福音の魔弾(ヴァイス・シュヴァルツ)が命中し、跡形もなく消え去ったと思われる相手は凄まじい回復速度で治癒を行っていた。
といっても、意識的に行っているのではなく体内のガストレアウイルスが生存本能を発揮させ暴走しているのだ。
手足は変形し、見たこともないような鉤爪が出現。それを見たミッシェルは驚いたような顔をするが、みんなにはもうこれが何を指すのか説明するまでもないだろう。
「あれ…? 私(ワタクシ)…私…」
「…なるほど、あれをまだやっていたとは。 ミッシェル、貴女ここに来る前に彼に薬を投与されたでしょう? 力が出る薬だとか、元気になる薬だとか言われて…」
「そう…ですわね… それが何ですの?」
「あれは彼ら研究所の連中が、モルモットを暴走させる時に使う激薬です。体内侵食率を10%以上引き上げ、通常では考えられないほどの力を発揮させる。しかし、あまりの副作用に使った人間は全員ガストレア化している… その薬を投与された時点で貴女も捨て駒だったんですよ。」
「そんな!ウソ…ウソだ!あの人がそんなことするはず… 大体、そんな危険な薬なら研究所にいるイニシエーター達も気づくはず………」
「気づくわけないじゃないですか。使用した人間は例外なくガストレア化して全員死んでいます。生還者0の状態で、一体誰が言いふらすのですか?」
「………おのれ夜桜… この私を愚弄しましたわね!」
「矛先は私ではなく研究所の連中でしょうに… もはやまともな判断も出来なくなっているようですね。 さよならです…」
「嫌だ…私は死にたくない…死にたくない!! ああああああっ!!!!」
ついに体内侵食率は50%を越え、人間体を維持出来なくなったミッシェルは体長3mほどの巨大なガストレアに変化した。
真っ黒な体に三つの首、その一つ一つの口元から流れ出る紫色の猛毒薬、そして最も特徴的な鋭い牙。
地獄の番犬モデル・ケルベロス、ステージ4の超ガストレアだ。
ステージ4の超ガストレアはステージ5を除けば最強と言われる程の恐ろしい力を発揮する。
流石の七皇2人でも一筋縄では行かないだろう。
「紗雪、全力で行きますよ!」
「…ステージ4の超ガストレアと殺りあうとなれば、いくら私達でも勝率は高く見積もって50%に落ちます。構いませんか?」
「どちらにせよ、私達以外に戦える人間は誰もいないでしょう… 一刻も早くこいつを倒し、儀式を止めます!!」
「了解!」
夜桜の命令を受けると紗雪が飛び出す。
紗雪のうたまる&アルキメデス(2丁拳銃)は、通常弾のみで比較すると実は他のバラニウム弾を使用した銃に劣るほど火力が低いのである。
だから、こうして圧倒的なスピードを用い接近戦を得意とすることで弱点を無くし、トドメの大技を確実に決められるようにしているのだ。
ガストレアはステージが上がる事にその皮膚が硬質化する。
外側のボディに射撃をしたところで決定打にならないと判断した紗雪はスライディングしてケルベロスの足の下に潜り込み、柔らかい腹部に強靭な蹴りを叩き込もうとする。
しかし、…
「ガルルルルッ!!」
ケルベロスはここでなんと宙返りをした。
そして、尻尾を使って紗雪に対し、下から上に突き上げるアッパーのような一撃を叩き込む。
あまりにも予想外の動きと、その速さから紗雪は躱すことができず、その攻撃を真正面から受けてしまい後方に吹き飛ばされた。
「うっ………」
「切り落としてあげますよ!!」
紗雪が吹き飛ばされたタイミングとほぼ同時に夜桜が飛び出す。
狙いは先程の尻尾。大型のツインダガーと持ち前のスピードを生かし、尻尾切断を狙う。
しかし、スピードという長所を持っているのは夜桜達だけでなく、敵も同様であった。
ケルベロスはすぐに体制を立て直すと、持ち前の三つ首を使い夜桜に襲いかかる。
一撃目…猛毒薬と鋭い牙を使用した噛み砕く攻撃。夜桜に毒は効かないが歯の1本1本が自分の持っているダガーと同じくらいのサイズなのだ。
当たってしまえば一撃で喰いちぎられるのは目に見えている。
ギリギリまで引き付けて躱す夜桜。しかし、すぐに二撃目がやってくる。2つ目の首は流石に躱しきれないのか、ダガーを用いて口元の軌道を逸らす。
三撃目も噛み砕く攻撃を仕掛けてくるのだろうと予想したが外れ。先程とは比較にならないような速度でなんと頭突きをしてきた。
対処する時間など与えないかのように夜桜を捉えると、そのまま後方に吹き飛ばす。
岩に激突した夜桜。ぶつかった岩が粉々に砕けちったあたりから、その圧倒的な火力は理解できるだろう。
「くっ…強い…!ろっ骨が数本逝きましたね…」
「私が時間を稼ぎます…その間に夜桜さんだけでも儀式の停止を…」
紗雪が囮になろうとするとその案を否定した人物は意外な人だった。
(やるよ夜桜…私が!)
「な、何言ってるんですか桜!?相手はステージ4の超ガストレア…序列8400位相当の貴女が勝てるわけないでしょう!」
(でも、私の持つ武器ならどんな相手でも一撃で葬れる。紗雪ちゃんが注意を引いてくれるなら当てられる!)
「ダメです。相手のスピードに貴女の動体視力では追いつけません。それに、仮にチャージして放てたとして回避されたらどうするんですか?」
(もうこれ以上、零に役たたずなんて言われたくないもん!それに、私は紗雪ちゃんのこと信じてるから…)
「………わかりましたよ。しかし、貴女は私と違って毒に対する耐性はありません。牙は愚か、あの液体にかすっただけでも死ぬと考えてくださいね。」
夜桜は渋々承諾した。
何だかんだ言って桜の我が儘には甘いのである。
「話し合いは終わりましたか?」
「ええ…ここからは、桜に任せますよ。」
「…正気ですか?」
「正気です。」
夜桜の片目が緑色に変化すると、髪色が変化し、桜光の光と共に桜が現れる。
「やっほー!桜再び登場だよ!」
「気をつけてください桜さん。敵は相当厄介です…」
「わかってるわかってる!紗雪ちゃん、あれ撃つから援護よろしく!」
「…了解。はぁぁぁっ!!」
夜桜と違い桜は非常に脆い。先程以上に注意をしなければならない紗雪は全力の全力だ。
ケルベロスに真正面から突っ込むも、その速度は先程と比較にならない。
桜の方はというと、明らかに本人の身の丈にあわないような桜色の大剣を取り出した。
こんな危険を犯してまで行おうとする桜の作戦とは何なのか…
答えは、桜の必殺技を当てるためである。
桜の持つ武器である『聖剣レーヴァテイン』は、あらゆる悪を滅する事のできる最強の聖の剣。
これにより、闇属性を持つガストレアや毒使いに対し絶大な破壊力を発揮することができる。
それ程強力な武器であるなら夜桜が使えばいいではないかとなるが、事はそう単純ではない。
この聖剣は、聖…即ち光属性を持つ者で、且つ心が穢れていない人間しか持つ事が許されないのだ。
毒を使う闇属性の夜桜が使えば、不適合反応を起こし体が溶けて消滅してしまうだろう。
そのくらい使用者を選ぶ特別な武器なのだ。
しかしその分威力は絶大。桜が大技を使うための間、紗雪が時間を稼ぐのが今回の戦法。
人間相手では成立しえない作戦だが、戦うことしか脳のないガストレア相手ならこれで充分だろう。
「まずは折れた骨を治してっと… リミットカットカウントダウン!」
お得意の治癒能力を使い終えると目を閉じ、聖剣を構えて集中を始める桜。
桜が時間稼ぎに指定した時間は60秒。
蓮斗や結愛が斬鉄を放つまでに必要な時間のおよそ6倍である。
戦場で棒立ちした人間を一分間も守るなど通常では考えられない行為だが、今目の前にいるのは世界最強のイニシエーターであり、★3(ブラックナンバ-スリ-)の朝霧紗雪だ。
彼女にできないことなど何もない!
紗雪の突進に対してケルベロスは三つの首で応戦しようとする。
「貴方も中々の速度を持っているけど、相手が悪い… 私は、世界中のあらゆる物質より速い速度、神速を持つ者だから… 瞬間感染換装(ブリューゲル・ブリッツ)!」
紗雪が技名を唱えると、紫色の爆発と共にその姿が消える。
ケルベロスが驚いた一瞬の隙。これが圧倒的優位を物にする為の好機!
まるでそれは瞬間移動。体内のガストレアウイルスを爆発させることで、瞬間的に神速を越えた神速を繰り出す紗雪ならではの技だ。
一瞬で背後を奪い取ると、そこから紗雪の連続攻撃が始まる。
「ムーンサルト!!」
スコール&ハティ(両足のレガース)を用いた蹴りが背中に炸裂。
その後、2丁拳銃を速射して追撃し、再び瞬間感染換装を使用しその場を離れる。
ヒットアンドアウェイの完全状態。あまりのその速度と連続攻撃の嵐に、ケルベロスは何もできない。
「福音の…魔弾!!」
続いて必殺技。うたまるからは光の銃弾、アルキメデスからは闇の銃弾が発砲されるとその銃弾は互いにクロスし、ケルベロスに炸裂する。
いくら皮膚が硬いとはいえ、これは効いたのかケルベロスは吹き飛ばされた。
「はぁっ…はぁっ…」
「後30秒!頑張って紗雪ちゃん!」
紗雪が押しているように見えるがそういうわけではない。
瞬間感染換装、福音の魔弾は発動するために大量の体力を消費する。
通常なら持久戦に対応するため、打ち所を見極めるのが基本だが現在では敵に攻撃という選択肢を与えてはならない…
コスパの悪い大技をバカスカ撃っていれば、紗雪の体も無傷というわけにはいかない。
ケルベロスはすぐに立ち上がると、反撃と言わんばかりに突進してくる。
しかもその後ろには桜がいるため躱せない。
紗雪は銃弾を再び速射。頭や足を狙い、少しでも突進の威力を弱めようと試みる。
しかし、その程度ではケルベロスは止まらない。
紗雪はついに、敵の攻撃を真正面から受けてしまう。
「ぁぁぁぁぁっっっ!?」
宙に吹き飛ばされる。
しかもケルベロスの目の前には桜が…
「温存しておきたかったけど仕方ない… 破邪必滅の流星群(シュトゥルム・クロイツ)!!」
ついに紗雪が自身の必殺技であり、奥の手を発動した。
『破邪必滅の流星群』
この技名を唱えた瞬間、空いっぱいに紗雪が普段から放っている白と黒の魔弾が大量に出現した。
この銃弾は水銀、バラニウム金属を使用しているためどちらも金属。
これを紗雪の体内に眠っている『ある』金属を使用し特殊な磁場を発生させることで、放った銃弾を消失させずに『固定』させておくことができる。
そして、その『固定』を解除することで今まで貯めておいた銃弾を一気に降らせることができるのである。
この戦いにおいて、紗雪は既にかなりの銃弾を発砲している。
対モデル・エイプ戦での必要以上の発砲、そしてケルベロス戦でもかなりの弾を放った。
それら全てを戦ったり移動したりしながらも常に空中に『固定』し続ける。
いつ戦闘に移っても問題ないように、また戦闘中でも無駄な動きをしないように、こうやって準備をしているというわけだ。
紗雪が貯めておいた白と黒の魔弾が、上空から一気に襲いかかる。
「必中… 私の弾は外れない…」
「チャージエンド… いいよ、紗雪ちゃん!」
このタイミングで桜のチャージも完了した。
「なら、このあたりで奥の手その2…」
紗雪は爪を使って手首に切り込みを入れると、そこから出血した血をばらまいた。
この戦闘スタイル…つい先程もどこかでみたような気がするが、そのまさかである。
「私も直接血は繋がっていないにしろ朝霧家の人間… 兄さんから貰った血は、私の体にも適合する。 ブラッディ・バンカー!!」
紗雪はまき散らした血の一部を硬質化させる。
その位置はケルベロスの片前足。
四足のうちの1つを落とし穴に落としたケルベロスは完全に動きを封じられた。
この程度ならすぐに逃げられてしまうが、桜が技を命中させるだけの時間が敵から奪えればそれでいい!
「いっくよー! はぁぁぁぁっ!!」
桜の持つ聖剣から放たれる桜光の光がより一層強くなる。
そのまばゆい光と、圧倒的を思わせるそのエネルギーは大気を震わせた。
桜の必殺技が今放たれる。
「穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)!!」
聖剣を上から下に向けて思いっきり振り下ろすと、凄まじい火力の剣撃がケルベロスを襲う。
技が命中すると、まるで零距離で打ち上げ花火を見たかのようなまばゆい桜光と、圧倒的な爆音が未踏査領域中に響きわたる。
そのどちらもが消え、正面を見てみると目の前には真っ二つに両断されたケルベロスの姿が一瞬見え、それはそのまま流砂のように流れて消えてなくなってしまった。
「わーい!やったー!!」
「冷や冷やしましたよ…本当に…」
満面の笑みではしゃぐ桜を横目に疲れと心配で溜め息をつく紗雪。
本当にこれではどっちが大人だかわからない…
桜は再び夜桜に人格が変わると、夜桜は教会の方を睨みつけた。
「お疲れ様でした紗雪。ボロボロにしてしまって申し訳ありませんね…」
「私はメンテでどうとでもなります… それより、儀式を止めないと… 兄さん達が足止めしているのに私達が失敗したら意味がありません。」
「だから私がまたでてきたんです… 突入しますよ!」
そう言ってドアを蹴破り中に入る夜桜とそれに続く紗雪。
明かりなど当然ないのか、中は真っ暗だった。
2人とも夜目は聞くのでぼんやりと中の様子を見ることはできるが、それでもはっきりとはわからない。
ざっと見た感じでいうと、内装は普通の教会と変わらないだろう。
1つ違うところといえば、教会の最も奥の教壇の上からぼんやりと紫色の光が見えることである。
確実にあれが儀式の内容。そう確信して近づく2人が目にしたものはアタッシュケースの中に入った小さな三輪車に、何本かのコードが繋がれているものだった。
コードを目で追うと、紫色の光の発信源である機材が目に入る。
「恐らく、遺産は三輪車、儀式とやらは機材を使って行っているようですね。このパターンなら遺産は無傷で回収できるでしょう… 紗雪、機材を破壊してください。」
「了解。」
夜桜が遺産からコードを全て抜くと、紗雪がスコールを使い、かかと落としで一撃で機材を破壊する。これで儀式は止まったはずだ。
任務完了。意外とあっけないものだが、これ以上ここに留まる必要もない。
遺産をケースにしまうと教会をあとにしようとする2人。
その時、背後から不吉な声が近づき夜桜の耳元で囁いた。
「それを持って、どこに行こうっていうんだい?」
「………!?」
その言葉に反応した時は既に遅かった。
夜桜の背中から腹部にかけて、ナイフが貫通する。
「ぐっ… 紗雪?」
「残念ながら、お仲間はもうおやすみだよ… 夜桜さん…」
「そん……な………」
意識が朦朧とする中、夜桜が最後に見たのは全身血だらけで床に伏せる紗雪の姿であった。
突如現れ、夜桜と紗雪を瞬殺した影はこう呟く。
「………あのモルモット共がまさかここまで成長してるなんて正直驚きだよ… 僕直々に見にこなければ、遺産は奪われていただろうね。まあ、君たちも頑張っていたみたいだしここでステージ5を呼び出すのはやめておこう。…全知を手にするのはこの僕なのだから…」
★side 蓮太郎★
とにかく走る。延珠と共に走る。
影胤との決戦前、自分達の足止めをするために1人残った千寿夏世の姿を求めて。
後方に走っていく道中、何体ものガストレアの死骸と、撃ち尽した大量のバラニウム弾を見かけた。
他の部隊が全滅している以上、戦っている人間に心当たりがついてしまうため嫌な予感がする。
「れんたろー!夏世の匂いがするぞ!」
延珠がそう呼び止めたので走るのをやめる。
その場所は樹海の中でも木々が少なく、全方位を見て戦うには適した場所だった。
条件的にも、この近くにいる可能性は高いだろう。
「夏世ー!夏世ー!」
…蓮太郎も叫ぶが特に返事はない。
しばらく散策を続けると、大きな岩の後ろで一番見たくないものを見てしまった。
「………見つかって…しまいましたね…」
「嘘…だろ?」
一番会いたくない形で再会してしまった。岩陰には夏世がいたが、その体は全身血だらけであらゆる箇所からガストレアウイルスを注入されたのがわかるかのようにあちこちに獣に噛まれた跡がある。
手に持っていたアサルトライフルは真っ二つになり破壊されており、左手には使い切った大量の手榴弾のピンが握られていた。
ライフルの方に目をやると握っていたはずの右腕は既になくなっており、腕のちぎれた箇所から紫色の物質がうねうねと動いている。
体内侵食率が50%を越えたものの末路だ。
延珠の方は、その事実が受け入れられないというように口をあけ、完全に唖然としてしまっている。
「何で逃げなかった…」
「数が必要以上に多かったんです… ここで私が引けば、ガストレアの軍勢に襲われて死んでいたのは里見さんたちのほうでした。 里見さんも延珠さんも、私に違う生き方を教えてくれた大切な人… だから頑張った… それに、死ぬ前に私の守った人達の元気な顔が見れました… 私は今、とても幸せですよ…」
「何勝手に一人で納得してんだよバカ野郎!! お前はもう俺達の仲間だ! イニシエーターじゃなく、千寿夏世として延珠や結愛と友達になった夏世なんだろ!? こんな結末を、俺達が望むとでも思ってるのか!」
「かよぉ… しなないで…しなないでくれぇ…」
延珠はボロボロと涙を流していた。せっかく蓮太郎も延珠も戦う理由をはっきりさせ、これから頑張ろうという初陣がこれだ。
現実は何よりも冷たい…
「里見さん…せめて、ガストレア化する前に私を… 私を人のまま死なせてください…」
「くっ………」
言い返したいのに言い返せない蓮太郎。
いくら延珠が願おうとこの事実だけは覆ることはない。
蓮太郎は黙ってXDを抜くと延珠が泣きそうになり止めようとするが、そういうわけにもいかない。
ここで夏世がガストレア化してしまえば、影胤によって削られた今の体力で戦わなければならない。
延珠は夏世とは戦いたくないだろうし、夏世自身も自分が化物になることを恐れている。
しかし、蓮太郎にとって相棒の前でその友達を殺さなければならないのもまた事実。
非常に苦しい選択となってしまった。
「れんたろー…お願いだ… 夏世を殺さないでくれ… 妾はまたみんなで遊びたい…もっともっとみんなと一緒にいたいのだ!」
「お前だってわかってるだろ… こうなっちまったらどうしようもないことくらい… 俺だって辛いんだよ…」
「………っつ!?」
延珠だって本当はわかっているのだ。
蓮太郎にねだったところで夏世が治るわけではない。しかし、そう言わなければいられない程友達を目の前で失うのは嫌だった…
葛藤する二人に、夏世が急かすように最後の言葉をかける。限界なのが自分でわかったのだろう。
「里見さん… これから先、こういう辛いこと、苦しいことがたくさんあると思います… だけど、どうか絶望だけはしないでください。 私の思いも、そして、世界中の人々の思いも背負って戦い抜いてください… この世界を………救っ…て…」
夏世がそういい切ろうとしたところで、蓮太郎はXDの引き金を引いた。