ブラック・ブレット 『無』のテイマー現る   作:天狐空幻

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大変お待たせしました。
色々と考えた結果、やっと完成しました。
ゼツくんはある場所に向いますよーー!


009

 東京エリア。その都心にゼツは居た。

 最初の目的は手軽に金を稼げる事、そして必要な情報を瞬時に手に入れる事、これらが同時に出来る事は何かと思い最初に思い浮かべたのはガストレア討伐を生業としている『プロモーター』であった。

 ガストレアを倒せば報奨金が貰え、IP序列も上がれば『機密情報へのアクセス権』も手に入る。正しく一石二鳥。

 だが、そこで幾つかの問題が生じてしまう。

 最初はプロモーターになる為の試験を受けなければ成らない。だが、ゼツは自他共に認める子供であり、そんな子供が試験を受けられるか。答えはノーである。

 他にも『身元保証がない』、『イニシエーターと手を組むこと』。これら2つもゼツにとっては問題だらけであった。

 色々と頭を悩ませた結果、ゼツは自身のパートナーであるディアボロモンにある事を頼み、ディアボロモンは軽く頷き承諾して行動に移した。

 ディアボロモンは自ら幼年期に退化、その状態で電脳空間に潜入した(究極体の状態では容量が大きすぎて電脳空間に入れない為、一番低い幼年期に退化した)。

 電脳空間に潜入したクラモンは増殖を繰り返し、各重要施設が存在する電脳空間に侵入していき掌握していく。そして、目的の国際イニシエーター監督機構(IISO)に潜入したクラモンは一気にメインコンピューターを掌握、そのまま改竄を施した。

 『名はゼツ、11才。異例としてイニシエーターを持たぬプロモーター、公式IP序列12万4000位。ただし、緊急時のみ非公式IP序列20位相等の『機密情報へのアクセス権』を行使可能』と、クラモンからの報告をメールで見たゼツは目眩がした。無茶苦茶しすぎだと……。

 

「まっ結果、問題なく許可証は貰ったんだけど……」

 

 受付の係員からは怪しい目で見られながらもプロモーターの証である許可書を手にしたゼツは、行動を次に移した。

 1人、都会を歩くゼツの姿に通り過ぎていく通行人は不思議そうに見詰ていく。だが、その様なことは一切気にする事無くゼツは歩き続け、目的の場所に到着した。

 少しだけ本道から外れた五階建ての雑貨ビル、名は『ハッピービルディング』。穏やかに歩を進めるその動きは不自然さはないが、一階の門前に居るゲイバーの店員は通り過ぎるゼツには気付く事はなかった。そのまま階段を上り目的の三階に到着、扉を数回ノックする。

 奥から若い女性が返事の声が返ってきた。そして扉は開かれ出て来たのは、上から下まで黒色の女子高生。天童木更と呼ばれる、天童民間警備会社の社長である。

 視線が真直ぐ見ている木更、だがゼツの身長は低い為にその視線の先には何も無く壁だけが捉えられる。木更は不思議そうな表情を浮かべ、次は怒りに満ちた表情に変わった。

 

「何、悪戯!? 良い度胸じゃない!」

 

「…………」

 

 自身は子供の為に仕方ないと思う反面、気付かない事にイラッともするゼツは視線を足元に向け、そして木更の脛に向かって軽く蹴りを入れた。

 天童木更は天童式抜刀術の免許皆伝の剣鬼である。だが、流石に殺気もない一撃では気付くことも回避することも出来ない。不意の痛み、それも脛な為に激痛が木更を襲う。

 涙目になりながら身体を屈め、蹴られた脛を押さえる。

 

「痛ッ!?」

 

「……大丈夫?」

 

 自分でしたのに心配するゼツ。

 涙目な視線を上げてゼツに向ける。現れたのが子供だった為に驚きの表情を浮かべ、そして疑問の顔を浮かべる。

 

「だっ誰よ?」

 

「里見蓮太郎から聞いてない? 化物を従える子供って」

 

「……それってもしかして」

 

 その言葉で木更の脳裏に一昨日の蓮太郎からの聞かされた報告を思い出す。

 子供の名はゼツ、従えている化物はデジモンと呼ばれ、その子供の実力は上位IP序列者と同格であると。

 木更は背筋に嫌な汗が流れる。報復しに来たのかと思い、手を動かすが腰には自身の愛刀である殺人刀・雪影を持って来ていない事に後悔する。そして、ゼツが手を動かす所を見てビクッと身体を揺らして身構える。そして、

 

 

  ◆

 

 

「あぁ、木更さんに怒られるな」

 

「まぁそう愚痴るな蓮太郎!」

 

 天高く上がっていた太陽が沈みだし、橙色に染まりだす時間に蓮太郎と延珠の2人が歩いていた。蓮太郎は不幸顔が更に不幸な表情を浮かべ、そんな表情を見て爛漫に笑う延珠。

 今回、ガストレア出現で出向いていた2人ではあったが不幸にも蓮太郎の愛銃・XD拳銃が弾詰まり(ジャム)ってしまいガストレアに止めを刺すことが出来ず、他所の民警に奪われてしまった。未だに今月の収入0であり、このまま帰れば木更の雷が落とされてしまう。そう思うと蓮太郎は自ずと足取りが遅くなり、憂鬱な気分に苛まれてしまう。

 止めを刺せずに落ち込む蓮太郎に横で並び歩いている延珠も励まそうと思うが、良い言葉を思いつかず空笑いで受け答えしていた。

 

「そう落ち込むな蓮太郎。妾をハグして元気をだすのだ!」

 

 両手一杯に広げて目を輝かせる延珠。

 それを見た蓮太郎は軽く溜息を吐く。

 

「遠慮する」

 

「なっ!? れでぃの誘いを無下にする気か!」

 

 遠慮の言葉を聞き、驚きの表情を浮かべた延珠は周囲の通行人にも聞えるぐらいに大きな声を荒げた。その声を聞いた周囲の人間たちは蓮太郎を不審者を見る目を向け、「ロリコン?」「警察呼ぶ?」「不幸顔だな」っと思い思いの感想を述べられた。

 衆人の視線に不幸5割増の表情を蓮太郎は浮かべる。

 

「……頼むから、衆人観衆の前で俺を冥府に送り込む発言は止めろ」

 

 切実に、そう思う蓮太郎であった。

 歩くこと数分、目的の天童民警会社がある雑貨ビルに到着、一階の出入口に居るゲイバーの店員に軽く挨拶をして階段に上り、三階の扉を開けて中に入る。

 

「ただいま、木更さん」

 

「今帰ったのだ!」

 

 未だに憂鬱な感じで挨拶して部屋に入る蓮太郎。逆に延珠は元気である。

 自然に視線はいつも木更が座っているであろう社長席に向けるが座っていない事に気付いた。何処かに出かけたのだろうかと思いながら視線を見渡すと、奥の応接間に木更の背中が見え誰かお客でも来ているのかと思い、応接間に足を向ける。

 

「木更さん、誰か来てるのか?」

 

 徐々に応接間の全体が見え、そして来ている相手を見て蓮太郎は大いに驚き、隣で一緒に来た延珠も目を丸くして驚く。

 若草色の着物、その上に黒色の羽織を着た延珠と歳変わらない子供、ゼツが応接間に居た。

 

「あっお帰りなさい里見くん」

 

「えっあっ、あぁただいま……じゃなくて!?」

 

「おぉ昨日ぶりだなゼツ!」

 

「昨日ぶり、延珠ちゃん」

 

 帰って来た蓮太郎に木更は振向きお帰りと挨拶を述べる。蓮太郎はよどみながら返事を返すが、慌ててゼツに指を差す。一方、延珠は元気に挨拶を述べるとゼツも挨拶を交わした。

 

「里見くん、おめでとう! 後輩が出来たわよ!」

 

 一瞬、何を言われたのか理解出来なかった蓮太郎は口を開けてポカッとしてしまう。

 少しだけ間を置き、木更が言った言葉を繰り返しリピートしてやっと理解して、そして驚きの表情を浮かべた。

 

「ちょっ、えっ、マジ?」

 

「マジよ!」

 

「考え直せゼツ!」

 

「それどういう意味よ里見くん!」

 

 意味を全て理解した蓮太郎はゼツに向って考え直すように言い放ち、その言葉に木更は立ち上がり怒る。少しだけ不安そうな表情を浮かべている延珠はゼツに近付き、警告を述べた。

 

「なぁなぁ、ゼツは本当にここで働くのか? 給料は安いぞ?」

 

「そうだ!」

 

「ちょっと延珠ちゅんも里見くんも酷いじゃない!」

 

 化学反応のように社内は一気に騒がしくなり、それを見続けたゼツは可笑しくなり吹いて笑い出してしまう。

 喧嘩しだした3人は急に笑い出したゼツに視線を向けた。仏頂面で笑みを中々浮かべなかったゼツが声を上げて笑う姿に驚く蓮太郎、それは延珠も同じであった。

 一通り笑ったゼツは浮かべていた涙を拭き、木更たちに視線を向けた。

 

「名はゼツ、イニシエーターを持たぬ異例のプロモーター、IP序列12万4000位。宜しくお願いします……里見先輩」

 

「おっおう」

 

 笑顔を向けあれた蓮太郎は驚きながらも返事を返した。

 こうして、ゼツは天童民間警備会社の一員となった。

 

 

  ◆

 

 

 社長である木更からの許可も下りてゼツは正式に天童民警会社の社員となったゼツ。そこで、ゼツは蓮太郎にある事を頼んだ。

 

「何? 家に泊まらせてくれだ?」

 

 身元保証がない、ましてや子供のゼツではマンションやアパートなど部屋を借りる事は出来ない。だからといって外周区まで戻って寝泊りするには遠すぎる。

 ならば誰かの家で居候する方法しかないと判断したゼツは最近になって知合った蓮太郎に頼む事にした。もう1人、将監の家も候補に上がったが論外として即刻外した。

 蓮太郎は困ってしまう。

 只でさえ延珠と言う存在が既に居候している状態、そこに更にもう一人居候されては里見家は火の車状態になってしまう。そんな不安げな表情を浮かべている蓮太郎にゼツは袖からスマホを出して、そこから何かを取り出した。

 

「泊めてくれるなら謝礼金としてこれを渡す」

 

「こっ、これは!」

 

 渡したのは札、厚さからして20万ほどである。それを見た蓮太郎は驚き、喉を鳴らして札を見詰る。そんな姿を見たゼツはニヤリッと笑い更に言葉を続けた。

 

「これは謝礼金、泊めてくれるなら月10万を払う。どうだろうか?」

 

「お前、このお金どうした?」

 

「そこは企業秘密って事で……」

 

 ゼツが渡したお金。それはクラモンたちが集めたお金であった。

 例えガストレアと呼ばれる化物に襲われ敗戦しようとも、人間の闇は止まる事を知らない。やはり、不正で集められたお金などは存在しており、それに着目したクラモンたちは一斉にデータに侵入改竄を繰り返し、ゼツのスマホにお金を送り込んだのだ。無論、足取りなども完璧に消しており、例えお金が失った事を相手側は知っても不正で集めたお金を捜索依頼など警察に申しだす事は出来ない。

 そして、ゼツのスマホには保存されている物を具現化できる機能が備わっている為にATMなのでお金を下ろす必要もない。こうして、ゼツのスマホ内では膨大なお金が保存されている。

 そんな事は露知らない蓮太郎は困惑しながら困っていると、横から延珠に袖を引っ張られ視線を向ける。

 

「なぁ、泊まらしてやろう連太郎!」

 

「だがなぁ~……」

 

 未だに踏み切れない蓮太郎。そんな性格だから自身の本音が言えないヘタレなのだが、これも蓮太郎の持ち味なので強くは言えない。

 煮え切れない連太郎、そこでゼツは呟いた。

 

「甲斐性なし」

 

「…………」

 

「不良面」

 

「…………」

 

「根性なし、ロリコン、変態、ヘタレ、ペド」

 

「だぁー! 分かったからそれ以上、俺を罵るな!」

 

 ある事ない事、中傷の言葉を呟き続けるゼツに流石に我慢できなかった蓮太郎は叫びながら居候の許可を出した。その言葉を聞いた延珠は喜び、ゼツの両手を握って万遍の笑みを浮かべる。

 

「やったなゼツ!」

 

「うん、ありがと延珠ちゃん」

 

「はぁ~……」

 

 2人を見ながら蓮太郎は深い溜息を吐いた。

 既に夕刻を過ぎているので社を後にして木更と分かれた3人は先ずスーパーに向った。今日の夕飯の食事を買う為だ。

 蓮太郎と延珠は馴れた感じで安い食材を探しながら献立を考えていると、蓮太郎が何かを思い出したかのようにゼツに振向いた。

 

「なぁ、ゼツは食器とか持ってるのか? なかったら買わないといけないが……」

 

「あっそれは大丈夫、ここにね」

 

 袖から取り出されたのは便利グッツのスマホ、それを見た蓮太郎は昨日の事を思い出し納得した。

 

「本当に便利だよな、それ」

 

「まっ、凄く助かってるのは確かだけどね」

 

 優しき瞳を浮かべ、ゼツは持っているスマホを見詰る。

 そんな雑談をしながら3人は買物を終わらせ、蓮太郎たちの住んでいるアパートに来た。そして、そのボロすぎる二階建てアパートを見たゼツは無言で見詰る。

 見詰て黙っているゼツに蓮太郎もなんと言えば良いのか判らず黙ってしまう。

 

「いい、お住まいだね」

 

「何か文句あるのか?」

 

「いえ」

 

 流石のゼツも頼んでいる身である以上は文句など言えない。だが、もう少し何とか出来なかったのだろうかと疑問を過ぎらせる。

 所々錆びている階段を上り奥に進み、少しばかり古びた木製の引き扉、その先には八畳一間の質素な部屋だった。基本的な家具のみが置かれており、これと言って特徴的な物は一切無い。だが、その部屋からは蓮太郎と延珠の楽しげな生活を思わせる雰囲気を醸し出している事を肌で感じたゼツは無意識に頬を緩ませる。何と、暖かな家なのだろうっと。

 居室に待っている様に蓮太郎に言われたゼツは延珠とテーブルを挟んで畳みの上で座る。暇になったゼツはスマホからクラモンを呼び出して膝に置き、そのモチモチした感触を楽しんでいた。そんな動作をしているゼツに延珠は自然と視線がクラモンに向けられる。

 

「なぁゼツ、触って良いか?」

 

「あぁ、大丈夫だ。生きているから優しくな?」

 

「任せろ!」

 

 渡されたクラモンは特に暴れる事無く延珠の両手に収まった。プニプニとそんな柔らかな感触に触れ、少しだけ押すとプゥと泡を吹く。

 

「おぉ~、面白いな! これもデジモンなのか?」

 

「名前はクラモン、産まれ立ての幼年期だな。あの腕長いディアボロモンの幼い頃の姿だ」

 

「デジモンとは奥が深いな」

 

 クラモンで遊ぶ延珠を見ながらゼツは待っていると蓮太郎から料理が出来たと報告が聞えた。遊んでいた延珠は一度クラモンを放して食事を並べるのを手伝う。放されたクラモンはコロコロと転がりゼツの足元で止まる。止まったクラモンを再度、膝に乗せて待つ。

 

「ゼツ、待たせたな」

 

「いや、それ程でも……」

 

 準備された料理がテーブルの上に並べられる。

 モヤシ炒め、モヤシの御浸し、モヤシの味噌汁、そして白米。スーパーで買物を見ていたので特に驚く事もなくゼツは出された料理を見詰る。そして、その視線を蓮太郎に向けた。

 

「分かってる。でも、今家の生活費は火の車なんだ」

 

「いや、泊めて貰う身としては文句は言わないけど……もう少し頑張れ」

 

 特に栄養面でのバランスとか。っと、ゼツは思う。

 皆でいただきますっと挨拶を述べて食べだす。密かな調味料の味が口一杯に広がり、モヤシ特有のシャリとした歯応えが伝わり食欲を引き出す。

 食べているとゼツが進ませていた箸を止め、テーブルに出されている料理を見詰る。それに気付いた蓮太郎は不安そうにゼツに尋ねた。

 

「不味かったか?」

 

「んっいや……ちょっとな、こう手料理をテーブルで囲んで食べるのは……本当に久しぶりでな。物思いに耽ってしまった」

 

「…………」

 

 寂しげな瞳を浮かばせるゼツに、蓮太郎はどう答えたものか困って沈黙してしまう。

 蓮太郎は未だにゼツの全容を把握しきれないでいた。謎の生物デジモンを二体を従わせ、普通の子供でありながらにして"呪われた子供たち"と同等に渡り合う事が出来る身体能力、そして偶に見せる闇とも光とも分からぬ瞳の色を浮かべさせる。

 

「んっ。ゴメン、空気を悪くしたかな」

 

「いや、いいけどよ」

 

 空笑いを浮かべながらゼツは食事を続ける。

 夕食を終え、ゼツを最後に皆は風呂に入り寝ようとした時だった。ゼツは敷かれた布団で眠る事を否定して、居室の隅で座りながら眠る事を提案したのだ。

 

「んっ? 何故、一緒に寝ないのだ?」

 

「風邪引くぞ?」

 

 2人はそう述べるがゼツは頑なに布団で横になって眠る事を拒否し続け、最後には2人が折れてしまった。布団に敷かれた部屋で2人は眠り、ゼツは隣の居室に壁に背を置いて眠った。

 こうして、騒がしい一日が過ぎていった。

 

 




さて、ゼツくんは皆さんが思っていた通りに民警になりました。そして、蓮太郎たちの会社の社員に就職、更に蓮太郎の家に居候することにもなりました。

実は将監の家でも良かったのですが、流石に原作主人公と絡みが無くなるのは面倒なのでこうしました(この小説はアンチとか無いようにしたいし)。
では木更さんの場所も良かったのですが、流石に蓮太郎から寝取られはしたくないので駄目にしました。

さて、次回から原作突入です。
次回もお楽しみにしてくださいね。

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