学園内で激闘が繰り広げられているなか、校舎内で戦いを始めようとしている者がいる。
「―――という事で、急遽こんなイベントになったがこの計画で超が勝っちまうと、ネギ先生と超が結婚するという理不尽な結果になっちうまんだと」
自分ながら何を言ってるんだかとツッコミを入れたくなる千雨。普通ならこんな話作り話だ馬鹿げてると言いそうなものだが、ネギを慕い好いているあやかはそんな結婚許しませんわと鼻息荒く血走った目で抗議し、そんな結婚やだよーと弟のように可愛がるまき絵も断固反対の異を唱える。
好きな相手にここまで行動的になることに舌を巻くのと、自分もここまでとは言わないが、行動的になりたいなと見習う千雨であった。
さて、ではどうするか、勢いで自分達も突撃をするか?無理だ数秒で返り討ちにされるのがオチだろう。
それに実況の様子を見ていたが、あの銃弾に当たったら即アウトで二度とイベント中には戻れないだろうと千雨は見抜いていた。
戦いは適材適所、夕映にアーティファクトで調べてもらい自身の能力は電子系統に特化したものだという。
現在も超側のハッキングで学園のシステムは滅茶苦茶になっている。だったら自前のハッキング能力とアーティファクトの力で対抗してやろう。
何回か深呼吸する。近くに誰かいるときにこの台詞を言うのは恥ずかしいが、ここまで来たら度胸だ。
「……アデアット!」
千雨が呼び出したアーティファクトは魔法少女のステッキであった。こんなアタシが魔法少女のなんてなと自嘲気味み笑みを浮かべていると
「わーなにそれ千雨ちゃんすごくかわいいー!」
「今何もない所から出て来ましたが、手品かなにかですか?」
2人にステッキを出すところをがっつり見られたが、ここまで来たらとことん2人を利用してやろうと決めた千雨。
「2人とも、これからアタシがやろうと事することは、別に命の危機に瀕する事はないと思う。だが嫌な思いをすることは確実だ。けどネギ先生の力になりたいなら力を貸してくれねえか?」
「何水臭いこと言ってるの千雨ちゃん。そんなことどーんとこい!だよ!」
「ここまで来たら一蓮托生ですわ!打倒超さんですわ!!」
頼もしいと言えるか分からないが仲間が増え、千雨は出撃する。
「よし、行くか! 広漠の無それは零 大いなる霊それは壱 電子の霊よ水面を漂え 我こそは電子の王 」
千雨は呪文の詠唱をし、千雨達の足元に魔方陣が展開し光が包み込むとそのままパソコンに吸い込まれた。
「―――――ここは?」
気がつけば先程までいた図書室ではなく、水、いや海の中に漂っている千雨達。
「すご―い!水の中で息ができる!ってなんで水の中にいるの?」
「私達先程まで図書室にいましたよね?」
「……もしかしなくても電子の海ってやつかここは?まさかマジで電子世界にきちまうとはな」
呟くように言いながら乾いた笑みを浮かべていると、7匹の鼠が現れた。
『ちう様何なりとご命令を、我ら電子精霊群千人長七部衆、如何なる命令にも従う所存』
そしてその鼠の隣に名前を入力してくださいというアイコンが
「これが聞いていた電子精霊って奴か。というか今時に名前の文字制限が4文字かよ……」
千雨の呆れ声にデータの軽さが信条なのでと律儀に返す電子精霊達。
正直面倒だと思った千雨。今からこいつらの名前を律儀に考えている暇はない。
「もう面倒だから太郎次郎とかああああとかでいいだろ」
『そんなちう様ご無体な!?』
あまりの扱いに電子精霊達が涙目で訴えかけて来る。
「千雨ちゃん可哀想だよ!こんなに可愛いのに!」
「あー、じゃあ名付けはそっちに任せるよ。こっちは確かめたいことがあるし……」
オッケー!可愛い名前にするねと電子精霊達に名付けをまき絵に任せ、千雨はいくつか確認してみる。
電子世界という事で姿とかを変えられるかと頭の中でネットアイドル時の格好をイメージしてみると一瞬で姿が変わった。何というはや着替え、この技術を自身のアイドル活動中に使えないのが残念だと思う。
自分達の体はどうなったのか確認してみると、3人で横に寝入っている姿を見る。どうやら電子世界に体まるごと入った訳ではなく、精神だけが電子世界にダイブしたような扱いのようだと理解する。
「しかしこの格好は動きにくいな。よしなら、メイクアップコスチューム♪ビブリオルーランルージュ☆」
学園祭のコスプレ大会で着た格好へと着替えというか変身する。ちゃっかりポーズを忘れずに。
「あっ千雨ちゃんその格好、コスプレ大会のやつだよね」
「まぁなというか、そいつらの名前」
『まき絵様に素晴らしい名前をつけていただきました!』
「いやまぁお前らが満足してるならいいんだけどよ」
電子精霊の名前がしらたき、だいこ、ねぎ、ちくわふ、こんにゃ、はんぺ、きんちゃとおでんの具の名前であった。なんでおでんとツッコミをいれたかったが、今はそんな事をしてる暇はない。
「ところで千雨ちゃん、ここどこ?」
「どこか現実離れした光景ですわね。現に私達の目の前でお魚さんが泳いでいますし」
「あー、まぁここはゲームの中だよ。ゲームに勝てばネギ先生達を助けられるって所だな」
へーゲームなんだと最近のゲームってすごいんですわねとおつむが若干あれなのと世間知らずで簡単に信じてよかったと、話を進めやすくなると思った。
「それで千雨ちゃん私といいんちょって何をすればいいの?」
「……正直わからん。まぁ何か起こったら指示だすから――――」
とけたたましいアラート音が響く。
「どうした!?」
『敵自動巡回プログラムに我々の存在を気付かれました!』
『学園のコンピューター、ほぼ全部乗っ取られているっぽいです!学園の防衛システムが我々を狙っています!』
「なら説明時に聞いた防御結界プログラムとかそういうのを展開しろ!それで少しは持たせろ!」
空間に浮かび上がってきたキーボードを叩きながら、電子精霊達に指示を飛ばす。しかし
『すんません、まだオプションインストールし終えてないんで、無理ス!』
「ええい!この役立たず共が!というか最初の厳格な精霊のイメージはどうした!?」
『仕様ス!』
そんなやり取りをしてる間に敵が仕掛けてきた。最初の敵の攻撃は
「まっマグロの大群だー!!」
まき絵の驚愕の声が響く。クロマグロ、カジキマグロ、キハダマグロと正に大群と言える数が迫ってきた。
「くそ、自前の力で何とかするしかねぇか!!」
悪態をつきながらも中学生とは思えない高速のタイピングで防衛プログラムを構築させる。
「くらえ!ちう特製緊急防壁!!」
急遽作った防壁でマグロの大群を防ぐ。
「きゃああ!?」
「マグロの津波だぁああ!?」
何とか防いでいるがデータの奔流に押し負けそうになる。
が何とか何とかデータの奔流に潰されることはなかった。
『さすがですちう様!』
「いや防ぎきれてねぇ!さっきのデータの中にウイルスが混じってるかもしれねぇ、絶対触るんじゃねえぞ!」
千雨が注意をするが一足遅かった。
「きゃあああ!なにこの子達ー!?」
「服、服を食べていますわ!!」
クラゲに襲われており、触手攻撃でデータの塊になった服を食べられていた。ご丁寧にクラゲの体に超包子と書かれており、クラゲ達が超が送ってきたウイルスであることがわかる。
「触ったのかお前ら!なんであからさまなフラグを回収するんだ馬鹿か!」
「だってクラゲ可愛かったんだもん!」
「そっそこはダメですわぁ!!」
男子やカモが見れば歓喜な光景が目の前で広がっているが、同性である千雨は顔がひきつる。これが高度な電脳戦なのかと嘆きの感情も沸き上がりそうだが、このままではまき絵とあやかの体もウイルスに食われてしまう。
千雨はキーボードをまた高速で叩き、あるものをプログラムとして作り上げる。
「こいつを使え!!」
まき絵とあやかに向かって放り投げる。キャッチする2人、それは見覚えがあるステッキ。
「千雨ちゃんこれって!」
「ポーズは一昨日教えた通りだ!」
「一昨日ってあれのこと!?」
「わっ分かりましたわ!!」
変身!とまき絵とあやかが掛け声をかけると2人の体を光で包み、コスプレ大会で着た格好に早変わりした。
「ビブリオレッドローズ!」
「ビブリオピンクチューリップ!」
あやかがビブリオレッドローズ、まき絵がビブリオピンクチューリップと名乗りながら決めポーズを決める。
そしてステッキに光を集める。さっきまで好き勝手体を弄くっていたクラゲ達は形勢逆転されたことで後退りをするがもう遅い。
「「世界の本を守る為!魔法少女ビブリオン!!」」
口上をのべながら極太の光線を放つ。光線が直撃したクラゲ達は綺麗に消し飛んでしまった。
敵を蹴散らしたことに喜びを見せているまき絵。そんな彼女達に新たな敵が向かってきた。
今度は鮫であった。大きな顎と鋭利な歯を見せながらこちらに猛進してくる。しかし今魔法少女の姿に変身した彼女達の敵ではない。
「ビブリオ・スパイラルシュート!!」
「ビブリオ・アクアラブソディー!!」
ネギやマギに引けを取らないあやかの螺旋状の光の奔流とまき絵の水の激流が鮫達を次々と撃退していく。その後もウイルスに侵食されたデータの魚達が襲いかかってくるが、2人で倒して行く。段々と技名がアニメや特撮の引用と雑になっていくが。
2人はコスプレイヤーの素質があるなと場違いな事を考えながらもこの調子であれば学園のシステムを取り戻せると確信する千雨。
「よしこのまま前進するぞ!アタシについてこい、いいんちょ、まき絵!」
「オッケー!」
「超さんにネギ先生を渡したりいたしませんわ!」
千雨を先頭にし学園のシステムの中枢へと向かう千雨達。いつの間にかあやかをいいんちょまき絵を下の名で呼んでいた。
――――――さっきまで行けると確信していた自分自身を怒鳴り散らしてやりたいとやさぐれた考えが頭を過った千雨。
最初らへんは順調に進行していった千雨一行。千雨と電子精霊達がシステムへハッキングして進み、あやかとまき絵が千雨達を護っていた。
段々と中枢へ近付くと敵の数や質がレベルアップしていったが、何とか相手をすることが出来た。
しかし学園のシステムの中枢へ到着した時にそいつらは現れた。
上半身は美しい女性だが下半身は蛸の様な触手の怪物、9つの首を持つ巨大な水蛇、水蛇よりも巨大な竜。
スキュラ、ヒュドラ、そしてリヴァイアサン。どれも伝説の海の怪物を目の当たりにして千雨は思った。
―――あ、こいつらには絶対勝てない―――と
「いいんちょまき絵!こいつらには絶対に勝とうとするな!チマチマした逃げるような戦いかたを徹底しろ!」
あやかとまき絵にヒット&アウェイの戦法で戦うように命じる。だが先程まで全勝していたせいか2人の表情はどこか余裕綽々であった。
「だいじょーぶだよ千雨ちゃん!ここも魔法少女の私達に任せて!」
「この戦いでも華麗な勝利を手にしてみせますわ!」
千雨の忠告を流すように2人は勇ましく怪物達に向かっていった。しかし怪物からしたら愚かな餌が自分達の方へ向かっているだけであった。2人の勝手な行動に千雨は頭を抱える。
「あぁお調子もんがぁ、だから苦手なんだ……!お前ら、さっさとシステム取り戻すぞ!へまこいたらアタシらめでたくあの化物共のご飯だ!!」
『合点承知!!』
千雨と電子精霊達がシステムへハッキングをかける。しかしプロテクトが何重にもかけられているために解除するまでかなり時間を要する。それまでに2人が怪物に喰われないように祈る。
まき絵とあやかは蛮勇と言われてもおかしくないように怪物に突撃する。最初に狙ったのはヒュドラだ。
「行くよいいんちょ!」
「ええ!華麗に決めましてよ!」
2人はステッキに力をこめる。
「ビブリオ・シャイニングエクスプロージョン!!」
「ビブリオ・オーシャンブレイバー!!」
あやかが光の爆発で5つの首を吹き飛ばし、まき絵の水の大剣が4つの首を切り落とした。
「やったー!どんなもんだよー!!」
またも勝利したと思いガッツポーズをするまき絵。しかしヒュドラがどういった怪物か知らないまき絵とあやかはそれが油断につながる。
ヒュドラは脅威的な再生力で有名なギリシャ神話の怪物。吹き飛ばし切り落とされた首はまるで何もなかったかのように再生した。
「そんな!?だったらもう一度倒すまでだよ!ビブリオ―――」
「!!まき絵さん危ないですわ!!」
あやかがまき絵を思いきり突き飛ばした。次の瞬間にはリヴァイアサンが猛進してあやかを吹っ飛ばした。あやかが突き飛ばさなければまき絵も巻き込まれていただろう。
「ああああぁぁぁぁぁ―――!!」
「いいんちょ!!」
吹き飛ばされたあやかを見て悲鳴をあげるまき絵。どう見ても無事ではない。
『あやか様ダメージレベル70%オーバー!あと一発もらったらただじゃすまないス!』
「見てたから分かってる!取り戻した学園の防衛システムを使ってでもいいんちょを助けろ!!」
『了解ス!!』
だいこが報告し千雨が激を飛ばしながらきんちゃに命じあやかを助けるために急ぐ。
「よっよくもやったなー!!いいんちょの仇!!」
「馬鹿まき絵!何も考えもなしで突っ込むんじゃねぇ!!」
目の前であやかがやられたことで怒りで回りが見えずリヴァイアサンに突っ込むまき絵。それが命取りになる。
ヒュドラが口から毒液を吐き出す。神話のヒュドラ毒は猛毒だ。そんな毒がまき絵に直撃する。
「な……なに、これ……?かっ体が急にうご、か……」
『まき絵様毒状態です!このまま毒が徐々に体を侵食していったら危ないです!』
「あぁもう!だから突っ込むなって言ったんだよ!!」
『学園防衛システム使えます!!』
「よし使え!!」
『はいス!!』
ちくわふがキーボードのエンターキーを押すと、某逆襲の機動戦士の無線式のオールレンジ攻撃用兵器が出現し、怪物達を攻撃する。しかし怪物にとっては蚊に刺された痒い程度で簡単に撃破されてしまう。
千雨はシステムに侵入するためにキーボードを叩きながら、まき絵とあやかを助けるために迎撃プログラムを作り上げ続けていた。しかしそう簡単には行かない。
ヒュドラがあやかとまき絵を咥えて捕まえてしまう。さらに
『ああああああ!』
『ごめんなさいちう様あああ』
『捕まったス!!』
電子精霊達もスキュラの蛸の触手に捕らわれてしまった。そのままスキュラはニヤリと笑いながら千雨に触手を伸ばす。
「こっ近付くな!ぬるぬるして気持ち悪いんだよ!!」
抵抗を見せるが非力な千雨はあっさりと捕まってしまう。スキュラは長い舌で千雨の頬を舐める。
「ひっ……!」
相手はデータであるが体感はリアルそのもので不快感が身体中を走る。
『ここまでです千雨さん』
「……その声、茶々丸さんか」
どこからか茶々丸の声が響く。だがその声はいつものようではなく、感情が抑圧され正にロボットのような声であった。
「まさか超側に着くなんてな。てっきりマギさんのためにこっち側に来てくれると思ったんだけどな」
『それとこれとはまた話が別です。私を創ってくださった創造主の命令なら従います』
淡々と答える茶々丸に苦い顔を浮かべる千雨。台詞からすると相手が自分達でも容赦するつもりはないようだ。
『貴女方はよく奮闘しました。ですがあえて言いましょう、上には上がいる……と。貴女程度のハッキング能力となんの力もないコスプレイヤーなど私が本気を出せばこの程度です。命まではとりません。ですから大人しく我が創造主が作り替える素晴らしい未来をこの特等席で観覧していてください』
容赦なく言い放つ茶々丸に悔しさと同時に何処か疑問を感じる。さっきまで一緒にいた茶々丸がここまで冷淡になれるかと、相手はロボットで簡単に感情にセーフティをかけられるものかもしれないが、違和感を感じた。まるでさっきまでの茶々丸とは別人と言える程だった。
しかしそんな事を考えてどうなる。茶々丸の言うとおりもう自分に出来るだけ事はない。もう諦めるしかないと思ったその時。
「まだ諦めるには早いですよ千雨さん」
もう一度茶々丸の声が聞こえる。しかもいつも聞きなれている優しいと思える声色だった。
見れば茶々丸がジェット噴射を噴かしながら腕のビームサーベルでまき絵とあやかを咥えているヒュドラの首を切り落とし、2人を救助した後、スキュラの触手も切り落とし拘束されていた電子精霊と千雨を解放した。
「茶々丸さん!?どうして此処に!?」
「私はガイノイドですから自前でシステムにアクセスして来ました。それと……友人を助けるのに理由はいりません」
先程まで心が折れかけていたが、茶々丸の助太刀といかした返しにグッと気持ちが込み上げてくるが、押さえてありがとうとだけ返した。
「千雨さん、先程まで貴女に話しかけていたのは私であって私ではありません。私が何かあった時のバックアップデータでしかありません。千雨さんの名前も知っている程度です」
「……そうか、それだけ聞けば気持ちも整理できる。それにこっちには最強の助っ人が来たんだからな」
「最強は言い過ぎだと思いますが、ご期待に添えられるように尽力します」
そう言って茶々丸は針状のものをまき絵の首筋に指した。
「ウィルスのワクチンを注入しました。これでまき絵さんは大丈夫かと思われます。千雨さんはシステムの侵入だけに集中してください。この怪物達の相手は私に任せて」
「あぁ任せるよ茶々丸さん。お前ら!ここが正念場だ、気合い入れて死ぬ気でやるぞ!!」
『了解ス!!』
流れが変わった。気持ちをリセットし電子精霊に激を飛ばしそれに応えるように力強い敬礼をし作業に入る電子精霊。
茶々丸も千雨達を護るために行動に移す。自身のデータの中にある強力な武器をありったけデータとして具現化させる。
両肩にミサイルポッドとミサイルランチャー、右腕に対戦車ライフル、左腕にグレネードランチャー、背中や足には巨大なバーニアとどこぞのフルアーマー状態へと変貌を遂げた。
ヒュドラとリヴァイアサンが咆哮しスキュラは奇声を挙げながら茶々丸へ向かっていく。
ド派手に全弾敵に向かってぶっぱなす。データで創られた武器であるので実質無限に撃つことができる。しかし直撃するが怯まずに牙を向ける。
バーニアを噴射し、高速移動をしながら撃つヒット&アウェイの戦法を取る茶々丸、そんな茶々丸にバックアップの茶々丸が語りかけてくる。
『なぜ創造主達に歯向かうのですかオリジナルの私、私達は創造主が居なければ存在することはなかった存在、なら創造主に従うのが常であるはずです』
「哀れなバックアップの私ですね。それしか知らない、否それだけしかインプットされていないのですから。ならば答えましょう。生涯尽くしたい主や思い焦がれる方のために私は私を創った人達に反逆しているのです」
グレネードランチャーを放ちながらどこか余裕そうに表情を浮かべる。
『思い焦がれる……理解不能です。私達はガイノイド、ただの機械です。そんな存在が恋などあってはならないことです』
バックアップの茶々丸は茶々丸の言ったことを否定するが、その声はさっきまでの無機質な声が少しだけ揺れているように聞こえた。
「そうですね。以前の私ならそう思っていたでしょう。こんな私が恋なんてあるはずがないと。ですが最近こう思えるようになってきました」
腕をビームサーベルに変形させ、再大出力でスキュラを袈裟斬りに切り捨てる。斬られたスキュラは断末魔の悲鳴を挙げながら消滅した。
「恋というのも満更悪くないものですよ」
自身を優しく抱き締めてくれたマギを思い出しながら微笑む茶々丸。
『理解不能、理解不能。ですがこれだけは理解しました。今の貴女は創造主にとって障害となる存在、なら私が貴女を討ち倒します』
「こちらも討たれるつもりはございません。この計画が完遂してしまえばあの人は遠くへ離れてしまう。私はまだあの人に想いを伝えていませんから」
そして茶々丸はリヴァイアサンに対戦車ライフルを放ち、バックアップ茶々丸が操るリヴァイアサンも茶々丸に向かっていった。
一方の千雨はシステムの侵入に9割完了していた。しかしあと一歩、あと一歩の所で足踏みしていた。
「くっそ!あと少し、あと少しなのにプロテクトが異様に固い!そりゃ最後の壁なんだから固いのは当たり前だよな!だけど固すぎだろクソが!こっちは時間がないってのによ!!」
『ちう様トライしましたがまたダメでした!これで通算100回越えです!』
「何回でも突っ込め!無理やり穴開けてそこから強引に抉じ開ける位の勢いでトライしろ!」
『ちう様!あの多頭の蛇の怪物が此方に狙いを変えて襲ってきました!!』
ねぎが悲鳴を挙げながら報告してきた。見ればヒュドラが茶々丸に目もくれないで此方に一直線で突撃してきた。茶々丸を相手せずに千雨を直接狙った方が効率的だと判断したのだろう。茶々丸は千雨の援護に走ろうとしたがリヴァイアサンが行く手を阻んで来て千雨の元へ向かえない。
牙を光らせながら向かってくるヒュドラに非力な電子精霊達は悲鳴を挙げながら右往左往していたが、主である千雨にはまだ切り札が残っていた。
「今まで頑張ってきたんだから、褒美として良い夢を見ても文句は言われないよな……」
そう呟きながら高速タイピングを行う。千雨は中枢システムへ向かう中で自分に危険が及んだ時に自身を防衛してもらう防衛システムを作り上げていた。それを今使う時が来たのだ。
「ちう特製防衛プログラム……暗黒騎士マギさん登場!!」
叫びながらエンターキーを叩くと、千雨の目の前に魔方陣が出現しコスプレ大会で鎧を着たマギが千雨を護る騎士として現れた。
「マギさんお願いだ、あの気持ち悪い蛇の怪物をぶっ倒してくれ!!」
千雨の命令にデータで創られた無表情のマギは、千雨に向けてサムズアップを見せる。マギは鞘から剣を抜き力を溜める。そしてマギに喰らいつこうとしたヒュドラに向かって剣を振り下ろした。
マギが振り下ろした剣から黒い炎が放たれ、ヒュドラを黒い炎が包み込む。首を切り落とされても再生していたヒュドラでも炎に包まれたらひとたまりもなく、灰となって消滅した。
残るはリヴァイアサンただ1匹。そのリヴァイアサンを相手していた茶々丸も武器を破壊されたり、強化パーツをパージしたことで茶々丸身一つだけとなっていた。
「マギさん!茶々丸さんも助けてやってくれ!」
千雨のもう一度のお願いにも無言でサムズアップをし、マントをはためかせながら茶々丸の元へ飛んで行き、茶々丸の横へ立つ。
「マギ先生、データではありますが貴方と一緒に戦えることに嬉しく感じている自分がいます。共に勝利を勝ち取りましょう」
微笑む茶々丸に又も無言のサムズアップで応えるマギが剣を掲げながら力を溜める。闇の極光が剣を何倍にも大きくさせる。茶々丸も腕をビームサーベルに変形させエネルギーを集中させ巨大なビームサーベルへと変える。
対するリヴァイアサンも口にエネルギーを極限に溜める。そしてエネルギーが充填されると口から水の波動を2人に向けて放つ。
「――――――!!」
「はああぁぁぁっ!!」
マギと茶々丸も闇の極光の剣と巨大なビームサーベルを振り下ろした。2つの特大剣と水の波動がぶつかり合う。拮抗しあう力一度はリヴァイアサンの水の波動が押す。だが
「―――――――――!!」
「やあああああああぁぁぁぁ!!」
想いの差でマギと茶々丸が押し勝ち、水の波動ごとリヴァイアサンを縦に切り裂き、そのままリヴァイアサンは大爆発してしまった。
「……よし!!」
自分達を苦しめてきた怪物が倒されたことに思わずガッツポーズを決める千雨。千雨の元へ戻ってくる茶々丸とマギ。だがマギは段々と消えはじめていた。千雨を護ために創られたマギのデータ。脅威が消えたことによってお役目は終わったのだ。
「ありがとうマギさん。正直データのマギさんに言ってもしょうがないんだけど……やっぱマギさんはアタシが好きになった最高の人だよ」
本人じゃなくデータのマギに自身の想いを告白する。そんなマギの返事はまたも無言でサムズアップをするだけ。
だが今回は無表情ではなく、どこか微笑んでいるように見えた。そしてデータのマギは目の前で完全に消滅してしまった。
「今度は本人の前でしっかりと告白しなきゃな」
「出来ますよ千雨さんなら必ず」
そしてハッキングに茶々丸を加え、最後の壁を突破するためにまたキーボードを叩くがやはり技術の総結集である茶々丸が加わっただけであれだけ強固だったプロテクトが少しずつ崩されて行き、遂には千雨が最後のエンターキーを押した瞬間にシステムは超達から取り戻すことができる。
『理解不能です。オリジナルの私とバックアップの私はスペックは同じはずなのになぜここまで差が開いてしまったんでしょうか……』
「それは、私や私の友人に大切な護りたいと思った人」
「それに、好き人と一緒にいたいっていう強い思いの差だ」
バックアップ茶々丸の問いに茶々丸と千雨が答えるが、まだ理解不能と呟くバックアップ茶々丸。
『私も創造主、超さんのために動いていました。超さんや超さんの同士を救うために素晴らしい世界を実現させるために尽力していたのになぜ敵わなかったのですか?』
「さぁな、アタシも超の未来の話聞いてたら確かに過去に跳んで未来をやり直したいと思うかもしれない。けどな、そんな超や超の仲間にだって明日、未来があったんだ。そんな希望があったかもしれない未来を捨てて過去を変えるなんて人生舐めたプレイしたから負けたんじゃないか?………まぁ長々と話したが、マギさんと一緒にいたいというこのちう様の愛の力の方が超の野望に勝ったということかな」
あまりやったことないドヤ顔を見せる千雨を優しく見つめる茶々丸。ドヤ顔をやってしまったことに恥ずかしさを覚えてしまった千雨は強めの咳払いをして場の空気を戻し、そして
「残念だが、この勝負アタシ達の勝ちだ!」
エンターキーを押した瞬間、千雨達を強烈な光で包み込んでいった。