ブラック・ブレット 漆黒の魔弾   作:Chelia

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蛭子影胤編
主人公・回想


死体…死体…死体…死体

 

この物語の主人公である朝霧零(アサギリレイ)の歩いている道の周りには、それ以外のものは何もなかった。

 

時は2021年、零が9歳の年であり、人類がガストレアに敗北をした年である。

 

鳥の一匹も鳴かず、草木も枯れ、人は死ぬ。そんな生物のいない所を歩き続けている理由は至って単純。

 

零が朝霧家最後の生き残りであるからだ。

 

★敗戦日前日・回想★

 

ニュースでも目の前の現実でも、ガストレアが次々と侵食を続け世界を喰らいつくしているのは子供である零にもわかることであった。

しかし、周りの人々が次々と死んだりガストレア化していく中、朝霧家は家族の誰一人を失うことなく生存を続けていた。

 

このまま…もう少し耐えれば、きっと明るい未来がやってくる。

そう家族みんなが思っていたことだろう。

 

家族構成は4人家族。

父の朝霧優世(ユウセイ)

母の朝霧華蓮(カレン)

1人息子の朝霧零

養子で零の妹の朝霧紗雪(サユキ)

 

朝霧家は特殊な家系であり、現在になってようやく解明されたガストレアの対抗策である「バラニウム金属」をこの時代から所持し、両親2人を中心にガストレアを適度に退治しながら生活していた。

元々、町外れの方に住んでいたこともあり、人口が密集していなかったためガストレアの侵略数も、他の人間がガストレア化する数も都心に比べると著しく少なかった。

そのため、適度な逃亡と抵抗を繰り返すことで、そこまで困った生活はしていなかった。

 

この日も父の優世がガストレアを1体退治するのを見届けた後、普段通り食事をしていた。

 

「兄さん…おいしいね!」

 

兄と同い年であるにも関わらず自らを義妹と名乗る紗雪が零に満面の笑みをしながら話かける。

今日のメニューはあるものを有り合わせたシチュー。

ガストレアとの戦争を開始してからだいぶ月日が経っている上、食物の枯渇も進んでいる。

そのため、普段は食べないようなものでもとにかく鍋に突っ込んで胃を満たすしかない。

味付けはきちんとされているものの、お世辞にもおいしいとは言えないその食べ物を紗雪はおいしいと言った。

 

「毎回毎回同じものばっかで、俺はもう飽きちゃったよ…」

 

「うん… でも、みんなで食べてるから… おいしい!」

 

零が本音を出し文句を言うも紗雪は家族で食べるから美味しいんだという。

その言葉を聞いた母、華蓮もこんな料理しか子供に作ってあげられないという悔しさを通り越し笑顔を浮かべていた。

 

「ふふっ… 紗雪は良い子ね…」

 

「うん!私、お父さんもお母さんも兄さんも大好きだもん! だから、おいしい!」

 

「そう言われたら、俺までおいしいと感じるようになったよ…」

 

時折笑顔を見せつつ食事を楽しんでいると、周囲の状況を確認していた優世が帰ってきた。

 

「どうだった?」

 

「この辺りに大型のガストレアはいないようだ。食べ物のほうは…相変わらず厳しいな… 最悪明日からは草木の根を引っこ抜いて食べることになりそうだ…」

 

「そう…」

 

両親が何やら真剣な顔つきで何かを話しているが、難しい話は零にも紗雪にもわからない。

ただ、食糧難で困っているということだけはわかった。

 

「親父…探すのくらいなら俺も手伝うよ…」

 

「そうしてくれるのは嬉しいが、この辺りにはもう何も…っ!?」

 

優世が零の提案を断ろうと思った矢先、何か巨大な物が空から振ってきた。

ドカーンという物音と共に、寝るために立てておいたテントを破壊する。

 

「仮とはいえ、大切なものが詰まった我が家を… これは!?」

 

空から振ってきた物…それは何とバスだった。

しかし、こんな町外れの場所な上、資源が枯渇しているこの状況下にバスなんてどうやったらここに落ちてくるのだろうか…

 

異臭がした。

 

燃料の臭い…恐らくあのバスにはまだ燃料が入っているのだろう。

そんな物が空から振ってきた。もし、何処かしらが損傷していれば爆発の恐れがある。

可能性は決して低くない。

 

「貴方!あれ!」

 

華蓮が叫ぶと、空には巨大な飛行型ガストレアが浮遊していた。

 

「空母型…このバスは奴が落としたものか…」

 

空母型ガストレア。

鳥類や、羽を持つ昆虫類などを媒体とした空を飛ぶことのできる大型のガストレアで、中には自分の体内や翼の上に他のガストレアを乗せて飛ぶものもいる。

都心を破壊し尽くした後、こちらに飛んできたとしたら背中にバスが乗っていたとしても何ら不思議ではない。

 

「厄介だな… バスが爆発する可能性もあるし、あの空母がガストレアを落とす可能性もある。とにかくここは移動しよう。」

 

「えー!まだご飯残ってるのにー!」

 

駄々をこねる紗雪を強引に零が立たせると、移動を開始しようとする朝霧家族。

しかし、その対応ですらガストレアからすれば遅い以外の何ものですらなかった。

 

空母から黒点がいくつか落ちてきた。その黒点は自分達に近づくに連れて姿がはっきりとしていき、やがては気持ちの悪いその姿を家族の前に晒す。

大量のガストレアだ。タイプは二種類…モデル・スパイダーが4体に、モデル・モスキートが2体。

小型のガストレアとはいえ、家族全員を守りながら優世が1人で戦うには限界の数だ。

 

「零、紗雪、お前達2人は先に逃げろ!この場を切り抜けたら合流する!」

 

「ここは私達二人でなんとかするわ…お願い、生きて!」

 

抵抗手段を持っているとはいえ、この頃の朝霧家はとても強いとはいえなかった。

軍人ではないのでロクな戦闘訓練も受けたことのない素人。

恐らく、優世が時間を稼ぎ、華蓮が死角をつかれないようにガードする戦法なのだろう。

 

「え…わ、別れるのやだよ!」

 

「親父…絶対合流しよう…俺、頑張るから!」

 

「そのいきだ零… 私がいない間は、お前が紗雪を守るんだ… さあ、行け!」

 

涙を浮かべながら両親と離れるのを嫌がる紗雪の手を零が取る。

零とて、一時的にでも離れ離れになるのは嫌だったが今までの父や母の行動を何度も何度も見てきた零は今は自分が紗雪を守らなくてはならないことを重々理解することができていた。

 

「行こう紗雪、俺たち家族ならきっと生き延びられるさ!今までだってそうしてきたんだから!」

 

「絶対…絶対だよ? 私、明日もお母さんのご飯が食べたい!」

 

「それじゃあ、明日は紗雪が一番食べたいものを作りましょう… だから紗雪、走って?」

 

「うん!」

 

食材がないのに好きな物も何もない…

だが、紗雪は涙を拭うと零の手をぎゅっと握り締める。

母との小さな約束を叶えるため、父の思いに応えるため…

 

零は紗雪と共に走り出した。

 

「しかし、これだけの数…正直厳しいな… 華蓮、君だけでも…」

 

「そんなことできるわけないじゃない… 私は、ずっと貴方についてきた… 死ぬ時までついていくって決めてるんだから…」

 

地上に降りたガストレア6体は、2人を取り囲むように配置されている。

零や紗雪が逃げられたのが奇跡のように感じられるが、もしもの時のため予め優世が2人に通常採掘されたものではなく人口加工されたバラニウムを越えるバラニウム…「超バラニウム」を持たせていたため、自然とターゲットが残りの2人である優世達に向いたのだ。

モデル・スパイダーは俊敏な動きと蜘蛛の糸で敵の動きを止めるガストレア。

モデル・モスキートは巨大な羽で宙を飛び、口部分にある巨大な針でターゲットにガストレアウイルスを注入する厄介なガストレアだ。

 

どうするか攻めあぐねていると、空にはまた別の異音が…

今度やってきたのは、自衛隊のヘリのようだ。

 

「あの空母を落とすつもりか!」

 

下に人がいようがいまいが関係ない。

ただ、ガストレアを倒すようにだけ命じられた自衛隊は容赦なく実弾をガストレアに向けて乱射する。

しかし、それも無駄な足掻き。バラニウムでなければガストレアには大した威力を発揮することができず、倒す前に再生されてしまう。

だからこの時自衛隊が取った手段とは…

 

(翼を集中攻撃し、地面に突き落としてガストレアを殺す)

 

ヘリの機銃から放たれ続けるガトリング弾。

そのフルマガジンを全て左翼に打ち切ると、ガストレア空母の翼がもぎれ優世達の上に落下を始めた。

 

「まずい!逃げるんだ華蓮!」

 

それに気づいた優世は華蓮を連れて強引に逃走を図るが、周りのガストレアがそうはさせまいと行く手を阻む。

 

「クソおおおっ!」

 

素手で全力でスパイダーを殴り、弾き飛ばす優世。

そのまま強引に華蓮の腕を掴み脱出を狙うが…

 

「あっ…」

 

この状況で華蓮が躓き転んでしまった。

…絶望的だ。優世は勢い余って1人だけガストレアの包囲網から抜けてしまう。

 

その直後、落下してきた空母が2人を嘲笑うかのようにピンポイントでバスの上に落下する。

押しつぶされたバスはガストレア、…そして華蓮を巻き込み大爆発を起こす。

 

「嘘…だろ? 華蓮…華蓮! うわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

一瞬にして目の前が焼け野原になった優世は、ただ叫ぶことしかできなかった。

 

場面は変わり、父、優世の指示を受けひたすらに走り続ける零と紗雪。

休むことなく、体力の尽きるまで走り続けた2人の前には既にガストレアの侵食を受け崩壊したと思われる廃虚街へと到着した。

ここまでくれば大丈夫だろう…ガストレアは愚か、あらゆる生物の気配すら感じない状況を不気味に感じるが、今は生き残ることが最優先だ。

 

「休憩しよう、紗雪…」

 

「うん…兄さん…」

 

ボロボロになった建物の陰に身を潜めると休憩を取る2人。

…それから何時間経っただろうか?深夜の時間帯なっても父と母が来ることはなかった。

紗雪は既に就寝しているが、零は不安で全く寝つけなかった。

このまま両親が来なかったらどうしよう…

そんな不安を胸に、紗雪を見つめていると結局一夜が明けてしまった。

零がそうはなって欲しくないと願っていた最悪の結末。…父と母は、零達のもとに来ることはなかった。

 

翌朝、目覚めた紗雪が声をかけてくる。

 

「兄さん…お父さんとお母さんは?」

 

「…まだ、来てないみたいだよ?俺達の足が速くて追いつけなかったんじゃないかな?」

 

適当な…いや、自分に都合の良い理由をつけて紗雪を安心させる。

両親がどうしてるかなんて零にもわからない。

むしろ教えて欲しいくらいだ。

 

「兄さん…お腹空いた…」

 

紗雪が泣きそうな顔をしてこちらを見てくる。

そういえば、あのガストレアのせいで残しておいた食料は全部ダメになってしまったんだっけ…

ここは完全な廃虚なので食料が落ちていたり、食べられる植物が生えていることは考えにくい。

移動しつつ食べ物を探すしかないようだ。

 

「俺もだよ… 一緒に食べられるものを探しに行こう?親父やおふくろの分も探して、喜ばせてやろうぜ!」

 

「うん… 一人じゃ寂しくても、兄さんと一緒なら…」

 

本当に可愛い妹だ。

紗雪は4親等の親戚に生まれた子だ。だから本来であれば従姉妹に値する。

生まれてから僅か2年…紗雪が2歳の時にその親が大罪を犯し警察に処罰された。

母も共犯者だったらしく共に刑務所に放り込まれてしまい、一人になる紗雪。

そんな時、零の馬鹿親父の優世が養子として引き取ったのだ。自我がしっかりした頃にその事実を知った紗雪であったが、私の本当の家族は朝霧がいいと強く希望し苗字を朝霧に変更。また、同い年にも関わらず自分よりも大人に見えた零を慕い、兄さんと呼ぶようになった。

今では紗雪もかけがえのない朝霧家の一員なのだ。

それだけではなく、このとても真っ直ぐで優しい性格。零が守りたくならない理由など何処にもない。

 

取りあえずと昨日とはまた違う方向に歩き始める2人。

森へ入り、食べ物を探そうとするとその入り口に1人の男がいた。

何か手掛かりが得られるかもと思い零が声をかける。

 

「あの…すみません… この辺で食べ物が手に入る場所ってどこかありませんか?」

 

「…たぁべものだぁ?」

 

パッと見中年の男は零達の方を振り返ることもなくブツブツと物を言う。

 

「ふん…それを食えば生きられるんだもんお前等はいいよなぁ? けどなぁ、俺はそんなもん見つけたって生きられないんだよ!何生きてやがんだよ!てめぇらも…死ねやぁぁぁぁ!!」

 

男が一気に振り返る。

零も紗雪も顔が青くなった。男の両目は充血し、全身傷だらけで所々から出血している。

そして何よりも特徴的なのは、男の右腕がなく、肩の部分から元腕があったと思われる部分にかけて明らかに人間の物ではない何らかの物体がうねうねと動いていた。

体内侵食率が50%を越えた人間の末路である。

しかし、そんな知識を持っていなく、人間がガストレア化する瞬間を一度も見たことのない2人にとって、それは恐怖以外のなにものでもなかった。

 

「に、兄さん!?」

 

「逃げよう紗雪、早く!!」

 

紗雪の手を取り猛ダッシュでUターンをしようとする零。

 

「逃さねぇよぉ!!」

 

男が上記を言った瞬間、ついにその時は来た。体のあちこちから気持ち悪い何かが出現し、巨大化を始める…そして、人間の姿ですらなくなった。

 

「こいつはモデル・スネーク?でも…何なんだこいつ…こんなの見たことない!」

 

零が驚愕するのも無理はない。

2人の背後でガストレア化した生き物…確かに胴体だけを見れば蛇そのものだが、この蛇…首が8本もあるのだ。

 

「怖い…怖いよぉ…」

 

「紗雪!!」

 

目に涙を浮かべる紗雪を引っ張り強引に走り出す。さっきまで隠れていた建物まで戻れれば、相手の目を撹乱させて振り切ることができるかもしれない。

だが、そんな場所に行くまで相手が待ってくれるはずもない。

追いかけてくる蛇、逃げる2人。

時折、尻尾による攻撃が飛んでくるのを何とかかわしきり、元の場所まで戻ることはできた。

 

「兄さん…もう無理… 歩けないよ…」

 

「もう少しだ紗雪!あの建物の中にさえ入れれば!」

 

「…っ!? 兄さん!危ない!」

 

突如、紗雪は何かに気がついたのか零を突き飛ばした。

その後、蛇の1つの口から紫色の液体の塊が2人を狙って襲い掛かる。

直前に突き飛ばされて場所を移動した零に当たることはなかったが、逃げ遅れた紗雪は全身にその液体を浴びてしまった。

 

「ぅ………ぁ………っ………」

 

視界が揺らぐ、体に力が入らない…否、自分の体を何かに持っていかれているような感覚。

立っていることができず、紗雪はその場に倒れた。

 

「紗雪!紗雪!!」

 

慌てて駆け寄る零。だが、それを紗雪は拒んだ…

 

「にぃ………さん… 私に触っちゃ…ダメ…」

 

「何言ってんだよ紗雪!一緒に逃げよう!」

 

そう、知識はなくとも本能でわかってしまうのだ。

紗雪が浴びた液体は蛇の猛毒液。

そこには、ガストレアウイルスの成分も一部含まれているのだろう…

そんな体の紗雪を零が触れれば、ガストレアウイルスが感染してしまう恐れがある。

蛇の持つ毒の能力がこのような形で応用され、遠距離攻撃を可能としたのだろう。

追いかけられている際に、打撃攻撃しかしてこなかったため、対策を練らなかった完全なるミス。

紗雪の思いを感じ取ったのか、零は紗雪に触れることはなかったが、目の前で崩れ落ちていく大切な妹から離れようとはしなかった。

 

「兄さん…あのね……… 私、朝霧のみんなに助けてもらえて嬉しかった……… 小さくて何もできない私に笑顔をくれて……… 本当の家族のように私に幸せを与えてくれたみんなが………大好き………だった………」

 

幼い紗雪では意識を保つことさえ難しいはずだが、最後の力を振り絞り自分の思いを伝えようとする。その目には涙が浮かんでいた。思えば、昨日の夜からずっと紗雪は泣いてばっかりだったな…最後の最後にすら笑わせてやることもできない…

それだけじゃなく…

 

「俺は…手を握ってやることも、頭を撫でてやることも、抱きしめてやることも…できないっていうのかよ…」

 

両手に握り拳を作るも、何も殴れるものもない…ただやり場のない怒りだけが残る自分の感情に耐えられなくなり涙を浮かべる零を安心させるかのように、紗雪は微笑みかける。

 

「大丈夫だよ兄さん……… 兄さんの気持ち、確かに受け取った… 兄さんは生きて………私の憧れで…大切なお兄ちゃんで…私の大好きな………たった一人の友達… 大好き…兄…さん………」

 

そう言い終えると、紗雪の意識は闇の底に沈んでいった。目を閉じ、顔を地面に伏せるともうピクリとすら動かない。毒の効果で体内侵食率が徐々に増加し、ガストレア化するのを待つだけとなった。

 

「そんな… 嫌だ… 紗雪!お願いだ…もう一度、もう一度だけでいい… 頼むから目を開けてくれよ!紗雪ぃぃぃ!!」

 

発狂する零。

その零の声を遮るかのように現れたのは、やはり自衛隊のヘリだ。

この蛇がガストレア化する前に駆除したかったんだろうが、手遅れだ。

こいつはただのガストレアではない…確実に何かが違う。

通常弾しか持たないヘリ1機ではどうしようもない話だ。

しかし、このヘリは違っていた。操縦席の下から出てくる謎の物質。

 

「………ミサイル?」

 

ヘリの位置からなら確実に零、そして倒れている紗雪の姿は見えるであろう。

しかし、ヘリは戸惑うことなくそのミサイルをガストレアに向けて放った。

多少の犠牲なんざお構いなしってわけだ。

 

ミサイルがガストレアに命中する。

俺は目の前にいた蛇を盾にすることで何とか爆風を凌ぎきるが、その爆風で倒れている紗雪が吹き飛ばされ、後方の廃虚の柱に激突した。

その建物は相当脆くなっていたらしく、その衝撃で柱が崩壊し紗雪は建物内へ…

そして、柱を失い不安定になった建物は倒壊を始めた。

 

ガラガラガラガラ…

 

紗雪を巻き込んだままその建物は元の原形を失い、瓦礫の山と化す。

 

「ぁ…ぁ………ぁぁぁぁっ!!!!」

 

その光景があまりにもショックすぎて、零はついにここで失神した。

零が最後に見たのは、ミサイルを受けてももろともせずに立つ蛇のガストレアの姿だった…

 

★回想 END★

 

その日の夜、零は一人、目覚める。

周りには何もなかった。恐らく戦闘は終了し、事後処理も済んだのだろう。

蛇のガストレアも、ミサイルを放ったヘリも、辺りに広がっていたはずの毒液も、崩れ落ちた瓦礫の山も………そして、紗雪の死体も…

本当に何もなく、無と言う言葉が非常に相応しかった。

ただ一つだけ理解できなかったのは、何故自分だけが処理の対象にならなかったのか…ということだが。

 

零は歩き続けた。道行く場所に沢山の死体の山が広がっていても、もはや何も感じはしない。

全てを失った今、彼にできることはただ歩き続けることだけなのだから。


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