのどかであった。エヴァンジェリンはこの場におらず先にクウネルの所へ向かったそうだ。
「クウネルさん、本日はお誘いいただきありがとうございます」
「こちらこそようこそネギ君。それと……」
「あー、その、俺貴方が誰なのか分からなくて……」
「話はキティから聞いていますよマギ君。私のことはクウネルとお呼びください。食って寝るの隠居生活のクウネルと覚えておいてください」
クウネルがエヴァンジェリンの事をキティと呼んだことにエヴァンジェリンは猛抗議してきたが、クウネルは飄々と流して改めてマギに自己紹介した。
「クウネルさん、か。正直言うとなんか胡散臭いっていうのが最初の印象なんだけど」
マギのクウネルの第一印象が胡散臭いという感想にエヴァンジェリンは先程まで怒り心頭だったのに吹き出した。
「ふふ。そうですか、記憶を失くしても言いますねマギ君。それと髪の毛を立たしたのはイメチェンですか?年相応な意識表示ですねいいと思いますよ」
「今のは褒め言葉として受け取っていいんだよな?どうも」
マギの第一印象の感想に特に言及せずどこか胡散臭い笑顔のまま髪を逆立てたマギを褒め、茶会を始めることにした。
「……話は聞きましたが、闇の魔法を3重に発動しその代償で記憶を失くしてしまった。しかしその若さでそんな無茶が出来るとは……流石はナギの息子と言った所でしょうか」
「ふん、向こう見ずな所も似なくてもいいだろうが」
茶会を進める中でクウネルが闇の魔法を使ったマギの話をすると急にエヴァンジェリンは顔をしかめる。昨日からマギの話になるとこの調子だ。少しでもエヴァンジェリンの気持ちを落ち着かせるためにプールスがエヴァンジェリンの隣に座る。
「ネギ君もまだ幼いながらもあれ程な力を身に付けるとは将来が楽しみですね」
「はっはい、ありがとうございます」
クウネルに褒められ満更ではなさそうな反応を見せるネギにクウネルが
「どうですか?このまま2人とも私の弟子になってみませんか?」
「え!?」
「クウネル!!!貴様何勝手な事を口走ってる!!?」
クウネルの弟子発言にネギが驚きエヴァンジェリンは声を荒げる。
「私はナギと旅をした間柄、サウザントマスターの戦い方を熟知してると自負はしています。ネギ君がナギのような戦い方を身に付けたいというなら手取り足取り教えてあげますよ」
「父さんの戦い方……」
「マギ君もどうですか?ナギの戦い方を知れば若しかしたら記憶が戻る手助けになるかもしれないですよ?」
「父さん……か」
ネギとマギは押し黙る。エヴァンジェリンは反対の意を唱えようとしたが口を紡ぐ。これでマギの記憶が戻る手助けになるのならそれも良策かもしれない。しかし先程からマギが首を縦に振るったと思うと胸がズキズキと痛むのだ。
アスナ達もネギとマギがどう答えるのか固唾を飲んで見守っていると
「いえクウネルさん、僕としては魅力的な話ですがお断りします」
「俺も結構だ」
2人の答えはNOだった。
「おや、そうですか。差し支えなければ訳を聞いても?」
お断りの返事を聞いてもクウネルは表情を崩さない。その答えが返ってくると分かっていたかのように訳を聞こうとするクウネル。
「僕はクウネルさんが父さんになってお兄ちゃんと戦ったのを見た時や超さんと戦ったことで色々と教えられました。世の中は綺麗事だけでは解決出来ない問題が多くあるというということ。その中でもだからこそ立派な魔法使いになる事を立ち止まってはいけないということ。父さんとは別の立派な魔法使いなって誰かの助けになれればと……そして一番は師匠を裏切りたくないことです」
「俺は父さんの……いや"クソ親父"のことは全然思い出せないし、立派な魔法使いなんてよく分からない。けどこれだけは言える。俺はエヴァを裏切る真似は絶対にしない。記憶がない俺が言えることはこれしかないけどな」
ネギとマギの答えにクウネルは満足そうにそうですかとにこやかに頷く。エヴァンジェリンもどこか満更ではなさそうに顔を赤くさせる。
「いやはやナギの息子両方に大事にしてもらえるなんて、両手に花とは愛されてますね。キティ」
「だからその名で呼ぶなと言ってるだろう!いきなり坊やとマギを弟子にとろうと何を考えている!?」
「貴女の慌てふためく姿を見たいからに決まってるじゃないですか」
「即答するな貴様ああああ!!」
クウネルの茶化しにキレて暴れるエヴァンジェリンをネギとマギで何とか宥めようとし、アスナ達は微笑ましく眺めていた。
エヴァンジェリンが暴れて宥めるのに数分かかったが、何とか落ち着かせることが出来た。
そして今日話そうとした本題をクウネルに話すネギ。
「クウネルさん。僕は貴方に聞きたいことがあってこのお茶会に参加しました。どうか教えてください……父さんは生きていますか?」
「……ええ。彼は生きています。それは保証しましょう」
クウネルはナギが生きていると肯定し、その証として自身のカード、背景が描かれている1枚と背景がないクウネルしか描かれいない白いカード何枚かをネギ達に見せる。
「この背景が描かれているのがナギと契約したカードで何枚かの白紙のカードは契約を解除あるいは契約者が死亡しカードも死にます。申し訳ありませんが私はナギがどこにいるかまでは分かりません。ですがカードが生きているならナギも同じく生きているのです」
情報が少ない中でもナギが生きている事を知れた。それだけでもネギは嬉しいが、欲を言えばもう少しだけ手掛かりになるような情報が欲しい。
「クウネルさん、他に何か何か分かることはありませんか!?」
「そうですね。彼の事を知りたければ一度イギリスのウェールズに戻ったらどうでしょう」
「ウェールズですか?」
「そこには魔法世界、ムンドゥス・マギクスへの扉があります。あちらの世界ならナギを見つける手掛かりがある可能性は高いでしょう」
「魔法世界……」
ネギは魔法世界を復唱し黙る。
「魔法世界って魔法の国ってことかな。メルヘンやね」
「どうなのでしょうか。私もそこまで詳しくは分かりませんが……」
刹那とこのかが話していると急に突風が吹き荒れた。
「うぷっ何この突風!?」
「飛んじゃいそうレス~!」
飛ばされそうになっているプールスを胸に抱き締め、突風の原因を探すアスナだが、突風の発生源がネギだと直ぐに分かる。
今まであやふやだった父ナギの手掛かりが魔法世界というこれまた壮大で確定してない情報だが、大きな進歩であるのは確実で喜びのあまり魔力が漏れ突風が吹き荒れたのだ。
「ちょっネギ!嬉しいのは分かったから風を止めて!このままじゃアタシ達吹き飛ばされちゃうからあぁ!!」
吹き飛ばされないように足を踏ん張り風を止めるように叫ぶアスナ。しばらくして落ち着いたのか突風を出すのを止めたネギが大きく息を吐いて
「ありがとうございますクウネルさん。これでまた父さんに一歩近づけたと思います」
と情報を教えてくれたクウネルに礼を言う。エヴァンジェリンやアスナは多少だが驚いた。いつものネギならそのまま突っ走ってウェールズに向かおうとするかもしれないのに落ち着いている。
「驚いたな坊や。てっきり馬鹿みたいにウェールズに行くものだと思ってたが」
「はは、正直言うと出来るなら直ぐにでもウェールズに魔法世界に行きたいです。でも僕は3ーAの先生です。まだ期末テストも終わってないのに無責任なことは出来ないです。それにお兄ちゃんの記憶が戻ってないのにいい加減なことなんて出来ません」
ネギのクラスのことやマギのことをしっかりと考えている答えにエヴァンジェリンとアスナ達は満足そうに微笑み
「そっか。しっかり考えているのね偉いわよネギ」
アスナは優しくネギの頭を撫でる。
「そう言えばマギさんは?さっきから黙ってるけどどないしたん?」
このかの言うとおり先程からマギが黙っていた。どうしたのだろうか
「うひゃ!?」
と刹那が変な悲鳴をあげる。刹那が悲鳴をあげたほうを見てみると
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
ネギ程ではないが、体から黒いオーラのような気炎がマギから溢れ出ており、頭を押さえ苦しそうに息を吐いていた。
「マギお兄ちゃん大丈夫レス!?」
「お兄ちゃんしっかり!」
「燃えてるけど大丈夫なの!?」
「お水!バケツどこ!?」
「お嬢様落ち着いて下さい!!」
「マギ気をしっかり持て!!」
ネギ達の呼び掛けに段々と黒い気炎が治まり、マギの呼吸も安定していった。
「……すまない。クソ親父がその魔法世界にいるかもしれないと聞いた途端に何故だか分からないがクソ親父をぶん殴れって頭の中で叫び続けて頭の中がそれで一杯に……もう大丈夫だ。心配かかけたな」
落ち着いたマギを見てほっと胸を撫で下ろすネギ達。
「どうやらナギの情報を聞いてほんの一部の記憶が戻ったようですね。いやはや良かったですね」
「その代償でここが吹き飛んでしまったかもしれないがな。まったく……」
エヴァンジェリンが深い溜め息を吐いた瞬間にマギはネギに
「ネギ、学校が終わって夏休み入ったら魔法世界に行くぞ」
「お兄ちゃん!?」
とんでも発言をしネギ達の口を大きく開かせる。
「マギ!貴様正気か!?魔法世界がどういう世界か分かってるのか!?記憶を失くしてる貴様がそう易々と足を踏み入れていいと思ってるのか!!」
エヴァンジェリンが怒気を隠さずに声を荒げる。エヴァンジェリンの言うことは最もだ。今の状態のマギがどんな世界か分からない魔法世界に行くのは無謀中の無謀の愚かな行為だ。
「そうだよお兄ちゃん。師匠の言う通りだよ。どんな世界なのか分からないのに行こうなんてそれにお兄ちゃんの記憶だって戻ってないんだから戻ってから探すことも出来るはずだよ」
ネギもマギが無謀なことをしないように説得する。
がネギの説得にも首を横に振り
「分かってる。今俺が言っていることは無謀なことだって。けど、今動かなければクソ親父に会うのがもっと先になるかもしれない。それとその魔法世界に行かないと後悔しそうな、そんな気がする」
そう言ったマギの目は戯れや酔狂の色はまったくなく、真っ直ぐな目でネギを見ている。
「ふふ、記憶のないマギ君がここまで言うのならば、本当に何かあるのかもしれませんね」
クウネルは面白いものを見たと笑みをこぼしながらそう言った。
ネギは迷った。今のマギは父であるナギをぶん殴るということしか思い出せていない。そんなマギがここまで言うのならば本当に魔法世界に行けば会えるのではないのだろうかと
「……はぁそこまで言うなら行けばいい。だが私の弟子があっちの世界に無謀に行ってぼろ雑巾のような無様な姿を見せるのは許さないからな。私が徹底的に鍛え直してやるから覚悟しておけ」
「師匠……ありがとうございます」
「ありがとう、エヴァ」
魔法世界でも渡り歩けるように鍛えると言ったエヴァンジェリンに礼を言うネギとマギ。だが礼を言われてもエヴァンジェリンはそっぽを向く。やはりエヴァンジェリンはマギが記憶を失くしてしまってからどことなくマギと壁を作っているようだった。
(エヴァちゃんなんか無理してるなぁ……)
内心心配するアスナやこのかや刹那はエヴァンジェリンの心情を察して、暖かい目で見守っていた。
一応話はこれにておしまい。ネギがもっとナギについてクウネルに聞こうとしたが、色々と聞いてマギがまた黒い感情を出さないという保証はないことと、ネギ達以外にクウネルに誘われたのだのどか達魔法関係の生徒達がやってきたためナギの話は別の機会となった。
その後のお茶会は魔法についての雑談となり何も問題もなくお開きになったのであった。