ポケットモンスター・ライフ   作:ヤトラ

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一見パーフェクトに見えても欠点は少なからずあるし、必ずしもそれに沿った道を選ぶわけではないと思うんです。
後、本人は自覚していなくても、才能があるあると周りに言われたら調子に乗っちゃうもんだと思います。

3/2:後書きにてトレーナー情報追加


ポケライフ「ヒカリの過去と現在」

ヒカリという少女は喋れない。

 

無口や恥ずかしがり屋というわけでは無く、言葉を発することが出来ないのだ。

喉や口に異常は無く、むしろ身体は健康そのものだ。異常があるのは心……それも最も奥深くにある記憶の片隅だった。

 

ポケモンを連れて行けない程に小さかった頃、たまたま街外れを散歩していた時――ドラピオンと遭遇してしまったのだ。

幸いにも通りすがりのトレーナーによって救出されたものの、「ばけさそり」と対面した少女は心に大きなトラウマを負い、声が出せなくなってしまった。

 

これは放っては置けぬと、両親はあの手この手でヒカリの心の傷を癒そうと試みる。

 人の心に敏感だというラルトスとリオルの助力もあって、ヒカリは元気を取り戻すことに成功。

 心を整理し前向きな思考を得るものの、過去のトラウマが意外にも根深く、声は未だに出ないままだが。

 

 それでも元気に育ったヒカリは、ラルトスとリオル、そしてナナカマド博士より譲り受けたポッチャマを連れて旅に出た。

 過去のトラウマからポケモンの事をもっと知りたいと思うようになった彼女は、ナナカマド博士の頼み事は渡りに船。意気揚々と旅に出る。

 幼馴染にしてトラウマを負った自分を支えてくれたジュンとコウキと分かれたのは意外にも辛かったが、様々なポケモンと人々の出会いがそれを忘れてくれた。

 

 ヒカリが旅に出たことで、彼女の内に眠る数多の才能が芽生える事となった。

 

 彼女は元々から辛抱強く、声が出ないからと他者からからかわれても物ともしない精神力がある。まぁ迫害する者より応援する者の方が圧倒的に多いが。

 それに筆記用具で言葉を伝えるとはいえ、彼女は声が出ない代わりに表情をコロコロと変える為、言葉無しにしても非常に解りやすい。

 おっとりとした性格・堅い精神力・他者を気遣う優しさ・表情の豊富さと、他人を惹き付け魅了するには充分だった

 

 また、その辛抱強さと努力はポケモンバトルやコンテストでも発揮している。

 彼女は特注のカスタネットを使ってモールス信号で指示するという異例な方法でバトルを繰り出すのだ。動体視力と観察力も高く、ことバトルにおいては圧倒的な勝利数を誇る。

 その努力はコンテストにも及び、母譲りの美的センスと裁縫技術を用いて様々なコンテスト衣装をも創り上げたほど。

 

 そして彼女一番の才能はそのカリスマ性だ。

 他者の助力もあったとはいえ、彼女はトラウマを持った。つまり負の感情を理解しているということだ。

 優しいポケモン世界でも悪い所はある。その悪い点をあえて受け止め、世界を知り、他者を理解して真摯に向き合う気力がある。

 故に彼女のポケモン達は育つにつれ、まるで臣下のように彼女に付き従うのだ。特に幼少より育てたエルレイド・ルカリオの忠誠心は高い。

 

 性格・才能・カリスマ。これらを併せ持つ彼女は瞬く間に成果を上げていった。

 シンオウ中のジムを制覇し、親友らと共にギンガ団の野望を阻止し、二対の伝説のポケモンとエムリットに遭遇した。

 波動を学ぶべくゲンに弟子入りしたこともあった。チャンピオンだと知らずシロナとバトルして友情を深めたこともあった。シェイミという幻のポケモンと出会った。

 チャンピオンになるのも時間の問題だとシロナのお墨付きもあり、王者の座は確定のものだと誰もが思っていた。

 

 

 しかし……彼女がチャンピオンになることはない。それはヒカリの幼馴染が起因していた。

 

 

 強さを求めたジュンは、父クロツグのようになりたいとバトルフロンティアで修行を続け。

 明確な目的を持たなかったコウキは、突如として幼少時の真っ直ぐさを取り戻し、パティシエを目指す。

 2人も一時はチャンピオンを目指したはずだった。しかし2人は、自分の本当にやりたい事を明確に見出し、別々の道を歩む事を決めたのだ。

 

 ヒカリは2人の行く先を知って思い出す。

 自分が最もやりたい事……それは才能が最も秀でたバトルではなく、母から教わり魅力を知ったコンテストにあった。

 誰も彼もがポケモンリーグチャンピオンの座を勧める中、親友らが同意してくれたこともあり、ヒカリはコンテストの道を目指すことを決意。

 愛弟子として可愛がってくれたゲンと妹のように可愛がってくれたシロナの号泣には心が揺さぶられたが、あえて突き放した。雛はいずれ鳥となって旅立つのだ。

 

 

 

―――

 

 こうしてヒカリはポケモンコンテストの道を歩み、ヨスガシティの衣服店「Dress Of Handmade」で働くようになった。

 この衣服店はオーダーメイドに強い拘りを持ち、打ち合わせから完成まで全て手作りで行うという徹底ぶりだ。

 ポケモンコンテスト出場者として尊敬するメリッサに紹介された日からずっと憧れていた店だ。採用が決まった時のはしゃぎようは忘れられない。

 

 とはいうものの……この店の店長にして責任者のスラスは、一切の容赦が無かった。

 声が出ない事に関してではない。才能があると言われた自分ですら「及第点には程遠い」と常に叱られるからだ。

 事実ヒカリの周りは才能も経験も桁違いだった。最年少であるラナですら、ヌイグルミだけならスラスのお墨付きを貰ったほど。

 もちろん、そういった人は並外れた努力と歳月を持って成長してきた。自ら辞めて行った人が多い中、彼らは辞めようとはしない。

 

 咎めるのは失態や技術不足の指摘だけ。励ます人も居る。友達も大勢出来た。ポケモン達とも触れ合った。

 それでもヒカリはスラスの厳しさの余り、初めて本気の悔し涙を零したことがあった。

 

―この時、エルレイドとルカリオの忠臣コンビが怒りの余りスラスに襲い掛かりそうになったが、詳しくは省く。

 

 ハハコモリの糸で雁字搦めにしたポケモン2匹を余所に、スラスはヒカリにこう言った。

 

「私が嫌いな物を3つ教えてあげる。

 1つ、才能の無い人。2つ、止まり続ける人。3つめ、挫折を知らない人。

 私は職人を見出す為の努力は惜しまない。本当に才能が無いと解ったら早々に追い出すし、止まり続けるなら給料泥棒として放っておくわ。それにね……私は挫折を知らない本物の(・・・)職人を見たことがないの。

 あなたは2つ条件を満たしているようだけど……3つめは怪しいわね。3つ全てを持っていないと判断したらすぐ追い出すから、そのつもりで」

 

 スラスの言葉を聞いたヒカリは、脳天に雷が落ちたようなショックを受けた。

 そうだ。自分は才能があるとチヤホヤされて、いつしか何でも出来ると思い込んでいたんだ……と。

 

 バトルもコンテストも勝ち抜き続けた中、初めて壁を知った。

 テンガン山に登山した時もギンガ団に立ち向った時も諦めなかった中、初めて挫折を知った。

 多くの親友とポケモン達に愛された中―――初めて『厳しさ故の愛』を感じた。

 

 自分に波動と武術を教えてくれた、厳しさと優しさを兼ね揃えた師匠。

 ポケモンにも人間にも分け隔てなく接する、責務と自由を併せ持った姉のような存在。

 大好きなことに一生懸命になれる、ポケモンコンテストの大先輩。

 そして二種類の真っ直ぐさを持ってして、幼少の頃から励まし合った親友2人。

 

 全てが自分の尊敬すべき親友だ―――しかしこの日から、ヒカリにとって最上と言えるほどに敬愛する人間が出来た。

 ただひたすらに厳しく、ただひたすらに本気で、ただひたすらに邁進する―――壁であり師である上司・スラス。

 

 

 ヒカリは多くの敬愛すべき人々に囲まれた事を知り、過信した己を恥じ、更なる進化を覚悟する。

 

 

 

 本当に好きな事に本気でぶつかる喜びと、自分を愛してくれる人々の感謝を胸に抱いて。

 

 

 

 




●ヒカリ
シンオウ地方出身のポケモントレーナー♀。おっとりとした性格。辛抱強い。
過去のトラウマで声が出せないが、それを補った豊かな表情と優しさで他人の心をガッシリキャッチ!そんなアイドル。
ポケモントレーナーとして優秀な才能を持つがコンテストを好み、現在は衣服屋で働いている。
的確に弱点を突き『クロスポインズン』や『つじぎり』といった技で急所を狙う戦法が得意。攻撃型。

過去と現在っていうタイトルなのに現在の様子が書かれていない?
それは本編で書かれているからいいんですー(ぇ)

そういえばポケライフって人の生活は描いていてもバトルとかポケモンとか薄れちゃうな……(汗

ではでは。

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