堕落先生マギま!!   作:ユリヤ

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滅んだ世界②

『超(さん)!?』

 

まさか今から探そうとしている1人である超が自らこちらへ出向いてきたのだ。

 

「てめぇ!今さらのこのこ現れて来やがって!!」

 

千雨が超に食って掛かろうとするが、古菲と楓に止められる。

 

「超さん、どうしてここへやって来たのかは今は問いません。けど今超さんはこんな世界にするつもりじゃなかったって言いました。それはどういう意味ですか?」

 

ネギが超の言った言葉の意味を問いただした。超は疲れたような笑い声をあげながらこう言った。

 

「世界をこんなにした張本人はマギ・スプリングフィールドダ」

「……………え?」

 

超の言ったことにネギの頭は急激に冷えていった。今彼女はなんと言った?世界をこんなにしたのは、マギだとそう答えたのか?

 

「まっマギさんがこんな事をした!?嘘言うんじゃないわよ!!」

 

超の言ったことに声を荒げるアスナ。だが嘘じゃないと言いたげに超は首を少しだけ、横に振るう。

 

「世界をこんなにし、人間を化物へ変えていったのはマギ・スプリングフィールド。いや、マギ・スプリングフィールド"だった"と言った方がいいかもしれないな」

「……どういう、意味ですか超さん」

 

深く深呼吸をしながら改めて問い詰めるネギ。直ぐにでも大声を出して喚き散らしたい気持ちが先に出てくる。そんなネギを見ながら超はことの顛末を語り出す。

 

「学園祭の最終日の夜。私や葉加瀬が作り量産した田中ヤ蜘蛛型ロボット。リョウメンスクナ型の巨大ロボット数機を使イ、奇襲無力化させた後に、世界樹の6ヶ所の魔力の溜まり場の魔力を使イ、世界中に強制認識魔法を行使しようとしタ。そして京都でこのかさんを拐い大事を起こそうとしタ天ヶ崎千草が妖怪を召還シ魔法使い達を妨害、その彼女と行動を共にシ、高畑先生を無力化した弓兵ガ世界樹前の広場にてマギ・スプリングフィールドと一騎討ちを繰り広げタ」

「お兄ちゃんを襲ったあの傭兵の人が!?でも、お兄ちゃん何も言っていなかった……」

「私の送迎会で朝まで騒いで眠っていたクラスの皆を人質にとっていたからナ。協力を求めたらクラスの皆を殺すト」

 

だから自分達をエヴァンジェリンの別荘へ押し込んだ時も何も話さなかったのか、下手に口を滑らしたらクラスの皆の命が危なくなるのだから。自分達が護られ、何も出来なかった悔しさではを強く噛み締めた。

 

「マギさん、マギさんはどうなったんですか?」

 

のどかが超にマギがどうなったのか聞く。超は少しだけ黙っていたが直ぐに話を続ける。

 

「マギ・スプリングフィールドと弓兵の戦いが始まって直ぐに魔法使い達がマギ・スプリングフィールドの応援へ駆けつけタ。そして、弓兵が特殊な魔法を使イ、少しの間姿を見ることが出来なかったガ、その魔法が終わったらマギ・スプリングフィールドの右腕は切り落とされていタ」

 

マギの右腕が切り落とされたそれを聞いて、のどかは気を失う。夕映とハルナがのどかを抱き抱え、ゆっくりと横にする。

 

「私はマギ・スプリングフィールドはもう戦うことは出来ないと判断しタ。しかし……本当の悪夢はこれからだっタ。駆け寄ってきたエヴァンジェリンさんの腕を切断したと思ったら腕を補食し始めタ」

「師匠の腕を斬って」

「その腕を……」

「た、食べた……」

 

マギがエヴァンジェリンの腕を喰っている姿を想像してしまい、吐き気が込み上げてきたが、なんとか堪えた。

 

「エヴァンジェリンさんの腕を食い終わったマギ・スプリングフィールドハ切られた腕の断面から新しい腕を生やしタ。人とは別の腕をナ。そして姿は人の姿とは大きく欠離れた黒イ異形のナニかへ変化してしまった。あの姿はまさに悪魔、黒き悪魔≪ブラック・デーモン≫と呼称でもしようカ」

 

ショックで何も言えなくなった。自分の兄が悪魔へと転身してしまうなんて、何かの冗談かと笑い飛ばせるなら笑ってやりたかった。

 

「黒き悪魔はまず最初に、混乱していた学園祭に来ていた観光客を手にかけタ。自身の身を護る術を持たない一般人を瞬く間に蹂躙シ、自分の眷属としタ。学園で徘徊していたあの黒いナニか達ハ、元々人間だっタ」

「そんな……」

 

ネギはショックを隠せない、あのナニかが元々人間だったこともそうだが、マギが人に手をかけてしまったのだから。

 

「高畑先生……高畑先生はどうしたの!?」

「うちのおじーちゃんは!?」

 

タカミチと学園長の安否を聞くアスナとこのか。

 

「ことが大事になってしまったからナ、学園の魔法使い達や、ロボット軍団そして天ヶ崎千草が召喚した妖怪軍団で迎撃しようとしタ……だが、無惨にも惨敗。仮にも英雄の息子ダ。あっさり返り討ちにあい、眷属になるかスクラップになるかダ。眷属でも魔力があるせいカ、知性だけは残っていた。けど結局は黒き悪魔の操り人形にかわりはなイ。先生や学園長も止めようと本気だったガ、非情になりきれずに、その隙を突かレ互い重症ダ。最終的には生き残った魔法使いに連れらレ、この学園を捨てて敗走しタ」

「待ってください。僕の、3ーAの生徒の皆さんはどうしたんですか!?」

 

先ほどから3ーAの生徒達の名前が出てこない。まさか、マギが3ーAの生徒達にも手を……

 

「安心しロ。騒動が起きる直前まで千鶴さんが一緒にいタ様で、千鶴さんの指示で寮へ皆避難しだれも犠牲者出ていなイ。皆で学園長達が逃げタ場所まで避難しタ。だが……門前払いを食らってしまったようダ」

「どっどうしてアルか!?皆は関係ないはずアル!!」

 

古菲の言う通り、千鶴は直前にマギが魔法使いだということを知ったが、殆どの生徒が魔法とは関係のない生徒のはずだ。

 

「すまなイ。どうやら私のせいのようなものダ。逃げた魔法使いにの何人かが、3ーAの生徒全員が私の仲間だと妄言を走ってそれは直ぐに伝染したようデ『3ーAの生徒達はテロリストのクラスだ』と。そして、私を直ぐに罰しなかっタ責任を取る形となリ、高畑先生と学園長は幽閉されてしまっタ」

「そんな高畑先生、皆……あぁ」

「おじーちゃん……うぇぇ」

「アスナさん!お嬢様!気をしっかり!」

 

アスナとこのかは限界が来て終には泣き出し、刹那がなんとか2人を支える。

 

「黒き悪魔の勢力は劣ろうことはなク、世界樹の魔力を使イ、眷属を使役し、ナニか達は日本や世界に飛び、次々と眷属を増やしていっタ。あの巨大なナニかは何百体のナニかが合体して出来た化物ダ。そして皮肉にもこんな形デ世界に魔法の存在が明るみになっタ。世界中の魔法使いが軍と協力してナニかの対処をしようとするガ、直ぐに仲間入リダ」

 

そして一週間が経っタと続ける超。

 

「門前払いをくらった3ーAの生徒は雪広さんの家へまで避難し立てこもってる。龍宮さんや葉加瀬の作ったロボット、そして茶々丸が護っているが、時間の問題だろウ」

 

そして少々一息つき、話を再開する。

 

「こうなった責任は私にあル。この一週間の間に残った田中やロボットを使い黒き悪魔へ攻勢を仕掛けタ。私のこの戦闘服にもカシオペアを取り付けてあル。連続の時間跳躍を使った撹乱攻撃をしようとしたガ、まるで先を読んでいるかにようニ、跳躍してきた場所ヘ先回りして攻撃してきタ。結局は何も出来ず返り討ちにあっタわけダ」

「……もういい、黙れよ、お前」

 

ずっと黙りを決めていた千雨は口を開いたと思ったら、その手にはエヴァンジェリンの家の家具を握っていた。その目は瞳孔が開いていて、間違いなくキレている。

直ぐ様楓が千雨を羽交い締めにする。

 

「千雨殿、落ち着くでござる!」

「離せよ!長々話してたが、結局はこいつのせいで世界がこんなになっちまったんだろ!?こいつのふざけた計画のせいで、アタシが求めてた普通の生活が……マギさんが……返せよ!アタシの生活を!マギさんを!マギさんとアタシの思い出を!!責任がテメェにあるなら死ね!!死んで詫びろ!!!」

「落ち着いてや長谷川さん!」

「気持ちは分かるけどだからって自分が手をかけちゃったら駄目でしょ!?」

 

亜子やハルナも落ち着かせようとするが、狂ったように喚き散らす千雨。

しかし、超は千雨達へ笑いかける。

 

「死ね、カ。大丈夫だヨ。千雨さん、あなたが私を手にかける必要はなイ」

 

どういうことだと拘束を無理にでも振りほどいて、超へ近づこうとした瞬間、鈍い音と共になにかが床へ落ちた。

 

「……は?」

 

一瞬理解が追い付かなかったが、それは紛れもなく超の腕だった。

 

「ヒィィィ!?」

 

目の前で腕が千切れ落ちた光景を目の当たりにして、怒りよりも恐怖が上回り、腰を抜かし後退りをしながら悲鳴をあげる千雨。

 

「超さん!?」

「超、どうしたアルか!?………う!?」

 

ネギと古菲が超の元へ駆けつけ、正面を見て息を呑む。

横目から見た超はいつもと変わらないものだったが、正面からはひどい有り様だ。

服のあちこちから血が滲んでおり、傷口も壊死しており、腕が落ちた傷口も完全に腐っていた。しかも片目も潰れていた。

 

「黒き悪魔との戦いで戦闘服の生命維持装置もおじゃんダ。正直今日まで気力で生きていたものダからナ」

「大変だ!このかさん急いで治療を!!」

「はっはい!」

「無理ダ。私でももう助からなイということはわかっていル」

 

そして崩れ落ちるように座り込む超。今までは痩せ我慢のように耐えていたようなものだった。

 

「正直、ネギ先生達が来てくれてよかっタ。最期に、この滅んだ世界をなかったことに出来ル可能性の方法を、教えることが出来ル」

「さっ最期って、そんな事言うんじゃないアルよ超!」

「……古菲、悪いガもう話すのもキツくなってるんだヨ。だから……」

 

脂汗を滲ませ息も荒くなり出した超。もう、長くはないようだ。

 

「世界樹の魔力で動くカシオペア、その魔力は黒き悪魔ガ根こそぎ奪っていっタ。だが全てというわけじゃなイ。恐らく地下深くの根子の部分には微かに魔力が残っていル。微かにと言ってもネギ先生達ガ一週間前に跳ぶことハ可能だろウ。そしてエヴァンジェリンさん、彼女は黒き悪魔が最初に起こした魔力の爆発の中心部にいタ。爆発に巻き込まれたガ彼女のことダ、恐らく無事だろウ。彼女と合流シ黒き悪魔を抑えてくれていれバ、成功の確率も上がるはズ……」

 

そこで大きく咳き込み、辛うじて無事な片手で口を押さえる。だがその手の隙間から血を吹き出し始めた。思わずネギ達も仰天する。

 

「超さん!?」

「終に内蔵系統も限界が来たカ。そろそろ私の命も風前の灯だナ……なぁネギ先生、もう少し……私の独り言ニ付き合ってもらってモよろしいカ?」

 

超の頼みに黙って頷くネギ。ありがとうと礼を言いながら話を続ける超。

 

「私は未来から来た未来人だというのはもうマギ・スプリングフィールドには話しタ。この時代に来た理由は2つ、1つは未来の同志を救うためダ。皆が私の背中を押してくれタ。だが全員じゃなイ。少ないガ何人かガ私の過去へ跳ぶことを反対しタ。『同志超、我々未来の者が過去を変えることはもっと大きな災厄を招くことになる』ト。私はそんなことはなイと自分に言い聞かせタ。結局は同士の言う通リ、未来人の私が過去へ来たのが間違イだったのかもナ」

 

力なく笑う超、見れば目から光がどんどん失っていく。

 

「理由その2はマギ・スプリングフィールドを亡き者にすルこと。マギ・スプリングフィールド本人が未来の障害になルわけではなイ。だが、彼の存在ガ後の未来に大きく影響ヲ及ぼス。だからこソ、まだ力を付ける前ノこの時間にテ、亡き者にするつもりだっタ。最初あの人を見タ時ハちゃらんぽらんデいい加減ナ人だと思っタ。けど、あの人ハ……マギ先生ハ、日が経つニつれちゃらんぽらんないい加減さが減っていキ、ネギ先生やクラスを見守っていることガ増えていくのヲ見て、あぁこの人は本来、これガ本当の性格なんだナと……」

 

また強く咳き込む超。呼吸をするたびに空気が漏れる音が聞こえ益々痛ましい姿になる。

 

「……マギ先生ガいることによっテ、世界ハよくない方へ傾ク。そう自分ニ言い聞かせ、傭兵に依頼したラこの始末。結局、私ハ皆ヲ救うなんて言っテ、自分があの生活ニ嫌気をさしたなんテどうしようもなイ、救いのなイものなんじゃないかっテ……」

 

そう言って手を上へと伸ばす。何かを探すように

 

「ネギ先生、何処にいル?もう殆ど目ガ見えないんダ」

「……ここにいますよ超さん」

 

虚空に手を伸ばす超の手を掴むネギ。ネギが掴んでくれたことに安心したのか目を細める。

 

「こんな事を頼むのハ虫が良すぎるとは思っていル。だけどどうカ、どうカ世界ヲ救ってはくれなイか?どうせこの後私ハ死んデ地獄ニ落ちル。けどこのまま死んでしまったラ、死んでも死にきれなイ。だから……」

「……分かりました。だからもう、これ以上無理をしないで……」

 

超の手を力強く握り、約束を誓うネギ。

 

「最期に、聞いてモいいカ?私ノやろうとしていたことハ、間違っていたのカ?」

「……僕は、超さんのやったことは間違っていると思った所はあると思っています。でも……でも、大切な人達の為に自ら一歩前に出たことは間違いではないと思っています。超さんは、僕の大切で立派な生徒の1人です。それだけは絶対、絶対です」

「………ありがとウ」

 

お礼を言った超の呼吸が段々と浅くなる。どうやら最期が近づいてきた。

 

「嫌アルよ、しっかりするアルよ超……!」

「古菲、私ガ逝くのヲ悲しんでくれるのカ?世界をこんなニしたというのに……ありがとう。私ニとってこれ以上ない、幸福ダ……」

 

耐えきれなくなり、大粒の涙をぼろぼろとこぼす古菲。親友に看取られる、これ以上ない幸福だと感謝する超。

 

「……さい、ごになる、ガ……短イ、学生生活だったガ、とても……楽しかっタ。謝謝、そして……さい……ちぇ……」

 

最後まで言うことが出来ず、超の体から力が抜けて手が床へと落ちる。親友やネギ、そしてクラスメイトに看取られ、超が今……逝った。

 

「ちっ超………!!」

 

遂に叫ぶように大号泣する古菲。そんな古菲に対して、ネギ達は声をかけることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 




今回は自分でもエグいと思いました

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