今回はスッキリ書けなかったので長いです。予約投稿ですが、後ほどいくつか修正すると思います(汗)
ミツルのおじさんは穏やかで優しい人だ。そして息子のようなミツル君に並々ならぬ愛情を注いでいる。
病弱なミツル君の為に空気の澄んだシダケタウンへの引っ越しを受けいれたぐらいで、面倒ではあるが病院送りにするより遥かに良い選択で、ミツル君が自分の意思で元気になっていく事を願っていたに違いない。
そしていつのまか、ミツル君はポケモントレーナーとなって元気に育ち、ホウエンで知らない場所は無いと言えるほどに各地を旅している。あのマボロシ島にのみ生える木の実をお土産に持って来てくれた時はビックリした。
そんなミツル君の冒険談を自分の子のように楽しく話し同じぐらいにミツル君を心配するおじさんを見ると、立派な父親だと思える。もちろん、うちの両親も立派だよ?
そんなおじさんにミツル君から「遠い地方に旅立つよ」と言われたら取り乱すのは必然。
そして我が子を愛する父を落ち着かせるのが難しいのも必然なわけで……。
「だからまずは落ち着いてくださいって!」
そう言って僕はおじさんを羽交い絞めにして落ち着かせようとし。
「うわぁーんミツルくぅぅぅん!どうして行ってしまうんだよぉぉぉ!」
おじさんは混乱のあまり暴れて(僕が羽交い絞めにしている理由はコレ)。
「お、おじさん話を聞いて、聞いてってば!」
おじさんが取り乱した原因であるミツル君がオロオロしながら父を落ち着かせようとし。
「全くもうおじさんったら、ミツルの事となるといつもこうなんだから……」
顔がミツル君と似ているミツルママが困ったように三人を傍観して……ってママさん、ちょっとは手伝うなりしてくださいお願いします。
僕とミツル君のポケモン達はどうすればいいのかとオロオロしている。下手をしたら傷つくかもしれないから、こちらの場合は静観が正しいかも。
ちなみに従姉のミチルさんは旦那さんと旅行中なんだって。羨ましい。
それにしたって、なんで店の前で僕がおじさんを羽交い絞めにしているんだろうか……咄嗟とはいえミツル君に頼まれたから仕方ないけど。
しかしこのままじゃ焼け石に水状態。もしかしたら夜までこのままかもしれないし、早くなんとかしないと……。
「おお、やっと見つけたよ」
―おや、こんな時間に誰だ?
声がした方へ振り向けば、そこには車椅子に腰掛ける大男と、車椅子を押す女性と……あ、シダケタウンのジョーイさんだ。
なんだろうこの組み合わせ。大男と女性は見た感じ夫婦に見えるけど、ここら辺では見た事の無い人……ていうか「やっと見つけた」って?
「あ……」
突然の来客に落ち着いてきたおじさんを筆頭に視線が彼らに向けられる中、ミツル君が掠れた声を上げる。
ミツル君は目を丸くして呆然と大男を見ていたが、やがて表情に喜びが溢れ出てきて、そして走りだした。
「山男のおじさん!目が覚めたんですね!」
「ああ、君のおかげだよ!」
なんだか嬉しそうなミツル君と大男。お互いにここに居ること自体を喜び合っているようにも見える。
というかこの人……誰?ていうかなにこの流れ?おじさんも混乱に混乱を重ね、ついに固まったまま動かなくなっちゃったよ。僕も、叔母さんも、そしてポケモン達も。
―え、また急な展開になるの?
―ミツル視点―
すみませんハヤシさん、裏庭お借りした上にお食事まで呼ばれてしまって……お母さんのシチューのレシピ教えて?後でお母さんに聞いてください。
ジョーイさんもいいんですか?ポケモンセンターの方は……ジョーイさんも向こうで聞いていたんですね。解りました、全部僕の口から話します。
えっと、この場をお借りしてまずは紹介します。この人は煙突山で会った山男さんで……あ、そういえば名前聞いていないや……ケンサクさんで、そちらは奥さんですね。
おじさん、おばさん、それにハヤシさん。食べながらでいいんで、僕の話を聞いてください。
僕がイッシュ地方へ旅立とうとする切欠は、ケンサクと会った……いえ、ケンサクさんを
先週、煙突山を覆う程の嵐が来たことは知っていますよね?……そうです、ここシダケタウンにすら襲い掛かった、あの嵐です。
僕はあの日に煙突山にいたんですけど、快晴だった空の向こうから雷雲がやってきていて、気付けば凄い大雨が降ってきて……ええ、ハヤシさんの言うとおりです。
シダケタウンに帰る前にフエン温泉で落としたのは、旅の汚れじゃなくて雨の汚れだったんです……黙っていてゴメンねおじさん、心配掛けたくなかったんだ。
大雨に見舞われた僕はすぐに下山しようとしたんだけど、そこへ3匹のイシツブテが道を阻み、助けを求めてきた。只事じゃないと思った僕は、彼らの後を追った。
ついた先は高い崖で、その下に岩に押し潰されているケンサクを見つけたんだ。イシツブテ達はケンサクさんのポケモンで、彼を助けたいが為に大雨の中でも誰かを呼ぼうとんだと思う。
僕は無我夢中でケンサクさんに駆け寄って、なんとかポケモン達全員で岩をどかしたんだけど……その時のケンサクさんは、下半身が酷い状態で、しかも虫の息だった。
あの時、僕は怖くなって解らなくなった。
ポケモンセンターで働いた事があるから怪我をしたポケモンやトレーナーを見てきたけど、あの時のケンサクさんほど酷くはなかったから。
そんな時、僕のサーナイトが手を繋いできて……ケンサクさんの気持ちが伝わってきたんだ。「一人は嫌だ」「怖い」って。
僕はその時、まだ病弱だった頃を思い出して、思ったんだ―――苦しい時に1人になるのは、凄く怖い事なんだって。
お母さん、ミチル姉さん、それにおじさん……支えてくれた人が沢山いたから、今の僕が居る。
だから僕は、ケンサクさんを助けようとした。助けを呼ぶだけじゃなくて……ケンサクさんの命を助ける為に。
……今でも解っていますよ、ジョーイさん。素人が救命行為をすることがどれだけ危ないことか……それでも、助けたかったんです。
けど、僕はやれるだけのことをやったに過ぎません。
僕が応急処置を取って、エネコロロに助けを呼びに行かせ、チルタリスの羽毛で怪我人を包んで、レアコイルに「でんきショック」で電気マッサージをして、ロゼリアの「アロマセラピー」で落ち着かせて、サーナイトの「リフレクター」で雨風を防いで……。
3匹のイシツブテが見守る中、僕らは必死で看病して……気づけば、雷雨が去っていました。
―そういえばその時、雨雲と共に3匹の見慣れないポケモンが居たような……いや、それは置いときましょう。
それでも看病を続けていたら、エネコロロと一緒にフエンタウンの看護師さん達が来てくれました。
いつの間にかポケモンセンターのベッドで目覚めていて、ケンサクさんは眠っているだけで無事だと知って、そちらのジョーイさんとポケモン達からお小言を頂いて、先に退院して……今に至ります。
―――
長い話だったけど、先週のミツル君は凄い経験をしていたんだなぁ。
僕も旅に出ていた頃は救助活動の1つや2つぐらいはしていたが、ミツル君ほど深刻な事態は無かったなぁ……マグマ団アクア団の面倒事はカット。
「改めて御礼を言わせてくれ。助けてくれて本当にありがとう」
「そ、そんな、顔を上げてください!」
食べ終えた食器を片付ける中、ケンサクさんはミツル君が困っていようとも頭を下げてお礼を述べている。
ケンサクさんも律儀なもので、ミツル君の事をフエンタウンのジョーイさんから聞いて、退院した今日にお礼参りしにシダケタウンまでやって来たのだ。命の恩人にお礼を言うのだから、当然だろう。
「あの時は無我夢中で……それに、僕がもっと早く助けていれば、足が悪くなることなんてなかったんです」
ミツル君の言うとおり、車椅子に乗っている以上ケンサクさんの足では山を登ることはできないだろう。むしろ岩に押し潰されたのに長期入院しなかったのが不思議だ。
もっと早く、そして的確に治療が出来れば、という罪悪感がミツル君の心の中で沸いているのかもしれない。
けど、それは要らぬ心配って奴だよ。ケンサクさんの顔を見てみなよ―――まるでイタズラっ子のように明るいんだから。
「それなんだがな、ジョーイさんによると山登りは無理だが、リハビリ次第ではハイキングぐらいはできるそうだ!」
「……あんな大怪我だったのに、歩けるようになるんですか?」
ポカンとしているミツル君。どんな大怪我かは知らないが、回復が見込めると聞いて驚いているのかな。
「あんな大怪我だったのに、だ!医師も、素人がここまで適切な処置が出来るとはって驚いていたよ!」
ケンサクさんも、そして奥さんも凄く喜んでいる。ケンサクさん自身も、もう歩けないのだと最初は絶望していたんだそうだ。そんな時に回復の見込みありと言われたら喜びもするだろう。
そしてケンサクさんはギュっとミツル君の手を握り、ブンブンと縦に振る。
「ありがとう!本当にありがとう!偶然だろうが必然だろうが、君のおかげで助かったのは紛れも無い事実なんだ!」
目に涙を浮かべ喜ぶケンサクさんを余所に、ミツルママとミツル君のポケモン達は誇らしげにミツル君を見つめていた。きっと僕もこんな目をしてミツル君を見ているんだろうな。
ミツルのおじさんだけは、なんだか複雑そうだけど。
―――
その後、お礼は必ず贈ると行ってケンサクさん夫婦はジョーイさんの車に乗って帰っていった。
僕達はそれを見送り、ミツル君は車が見えなくなるまで手を振っていた。
「……さてと」
夜の帳が下ろされたけど、ここからが本題だ。丁度おじさんも落ち着いているし、話を聞こう。
「もしかしてミツル君がイッシュ地方に旅立つ理由って」
「ええ……そうです」
僕の問いかける前に、ミツルは静かに答えた。質問は最後まで聞きなさい。
けどケンサクさんを助けたあの日が原因なのは解った。それが何故イッシュ地方なのか、そしてミツル君は何をしたいのか。
それを話すのはミツル君であり……話すべき相手は、困った顔をしているおじさんだ。
「おじさん……僕は医者になりたい。その為にイッシュに行きたいんだ」
うわお、ドストレート。
「……医者になるんなら、ホウエン地方でも出来るじゃないか。なんでわざわざ遠い地方へ旅立つんだい?」
唐突に言い出したとはいえ、だいぶ落ち着きを取り戻したからか口調は穏やかだ。しかし心中はそうではないのだろう。顔に焦りが浮かんでいた。
「イッシュではポケモンセンターの機材が無くてもポケモンの治療が出来る、トレーナーのように旅が出来る『ドクター』という職業があるって聞いたんだ。その人に教えてもらって、旅先でも治療できるような腕を身につけるようになりたい」
そういえばマサから聞いた事がある。
イッシュでは各地でドクターやナースに出会うこともあって、大きな機材が無くても旅先でポケモンを治療してくれるんだとか。
「で、でも初めて行く地方なんだ。伝手も当ても無いだろう?」
「マサユキっていうイッシュ出身の旅人がお願いしてくれるよ」
「え?マサユキが?」
思わぬ人物の名前に僕は声を上げた。マサユキって、この間うちでバトルを挑まれて、一日だけバイトしてくれたあの人だよね?
そういえばあの時、ミツル君とマサユキが何か話し合っていたような気が……。
「リゾートデザートって所でドクターをしているタツロウっていう人が居て、マサユキさんもよく世話になったそうです。まずはその人を訪ねてみようと思います」
リゾートデザート……確か古代の城が眠っているっていう砂漠地帯だ。
砂嵐が厳しいっていうあの場所に居るなんて変ったドクターだね……いや、厳しい環境だからこそか?
けどミツル君が話す度に、どうすればいいのかと焦っている。……そういえばミツル君って明日に家を発つって言っていたけど、その日にイッシュに行くつもりなのだろうか?
「そ、そんな……イッシュは随分と都会だと聞くし、君には厳しいよ。忘れたのかい?いまでこそよくなったけど、それはホウエン地方だから良くなったわけで、君は元々は「おじさん」……」
ミツル君の一言でおじさんの口が止まった。ミツル君の真っ直ぐな目には、おじさんをそうさせるまでの何かを宿している。
「僕も本当はずっとここで暮らしたいとも思っているんだ。おじさんが、お母さんが、姉さんが、ハヤシさんが、そしてユウキさん達ホウエンで出会った人々がいるこのホウエンで暮らした方が幸せなんじゃないかって」
「ミツル君……」
「……けど忘れられないんだ。病弱だからって諦めずにポケモントレーナーを目指し、そして叶った日々を。ポケモンと一緒に旅してきた日々を……初めて、ポケモンを捕まえた日の事を」
そういってミツル君はサーナイトの頭を撫でる。
嬉しそうに寄り添うサーナイトを見て微笑んだミツル君の脳裏には、初めて捕まえた日の事を思い出しているのかもしれない。
「あの時は凄く感動した……そしてケンサクさんが助かったと知った時、その時と同じぐらいの感動を覚えたんだ」
「不謹慎だろうけど」と苦笑いするミツル君だが、その顔に後悔や罪悪感はない。
「だからおじさん、僕はドクターになるよ。こんな僕だけど、何も知らない僕だけど、病弱だった僕だけど……」
他者の命を任される者の責任感がどれだけ重いか。
医者を目指し挫折した人がどれだけ多いか。
ポケモンを救えなかった時の悲しさがどれだけ苦しいか。
ミツル君よりも多く旅してきた僕は、そういった人も沢山みてきた。それはミツル君も……いや、多くをポケモンセンターで働いた彼の方が良く知っているはずだ。
けど、ミツル君の目は輝いていた。
「あの感動を知っちゃったら、もう目指すことしか考えられないよ!」
感動。それは何かを目指す切欠になりえるものだと僕は思う。それは厄介なもので、大切なことだと思う。
雄雄しくそして堂々と歩む伝説のポケモンの姿を見て感動したマサのように。
初めての本場のポケウッドを見て感動したミサトのように。
広大な海を越える事に感動を覚えたユウキ君のように。
広大な大地を走る事に感動を覚えたハルカちゃんのように。
そして、小さな種が大きな花になった事に感動して、ガーデニング好きになった僕のように。
感動を覚えてしまったら、「こうありたい」としか考えられなくなって、その為の努力を惜しまないようになる。
だから、僕はおじさんに言いたくなる。
「諦めなよ、おじさん。こうなったらミツル君はダメだと言っても止まらないよ」
こればかりは、おじさんの味方がしたくてもしょうがないよ。元から僕はミツル君の味方だけどね。
―その後の結果は、ハッキリしたものだった。
―――
翌朝。ミツル君は旅立った。
その日はマサユキも来てくれて、一緒に船に乗っていくんだそうだ。なんだ、マサユキがイッシュに帰る日って今日だったんだ。
新しい手持ちのコータス(この子も意地っ張りだった)、そして大きなリュックを背負ったミツル君を連れて、シダケタウンを去っていった。
当然ながら、僕達シダケタウンの皆総出で見送った。僕はお土産に長期保存の出来る木の実の詰め合わせを選別に贈った。
おいおいと泣くけど、最後の最後まで「行かないで」と言わずに見送ったおじさんは偉かった。やっぱりミツル君の事を思ってくれているんだよね。
さて……ミツル君が行っちゃったし、僕は畑の準備でもしよっかな……そう思って、もう一度ミツル君が行った方へ振り向く。
「待っているからね、ミツル君」
マサも、ミサトも、ユウキ君も、ハルカちゃんも、そして君の事も。
僕はこの店で、君たちの帰りを待っているよ。……どっかでバッタリと会うかもしれないけど。
ポケモンと一緒に待つ側ってのも、悪くないもんだよ。
あ、ポストに手紙が入ってた。あて先は……ホ、ホミカサァァァァァン!!!????
ファ、ファンレターの返事!?うわ凄いホミカの本物のサインだ!さ、さっそく中をあけてみよう!
「美味かった byホミカ」
そう書かれた手紙には、空になった皿を持ってピースするホミカさんの写真があった。
ファンレターと一緒に送ったナナの実のタルト、食べてくれたんだ!感激ー!
もう1つの手紙は……「ザ・ドガーズ」のバンドメンバーからだ!こ、これは仕事が終わってからの楽しみにとっておこうそうしよう!
うわーい!今日は通常の3倍は頑張れるぞー!
―続く―
ざっくりとした話ですが、感動して決めた道っていいもんだと私は思います。
ミツル君がドクターを目指すという個人的な設定になりましたが、いかがでしょうか?
どうでもいい設定:「ジョーイ」とはポケモンセンターでの看護師さんの名称。そっくりさんにあらず初代ジョーイさんから由来。してつけられた。
ナナの実のタルトは読者様のアイディアです。ありがとうございました!ホミカが美味しく頂きました(笑)